博 士 ( 工 学 ) 加 藤 初 儀
学 位 論 文 題 名
超 格 子 に お け る 音 響 フ ォ ノ ン の 分 散 関 係 な ら び に 共 鳴 透 過 と 反 射 に 関 す る 研 究
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
ナ ノ ス ケ ーJレ ヘ テ ロ 半 導 体薄 膜 積 層 構 造で あ る 人工超 格子は ,高 温超伝 導 体 等と 共 に 新 し い光 , 電 子 材 料と し てm要 であ る ,さ らに, この数 ある い は数 十原予 層から なるミ クロ (また は,メ ソスコ ヒッ ク)な 構造における音響 振 動 (フ ォ ノ ン ) のダ イ ナ ミ ク スは 単 に 基 礎 物 性の 解明上 のみ ならず ,THz 領 域 に お け る フ ォ ノ ン 光 学 素 子 へ の 応 用 上 か ら も 興 味が も た れ て いる . 川 馴的 な 越 格 子 にお け る フォ ノンの 物理的 特性 は.波 数と周 波数の 間に 成 立 す る 分散 関 係 に よ っ て支 配 される .これ は.無 限周 期系に おいて 意味を も ち, フォ ノンの バンド 構造を 決め ている .―・ 方,現 実に作 製される有限周剃 趨 格 子 にお い て っ こ の 分散 関 係と血 接比較 できる 物理 量とし てフォ ノンの 透 過 率 が あり , 前 者 の 周 波数 ギ ャッブ 内で後 者は鋭 くゼ ロに落 ちこむ .これ ら の 量 は 共に 超 格 子 系 に おけ る フォノ ン場の 転送行 列を 用いて 計算さ れ,そ の 計算 結果 とフォ ノン・スベクトロスコピー法あるいはフォノン.イメージング法 によ る実 験結果 とは良 く一致 して いる.
しかし ,これ までの フォ ノンの 分散関 係の計 算は ,主に 立方品の[001】方 luJに 積層 された 超格子 に対す るも のが殆 どであ る.一 方,立 方晶 の【111]方 向 に も 超 格 子は 成 長 可 能 であ り, 実際縦 波フ オノン の透過 実験が 初め て行わ れ た の は(lll)GaAs/AIAs超 格子 に お い て であ る ,(111)超 格 子に お い て は 界 而 が 鏡 而 対称 性 を も た ない ため ,斜方 入射 に対し てフォ ノンの 入射 角と反 射 角 は 等 し くな ら ず , そ の分 散 関 係 に(001)超格 子 と は異な る特徴 が期待 さ れ る . 木 論 文で は こ の 点 を詳 細に 検討し ,分 散関係 にゾー ンの中 心と 端以外 の 波 数 で 周 波数 ギ ャ ッ プ が生 じる ことを 見い 出した ,さら に、こ の系 におけ る フ ォ ノ ン の 透 過 , 反 射 特 性 を 転 送 行 列 法 に 基 づ ぃ て 明 か に し た . 一 方 , フ ォ ノン の 斜 方 入 射にお いては ,垂 直入射 で生じ るフォ ノン の単一 モー ドHHのブ ラッグ 反射 の他に ,モー ド遷移 を伴 うブラ ッグ反射が理論,実験 の 両 面か ら 新 た に 見い 出 さ れて いる, これら は, フォノ ンの分 散関係 でニつ の 分 枝が 音 述 の 違 いに よ り 互い に交差 しよう とす る周波 数で生 じる, その様 な 周 波数 に お い て は, さ ら にフ ォノン 問にモ ード 変換を 伴う共 鳴的透 過が生 じ る 可能 性 が あ る .本 研 究 では ,この 共鳴的 透過 が実際 に存在 するこ と,ま た そ れが 単 に 周 期 的超 格 子 のみ ならず ,層厚 を「 共鳴透 過条件 」を満 たす値 の 前 後で 徐 々 に 変 化さ せ た 超格 子にお いても 生じ る事を ,解析 的およ び数値 的 計 算 に よ り 示 し た , 後 者の 非 周 期 的 超 格子 はCHIRP超 格 子 と呼 ば れ , 電 子デ バイス ヘの応JH上興 味が持 たれて いる.
