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修士学位論文

とうもろこし由来グリーンコンポジットの 積層プロセス技術の向上と機械的特性評価

に関する研究

     指導教授     吉葉正行 教授

平成 24年 2月20目  提出

首都大学東京大学院

理工学研究科   機械工学専攻 学修番号       09883312

氏 名      栗原 慶

(2)

学位論文要旨(修士(工学))

論文著者名 栗原 慶

論文題名: とうもろこし由来グリーンコンポジットの積層プロセス技術の向上と       機械的特性評価に関する研究

 化石資源の最大限利用で成立してきた大量生産・大量消費・大量廃棄により展開さ れた20世紀型ものづくりは,世界経済を飛躍的に発展させた反面,地球規模の深刻 な環境問題をもたらした。その結果,環境問題と資源・エネルギー間題の同時解決を 目指すリデュ』ス・リュース・リサイクルの3Rに根差した循環型社会の構築が21世紀 型ものづくりにおける急務の課題となった.このような背景から,化石資源に代わるバ イオマスの利活用に大きな期待が寄せられており,とりわけ世界中で毎年大量に生産 される非木質系農作物は持続可能性が極めて高い資源として,その利用価値が注目

されてきている.

 農作物の中でも,麦や米とともに世界三大穀物の一つであるとうもろこしは生産量が 年間8億トン以上と最も多く,近年では人口増加に伴う食料需要の高まりに加え,バイ オエタノール等の資源作物としてのとうもろこし需要も増加している.しかしながら,食料 や飼料,燃料としての利用は主にとうもろこしの実部を主対象としており,茎・葉部のほ とんどが未利用のまま野焼きや直接埋立てなどにより処分されている.したがって,とう もろこしの廃材部も含めた高度利活用のためには優先順位を付けて全体最適化を図る 必要があり,(1)人間や家畜の食用利用,(2)茎・葉部の素材利用,(3)でんぷん質やセ ルロース質等の素材成分の抽出利用,(4)エネルギ』転換または堆肥利用などに1順位 を付けた機能的カスケード利用の概念に基づき,各階層での研究開発が求められる.

 このような観点から,本研究では非木質系の農業廃棄物として毎年大量に廃棄され,

素材供給能力としては持続可能性が極めて高いとうもろこし茎部から繊維を抽出して,

これの引張特性を評価するとともに,これを強化繊維材として,やはりとうもろこし等の 植物由来の生分解性ポリマーの代表格であるポリ乳酸(PLA)系ポリマーをマトリックス 材としたとうもろこし長繊維強化グリーンコンポジット(GC)の製造プロセス技術の最適 化を目的とし,とうもろこし長繊維強化GCの基本的特性として重要な引張強度特性に

(3)

及ぼす種々のプロセス条件の影響について綿密に検討した.

 本論文は全5章で構成されている.

 第1章は緒論であり,とうもろこしの利活用の現状と構造部材としての天然繊維,生 分解性プラスチック,及びGCに関する研究動向を概観し,先行研究から浮彫りになっ た課題を示し,本研究の意義と目的を明確にした.

 第2章では,先行研究において比較的高い引張強度特性を有すると評価された多 目的品種である「おおぞら」種を用いて,とうもろこし繊維の機械的特性評価について 検討した.その結果,とうもろこし茎部には表皮付近にうろこ状の表面形状を有する単 繊維の集合体が存在しており,茎の直径が雄穂から根にかけて太くなるのに対応して,

その本数は増加傾向を示すことが観察された.また,とうもろこし繊維の引張強度特性 は著しいばらつきを示すため,茎からの繊維抽出部位毎に分類して統計的評価を試 みた結果,引張強度特性が繊維抽出部位毎にワイブル統計によって評価できることを 明らかにした.そして茎最下部や,雌穂直下の茎部から抽出した繊維に比べて,雌穂 より下部の茎中央部分より抽出した繊維が優れた引張強度特性を有すること,それゆ えこの中央部から抽出した繊維がコンポジットの強化繊維材として最適であることを明 らかにした.

 第3章では,とうもろこし長繊維の積層技術とGC圧縮成形機の設計について検討し た.その結果,麻挽き機械のメカニズムを参考に作製した繊維抽出器具により,とうもろ こし茎繊維を繊維方向に整列させた状態で,典型的なHemp繊維束と同等の線粗さを 有する繊維束の抽出方法を確立した.そして,その繊維束を新たに設計したGC圧縮成 形機に適用することにより,適切に整列した繊維束を含有したGCの製造に成功した.

 第4章では,第2章で得られた新知見に基づき,第3章で設計した成形機を用い て,「おおぞら」種の雌穂より下部の茎中央部分より抽出したとうもろこし長繊維強化 GCの機械的特性に及ぼす積層プロセス諸条件の影響について検討した.その結果,

溶融成形後空冷したGCは比較的高い引張強度特性を示し,さらに繊維束にスリット を入れマトリックスとの接触面積を増やすことにより引張強度特性が向上することを見 出した.またGCの引張強さとヤング率は,繊維含有率の増加に伴い向上することを実 証した.種々の冷却方法により製造されたGCは巨視的な破壊と微視的な損傷状況と もに特徴的な様相を呈したため,その要因について損傷解析や示差走査熱量測定な どの援用により考察を加えた.これらの結果を基に,GCの引張強度特性向上に向け ての最適プロセス条件の提案を試みた.

