• 検索結果がありません。

家兎嗅粘膜の組織化学的研究

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2022

シェア "家兎嗅粘膜の組織化学的研究"

Copied!
25
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

家兎嗅粘膜の組織化学的研究

金沢大学医学部耳鼻咽喉科学教室(主任 松田龍一教授)

      今  村  昭  治

       (昭和35年12,月20日受付)

本論文の要旨は第131回日本耳鼻咽喉科学会北陸地方会例会,

  第7回耳鼻咽喉科学会中部地方連合会で発表した.

第1編 正常家兎嗅粘膜の組織化学

 近年組織学の新しい一方面として各種の組織化学的 方法が相次いで創案されるに従って,わが科領域にお いても,扁桃や下甲介粘膜,あるいは上顎洞粘膜匠応 用され,とくに内耳においては核酸,脂質を中心に詳 細な観察がなされており,また人,家兎,ラットの呼 吸部鼻粘膜にはTaylor 1)の系統的研究があるが,嗅 粘膜に関しては未だ報告をみない状態である.

 家兎嗅上皮に関する研究では数多き先入の学識に接 することができ,また固有層とくに測試については,

Heidenhain, Dogiel, L6wis以来検索され,本邦では 沢田2)等によってその形態学的観察がなされておる.

しかし,単なるヘマトキシリン・エオジン染色を主と する純形態学的観察では従来以上の発展を望むことは むつかしく,細胞の物質代謝の面から多糖類,核酸,

および脂質の分布およびその消長を知ることは,最近 この方面にも画期的に新しい分野を開きつつある電子 顕微鏡の導入とあいまって,嗅粘膜機能の解明のうえ からも興味あるものと考える.

研究材料並びに研究方法

 使用した材料は,健康な雄の家兎で体重2kg前後 の身体各部に病的変化を認めず,ことに耳鼻咽喉科領 域においては何等異常所見を示さないものを求め,少 なくとも1週間その生活状態を観察し,少しも変調を 来さないものだけを実験に供した.

 由来わが科領域において動物固定に関しては,洗源 生体固定法が最も優秀な固定法とされておるが,鼻腔 は聴器等の深く骨壁内に存在する器管と異なり,固定 液の到達比較的容易であるので生体固定法を採らなか った.そして,鼻腔への固定液の浸入を容易にするた めには河野3)が行なった方法にならった.すなわち,

心臓への空気栓塞により致死させたのち,鼻骨正中線

に垂直の方向で両側眼窩中心をよぎり鋭利な鋸でこれ に前頭断を行ない,各染色法に応じた固定液のなかに 投入する.以上の操作はほぼ10分以内に完了すること ができる.固定中は時々固定液を振回させ,その組織 への浸透をはかる.鼻腔は鼻前庭,呼吸部,嗅部から なるが,家兎では嗅部は後甲介,鼻嚢の後半部,なら びにこれに対向する鼻中隔上半部に相当し,肉眼的に も淡褐色を呈し,帯紅色の呼吸部粘膜よりはるかに厚 いので,容易に区別することができる.材料は,嗅部 のうち比較的損傷することなく取出しうる鼻中隔嗅部 のものを使用したが,それでも材料を破損し目的を達 しないことが屡々あった.固定後鼻腔を開き,慎重に 鼻中隔軟骨から剥離された嗅部粘膜の切片は,上皮表 面に対する垂直断切片標本としたが,パラフィン包 埋の間に粘膜が熱により巻紙のように容易に巻き込 み,切片薄切にさいし常に考慮をはらった.切片はい ずれも馳とし,ヘマトキシリン・エオジン染色を施 し,参考としたほか次の染色を行なった.

 1.多糖類およびグリコーゲン

 非処置切片,唾液消化およびジアスターゼ消化後の

切片にMcManus氏染色法すなわちPAS反応を行

なった.

 2.核  酸

 a.Feulgen反応および1N塩酸による加水分解を 行なわない対照切片

 b.非処理切片,1N塩酸(57。Cに加温)に10分間 処理後の切片および三塩化酢酸による消化試験後の切 片をUnna−PapPenheiln氏ピロニン・メチール緑染 色液で染色した.

 c.非処理切片および1N塩酸(57。Cに加温)で 30分蘭処置した切片を0.5%チオニン水溶液で染色し

た.

 Histochemical Studies on the Olfactory Mucosa of Rabbit. Sy6ji Imamura, Department of OtQ−laryngology(Director:Prof. R. Matsuda), School of Medicine, University of Kanazawa.

(2)

3.脂  質

Feldman氏ズダン黒B染色法によった.

嗅粘膜の組織学的所見

 嗅粘膜の組織化学的観察に先立ち,まずその正常構 造を理解しておく必要がある.この目的のために正常 家兎嗅粘膜を採取し,これにヘマトキシリン・エオジ

ン染色を施したが従来報告されておる文献から得た一 般的知見とほぼ一致するので,記載は主要所見にとど めたい.

 すでに沢田4)等によって記載されておるように,嗅 粘膜は,嗅上皮と固有層との二部からなりその表層は クチクラ小謡,嗅境界層,または透明層等と呼ばれる 厚さおよそ馳の無構造物質からなるが,これは嗅腺 の分泌物にほかならないので,副島5)は分泌物層と命 名しておる.上皮は平均12加の厚さを有し,三種の 細胞すなわち支柱細胞,嗅細胞および基底細胞から構 成されておる.支柱細胞の核は主として楕円形で濃染 し,上皮の表面に近く並び,嗅細胞の核は円形,高さ は種々でおよそ10層内外重積し,上記楕円球帯の下方 に広い円核帯をなしておる.基底細胞は:その形円錐形 で,核は円形または楕円形で,上皮と結合織との境界 線に沿うて一列に配列しておる.

 固有層には,Bowman氏嗅腺,血管網,嗅神経束 が含まれ,この間に結合織が存する.多数の嗅腺,お よび血管とくに静脈は固有層の比較的表層部を占め,

動脈小幹,神経線維は比較的その深部に存在するのが 認められる.Bowman冷評細胞は単管状腺または分 岐管状腺であるが一層であり,その形状は大体短円柱 状かまたは般子形である.一般に腺底部において細胞 底面ひろく円錐形に近い外形を示し細胞は互いに密着 し,その他の部分では細胞個々の形状種々で細胞の排 列も多少乱調を呈しておるが,粘膜上皮に近づくに従 い漸次単調となり,遂に上皮に入り排泄管に移行す る.排泄管は上皮層を縦につらぬいて表面に開比して

おる.

嗅粘膜の多糖類  (1)実験方法

 1946年 cManus)7)によって用いられ,韮948年 Hotchikiss 8)により立派な業績があげられたPeriodic Acid schiff法(以下PAs法と略)により嗅粘膜に

出現する多糖類の組織化学的検索を行ない,さらに唾 液,ジアスターゼ消化による多糖類の状態を追求し

た.

 過ヨード酸による染色理論は次のように考えられて

おる.過ヨード酸(HIO4十2H20)が糖のOH基に作 用してアルデヒド基を遊離させ,これがSchiff氏試 薬のフクシンと結合七て赤色ないし赤紫色を呈すると 考えられる.すなわち一CHOH−CHOH一+H5106→

CHO−CHO−H103十3H20  固定および染色方法

 固定はCarnoy氏第1,液(無水アルコール30+氷

    門一脚一一一一   

酢酸10)で2時間行ない,パラフィン包埋を行ない,

型のごとく切片標本を作る.

 i)

 ii)

漬.

 iii)

 iv)

 v)

脱パラ

0.5%過ヨード酸水溶液中に切片を5分間浸

   蒸溜水で充分水洗.

