博 士 ( 工 学 ) 家 合 克 典
学 位 論 文 題 名
カ ル マ ン フ ィ ル 夕 型 三 次 元 PIV の 開 発 と 応 用
学 位 論文 内 容 の 要旨
近年,工学で取り扱う流れは急速に複雑化の度合いを強め,それとともに流れの把握に 必要な情報量も大幅に増加しつっある.特に,三次元的な流れの構造やその時間的推移に 関する情報は重要性が高く,現在このような情報を精度良く抽出できる計測手法として三 次元PIV (Three―Dimensional Particle−Imaging Velocimetry)が注目されている.三次 元PIVは,トレーサ懸濁法による流れの可視化,デジタル画像処理,多視点ステレオ計 測を組み合わせた新しい計測手法であり,次のような際だった計測上の利点を持っている
:(1)三次元速度ペクトルの瞬時広域計測が可能,(2)非接触型の計測法であるため流れ に撹乱を与えない,(3)個々のトレーサ粒子のラグランジュ的な履歴が得られる,(4)座 標の校正は必要であるが,速度の校正を必要としない.
これらの三次元PIVの特徴は,従来の流れ計測法では不可能あるいは困難であった様 々な流れ解析を可能にするものである,しかし,三次元PIVは計測手法としてまだ完全 に確立されているわけではなく,解決が急がれる深刻な問題も少なくない.中でも次の問 題は重要である:(1)速度計測の精度がトレ―サ粒子座標の計測誤差(カメラの配置に強 く依存する)に大きく影響されること,(2)空間粒子密度を高めると多数のゴースト(ス テレオ計測の誤りで発生する架空の粒子)が現れるため,空間解像度の向上が困難である こと,(3)ダイナミックレンジが狭い,すなわち測定空間に大きな速度勾配があると粒子 追跡の誤りが増加すること,(4)局所的に急激な流れ方向の変化や加減速がある場合,粒 子追跡の誤りが頻繁に発生すること.以上のような問題は,三次元PIVの適用範囲を大 幅に制限するものである.したがって,三次元PIVを計測手法として確立し,これを様 々 な流 れ 解析 に 応 用す る た めに は ,こ れ ら の問 題 点の解決 が必須の 課題とな る.
本研究では,これらの問題に対する具体的な解決の指針を与えることを第一の目的とし て,カルマンフアルタを応用した独特の速度計測・粒子追跡アルゴリズムを持つカルマン フィル夕型三次元PIVの開発を行った,本方法の特徴は次の通りである:[1]カルマン フアルタによる状態推定法に基づき,ノイズを含む粒子座標などの測定値から粒子の座標,
速度,加速度が推定される,[2]カルマンフアルタの時間更新・観測更新アルゴリズムを 利用した予測型の粒子追跡を行う,[3]粒子座標以外の情報を状態推定と粒子追跡に反映 す る こ と が で き , こ れ に よ り 計 測 精 度 と 追 跡 性 能 が さ ら に 向 上 す る , 以上のようなカルマンフィル夕型三次元PIVの特徴を利用することによって,上述し た四つの問題点を大幅に改善できることを,数値シミュレーションに基づく定量的な性能 評価を行って確認した.以下に得られた主要な成果をそれぞれの特徴ごとに列挙する:「11 ノイズの影響が無視できない状況においても高精度の速度計測が可能である,[2]ノイズ の影響が小さい高精度の予測が行えるため,従来の予測型粒子追跡手法に比べて高い性能 が得られる.また,粒子追跡に考慮する時刻数を増すことで追跡精度がさらに向上し,ゴ
