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博士(農学)久保康明 学位論文題名

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Academic year: 2021

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     博士(農学)久保康明 学位論文題名

皮膚構成細胞の分化と機能に関する研究

一細胞外マトリックスと培養細胞の相互作用一

学位論文内容の要旨

本 研 究 は 、 皮膚 各組 織の 主要 構成細 胞で ある 線維芽 細胞 、脂 肪細 胞およ び角 化 細胞 と 細 胞 外 マ ト リ ッ ク ス (ECM)と の 相 互 作 用 を 培 養 系 を用 い て 組 織 学 的 観点 から 検討し たも ので ある 。

本 研究 で得 られた 主な 成果 は以 下の様 に要 約さ れる 。

  (1)単 層培 養し た線 維芽細 胞の 免疫 染色像 から 、最 も早く細胞外における ネ ット ワー クを形 成す るのはフィブロネクチンであることが明らかとなった。

I型 コ ラ ー ゲ ンの 細胞外 への 分泌 は最 も遅か った が、 最終 的に形 成さ れるECM の 主 体 はIお よびIII型コ ラー ゲンで あっ た。 一方、 最初 に発 達し たフィ ブロ ネ クチ ンの ネット ヮー クは、最終的には退化していた。また、リジンおよびプ 口 リン の水 酸化酵 素の 補酵素であるアスコルビン酸非存在下において、細胞外 の ネッ トヮ ーク形 成が 最も阻害されたのはI型コラーゲンであった。I型コラー ゲ ンは 、ア スコル ビン 酸の添加時には立体的に発達した緻密なネットヮークを 形 成し てい たにも かか わらず、無添加時には非常に粗雑な線維状の網目構造レ か 形成 しな かった 。逆 に、アスコルビン酸の無添加時に細胞外のネットワーク が 発達 した のはラ ミニ ンであった。これらのことから、元来存在していた真皮 のECMか ら 単 離 さ れ た 線 維芽 細 胞 は 脱 分 化 し た状態 にあ り、 潜在 してい たタ ン パク 質の 合成能 を発 現するが、アスコルビン酸の添加は生体内での本来の機 能 であ るI型コ ラー ゲン の産生 を増 大さ せ、単 層培 養時 にも生体内に類似した

(2)

分化状態に線維芽細胞を戻すものと推測された。すなわち、細胞が産生した細 胞外マトリックスは、細胞が生体内において保持していた機能を取り戻す作用 を細胞に及ぼしていると考えられた。

  コラーゲンゲル内で線維芽細胞を培養した場合、明確に細胞外に線維状のネッ トワーグを形成していたのはフアブ口ネクチンのみであった。また、線維芽細 胞がコラーゲンゲルの線維の立体構造を変化させていることが、SEM像によっ て確認された。これらのことから、コラーゲンゲル中における細胞外環境の再 構 築 に は フ ア ブ ロ ネ ク チ ン が 関 与 し て い る こ と が 推 測 さ れ た 。   (2)前駆脂肪細胞から脂肪細胞への分化に伴う細胞外マトリックスと細胞 との相互作用が明らかとなった。免疫染色像から単層培養時に前駆脂肪細胞が 構築する最初の細胞外環境は、フィブロネクチン、ラミニンを骨格として、こ こにIII、IV、VおよびVI型コラーゲンが付随するものであった。分化過程の 初期段階まではフィプロネクチンのネットワーク形成が続き、この骨格にI、 III、V、VI型コラーゲンによるECMの蓄積が進んでいった。一方、当初は細 胞外のネットワーク形成に参加していた基底膜構成成分は分化を開始した細胞 の周囲に移行した。脂肪細胞への分化が進み細胞外マトリックスが安定した状 態では、III型コラーゲンを主体とし、そこにV、VIそしてI型コラーゲンが加 わったECMが細胞 周囲に存在したが、新たな蓄積は行われなかった。フィブ 口ネクチンは コラーゲンを主体としたECMの形成に伴い、その蓄積量が減少 した。基底膜構成成分の局在は分化に伴って球形となった細胞周囲に限定され、

また、III、V、VI型コラーゲンも基底膜の構造を支持するように細胞周囲に 密に存在した。このことから、脂肪細胞の基底膜は、まず細胞外にネットワー ク状に構築されたものが分化の進行に伴って細胞膜の周囲へと移行し、最終的 に 個 々 の 細 胞 を 取 り 囲 む よ う に 形 成 さ れ る こ と が 明 ら か と な っ た 。   一方、未分化の状態で維持した場合、型別コラーゲンの中で特異的に細胞層 に蓄積されていたのはVI型コラーゲンであり、VI型コラーゲンがフィプロネ     ‑ 844―

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クチ ン と並 ん で初 期 の細 胞 外マ ト リッ ク ス の構 築に重要な 役割を担っ ている ことが示唆 された。

