博 士 ( 医 学 ) 半 田 学 位 論 文 題 名
性分化異常症例における表現型/遺伝子型相関と X モノソミー・モザイシズムとの関連について
学位論文内容の要旨
康
はじめに
ヒ トの遺伝 的性は, 受精時に父親から弓iき継ぐ性染色体がY染色体あるいはX染色体かに よ って男女 いずれか に決定される.その後の性分化において,未分化性腺はY染色体の有無 により精巣あるいは卵巣へと分化(一次的性分化)し,分化した性腺から産生される性ホル モンなどにより内・外性器の表現型に性差が現れる(二次的性分化).性分化異常症は,こ れらの過程に生じた何らかの障害によって惹き起こされる.本研究では,産婦人科領域にお ける性分化異常症例について表現型と遺伝子型の相関を細胞遺伝学的・分子遺伝学的に検討 し , 性 分 化 異 常 症 発 症 の 遺 伝 学 的 機 構 を 部 分 的 に も 解 明 す る こ と を 目 的 と し た . 対象と方法
対象は,臨 床所見お よび細胞 遺伝学的 所見から 性分化異常症が疑われた表現型女性11例
(在 胎16週 〜 55歳 ) ,表現型男 性7例(在 胎15週〜49歳 )の18症例 である. 本人ある い は家族の同意を得た後,末梢血リンバ球,皮膚,性腺,卵管,口腔粘膜,骨髄,羊水細胞,
臍帯血,胎盤を検体として分析に用いた.各種分染法を用いた染色体分析により,染色体核 型を明らかにするとともに,染色体の構造異常およびモザイシズムの有無を検索した.また,
Y染色 体 上 の27遺 伝子 座位につ いてサザ ンブロッ ト法,PCR法 を用いて 欠失の有 無を解析 し,Y染色体 のdeletion mapを作成 した.精 巣決定遺伝子と判明しているェSRYについては PCR‑SSCP法ならびに シークェ ンス法を 用いて塩 基配列の変異の有無を検索した.構造異常 染色体およびマーカー染色体について,FISH法によりその構造および由来の同定を試みた.
精 巣 性 女 性 化 症 候 群 が 疑 わ れ た 症 例 で は , ア ン ド ロ ゲ ン 受 容 体 解 析 を 行 っ た ・ 成 績
染色体分析では,表現型女性,表現型男性に共通して,染色体構造異常(由来不明のマー カ ー染色体を含む)が半数以上の症例に認められ,これら構造異常染色体を有する症例では 45,X核型を合 むモザイシ ズム(Xモ ノソミー ・モザイ シズム)が高頻度に認められた.表 現 型女性で はモザイシ ズムを有する症例が多く,なかでもXモノソミー・モザイシズムの頻 度 は表現型男性に比ベ高かった.一卵性双胎で表現型の男女が異なる症例において,組織別 染 色体分析 により,構 成する3核型の比率が血液では両者でほぽ同一であるものの,口腔粘 膜 ,性腺に おいては差 異が認められ,特に性腺においてXモノソミーの構成比率が男性表現 型 の 児 よ り も 女 性 表 現 型 の 児 に お い て 高 い こ と が 明 ら か と な っ た ・ Y染 色体 遺 伝 子解 析 で は,表 現型女性 ,表現型 男性とも にY染色体27遺伝子座 位につい て ,全保有,部分欠失,全欠失の3群に分類された.エSRYの存在は全保有の症例および部分 欠 失 を有 す る 症例 の 全 てに おいて確 認された .SRYを有す る症例は 表現型女 性で54.5%
(6/11),表現型男性では85.7%(6/7)であり,表現型女性においてもSRYを有している症 例 が存在す ることが示 された.PCR‑SSCP法ならび にシーク ェンス法 では,SRYの 塩基配列
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に異常は認められなかった. ,
染 色体 分 染法お よびY染色体 遺伝子解 析とFISH法と の併用に より,構 造異常染 色体およ びマーカー染色体の構造解析ならびに由来の同定が可能であった.
ア ン ド ロ ゲ ン 受 容 体 解 析 を 行 っ た2例 で は , と も に 結 合 能 は 認 め ら れ な か っ た . 考察
SRYと 表現型との関連の検討で,女性表現型を示す症例においても.SRYを有する症例が認 め られ,.SRYを有しても男性表現型を呈するとは限らず,性分化異常症例においてはSRYの 存 在のみで は表現型 を説明す ることは 困難であることが明らかとなった.SRYを有しながら 女 性表現型 を呈する 症例(6例 )の中に は,アンドロゲン不応症や二卵性双胎における血液 キ メリズム のように性腺形成後の二次的な内分泌機構によって外性器表現型が説明される症 例 もみられ たが,その他の4症例ではXモノソミー・モザイシズムを有することが判明した.
