博 士 ( 農 学 ) 一 戸 俊 義
学 位 論 文 題 名
反 芻 胃 内 飼 料 片 の 粒 度 別 動 態 解 析
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
反芻家畜は,単胃家畜の飼料として適さない粗飼料を体の維持および生産に利用できる能カを 持つ。粗飼料は一般に穀類等に比べて容積の割に養分含量が低く,その摂取量は主に反芻胃内の 充満度によって制限されると言われている。摂取され,反芻胃内に流入した粗飼料は発酵・吸収 および通過により反芻胃内から消失する。摂取飼料の反芻胃内消失によって反芻胃内充満度が緩 和され,粗飼料摂取が可能となると考えられる。
粗飼料摂取量および反芻胃内消化率に影響を及ぼす要因を解明するため,従来から反芻胃内容 物の消失に関与する発酵および通過にっいての研究が行われてきた。既往の研究では反芻胃内容 物を単一相と見なしているが,反芻胃内には粒度や化学成分組成等の理化学的性質を異にする多 様な飼料片が混在している。反芻胃内飼料片の発酵,通過の様相は斉一ではなく,粒度によって 発酵および通過速度が異なることが想定される。
従って,反芻胃内容物の発酵,通過による消失速度の律速のメカニズムを解明するためには,
反芻胃内容物を構成する飼料片の微細化,発酵,通過の様相にっいて粒度別に明確にし,更に全 体 の 通 過 , 発 酵 吸 収 に よ る 消 失 速 度 と の 関 連 に っ い て 追 究 し て い く 必 要 が あ る 。 本研究は,延ベ13頭の反芻胃カニューレ装着めん羊を供試し,複数の希土類元素で標識した粒 度別飼料片をマーカーに用い,反芻胃内飼料片の動態に関するモデルを設定し,それに基づきめ ん羊の反芻胃内のマーカ一量の変化を独自の数学的手法によって解析することにより反芻胃内に 混在する多様な飼料片の粒度微細化,発酵,通過の様相を定量的に解明したものである。本研究 の検討項目は以下の3項目である。
1. 反 芻 胃 内 飼 料 片 の 動 態 の 解 析 に 関 す る 方 法 論 的 検 討 ( 試 験1,2) 2.反芻胃内飼料片粒度別分画の微細化,発酵および通過による消失速度定数の測定(試験3, 4)
3.反芻 胃内飼料片粒度別分画を構成 する飼料片の動態にっいて の定量的解析(試験5) 第I章では,研究の意義と研究目的を述べるとともに,反芻胃内飼料片の粒度別動態にっいて
の 既往 の研究 の進捗 状況に っい て述ベ ,粒度 別の反 芻胃内 飼料 片の微 細化,発酵,通過速度定数 の 解析 法は確 立され ていな いこ とを示 した。
第1I章で は, 複数の 希土類 元素で 標識し た粒 度別の 飼料片 をマー カー に用いて,反芻胃内飼料 片 粒度 別の 動態解 析の可 能性に っいて 検討 した。 試験1では ,複数 の希土 類元 素で標 識した 粒度 別 飼料 片をめ ん羊の 反芻胃 内に 投与し ,希土 類元素 の糞中 排泄 パター ンを解析することにより,
粒 度別 飼料片 の反芻 胃内通 過速 度定数 を同時 に測定 した。 粒度 別の希 土類元素標識飼料片の反芻 胃 内通 過速度 定数は ,飼料 片粒 度が減 少する にっれ て大き な値 を示し ,飼料片粒度の微細化の過 程 を反 映する ことが 示され た。
試験2でfま, ナイ口 ンバッ グ法を 用い, 粒度 別の希 土類元 素標識 飼料 片の反芻胃内分解および 標 識飼 料片か らの希 土類元 素の 解離の 程度に っいて 測定し た。 反芻胃 内での標識飼料片からの希 土 類元 素の解 離は認 められ なか った。 また, 希土類 元素標 識飼 料片は 可消化であり,飼料片粒度 別 の 反 芻 胃 内 発酵 の 過 程を 示すマ ーカー となる 可能 性も示 唆され た。試 験1,2の結果 から, 粒 度 別希 土類元 素標識 飼料片 は, 反芻胃内飼料片の微細化,発酵,通過の様相を解析するためのマ一 カ ーと して利 用可能 である こと を示し た。