(4)

第1章緒論………

1.1研究背景………

1.2研究動向・・……一…一・・

 1−2.1天然繊維・・………・

 1.2.2生分解性ポリマー……

 1五3グリーンコンポジット…・

1.3研究目的.………

    目次

1■・・…・・1・・・・・・・・・・・・・・・・… @■■… ■1・・1■… 1・・1

・・・・・・…@1■■・・・・・・・・… ■・・… 1… ■■・・1… 11・・1

・・… @■・・■・… ■・… ■・・■■・■・■■・・■・… ■… ■・・… 5

… ■・・■・・■■・■・・・・・・・・… ■■… ■■・■■・■・■・・■・・■■5

■・・■・・■・■■・・■・・・・… @■・・■■■・・・・… ■・・■・・■■・■・8

・■・・■… @■・・■■・・■・… ■・■■・・… ■・・■・■… ■・・■・・■g

・…@…・・・… 1・・11・・11… 1… 11・1… 1・・・・・… 111

第2章とうもろこし長繊維の機械的特性評価・・……一……・・一・・一・・…・・…12

2.1緒言………・………・・………・…・・12 2,2供試材および実験方法……一一一一一。………・…・・…一13  2.2.1とうもろこしの茎の諸特性……・…………・・………一・・13  2−2.2とうもろこし長繊維の諸特性……一・・一・…・・一・・一・………・…22  2.2.3とうもろこし長繊維の抽出方法………・・…・一………一……26  2.2.4引張試験………・・一……____。一、_____28

2.3実験結果および考察………・…………一・…・…・一一……一・…・一一・29  2.3.1とうもろこし長繊維の引張強度特性に及ぼす繊維抽出部位の影響・…・29  23.2とうもろこし長繊維の引張強度特性に及ぼす茎採取部位の影響・……33  2.3.3とうもろこし長繊維の引張強度特性に及ぼす各種材料因子の影響・・一・・46

2−4緒言………・・一………・・…・………・一・51

第3章とうもろこし長繊維の積層プロセスの合理化と

    グリーンコンポジット溶融圧縮成形装置の改良………・一52

3.i緒言…・……一………・………≡・・…・…・・…・一・…・・……・一一一52 3−2積層用とうもろこし長繊維の概要…………・・…I一一一…I I…53  3.2.1積層用とうもろこし長繊維の製造方法………・…・一……・… 53  3.2.2積層用とうもろこし長繊維の幾何学的特性.…一・…・……・…一・・…・・57

33グリーンコンポジット溶融圧縮成形装置の改良型の概要一一……… 66

(5)

3.3.1グリーンコンポジット溶融圧縮成形装置の諸性能…・・……・…一…一66 3.3.2とうもろこし長繊維積層プロセス…一…・……・…一一一…・・……・…・70 3.3.3グリーンコンポジットの成形と性能検証………・一・…・・…・72 3−4緒言……一・…………一……・・……・・・・・・………・・………一一75

第4章とうもろこし長繊維積層グリーンコンポジットの機械的特性に及ぼす

    プロセス諸条件の影響………・・一………・・…・76 4−1緒言………・………・一………・………・・………76

42供試材および実験方法・…・・一……一・…・一一…・・…・…・…・…一・・…77  4−2.1ポリ乳酸の諸特性……・…・……・・一・………・一・…・…77  42.2積層用とうもろこし長繊維の諸特性一………一・…………78  42.3グリーンコンポジットの製造方法……一…………・………78  4−2.4引張試験………一・・…….…__.。一。.__._.一_80

4−2.5示差走査熱量測定………・・一・・……・…・一…一・…一一・80  4−2.6損傷解析…・…………・・一・・…………・・…・一・・……・…・・一・・80

4−3実験結果および考察………・………一・…………・・一…一…一・・一・・81  43−1グリーンコンポジットの引張強度特性………・・一一…一……81  4−3.2ポリ乳酸ポリマーおよびグリーンコンポジットの結品化に及ぼす

    冷却条件と繊維の影響…・一・……・・…一・・一………・…・・…一一・・84 43−3ポリ乳酸ポリマーおよびグリーンコンポジットの損傷解析…・・…・…・一86 4−34グリーンコンポジットの損傷解析に基づく今後の技術課題一……・…・・93 44緒言…・…・一……一一・・一一…………・…・・一・・………g4

第5章結論………・・…一……・…………・・………95

参考文献…………・……一一………一・≡……・……・・…・……一・・一・97 謝辞一…………一…・一一・…・…………一・一一・…・…・………・・一・…・・100

(6)

第1章緒論

1.1研究背景

 化石資源を最大限利用することにより展開されてきた大量生産・大量消費・大量廃棄による 20世紀型ものづくりは,世界経済を飛躍的に発展させた反面,地球規模の深刻な環境問題を もたらした.その結果,環境問題と資源・エネルギ』問題の同時解決に向けた取り組みが,21 世紀型ものづくり分野における喫緊の課題となっている.さらに,2011年3月11日に発生した 東目本大震災の影響により,原子力発電所の稼働率が下がり,京都議定書で定めた2020年 までの排出削減目標の達成が困難になったため,2011年12月に開かれた気候変動枠組み 条約第17回締約国会議(COP17)により,日本は2013年度以降に新たな削減義務を負わな いものの,省資源,省エネルギー,再生可能エネルギーの推進により自主的な温室効果ガス の排出削減を目指している.我が国における温室効果ガスの排出量は図1−1のように推移し

ている!).

 さて,1990年代初頭に誕生したエゴマテリアル(環境配慮材料,Env止。nmenta1Conscious Materia1s)の概念は,「環境負荷を最小にし,再資源化率を最大にした材料」,あるいは

「その材料を使用することによって,製品,システムの環境効率(単位サービスあたりのライフ サイクル環境負荷)が従来材料と比較して飛躍的に向上した材料」と定義され,地球温暖化 対策上極めて重要な意義をもっており,今日では持続可能な発展に向けたエコ÷テリアルの 研究開発および実用化導入が世界中の材料系科学技術者に強く求められている2).とりわけ 化石資源に代わるバイオマスの利活用はカーボンニュートラルという観点から大きな期待が寄 せられており,我が国でも2002年12月に農林水産省を中心として内閣府,文部科学省,経済 産業省,国土交通省,環境省がまとめたバイオマスの総合的な利活用に関する戦略,通称

rバイオマス・ニッポン総合戦略」が閣議決定されている.このバイオマスは種類や性状が多 様であるため,利用の範囲も8F(Food,Feed,Ferti1izer,Fiber,Forest Prqducts,Fue1,

Feedstock,Fine Chemica1s)の各分野において多岐にわたるが,これらをいかに無駄なく使い こなすかということは極めて重要かっ難しい課題である.農水省が公表している2008年時点 での我が国のバイオマス賦存量および利用率は図1−2のように示されており,とりわけ農作物 非食用部の利用量はわずか30%程度であること,さらにこの用途もせいぜい飼料や堆肥とさ れていることが問題視されている.これが,世界中で毎年大量に排出される農業系廃棄物の 有効な利活用が急務とされる所以である3).

