5 0 6 金 沢 大学 十 全医 学 会 雑 誌 第1 0 4巻 第5 号 5 0 6 ‑5 1 6 (i 9 9 5)
ラ ッ トの ク モ
膜 下 出
血に おけ
る ク モ膜 下 腔
の免疫細 胞
亜群
の経 時 的 変 化
金沢大 学 医 学 部 脳神 経 外 科学 講 座 (主任: 山 下純 宏 教授)
久 保 田 鉄 也
ク モ膜下出血 (s uba r a chn oid he rn o r rhage・ S A H) 後に起こる脳血管攣 縮の原 因は充 分には 明 ら かにさ れ ていないが, 脳
血管 攣 締の病 因において免 疫 反 応の果た し ている役 割が注目 さ れて いる・ 免疫 反 応が脳血管 攣 締の病 態に関 与して いる か ど う か を解明する た めには, S A H 後の ク モ膜 下 陛に何ら かの抗 原が存 在し ているのか, ク モ膜 下 腔に出 現し ている細 胞がいか な る種 類の免疫 反 応に関わ っているのか, ま た その免 疫 反 応と脳血管 攣締の間に時 間 的な相 関 関 係はあるのか, という点を 明 ら か に し なければならない・ これ らの問題を解決 する た めに, ラッ トの実 験 的S A = モデルを作 製し,S A H 後の ク モ膜 下 陛にお ける免 疫 細 胞亜群の経 時 的 変 化を解 析した・ 1 0 8 匹のSpr agu e‑Da wley ラッ トを 2 群に分 け,
一方に0・3mlの自家血 を大 槽 内に 注入 し′ これ を S A H 群 とした・ 他 方には, 同量の生理食 塩 水を注入 して これ を生食 群と した・ S A H 導入 か ら1 0分 軋 1 ,
2 , 3 , 5 , 7 日後の各 時 期にラッ ト を屠 殺し, 脳を摘 出した・ 各 時 期毎に = E 染 色を行い, クモ膜 下 腔お よ び脳 底 動 脈の組 織 学 的 変 化を観 察した・ ま た・ T 細 胞亜群と 主要 巌 織 適 合 性 遺 伝 子複 合 体(m ajo rhisto c o mpatibilit y c o mple x,M H C) ク ラスⅠ 陽性 細 胞の出現を免 疫 鼠 織 化学 染 色によ り観 察L た■ フロ ー サイ t メ トリ ー を 用いて1 各 時期 如こ抗マ クロ ファ ー ジ抗 体お よ び T 細 胞亜群の各 抗 体( C D 5, C D 4・C D 8) に一 そ れぞれ陽性の細 胞の出 現 率を測 定し た. 脳 底 動 脈の内 陸の狭 小 化 外 膜への
単 核 細 胞 出 現な どの組 織 学 的変 化が観 察さ れ′ これらの変 化は S A = 2 日乳 3 日後に最 も 顕 著であっ た. 免 疫 組 織 化 学で は, ク モ膜 下腔における M H C ク ラス Ⅱ陽 性 細 胞の増 加が S A = l 〜 3 日衡こ認め ら れ, その増 加ほ T 細 胞亜群の出 現に先行 し ていた・ フ ロ ー サイ トメト リ ー で はl 抗マ クロフ ァ ー ジ抗 体 陽 性 細 胞の出 現 率が, S A H 2 日後に最 も 高 値 (1 3.5 ±2.5‰ 支 ±S E M) を 示 し た・ S A H 群における C D 4/C D 8 比は,S A H 2 日後に有 意に高値 (3.21 士0.8 9) と なった. 本実 験の結 果は,
S A E 後の ク モ膜 下 陛において, マ クロフ ァ ー ジによ る抗 原情 報の提示 と T 細 胞によ る遅 延 型 過 敏 反 応が起 きていること を 示 している・ これ らの 一 連の反 応が, 脳血管攣 縮の発 生に重要な役 割を果た して いる 可能 性が 示唆さ れ た.