  コラーゲン ゲル内での 脂肪細胞が 構築したネ ットワーク で最も発達していた のは フ ィプ ロ ネク チ ンで あ った 。 また 、IIIIV、V、VI型 コラーゲン やラミ ニン も 分泌 し てい た。しかレ 、I型コ ラーゲンの 分泌は行わ ず、コラー ゲンゲ ルの 再 構築 を 含むI型コラ ーゲンとの 相互作用は フィプロネ クチンを介 して行 うものと考 えられた。

単 眉 培 養 で 分 化 誘 導 し た 脂 肪 細 胞 のSEM像 で は 、 成 熟 し た 脂 肪 細 胞 が 細 い 線維により 構成されて いる23層の 薄膜で覆わ れたような 像が観察された。こ の線維は脂肪細胞間を連結する様に走行しており、脂肪細胞の細胞間ネットワー クを形成し ていた。脂 肪細胞の表 面には細い 線維が密集 しており、細胞自身が 構築した基底膜と思われた。

発 生由 来 を同 じ く する 線 維芽 細 胞と 前 駆脂 肪 細胞 は単 層培養時の 初期におい て 自 身 の細 胞 外 環境 の 構築 の ためECM構 成成 分 の 産生 を 行っ て おり 、 その 様 式 は 類 似し て い るこ と が示 さ れた 。 いず れ の場 合 もま ず 、ECM構築 の 最初 に 関与し ていたのは フィブロネ クチンであ り、フアブ 口ネクチン のネットワーク 構築が 、その後のコラーゲンのネットワーク形成の足場となっていた。しかし、

コ ラ ー ゲン を 中 心と し たECMの 構 築が 進 むと そ の 役割 を 終え た フア ブ ロネ ク チンの ネットワー クは減退し ていった。 これは細胞 外マトリッ クスから細胞へ の影響 であり、細 胞と細胞外 マ卜リック スとが双方 向的に影響 しあっているも のと考 えられた。

  (3)単 層 培養 し た角 化 細胞 の 免 疫染 色 像か ら 、単 離 した 角 化細 胞 がIV型 コ ラ ーゲ ン 、VII型コ ラー ゲン、ケラ チンおよび トランスグ ルタミナー ゼを同時 に合成 してること が明らかに なった。こ のことは、 培養系にお いては、生体の 細胞が 分化過程で 段階的に発 現する多く の機能を同 時に発現し ていることを示 してお り、この要 因としては 生体内にお ける細胞外 環境からの 分離が大きく影     845

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響したものと考えられた。  ,

線維芽細胞を含むコラーゲンゲル上で角化細胞を重層化した皮膚モデルから は、生体内での角化細胞の機能を反映している結果が得られた。すなわち、角 化細胞の重層化、核の消失、基底膜の形成、トランスグルタミナーゼの発現に よる細胞分化の実行である。さらに、VII型コラーゲンがごく一部ながら基底 膜部に局在していたことから、この皮.膚モデルが扁平重層上皮の特性を有する ことを確認した。また、線維芽細胞のゲル内培養のみでは観察されなかった抗 ラットI型コラーゲン抗体に対する陽性反応が確認されたことからは、角化細 胞の存在により線維芽細胞がI型コラーゲンの分泌を行うようになった可能 性が示唆された。

以上の結果から、本来、生体内における細胞は機能的に特殊化し分化した状 態にあるが、これを単離、すなわち生体での細胞外環境である細胞外マトリッ クスから隔離すると脱分化した状態になることが明らかとなった。脱分化した 細胞は生体内では見られない潜在的な機能をも発現レ、この脱分化した細胞は 自身の環境の再構築のため細胞外マトリックスを産生、分泌した。一方、細胞 により構築された細胞外マ卜リックスは逆に細胞に働きかけ、本来の生体内で の挙動を取り戻させた。しかし、このことは単層培養時における細胞と細胞外 マ卜リックスとの相互作用であり、コラーゲンゲル内培養では様相が一変した。

コラ―ゲンゲル内では、細胞外マトリックスの産生は抑制ざれ、これは、より 生体に近い環境であるコラーゲンゲル内に置かれた細胞が、本来の分化した状 態に戻ることによるものと思われた。

(5)

学位論文審査の要旨 主 査    教 授    近 藤 敬 治 副 査    教 授    高 橋 興 威 副査   助教授   中村富美男

学 位 論 文 題 名

皮 膚構成細 胞の分 化と機能に関する研究

一 細 胞外 マ トリ ッ ク スと 培 養細 胞 の相 互作用―

  本 論 文 は 図 43, 引 用 文 献80を 含 み ,5章 か ら な る 総 頁 数120の 和 文 論 文 で ある . 別 に, 参 考論 文2編 が 添え ら れて い る .

  動物 皮 の 主成 分 であ る コ ラ― ゲ ン は皮 革 やゼ ラ チ ンヘ の 利用 に と どま らず,

食 品 包装 剤 , 塗料 配 合剤 , 化 粧品 配 合剤 へ と その 用 途 を広 げ てい る . さらに , 近 年 急速 に 進 展し て きた コ ラ ―ゲ ン に関 す る 生理 ・ 生 化学 的 基礎 研 究 の成果 を ふ ま えた 生 体 材料 と して の 利 用が 期 待さ れ て いる . コ ラー ゲ ンを 生 体 に移植 す る と 周辺 組 織 から 細 胞が 進 入 し, 移 植コ ラ ー グン の 吸 収と 生 体に よ る 組織の 再 構 築 が進 行 す る. こ の組 織 再 構築1ま 細 胞と 細胞外 マトリッ クスの相 互作用に 基 づ く もの で あ るが , その 詳 細 は未 だ 不明 な 点 が多 い .