   Schiff氏試薬中に15分間浸:漬.

   亜硫酸水を別々の蓋のある容器3個にとり,

各々2分間ずつ浸漬.

 vi) 5分間蒸溜水で水洗.

・ii)ヘマトキシリン液で切片オ塵

viii)5分間蒸溜水で水洗.

 ix)95%アルコール,純アルコール脱水.

 X) キシロール透徹,バルサム封入.

 結果・陽性部は赤色ないし赤紫色に血染.

 Schiff氏試薬Merck製の塩基性フクシン19をよ くすりつぶし200ccの熱湯中に徐4に溶かして振盤 しながら混和する.これを50。Cに冷却した後に濾過 し,20ccの1N塩酸を加える,さらに冷却して25。C にし,無水酸性亜硫酸ソーダ1gを加え,約24時間暗 所で室温に放置する.このようにしてフクシン亜硫酸 液が完成し,液は淡黄色に着色しているが,これを密 栓し冷暗所に保存したものを使用した.試薬がバラ色 を呈するようになり,作製後1カ月以上経過した場合 は,フクシンが再生したり染色に際し不完全性を示す ので放棄した.

…水 o二等硫酬水溶畿

        (使用の都度作製)

 またPAS法はおおむね非特異的で,さらにこれを 鑑別するために唾液消化試験およびジアスターゼ消化 試験を行なった.

 唾液4ccにpH 7.0の燐酸緩衝液(KIH2PO4・Na2 HPO4)1ccを加えた液を切片上に37。C,1時間作用 させたものである.

 グリコーゲンが存在する場合は,唾液またはジアス ターゼ溶液によって消化されて,その部の多糖類染色 は陰性となる.グリコーゲン以外の多糖類があれば,

(3)

唾液またはジアスターゼ消化後も多糖類染色は陽性に 出現する.

 (2)検索成績  A 嗅上皮

 a)透明層 この部はPAS染色により強い赤紫色 の染色性が認められる.すなわち粘膜表面に均質な帯 状をなして濃染しているのをみる.

 b)支柱細胞,嗅細胞,基底細胞 これら細胞間の 接合物質(Klittsubstanz)にも微細な陽性頼粒として 認められる.

 c)基礎膜 かなり強いPAS陽性物質の存在を示

す.

 B 固有層

 a)Bowman二二 腺細胞原形質は部位により短 円柱状,般子形または円錐形を呈しておるが,一般的 にいってその十三に面した部分に穎粒状の赤紫色を呈

するPAS陽性物質が密集しているのが認められる.

なおこれを詳細に観察すると,同一の腺腔を囲む腺細 胞個々の間にも種々の異なる反応がみられる.頼粒は 腺腔に面するほど密度が高く,頼粒の比較的多い細胞 では,核上部の原形質,細胞境界部等にも陽性顎粒が みられるが,細胞基底部には全く染色性が認められな い.これら細胞内赤染物質はBowman氏腺細胞分泌 物の前段階物質であろうと思われる.腺腔は内容を充 たし陽性を呈するものと,空虚で染色されないものと がある.

 b)排泄管 上皮細胞の内層に弱卜しているところ がある.ことに頼粒密度は管腔に面した原形質に高く なっている.管腔には禰蔓性に陽性の内容物がつまっ

ておる.

 c)血管壁 動脈内層に幾層かの輪状になり帯状と なり血管壁を囲んで中等度陽性,その他の部分に一様 第1表 正常家兎嗅粘膜における多糖類

13 14 21 22 23 29

支柱細胞

嗅 細 胞

基底細胞

原形質  核 原形質  核 原形質  核

腺細胞

表 層

基 底 原形質  核 原形質  核

十十、

腔1+又一収一+又■双一1収一[収■収一

細胞排泄管上皮

内 層 外 層

原形質  核 原形質  核

劃収刊収一収■収一1+又■収■叔一

壁束織

管合

血嗅結

.±.±±

鰹騰騰

嗅四物微状脈状 .±.±±

同 左

.±︒±±

同 左

.±.±±

同 左

.±.±士

同 左

.±.±±

同 左

.±.±±

同 左

(4)

に.軽度の反応を認める.

 d)嗅神経束,結合織も弱陽性に反応する.

 標本にあらかじめ唾液消化またはジアスターゼ消化 試験を行なってもほとんど影響をうけないようであ

る.

 (3)小括ならびに考按

 多糖類に関しては従来はグリコーゲンが主な対象で あったが,最近ではMcManus氏法をはじめとし多 くの染色法が応用されておる.過ヨード酸による多糖 類染色によって陽性に発現するものは,Glick(1949)

9)によれば,動物組織では主としてグリコーゲン,ム チン,粘液蛋白,ピアルロン酸,ムコイチン硫酸,キ チン,セロブロシド,植物組織では澱粉,セルロー ズ,ヘミセルローズ,ペクチンであるという.また Pearseはグリコ〜ゲン及びリポイドを含む多糖類の ほかに粘液多糖類,粘液蛋白あるいは糖蛋白が陽性で あるといっておる.       。  嗅粘膜において主として多糖類陽性を示したのは,

Bowman氏腺細胞の腺腔に面した部分,その腺腔内 内容物,排泄管のとくに内層,排泄管内内容物,透明 層,基礎膜であった.このうち腺腔内→管腔内→透明 層と陽性部をたどれるところがら,腺細胞内の陽性物 質は分泌物の前段階物質であり,恐らく核上部の原形 質において形成されたPAS反応陽性穎粒が,成熱し ながら腺細胞内を移動,上昇して腺腔内へ排出される

ものと思われる.

 唾液消化,ジアスターゼ消化試験後も非処置切片と ほぼ同様に呈色し,抗ジアスターゼ性が証明されるの で,嗅粘膜のいずれの部分に含まれる多糖類もグリコ ーゲンではなく,他の複雑な多糖類と考えられる.

 固定液に関して.各種の粘液多糖類はいずれも水溶 性で,その程度も著しいものがあるので,ホルマリン 液は不適当とされ,Carnoy氏固定液のような脱水剤 が適当であるとされているが,固定による影響をしる ために,さきに予備実験としてこの両者による比較を 試みた.その結果,Bowman二三細胞においてやや 色調の差異を認めたが,固定による量的差異は認めら れない.しかしホルマリン固定のものは分泌物層,基 礎膜,血管壁においては,Camoy氏固定液によるも のに比べやや陽性度が劣るように見受けられ,従来か らいわれておるように,嗅粘膜のPAS染色において もCarnoy氏液による固定がすぐれておるように思わ れる.またCarnoy氏固定液は(無水アルコール60十 クロロホルム30+氷酢酸10)であるが,Lison lo)は Carnoyが提案した最初の固定液(無水アルコール30

+氷酢酸10)の方が組織の収縮が少なく固定は極めて

良好であると賞用しており,この両者も比較してみた が著明な差をみなかった.わたくしは,PAS法およ びピロニンーメチール緑染色にさいしては好んでCar−

noy氏第1液を使用した.

嗅粘膜の核酸  A Feulgen反応

 (1)実験方法

 染色理論は,DNオキシリボ核酸(DNA)が酸によ る加水分解によってプリンが遊離し,チミン酸ポリヌ クレオチドとなり,デスオキシリボースのアルデヒド が露出する.この2分子のアルデヒド基とSchiff氏 試薬の無色亜硫酸フクシン1分子が結合して発色する ものである.すなわちF反応はDNAに陽性であり,

リボ核酸(RNA)には陰性に作用する.