K ey w o rds c e r ebr al v a s o spa s m , S uba r a chn oid he m o r rhage, T lym pho cy te, m a CrOPhage,
c ellularim m u n lt y
脳 動 脈癌 破 裂によ るク モ膜 下 出血(s uba r a chn oid he mo r rha‑ ge,S A H) でほ, 約4 0% の患 者が死亡あるいは重 篤 な 神 経 症 状 をきたす1 ‑. S A H 症 例の予後に影 響を及ぼす 病 態と し て ,
S A H 急 性 期に起こる頭 蓋 内圧 冗 進, 急 性水 頭 症, 脳ヘ ル ニ ア
等に加え て, 遅 発性 脳血管 攣 締が重 要である1 ). 遅 発 性 脳血管 攣 締は, S A H 発 症 後 数日経 過した時 期よ り脳 底 部 主 要 動 脈に 攣 縮が発生し, S A H 7 〜1 0 日後の時期にその攣 縮の ど ー クを 示す 現象である. その結 果と L て, 攣 締 動 脈の湾 流 域は脳 虚血 の状態に陥り, 生 命 的 あるいは機能 的予 後に重 要な影 響を 及 ぼ す・ 脳血管 攣 締の病 因に関し て は未だ完 全に解明 され て はいな
いが, オキシへ モグロ ビ ゾ)
, トロ ンボ キサゾ), ロイ コト リェ
ソ㌔ 血小 板 活 性 化 困 ヂ), など, ク モ膜 下陛の血腫 由来 もしく ほ 血腫と密接な関 係を持つ血管収 縮 物 質の関 与が報 告さ れ てき た・ し か しながら, これ らの物 質は, いずれも単 独で は脳血管 攣 縮の機 転を十 分に は説 明し得 ないものであり, 複 数の物 質 あ るいは因 子が, 協 調 的に働いて脳血管 攣締を惹 起 する と考え ら
れ ている.
一方, S A H 後の クモ膜 下 陛において何ら かの免 疫 あるいは 炎 症に関連し た反 応が起こって いること が, 多 くの研 究によ り 示 さ れてきた. S A H 患 者の剖 検 例では, ク モ膜 下 腔で の免疫 あるいほ炎 症 細 胞の出 現6や, 攣 縮を 示 し た動 脈壁 への免 疫グ
ロ ブ リンと補 体C 3 の沈 着"が観 察さ れ, S A H 後の患 者の脳 脊
髄 液 中で ほI T 細 胞 活 性 化因子の マ ー カ ー である ネオプテ リ
ン8 )や, イン タ ー ロイ キン 6(inte rle ukin‑6,I L‑6)別の上昇が認め ら れ た. ま た ト 脳血管攣 縮を 示 し た患 者の末 梢血中では, 全身 的な免疫 反応の存 在を 示す 免 疫 複 合 体が 上昇 すること が報 告さ れ た1 D 11 い. 以上の事 実は, S A H 後の脳血管 攣 縮の発 生に関して
免 疫 学 的反 応が何ら かの役 割を果た して いること を強く示 して
いる. 免 疫 反 応は液 性 免 疫 反 応と細 胞 性 免 疫反 応に大 別さ れ る が, 上記の報 告で は▲ S A H 後の ク モ膜 下 腔お よ び動 脈 壁周囲 で ほ, 液 性 免 疫と細 胞 性 免 疫の両者に関 連 する因子の存 在が報 告さ れ ていること か ら, 両 者の相互作 用が起こっ て いること が
平 成7 年6 月7 日受付, 平 成7 年8 月1 1 日受 理 A b br eviation s
・: C D, Clu ste r of differ entiation, D A B , diami n oben zidine tetr ahyd ro chlo ride ; FI T C, fluor e s c ein is othio cya n ate; I L, inte rle uk in; M H C, m ajo r histoc o m patibilit y co m ple x ; P B S , ph o sphate‑buffe r ed salin e ; S A H , S ub a r a chn oid he m o r rhage