特に,表現型の男女が異なる一卵性双胎症例の組織男゛染色体分析においてXモノソミーの構 成 量の差異 が両症例間での性腺分化の違い(混合性性腺異形成と精巣)に関連することが推 測 されたこ とから,Xモノソミ ー・モザ イシズム症 例で認め られるXモ ノソミーの表現型へ の 影響は, 一次的な 性腺分化 への関与 であり,それはXモノソミー細胞の遺伝子量に依存す ると考えられた・
SRY陽 性のXモ丿 ソミー・ モザイシ ズム症例 の性腺は, 精巣,索 状性腺(精巣由来),お よ び卵巣の 形態を呈 した.SRYはswitch geneと考えら れており,SRYの存在(onかoffか)
が 自立的に 精巣分化を決定するとした場合,性腺分化は精巣か卵巣に限られ,このような性 腺 の組織学 的な多様 性は認め られない はずである.卵精巣(ovotestis)を有するXX真性半 陰 陽症例の 検討から ,SRYよりも 下流の精 巣形成遺伝子の発現抑制と性腺の多様性の関係,
さらに,Xモ丿ソミー細胞での精巣形成遺伝子に対する抑制機構が想定された‐したがって,
SRY陽 性 のXモ丿ソミ ー・モザイ シズム症 例の初期 発生では ,性腺原 基内にお いて,SRYを 有 する細胞 では精巣 形成遺伝 子が活性 化されるが,同時にXモ丿ソミー細胞では精巣形成遺 伝 子の発現 抑制が生じており,混在する両細胞の構成比率によって精巣形成遺伝子が活性化 さ れ,精巣 形成遺伝子の活性度に応じて精巣から卵巣までの多様な性腺分化を示すと考えら れた.
SRY陰性 のXモ 丿ソ ミ ー ・モ ザ イ シズ ム症 例におい て,X染色 体短腕をhaploidとして有 す る2症例の 比較から ,これら の症例の 性腺は,一旦は卵巣として形成されるものの,思春 期 以降に索 状性腺( 性腺形成 不全)に 至ることが示された.また,Xモ丿ソミー・モザイシ ズ ムを有さ ずXq22―qterの領 域をhaploidで有 する症例 でも性腺形 成不全が認められた.X 染色体上には正常な卵巣の形成,機能維持にとって必要なcritical regionが想定されている が,これらの症例ではdiploidとして存在しなければならないcritical region内の遺伝子の量 的不足により卵巣形成・維持機構が障害され性腺形成不全に至ったものと考えられた.一方,
critical region外 のXp22.3に存在 するKAL遺伝子をhaploidで有する症例においては性腺機 能 に 影 響は 認 めら れ な かっ た . すな わ ち,SRY陰 性のXモ丿 ソミ―・ モザイシ ズム症例で は,混在するXモノソミー細胞において卵巣の形成・維持に必要なX染色体上のcritical region が全てhaploidで不足する(haploinsufficiency)ため,性腺の卵巣への分化は生じるものの,
そ の後の過 程に必須である卵巣形成・機能維持機構が十分には発現されず,性腺全体として 性腺形成不全(索状性腺)に至ると考えられた・
結論
Xモノソミ ー・モザ イシズム を有する性分化異常症例における表現型の発現には 化決定(初期化)と性腺分化後における性腺形成・機能維持過程の両方において,
ミー細胞 に内在す る特異な 生物学的性質が関与していることが示された.このXモ 細胞 の 作 用は , 近接 す るSRY陽 性 細 胞ばかりで はなくSRY陰 性細胞に も同様に 及 られ,Xモ丿ソミー細胞の存在そのものが性分化異常症の新たなーつの成因と推察さ
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,性 Xモ ノソ ぷと れる
腺分 ノソ ミー 考え
学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
性分化異常症例における表現型/遺伝子型相関と X モノソミ ー・モザ イシズム との関連 について
産 婦 人科 領 域に お け る性 分 化異 常 症例につ いて表現 型と遺伝 子型の相関 を細胞遺 伝学 的・分子 遺伝学的 に検討し, 性分化異 常症発症 の遺伝学 的機構を 部分的にも解明すること を目的とした・
対 象 は, 臨 床所 見 お よび 細 胞遺 伝 学的所見 から性分 化異常症 が疑われた 表現型女 性11 例 ( 在 胎16週〜 55歳 ), 表 現型 男 性7例 (在 胎15週 〜49歳 ) の18症例 で あ る. 本 人あ るいは家 族の同意 を得た後, 末梢血リ ンバ球, 皮膚,性 腺,卵管 ,口腔粘膜,骨髄,羊水 細胞,臍 帯血,胎 盤を検体と して分析 に用いた .各種分 染法を用 いた染色体分析により,
染色体核 型を明ら かにすると ともに, 染色体の 構造異常 およびモ ザイシズムの有無を検索 し た . ま た ,Y染 色体 上 の27遺 伝子 座 位 につ い てサ ザ ン プロ ッ ト法 ,PCR法を 用 いて 欠 失の 有 無を 解 析 し,Y染 色 体のdeletion mapを作 成した, 精巣決定 遺伝子のSRYについて はPCR‑SSCP法 な らび に シ ーク エ ンス 法を用 いて塩基 配列の変 異の有無 を検索した .構造 異常 染 色体 お よ びマ ー カ ー染 色 体に ついて ,FISH法によ りその構 造および由 来の同定 を 試みた.