第m章では めん羊 の総反 芻胃内 飼料 片を粒 度別分 画に分類し,各分画の消失速度定数を指標に,
粒 度 別 飼 料 片 の動 態 に っ い て解 析 を 行 っ た。 試 験3でfま , 反 芻 胃 内容 物 を5粒 度分 画(P1>56 OOum;P2,5600〜1800Um;P3,1800〜600um;P4,600〜150,um̲;P5≦150um)に 分 け , 各 分 画 の 微 細 化 , 通 過 に 関 す る モ デ ル を 設 定 し た 。Pl,P2,P3,P4の 各粒 度 に 相 当 す る希 土類元 素標識 飼料片 をめ ん羊の反芻胃内に投与し,各分画中の希土類元素重量を測定した。
設 定し たモデ ルに基 づき, 分画 中の各 希土類 元素重 量の増 加お よび減 少速度から分画の消失速度 定 数 の 解 析 を 行 っ た 。Pl,P2,P3,P4,P5の 消 失 速 度 定 数 は 測 定 で き た が , 微 細 化 お よ び 通 過 に よ って 消 失 す る 小粒 度 のP3,P4に っ いて は , 微 細 化 およ び通 過によ る消失 速度 定 数 の分 離測 定は不 可能で あり, 試験3での 解析法 に代 わる粒 度別分 画の消 失速 度定数 の解析 法の 検 討 が 必 要 と なっ た 。 ま た ,測 定 さ れ た 速度 定 数を用 い試験3で 設定し たモ デルに 基づきPl, P2,P3重量 の 推 定 を 行っ た と こ ろ ,推 定 値 は 実 測値 を 上 回 り , 試験3で 設 定 した モ デ ル に 発 酵 に よ る 分 画 の 消 失 に っ い て の パ ラ メ 一 夕 一 を 組 み 込 む こ と の 必 要 性 を 示 唆 し た 。 試 験4で は , 反 芻 胃 内 容 物 を5粒 度 分 画(LP冫5600um;MP,5600〜1800um;SP,1800〜 300Lm;EP,300〜47um;VFP≦47um)に 分 け , 各 分 画 の 微 細 化 , 発 酵 , 通 過 に 関 する モ デ ル を 設 定 し た 。LP,MP,SP,FPの 各 粒度 に 相 当 す る希 土 類 元 素 標識 飼 料 片 を めん 羊 の 反 芻 胃 内に 投与し ,各分 画中の 希土 類元素 重量の 経時変 化を測 定し た。設 定したモデルに基づき,各
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分画 中の 希土類 元素重 量の変 化を線 形微分方程式を用いて解析することにより,各分画の微細化,
発 酵 ,通 過によ る消 失速度 定数の 分離測 定がで きた 。試験4で 設定し たモデ ルおよ び微 細化, 発 酵, 通過 による 分画の 消失速 度定数 と,実際の粒度別分画重量の変化との適合度を検討するため,
各 分 画 の 消 失 速 度 定 数 を 用 い てLP,MP,SP,FP,VEP重量 を 推 定 し 実測 値 と 比 較 した 。 分 画 の 推定 重量は 実測 値と概 ね一致 し,試 験4で設定 したモ デル および 各消失 速度定 数は ,実際 の 反芻 胃内 飼料片 の動態 を反映 するこ とを 示した 。