 固定および染色方法

 昇禾氷酢酸液(6%昇二水100cc+氷酢酸2cc)で 24時聞固定を行なったのち切片作製.

 i)脱パラ.

 ii)1N塩基で洗う.5分間.

 iii)60。Cの1N塩酸中に4分間.

 iv)更に1N塩酸5分間,

 v) 水洗して加水分解を中断.

 vi)Schiff氏試薬中に1〜1.5時間.

vii) 亜硫酸水で3回切片を洗浄.

viii)水洗.

 ix)脱水.

 X)キシロールで透徹,バルサム封入.

 結果・陽性部は赤紫色に着染.

 Schiff氏試薬は多糖類染色に用いたと同様のものを 使用したが,亜硫酸水は200ccの蒸溜水に10%無水 酸性亜硫酸ソーダ液10ccおよび1N塩酸10ccを加 えて混合したものを使用に際して新調して用いた.

 (2)検索成績

 嗅粘膜においては,嗅細胞の核膜に接するクロマチ ンおよび核内のクロマチン頼粒が染色され,F反応陽 性である.支柱細胞,基底細胞の核膜に接するクロマ チンおよび核内のクロマチン穎粒もほぼ同様に染ま り,染色上この三者の間に差異を認め難い.固有層で は神経束のSchwam氏核が強く染色される. Bow・

man氏腺細胞においても核膜に接するクロマチン および核内のクロマチンは嗅上皮細胞の核に比べては るかに淡く染まる.また固有層結合組,血管壁の核も 弱染する.すなわちDNAは嗅粘膜において常に核 内にだけ認められ,細胞原形質中には見出されない.

 なお本染色標本では,成書に記載されておるように

(5)

美麗な赤紫色に染まらず,やや褐色がかつていたが,

塩酸の加水分解を経ない対照標本ではほとんど全く染 色されないので,すなわち陰性成績を示し,以上所見 の着旧物質はDNAにほかならないと考えておる.

 (3)小雨および考按

 F反応では,1N塩酸60。Cで処理すると, RNA が失われ,あとにはDNAが残る. DNAは普通は核 に,RNAは仁および細胞質に分布しておる.浜崎11)

によれば,F反応で陽性になるDNAは,蛋白と結合 したD:NAおよび高度に重合されたDNAであって,

遊離したDNA,解合されたDNAおよびNucleotide,

Nucleoside等は組織内では・F反応陰性であるといっ ておる.Lisonよれば, DNAの証明にはF反応が特 異性であり,定性的にも定量的にも正確であるとい う.わたくしが上に述べたように,嗅粘膜のF反応 はその上皮細胞には強く,固有層に含まれる細胞には 弱くあらわれた.従ってF反応からみれば,嗅上皮細 胞にはDNAが多量に含有されていることを思わし

める.

 B ピロニン・メチール緑染色  (1)実験方法

 固定はCarnoy氏第1液(純アルコール30十氷酢酸 10)で3時間.

 染色はBrachet氏法12)による.

 i)パラフィン切片作製.

 ii)脱パラ  iii)水洗.

 iv) ピロニン・メチール緑液(Stem氏処方によ

る)

    ピロニン

   ︸

    メチール緑     30%アルコール     グリセリン     0.5%カルボール v) 3級ブタノール分別.

vi)

結果:RNAは赤く,

0.259 0.159  25cc  20cc 77.5cc

   キシロール透徹,バルサム封入,

      DNAは緑に染まる.重合度 の落ちたDNAも赤色に染まる.

 この染色液調製にはChroma製の色素を用い,

S†emの処方13)によって作製した.また分別にあたり ビニロンはエタノールに対する溶解度が大きく,染色 によって生じた反応が逆行して切片から失われやすい ので,ブタノールが賞用されておる.わたくしもブタ ノールを使用して分別を行なった.

 (2)検索成績  A 嗅上皮

  a)透明層 粘膜表面にやや青味を帯びた赤色に染  まっておる.

  b)支柱細胞 その原形質はかなりの程度に墨染  し,嗅細胞,基底細胞の原形質はそれより弱く中等度 に上皮深層はいくらか濃染しておる.10号では,基底 細胞核上部にピロニン陽性穎粒を認める.

  B 固有層

  a)Bowman氏腺の腺細胞原形質は最も強く赤直 しておる.しかも腺腔に面していくらか濃渡が高いよ  うにみえる.腺の個々に,また同一の腺腔を囲む細胞

個々の間にもわずかながら染色上差異があるようであ る.10号においては,腺細胞の原形質内顧に核をとり 囲むがごとくピロニン好性の赤色の顯粒の存在を認め る.腺腔内の分泌物もピロニン中等度好性である.

  b)排泄管上皮細胞原形質も赤濃しておるが,腺細 胞よりやや弱く腺細胞のようにはとくに濃染しておる 亀部位はなく,瀬蔓性に血染しておる.排泄管にもピロ

ニン中等陽性の分泌物がみられるところがある.

  c)嗅神経束,血管壁および結合織線維 ピロニン により淡く染まる.

 C 核

 成書に記載のように正確に緑色に染まらず,やや青 味を帯びて染色されるが,嗅細胞の核膜に接するクロ マチン及び核内のクロマチン穎粒は濃く染色され,

Bowman氏細胞のそれは幾分淡く,染色の濃度から いえばFeulgen反応における所見と一致しておる.

 染色がRNAに特異的であるかどうかを確かめる ために,リボヌクレアーゼを用いたいと思ったが,そ の純粋なものは入手できなかったので,1N塩酸を用 いて,57。C,10分間の加水分解を行ない,ほとんど完 全に消失したと認められるので,上記の染色方法で赤 色を呈するものはRNAであると考えておる.また柴 谷14)の実験から1N塩酸加水分解後,メチール緑好性 が消失し,高重合DNAが低重合DNAに変性し,

ピロニン好性になることにより高重合D:NAを考察し た.またRNA, DNAのす!くてを三塩化酢酸によって 溶解させるSchneider氏の定量分析法を応用した Pollister氏の方法を用い,ピロニン・メチール緑染 色を行ない,ピロニン・メチール山郭好性の消失から 全核酸の存在を決定した.

 (3)小括ならびに考按

 核酸は1869年Miescherによって発見され,これに はRNAとDNAとの二種類があり,組織化学の対象 となっておる.一般に細胞内では,DNAは染色質に ふくまれ,RNAは細胞全体に分布し,とくに仁と細 胞質に多いが染色質にもDNAとともにふくまれてい

(6)

第2表 正常家兎嗅粘膜における核酸

嘉一く容蟹11・

11

12121

22 23

層i一一珊

P・十 P十十

支柱細胞

嗅 細 胞

基底細胞

原形質  核 原形質  核 原形質  核

P十十 M十十 M十十P十

M十十P十

P十十 M十十 M十十P十

M十十P十

P十十 M十十 M十十P十

M十十P十

P十十 P十

P十十 M十十 M十十P十

M十十P十

P十÷

M十十 M十十P十

M十十P十

P十

基 二 二 P十 P十

腺細胞

表 層

基 底

原形質  核 原形質  核

P十十

M十 M十P十

P十十

M十

P十十

M十

P十←

M:十十

+什︑

PM

M十十P十

P十 P十 P十 P十

P十十

M十 M十P十

P十÷

M十 M十P十

M十P什

P十卜

M十 M十P十 M十P十

腔1P双一lp+又一IP+又一[P+又一IP+又一[P双一

細胞排泄管上皮

内 閣 外 層

原形質  核 原形質  核

M十P十 M十P十

M十P十 M十P十

M十P十 M十P十

M十P十 M十P十

M十P十 M十P十

M十P十 M十P十 管

腔lp+又一ip叔一P収■p+又一IP+又一IP双一

丁束織 経管 合 二

丁二幅

備 考

十十±

PPP

腺細胞核

NA寸寸

周辺にR 認む

十十±

PPP

十十±

PPP

十十±

PPP

十十±

PPP

十十士

PPP

るといわれる.Caspersson 15)の細胞内の蛋白合成に 関する理論は核酸の組織化学において重要な役割を果 しているが,そのいうところは,「核仁にRNAにと む蛋白質が蓄積し,ここから核膜に向って蛋白質の分 散が起ると同時に,核膜の外側でRNAが合成され る.これが細胞質のRNAとなり,その関与のもとで 細胞質の蛋白合成が進行する.一方附随染色質はなん

らかの様式で染色体の蛋白合成に関与する.こうした 細胞分裂と関係のある蛋白合成は染色質のDNAの関 与のもとにすすめられる」すなわち物質代謝のさかん な細胞にはRNAが多量にふくまれており,同じ細胞 でも物質代謝がさかんになればRNAの含量が増加 する.柴谷等も,細胞内の蛋白合成機能はRNAの蓄 積,濃度と密接な関係があると述べておる.

