博 士 ( 農 学 ) セ テ イ ヨ ワ テ イ ・ レ ト ノ ・ ジ ワン テ イ
学位論文題名
Studies on the Efi .:ectofPlant ‐paraSitiC NematodeSInfeStationontheInCidenCeof BrOWnStemROtinAdZukiBeanCultiVarS
(植 物寄 生性 線虫 の感染とアズキ落葉病の発病に関する研究)
学 位 論 文 内 容 の 要旨
植物 病原 糸状 菌Phialophora gregaぬf.sp.adZu崩cdaによって引き起こされるアズ キ 落葉病は,北海道においてアズキの主要病害のーつである。本病は,当然アズキ落葉 病 菌単独の感染で起き,アズキの減収をもたらすが,植物寄生性線虫であるダイズシス トセンチュウ(Hど絶r〇derag.fy cfnes)が同時に感染することにより,アズキ落葉病の程 度がより激しくなることがこれまで報告されてきた。また,他の主要な植物寄生性線虫,
キタネグサレセンチュウ(P.raあガencカuspenefr ans)も栽培圃場においてアズキ生育阻 害 に関連するとの報告がある。一方,多くのアズキ品種の中で,品質的に最も好まれ現 在 のと ころ 栽培 面積 が多 いのが ,ア ズキ 落葉 病菌 のレ ース1及び2に罹病性の「エリモ シ ョウ ズ」 と, 北海 道内 のアズ キ栽培圃場に広く分布すると考えられるレース1に抵抗 性を有するためアズキ落葉病防除に期待がかかる「きたのおとめ」(レース2に罹病性)
が 主要なものである。しかし,これまでの線虫・糸状菌複合病害の例を見るとき,線虫 感 染による罹病化,あるいはアズキ落葉病症状の激化が懸念され,当然品種の耐久性は 植 物 寄 生 性 線 虫 と の 関 連 で 考 慮 さ れ る べ き 課 題 で あ る と 考 え ら れ た 。 そこで本研究は,アズキ落葉病菌のニつのレース及び上記のアズキ二品種を組み合わ せ て,二種の植物寄生性線虫,ダイズシストセンチュウ,キタネグサレセンチュウそれ ぞ れがアズキ落葉病の発病程度に及ぽす影響を明らかにし,その機構を解明することを 目的として行ったものである。
アズキ落葉病菌とダイズシストセンチュウのアズキ落葉病発病に対する相互作用の特 質 を明 らか にす るた めに ,異な る三 つの 環境 条件 ,っ まり20℃の土壌恒温装置,気温 20℃の 陽光 定温 装置 およ び変温 条件 下の 温室 内で 複合 感染 実験を行った。その結果,
ア ズキ 落葉 病菌 レー ス2( 菌株T96−5)とダイズシストセンチュウの相互作用が強いこ と が明らかになった。すなわち,ダイズシストセンチュウは上記のいずれの環境条件で も ,ア ズキ 落葉 病菌 レー ス2を 接種した「エリモショウズ」のアズキ落葉病発生頻度と 発 病 程 度 に 相 乗 的 に 影 響 し た 。 レ ー ス1( 菌 株T96―1) に 感 染 し た「 工リ モシ ョウ ズ 」, また はレ ース2に感 染し た「きたのおとめ」に対するダイズシストセンチュウの 効 果は実験条件で異なったものの,しばしば相加的あるいは相乗的であった。ダイズシ ス トセ ンチ ュウ はレ ース1を接 種した「きたのおとめ」のアズキ落葉病抵抗性には何ら 影響を与えず,レース1に対する抵抗性は維持され,抵抗性品種の罹病化は起こらなかっ た 。「 工リ モシ ョウ ズ」 におい て茎,根内のレース1の病原体密度は線虫感染によって
増加 した が,「きたのおとめ」においては線虫感染条件下でも茎,根内において病原体 は認 めら れな かっ た。 なお ,「 エリ モショウズ」茎内におけるアズキ落葉病菌レース1 の病原体密度は根内より高かった。
ア ズキ 落葉病菌とキタネグサレセンチュウの相互作用は病原菌レース,線虫の系統と 密度,およびアズキ品種によって様々であった。本実験で使われたキタネグサレセンチュ ウの 系統 は,芽室町(「芽室系統」)とっくぱ市(「っくば系統」)で採集したもので ある 。「 芽室 系統 」は ,ア ズキ 落葉 病発 生頻度 及び 発病 程度 から 見ると,レース1と2 を接種したとき「工リモショウズ」のアズキ落葉病罹病性を助長するように影響を与え,
