博 士 ( 工 学 ) 奥 崎 秀 典
学 位 論 文 題 名
Cooperative Binding of Surfactant Molecules in the Charged Poly ̄ mer Network and Its Application to Chemomechanical System ( 界 面 活 性 剤 分 子 の 高 分 子 電 解 質 ゲ ル に 対 す る
協 同 的 結 合 と ケ モ メ カ ニ カ ル シ ス テ ム の 応 用 ) 学 位 論 文 内 容 の 要 旨
生体組 織の多くは 、種々の生 体高分子が 集合し高次構造化したゲルから形成され、
それぞ れが感覚、 情報伝達・ 処理、運動 などの機能を分担している。生物のもっダイ ナミッ クな動きに 着目すると 、筋収縮は アクチンとミオシンのスライディングにより 数kg/cm゜の応カを発生させるとともに、60%以上の高いエネルギー変換効率を有する。
これは 、化学エネ ルギーが途 中で熱のよ うな損失の多い他のエネルギー形態を経るこ となしに直接、機械仕事に変えられているからである。
このよ うな生体筋 のもつ優れ た機能を合 成高分子で実現する試みはケモメカニカル システムをおいてほかに無く、アクティブな軟体機械、マイクロマシーン(分子機械)、
あ るい は 人工 筋 肉モ デ ル とし てさまざま なアクチュ エータヘの 応用が考え られる。
筆者は 、従来アモ ルファスだ ったゲルに 構造規則性を付与することにより、応答速 度や仕 事効率が向 上するのではないかと考え、実際にアニオン性高分子電解質ゲルが1 x io.3M濃 度以上のカ チオン性界面活性剤溶液中で速やかに分子集合体を形成し、元の 体積の1/10に収縮する現象を見いだレた。ゲルはスルホン酸基をもっポリ(2ーアクリル アミド ー2ー メチルプロ パン酸)(PAMPS)ゲル を、界面活 性剤は鎖長 の異なるNーア ル キ ル ピ リ ジ ニ ウ ム ク 口 ラ イ ド(CnPyCl,n=4,8,10,12,16,18)を 用 い た 。 ゲル― 界面活性剤 分子集合反応は1)ゲル中のスルホン酸基と界面活性剤分子の謹電 相互任 用および2)界面活性剤分子間の疎丞相互佳用に基づく協同現象であることを明 ら かに し 、そ の 機構 を 熱 力学 および動力 学的に解析 した。得ら れた実験結 果より、
C18PyCl{j C4PyCl0こ比べて2万倍以上大きな安定度定数(K)を示し、分子集合反応に おいて 疎水相互作 用が重要な 役割を果た していることがわかった。一方、界面活性剤
分 子 の ゲ ル 中 へ の 拡 散 定 数(D) はClOPyClで 最 大 と な っ た 。 ゲ ル の 収 縮 速 度(R) は R=283(K)…(D冫l. (ans.l)の式によって表され、界面活性剤のゲル中への拡散が熱力学的 安 定 度 よ り も 約3倍 の重 みで ゲル 収縮 ´に 寄与 して いる ことが 明ら かに なっ た。 また 、硫 酸 ナ 卜 リ ウ ム(3x10‑2M) を 加 え る こ と に よ り 、C12PyCIのPAMPSゲ ル に 対 す る 結 合 の 協 同 性 が 約100倍 増 加 す る こ と が 明 ら か に な っ た 。こ れ は 、 塩 が 界 面 活 性 剤 問お よび 高 分 子 鎖 上 の 電 荷 反 発 を緩 和 し 、 ミ セ ル 状 分 子 集 合体 を安定 化す るた めと 考え られ る。