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ー スト 除去 率も 高め ら れる.[3]空 間的な速度の変化や局所的に作用する加速度に関する 情 報を 考慮 した 粒子 追 跡が 可能 であ る. っま り, 空間的な速度差の大きい流れや局所的に 方 向 ・ 速 度 が 急 変 す る 流 れ に 対 し て も 高 い 追 跡 性 能 を 維 持 で き る , さ ら に 本 研 究 で は , カ ル マ ン フ ア ル 夕 型 三 次元PIVの有 効性 を 実際 の流 れ計 測を 通し て 検証 する こと を第 二 の目 的と して ,三 視点 ステ レオ計測を行う計測システムを構築し,
二 次元 円柱 後流 を対 象 とす る三 次元 計測 を行 った .ただし,本研究においては円柱後流の 速 度場 の計 測に とど ま らず ,本 方法 が粒 子追 跡に 基づく測定手法であることを利用して,
ラ グラ ンジ ュ的 な解 析 手法 によ り円 柱後 流に おけ る粒子拡散の特徴を調べた.時空間的に 大 規模 な速 度変 動を と もな う物 体後 流の 拡散 問題 に対しては,長時間粒子追跡が困難なこ と か ら , こ の よ う な 三 次 元PIVに よ る 解 析 が 適用 され た例 がな い ,本 研究 では この 解析 手 法に 基づ いて ,主 流 に垂 直な 方向 への 粒子 の変 位が,過去に通過した領域によってどの ように異ナ ょるかを詳細に調べた,これにより得られた主要な知見を以下に示すが,特に[2] は 本解 析手 法に よっ て 初めて明らかにされたものである:[1]後流内部の粒子は平均的に 見ると後流 中心軸に向かって平面的に移動する.[2]後流中心軸に近し、領域を通過した粒 子 ほど 変位 畳の 分散 が 大きく,その円柱半径方向の変化はガウス 曲線で近似できる.[3] 後 流 内 部 に お け る 粒 子 変 位 量 の 分 散 が 下 流 方 向 に 直 線 的 に 増 加 す る . 本 論 文 は 第1章 か ら 第7章 ま で の 全7章 で 構 成 さ れ て い る . 第1章 で は 従 来 の 三 次 元P IVの 適 用 例 を 紹 介 す る と と も に , 三 次 元PIV特 有 の 利 点 と 問 題 点 , そ し て 本 研 究 の 目 的などにっ いて述べている.
第2章 で は , カ ル マ ン フ ィ ル タ の 概 要 を 述 ベ , こ れ を 三 次 元PIVの 速 度 計測 ・粒 子追 跡 アル ゴリ ズム 導入 す るた めの 具体 的な 方法 を示 している,ここでは,粒子座標のみを用 い て追 跡を 行う 「座 標 観測 型カ ルマ ンフ アル タに よる粒子追跡法」を開発し,従来型の粒 子追跡法と の性能比較を行って本方法の優位性を示した,
第3章 では ,「 座標 観測 型カ ルマ ンフ アル タに よ る粒 子追 跡法 」の ゴー スト除去能カを 調 べて いる .そ して , 多時 刻間 で状 態推 定を 行い ながら最適な軌跡を探索することでゴー ス ト 除 去 率 が 向 上 し , 高 空 間 解 像 度 の 三 次 元 計 測 が 可 能 に な る こ と を 示 し た , 第4章 では ,速 度計 測の ダイ ナミ ック レン ジ向 上 を目 的と して ,粒 子座 標だけでなく速 度情報も考 慮できる「座標・速度観測型カルマンフィルタによる粒 子追跡法」を開発した,
こ こで は画 像上 の粒 子 の軌 跡か ら速 度情 報を 抽出 する場合にっいて検討し,粒子速度の大 きさ(方向 は不要)を速度情報として与えればよいこと,本方法を 用いることでダイナミッ クレンジの 向上が可能であることを示した.