(7)

 農作物の中でも,麦や米とともに世界三大穀物のひとつであるとうもろこしの生産量は年間 8億t以上と最も多く,図1−3に示すように年々増加の一途を辿っており,近年では人口増加 に伴う食料需要の高まりに加え,バイオエタノールやバイオディーゼル等,資源作物としてのと うもろこし需要が生産量増加を後押ししている4).資源作物としてのとうもろこし利用の現状は,

大部分がバイオエタノールに代表される燃料利用に特化されており,2000年代初頭よりアメリ カ政府はとうもろこしの実部を原料とするバイオエタノールの研究開発および実用化導入を積 極的に推進し,2006年度にアメリカで栽培されたとうもろこしは,生産量の約20%がバイオエ タノールに利用されている5).

 これに続き,我が国においても2007年4月よりバイオエタノールを含んだガソリンの試験販 売が行われており,資源作物としてのとうもろこし利用は今後も世界規模で拡大するものと考 えられている.ところが,燃料利用は人間食料や家畜飼料との競合,あるいはとうもろこしの価 格高騰を招いているという指摘があること,食料や飼料,燃料としての利用は,主にとうもろこし の実部を対象としており,茎・葉部のほとんどが未利用のまま野焼きや直接埋立てなどにより処 分されていること,さらには現状の衰術開発はそれぞれの専門分野に偏って展開されている ため部分的に最適の状態であること等が問題となっている.したがって,とうもろこしの非食用 部も含めた高度利活用のためには,図1−4に示すように優先順位を付けて全体最適を図る必 要があり,(1)人間や家畜の食用利用,(2)茎・葉部の素材利用,(3)でんぷん質やセルロー ス質等の素材成分の抽出利用,(4)エネルギー転換また堆肥利用等に1頂位を付けた機能的 カスケード利用の概念に基づき,各階層でのバランスの取れた高度研究開発が求められる6).

 この機能的カスケード利用において,優先順位の高い素材利用より得られる天然繊維を強 化繊維材とし,やはり優先順位の高い素材成分の抽出利用より得られる生分解性ポリマーを マトリックス材とした生分解一性複合材料(グリーンコンポジット:GC)は環境に優しいエゴマテ リアルとして近年脚光を浴びており,ケナフ繊維等を強化繊維材としたGCの実用化導入が自 動車の内装材,携帯電話やノート型パソコンの筐体などにおいて一部進んでいる7).しかし現 時点では,製造技術をはじめとして,特性評価技術,応用技術等,発展させるべき余地が多く 残されており,今後一層の研究開発が不可欠と言える.さらに,現状の研究開発は強化繊維 材に麻糸繊維をはじめとする栽培集約型の植物を利用するものが主であるため,農業廃棄物 の利活用という観点から,とうもろこしの茎部抽出繊維を強化繊維材とするGCの創製が強く期

待されるところである.

(8)

排出量

{働トンCO筥穂寛}

13

12 11

10

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I . 川川 1 ■ 一  1  I    .   ■    ■

12構引00方

12額8・100外ン   1場華等比一制%1(業華年比・1・榊   く繍等比十39%・

トン {2額900万トン

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∫㌦禰       }10.3嶋

一一3,6跳

携出量に森林殴収量の 目模及ぴ京報メカニズム クレジット(設宿に移転さ れた農悶クレジッ←を合 む)を有種した場合の遺 韓年比。

議灘簸吉;

1撃鰐鰯ぎ年〕

12億5,6⑰0万トン

 こ 業学    2G05  2⑬06

{業難1990年)

図1−1

2⑰Oア   2008       2009       2010

      {道真賃)

日本の温室効果ガス排出量の推移1)

廃棄物系 バイオマス

 家畜排泄物約8,700万t   下水汚泥約7,900万t     黒漆約7,000万t    廃棄紙約3,600万t  食品廃棄物約1,900万t 製材工場等残材約430万t  建設発生木材約470万t

、終ス{農作物非二幾材約ぶ

図1−2 日本のバイオマス賦存量および利用率3)

(9)

(百万トン)

900 800 700

6◎0

500 400 300 200 100  0

06/07         07/08

     図1−3

   08/09         09/10

世界のとうもろこし生産の状況4〉5)

10/11

饗その他 アルゼンチン

■メキシニ1 簸ブラジル

 1三u27 16米国

(年慶)

}1111

..その地

図1−4

資源作物

どうもろこしを代表例とする農業作物・廃棄物の機能的カスケード利用の概念6)

(10)

1.2研究動向 1.2.1天然繊維

 天然繊維の機械的特性評価に関する研究は,石油由来の熱硬化性ポリマーをマトリックス 材とする複合材料の研究とともに1980年代よりみられるようになった.この天然繊維は植物系,

動物系,鉱物系,あるいはセルロース系とタンパク質系に大きく分類できるが,植物系セルロ ース天然繊維だけでも非常に多くの種類があるため,複合材料の強化繊維材としての研究対 象も様々である8).例えば,欧州ではヘンプ麻やジュート麻に代表される麻糸繊維の研究が 盛んであり,我が国では地域性を活かしたバガス繊維や竹繊維なども研究されている.

 天然繊維は多くの場合,植物の靭皮部分より抽出された繊維が利用される.繊維の抽出方 法にはアルカリ溶液による苛性処理が広く用いられるが,爆砕処理等からも繊維を抽出するこ とができ,さらに抽出した繊維を叩解するとフィブリル化することが知られている8).