第IV章( 試験5)で は,反 芻胃内 飼料片 粒度 別分画 の微細 化,発 酵, 通過に よる消 失量を 解析 し た 。 めん 羊 に 品 質 の異 な る2種 類の 乾 草 を そ れ ぞれ1日1回一 定 量 摂 取 させ, 試験4で検 討し た解 析方 法によ って各 分画の 微細化 ,発 酵,通 過によ る消失 速度 定数を 算出し た。さらに,乾草 摂取 終了 直後の 反芻胃 内飼料 片粒度 別分画の微細化,発酵,通過による消失量の推定式を導いた。
本推 定式 によっ て,従 来の研 究では 測定し得なかった反芻胃内飼料片粒度別分画の微細化,発酵,
通過 によ る消失 量の推 定およ び,総 反芻 胃内容 物にっ いて通 過に よる消 失量と 発酵による消失量 の分 離測 定がで きた。 反芻胃 内飼料 片粒 度別分 画の微 細化, 発酵 ,通過 による 消失量の推定値は 個体 差が 大きか った。 各分画 の反芻 胃内 通過に よる消 失量お よび 大粒度 の飼料 片の発酵による消 失量 は高 品質乾 草給与 時が低 品質乾 草給 与時に 比べて 多かっ た。 また, 反芻時 の咀嚼行動の乾草 間の 差異 から, 反芻胃 内飼料 片分画 の消 失速度 には, 粒度以 外の 物理的 要因も 関与することを示 唆し た。
第V章 では以 上の結 果を 総括し ,試験1,2で 検討し た粒度 別希土 類元 素標識 飼料片 をマ― カー に 用 い, 試験4で設 定した モデ ルに基 づき反 芻胃内 粒度別 分画 中のマ 一カー 重量変 化を 微分方 程 式を 用い て解析 した結 果,反 芻胃内 飼料 片粒度 別分画 の微細 化, 発酵, 通過に よる消失速度定数 の 分 離測 定がで き, 更に試 験5で検討 した推 定式を 用いる こと により 微細化 ,発酵 ,通 過によ る 消失 量の 推測が 可能で あるこ とを示 した 。
学位論文審査の要旨 主査
副査 副査 副査
教授 教授 教授 助教 授
朝 日 田 上 山 堀 口 大 久 保
康 司 英 一 郁 夫 正 彦
本 論 文 は, 表18枚, 図16枚,引 用文献81,補 遺を含 む総ペ ージ数133の 和文 論文で あり,5章 に 分けて 論述 されて いる。 別に参 考論 文2篇 が添 えられ ている 。
粗飼料 は一般 に穀類 等に比 べて 容積の 割に養 分含量 が低 く,そ の摂取 量は主 に反芻胃内の充満 度 によっ て制 限され ると言 われて いる 。粗飼 料摂取 量およ び反芻 胃内 消化率 に影響を及ばす要因 を 解明す るた め,従 来から 反芻胃 内容 物の消 失に関 与する 発酵お よび 通過に っいての研究が行わ れ てきた 。既 往の研 究では 反芻胃 内容物を単一相と見ナょしているが,反芻胃内には粒度や化学成 分 組 成 等 の 理化 学 的 性 質 を異 にする 多様な 飼料片 が混 在して いる。 従って ,反 芻胃内 容物の 発 酵 ,通過 によ る消失 速度の 律速の メカ ニズム を解明 するた めには ,反 芻胃内 容物を構成する飼料 片 の微細 化, 発酵お よび通 過の様 相に っいて 粒度別 に明確 にし, 更に 全体の 通過,発酵・吸収に よ る消失 速度 との関 連にっ いて追 究し ていく 必要が ある。
本研究 は,延 ベ13頭 の反芻 胃カニ ューレ 装着め ん羊 を供試 し,複 数の希 土類元素で標識した粒 度 別飼料 片を マーカ ーに用 い,反 芻胃 内のマ ーカ一 量の変 化を独 自の 数学的 手法によって解析す る ことに より ,反芻 胃内に 混在す る多 様な飼 料片の 粒度微 細化, 発酵 ,通過 の様相を定量的に解 明 し た も の で あ る 。 本 研 究 は 以 下 の3項 目 に っ い て5っ の 試 験 を 行 っ て い る 。 1. 反 芻 胃 内 飼 料 片 の 動 態 の 解 析 に 関 す る 方 法 論 的 検 討 ( 試 験 1, 2) 2.反 芻胃 内飼料 片粒度 別分画 の微細 化, 発酵お よび通 過によ る消 失速度 定数の測定(試験3, 4)