ク モ膜 下 出血 と免疫 細 胞亜群の変 化 5 0 7
推測さ れ る が, S A H 後の ク モ膜 下腔に生じ る免 疫 反 応の質 的 特 徴や その経 時 的な変 化に関して詳 細な検 討は な さ れ ていな い■ もし, S A H 後の ク モ膜 下 腔に抗 原の存 在を前 提と し た免 疫 反応が惹起されるの であれ ば, 同部に出現 する免疫 細 胞亜群
のそ れぞれに特 徴 的な経 時 的 変 化が見ら れ る はずである. ま た, 脳血管攣 締 発 生の磯 序に対し ての免 疫 反 応の責 任 的 関 与を 検 討する た めには, S A H 後の ク モ膜 下 脛で起こっ ている免 疫 反応につい て, 以 下の点を解 明する 必要がある と考え ら れ る. S A H 後の ク モ膜 下 腔には何 らかの抗 原が出 現 するのか, 脳血 管攣 締発 生の時 期と免疫 反 応の時 期には時 間 的相 関 関 係がある のか, 免 疫 反 応の いずれのプロセスが脳血管 攣 縮に最 も影 響を 及ぼし う るのか, という点につい てである. 本 研 究で はl ラッ
ト を用いて! 実験 的ク モ膜 下 出血 を作 製し, ク モ膜 下腔におけ る免疫 反 応に特 異的な免 疫 細 胞亜群 出現の経 時 的 変化を, 免疫 組織 化 学 的 方法お よ びフ ロ ー サイ トメト リ ーの方 法を 用いて解 析した・ そ れらの結 果か ら, S A H 後の脳血管 攣 締 発 生の機 転
における 上記の問題につい て検 討した.
材 料お よ び方 法
Ⅰ. 実 験 動 物
空 調飼 育 室 ( 室 温2 3 士2 ℃, 湿 度5 5 士5 %) で飼 育して いる体 重2 0 0 〜4 0 0g の堆Spr agu e‑Da wley ラ ッ ト (ク レ ア , 大 阪) 1 0 8匹を用いた・ 無 作 為に, 5 4匹 ずつ の S A H 作 製 群 (S A H 群) とl 対 照と して の生 食 群の2 群に分 けた.
Fig・1・ Sche matic r epr e s e ntatio n of im pla nta tio n of the C athete rinto the ciste r n a m agn a of the r at. Arl a nim al
W a s pla c ed in a pr o n e po sitio n. T he s c alp w a s in cis ed,
a nd a s m all hole w a s m ade in the midlin e ju st r o str alto theinte rpa rietalo c cipital s utu r e・ T he c athete r w a s pa s s ed thr o ugh the hole, Sliding alo ng the in n e r table of o c cipital bo n e.
Ⅱ, ク モ膿 下 出血作製 1 . 実 験 準備
全 動 物1 0 8匹についてシリコ ンカ テ ー テ ルを大 槽 内に留 置し た・ ベ ン トパ ル ビ タ ール (ダ イナポッ ト, 大 阪) 5 0m g/kg の腹 腔 内注 射によって全 身 麻 酔を行い, 自発 呼吸下に以下の処 置を 行った・ 皮 切 部位は十 分に剃 毛し消毒を行い , 手術 器 具ほ乾熱 滅 菌し たものを使用 し て, 無 菌 的に外 科 的 処 置を行った. 図1
に示 し た ように, 頭 皮を 正中にて線 状 切 開し, 正中線上の後 頭 骨と頭 頂 間骨の縫 合線 吻側に小孔を設 けた. 小 孔を通じて後 頭 骨 内 側 面に沿わ せて シ リコ ン カ テ ー テ ル (外 径 Im 町 内 径 0・5m m) (ダ ウ ・ コ ー エ ソグ, 神 奈川) を挿入 し, 先端は大 槽 内
に位 置 する ように留 置し た. 管 内の閉 塞を防止 する目 的にて 3
‑ 0 ナイロ ン糸をカテ ー テ ル管 内に封入 し, 頭 皮を縫合L た.