染色体分 析では, 表現型女性 ,表現型 男性に共 通して, 染色体構造異常(由来不明のマ ーカー染 色体を含 む)が半数 以上の症 例に認め られ,こ れら構造 異常染色体を有する症例 では45,X核 型 を 含む モ ザ イシ ズ ム(Xモノソミ ー・モザ イシズム )が高頻度 に認めら れ た. 表 現型女性 ではモザ イシズム を有する 症例が多 く,なか でもXモノソ ミー・モ ザイシ ズムの頻 度は表現 型男性に比 べ高かっ た,一卵 性双胎で 表現型の 男女が異なる症例におい て, 組 織別染色 体分析に より,構 成する3核 型の比率 が血液で は両者でほ ぽ同一で あるも のの , 口腔粘膜 ,性腺に おいては 差異が認 められ, 特に性腺 においてXモ ノソミー の構成 比 率 が 男 性 表 現 型 の 児 よ り も 女 性 表 現 型 の 児 に お い て 高 い こ と が 明 らか と なっ た . Y染 色 体 遺 伝 子解 析 では , 表 現型 女 性 ,表 現 型男 性 と もにY染 色 体27遺 伝子 座 位に つ いて,全 保有,部 分欠失,全 欠失の3群 に分類さ れた,エSRYの存在は全保有の症例および 部分欠失を有する症例の全てにおいて確認された..SRYを有する症例は表現型女性で54.5% (6/11) ,表 現 型男 性 で は85.7%(6/7)で あ り, 表 現型 女 性 にお い てもSRYを有 している 症例 が 存在する ことが示 された.PCR‑SSCP法ならび にシーク エンス法 では,エSRYの 塩基 配列に異常は認められなかった.
染 色 体分 染 法お よ びY染 色体 遺 伝子 解 析 とFISH法 と の併 用 に より ,構造異常 染色体お
郎
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嶋 林
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長 小
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授 授
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敦 教
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査 査
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主 副
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よびマーカー染色体の構造解析ならびに由来の同定が可能であった.アンド口ゲン受容体 解析を行った2 例では,ともに結合能は認められなかった,
X
モノソミー・モザイシズムを有する性分化異常症例における表現型の発現には,性腺 分化決定(初期化)と性腺分化後における性腺形成・機能維持過程の両方において,X モ ノソミー細胞に内在する特異な生物学的性質が関与していることが示された.このX モノ ソミー細胞の作用は,近接するSRY 陽性細胞ばかりではなくSRY 陰性細胞にも同様に及 ぶと考えられ,X モノソミー細胞の存在そのものが性分化異常症の新たなーつの成因と推 察される.
公開発表に際し,副査の小林教授より,表現型の男女が異なる一卵性双胎における性分 化機構について,エSRY 陽性のX モノソミーにおいて表現型が女性型になる理由などについ て,また副査の藤本教授からは,X モノソミーの発生機序,とくに起源について,X モノ ソミーのモザイシズムで.SRY が陽性の場合の表現型女性の.SRY 遺伝子の塩基配列の異常 について,
SRY遺伝子が存在することと発現していることとの関係について,などの質問 がそれぞれあった.主査の長嶋教授からは,この研究成果の臨床面への応用に対する申請 者の抱負についての問いかけがあった.
いずれの質問に対しても,申請者は,対象症例の解析結果,最新の文献情報,自身の臨 床経験をもとに概ね妥当な回答をなしえた.