博士(理学)中山卓哉 学位論文題名
/Iolecular Study of Gene Expression of Wheat Histone H 3 Gene
(コムギヒス卜ンH3遺伝子の発現に関する分子生物学的研究)
学位論文内容の要旨
ヒストンはクロマチンの主要構成蛋白質であ―り、その働き故に発現の多くは細胞周 期 のS期 で 特 異 的 に 起 こ る 。 そ の 発 現 制 御 は 転 写 開 始 の 制 御 お よ ぴ転 写 後 のmRNA の安 定性 の制 御の2つ のレペ ´レ で行 われ ている。酵母や動物のヒストン遺伝子ではS 期特 異的 な転 写開始 の制 御に 必要な シス 配列の幾っかが同定されているが、両者には 共通 点は 見ら れず、 異な った 機構で 制御 されているらしい。近年、ようやく高等植物 から のヒ スト ン遺伝 子の 単離 例が報 告さ れ始めたが、多くはその一次構造の解析の報 告 で 、 発 現制 御 機 構 の 解析 に関 しては 皆無 であ った 。申請 者は コム ギの ヒスト ンH3 遺伝 子を 材料 に、そ の発 現制 御に関 して 、特に転写開始のメカニズムの解明に主眼を お き 、 シ ス 配 列 と ト ラ ン ス 制 御 因 子 に 焦 点 を あ て て 研 究 を 行 な っ た 。 第1部 H3遺 伝 子 の 転 写 活 性 とmRNA前 駆 体 の3 プ ロ セ ッ シ ン グ 効 率 に 影 響 を 及ばすシス領域の解析
H3遺 伝 子の シ ス 領 域 を 決 め る た め に、5 お よ ぴ3 か ら の 欠 損 変異 遺 伝 子 を 作 成、し、Tiプラスミドペクターを介してヒマワリ細胞に導入し形質転換カルスを得た。
そ の カ ル スよ り 全RNAを 調 製 しSlマ ッ ピン グ 法 に よ り 、各 変異 遺伝 子か らの転 写産 物量 を定 量し た。5 欠損遺 伝子 の解 析か ら、転 写開 始点 上流‑185か ら‑162の領域、
及ぴ‑134から‑90の領 域を削 ると 転写 活性 が大き く下 がる 事がわ かり 、こ れらの領域 中 に シ ス 配列 が 存 在 す るこ とが 示唆さ れた 。夫 々の 領域中 には 、核 蛋白 質HBP ‑1お よ ぴHBP‑2の 結 合 配 列 で あ る ヘ キ サ マ ー 配 歹lJ(ACGTCA) と 丿 ナ マ ー 配 列
(CATCCAACG) が 各 々 含 ま れ て お り 、 こ れ ら の 配 列 が シ ス 配 列 の 有カ な 候 補 と 考 え ら れ た 。ま た 、3 欠 損遺伝 子の 解析 から 、転写 開始 点下 流十684から 十1403の領 域 中 にmRNA前 駆 体 の3 端 プ ロ セ ッ シ ン グ 効 率 に 関 与 す る と 思 わ れる 領 域 の 存 在 ―84ー,
が示唆された。他の植物ヒストン遺伝子の3 非翻訳領域と比較してみるとこの領域 にはTTT(N)13‑16GATTという配列が良く保存されていることが分かり、ヒストン mRNA前 駆 体 の3 端 プ 口 セッ シ ― ン グ に 関 わる シ ス 配 列であ ると 考えら れた 。 第2部 H3遺伝子の転写調節シス・エレメン卜としてのへキサマ―配列、オクタマ 一配列およびノナマ一配列の重要性
H3遺伝子の5 欠損変異遺伝子の解析よルシス配列の候補とされたヘキサマー配 列およびノナマー配列が本当にシス配列であるのかを調べる ために、直接これらの配 列に塩基置換変異を導入してその効果を調ぺた。同時に、先の5 欠損変異実験の結 果では欠損しても転写活性にあまり影響を与えなかったが、これまでに調べられた全 ての植物ヒストン遺伝子の上流域に存在しているオクタマー配列に関しても、置換変 異を導入することでその機能を調べた。その結果、これら3種の配列は確かに転写に 正に作用するシス制御配列であることが分かった。更に、前述のヘキサマー配列の2 bp下流にもオクタマー配列が逆向きに(〓逆ストランド上に)存在することが新た に見出された。このへキサマーと逆向きオクタマーからなる配列は、他の植物ヒスト ン遺伝子の上流域にも良く保存されていることが分かり、タイプIエレメントと名付 けられた。H3プロモーターのタイプIエレメントを構成しているヘキサマー配列ま たはオクタマー配列のどちらか一方に塩基置換変異を導入すると、プロモーター活性 の低下が観察されるが、両方を同時に変異させても相加的な効果は見ちれなかった。