 天然繊維の特徴としては,ガラス繊維や炭素繊維等の化学繊維に比べて一般的に密度が 小さく,比剛一性が高いことにある.また,引張強さはガラス繊維に遠く及ばないものの,引張弾 性率ではあまり遜色のないものも確認されている.天然繊維に関するいくつかの研究事例から は,繊維軸方向に対するマイクロフィブリルのねじれ角,セルロースの結晶構造や結晶化度,

植物の成長や繊維抽出過程で生じる欠陥,ルーメンを含む繊維断面積の大きさ,高温下にお ける熱劣化,繊維の水分率,マーセル化と呼ばれる繊維構造制御等が機械的特性に影響を 及ぼす重要な因子であることなど,構造材料として有用な多くの知見が報告されている9)一12).

 しかしながら,天然繊維を強化繊維材とする研究の多くは麻糸繊維のような栽培集約型の 植物を対象としており,これらを多量に利用するためには資源作物のための農地確保という新 たな問題が生じる恐れが指摘されている.一方,農業廃棄物の繊維利用に関しては,とうもろ こし,バガス,ヒマワリ,ココナッツ,バナナなど様々な食用植物の茎から抽出した繊維を用い た研究事例が出現しつつある13).特に本学の前身である都立大においてM.Daudaらによって,

とうもろこし繊維やバガス繊維等が研究対象に選ばれ,これらが相当優れた強度を有することが 報告されている14).しかし,優れた持続可能一性を有するとうもろこし繊維の機械的特性は未だ解 明されていない点も多く,これを詳細に評価解析することは,とうもろこし長繊維強化GCの各種 特性の評価と特性向上を図る上で極めて重要である.図1−5は様々な天然繊維に対して吉葉,

M.Daudaがまとめたエゴマテリアル・ハンドブックのデータに今までに報告された研究論文や先 行研究の結果などをまとめて再編集した各種天然繊維の引張強度特性の比較データである.

(11)

 先行研究において,とうもろこしは他の麻糸繊維に匹敵する引張強度特性を有し,特に多 目的品種の「おおぞら」,「チベリウス」は食用品種の「スイートコーン」よりも格段に優れている ことが見出された.さらにとうもろこしの場合,同種間においても茎部からの抽出箇所によって 引張強度特性に差異が生じることがこれまでの研究から明らかになっている.しかしながら,同 種間の抽出箇所による差異はサンプル数を増やすことにより更に明確に現れる可能性が考え られる.また,従来の繊維引張試験用の治具は自重による予荷重が必要以上に加わるため,

弱い繊維は計測前に破断するので必然的に評価できないことが課題となっている.さらに,雌 穂(しすい)下方から収穫した茎でのみを調査してきたが,根から雄穂までの茎全体において 一つ一つの節間の繊維を対象にすることによりGCの強化繊維材として高強度でかつ繊維量 が豊富な最適繊維群を見出せると考えられる.

(12)

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Bagasse Cotton  Hemp  Kenaf  Ramie Ohzora Sweetcom    Bamboo Flax   Jute Pineapple Sisal Tiberius

   図1−5 各種天然繊維の引張強度特性の比較2〕・軌15)■23〕

(13)

1−2.2生分解性ポリマ.

 一方,生分解」性ポリマーとは,自然界に生息する微生物によって分解し,最終的には水,メ タン,二酸化炭素に変わるポリマーのことである.現在,工業生産レベルで製造されている汎 用の生分解 性ポリマーはポリ乳酸が中心であり,安定供給が可能になったのは21世紀に入っ てからである.最近のポリ乳酸の生産動向としては,アメリカのネイチャーワークス社が14万t/

年のプラントを稼動させており,これに続くポリ乳酸製造プラント建設の動きも中国や欧州でみ られる24).そして,世界における生分解性およびバイオベースポリマーの需要は2015年に現 在の3倍以上の100万t以上となり,市場価値として29億米ドルに達すると予想されている25).

将来的には微生物生ポリエステルやバイオポリエチレン等も工業化され,物性面でポリ乳酸と 補完しあう生分解性ポリマ〕が登場すると考えられているが,現状の実用化実績からすれば,

ポリ乳酸はこの先も有用な生分解性ポリマーであるとみて間違いない.

 ポリ乳酸は乳酸の重合体であり,とうもろこしやいも類から得られる澱粉,グルコース,ビート,

またさとうきび等から得られるショ糖の発酵反応によって製造される熱可塑性ポリマーである.こ の特徴として,透明性,防臭性,ひねり特性,ガス透過性,耐水性,耐油性,遮熱性,低溶融粘 度等が挙げられる.これらの長所を活かし,包装分野では食品トレイや青果物包装用フィルム に応用され,2005年に開催された「日本国際博覧会(愛・地球博)」では,生分解性ポリマ』の 実証事業として食器トレイやごみ袋等に大量のポリ乳酸が使用された実績がある26).さらに,環 境負荷軽減を期待した自動車内装材や電子機器筐体等への実用化が検討され始めている.

 一方,短所としては熱結晶化速度の遅さや低耐熱性等が挙げられ,ガラス転移温度に依存 するポリ乳酸の耐熱温度は50℃程度と著しく低いことがしばしぱ問題とされている.ポリ乳酸 は結晶性高分子のため,結晶化促進により耐熱性を高めることができる.ポリ乳酸の結晶化促 進には溶融状態からの遅冷固化や成形後の熱処理による二次成形,さらには延伸配向等の 方法が知られており,これらのいずれかによって結晶化が促進されたポリ乳酸は,耐熱性を著 しく向上させる反面,引張延性や曲げ強さの低下をもたらすことが報告されている27)一30).また,

耐久性(温熱性),難燃性,発泡特性賦与技術,そしてポリ乳酸をマトリックス材とするGCに関 する研究が近年活発に展開されている24) 26).

 しかしながら,溶融圧縮成形によって製造されたポリ乳酸の機械的特性と製造プロセス諸条 件の関係に対する基礎的調査は十分とは言えず,これを系統的に解明することがポリ乳酸を マトリックス材とするGCの最適製造プロセス条件策定の上で必要不可欠である.

