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【学位論文審査の要旨】

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Academic year: 2021

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【学位論文審査の要旨】

1 研究の目的

Hox 遺伝子はホメオドメイン転写因子をコードする遺伝子の一群で,中生動物の全てで 保存されている.はじめにHox遺伝子が発見されたショウジョウバエまたその後発見され た脊椎動物では,Hox 遺伝子が染色体上の狭い領域に並んだ「Hox 遺伝子クラスター」を つくってゲノム中に存在することが知られている.さらに,Hox遺伝子は染色体上の位置が

3’側であるほど,その発現の前方境界が体の前方であるという相関が見られ,これはSpacial

collinearityと呼ばれている.さらに,染色体上の位置が3’側であるほど,発生の早い時期に

発現を開始するということも見出され,time collinearityと言われている.そしてHox遺伝 子の機能は,動物の体の前後軸方向のアイデンティティを決めているという研究がされた.

このように Hox 遺伝子はゲノム上のクラスター構造が,発現時期や場所,ひいては機能に 関わっていることから注目されている.

脊椎動物ではHox遺伝子は4本の別の染色体上でそれぞれクラスター構造を作っている.

それぞれのクラスター内のHoxのサブグループには共通性があり,13のサブグループ(PG) に分かれていると考えられている.脊椎動物の Hox クラスターはゲノム上で最もコンパク トに集まっており,遺伝子の方向も同じで,その発現とは最も顕著なcolinearityがみられる.

脊椎動物の祖先型に近いといわれているナメクジウオでは,クラスター構造がみられるの で,祖先型はクラスター構造を持っていたと考えられている.ホヤは脊椎動物に最も近縁 な脊索動物・尾索動物亜門の一員で、さらに2群に大別されている。マボヤHalocynthia roretzi は、カタユウレイボヤCiona intestinalisと同様に、研究によく用いられているホヤであるが、

カタユウレイボヤとは異なるグループに属し、系統上遠い関係にある。カタユウレイボヤ では、2002 年に行われた全ゲノム解読により、Hox遺伝子は 9個であること、9個のHox 遺伝子は二つの染色体上に分かれて存在することが明らかにされている。新口動物の系統 とHox遺伝子クラスターに関する知見から、脊索動物の始原生物のゲノム中には、10個程 度のHox 遺伝子が含まれる一つのクラスターが存在したと考えられる。すると、カタユウ レイボヤでは、Hox 遺伝子の数、並び方が変化していることになる。このようなHox遺伝 子クラスターの変化はホヤに共通するか否か、本研究では、カタユウレイボヤとは系統上 離れたマボヤの Hox 遺伝子について、主として遺伝子の構成、染色体上での構造に着目し た。そしてマボヤとカタユウレイボヤとの類似性・相違性を検討し、ホヤの進化の過程で Hox遺伝子クラスターに起こった変化を推察することを目的に研究を行った.

2 研究の方法と結果

最初にマボヤのHox遺伝子の同定を試みた.研究室にあった断片的な配列情報をもとに 脊椎動物のHox遺伝子のホメオドメイン配列の中で 特に保存性の高い部分にプライマーを 設計し、マボヤゲノムに対して PCR を行った.その結果,ホメオドメイン配列である 60 アミノ酸が含まれる9配列を得,これをHox遺伝子候補配列とした.次に,系統樹作成に より,各 Hox遺伝子候補配列がどの Hox遺伝子PGに分類されるか調べた.

1. 候補配列Hr Hox1, 2, 3, 4は,PG1- 4にそれぞれ分類された

2. 候補配列Hr Hox10は、PG10のホメオドメイン内にある保存性の高い4つのアミノ

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酸残基を持つことからPG10に分類した

3. 候補配列Hr Hox5は、PG5に分類された

4. 候補配列Hr HoxXは、PG5-8のどのPGにも分類されない

5. 候補配列Hr Hox12, 13は、PG11-13のどれに分類されるかを決められなかった これらの結果から,マボヤの9個のHox遺伝子のうち, 8個はカタユウレイボヤのHox1,

2, 3, 4, 5, 10, 12, 13と類似性が高い遺伝子であり,Ci-Hox6と類似性の高い遺伝子はなく,マ

ボヤ独自のHoxXを持つことがわかった.