 ピロニン・メチール緑染色により赤色を呈し,1N 塩酸処理により好ピロニン性を失なう支柱細胞,嗅細 胞および基底細胞の原形質,Bowman昌昌細胞およ び排泄管上皮細胞原形質,嗅神経束,血管壁,結合織 線維はRNAを含有することが推定される.ピロニン

染色の度合は組織内のRNA含有量に平行するので,

腺細胞とくにその腺腔に面して非常に多量のRNAが 含有され,排泄管上皮細胞にはこれに比べ含有量が少 ないということができる.

 また高重合D:NAは,核クロマチンだけに認められ るが,嗅上皮において固有層におけるよりも濃度が高 い.排泄管のDNAは腺細胞のそれと大差をみない.

要するにピロニン・メチール緑染色でメチール緑好性 の部分は,大体においてFeulgen反応陽性の部位と 一致する所見を示しておる.

 固定液に関して.すべて固定にあたっては,最も急 速な:固定が望ましく,固定液にかなりの時間入れてお くことは,固定完了までに組織の化学物質の変化,移 動が起るであろうと考えられる.ピロニン・メチール 緑染色において,メチール緑が固有の染色液の色調で ある緑色よりやや青味を帯びておるが,このことにつ いて市川16)は網膜の核酸の推移についてCafnoy氏固 定,フォルマリン固定,アセトン・アルコール固定,

凍結乾燥法の4者を比較し,Camoy氏固定,フオル

(7)

マリン固定では青色に,アセトン・アルコールでは青 味を帯びた緑色に染まり,凍結乾燥法では純粋のメチ ール緑の緑色をもつて染まり,色調も明るく,核の構 造もまた鮮明であるということを認めておる,しかし 色調による差異は認めても,固定による量的差異は認 められなかったとも述べておる.わたくしの標本にお いてもメチール緑をとっている部分は帯青緑色に染ま っておるが,まえに述べたように1N塩酸加水分解お よび三塩化酢酸により鑑別を行なっておるので,この 部分はメチール緑好性とみて間違いな:いと思う。

 C 柴谷氏メタクロマジー反応  (1)実験方法

 チオニンおよびトルイジン青森の塩基性色素は核酸 と反応して一般に沈澱性の塩をつくるが,柴谷17)18)は この反応を核酸の沈澱反応と関係づけて説明した.核 酸のメタクロマジーによりDNAは青色に, RNAは 赤紫に染められるといい,青色色素による染色像は鏡 検に好都合であるため,上述のFeulgen反応,ピロ ニン・メチール緑染色による所見を補足する意味で本 染色を追加した.

i︶

ii)

iii)

iv)

脱パラ.

0.5%チオニン水溶液で5分間染める.

80%アルコールで分別.

純アルコールに入れ,アルコール・キシロー ルを経てキシロールに入れる.

 v)バルサム封入.

 結果:DNAは青.メタクロマジーを起している部 分は赤紫となる.特にRNAがよく反応する.

 (2)検索成績

 嗅上皮では,嗅細胞,支柱細胞および基底細胞の核 は紫色に,核膜およびクロマチンは濃藍色に染まって おる.透明層はごく淡い水色にみえる.基礎膜に対す る染色性はほとんどない.Bowman氏腺細胞の核も 紫色に,クロマチンは明瞭に濃藍色に染色されてお

る.腺細胞原形質は一般に淡い藍色であるが,腺腔に 面した部分にはメタクロマジーを起し赤紫色にみえる ところが多い.排泄管上皮細胞は腺細胞と同色調でや や淡出し,無定形の腺腔および管腔内内容物も汗染し ておる.クロマチン頼粒は各個とも明瞭に識別するこ とができる.嗅神経束,血管壁筋層,結合織は淡水色 に染まっておる.

 (3)実題ならびに考按

 チオニンで濃藍色に染まる部分は,Feulgen反応あ るいは,ピ妬心ン・メチール緑染色で好メチール緑性 を示す部分と一致し,DNAの存在が推定できるが,

RNAに関しては明確な結果をみなかった.すなわち,

チオニンで紫赤色に染まる部分はピロニン・メチール 緑で染めると好ピロニン性の最も強い部分と一致し RNAの存在が推定できるが,その他の部分は淡藍色 ないし水色に染まる.しかし1N塩酸加水分解後の切 片をチオニン染色したものでは,Feulgen反応陽性の 部分だけに染色性が保持されるから,原形質の藍色な いし水色に染まった部分にもRNAの存在をほぼ推定 することができる.

嗅粘膜の脂質

 1935年Lison and Dagneliが月旨血染剤として紹介 したズダン黒Bは従来の脂質染剤と異なり,細胞の主 なる化学的構成要素の一つである非顕性脂質(masked lipid)を容易に染色し,従来のズダン皿等に比べ染色 性の良好なことが示されておる.ズダン黒B(com・

Plex polyazodye C?gH2206)を用い,1950年Feldman 19)が発表した染色法により染色を行なった.

 固定 空気栓塞により致死させたものを断頭し,10

%フォルマリン中に24時間浸漬固定する.その後鼻腔 を開き,鼻中隔の嗅粘膜部を軟骨膜から剥離するこ と,Carnoy氏固定の場合のようにし,材料とする,

このままでは,氷結切片作製が困難であるので,ゼラ チン包埋を行なう.それには,水洗12時間後,薄いゼ ラチン液(ゼラチン10gを1%石炭酸水30 ccに溶 かし,さらに等量の1%石炭酸水を加えたもの)に12 時間,そのうえで濃いゼラチン液(1%石炭酸水30cc に対して・ゼラチン109の割合に溶かしたもの)に24 時間(いずれも370Cの思懸劇中)入れる.そのの ち,ゼラチン液をシャーレに流しこみ,その中に組織 片を適当に配置し氷室の中におく.約3日後,組織片 の周囲の余分のゼラチンを切り除き,これを10%フォ ルマリン中にさらに2日間浸漬,充分に固まらせる.

 Feldman氏染色法

 i)50%アルコール5分間.

 ii)染色嚢中30分間(37。c)

 染色液はつぎのように作製した.おおよそ1gのズ ダン黒B(Merck製)を70%アルコール100 ccを入 れたすり合せのよい野口の細口瓶に入れて蓋をしてパ

ラフィン艀卵器中に(58〜60。C)10時間程度入れて,

時4振盈して充分溶かしてから室温で徐々に完全に冷 やして飽和液をつくる.この溶液は氷室に保存し,使 用に際して濾過して用いた.

iii)

iv)

v)

vi)

50%アルコール数秒間.

水洗1時間.

後染色 ヘマトキシリン20秒前.