(14)

1.2.3グリーンコンポジット

 天然繊維を強化繊維材とし,生分解 性ポリマーをマトリックス材とするGCはガラス繊維強化 複合材料(GFRP)のエコ代替材として有力な候補である.GCの創製技術に関しては諸説ある が,Hermam31)らによると,1994年の報告が最初とされ,その中でラミー麻,ヘンプ麻,フラッ クス麻繊維とPVA(Po1Winy1A1coho1)系生分解一性ポリマーの組み合わせによるGCの引張強さ とヤング率がGFRPの50〜60%レベルで発現されたことが示されている.それ以降GCに関す る研究開発は活発に展開され,現在では先に述べた植物系セルロース天然繊維を強化繊維 材とし,ポリ乳酸をマトリックス材とする組み合わせが主流となっている.

 GCの代表的な製造方法は長繊維のままの使用が可能な圧縮成形,短繊維や微小繊維を今 トリックス材中に分散させる射出成形,押出成形等がある.GCの機械的特性は一般に強化繊 維材の含有量や配向性,製造プロセス条件等によって著しく変化すること,長繊維のほうが短 繊維よりも引張特性の向上に対しては寄与が大きいことなどが知られている.このGCには天然 繊維と生分解一性ポリマーの特徴が大きく反映されており,一般に軽量,低コスト,製造・廃棄時 の低エネルギー消費,高強度,高弾性率,低比重,人体や環境に無害,生分解性等の長所を 有する.その一方では,低耐熱性,低耐衝撃性,高吸湿性,成長や環境に繊維特性が左右さ れる等の短所が指摘されている.このため,GCの基本的特性として重要な引張強度特性や繊 維/マトリックス界面の密着性評価とともに,これらの諸特性に関する多数の研究例が報告され ている8)■9)凧32)一39).筆者が所属する研究室においても,とうもろこし(「スイートコーン」)繊維を 強化繊維材とするGCの創製および機械的特性評価がこれまで展開されてきた40).さらに新たな 特性賦与技術として,制振特性,断熱特性,塑性変形能に着目した研究もしばしばみられる10).

 このように,GCは未だ多くの研究課題を抱えてはいるものの,時代の要請を受けて実用化 導入も積極的に進められている.例えば,ドイツのダイムラー社は世界に先駆け,完全GCで はないものの,ベンツAクラス車のヘッドレストにココナッツ繊維を,Eクラス車の内装材の9割 以上にフラックス麻を始めとする天然繊維を用いた複合材料を使用している10)メ1).我が国でも GCの実用例は多数見受けられ,トヨタ自動車は自動車の内装材やスペアタイヤカバーに,

NTTドコモは携帯電話の筐体にそれぞれケナフ繊維強化ポリ乳酸系GCを使用している42)州.

一方,優れた持続可能1性を有するとうもろこしを強化繊維材とするGCの機械的特性評価およ び最適プロセス条件の提案は,従来材料との代替需要が徐々に高まりつつあるGCの研究分 野において大きな価値を有するものと考えられるが,研究されているのはごく僅かである13).

(15)

 先行研究においてGC試験片はとうもろこし繊維束とPLAシートとを交互に積層させ溶融圧 縮成形により製造していたが,積層させる繊維束を固定することが不可能な構造であったため 圧縮の荷重が掛かると内部で繊維束が3次元的に動き,繊維束が試験片平行部に整列しな い,一方に片寄る,傾く,マトリックス材から露出するなどによる幾何学的な欠陥(制御不能)に より,個々の材料本来の引張強度特性が正確にデータに反映されていない可能一性がある.ま た,GC用の茎抽出繊維束は特定の器具を使わず手作業による製造であったため,製造者の 技量により繊維の厚みや整列の程度が一定ではないことからも,GCの製造方法を圧縮成形 機だけでなく繊維の抽出方法も含め合理的に改善する必要があると考えている.

(16)

1.3研究目的

 本研究では,非木質系の農業廃棄物として毎年大量に廃棄され,素材供給能力としては持 続可能性が極めて高いとうもろこし茎部から繊維を抽出し,これらの引張特性を評価するととも

に,これを強化繊維材として,やはりとうもろこし等の植物由来の生分解性ポリマ㎞の代表格で あるポリ乳酸系ポリマーをマトリックス材としたとうもろこし長繊維強化GCの製造プロセス技術 の最適化を目的として一連の研究を展開した.すなわち先ず,種々の茎部から抽出した繊維 の引張強度特性を評価するとともに,特性データの本質的ばらつきに対して統計学的評価を 試み,強化繊維材として最適なとうもろこし繊維抽出部位の選定を行った.次に,とうもろこし 長繊維強化GCの圧縮成形機を新たに設計することにより適切に整列した繊維束を含有した GCを製造し,機械的特性に及ぼす製造プロセス条件の影響について調べるため,溶融成形 後に空冷固化させたGCを基準として異なる冷却条件で製造したGC,マトリックスとの接触面 積を増加させたGCに対して引張強度特性評価を行い,これらの損傷解析を実施して,機械 的特性へのプロセス諸条件の影響と最適化について検討した.

(17)

第2章とうもろこし長繊維の機械的特性評価 2.1緒言

 複合材料を創造する上で必要不可欠な要件は,構成要素である強化繊維材,マトリックス 材それぞれの諸特性であるが,麻糸繊維をはじめとする天然繊維に比べて,とうもろこし繊維 の機械的特性評価に関する研究例が著しく少ないため,本研究室における実験結果を基準 とする必要がある.先行研究において,とうもろこしはHemp,Jute,Sisa1などの麻糸繊維に匹 敵する引張強度特性を有し,とりわけ多目的品種である北海道産の「おおぞら」とドイツ原産の

「チベリウス」は食用品種である「スイートコーン」よりも比較的優れていることが見出された.さ らに引張強度特性の最も優れた「おおぞら」種において抽出箇所別に強度評価したところ,雌 穂(しすい)の近辺の茎部(Top)やそれより下部中央(Middle)から抽出した繊維はぱらつきが 大きいもの比較的高強度であり,根に最も近い茎部(Bottom)とは異なる特性を有することが 明らかにされている.このような植物の抽出箇所による引張特性の優位性は亜麻繊維といった 他の天然繊維においてもみられ22Σ23),同種間の抽出箇所による差異はサンプル数を増やすこ とにより更に明確に現れる可能性が考えられる.