  本研 究 は 皮膚 構 成細 胞 で ある 線 維 芽細 胞 ,脂 肪 細 胞, 角 化細 胞 に よる 細胞外 マ ト リッ ク ス (以 下 マト リ ッ クス と 略記 ) の 構築 を 単 層培 養 およ び コ ラーゲ ン ゲ ル を用 い た3次 元培 養 で追 究 す ると 共 に, 表皮の 重層化を 試みたも のである . 得 ら れた 主 な 成果tま 以 下の よ う にま と めら れ る .

  1. 線 維 芽 細 胞 の 単 層 培 養 に おけ る マ トリ ッ クス の 構 築状 況 を追 究 し ,細 胞 に よ って 最 初 に形 成 され る ネ ット ワ ークtま フィブ ロネクチ ンである が,最終 的 に 形 成さ れ る マト リ ック ス で1Ini型 コラ ー ゲ ンが 主 体を な し ,フ ィ ブロネ ク チ ンは 退 化 する こ とを 観 察 して い る. 一 方,グ ル内培養 でjまフィ ブロネク チ ン の みが 分 泌 されるこ とを観察し ,培養系 において 線維芽細 胞がマト リ`ソク ス を 構 築す る 際 には フ ィプ ロ ネ クチ ン が重 要 な 役割 を 果 たし て いる と し ている . ま た ,リ ジ ン ,プ ロ リン の 水 酸化 酵 素の 補 酵 素で あ る アス コ ルビ ン 酸 無添加 の 培 養 実験 か ら ,ラ ミ ニン に よ るネ ッ トワ ー ク の発 達 を 観察 し てい る . このこ と は 生 体内 で 上 皮系 の 細胞 に よ って 発 現さ れ る 基底 膜 構 成成 分 であ る ラ ミニン 合 成 能 が 線 維 芽 細 胞 に も 潜 在 的 に 存 在 す る こ と を 実 証 し た も の で あ る .

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  2.前駆脂肪細胞から脂肪細胞への分化に伴うマトリックスと細胞との相互 作用を明らかにしている.すなわち,前駆脂肪細胞が構築する最初の細胞外環 境1ま基底膜成分であるフィブロネクチン,ラミニンを骨格として,これに皿,

IV,VおよびVI型コラ―グンが付随したものであること,それらの中基底膜成 分tま分化に伴い細胞周囲に移行し,個々の細胞を取り囲むように基底膜を構成 することを観察している.分化した脂肪細胞のマトリックスはm型コラーゲン を主1幣とし,そこにV,VI,I型コラーゲンが加わったもので構築されること を明らかにしている.一方,未分化の状態で維持した場合,コラ―ゲンの中で 発達の良かったものはVI型であることを見いだし,マトリックスの初期の構築 にはV型コラーゲンがフィブロネクチンと共に重要な役割を担うと考察してい る.

  線維芽細胞,脂肪細胞いずれの場合も,初期のマトリックス構築に関与する ものはフィブロネクチンであり,そのネットワークがその後のコラーゲンによ るネ`yトワーク構築の足場を提供するものと結諭している.また,コラーゲン を中心としたマトリ`yクスの形成に伴うフィブロネクチンネットワーク´の退化 はマトリックスが細胞へ働きかけたものと解され,細胞とマトリックスとの間 には双方向的に影響しあう関係があると考察している.

  3.単層培養した角化細胞;ま生体内とは異なりIV,W型コラマグン,ケラチ ンおよびトランスグルタミナーゼを同時に合成することを明らかにしている.

一方,線維芽細胞を含むコラ―グンゲル上で角化細胞を重層化させた皮膚モデ ルの培養では生体での角化細胞の機能を反映した結果を得ている.すをわち,

基底膜の形成,角化細胞の重層化,トランスグルタミナーゼの発現および核の 消失を確認している.また,線維芽細胞のみのゲル内培養では観察されなかっ た抗ラットI型コラ―ゲン抗体に対する陽性反応を確認し,角化細胞の存在が 線 維 芽 細 胞 にI型 コ ラ ー ゲ ン の 分 泌 を 促 す 可 能 性 を 指 摘 し て い る .

  以上のように,本研究は皮膚の主要構成細胞と細胞外マ卜リックスとの双方 向的な関係を培養系を用いて明らかにしたものであり,コラ―グンを生体材科 として利用する上での貴重な知見を与えるものとして学術上高く評価される.

  よって審査員一同は最終試験の結果と合わせ本論文の提出者久保康明.は博 士 ( 農 学 ) の 学 位 を 受 け る の に 十 分 な 資 格 あ る も の と 認 定 し た .

参照

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