博 士 ( 理 学 ) 柁 原 宏
学位論文題名
Taxonomic Studies on IVIonostilifera (Nemertea: Enopla: Hoplonemertea)
(単針類紐形動物の分類学的研究)
学 位論文 内容の要旨
からだが細長いヒモ状で体節構造を持たず、表面は織毛上皮に覆われているためヌルヌルして いて、吻と呼ぱれる摂食器官を使って獲物をおそう肉食性の無脊椎動物は、一般にヒモムシと呼 ぱれ、紐形動物門に分類される。紐形動物門の上目のーつである単針類は、吻に一本の針を持つ ことで特徴づけられ、汽水域や淡水域にすむ少数種と、わずかな陸生種をのぞいて、ほとんどが 海に生息している。世界から約500種、我が国からはこれまで43種が報告されており、現在 96属8科に分類されている。しかし、ほとんどの種の記載が不十分であるため、属や科レベル の分 類は再 検討が必 要である 。本学 位論文はその単針類の分類学的研究の成果である。
学位論文は6章からなり、2〜5章で4つの内容、すなわち、命名法に関する考察、ある属の 科への所属に関する議論、属レベルでの系統解析、日本産全種のモノグラフ、を扱っている。
第1章の序章に続き、第2章では山岡貞一氏によって記載された日本産単針類4種の学名に関 する命名法上の問題を検討した。山岡氏は日本で2人目の紐形動物分類学者であり、1939年 に北海道帝国大学を卒業した後に静岡県須崎の三井海洋生物学研究所に籍を置き3編の論文を 発表した。その後満州の新京第一中学校に赴任するまでの間にさらに1編の論文の草稿を準備し たが、この論文は結局発表されずに当時指導教官であった内田亨教授、および奥田四郎博士の元 に保管された。奥田博士は山岡氏の残した未発表原稿中の未記載種を当時編纂中であった『改訂 増補日本動物圖鑑』に収録した。それらはEmplectonema mitsuii Yamaoka,Paranemer tes katoi Yamaoka,ん」phiporus ogumai Yamaoka,PrDSf―roSPDC印カaJ脚Ya舳Okaの4種であり、2〜 3の図と外部形態の簡潔な記載を伴っている。また個々の記載の最後には奥田博士の名前が括弧 付きで記されている。
これら4種の学名は適格性、有効性、公表者、出版年が不明瞭である。なぜなら(1)出版し たのが山岡氏本人ではなく、(2)学術雑誌ではなく図鑑に掲載され、(3)奥田博士の名が記 載に付随しており、(4)出版年が記されておらず、(5)新種であることが明瞭に記されてい ないためである。しかしこれら4種の学名は国際命名規約第四版(以下「規約」)第8条、lO
〜20条 、およ び23条の要求を満たしているため適格かつ有効であり、第50条1項から公表 者は奥田博士ではなく山岡氏であると判断される。また規約第21条からこれらの学名の公表の 日付 は日本 動物図鑑の初版年、っまり1947年と決定される。また規約の勧告51Eに従い、
これら4種の学名の引用の形式はYamaoka,Teiichi,1947,assubmittedbyShirookuda,in SeinosukeUchida,PtaJ. ,HJUst朋 と甜励り凵叩PめaDr舶e向伽aDrカp朋缶江cJU釘地0r 伽sPcfり 一 胎 ガseJ& 灯ff叩 口 舛 ガ ,HokuryukanCo.Ltd. ,T0kyo. と な る 。 第3章では単針類の一属伽D釦餾け£館の科への所属に関して検討した。本属はBnrger(1895)
‑ 263―
に よ るAmphiporus marmoratusの 記 載 に 基 づ き 、Friedrich(1955)に よ っ て創 設 さ れ た 。そ の 際 FriedrichはDuosnemer tes属 の 特 徴 と し て 消 化 管 と 吻 口 が 別 々 に 開 口 す る と いう 特 徴 の み を 重 視 し て 他 の 形 質 に は 言 及 せ ず 、 また 、 本 属 が ど の科 に 属 す る かに つ い て も 言及 し な か っ た。 後 に Gibson( 1972, 1982)は Duosnemer tes属 を Amphiporidae科 に 分 類 し て い る 。 Btlrger(1895)に よ るAmphiporus marmoratusの 図 版 に はFriedrich (1955)が 参 考 に した 消 化 管 と 吻 口 が 別 々 に 開 口 す る 縦 断 面図 の 他 に 、 縦 走筋 と 環 状 筋 によ る 網 篭 状 の吻 鞘 壁 、 一 つの 血 管 突 起 、 脳 の 後 方 ま で 延 び る 頭 感 器が 明 瞭 に 描 か れた 横 断 面 図 が収 録 さ れ て いる 。 こ れ ら の形 質 の 組 み 合 わ せ はCratenemertidae科 に 特 徴 的 で あ る た め 、Duosnemer tes属 をAmphiporidae科 から Cratenemrtidae科に移 行し た。