 また,従来の繊維の引張試験方法では治具の自重によって必要以上に予荷重が加わるた めに,計測前に破断してしまう弱い繊維に関して必然的に評価できないため,引張強度特性 の分布を正確に捉えているかという点で疑問が残る.さらに,従来は雌穂より下方の茎でのみ 調査してきたが,根から雄穂までの茎全体において一つ一つの節間の繊維を対象にすること によりGCの強化繊維材として高強度でかつ繊維量が豊富な最適繊維群を見出すことができ ると考えられる.また,とうもろこしの茎は運搬の利便性のため乾燥させたものを実験材料に用 いているが,乾燥により大きく変形している茎に関して引張強度特性に及ぼす影響について 検討されていない.

 そこで本章では,多目的品種の「おおぞら」の茎部より抽出した繊維の引張強度特性に及 ぼす繊維抽出部位の影響について従来以上に詳細に調べ,GCの強化繊維材として適切な 繊維抽出部位について検討するとともに,茎の材料諸因子の影響について考察を加えた.

(18)

2.2供試材および実験方法 2.2.1とうもろこしの茎の諸特性

 実験に供するとうもろこしの茎は,(独)農業・食品産業技術総合研究機構北海道農業研 究センターで開発された多目的品種「おおぞら」であり,2006年,2010年に北海道で栽培・収 穫されたとうもろこしの茎部廃材を重量が約10分の1になるまで十分乾燥させたものであり,こ の茎部の外皮に存在する繊維を抽出し強化繊維材として用いた.成熟したとうもろこしの概観 は図2−1に示すように「おおぞら」は,食用品種の「スイートコーン」よりも背丈が高く成長し,全 長が3mにまで到達するものもある.とうもろこしの茎は根から雄穂まで10数節に分かれており,

今研究に用いられた茎のほとんどは根から雌穂(L1−L6),雌穂から雄穂(U1−U6)までにそれ ぞれ6節ある.個々の茎部の概観と断面写真を図2−2,2−3に示す.中国で研究されている人 間食用の品種のとうもろこしの研究44)と同様に茎の太さは上に行くにつれ細くなる傾向があり,

茎内部は水分や栄養分を全体に運ぶための髄と呼ばれる柔組織で占められている.茎部の 水分の大半をこの髄が占めており,乾燥させたため髄が縮小して茎内部が空洞化している.

茎の水分量は根に近い部位が高く,上に行くほど低い傾向があることが知られており44),空洞 が根に近い部位ほど顕著であり,L5以上の部位から上では観測されないことからもわかる.茎 断面は基本的に楕円形状であるが,前より同時に発生する細枝の影響により,雌穂より下部 の部位は乾燥させた時にくびれが生じる.茎の各パラメーターについて図2−4のように定義し て50本の茎を対象に調査した結果を表2−1と図2−5〜2−8にまとめて示す.茎の長さはL4で 最大値をとり,L1で最小値を取った.下部上部共に中央部が長い傾向を示している.アスペク ト比は下部ではL1が最小であり中央が大きい傾向があり,上部では上に行くに連れ増加傾向 にある.これは,特に直径の影響が大きいと考えられる.収縮率は根に近いL1,L2では40%

を超える基もあり,水分量の多さが決め手になっていることがわかる.上部ではU5,U6のよう な負の値すなわち節近傍より節中央部の方が太い部位がある(図2−9).これは節の端からに 同時期に成長する葉鞘45)の影響が大きいためと考えられる.葉鞘の厚みは数mmあり茎部の 節近傍は半径方向に自由が無いので細くなるためであると考えられる.またU1に関しては,

雌穂と同じ節から成長する部位であるため,乾燥された時に雌穂を避けるように曲がり,いび つな形状をしている(図2−10).

(19)

挑一、

図2−1成熟したとうもろこしの概観(上:おおぞら,下:スイートコーン)

(20)

   一   」    一   =

根↓

   」   o    、

図2−2 L6

L5

L4

L3

L2

L1

100mm

とうもろこし茎部外観と茎部断面(Lower)

(21)

雄穂合…!

      、艦 雌穂

      図2−3 U6

U5

U4

U3

∪2

U1

100mm

とうもろこし茎部外観と茎部断面(Upper)

(22)

長さ

X1=L

直径

X2=(DA+Dc)/2 アスペクト比

X3=X1/X2

収縮率

X4= (D8−X2) /X2 × 100

図2−4典型的とうもろこし茎部外観と寸法定義

(23)

表2−1 とうもろこし茎部の節間の各パラメーターの平均値

(下部50本,上部25本の茎に対して)

Po汁ion

  X1

iLen姉)

imm)

   X2 i1)iameter)

@ (mm)

    X3 iAsp㏄t Ratio)

@   (一)

      X4

iShrinkage Ratio)

@     (%)

L1 153 22.4 6.8 20.3

L2 229 21.3 10.8 17.3 L3 261 20.6 12.6 9.2 L4 287 19.6 14.6 11.6 L5 255 18.6 13.7 17.2 L6 220 17.6 12.6 17.7

U1 187 15−0 12.5 15.1

∪2 201 12.2 16.6 5.0

U3 232 9.9 23.3 5.1

U4 228 7.7 29.6 2.9

U5 218 5.7 38.3 一2.6

U6 189 4.1 45.9 一6.5

(24)

400

ε

E

2−200

X

0

Ll  L2  L3  L4  L5  L6    U1 U2 U3 ∪4 U5 U6       Portior1

    図2−5各節毎のとうもろこしの茎の長さ

30

520

E

.雪

。10

X

0

L1  L2  L3  L4  L5  L6     ∪1  U2  U3       Portior1

     図2−6 各節毎のとうもろこしの茎の直径

U4 U5 U6

(25)