3, 反 芻 胃 内 飼 料 片 粒 度 別 分 画 を 構 成 する 飼 料 片 の 動態 に っ い て の定 量 的 解 析 (試 験5) 研究の 成果は ,以下 の様に 要約 される 。
1) 試験1で は 粒 度別 飼 料 片の反 芻胃 内通過 速度定 数の測 定を 行った 。複数 の希土 類元素 で標 識した 粒度別 飼料 片をマ ーカー として 反芻胃 内に 投与し ,希土 類元素 の糞中排泄パターンを 解析す ること によ って, 粒度別 飼料片 の反芻 胃内 通過速 度定数 の同時 測定ができた。また,
粒 度 別 飼 料 片 の 反 芻 胃 内 通 過 速 度 定 数 は , 粒 度 微 細 化 の 過 程 を 反 映 し た 。
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2)試 験2で は希 土 類 元 素 標識 飼 料 片の 反芻胃 内分解 にっ いて測 定し, 希土類 元素 標識飼 料片 は可消 化で あり飼 料片粒 度別の 分解 の過程 を示す マーカ ーとなる可能性を示した。また,反 芻 胃 内 に お け る 希 土 類 元 素 標 識 飼 料 片 か ら の 希 土 類 元 素 の 解 離は 認 め ら れ なか っ た 。 3)試 験3で は反 芻 胃 内 飼 料片 粒 度 別分 画の微 細化, 通過 による 消失速 度定数 を解 析する ため のダ イ ナ ミ ックス モデル (以下 モデ ルと略 )を設 定した 。設 定した モデル に基づ き,反 芻胃 内に 投 与 し た各希 土類元 素マー カー の粒度 別分画 中の量 の増 加およ び滅少 速度か ら微細 化,
通過 速 度 定 数の解 析を行 ったが ,微 細化お よび反 芻胃内 通過 による 消失速 度定数 の分離 測定 は 不 可 能 で あ っ た 。
4)試 験4で は 反 芻 胃 内飼 料 片 粒 度 別分 画 の 微細 化,通 過およ び発 酵によ る消失 速度定 数を解 析す るため ,試験3の モデル を改変 した 。この モデル に基づ き, 反芻胃 内に投 与した 希土類
゛元 素 マ ー カ ー の粒 度 別分 画中の 量変化 を線形 微分方 程式 を用い て解析 するこ とに より, 各分 画の 微細化 ,発酵 ,通過 によ る消失 速度定 数の分 離測 定がで きた。 また, 試験4で設 定した モデ ルおよ び各消 失速度 定数 は,実 際の反 芻胃内 飼料 片の動 態を反 映していることが認めら れた 。
5)試 験5で は , 乾 草 摂取 終 了 直 後 の反 芻 胃 内飼 料片粒 度別分 画の 微細化 ,発酵 ,通過 による 消 失 量を 求 め る 推定 式を導 いた。 本推 定式を 用いる ことに より 従来の 研究で は解析 し得な かっ た反芻 胃内飼 料片粒 度別 分画の 微細化 ,発酵 ,通 過によ る各消 失量を求めることができ た。 また, 品質の 異なる 乾草 をめん 羊に給 与した 場合 の各粒 度別分 画の微細化,発酵,通過 によ る消失 量の差 異が明 らか となっ た。
以上の 様に ,本研 究の独 創的な 解析 法,お よびそ れによ って得 られ た知見は学術的に高く評価 される 。よっ て, 審査員 一同は ,最終試験の結果と合わせて,本論文の提出者一戸俊義は博士(農 学)の 学位を 受け るのに 充分な 資格が あるも のと 認定し た。