タイプIエレメントが、もしーつのシス制御配列であるならぱ、ヘキサマ一配列の変 異により見られるプロモーター活性の低下も、オクタマー配列変異によって起こる活 性の低下も、また両者を同時に変異させた結果も、単にーつのシス制御配列の違う箇 所に導入した変異によって引き起こされた結果であるという解釈が可能である。更に、
ヘキサマー配列を認識結合するHBP ‑1の結合領域中にこの逆向きオクタマー配列も 含まれており、上述の可能性を更に支持していた。そこで、HBP ‑1フんミリーの各 メンバーが逆向きオクタマー配列に変異をもっタイプIエレメントに結合可能かどう かを、ゲルシフトアッセイ法で調べた。その結果、逆向きオクタマ一配列はHBP.1 ファミリーの各メンバーの結合には関与していないことが分かった。このことは、ヘ キサマー配列と逆向きオクタマー配列はそれぞれ独立のシス制御配列であり、タイプ Iエレメントを形成している時には、両者が一体となってあたかもーつのシス配列の ように働いている可能性を示唆している。もしそうならば、オクタマー配列に結合す
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るトランス制御因子が存在することが予想される。
第3部 H3遺伝子の発現制御メカニズム
イネ 形質転 換培養細胞を用いた解析でH3プロモーター(‑185から十57領域)と レポー夕一遺伝子(大腸菌由来のGUS遺伝手のコード領域)からなるキメラ遺伝子 (H3/GUS)が、同調化した培養細胞内でS期特異的に発現することが示され、H3 遺伝子の転写開始点上流‑185までの配列中にS期特異的発現を規定する領域が存在 することが明らかとなった。これまでの結果(第1部、2部)からこの領域中には、
少なくとも3種類4箇所のシス制御配列が存在することが明らかである。その中でも、
ヘキサマー配列と逆向きオクタマー配列からなるタイプIエレメントは、H3プロモ ーターのS期特異性を規定しているシスエレメントとしての最有力候補である。もし そうなら、タイプIエレメント中のへキサマー配列に結合するHBP‑laやHBP‑lbは、
その制御に関与するトランス制御因子である可能性が極めて高い。そこでHBP‑laの 転写因子としての作用スベクトラムを明らかにするために機能ドメインの同定を試み た。HBP‑laにJまbZIPモチーフのほかに幾っかの特徴的なアミノ酸モチーフが見ら れ るの で、cDNAを 改変し てこ れらモ チー フを酵 母の転写因子GAL4のDNA結合ドメ インに繋げた融合蛋白質を産生するようなキメラ遺伝子を作り、CaMV35Sプロモー ターに繁いで植物細胞内で機能するエフェクター遺伝子とした。次にGAL4の結合配 列 をシ ス領域 とし て上流 に繋 いだCaMV35Sまた はヒストンH3ミニマムプロモータ ーにGUS遺伝子を繋いだりポーター遺伝子を作成した。これらエフェクター遺伝子 とりポー夕―遺伝子の両者をタバコ培養細胞のプロトプラストにエレクトロポレーシ ヨン法により導入し、GUS活性を指標に各エフェクター遺伝子がりポーター遺伝子 に及ぼす影響を調べた。一連の実験結果から、HBP‑laは転写に正あるいは負に働く さまざまなドメインから構成されていることが分かり、HBP‑laは転写因子であるこ とが証明された。
以上の知見に基づきヒストン遺伝子の発現制御機構のモデルを提唱した。ヒストン 遺伝子のS期特異的発現はタイプIエレメントにより規定される。ヘキサマー配列に 結合するHBP ‑1ファミリーとオクタマー配列に結合する因子が協調的に働いて、あ た かも タイプIエレメントがーつのシス配列の様に機能していると考えられる。
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学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
/Iolecular Study of Gene Expression of Wheat Histone H 3 Gene
(コ ム ギヒ ス 卜 ンH3遺 伝子 の 発現 に 関 する 分 子生 物 学 的研 究)