第4章 で は 、 形 態 形 質 に 基 づ き 、 単 針 類 の 属 間 の 系 統 解析 を 行 い 、 現 行の 科 レ ベ ル の分 類 の 妥 当 性 を 検 討 し た 。Gibson(1989)やCrandall (1993)は 吻 鞘 壁 の 筋 層 の 組 成 を 元 に Cratenemertidae科 とPlectonemertidae科 を ま と め た 高 次 分 類 群 を 提 唱 し て い る が 、 彼 ら の 新 分 類 体 系 は 広 く 受 け 入 れ ら れ て い な い 。 今 回 、 そ の 評 価 も 合 わ せ て 行 っ た 。 上 述 の よ う に 単 針 類 で は96属 が8科 に 分 類 さ れ て い る が 、 こ の う ち20% 強 の21属 は 科 へ の 所 属 が 不 明 と な っ て い る 。 ま た多 く の 種 の 記 載、 特 に 科 の 模式 属 の 種 の 記載 が 不 十 分 であ る た め に 属 や 科 の 定 義 が 極 め て 暖 味 で あ り 、 科 レ ベ ル の 分 類 は 再 検討 を 必 要 と して い る 。 そ こ で、9 6属 全 て の 模 式 種 の 記 載 か ら51の 形 質 を 抽 出 し た デ ー タ マ ト リ ク ス を も と にPAUP 3.1.1 (Swofford,1993)を 用い て 最 節 約 法 によ る 系 統 解 析を 行 っ た 。59属 の 模 式 種は 記 載 が 不 十 分 で あ っ た た め 解 析 か ら は 除 外 し た 。 ま た 外 群 は 多 針 類 のUrichonemertes pilorhynchusを 用 いた 。
合 計37属 を 用 い た 解 析 の 結 果 、 樹 長210の 最 節 約 樹 が90本 得 ら れ た 。 こ れ ら の 厳 密 合 意 樹 はPlectonemertidae科 の 単 系 統 性 を 支 持 し た が 、Amphiporidae科 、Emplectonematidae科 、 Prosorhochmidae科 、Tetrastemmatidae科 は 多 系 統 で あ る こ と を 示 唆 し た 。 ま た 、 Carcinonemertidae科 、Ototyphlonemertidae科 は そ れ ぞ れ2属 あ る う ち1属 し か 解 析 に 用 い る こ と が 出 来 な か っ た た め に 科 内 の 系 統 は 評 価 で き ぬ か っ た 。 またCratenemertidae科 は 側 系 統的 で あ る こ と が 示 さ れ た 。 さ ら に 厳 密 合 意 樹 上 で はPlectonemertidae科 が 最 も 派 生 的 、 Cratenemertidae科 が 最 も 原 始 的 な 位 置 を 占 め た 。 以 上 の 結 果 は 、Gibson(1989)とCrandall
(1993)の 新 分類 体 系 が 決 して 適 切 で は な く、 む し ろ 、 伝統 的 分 類 体 系の 方 が 妥 当 であ る こ と を 示 した 。
第5章 は 日 本 産 単 針 類 の モ ノ グ ラ フ に あ て ら れ て い る 。 我 が 国 か ら は こ れ ま でStimpson, Yamaoka,Iwataな ど に よ っ て43種 が 報 告 さ れ て い る が 申 請 者 の 研 究 に よ り 新 た に19種 の 生 息 が 確認 さ れ た 。 この う ち Diopsonemer tes acan thocephalaは新属 新種と して、Correanemer tes akkeshiensis、Paramphiporus bilineatus、Pfulvescens. Poseidonemertes thykyuensis¥
Zygonemer tes dichoduc ti fera、Nipponnemer tes rubra、Nipponnemer tes sadoensis. Nemer topsis se toensis、 Ototyphlonemertes dolichobasis、Prostoma limnicolum、 Sacconemer topsis shizunaiensis.殆trastemma crystalliumの12種 は 新 種 とし て 記 載 し た。 ま た 、Yamaoka (1940) に よ っ て北 海 道 か ら 報告 さ れ たNemer tell ina minuぬ は ド イツ で 原 記 載 され た 個 体 と は異 な る 上 にNemer tell ina属 の 他 の ど の 種 と も異 な る た め 、 新種 ルyamaoわjと た。 さ ら に 、 み霤 叩 …rfes レj朋SC朗 &DfD妙 曲J弸 帥 釘feS船rf朋Dレ ゴ 、 ロnゴ わぬjj、 伽 苫tPめaDCUぬ £a丶 ロZP6.悶 の5 種 は 日 本 初 記 録 種 で あ る 。 ま た 、 既 知 種 の う ち 励 口Pct甜 ― 厨fsUjjは 新 属 跏 |ect弸8孵J|a丶 殆 むasfe―n鱈Hか 叩sとFsfj叩 如njは 新 属 腸 朋 ね む1asfe脚 噛 を 創 設 し て そ れ ぞ れ 収 容 し た 。 伽 帥 ゆ り 恥 仰ressuss帥sUIwata(1945) はStimpson(1857) の 記 載 し たA晦 ′ess恥 と は 明 瞭 に 異 な る た め 、 新 名 イ .pa朋 卿rPss恥 を 与 え た 。 本 研 究 に よ っ て 日 本 産 単 針 類 の 種 数 は62
―264
種 と な った 。
‑ 265