本 論 文 の 構成 は 次 の 通 りで ある .まず ,序論 におい て,本 研究 の背景 およ び目 的 に つ い て論 じ た . ひ き 続き , 第1章 では , 弾 性定数 テンソ ルの 座標変 換の 下 で の 変 換則 な ら ぴ に ,(111)超格子 内での 独立 なフォ ノンモ ードで あ る界 面 に 平 行 に偏 極 す る 横 波(SHモ ー ド) に 対 す る転 送行列 を導 いた, さら に, 反 射率 および ,透過 率,エ ネル ギー流 束,分 散r鞨係等 の導出 を行 った,
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第2章 で は ,(111)超 格子 内 で 相 互 作用 す る ニ つ の フォ ノ ン モ ー ド, っ ま りSHモー ド に 垂 直 に偏 極 す る横波(Tモー ド)と 縦波( 工モ ード) に対す る転 送 行 列 を 導き , さ ら に 等周 波数 曲線, 偏極 ベクト ル,エ ネルギ ー流束 ,透 過 と 反 射 に 閲す る 構 造 閃 子等 の導 出を行 った ,また ,等方 近似し た構成 層を も つ 超 格 子 を考 察 す る 準 備と して 転送行 列等 の等方 媒質で の表現 を導出 した . 第3章 で は , 周 期 的 な (111)超 格 子 の 具 体 例 と し てGaAs/AIAs超格 子 を 考 察 し ,SHモ ー ド の 透 過率 お よ ぴ 反 射率 , 分 散 関 係を 第1章で与 えた手 法に 慕 づ き 数 値 計算 に よ り 求 めた .鏡 面対 称性を もつ界 面の超 格子と 異な り,周 波 数 ギ ャッ ブは一 般にブ リJレアン ゾー ンの中 央や端 でなく ,ゾー ン内 部に現 わ れ る , 摂 動論 的 考 察 に 慕づ き反 射過 程を記 述する 構造因 子を導 入す ること よ り,こ れら の周波 数ギャ ッブに おけ るフォ ノンの ブラッ グ反射を解析した.
こ の 際 , 構 造凶 子 の 算 出 に必 要な 界面 からの 振幅反 射係数 が転送 行列 より与 え ら れ るI£を 示した .さら に,分 散関 係巾に 周波数 ギャッ プが発 生す る条件 お よび, ブラ ッグ反 射の条 件,ブ ラッ グ反射 の消滅 則,周 波数ギャップのゾー ン 内 部 で の 位置 を 転 送 行 列を 用い て表 現した .また ,フォ ノンの 垂直 入射の と き に 有 効 で あ るRytovに よ る分 散 関 係 がSHモ ー ド の 斜方 入 射 に 対 して も 拡 張可能 であ ること を示し た.
第4章 で は , 周 期的 な(111) 超 格 子 内の フ ォ ノ ン の結 合 モ ー ド で あるTと 己 モ ー ド に 刔 す る 第2章 の 具 体 例 とし て , 第3章と 同 様 のGaAs/AIAs超 格 子を考 察した .特に 透過過程を記述する構造因子を算出し,「共鳴透過条件」の 存在 を 明 か に した . 共 鳴 透 過 条件 が 成 立 す る周 波 数 で は,二 つのTとエ モー ドが 超 格 子1いを 伝搬 する際 にエネ ルギー の授 受を行 い,エ ネルギ ー保存 則を 満た す よ う に 各モ ー ド の 透 過 率が 逆位相 で振 動する .また ,転送 行列よ り得 られ る フ ォ ノ ンの 透 過 率 お よ び反 射率の 周波 数依存 性と入 射角依 存性は ,構 造因 子 の 結 果 と良 く 一 致 し て いる ことを 明ら かにし た.こ の際, 構造因 子の 算出 に 必 要 な 界面 で の 複 数 の モー ドに対 する 振幅反 射係数 と振幅 透過係 数が 第3章と同 様に転 送行列 より与 えら れる事 を示し た.
第5章 で は ,第4章 で 議 論し た 共 鳴 透 過現 象 を 解 析 的に 解 く こ と を 次章 で 試み る準備 として ,周期 的超格 子の 各層を 等方的 と近似 し, 分散関係および,
透 過半 の 数 値 計 算 を行 な っ た , さら に , 第4章で 示 した 伝搬 距離に 対する 各 モ ード の 透 過 率 の 振動 が こ の等 カI近似で も存 在する ことを 示した ,ま た,T と 己モ ー ド の 透 過 に対 す る 構造 凶子 を用い て,透 過率の 振動 周期を 表現す る 武を 与えた ,
第6章 では , 等 力I近似 し た 構 成 層を も つ 超 格 子に 対し,Tお よびエ モード のフ ォ ノ ン 振 幅に 対 す る 連立 一階差 分方 程式を 転送行 列から 導出し た. これ より , 非 周 剃 的なCIIIRP超 格 子 の中 央 に 共 鳴 透過 条 件 を 満 たす 層 を 配 置し た場合 ,ソオ ノンが 伝搬す るに 従いモ ード変 換を伴 いな がら透過率が振動し,
次第 に 一 方 の モー ド か ら 他方 のモー ドに エネル ギーが 移動す る現象 を解 析し た, ま た 、 第5章 で 示 し た 共鳴 透 過 条 件 が成 立 す る周 期的超 格子に おけ る各 モ ー ド の 透 過 率 の 伝 搬 距 離 依 存 性 に 対 し , 厳 密 な 解 析 解 を 与 え た . 第7章 は 研 究 の総 括 で あ り ,本 論 文 の 結 論 ,結果 の応 用,な らびに 今後の 課 題 に つい て 述 べ た .