第5章 では ,「 加速 度対 応型 カル マン フア ルタ に よる 粒子 追跡 法」 の開 発を行うととも に,局所的 に大きな加速度が作用し,急激な流れ方向の変化や加減 速が生じる場合におし、
て も本 方法 が高 い追 跡 性能 を維 持で きる こと を示 した.本方法は二段階の粒子追跡プロセ ス から 成っ てお り, 第 一段 階で 空間 的に 変化 する 速度・加速度に関する統計量を求め,第 二段階でこ れらの情報を考慮した粒子追跡が行われる,
第6章 では ,カ ルマ ンフ アル タ型 三次 元PIVを用 いて円柱後流の速度場を測定し,゛既存 の 測定 結果 との 比較 を 行っ て本 方法 の速 度計 測手 法としての妥当性を示した,さらに,個 々 のト レー サ粒 子を 追 跡す るラ グラ ンジ ュ的 な解 析手法によって円柱後流における粒子拡 散 の 特 徴 を 調 べ , カ ル マ ン フ ア ル 夕 型 三 次 元PIVの 有 効 性 を 明 ら か に し た . 第7章 では 結諭 とし て,本研究で得 られた主要な結果についてまとめるとともに,本研究 に関する今 後の課題や展望について述べている,
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学 位 論 文審 査 の 要 旨 主 査 ′ 教 授
副 査 教 授 副 査 教 授 副査 助教授 学 位 論
飯田誠一 福 迫 尚 一 郎 木谷 勝 小河原加久治
文 題 名
カ ル マ ン フ ィ ル 夕 型 三 次 元 PIV の 開 発 と 応 用
三 次元PIVは ,流 れの 三次 元構 造や その 時間 的な 推移 など ,従 来 の計 測手 法で は入 手 困難 であ った 様々な情報を精度良く抽出できる計測手法として期 待されている.現在,三 次元PIVの 実用 化に むけ て, トレ ーサ 座標計測誤差に対する速度 計測精度の強い依存性,
高空 間解 像度 の三次元瞬時広域計測が困難であること,速度計測 のダイナミックレンジの 不足 ,局 所的 な速度ペクトルの急変がある流れに対する計測性能 の低下などの深刻な問題 を解決することが重要な課題になっている.
本 論文 で開 発さ れた 「カ ルマ ンフ ア ルタ 型三 次元PIV」は ,カ ル マン フィ ルタ を応 用 した 独特 の粒 子追跡・速度計測アルゴリズムを有することに最大 の特徴がある.また,本 方法の有効性は数値シミュレーションに基づ く性能試験によって定量的に検討されており,
以下のような結諭を得ている.
(2)カ ルマ ンフ アル タ 型三 次元PIVは, 多時 刻粒 子追跡で考慮する時刻数を増すこと により高空間解像度化が可 能である.
(3)トレーサ粒子の座標とともに速度情報を考慮で きる「座標・速度観測型」の採用に より,速度計測のダイナミ ックレンジが向上できる.
(4)局所的な速度ベクトルの急変がある流れに対し ては,空間的な加速度の変化に対応 で き る 「 加 速 度 対 応 型 」 の 採 用 に よ り , 高 水 準 の 粒 子 追 跡 性 能 が 維 持 で き る . さらに本論文では,円柱 後流を対象とした速度場および拡散場の三次元計測を行 って以 下 の結 諭を 得て おり ,実 験的 にも カル マン フィ ル夕 型 三次 元PIVの 有効 性を 明らかにし ている.
(1)カ ルマ ンフ ィル 夕 型三 次元PIVによ る速 度場 の測定結果を既存の結果と比較する こ と に よ っ て , 本 方 法 の 速 度 計 測 手 法 と し て の 妥 当 性 を 確 認 し た . (2)従来実現が困難であった粒子追跡に基づくラグ ランジュ的な解析手法によって.後 流中心軸に近い領域を通過 した粒子ほど変位量の分散が大きく,その円柱半径方向 の変化 は ガ ウ ス 曲 線 で 近 似 で き る な ど , 新 た な 知 見 を 得 る こ と に 成 功 し た . 以 上 の よ う に , 著 者 は , 新 た に カ ル マ ン フア ルタ 型三 次元PIVを 開発 し, 三次 元PI Vが直 面し てい た大 きな障害に対して 具体的な解決の指針を提示している.さらに,実際 の流れ計測を通じて実験的 にも新手法の有効性を明らかにしている,このことは, 流体計 測のみならず流体工学め進 歩に貢献するところ大である,よって,著者は,北海道 大学博 士(工学)の学位を授与さ れる資格あるものと認める.
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