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博 士 ( 法 学 ) 伊 藤 博 路

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Academic year: 2021

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博 士 ( 法 学 ) 伊 藤 博 路

学 位 論 文 題 名

「 伝聞 法則 の 比較 法的 研究」

学 位 論 文 内 容 の 要 旨

1.  伝聞 法則(Hearsay rule)は 、刑事 訴訟法の 重大論点 のーっ である。 この原 則は、

新刑訴法により初めて採用されたが、現在の通説は、伝聞法則は法律上の原則であるのみ ならず、憲法上の要請であると解する。

  しかし、刑訴法が、当事者主義的訴訟構造を背景にもつ伝聞法則を採用したと解すると、

理論上、両当事者の反対尋問権を考慮しなければならない。法律上は検察官も反対尋問権 をもっと考えぬければならないからである。これは、伝聞法則の意義が、事実認定の正確 性の担保にあることと関係がある。すなわち、正確な事実認定という目的のためには、有 罪・無罪のいずれの性質をもつ証拠にっいても伝聞法則は等しく適用されるからである。

  この考えを突きっめていくと、法律上は検察官側と被告人側の反対尋問権は等価値のも のであることから、検察官の反対尋問権も憲法上の反対尋問権と等価値ないしそれに限り なく近いものと考えられる可能性がある。しかし、憲法は、被告人の反対尋問権だけを保 障しているのである。伝聞法則が憲法上の要請であるとする通説は、被告人の人権保障を 高める点で高く評価できる。しかしながら、検察官の反対尋問権をどのように考えるのか にっいて答えることができないのである。そして、この問題に答えるためには、憲法の保 障する被告人の反対尋問権と、法律上認められる検察官の反対尋問権との関係を明らかに することが必要である。その結果、両者が等価値のものであることが明らかとなれぱ問題 はない。しかし、そうではなく、両者の間に「ずれ」があるとするならば、両者の性質の 相違およびそれから生じる論理的帰結を明確にする必要がある。

  本稿は、以上述ぺてきたような問題意識から、アメリカ法との比較法的な考察を行い、

両当事者のニつの側面から伝聞法則の意義と機能を明らかにすることを目指すものである。

2.  本稿 は、上記 のような 問題意 識を出発 点とする。その直接の対象は、憲法の保障す る被告人の証人審問権およぴ法律上の原則である伝聞法則であるが、そこでの議論の深化 を通して伝聞法則の基礎理論の再構築を目指す。そして、比較法研究の対象は、わが国の 伝聞法則の母法国アメリカである。

  アメリカを対象として取り上げたのは、@伝聞法則は、自白法則とともに、現行刑訴法 で初めて規定されたものであり、アメリカ法の影響を受けて立案されたものであること。

@日本 国憲法37条2項 前段は 、被告人 の証人審 問権を 保障する 。同項 は、実質的に被告 人の反対尋問権を保障したものであり、っまり、反対尋問権の保障が問題となる証拠すべ

(2)

てに同項の適用が理論 上問題とぬることから、伝聞法則は、被告人にっいては憲法上の要 請でもあるといえる。 そして、この規定は、被告人の証人対質権を保障する合衆国憲法修 正6条2項を 下敷 きと する と一 般に 解さ れて きていること、がその主たる理由である。

3.  本稿 は、母 法であるアメリカ法との比較法的考察により、わが国の 伝聞法則の再構 築 を 目 的 と す る 。 そ れ は 具 体 的 に は 、 次 の よ う な 流 れ に 即 し て な さ れ る 。   第1章で、アメリカに おける伝聞法則の基礎概念を概観した後、アメリカの伝聞法則の 意義と機能にっいて考える。従来から、伝聞法則の主たる根拠は、反対尋問を経ないこと にあるとされたが、特に刑事事件においては、政策的な観点からの考慮も必要であり、本 章 で は 、 こ の よ う な 観 点 か ら 伝 聞 法 則 を 捉 え 直 す 必 要 が あ る こ と を 導 く 。   第2章では、伝聞法則 と証人対質権に関する米連邦最高裁の判例理論を概観する。これ により、アメリカでは、伝聞法則と証人対質権とは反対尋問権を主要な要素とする点では 共通するが、両者は理論上別個のものと考えられていることが示され、その相違点を明ら かにする手がかりが得られる。