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学位論文審査の要旨
学位論文題名
超格子における音響フォノンの分散関係 ならびに共鳴透過と反射に関する研究
ナノ ・スケ ールの 半導体 薄膜積 層構造 である人 工超格 子は、 高温超伝導体等と共に新し い光 、電子 材料と して重 要である 。さら に、こ の数あ るいは 数十原 子層からなる微小構造 にお ける音 響振動 (フエ ノン)の ダイナ ミクス の解明 は、単 に基礎 物性上の興味にとどま ら ず 、THz領 域 に お け る フ オ ノ ン 光 学 素 子 へ の 応 用 上 か ら も 注 目 を 集 め て い る 。 周期 的な超 格子に おける フォノ ンの物 理的特性 は、波 数と周 波数の間に成立する分散関 係に よって 支配さ れる。本論文は、これまでに十分な解析が行われていなかった(111)超格 子に おける フォノ ンの分 散関係を 詳細に 検討し たもの である 。特に ミニゾーンの中心と端 以外 の波数 で周波 数ギャ ップが生 じるこ とを新 たに見 い出し 、また 、この系におけるフオ ノンの透過、反射特性を転送行列法に基づぃて明らかにした。
さら に、分 散関係 でニつ の分枝 が音速 の違いに より互 いに交 差しようとする周波数で、
フォ ノン間 にモー ド変換 を伴う共 鳴的透 過が生 じるこ と、を 初めて 明らかにした。またそ れが 単に周 期的超 格子の みならず 、層厚 を「共 鳴透過 条件」 を満た す値の前後で徐々に変 化 さ せた 非 周 期 超格 子 に お いても 生じる 事を、 解析的 およぴ 数値的 計算に より示 した。
本論文の構成は次の通りである。
まず 、序論 におぃ て、本 研究の 背景およ び目的 につい て論じ 、ひき 続き第1章では も弾 性定 数テン ソルの 座標変 換の下で の変換 則、な らびに (111)超格 子内での独立なフォノン モー ドであ る、界 面に平行に偏極する横波SHモード、に対する転送行列を導いた。さらに、
分 散 関 係 、 反 射 率 お よ び 、 透 過 率 、 エ ネ ル ギ ー 流 東 等 の 導 出 を 行 っ て い る 。 第2章 では、 (111)超格 子内で 相互作 用する ニつの フォノ ンモー ド、っ まりSHモ ードに 垂直に偏極する横波(Tモード)と縦波(Lモード)に対する転送行列を導き、さらに等周波数曲 線、 偏極ペ クトル 、透過 と反射に 関する 構造因 子等の 導出を 行った 。また、転送行列等の 等方媒質での表現を導出した。.
第3章で は 、 周 期的 な(111)超 格 子 の 具体 例 と し てGaAs/AIAs超格 子を考 察し、SHモー
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朗 義
樹
一
信 恒
直
村 山
田
田 中
徳
授 授
授
教 教
教
査 査
査
主 副
副
ドの透過率と反射率、および分散関係を第
1章で与えた手法に基づき数値計算により求め ている。鏡面対称性をもつ界面を有する超格子と異なり、周波数ギャップは、一般にブリ ルアンゾーンの中央や端でなく、その内部に現われることを見出し、さらに摂動論的考察 に基づき反射過程を記述する構造因子を計算することで、これらの周波数ギャップにおけ るフォノンのプラッグ反射を理論的に解析した。
第4 章では、周期的な(111) 超格子内のフォノンの結合モードであるT とL モードに対し、
特に透過過程を記述する構造因子を算出し、「共鳴透過条件」の存在を発見した。共鳴透 過条件が成立する周波数では、二つのT とL モードが超格子中を伝搬する際にエネルギー の授曇を行い、エネルギー保存則を満たすように各モードの透過率が逆位相で振動するこ と、また転送行列より得られるフォノンの透過率、および反射率が、構造因子の計算結果 と良く一致していることを明らかにした。
第5 章では、周期的超格子の各層を等方的と近似し、分散関係および、透過率の数値 計算を行なった。さらに、第4 章で示した伝搬距離に対する各モードの透過率の振動がこ の等方近似でも存在することを示した。また、T とL モードの透過に対する構造因子を用 いて,透過率の振動周期を表現する式を与えている。
第6 章では、等方近似した構成層をもつ超格子に対し、T およびL モードのフォノン振幅 が従う連立一階差分方程式を転送行列から導出している。これに基づき、非周期超格子の 中央に共鳴透過条件を満たす層を配置した場合、フォノンが伝搬するに従いモード変換を 伴いながら透過率が振動し、次第に一方のモードから他方のモードにエネルギーが移動す ることを見出した。また、共鳴透過条件が成立する周期的超格子におけるフォノンの透過 率の伝搬距離依存性に対し厳密な解析解を与え、さらに共鳴透過現象を観測するための実 験的手法を提案している。
第7 章は研究の総括であり、本論文の結論、結果の応用、並びに今後の課題について 述べられている。
これを要するに、著者は、 超格子における音響フォノンの分散関係ならびに共鳴透 過と反射に関する研究について新知見を得たものであり、量子物理工学ならぴに応用物 理学の進展に寄与するところ大なるものがある。
よって著者は、北海道大学博士(工学)の学位を授与される資格あるものと認める。
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