遺 伝 子 の 上 流 域 と 下 流 域 に は 、 転 写 の 開 始 、 終 結 、 ま た 、 転 写 物 の プ ロ セ ッ シン グ を 制 御 す る シ ス 配 列 があ る 。コ ム ギ のヒ ス トンII3遺 伝子 の 上流 に5ま 、 数種 の 植物 に 共 通 す る こ と か ら へ キ サマ ー 、オ , ク タマ ー (2個) 、 ノ ナマ ー の3種類 の シ ス配 列 の存 在 が 知 ら れ て い た 。 申 請 者 は 、 そ の 遺 伝 子 の 上 流 域 欠 損 変 異 遺 伝 子 を 作 成 し 、 ヒ マ ワり の 植 物 体 に 導 入 し て そ の 発 現 を 調 べ る こ と で 、‑ 185 bp領 域 内 に 転 写 効 率 に 関 す るシ ス 配 列 が 複 数 存 在 す る こ と を 確 認 し た 。 次 に 、 上 記3種 類 の シ ス 配 列 に 塩 基 置 換 を 導 入 し 、H3ヒ ス 卜 ン プ ロ モ ー タ ー の 活 性 が 事 実 低 下 す る こ と か ら 、 そ れ ら が 真 に 転写 の 効 率を 制 御 する シ ス配 列 で ある こ とを 証 明 した 。
Northern法 に よ っ てII3ヒ ス ト ン のmRNAの 合 成 が 、 種 子 の 発 芽 過 程 でDNA合 成 期と ほ ぼ 一致 す る こと を 示し 、 さ らに 、H3プ ロ モー タ ー とGUS( ロー グ ル クロ ニ ダー ゼ〕 とのキ メ ラ 遺 伝 子 を 作 っ て イネ の 同調 培 養 細胞 に 導入 し 、 細胞 周 期特 異 的 な発 現 を 証明 し た。
ま た 、 イ ネ の ト ラ ン ス ジ ニ ッ ク 植 物 で は 、 そ の プ ロ モ ー タ ー が 分 裂 期 の 細 胞 の 多 い生 長 点 で 発 現 す る こ と を 確 認 し た が 、 他 方 、 細 胞 増 殖 と 無 関 係 な 葯 壁 や 柱 頭 に お け る発 現 のあ る こ とも 示 した 。
HBP・ ・la.HBPー1bと呼 ばれるコ ムギの核 タンパク 質tまへキ サマー配 列に結合す ること が 既 に 明 ら か に さ れ て い た が 、 申 請 者 は 、HBP―laのcDNAに 、CaIy35Sプ ロ モ ー タ ーを 付 け 、 ま た 、 ヒ ス 卜 ンH3の 最 小 プ ロ モ ー タ ー とGUSと の キ メ ラ 遺 伝 子 も 調 製 し て 、 両 一 ・87―
行 廣明 之 茂
正 敦 藤合 川藤 谷 落吉 加 授授 授授
教 教教 教助
― 査査 査査 主副 副副
者を同時にタバコのプ口トプラストに導入し、H3プロモーターの発現がHBP−laの存在 で僅かながらも滅少することをみた。
更に、HBP−laのcDNAと35Sプロモーターの闇に酵母の転写促進因子、GAL4のDNA結合 ドメ イン 配列を っな ぎ、 他方 、レポーター遺伝子には、H3プ口モーターの上流にGAL4 の標 的配 列を付 けて 、エ フェ クターとレポーター閤の相互作用をより増強した系を開 発した。その効果的な同時導入の実験系を用いて、IIBP―laのcDN/Iを複数の領域に分割 して使用し、KBP―laタンパク質が機能の異なる若干の領域に区分されることを明らか にした。この事実はHBP−laが正に転写制御の卜ランス因子であることを明白に証明し たものである。
ヘ キサ マーと 、そ の下 流の 逆方向 のオ クタ マー は、転 写制御に関して1個の機能的 単位 だと 想定さ れて いた が、 申請者は、両モチーフにっいての塩基置換の結果から、
各配 列は それぞ れが 単一 のシ ス配列 であ ると 共に 、両者 はまた機能的に1単位のシス 配列ともみなされることを示した。更に、ヘキサマーに結合するHBP−laは、逆向きオ クタマーには結一合しない事実などから、オクタマーに結合する別種の核タンパク質の 存在が強く示唆された。
また、申請者は、植物ヒストン遺伝子の3 下流域に共通してみられる植物固有の配 列 、TTT(N)13−16GATTに 注 目 し 、3 欠 損 変 異 遺 伝 子 を ヒ マ ワ り に導 入 し て 解 析した。その結果、その配列が植物でのヒストンmRNAの3 端のプロセッシングに必要 な事 を明 らかに し、DNAの分 子構 造と プロセ ッシ ング 様式 において、動物のヒス卜ン mRNAとは異なることを示した。
上記の研究成果は、高度な実験技術を巧みに取り入れて明確な結果を収めたもので、
植物 ヒス トン遺 伝子 の転 写制 御のみならず、植物遺伝子の転写機構全般の理解を深め るう えで も極め て重 要な 知見 を提供するもので、国内外から高く評価されている。最 終試 験の 結果も 満足 すべ きも ので、公表済みの21編の参考論文の質も高く、審査員一 同 は 申 請 者 が 学 位 ( 理 学 ) を 取 得 す る に 充 分 値 す る も の と 認 め た 。
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