また ,レ ース1を接 種し たと きの 「き たのおとめ」における抵抗性に影響を与えて、わ ずか であ るが罹病化が認められた。「っくば系統」には「エリモショウズ」,「きたの おと め」 にお いて レー ス2に よる アズ キ落葉病に対する罹病性を助長し,「きたのおと め」 では 「芽 室系 統」 と同 様に レー ス1によるアズキ落葉病に対する抵抗性をわずかな がら 打ち 破る 効果 が認 めら れた 。「 芽室系統」の場合,アズキ落葉病菌レース2に対す る ア ズ キ の 罹 病 性 を 助長 す る に は , そ の 閾 値は ,11頭/g乾土, レー ス1に対 して は4 頭/g乾 土 で あり ,「 っく ば系 統」の 場合 ,閾 値は レー ス2に対し て11頭/g乾土 であ っ た。
次 に, アズキ落葉病菌と植物寄生性線虫との相互作用の機構に関して,分根法により 検討 した 。分根法は作物の根系を半分に分け,病原菌と線虫を別々に接種したときに作 物病 害の 症状がどのように現れるかを検討するために用いられる方法である。もし,こ れに よっ て発病程度が促進されるなら,病徴発現に対する植物寄生性線虫の影響は,傷 をっ けて 感染部位を提供するというように物理的効果というよりむしろ,線虫の感染部 位で 生産 される全身移行性の代謝物を通して発揮される生理的な効果であるということ が示 され る。 その 結果 ,ダ イズ シス トセンチュウとレース2を同一アズキ植物体の異ぬ る側 の分 根に接種したとき,アズキ落葉病の発生頻度と発病程度ともに有意に増加した こと から ,ダ イズ シス トセ ンチ ュウ に感染したアズキの生理的変化により,レース2に 対する罹病性が促進されたと考えられた。一方,キタネグサレセンチュウ「っくば系統」
のレ ース2に よるア ズキ 落葉 病に 対す る影響は,一般的な植物体の生理的変化よりむし ろ物 理的 変化,っまルアズキ落葉病菌にとってより好適な感染部位を与えることによる と考 えら れた 。分 根の 一方 に病 原菌 を単独で接種したときと比べ,レース2とキタネグ サレ セン チュウ「っくば系統」を同じ側に接種したとき,「っくば系統」の病気を促進 する 効果 は明 らか であ った から であ る。反対にレース1を接種したときのアズキ落葉病 発病 にお ける「芽室系統」の影響は物理的効果よりむしろ生理的効果であった。何故な ら, 線虫 と病原菌を異なった分根側にそれぞれ接種したとき,これらを単独あるいは両 者 を 分 根 の 一 方 に 接 種 し た と き と 比 べ , 発 病 促 進 効 果 が 高 か っ た か ら で あ る 。 キ タネ グサレセンチュウとダイズシストセンチュウの生存について,北海道大学アズ キ落 葉病 汚染圃場と帯広市大正のアズキ落葉病汚染圃場で調査した。両圃場において,
いずれの線虫も検出され,それらの土壌中の個体群密度は栽培前より栽培後で高かった。
この こと と温室試験の結果から,キタネグサレセンチュウもダイズシストセンチュウと 同 様 に ア ズ キ 落 葉 病 の 発 生 頻 度 と 発 病 程 度 に 重 要 な 役 割 を 持 つ と 考 え ら れ た 。 本 研究 により,アズキ落葉病発病に対する植物寄生性線虫の役割は,単にアズキ植物 体に 傷を っけるという機構への関与だけではないことが示され,植物寄生性線虫による アズ キ落 葉病発生頻度,発病程度の変化が,特異的な線虫・アズキ落葉病菌レースの組 み合わせに関係していることが明らかになった。
学位論文審査の要旨 主 査 教 授 生 越 明 副 査 教 授 小 林 喜 六 副査 助教授 近藤則夫
学位論文題名
Studies on the Effect of Plant‑parasitic Nematodes Infestation on the Incidence of Brown Stem Rot in Adzuki Bean Cultivars
(植 物寄生 性線 虫の感染とアズキ落葉病の発病に関する研究)
本 論 文 は 英 文 で 記 さ れ 、図23、表13を 含む 総頁 数145から なり 、7章 で構 成さ れて いる。
ア ズ キ 落 葉 病 は 北 海 道 にお け る主 要病 害の ーつ であり ,こ の病 原菌Phialoph ora gregaぬf.sp.a〔セu灯c〇ぬにはニつのレース,レース1と2が存在する。これまでアズ キ落葉病菌とダイズシストセンチュウ(H・efer〇derag.6′cfnes)の複合感染によってアズ キ落 葉病 の発 病程 度が 増加 する こと が報 告さ れて きた。また,キタネグサレセンチュ ウ(P raあガeロ曲uspeneとrans)も栽培圃場においてアズキの生育抑制に関連しているこ とが 報告 され てい る。 現在 のと ころ 、北 海道 にお いて主に栽培されているアズキ品種 とし ては 「工 リモ ショ ウズ 」( 両レ ース に罹 病性 )と「 きた のお とめ 」( レー ス1に 抵抗 性, レー ス2に罹 病性) があ るが ,こ れら のア ズキ 二品 種と アズ キ落 葉病 のニつ のレ ース を組 み合 わせ て, アズ キ落 葉病 の発 病程 度に与える上記ニ種の植物寄生性線 虫 の 影 響 と そ の 機 構 を 明 ら か に す る こ と を 目 的 に 本 研 究 を 行 っ た 。 ア ズキ 落葉 病菌 とダ イズ シス トセ ンチ ュウ のア ズキ落葉病の発病に対する相互作用 を明 らか にす るた めに ,異 なる 三つ の環 境条 件, っまり20℃の土壌恒温装置,気温20