広 角 お よ び 小 角X線 回 折 法 に よ る ゲ ル ー 界 面 活 性 剤 分子 集 合 体 の 構 造 解 析 か ら 、 界 面 活 性 剤 溶 液 中 で 収 縮 レた ゲ ル は 小 角 領 域 に3本 の 鋭い 回 折 ピ ー ク を 示 し 、 こ れが 乾燥 状 態 の 回 折 パ タ ー ン と 異 な る こ と か ら 、 構 造 が ゲ ル 状 態に 特 有 な こ と が わ か っ た 。 種 々 の ア ル キ ル 鎖 長 の 界 面 活 性 剤 に つ い て 分 子 集 合 体 構 造を 検 討 し た 結 果 、 鎖 長 がC8以 下 の 界 面 活 性 剤 を 吸 着 し た ゲ ル は ア モ ル フ ァ ス だ っ た の に 対 し 、C10以 上 で 初 め て ゲ ル 中 に 高 次 構 造 を 形 成 する こ と が わ か っ た 。 ま た 、 分 子 集 合 体 構 造1ま ミ セ ル 状凝 集体 が 高 次 に 集 合 し た 単 純 立方 晶 で あ り 、C12PyCIで1ま格 子定数a=76.2Aとな るこ とが 明ら かになった。
こ れ ら の 知 見 を 基 礎 に 筆 者 は 、 ゲ ル ― 界 面 活 性 剤 分 子集 合 反 応 を 電 気 的 に 制 御 す る こ と で 、 応 答 性 に 優 れ た ケ モ メ カ ニ カ ル ア ク チ ュ エ ー タが 作 成 可 能 と 考 え た 。 種 々 の ア ル キ ル 鎖 の 界 面 活 性 剤 溶 液(CnPyCI:1x10‑。M十NazS04:3xio‑2NJ)中 に シ ー ト 状PAMP Sゲ ル く5x 20xlmm)を ぷ ら 下 げ そ の 両 側 か ら10Vの 直 流 電 圧 を 印 加 し た と こ ろ 、 ゲ ル が 速 や か に 屈 曲 す る こ と が わ か っ た 。 ま た 、 印 加 電 圧 の方 向 を 反 転 さ せ る こ と で ゲ ル は 振 子 運 動 を 始 め 、3000回 以 上 一 定 に 繰 返 し 応 答 する ことが 明ら かに なっ た。 ここ で、
ゲ ル 変 形 の ド ラ イ ビ ン グ フ ォ ー ス は 、 界 面 活 性 剤 分 子 とゲ ル が 分 子 集 合 体 を 形 成 す る と き の 自 由 エ ネ ル ギ ー 変 化 で あ り 、 電 気 刺 激 は 界 面 活 性剤 分 子 の 移 動 方 向 と 分 子 集 合 反 応 の 平 衝 の 両 方 を 制 御 し て お り 、 動 電 現 象 で 説 明 で き る こ と が わ か っ た 。 種 々 の ア ル キ ル 鎖 長 の界 面 活 性 剤 に つ い て そ の 応 答 挙 動 を 検 討 し た 結 果 、 鎖長 が8以 下 で ゲ ル は 電 場 に 応 答 し な い が 、10以 上 で 大 き く ア ノ ード 側 に 屈 曲 す る こ と が 明 ら か に な っ た 。 こ れ は 、 ゲ ル に 対 す る 界 面 活 性 剤 分 子 の 協 同的 結 合 に よ る も の で 、 こ の 濃 度(CnPyCl:1X10‑2M十Na2SO:3X10,2M)でC8PyClはゲ ル中 のス ルホ ン酸 基に 対して約20ゲ。
し か 結 合 し な い の に 対 し 、ClOPyCIは80ー90%結 合 し て ゲル を 効 率 的 に 収 縮 ・ 変 形 さ せ る た め で あ る こ と が わ か っ た 。 さ ら に 、 熱 力 学 的 解 析 からC8PyCIは エ ン 卜 ロ ピ ー 、 エ ン タ ル ピ ― と も に 負 の 値を 示 す こ と か ら 主 に 静 電 相互 作用で ゲル に結 合す るの に対 し、
ClOPyCI
は大きな正のエント口ピ一変化を示すことから、明らかに疎水性相互作用が発 現レていることがわかった。さらに筆者は、生物様動きを有するゲルアクチュエータの構築についても試みた。
実際、シート状PAMPSゲル(5x20xlmm)の両端にフックを付け非対称な刻を入れたレー ルに吊り下げ、界面活性荊溶液(C12PyCl:1X10.zM十Na2SO*:3X10"M)に浸漬させる。上 下に設置された炭素電極から
10V
の直流電場を印加するとゲルは直ちにアノード側 に屈曲し、電場の方向を反転させることでゲルは屈曲・伸長を交互に繰り返し、約25cn
ぬ 曲 の 速 度 で 一 方 向 に 歩 い て 移 動 す る こ と が 明 か に な っ た 。学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