次に, マボヤの9個のHox遺伝子のクラスター構造を解析するため2色の染色体FISH を行い,マボヤの Hox遺伝子は全て同一染色体上に存在することがわかった.そして, Hr Hox1は他のHox遺伝子から離れていること, 他の8個のHox遺伝子は互いに近傍に存在 していることがわかった.

BACクローンの単離において,Hox遺伝子を複数含むクローンを単離した. Hox2, 3, 4 を含むクローンには,Hox24を含み3を含まないもののみが単離できなかったことから,

これら3遺伝子は、染色体上で Hox2, 3, 4 と並ぶことが分かった.さらに scaffold/BAC walking を 行 っ た と こ ろ ,Hox1 が 離 れ て 存 在 し , そ の 次 が Hox11/12/13b, Hox11/12/13a,Hox10, Hox5, HoxXと並び,少し離れてHox2, 3, 4のクラスターがこの順 か,または逆順で繋がっていることを明らかにした.

さらに,マボヤのHox遺伝子の発現パターンを調べるため, 未受精卵から中期尾芽胚期 までの胚を用いてWISHを行った.これらの発生段階では,マボヤでは, Hox1, 4, 5, 10,

11/12/13.a遺伝子の発現が見られた.カタユウレイボヤの発現と比較すると似ているものも

あったが,発現時期が早くなっているものが多かった.しかし, 調べた発生段階では, 空間,

時間的なcollinearityが見られるとは言い難いことがわかった.

これらの結果から,ホヤが進化するまでのHoxクラスターの進化を考察した.

1) 始原的な脊索動物が出現した時, おそらく11 PGのHox遺伝子からなる一つのHox遺 伝子クラスターを持っていた

2) 頭索動物への進化の系譜から 脊椎動物と被嚢動物の最近共通祖先が分岐し,さらに 脊椎動物の進化の系譜から始原的な被嚢動物が分岐した時, 少なくとも1個(または2個)

のHox 遺伝子を失い,同時に, Hox遺伝子クラスターの崩壊が起こり始めた

3) 始原的なホヤが被嚢動物の系譜から分岐した時, さらに遺伝子を失い, 9個のHox遺伝 子を構成するようになった.この時,マボヤとカタユレイボヤに共通して見られるようなク ラスターの変化が起こった

4) その後マボヤとカタユレイボヤの各系譜で, 独自のゲノム再編が起こり, 現在のクラ スターが形成された

以上のようにマボヤのHox遺伝子の種類,ゲノム上の構造,発現パターンを調べること で,系統的に離れた2種のホヤのHox遺伝子の情報を比較することが可能になり,Hox遺 伝子のホヤの系統に至るまでの進化を考察した.

3 審査の結果

関上さんの論文では,動物の発生上,前後軸に沿った領域化に重要な役割を果たし,そ

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の機能にゲノム上の構造が関わっているとされる興味深い遺伝子群,Hox 遺伝子のマボヤ での構造を解明した.Hox 遺伝子は最近の研究では,動物によってはクラスター構造が完 全に壊れてしまっているものや一見クラスター構造が保たれているものの,遺伝子の方向 が変わっているものなど,従来の考え方とは違う姿が明らかになりつつある.今回の研究 成果により,一つの綱の違う目で,Hox クラスターの構造が大きく違っていることが明ら かになり,Hox 遺伝子の動物発生における役割の多様性を示すことができた.本論文は,

新規性にとみ,今後,ゲノムの変化の研究の発展につながる重要な成果を含んでいる.以 上のような審査の結果に基づいて,関上さんの論文は高く評価することができるという結 果になった.

4 最終試験の結果

生命科学専攻が主催する公開の場において論文の発表を行い,口頭試問を行った.また委 員3名による試問を行ない,最終試験とした.その結果,合格と判定した.

参照

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