1%塩酸で適当に脱色.      鼻

(8)

vii)水洗1時間.

viii)グリセリン封入.

 結果3リポイドを含む脂質は黒く染まる.本染色は ゼラチン包埋あるいは染色途上説明しえないような条 件により左右され,良好な結果をうることはむつかし く,たび重なる予備実験を行なったが,上記の条件で 最も鮮明な標本をうることが多かった.ゼラチンも染 色液の色をとるが,上記の条件による標本では観察の 妨げになるほどではなかった.

 (2)検索成績

 A 嗅上皮

 a)透明層 最:も著明な染色状態を示し,均等な帯 状をなしている.

 b)支柱細胞 高度に旧染され,原形質は穎粒状に 染まってくる.

 c)嗅細胞,基底細胞 わずかに染まっておるが,

支柱細胞に比べると遙かに淡く,上皮基底部に近くや や濃いようである.

 B 固有層

 a)Bowman晶晶細胞 細胞内に穎粒状に存在し,

分布状態は主として核より外側,すなわち腺底部に多 く,内側に少なく,核は染色されないので,後染色を 行なわないものにあっては,淡明な小空泡状となって みえる.腺腔内はごく淡く染色される.

 b)排泄管 上皮細胞にごくわずかの染色性を認め

る.

 c)嗅神経束 腺細胞原形質にみられる穎粒の数倍 の大きさをもつ大回粒として点在する.

 d)血管壁,結合織にはほとんど染色性を認めな

い.

呼吸部粘膜と嗅粘膜との組織化学的比較  呼吸部は形態学的にみて中隔の前部と後部とはかな

りはっきりした違いをあらわしているとTaylor 1)は 述べておる.すなわち上皮は前部では線毛円柱上皮で あるが,そのなかに粘液で膨んでおる杯細胞が介在し ておる.中隔後部の線毛上皮は,前部に比し高く,核 は種々の高さにあるために一見して多層にみえる.つ 第3表正常家兎嗅粘膜における脂質

論〜遂鎧」

4 5 6 7 8

支柱細胞

嗅 細 胞

基底細胞

原形質  核 原形質  核 原形質 核

±

±

±

±

±

±

±

腺細胞

表 層

基 底

原形質  核 原形質  核

十〜十÷

腺 腔 十又一 十又一 十又一 十又一 十又一

二言 僻見 引 上 皮

内 層 外 層

原形質  核 原形質  核

±

±

±

±

±

±

±

±

管 腔

壁束織 経管 合 神

血嗅結

備 考

±什± 雨粒経穎神大在嗅は点 士冷肉

同 左

±甘±

同 左

±H±

同 左

±甘±

同 左

(9)

ぎに,固有層の腺は前部では胞状腺であり,入では混 合腺であるが,家兎ではその漿液線の型に近く,細胞 は基底の方に近く大きな丸い核をもつておる.これに 反し後部では,単管状線で,中心性の核を有してお る.嗅粘膜の形態学的構造はさきに述べたので略し,

両者の組織化学的比較にうつる.

 多糖類ではTaylorはHotchikissの方法により行 なっておるが,上皮細胞は中隔前部においてだけ,少 数のものがPAS陽性でムチカルミンでも密に染ま り,腺は少数がPAS陽性で大多数は陰性,陽性のも のもムチカルミンで染まらないのに反し,後部では腺 はすべてPAS陽性であり,ムチカルミンで染色され るという相異をあげておる,嗅粘膜では固有層の腺は すなわちBowman氏腺であるが,多少の強弱の差は あるが,すべての細胞はPAS陽性頼粒をかなり多量 に有しておる.嗅粘膜上皮には勿論分泌細胞は含まれ ておらないので著明な染色性はないが,細胞間接合物 質として微細頬粒状として認められる,呼吸部,嗅部 ともにPAS陽性物質にはジアスターゼを作用させて も変化は起らない.

 核酸染色では,TaylorはFenlgen反応およびピロ ニン・メチール緑染色を行な:い,呼吸部粘膜ののいず れの組織の細胞核においてもDNAの分布に差異は認 められないといっておる.嗅粘膜では,Feulgen反 応,ピ考定ン・メチール緑染色,チオニン染色のいず れにおいても,嗅上皮を構成する三細胞の核は,固有 層に含まれる細胞に比べ,DNAの反応は強くあらわ れる.したがって嗅上皮のDNA含量は他の組織に 比べかなり高いとこが知られる.RNAは呼吸部の腺 の原形質の辺縁の部分と上皮とに主としてあらわれ,

大きい導管は微弱な反応を示すという,Bowman氏 腺では,RNAにたいしかなり高い陽性度を示すが,

腺腔に面していくらか濃染し,排泄:管上皮細胞原形質 も赤画するが,程度は腺細胞より弱い,

 嗅粘膜では,嗅腺と支柱細胞がズダン黒に好染して おるが,呼吸部粘膜ではいずれの部分もズダン黒にせ いする反応はなく,脂質は存在しないと記載されてお るから,Bowman氏腺および前上皮細胞ことに支柱 細胞は,嗅機能と密接な関係があると思われる.

総括および考按

 支柱細胞の原形質はピロニン・メチール緑染色によ り強度のピロニン陽性所見を呈することから,この細 胞が非常に強い核酸代謝を営むことが知られる.また ズダン黒B染色においても豊富な陽性書記を見ること から,この細胞が単なる支持的の役割にとどまらず,

嗅上皮の機能上なんらかの重要な作用を分担するので はないかと想像される.このことは山田,安武20)が,

モルモット,家兎の嗅粘膜上皮の電子顕微鏡的観察 で,「支持細胞では,endoPlasmic reticulumカミ極め てよく発達しており,モルモットでは,支持細胞の先 端が粘膜上皮表面よりかなり突出し,この突出部内に は極めて密なsmooth surfaceのendoplasmic reti・

culumが同心円形に配列する傾向を示す.これらは 細胞の長軸に平行に核に向い核下部に続くが,核上部 において屡・々網状の密集団を形成する.またこれらの reticulumが表面細胞膜において連絡しているめを認 める.支持細胞のmitochondriaは嗅細胞のそれに比 して大きく,cristaeが少なく,極めて密度の高い豊 富なmatrixを有する.」との理由で支柱細胞の特異 な機能に注目しておるが,これを裏書きする所見と考 えられる.

 嗅細胞および基底細胞原形質は中等度のRNA含量 を示し,DNAは, Feulgen反応,ピロニン・メチー ル緑染色,チオニン染色のいずれの方法によっても,

嗅細胞,基底細胞および支柱細胞の核膜に接するクロ マチンおよび核内のクロマチン穎粒は明瞭に染め出さ れ,固有層の各成分のそれに比しはるかにD:NA濃度 は高いようである.

 多糖類は嗅上皮においては,粘膜表面にみられるほ か,微細な穎粒として細胞間接合物質に認められ,ま た基礎膜は明らかに染め出される.Lillie(1949)21)は 人の上気達の基礎膜はPAS陽性であることを発見し ておる.鼻腔粘膜では北川等(1953)22)は鼻茸の基底 膜はPAS法では弱陽性を示すことが多く,今井等

(1955)23)は副鼻腔粘膜の基礎膜はPAS陽性である といい,坂倉等(1957)24)も慢性肥厚性鼻炎の下甲介 粘膜において強い染色性を認めておる.Taylorは入 の呼吸部粘膜の基礎膜はPAS陰性であり, Lillieの 発見を確認することができず,また家兎,ラットでは 基礎膜は見出し得なかったと述べておる.以前の研究 者のうち,嗅領域における基礎膜の欠如をとなえる入 もいるが,山田,安武は前述の電子顕微鏡的観察でこ れを認めており,わたくしのPAS染色標本において

も,かなり強く明瞭に認められる.