  こ れに 答える ために、第3章では、わが国 の証人審問権と類似の合衆国憲法修正6条の 規定する証人対質権条項の沿革にっいて触れたうえで、同条項をめぐる論議を分析した後、

検察側提出の伝聞証拠は、適正手続の要請から伝聞例外規定に該当するか否かの判断を必 要としないで証拠排除される場合があることを示す 。

  こ のよ うな視 点から、第1章ないし第3章では、判例およぴ学説にっい て、で書るだけ 客観的に概観するように試みた。なお、適正手続の要請を根拠に伝聞証拠を証拠から排除 する理論構成は、比較的最近になってぬされてきたものであるために、現在も発展段階に あり、明確でない部分も残されている。そこで、これにっいては私見により検討を加え、

同理論が、わが国の証人審間権の法理にも解釈論として整合性を有することを論証する。

  そして、第4章では、 わが国の伝聞法則の検討を行う前提として、まず、新刑事訴訟法 およ び憲 法37条2項 の制 定過 程を 分析 する。ここから、憲法と伝聞法則 との関係の手が かり、さらには新刑訴法が採用した伝聞法則と大陸型直接主義との関係を論証するための 基礎を得る。すなわち、直接主義の実現ということが、立法過程の懸案であったことは事 実であるが、現行法の規定は憲法の証人審問権の規定を契機として生まれたこと、現行刑 訴法 が大 幅に 当事 者主 義を 採用 した こと から 、 刑訴 法320条1項は伝聞 法則を採用した ものと解すべきであることを導く。っづいて、次章で検討を加えるために、伝聞法則につ いて争われた、主要な判例を取り上げる。

  最後に、第5章で、今 日支配的ぬ諸説およぴ前章で取り上げた判例を批判的に検討した うえで、自説を提示する。

  そこでは、憲法による伝聞法則の再構築の帰結として、っぎのようぬ理論的枠組みを示 す。すなわち、検察側提出証拠に対しては、証人審問権による適正手続の保障の要請から 伝聞証拠排除の徹底化を、被告人にっいては、憲法による「伝聞法則の適用範囲の片面的 構成」をなす。検察官は法律上の反対尋問権をもっにすぎないのであるから、無罪方向の 証拠には、事実認定の正確性を確保する程度の「必要性」と「特信性」が認められれば、

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伝聞でも証拠能カが認められる。これは、有罪方向の証拠の場合に担保されるべき憲法上 の反対尋問権が問題とならない からである。

  さらに、無罪方向の証拠の場合には、憲法の合憲限定解釈により、被告人は、立証趣旨 を縮減した上で、「物」として伝聞を証拠提出することができる。これは、「調書裁判」

といわれる現在の実務の状況を踏まえたうえで、被告人の人権保障を全うするための伝聞 法則の再構成の理論である。

(4)

学位論文審査の要旨

学 位 論 文 題 名

「伝聞法則の比較法的研究」

  

伝聞 法則は、 アメリカ法 の強い影 響下で進 められた 戦後の司 法改革の 中で、刑事 証拠法 の新 しい基本 原則のーっ として導 入された 。この原 則は、通 説によれ ば、刑事訴 訟法上の 原 則 であ る の みな ら ず 、憲 法 上の 要 請 でも あ ると 解 す る。 そ の根 拠 法 、憲 法

37

2

項 前 段が 被告人の 証人審問権 を規定し ているこ とである とする。 だとする と、伝聞法 則が当事 者主 義を背景 とするもの である以 上、当事 者たる検 察官にも 憲法上、 反対尋問権 が認めら れる ことにを るのだろう か。従来 、もっぽ ら被告人 の証人審 問権だけ が論じられ 、法律上 認め られてい る検察官の 反対尋問 権をどう 位置づけ るぺきか について の議論はあ まりなか った 。証人審 問権と伝聞 法則は、 反対尋問 権を中心 的な要素 とする点 では共通す るが、両 者の 間には何 らかの相違 があるの ではない か。

  

