博 士 ( 理 学 ) 小 俣 節 子
学 位 論 文 題 名
Studies on the binding of sperm to the vitelline coat (VC) in an anuran,
Bufo japonicus :its mechanism and molecular entities of VC involved
(ニホンヒキガエルにおける卵膜と精子の結合機序とそれを担う卵膜分子についての研究)
学位論文内容の要旨
多くの動物種の卵を取り囲む糖タンバク質性の細胞外マ卜リックスはゼリ―層、卵膜あ るいは透明帯などからなり、精子による種認識の場となるだけでなく、精子の活性化や先 体反応の誘起、さらに多精拒否の場としての役割を担うことが知られている。両生類では 受精の成立にゼリ―層が必須であるばかりでなく、精子の通過性に関して卵膜も顕著な変 化を示すことが知られている。すなわち、体腔卵は精子が卵膜を通過できないため受精し ないが、輪卵管を通過する際に輸卵管直部からの分泌物によって卵膜が部分分解されるた め子宮卵は受精可能となり、さらに受精卵は卵から放出される物質によって卵膜に物理化 学的な変化が起こるため再び受精不可能となることが明らかにされている。申請者は、ニ ホンヒキガエル(Bufo japonicus)を用いてゼリ一層を取り除いた卵を特定の溶液中で媒精 すると、受精可能な子宮卵卵膜には多くの精子が結合するが、受精不可能な体腔卵や付活 卵にはほとんど結合しないことを発見した。そこで卵膜への精子の結合を定量的に評価す る実験系を確立し、それを利用して卵膜の精子結合能の獲得機構、および卵膜と精子の結 合様式と それを 担う卵膜 分子の同 定を目 的として実験を行い、以下の結果を得た。
1.卵膜の精子結合能の獲得機構:ゼリ一層を除去した子宮卵は受精環境である淡水に 相当する塩溶液中では受精しないが、ゼリ―内のイオン組成を再現した塩溶液である reconstrtuted satt solution(RSS)中では受精可能である。未受精卵から単離した卵膜を RSS中で媒精し、位相差顕微鏡下で卵膜の単位面積(0.2mr12)当たりに結合した精子数を数 えることによって卵膜への精子の結合を定量化した。この定量法によれば子宮卵卵膜には 100から300ケ前後の精子が結合するが、受精不能な体腔卵の卵膜や低イオン強度下で付 活させた子宮卵の卵膜にはその数%の精子しか結合しなかった。これまでの研究により、
体腔卵は輸卵管直部の抽出液あるいはその分泌顆粒の内容物で処理すると子宮卵と同様に 受精可能となること、またそれは分泌顆粒中のトリプシン様酵素が40−52kDaの卵膜成分 を部分分解して36‑39kDaに転換させることが1要因となっていることが既に知られてい る。そこで、体腔卵卵膜を輸卵管直部の抽出液で処理すると子宮卵卵膜と同じレベルの多 数の楕子が結合するようになり、また分泌穎粒の内容物あるいはゲル濾遇によって部分精 製したトリブシン様酵素による処理でも卵膜に結合する精子数が増加し、これらの作用は トリブシン阻害剤によって抑制された。以上から、体腔卵卵膜は輪卵管直部から分泌され るトリブシン様酵素により40―52kDa成分が部分分解を受けることによって子宮卵卵膜と なり、精子結合能カを獲得することが明らかとなった。
2.卵膜と精子の結合様式:卵膜への精子結合を保証するRSSは比較的高濃度のCa2+,
Mg2゛を含むため卵膜と精子の結合における2価陽イオンの役割について検討した。RSSか
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らCa2+,Mg2゛を除去すると子宮卵卵膜に結合する精子数は著しく減少し、Ca2+,Mg2+.の濃度 に依 存 して 増加 した が 、こ れら のイオン単独では結合は不十 分であった。ゼリ―層を除 去 した 子 宮卵 は生 理的 塩 顛溶 液で あるDe Boer液や そ の稀釈液 中では受精せず、同時にこ れ らの 条 件下 では 卵膜 へ の精 子の 結合 も起 こ らな いこ とから 、この反応は受精の1ステッ ブ を反 映 した もの であ る こと が伺 える。卵膜に結合した精子を 走査型及び透遇型電子顕微 鏡 で観 察 した 結果 、精 子 はそ の頭 部先端で卵膜と結合しており 、また圧倒的多数が先体反 応 を起こしていなか った。すなわち精子は先体 反応なしに卵膜に結合できる ことがわかった。