Cooperative Bindin.gof Surfactant Molecules in the Charged Poly‑
mer Network and Its Application to Chemomechanical System ( 界 面 活 性 剤 分 子 の 高 分 子 電 解 質 ゲ ル に 対 す る
協 同 的 結 合 と ケ モ メ カ ニ カ ル シ ス テ ム の 応 用 )
生物のもつ、しなやかで迅速かつ高効率な動きを合成高分子ゲルで実現できれば、
ソ フ卜型アクチュエータの開発が可能である。生物から 動き のエッセンスだけを と りだし、高分子物質を利用して化学エネルギーを直接力学エネルギ―に変換する系 は ケモメカニカルシステム とよばれ、アクティブな軟体機械、マイクロマシーン
(分子機械)、あるいは人工筋肉モデルとしてさまざまなアクチュエータヘの応用が考 え ら れ る 。 こ の 他 、 ド ラ ッグ デ リ バ リ ー シ ステ ム(DDS) やケミ カル バル ブな どへ の応用は、バイオマテリアル分野からも注目されている。
本 研究 は、1) 生物 様動き をもっケモメカニカルシステム(バイオミメティック ゲ ル) の設 計・ 構築、2)高 分子 ゲル一 界面 活性 剤分 子集合 反応 の熱力学および動力 学 的解 析、3) 分子 集合 反応に おけ る橋 かけ の意味 、4)高 分子 ゲル中における高次 構 造形成と、いずれもこれまで未開拓であった分野に関する研究である。本論文の中 で以下の事実が新たに明かになった。
1) 高 分 子 ゲ ルー 界面 活性剤 間の 協同 的分子 集合 反応 に基 づく、 生物 模倣 型ケ モメ カ ニカルシステム(バイオミメティックゲル)を設計・構築し、電気刺激によるゲル の 変形応答特性を実験的に系統的に評価した。実際、尺取り虫のような動きを示すゲ ルデバイスを作成し、ケモメカニカル挙動を画像解析装置を用いて定量的に解析した。
2) ゲ ル ― 界 面活 性剤 相互作 用を 熱力 学的・ 動力 学的 に解 析でき るこ とを 示し 、コ 仁彦
郎 一 義晧 紳 田岸 村 長山 西 授授 授 教教 教 査査 査 主副 副
ンプレックスの生成が主とレて静電相互作用に基づく「開始過程」と界面活性荊分子 の疎水性相互作用に基づく「成長過程」からなることを明らかにした。実験結果から、
界 面 活 性 剤 の ア ルキ ル 鎖 長 がC4か らC18にな ると2万 倍以 上大 きな 安定度 定数 を示 し、分子集合反応において疎水相互作用が非常に重要な役割を果たしていることがわ かった。また、塩を加えることにより開始過程の安定度定数が約1000分の1に減少し、
逆に協同性が約100倍増加することが明かになった。
3)対 応 す るポ リマ ー溶液 では 塩が 存在 しない とき でも ゲルに 比ぺ て100倍 以上 高い 協同性を示すことを実験的に示し、コンプレックス生成における橋かけの意味を初め て明らかにした。その結果、ゲルは溶液と本質的に異なる普遍的な存在状態であるこ とがわかった。
4)分 子 集 合 体 のX線構 造 解 析 か ら コ ン プ レ ッ クス が 含 水 状 態 で 結 晶 構 造 をと るこ と初めて明らかにし、構造形成過程における高分子網目および界面活性剤分子の疎水 性の効果を系統的に明らかにした。
本論文は、生物様動きを有するケモメカニカルシステムの設計・構築をはじめ、
高分子電解質ゲルと界面活性剤分子の協同的結合における静電相互作用、疎水性相互 作用および橋かけの効果を初めて系統的に明らかにし、さらに高分子網目中に形成さ れた分子集合体の構造解析を行ったもので、得られた実験結果|ま極めて重要な意味を 持 っ と と も に 、 今 後 の 研 究 に 指 針 を 与 え る も の と し て 高 く 評 価 さ れ る 。 審査員一同は、申請者が博士(理学)の学位を得る充分な資格を持っと認めた。