 80

↓60

0=

一408

高20

×

  0

L1 L2 L3

図2−7

L4  L5  L6     U1 U2  U3 U4  U5  U6        Portion

各節毎のとうもろこしの茎のアスペクト比

 100

  80

?60

匡40

よ20

.…

3 0;…1

 −20

L1 L2 L3

図2−8

L4  L5  L6     U1 U2 U3        Portion

各節毎のとうもろこしの茎の収縮率

U4 U5 U6

(26)

図2−9 U5概観写真 因2−10 U1概観写真

(27)

2.2.2とうもろこし長繊維の諸特性

 代表的な茎の外皮の顕微鏡写真を図2−11,2−12に示す.外皮に存在する繊維は,根に近 い部位では大きく2,3層にわたっており,上部に行くにつれて大きさ,層数共に減少する傾向 にある.とうもろこし繊維の組織に含まれる主成分は他の植物系天然繊維と同様に,セルロー ス,ヘミセルロース,リグニンであり,とうもろこし繊維の代表的な組成を表2−2に示す2).また,

とうもろこし繊維のSEM観察写真を図2−13に,微細構造を図2−14に示す16) 46)一48).繊維の断 面微細構造はルーメンと呼ばれる小さな水路とともに円心円筒に配列された2つの細胞壁で 構成され,大部分は第2層細胞壁中のS2層,すなわちマイクロフィブリルであることが知られ

てし、る.

(28)

灘200μm

図2−11代表的な茎の外皮の顕微鏡写真(Lower)

(29)

U6

U4

200μm

U2

200μm 図2−12代表的な茎の外皮の顕微鏡写真(Upper)

(30)

表2−2 とうもろこし繊維の代表的な組成(%)2)

Cellulose トlemi ce11ulose  Lignin Ash 38〜47 18〜28 7〜22   3.6〜7.0

図2−13 とうもろこし繊維のSEM観察写真

Lumen

S1 Microfibri1

Seconndary

Cell Wall

S2

S3

   Primary    Cell Wa11

図2−14 とうもろこし繊維の微細構造の模式図48)

(31)

2.2.3とうもろこし長繊維の抽出方法

 とうもろこしの茎は,髄の周囲を繊維質の硬い外皮が覆い,更に薄く光沢のある表皮が環境 に曝されている構造となっており,この皮層組織からとうもろこし繊維を抽出した.とうもろこし茎 部から繊維を抽出するまでの一連の手順を図2−15に示す.先ず,節部を除いた茎を長手方 向に切断し,短冊状に揃える.次に,NaOH水溶液中にて煮沸し,その後軟化した茎を流水 中で十分洗浄し,最後に,髄及び表皮組織を完全に除去し室温大気中で十分乾燥すること により,一方向に配列したとうもろこし長繊維を抽出する.繊維抽出には必要最小限の苛性処 理を用いた.とうもろこしの茎は部位ごとに表皮の硬さや茎せん断力が異なることが他の文献 44)からも報告されているように繊維の抽出が可能となる苛性処理の条件も部位によって差異が あり,表2−3に種々の条件における繊維抽出の可否を示す.雌穂を境に茎の硬さは明らかに 異なり,L1は他の部位とは大きく異なり硬く,U5,U6はどの条件でも十分に抽出可能である.

苛性処理はいずれの濃度や煮沸時間においても洗浄時間が長くなると繊維抽出可能な部位 が増える傾向にあり,これは茎を水に浸ける時間が長くなると繊維内の水分含有量が増えるこ とで繊維の強度が低減するためと考えられる.本研究では繊維の抽出条件を揃えるため,全 ての部位において繊維が抽出可能となる苛性処理の条件(濃度6g/1,煮沸条件95℃一90min,

洗浄時間12hour)を用いることにする.これは,前年度までの抽出条件と基本的に同一であ る.NaOH水溶液により苛性処理を行う理由は,一般に,繊維と細胞を強く接着する働きを持 つリグニンが,高温の強アルカリ中で分解または溶解することが知られているためである49).ま た,Na成分が万一残留したとしても,繊維成分との共通性が高いので,処理による環境負荷 や材質劣化は最小減に抑えられるものと考えてよい.

(32)

箱6撃㌶1州a⑨漱帖⑨騰登◎凹S S0舳拭0n,

制10㈱ y油敏C1eanS㎞g

図2−15 とうもろこし繊維の抽出手順

表2−3種々の条件における繊維抽出の可否 Concentration Boiling Time Rinsing Time

L1 L2 L3 L4 L5 U1 U2 U3 U4 U5

(9/1) (min) (hour)

6 90 6 ○◎◎◎◎◎◎◎◎◎

6 90 3 △○○○○◎◎◎◎◎

6 90 1 △△△△△○○○◎◎

6 60 6 △○○○○◎◎◎◎◎

6 60 3

X△△△△○◎◎◎◎

6 60 1 ×X×××△○○◎◎

5 90 6

X○△△○◎◎◎◎◎

5 90 3 ×△△△△◎◎◎◎◎

5 90 1 ×△△△△△○◎◎◎

5 60 6

X△△△△◎◎◎◎◎

5 60 3

X×△△△○◎◎◎◎

5 60 1 ××××××○○◎◎

※◎can extractthefber,Ocan make stem何at,△can removethe pith,xca㎜otremovethe pith

(33)

2.2.4引張試験

 とうもろこし繊維の引張強度特性を調べるため,室温大気中にて引張試験を実施した.引張 試験はJ1SR7610に準拠しており,試験片の概略図を図2−16に示す.とうもろこし単繊維は,

茎部より抽出した繊維束から,繊維断面積がO.01〜0.15mm2になるように慎重に切り出し,繊 維の両端を接着剤で台紙に固定して標点間距離が25mmになるように設定した.試験片を引 張試験機に取り付けた後,図2−16に示したように破線部を切り取ることにより,試験時に繊維 のみの引張試験が可能となるようにした.繊維に掛かる予荷重は2006年度,2010年度の繊維 に対してそれぞれ10N,1Nであった.引張試験は,クロスヘッド速度O.1mm/minで繊維が破 断に至るまで引張負荷を行い,荷重ならびにクロスヘッド変位量を測定した.試験後,繊維の 破面近傍上下2点の光学顕微鏡観察を行い,断面積を画像解析により測定し,応力を算出し た.天然繊維特有の引張特性のばらつきを考慮し,有効データが50本以上確保できるように 多数本の試験を実施した.