℃の 陽光 定温 装置 およ び変 温条 件下 の温 室内 で実 験を行った。その結果,アズキ落葉 病菌 レー ス2とダ イズ シスト セン チュ ウの 相互 作用 が強 いこ とが 明ら かに なっ た。す なわ ち, ダイ ズシ スト セン チュ ウは ,設 定し たい ずれの環境条件でもアズキ落葉病菌 レ ー ス2を 接 種 し た 「 エ リ モ ショ ウズ 」の アズ キ落 葉病 の発 生を 助長 した 。レ ース1 に感 染し た「 エリ モシ ョウ ズ」 ,ま たは レー ス2に 感染 した 「き たの おと め」 もダイ ズシ スト セン チュ ウに より 同様 に発 病が 助長 され た。しかし,ダイズシストセンチュ ウは レー ス1を接 種し た「き たの おと め」 のア ズキ 落葉 病抵 抗性 には 何ら 影響 を与え ずIレー ス1に 対す る抵 抗性 は維 持さ れ, 抵抗 性品 種の罹病化は起こらなかった。「工 リモ ショ ウズ 」に おい て茎 ,根 内の レー ス1の 病原 体密 度は 線虫 感染 によ って 増加し たが,「きたのおとめ」においては病原体は検出されなかった。
ア ズキ 落葉 病菌 とキ タネ グサ レセ ンチ ュウ の相 互作用は病原菌レース,線虫の系統 と密 度, およ びア ズキ 品種 によ って 様々 であ った 。「芽室系統」は,「工リモショウ
ズ」のレース1および2に対する罹病性に影響を与え,レース1を接種したときの「き たのおとめ」における抵抗性に影響を与え,わずかであるが罹病化現象が認められた。
「っくば系統」には「エリモショウズ」,「きたのおとめ」においてレース2による アズキ落葉病に対する罹病性を増加し,「きたのおとめ」ではレース1によるアズキ 落 葉 病 に 対 す る 抵 抗 性 を わ ず か な が ら 打 ち 破 る 効 果 が 認 め ら れ た 。 ダイズシストセンチュウとレース2を同一アズキ植物体の異なる側の分根に接種し たとき,アズキ落葉病の発生頻度と発病程度ともに有意に増加したことから,ダイズ シストセンチュウに感染したアズキの生理的変化により,レース2に対する罹病性が 促進されたと考えた。一方,キタネグサレセンチュウ「っくば系統」のレース2によ るアズキ落葉病に対する影響は,植物体の生理的変化ではなく,物理的変化、っまり 菌にとってより好適な感染部位を与えることによると考えられた。分根の一方に病原 菌を単独で接種したときと比べ,レース2とキタネグサレセンチュウ「っくば系統」
を同じ側に接種したとき,「っくば系統」の病気を促進する効果は明らかであったか らである。反対にレ‐ス1を接種したときのアズキ落葉病発病における「芽室系統」
の影響は物理的変化よりむしろ生理的であった。何故なら,線虫と病原菌をそれぞれ 異なった分根側に接種したとき,これらを単独あるいは両者を分根の一方に接種した ときと比べ,発病促進効果が高かったからである。
キタネグサレセンチュウとダイズシストセンチュウ生存について,北海道大学アズ キ落葉病汚染圃場と帯広市大正のアズキ落葉病汚染圃場で調査した。両圃場において,
いずれの線虫も検出され,それらの土壌中の個体群密度は栽培前より栽培後で高かっ た。このことと温室試験の結果から,キタネグサレセンチュウもダイズシストセンチュ ウと同様にアズキ落葉病の発生頻度と発病程度に重要な役割を持つと考えられた。
本研究により,アズキ落葉病発病に対する植物寄生性線虫の役割は,単にアズキ植 物体に傷をっけるという機構への関与だけではないことが示され,植物寄生性線虫に よるアズキ落葉病発生頻度,発病程度の変化が,特異的な線虫・アズキ落葉病菌レー スの組み合わせに関係していることが明らかになった。
以上の研究成果は学術上、応用上貢献するところ大きく、高く評価される。よって 審査員一同は、Setyowati Retno Djiwantiが博士(農学)の学位を受けるに十分な資格 を有するものと認めた。