 Bowman氏腺細胞は,粘膜組織中水に最:も各種染 色法にたいし陽性反応を現わす.まずその腺腔に面し た部分に穎粒状のPAS陽性物質の分布をみる.細胞 基底部には全く染色性が認められず,核上部の原形質 から腺表層に多いことから,核上部の原形質において 形成されたPAS反応陽性頼粒が成熟しながら腺細胞 内を移動,上昇して腺腔内へ排出されるものと思われ

(10)

る.

 Bowman氏腺は,その名が示すように1856年Bow−

manによって発見されて以来,その分布ならびに性 状がきわめられ,脊椎動物で陸上に住むもののほとん どに存在が確かめられ,固有鼻腔の嗅粘膜領域に存在 するものであることが確認されておる.性状に関して は,議論のあったところであるが,Cowdry(1932),

Schultz(1862)は粘液腺であるといい, Heidenhain

(1870)は犬,豚,羊,家兎等を用い,嗅粘膜に存在 する腺はすべて漿液腺であると推断した.さらに Dogiel(1884)は犬,猫,家兎について嗅腺の組織学 的構造を研究し,分泌物は漿液性であるといい,Hei−

denhain説を支持した.しかるに間もなくPaulsen は少なくとも馬,豚,山羊では晶晶は純然とした漿液 腺ではなく,これに粘液細胞の混合を主張し,混合説 を立てた.しかるに沢田(1936)25)は,分泌物排出の 様式および顯粒形成の機序を追求し,Heidenhain,

Dogie1の説を支持し現在漿液腺説は学会において確 認されておる.いまPAS染色を行ない,腺細胞に強 度の反応をみたことは興味がある.

 古くから,Heヨdenhain,:L6wis, Dogie1等が重クロ ム酸カリ固定ヘマトキシリン染色で特異の染色を現わ す物質の存在を認めておるが,沢田は家兎嗅腺につい て,そのHeidellhain二二ヘマトキシリン染色にて染 色するとき,強く染色される物質をhyperchroma−

tische Substanzeと名づけ,これを有する暗細胞とこ れを有しない明細胞とを分け,明細胞は機能営為期に あるもの,暗細胞は休止またはほとんどこれに近い時 期にあるものとの説をとっておる.ピロニン・メチー ル緑染色では嗅腺原形質はかなり高度のピロニン好性 を示し,かなりの蛋白合成作用を営んでおることを知 るが,さらに仔細に観察すると腺の個々に,また細胞 個々の間にもわずかながら染色上差異を有し,腺細胞 分泌機能と関連があるように思われる.

 ズダン黒にたいしては,乙鳥は支柱細胞とともに最 も好染する部分である.

 腺腔には分泌物を認めるものと認めないもめとがあ り,分泌物を認めるものにあってはPAS強陽性,ピ ロニンでわずかに無二するが,ズダン黒ではごく淡く 染色される.

 排泄管上皮細胞はこれにPAS染色を行なうと管腔 に面する原形質の一部に陽性穎粒をみるから,分泌作 用があるものと思われる.しかし,ズダン黒染色によ る陽性度はわずかで濃染する一定の部分もないので,

その分泌作用もBowman氏腺におけるものとは異な

るものと思われる.ピロニン・メチール緑染色ではピ ロニンにより赤染するが,その程度は腺細胞に比し弱 く蛋白合成作用は腺細胞より少ないということができ

る.

 管腔内の分泌物はPAS陽性であり,ピロニン中等 度陽性であるが,脂質は腺細胞に存在するような明瞭 な払出としては認められず,均等に染まる.

 血管は,静脈壁,動脈壁ともにPAS弱陽性であ り,動脈弾力膜は輪状に血管壁を囲んで中等度陽性で ある.ピロニンには淡く染まる.ズダン黒にたいする 染色性はほとんど認められない.

 嗅神経束はPAS染色で弱陽性であり,またピロニ ンにより淡染する.ズダン黒染色では黒色大面粒が点 在するを認める.

 結合織線維はPAS弱陽性であり,窪たピロニンに より淡染する.ズダン黒にたいする染色性はほとんど 認められない,

 正常家兎嗅粘膜を材料として組織化学的検索を行な い,次の結論を得た.

 1,PAS反応陽性物質は透明層,基礎膜, Bowma皿 氏腺のとくに腺腔に面した部分,腺腔内内容物,排泄 管上皮細胞の内層,排泄管管腔内内容物,動脈弾力膜 に強く認められる.グリコーゲンはいずれの部分にも 認められない.

 2,Bowman高冷では, PAS陽性物質は基底部に は全く染色性は認められず,核上部に近接した原形質 から表層へかけて多い.

 3.RNAは,支柱細胞,嗅細胞および基底細胞原形 質,Bowman氏腺細胞および排泄管上皮細胞原形 質,面諭および管腔内内容物に多く認められる.腺細 胞では腺腔に面してやや濃度が高く,排泄管上皮細胞 では濃染される一定の部分はなく,瀕蔓性に童謡する が一般に腺細胞に比し弱く,蛋白合成作用は腺細胞よ

り少ない.

 D:NAは,嗅上皮を構成する細胞核に多く存在し,

固有層に含まれる核には少ない.

 4.脂質は,透明層,支柱細胞,Bowman氏腺細胞 特に基底部に多く存在し,嗅細胞,基底細胞,排泄管 上皮細胞,管腔内,腺腔内にもわずかに認められる.

 5.支柱細胞は単に,支持的の役割だけでなく,嗅 上皮の機能上なんらかの重要な作用を分担するのでは ないかと考える.

(11)

第2篇 過度嗅刺戟を与えた場合の嗅粘膜の組織化学

実 験 方 法

 材料および粘膜採取方法は,さきに正常のものにつ いて行なったようにした.

 嗅素の作用方法

 家兎は固定箱に入れ,50cm×36cm×38cmのガラ ス箱におさめた.このガラス箱の天蓋には小孔を穿 ち,幾分かの換気が行なわれるようにした.

 嗅素としては,純正嗅素のうちピリジンを使用し た.約1009入りの瓶にピリジン約509を入れ,家 兎の鼻孔から約5〜6cm離しておいた.家兎は食餌 を与えるため1日午後2時間外界へ出し,あわせてそ のとき固定箱の清掃を行なった.

 このようにしてピロニン吸入2時間,4時間,2日 間2匹,6日間2匹を得たので,これに多糖類はMc Manus氏法により,核酸はピロニン・メチール緑法 に従い染色を行ない,さきに述べた対照標本と比較し た,嗅粘膜はいずれも鼻中隔から採ったが,これを前 方から後方へ〔P1〕〔P2〕〔P3〕とし,その各々につい て比較を行なった,

検索 成績

 1.McManlls氏法による多糖類染色

 正常家兎嗅粘膜における観察でPAS陽性を示して いたのは,透明層,基礎膜,Bowman氏腺細胞原形 質の腺腔に面した部分,排泄管内腔,Bowman氏腺 腺腔内容物,排泄管管腔内容物,血管壁,嗅神経束,

結合織である.嗅刺戟を与えたものでは,それによる 変化は最:も著明にBowman氏腺に現われてくる.そ れで,いまBowman氏腺の染色性の変化を中心に観 察してみたい.すなわち,2時間刺戟の31号におい て,腺細胞原形質の二二に面した部分の染色性は,大 部分のものにあっては対照標本と著しい相異を認めな いが,一部の腺細胞においてはすでに染色性の増強を み,反面では染色性の減退をしめすものもみられる.

