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【学位論文審査の要旨】

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Academic year: 2021

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【学位論文審査の要旨】

1 研究の目的

有性生物では、雌雄配偶子の融合を介した両親ゲノムの継承によって全能性を有する受 精卵が生じ、その発生が開始される。この受精・発生という現象は生命の根幹を成す機能 であり、古くからその機構の解明に向けた試みが動・植物を通じて盛んに行われてきた。

その理解が深まる中、被子植物の受精は生殖組織の奥深くで起こることから、その詳細な 観察・解析が困難であり、そのため、雌雄配偶子の細胞膜融合直後に起こる雌雄配偶子核 の合一や、それに引き続く初期受精卵発生に懸かる知見の蓄積はごく僅かであった。本研 究は、この理解を深めるために、イネの花から単離した卵細胞・精細胞を電気的に融合す ることで作出したイネin vitro受精卵による直接的な被子植物の初期受精卵発生観察・解析 手法を用いて遂行された。

2 研究の方法と結果

イネin vitro受精卵を用い、まず、その受精卵内における核合一過程のリアルタイム観察

を行った。その結果、細胞膜融合直後の受精卵内では、精核が卵核へと移動して両核が接 した後、卵核クロマチンの精核内への流入が起こり、その後、融合核内への精核クロマチ ンの脱凝集が開始され、そして細胞融合から 4 時間後には、その精核クロマチンが融合核 内へと均一に広がることで、核の合一が完了することが示された。加え、この核合一動態 を基準に新規遺伝子発現の開始時期を特定したことで、これまで未知であった被子植物に おける詳細な核合一動態と新規遺伝子発現との時間的関連性を明らかにしている。しかし、

この核合一を制御している分子機構の詳細の多くは未解明である。その一つとして、多く の動物受精卵において知られる精子由来の中心小体による微小管依存的な配偶子核の移動 が、中心小体を遺伝的に持たない被子植物においてどのように制御されているのかは定か でなかった。そこで論文著者は、2種類の細胞骨格系阻害剤を処理した受精卵内における精 核移動の可否を確認し、その結果、その核の移動が微小管の存在に非依存的であり、アク チン繊維依存的に制御される可能性を示した。この示唆された被子植物のアクチン繊維依 存的な核輸送機構の詳細を明らかにするため、卵細胞および受精卵内におけるアクチン繊 維の時空間的な動きを取得し、その動態解析を行った。その結果、それら細胞内では、メ ッシュ状に分布したアクチン繊維、アクチンメッシュが卵核に向かい断続的に移動・集約 しており、このアクチン繊維動態が精核の移動に重要な役割を担っていることが見出され た。このようなアクチン繊維の動態は、植物雌性配偶子に特異的な細胞機構であると推定 され、受精において雌雄配偶子が司る役割に動植物間および雌雄間で明確な違いが存在す ることが示された。結果として、これらのin vitro受精卵の観察結果は、核合一が細胞外環 境に依存しない卵細胞と精細胞の融合を起因とした自己完結型の反応であり、雌雄配偶子 それぞれが持つ細胞特性が核合一過程において重要な役割を果たすことを示唆した。そこ で次に、この雌雄配偶子が有する核合一への細胞特性を明らかにするため、in vitro 受精系 の利点である任意の細胞を選択的に融合可能である点を利用し、メスの要素のみ持つ二卵 融合細胞(2つの卵細胞を融合させた細胞)や、その細胞に精細胞を融合した雌性過多受精 卵(2つの卵細胞と1つの精細胞)、二卵融合細胞にプロトプラストを融合した融合細胞(2

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つの卵細胞と 1 つの体細胞)を作出し、雌雄配偶子の存在の有無が核合一の進行に対しど のような影響を与えるのか調べた。その結果、作出したそれら3種類の融合細胞において、

細胞内に存在する全ての核が合一することが確認された。精細胞を含まない卵融合卵にお いても核合一が起きたことは、核合一が精細胞の存在に依存しない卵細胞の独立した機構 であることを示している。また、各融合細胞内における2つの卵核の融合速度の解析から、

核融合反応が精細胞との融合に起因する細胞内 Ca2+イオンレベルの上昇によって促進され ることが明らかにされた。

3 審査の結果

マウス等の哺乳類における両親由来の受精卵遺伝子の新規発現は、第一分裂後に徐々に 開始されることが知られているが、被子植物のそれは核合一による両親ゲノムの混合に伴 い急速に開始される。本研究において見出された被子植物の核合一制御機構は、配偶子膜 融合後の円滑な核合一の進行をもたらし、結果として、その受精卵ゲノム由来の迅速な新 規遺伝子発現を介した発生プログラムの開始に寄与するものと考えられる。以上の成果は、

被子植物受精卵の核合一過程における詳細な核ダイナミクスとその制御機構の一端を明ら かにし、植物生理学および発生生物学に対し新たな知見を提供するものである。これらの 研究の主要部分は、すでに国際的な学術雑誌に発表され、高い評価を得ている。よって、

博士(理学)の学位に十分値するものと判定した。

4 最終試験の結果

本学の学位規定にしたがって、試験および試問を行った。公開の席上で論文発表を行い、

専攻教員による質疑応答をもって試験にあてた。また、論文審査委員が本論文および関連 分野について試験を行った。その結果、専門科目および外国語について十分な学力がある ことを認め、合格と判定した。

参照

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