、3. 精 子 の 結合 に おけ る卵 膜の 糖 鎖の 関与 :ヒ キガ エ ル子 宮卵 卵膜 は主 に112kDa, 61−65kDa,36−39kDaの 糖タ ンパ ク 質か ら構 成さ れ ている。 子宮卵卵膜を卜リブシン, キ モト リ ブシ ンな どの タ ンパ ク分 解酵素で処理しても卵膜への 精子の結合は影響されなか っ た。 子 宮卵 卵膜 を過 ヨ ウ素 酸酸 化により糖鎖の還元末端を解 離させると精子の結合は著 し く減 少 した 。抗 卵膜 ウ サギ 血清 のlgG分画およびそのFabフラ グメントで子宮卵卵膜を処 理 する と 、精 子の 結合 は 阻害 され た。ウェスタンブロットによ る解析によればこの抗卵膜 抗 体は ブ ロナ ーゼ 処理 し た卵 膜に は反応するが、トリフルオロ メタンスルフォン酸または ぺ プチ ド‑N‑グ リ コシ ダー ゼFで糖 鎖除去を行った卵膜とは反応 しないので、卵膜の糖鎖を 主 に認 識 して いる と考 え られ る。 更に子宮卵卵膜を様々なレク チンで処理したところ、卵 膜 へ の 精 子 の 結 合 はConAによ り 最も 強く 、SBA,DBA,PNA等 で強 く阻 害さ れた 。 これ らの 実験 よ り、 卵膜 糖鎖 の うち 末端 のManあ るい はGaINacが重要 であることが示唆された。 ペ ロキ シ ダー ゼで 標識 し たレ クチ ンを用いて子宮卵卵膜成分の レクチンブロットを行った と こ ろ 、ConAは112kDa分 子 に 強 く61‑65kDa分 子 に 弱 く 反 応 し36−39kDa分子 に はほ とん ど反 応 しな かっ たの に 対し て、DBAはす べて の卵 膜 分子に反 応した。また子宮卵卵膜を 過 ヨ ウ 素 酸 酸 化 す る と、DBAの対 する 反 応は 完全 に消 失す る のに 対し て、ConAに 対す るそ れは 部 分的 に消 失す る のみ であ った 。ConAに対 する 結合 部位 は 卵膜 表面 に数 多く存在 す るこ と が既 に確 かめ ら れて いる こと から 、 前記 のConAに よる 精 子の 結合 阻害 は糖鎖末 端 に 結 合 し た レ ク チ ン に よ る 立 体 障 害 に 基 づ く も の で あ る 可 能 性 が 高 い 。 4.精 子と の 結合 に関 わる 卵膜 分 子の 同定 :子 宮 卵卵 膜を1%SDSを 含 む緩 衝液中で1分 問煮 沸 する こと によ り 可溶 化し て得た卵膜液は、これを精子 と共存させると卵膜への精 子 の結 合 を阻 害し 、ま た 抗卵 膜抗 体Fabフ ラグ メン 卜 の持つ卵 膜と精子の結合阻害活性を 中 和 し た 。 可 溶 化 し た 卵 膜 をSuperosel2に よ ル ゲ ル 濾 遇 し 、112kDaの 分画(groupI),
112kDaと61−65kDaを 含 む 分 画(groupI| ) ,61―65kDaと36‑39kDaを 含む 分 画(group
‖I),36‑39kDaの分画(group IV),の4グルーブに分けた。各分画について(a)精子と卵膜の 結合 を 阻害 する 活性 と 、(b)抗卵 膜抗体Fabフラグメントによ る精子と卵膜の結合阻害を 中 和す る 活性 とを 調べ た 。そ の結 果、 活性 (a)はgroup IVに 著し く強 く 、ま た活性(b)は group lIl及 びIVに の み に み ら れ た 。 こ れ らの 実 験か ら、group‖ |及 びIVに 含ま れる 36ー39kDaの 卵 膜成 分 が精 子の 結合 に 深く 関与 して いる 可 能性 が高 い。 前述 し たよ うに 36‑39kDa分 子 の 糖 鎖はDBAには 反応 す るがConAには 反応 し ない こと を併 せて 考 える と、
36―39kDa分 子 のGaINacを末 端に 持 つ糖 鎖が 精子 の 結合に重 要であるとみなされる。更 に 興味 深 いこ とに 、卵 膜 成分 のう ち36―39kDa成分 に 限ってス フアンゴ糖脂質の塘鎖であ る GaINac{31ー4(NeuAC02−3)Gal[31−4Glcを認識する抗GM2モノ クローナル抗体に特異的に 反 応 し た 。 こ の 塘 鎖 構 造 はDBAに よ っ て も 認 識さ れ るの で、 卵膜 の36―39kDa成 分の うち GaINacを 末 端 に 持 つ 糖 鎖 が 精 子 の 結 合 に 機 能 し て い る 可 能 性 が 極 め て 高 い 。 本 研究 で開 発さ れ た精 子と 卵膜の結合を測定する方法お よび得られた結果を基礎に 、 卵膜 の 糖タ ンバ ク質 の うち 抗GM2抗 体で 認識 され る 糖鎖が実 際に精子を結合させるのか 、 また 楕 子の 表面 上の い かな る分 子が卵膜と結合するかなどの 解析を通じて、無尾両生頬 に おける受精の分子機構の解明が可能になると信ずる。
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学位論文審査の要旨
主査 教授 片桐千明 副査 教授 鈴木範男 副査 教授 高橋孝行 副査 教授 星 元紀
(東京工業大学大学院生命理工学研究科)
学 位 論 文 題 名
Studies on the binding of sperm to the vitelline coat (VC) in an anuran, Bufo japonicus :its mechanism and molecular entities of VC involved
(ニホンヒキガエルにおける卵膜と精子の結合機序とそれを担う卵膜分子についての研究)