すな:わち染色の多様性を示しておる.部位的には〔P1〕

において増加をみるもの多く,一部減少を示している に反し,〔P3〕では増加をみるものなく,減少を示す ものがわずかに見られ,〔P2〕ではこの両者ともわず かに認められる.4時間刺戟の32号においても〔P1〕

〔P2〕ともに腺細胞の核の周囲から腺腔に面した原形 質へ,染色性の増強と分布の増加を示すものが多くな っているが,また一方では減少している部分もまれに 認められる.2日刺戟のうち26号について観察:する

と,Bowman藁紙のほとんどは染色性減退を示し,

その中にあって正常にとどまっているものも少数存在 するが,一面全く染色性の認められないものも少数に ある,〔P2〕の部分には比較的正常にとどまっている ものが多いが,これに反し,〔P3〕では染色性の明ら かな減退をみるものが多い.つぎに28号においても,

腺細胞の染色性の軽度減退から欠如までの種々の変化 を示しておる.しかしそのなかにあって非常に稀では あるが増加をしめしているものもある.本標本では一 般に粘膜の表層部の変化は軽度であるが,基底部では 全く染色性が認められない.部位別にみると〔P1〕は

〔P2〕〔P3〕に比し減退の程度が強くあらわれておる.

6日刺戟の24号,25号においては,両者とも〔P1〕で は固有層表層のBowman二品は軽度減退のものが最 も多く,深層ではほとんどが全く染色性を示さず,わ 一 ずかのものが種々の程度の減退を示しておる.しかし 両立ともごく稀には正常のものを混じておる.rp2〕

では大多数が陰性で,少数が軽度減退, 〔P3〕では陰 性軽度減退相半ばし,ごく一部は正常にとどまってお

る.

 2.ピロニン・メチール緑法によるリボ核酸および   デスオキシリボ核酸染色

 2時間刺戟の31号では,嗅上皮細胞の胞体,核とも に全く変化が認められない.Bowman氏腺腔に面す る部は,正常のものについてみられるようにピロニン 濃染しているが,この部分も含め,原形質全体も幾分 強風の傾向があるかと思われる.4時間刺戟の32号で も,支柱細胞,嗅細胞,基底細胞層の排列形態はいず れも変化を認めない.Bowman氏腺の形態にはほと んど変化はないが,〔Pl〕の部には固有層表層の腺細 胞には核が小さく不正形のものがあり,また深部に.は 胞体の膨大を呈しているものがある.腺は一般に腺腔 に面してとくに強い赤色を呈しているように見える が,その他の胞体も反応がわずかに増強しているよう に見える.2日刺戟のもののうち,26号では支柱細 胞,嗅細胞および基底細胞核の配列はほとんど乱れて おらないが,28号では〔P2〕〔P3〕の部分で,楕円核 帯と円帯核との混在がわずかに見られる.Bowman氏 腺では両例とも全般に軽度の膨大を示すものが多い.

同じ腺腔を囲む細胞にもピロニン陽性の比較的強度の ものとそうでないものとがある,6日刺戟の24号と25 号とについて,透明層は24号では〔PI〕〔P2〕において 認められないところが多く,〔P3〕では存在するが,

25号では〔P2〕〔P3〕は認めるが〔P1〕では認められ

(12)

第4表 過度嗅刺戟を与えた家兎嗅粘膜の多糖類

家兎番号 対 照

31 号 (2時間)

P・ip・lp・

32号(4時間)

P・lP・lp・

26号

P1

嗅上皮

難細工十三1= = = = = =1 嗅旧劇飛質1= = = = = = 基底細副原酬= = = = = =

基礎劇甘1+1什1司+1ギ1】朴

腺細胞

表層

基底

原形質 核 原形質

十〜昔〜柵

〈〉

一〜十

十〜什〜冊

〈〉

一〜十﹀

十〜十十

く 十〜甘〜柵

<<

一〜十

十〜什〜柵

<<

一〜十﹀

一r》十〜十十

〈〉

       〜 三田又■一三■骨又一叡一遍■骨又■ 田又一

細胞排泄管上皮

内三原三士 土 ± ± エ 土 夕立十三= = = = = =

腔陪又一国又一二又一隊ヨ叔一二又■ 田又一

壁束織

管合

血嗅結

.±.±± .±.±士 .±.±± .±.±士 .±.六十 .±.±± .±.±±

(2日)

P−P・

28

号(2日)

P・lp・1P・ 24号(6日) P・}P・1P・ 25号(6日) P・P・IP・

什1朴i什1玉什1・1・1什1・1刑

刑什1什1什1骨【刑刑朴1什陪1

一〜十〜十十

<<

一〜十

一〜十〜十十

〈〉

十〜十十内 十〜十十 一〜十〜十十

〉〉

一〜十

一〜十〜十十

=〉

一〜十〜十十

〉〉

一〜十〜十十

〉〉

三又■什又一田又■什又一1甘刻三又■三又一1叡一隔又一田又■

=== ===一1====

一三■一対叡一隔又■叡一1骨又■叡H叡一二又■什又■

.±.±± .士.±± .±.±± .±.±士 .±.±± .±.±土 .±.±± .±.土± .士.±士 .士.±±

(13)

第5表 過度嗅刺戟を与えた家兎嗅粘膜の核酸

家 兎 番 号 対照

P2

嗅 透  明

劇p+

31号(2時間)

P・lp・

P3

P+IP+lp+

32 号  (4時間)

P1 P2 P3

26 P1

P+「P+[P+1P+

支柱細胞1子壷韻団七甜障#ほ則甜ほ測韻

嗅細胞1原蚕質隠茸 i鈷障剤鈷1鈷1鈷1鈷障古

基底細劇原註自証剤鈷ほ劃丑剤鈷障剤鈷1鈷 基礎劇P刊p刊P+lP+1P+lp+IP+[P+

       P十〜十十       P十F

      P十F       P十十

     原形質

       P十十

      P十F        P十十

         P十十

腺 表層       >        M十       核

      M十

      M十       M十

      M十        M:十

      M十          M十

      P十        P十〜十十      原形質

       P十〜什        P十〜十十        P十〜十十

         P十

      P十〜十÷

      P十〜十十

胞基底    < < < < < <

      核

       M十       M十       M十

      M十       M十       M十        M十          M十

腔lp+又一IP収一

P+又一奄吹{又一【P+又一IP双一IP+又一P+又一

鵜内月面旨旨‡ほ‡ほ‡障‡1詳障‡障‡障‡

篁胞タ花原覆馴丑到丑‡障劃丑‡障‡障‡隔‡ほ‡

管 腔IP+又一

十束織 経管 合 神

血一結

備 考

十十±

PPP

P十又一十十±

PPP

P三又一十十±

PPP

ip+又一lp叔一lp収一lp+又一lp収一

十十±

PPP

十十±

PPP

十十±

PPP

十十±

PPP

十十±

PPP

嗅腺軽度 膨大

号(2 日)

P・lP・

28 号 (2 日)

P1

P・ip・

24 号 (6 日)

P1 P2 P3

25 号 (6 日)