2 . ク モ膜 下艇 内血液 注入 と群 分け
大 槽 内に カ テ ー テルを留 置してか ら 7 〜1 0 日後に, 全 動物に 対し て, 再びベ ン トパ ルビタ ール(5 0m g/kg) の腹 腔 内 投 与によ り麻 酔を行った. 大願 動 脈に 2 2 G のエラスタ ー 針を挿入 し て 自 家動 脈血 1ml を採取した. S A H 群で は 巨頭 部を2 0皮下 降さ せ, 頭 皮を再 切 開し, あら か じめ留 置し て おいたカテ ー テ ルを 通じ て大 槽 内に自家 動 脈血 0.3mI を約3分 間かけて注入するこ とによ り, 人 工的な S A H を作製し た. 生食 群で はl 同 様の方 法お よ び手技にて, 自家 動 脈血のか わ り に生理食 塩 水0.3ml を 注入 し た.
Ⅲ. 屠殺およ び固 定
自 家血あるいほ生理食塩 水を注入 してか ら1 0分 乱 1 日乳 2 日軋 3 日後, 5 日軋 お よ び 7 日後の各時 期におい てそ れ ぞれ 9 匹ずつ屠殺し た. 各 時 期に屠 殺 する 9 匹のうち 2 匹 は H E 染色に, 2 匹 は免疫 組 織化 学 染 色に, 残りの5匹はフ ロ ー
サイトメ トリ ー に用いた. 屠 殺 時にはt ベ ン ト パ ル ビタ ー ル (8 0mg/kg) 腹 腔 内投 与の深 麻 酔 下に, 経心臓 的に生理食 塩 水 3 0 0ml によ る全 身潅 流を行っ た. 濯 流 後速や かに, 頭 蓋よ り脳 を摘 出し た. フロ ー サイトメ ト リー の解 析に用いるラッ ト につ いて は∴潅流 直 前に 1ml の末 梢血 を心 臓か ら採取した.
H E 染 色お よ び免疫 組織 化 学のた めに, ク モ膜に包ま れ た脳 底 動 脈を含 む脳幹部を切り出し た. H E 染 色用の試 料は, 1 0%
ホ ル マリン液にて 国定し た後, パ ラ フィ ンに包 理し た. 免 疫鼠 織 化 学用の脳 幹部 艇 織は末固定の状 態に て凍 結 切 片 用 包理剤 O C T コン パウン ド(Tis s u e‑Tek Pr odu c t s, M ile sIn c, E ik ha rt,
しS A) に包理 し, 直ちに液体 窒 素に浸し て凍 結ブロ ック標 本と して ‑8 0 ℃にて保 存し た.
Ⅳ. H E 染 色
パ ラフ ィ ンブロ ッ クか ら厚さ 5世n の水平 断 切 片を作 成しJ
H E 染 色を行い, 脳 軌 ク モ膜下陛お よ び脳 底 動 脈の組 織 学 的 変 化を観察し た.
V . 免疫 組 織 化 学
クリオス タッ ト C O L D T O M E C M‑41(サ ク ラ精 戟, 東京) を 用い て, 厚さ 1恥m の水平 断 切片を作 成し た. 各 動 物の脳ブ
ロ ッ クよ り3 0枚 ずつ の切 片を採 取し た. 切 片 標 本は, ス ライ ド ガラス に載せ て乾 燥1時 間の後に, 室 温で ウサギ 正常血清と1 0 分 間反 応さ せ た・ 2 4枚の切片を 一次 抗 体にて 4 ℃で2 4時 間反 応 さ せ た・
一 次 抗体 とし て 用いたモ ノ クロ ーナ ル抗 体は, 抗ラッ
ト C D 3 マウス抗 体 (I F 4) (1:1 0 0) ( 生 化学工業, 東 京), 抗ラッ
ト C D 4 マ ウス抗 体( W 3/2 5) (1 :8 0 0 0) (C hemi c 。hInte r n ati。 n̲ al・C A・ U S A), 抗ラッ ト C D 8 マウス抗 体 (R l‑1 0 B 5) (1:1 0 0)