本論 文は、こ のような問 題意識か ら、伝聞 法則の母 法である アメリカ 法を採り上 げて比 較法 的考察を 行い、憲法 上の証人 審問権と伝聞法則の関係を理論的に明らかにしたうえで、

いわ ば適正手 続のための 新たな伝 聞法則の 法理を提 言しよう とする意 欲的な論策 である。

  

1

章で は 、ア メ リ カに お ける伝 聞法則の 基礎概念 を概観し た後、ア メリカの伝 聞法則 の意 義と機能 について考 察する。 そして、 従来から 伝聞法則 の主たる 根拠は反対 尋問を経 ない ことにあ るとされて きている が、特に 刑事事件 において は政策的 な観点から の考慮も 必 要 であ る こと を 指 摘し 、 この よ う な観 点 から 伝 聞 法則 を 捉え直す 必要性を示 唆する。

  

2

章 で|ま、 伝聞法則と わが国の 証人審問 権に類似 の証人対質権に関する米連邦最高裁 の判 例理論を 概観してい る。これ により、 アメリカ では、伝 聞法則と 証人対質権 とは反対 尋問 権を主要 な要素とす る点では 共通する が、理論 上別個の ものと考 えられてい ることが 示さ れた。

  

3

章で は 、わ が 国 の証 人 審問 権 と 類似 の 規定 で あ る合 衆国 憲法修正

6

条の証人対 質権 条項 の沿革・ 議論を分析 した後、 検察側提 出の伝聞 証拠

1

ま、 適正手続の観点から伝聞例外 規定 に該当す るか否かの 判断を必 要としないで証拠排除される場合があるとの示唆を得る。

‑ 28―

司 之

祐 弘

取 勢

白 能

授 授

教 教

査 査

主 副

(5)

そして、この議論は、わが国の証人審問権の法理の解釈にも参考になることを論証する。

   第 4 章では、わが国の伝聞法則の検討を行う前提として、まず、新刑訴法および憲法3 7 条 2 項の制定過 程を概観し 、現行刑訴 法 320 条が 伝聞法則を採用したものであること を 改 め て 確 認 す る 。 ま た 、 伝 聞 法 則 が 問 題 と さ れた 主 要な 判 例 を取 り 上げ る 。    第 5 章では、今日支配的な諸説・判例を批判的に検討したうえで、次のような理論的枠 組みが示される。すなわち、検察側提出証拠に対しては、憲法上の証人審問権による適正 手続の保障の要請から伝聞証拠排除の徹底化が主張され、他方、被告人については、憲法 を起点とする伝聞法則の適用範囲の片面的構成が展開される。また、検察官1 ま法律上の反 対尋問権をもっにすぎないのであるから、無罪方向の証拠の場合には、被告人1 ま、立証事 項 を 縮 減 し た う え で 、 伝 聞 証 拠 を 物 的 証 拠 と し て 証 拠 提 出 で き る 。    こ の よ う な 本 論 文 に 対 し て 、 次 の よ う な 評 価 が 与 え ら れ よ う 。    第 1 に、本論文は、アメリカの伝聞法則に関する議論をその基礎概念から最近の議論ま で周密・丁寧にフオローした本格的な比較法研究である。これまで、アメリカの古典的通 説に倣って、伝聞法則といえば反対尋問による原供述のチェックにしか目を向けてこなか った我が国の学説に反省を促し、適正手続の観点から伝聞法則を捉え直そうという本論文 は、学界にも裨益するところ大であろうと思料される。   .

   第2 に、本論文1 ま、従来日本では漠然と同視されてきた伝聞法貝 IJ と被告人の反対尋問権 を理論上明確に区別することにより、検察官の反対尋問権の位置づけの問題、伝聞例外を 認める合理的な基準の設定などにおいて、優れた理論的帰結を導くことに成功している。

本諭文により、「調書裁判」と呼ばれる形骸化した日本の裁判実務を活性化し、適正な事 実認定を目指すための理諭的基礎が築かれたと評しえよう。

   以 上 の 次 第 で 、 審 査 委 員 会 は 本 論 文 が 博 士 ( 法 学 ) に 値 す る と 判 断 し た 。

29―

参照

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