P1 P2 P3

P+ip+lp+1P+lp+i・ ・1P+1■p+IP+

上訴#i甜1韻1錯ほ#1諸1甜障#1韻i海 溝1鈷ほ劃歳霜鈷1丑劃鈷i鈷1鈷1犬引鈷

丑剤丑剤鈷1丑剤丑剤二瀬鈷1丑諸士劃丑剤鈷

P+「P+lp+

P十〜十十

 >

M十 P十

P十〜十十

 >

M十 P十

P十〜十十

M十P十

P+lp+lp+}P+1P刊p+1P+1P+

P十〜ザ M十

P十

P十〜十十

M十P十 M十

    M十        M十        M十        :M十

P+〜‡

 >

M十 P十 M十

P十〜十十

 >

M十 P十

P十〜十十

 >

M十 P十

P十〜十十

 》

M十 P十

P十〜十十

 >

M十 P十

P十〜十十

 》

M十 P十        M十        M十

       M十     M十

M十

P+又一yP双一IP収一IP+又一[P子又一ip+又一ip+又一「P+又一P紋一lp+又一1P+又一

丑‡障‡1丑‡障‡1丑‡1丑‡障‡1丑‡1丑‡ほ‡障‡

丑‡障‡1丑‡障‡ほ‡障‡障‡1丑‡ 丑‡1丑‡1丑‡

・+又一撃吹{又一[P収一lp+又一ip+又一P+又一lp+又一ip+又一1P+又一ip+又一lp+又一

十十±

PPP

同 左

十十±

PPP

同左

十十±

PPP

嗅腺軽度 膨大

十十±

PPP

との腺帯と嗅大核帯膨円堕在度楕円混輕 十十±

PPP

同左

十十士

PPP

楕円核帯 排列不整

子十±

PPP

細紐著し い膨大

十十±

PPP

同 左

十十±

PPP

排嗅膨帯 い核整し円不著出戸腺大 十十士

PPP

同 左

十十士

PPP

同 左

(14)

ないところもある.25号〔P1〕〔P2〕〔P3〕および24号

〔P1〕では楕円一帯が排列不整で,嗅細胞核を混在し ている.しかし嗅細胞の核の形態萎縮等は両例とも認 められない.腺細胞は著しい膨大を示し,とくに25号 および24号〔P2〕〔P3〕において著明で,結合織はそ のためにほとんど認め難い状態になっている.両例と も腺腔に面する原形質は他の場所に比しわずかに濃染 するが,その程度は正常のものに比べ甚だ弱くなって いる.25号〔P2〕では腺細胞膨大の結果,基礎膜を押 しあげ,一見すると腺が上皮内への侵入を疑わせるよ

うな部分がある.核の形態萎縮し,クロマチン濃縮を 起しているものがある.血管,嗅神経束,結合織は嗅 刺戟の影響をうけなかった.

総括および考按

 過度の嗅刺戟を与え嗅粘膜の変化をみた研究は,主 として1916年から1927年の間に行なわれておるが,ま ず中村26)27)が金線蛙を使用しての実験があげられる.

ベルガモット油を18日間間断なく作用させた例では,

軽度の場合では嗅表皮深層においてオスミウムにより 黒秘する多数の粉末頼粒を認め,高度の場合では嗅細 胞および支柱細胞の変性,萎縮,崩壊等を認めてお る.また樟脳を18日間嗅がせた蛙においても嗅表皮深 層における嗅細胞原形質に小さい不正形黒色頼粒をみ ておる.そして以上の変化は嗅表皮だけに限り,呼吸 表皮は侵されないところがら明らかに過度の刺戟によ る退行性変化であるとしておる.服部28)29)も金線蛙を 使用し,嗅素としてはベルガモット,入工鵬香,クレ オソートを用い,オスミウム酸固定のもので,嗅細胞 原形質は黒色穎粒状物質に変性して雨間に散在し,核 は萎縮変形し,その染色は不染ないし濃染無構造とな り,核内のクロマチン質を認めておらない.また嗅上 皮の変化を示したものでは,Bowman氏腺に膨大あ るいは萎縮,排列の不整および染色不良,核の変性お よび変位をみておる.ゆえに嗅刺戟により腺細胞は機 能充進の状態を示し,とくにその刺戟強大な場合には その退行変性を起すものであろうとしておる.りいで 服部は,ボルネオール,ゲラニオール,ワレリアン 酸,ヘリオトロビン,ピリジン,カプロン酸,スカト ールについても同様実験を行ない,ほぼ同様の所見を 得ておる.

 わたくしの実験例では,ピリジンの嗅刺戟を2時 闘,4時間加えた例では,McManus氏法ではBow・

卑an氏腺の分泌機能の軽度増大の傾向と染色の多様 性とを示すようである.比較的長期間刺戟にさらされ た26号,28号,24号,25号では著しい染色性の減退な

いし欠如を示し,なかには分泌能力の皆無に等しいこ とを示唆すると考えられるものを含んでいるものも認 められる.

 ビニロン・メチール緑法によるリボ核酸およびデス オキシリボ核酸染色では,2時間刺戟,4時間刺戟と もに腺細胞のピロニン好性やや増加しているかと思わ れるが必ずしも著明ではない.6日刺戟の24号および 25号では,形態学的に腺細胞は著しい膨大をしめして おるが,本法によってもまたピロニン好性の弱くなっ ておるのを認める.

 すなわち,McManus弘法,ピロニン・メチール緑 法ともに2時間刺戟,4時間刺戟のものにおいて,機 能の増大は必ずしも著明には証明されなかったが,2 日刺戟,6日刺戟のものでは明らかに組織化学的に機 能の低下がみられる.試みた2つの方法は,いずれも 細胞の物質代謝を表現するものではあるが,いまこの 2つの染色を比較すると,PAS法の方が敏感にあら われたように思う

 以上の所見は,Bowman臨画細胞に関する限り,

服部の「嗅刺戟により腺細胞は機能油漉の状態を示 し,とくにその刺戟強大な場合にはその退行性変化を 起す」という説に符合する組織化学的所見ということ ができるのではないかと考える.

 ピリジンの嗅刺戟を与えた家兎嗅粘膜にMcManus 詠出およびピロニン・メチール緑染色を行ない,Bow・

man氏腺においては2時間刺戟,4時間刺戟のもの では機能充進の傾向を,2日刺戟,6日刺戟のもので は著明な機能低下の所見を得た.

 終に臨み御懇篤なる御指導と御校閲の労をとられた恩師松田龍 一教授に心から感謝の意を表します・なお実験に際し有益なる助 言をいただいた病理学教室高柳勇:立,泉彪之子飼博士に感謝いた  します.

参 考 文 献

1) Taylor, M.: 1,aryng. Oto1.,72,365(1958).

2)沢田定介:解剖誌,14,356(1939).  3)

河野敏之:過払医大誌,2B,1953(1928).

4)沢田定心:阪医会誌,40,499(1941).

5)副島 昇: 日耳鼻会報,48,1241(1942)・

6)McManus, J。 F. A.:Stain TechnoL 23,

99 (1948).         7) 】Vlc!晒anuS, J. F. A. 3 Nature, 158, 202 (1946).    8) H:otchkiss,

K.]).= Arch. Biochem.,16,131(1948).

9)Glick:, D.3

        Techniques of histo−and cyto.

chemistfy, Interscie龍ce PubL 1949・市川収:細胞

参照

関連したドキュメント

地域の中小企業のニーズに適合した研究が行われていな い,などであった。これに対し学内パネラーから, 「地元

究機関で関係者の予想を遙かに上回るスピー ドで各大学で評価が行われ,それなりの成果

厳密にいえば博物館法に定められた博物館ですらな

シークエンシング技術の飛躍的な進歩により、全ゲノムシークエンスを決定す る研究が盛んに行われるようになったが、その研究から

 中国では漢方の流布とは別に,古くから各地域でそれぞれ固有の生薬を開発し利用してきた.なかでも現在の四川

実際, クラス C の多様体については, ここでは 詳細には述べないが, 代数 reduction をはじめ類似のいくつかの方法を 組み合わせてその構造を組織的に研究することができる

このような情念の側面を取り扱わないことには それなりの理由がある。しかし、リードもまた

本検討で距離 900m を取った位置関係は下図のようになり、2点を結ぶ両矢印線に垂直な破線の波面