Maize Fiber Adhesive

Cutting Line 0N

[Unit1mm]mm]

図2−16とうもろこし繊維の引張試験片作製の概略図

(34)

2.3実験結果および考察

2.3.1とうもろこし長繊維の引張強度特性に及ぼす繊維抽出部位の影響

 とうもろこし繊維の引張変形・破壊挙動は著者らが以前品種別に行った図2−17の結果50)か らも,全般的に応力増加に伴いひずみもほぼ直線的に増加する弾性的変形挙動を示した後 破断することがわかっており,茎からの繊維抽出部位によって強度特性が明らかに異なるとい う事実も見出されている.そこで,とうもろこし繊維の抽出箇所を雌穂以下において茎の上

(L5,L6),中(L2−L4),下部(L1)に分類して統計的に解析するため,それぞれの部位の有効 特性データが150本以上確保できるように引張試験を実施した.抽出部位毎にまとめたとうも ろこし単繊維の引張強度特性を表2−4に,引張強度特性の階層順にまとめた度数分布を図 2−18に示す.表2−4より,茎の上,中部から抽出した繊維の引張強さ一延性レベルは茎下部 より抽出した繊維に比べ著しく優れていることが明らかになった.さらに図2−18より,茎の上,

中,下部から抽出した繊維の引張強度特性はそれぞれ一定の分布関数に従うことがわかった.

 引張試験の結果を受け,上,中部をUpper,下部をLowerと分けて繊維抽出部位毎の引張 強度特性のぱらつきをワイブル統計学によって評価した.ワイブル分布は,天然繊維の破壊強 さの予測において強度分布を表す関数として広く用いられており,強度分布を表す2母数ワイ ブル分布関数を式2−1に示す11) 蝸)一57).式2.1において,〃は形状母数であり,強度分布の ばらっきの程度を示す指標である.また,σ。は尺度母数と呼ばれ,累積破壊確率が63.2%とな る強さを表している.Mはワイブルの用いた最弱リンク説におけるリンクの数を示しているが,表 現を簡潔にするため,式2.2に示すとおり繊維の断面積に置き換えて考えた11).式2.2におい て,γと月は引張試験に用いた繊維の体積と断面積を, と月。は平均繊維体積と断面積を表し ている.また,累積破壊確率である〃σノはメジアンラング法により求め,万個の強度データを昇 順に並べたときの各順位における破壊確率を式2.3のように定めた.式2.1に式2.2,2.3を代 入し,両辺の対数を2回とると式2.4が得られる.これより,縦軸に加伽0〃一κ〃一加α〃ノ 横軸に加σをプロットし線形近似を行い,その傾きから形状母数〃を求めた結果を図2−19に示 す.図2−19より,Upperの引張強さおけるばらつきの程度はLowerとほぼ同等であることがわか った.また,「おおぞら」種の茎部Upperの引張強さの形状母数は2.26であることがわかったが,

他の天然繊維では,例えば竹繊維では3.41,ヘンプ麻繊維では2.86,ジュート繊維では2.60

〜3.30であることが知られているため,とうもろこし繊維の引張強さのばらつきは他の天然繊維 とほぼ同程度もしくは若干大きい傾向を示していることが明らかになった1帆刷.

(35)

昨)一1一 ¥/川

  γ  ノ

M=一=一

  γ。 4   ゴーO.3

F=j

  〃十0.4

   

式2.1

式2.2

㎞㎞ P.1。)一㎞/チ〕・・㎞一一{

式2.3

式2.4

0。o

Σ

ω ωo

ω

500

400

300

200

100

0

十一0hzora

仁Tib、、i、、

!、一一Swe6tcom

0    1 2     3

Strain(%)

図2−17 3種類のとうもろこし繊維の典型的応カーひずみ線図

表2−4 抽出部位の異なる繊維の引張強度特性

Tensi1e Stren姉 E1ongation at Break Elastic Modulus

E対raction Po汁ion (MPa) (%) (GPa)

Average Deviation Average Deviation Average Deviation

十354.6 十1.62 十17.6

Top (n=182) 302.6 1.37 24.2

一242.5 一1.02 一16.7

十470.4 十1.16 十16.8

Middle (n=158) 356.6 1.55 25.8

一305.0 一1.15 一19.0

十523.1 十1.66 十21.5

Bottom (n=157) 261.7 1.35 21.8

一190.0 一0.96 一12.6

(36)

80

E

Z

E

ωo 60

40

20

0

図 Top 口Midd16

■Bo世。m

0 200       400       600       800       1000 T6nsile Strength(MPa)

E

Z

αE

ωo 80

60

40

20

0

図 Top 口Middle

■Bo廿。m

0 2     3 4     5

Elongation at Br6ak(%)

80

1≡

Z

αE

ωo 60

40

20

0

図 Top

□…ddle

■Bo廿。m

0 10 20     30 40     50 Elastic Modulus(GPa)

図2−18 抽出部位の異なる繊維の引張強度特性分布

(37)

2

一言

1

I

一)F

2

0

・1

一2

一3

一4

一5

y=2,258・一12.71△へ△

、る

。△へ

△1

8○〜

y=2,262x−13.35

&● 一●一U二PPer Portion

■△■Lower Poれion

4 4.5  5 5.5 6  6.5

1nσ

図2−19 抽出部位の異なる繊維の引張強さのワイブル分布

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