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博 士 ( 農 学 ) 徐 正 君

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Academic year: 2021

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博 士 ( 農 学 ) 徐    正 君

学 , 位 論 文 題 名

イ ネ 培 養 カ ル ス の 再 分 化 に 及 ぼ す

ア ブ シ ジ ン 酸 の 作 用 機 作 に 関 す る 生 理 学 的 研 究

学 位 論 文 内 容 の 要 旨

  イネ(Oryza sativaL.)は、重要な食用作物として組織培養、プロ卜プラス卜培養、遺 伝子導入等の生理学的研究が行なわれ ている。しかし、成熟種子胚を材料としたカルス誘 導は未だ効果的な培養システムの確立 がなされていなぃ。特に、カルスの植物体再分化能 カがカルス継代培養とともに弱まり、 最終的になくなることも珍しくなぃ。本研究はジャ ポニカ(Japonica)品種「 ユーカラ」を用い、種子カルスの誘導、カルスの継代培 養、植 物体の再分化及ぴ培養カ ルスに及ばすアブシジン酸(以下ABA:Abscisic acid; と略記 する)の効果について検討した。

  イネ成熟種子より誘導したカルスは不均一で、黄色く、柔らかI、増殖の速いカルスや、

増殖が遅く、白く堅いコンパク卜な塊 状のカルスもあった。一方、誘導したカルスは、継 代培養を重ねるに従って徐々に均一と なり、増殖率も大きくなった。6回継代培養したカ ルスは、誘導直後のカルスより約2倍速く増殖した。カルスからの植物体再分化はイネの 品種とカルス培養の継代回数及びカル スの形質により、大きな差があった。堅くコンパク 卜な白色のカルスは植物体に再分化し たが、黄色く柔らかく増殖の速いカルスは僅かl〜 3%が植物 体に再分化するにすぎなぃ。また、誘導直後のカルスは、高い再分化率を保つ て い た が 、 継 代 培 養 を 重 ね る と 、 そ の 再 分 化 率 が 急 激 に 下 降 し た 。   長 期 間(180〜210日 間 ) 培 養 後 の カ ル ス は 、lOmg/LABAを 加 え たMS−B5継 代 培地 で28日間処理培養した後、再分化培地 で培養すると、再分化率が30%以上回復され、カル ス塊あたりに形成される不定芽の数も2倍以上増加し、更に、緑色植物体の出現期間も一 週間 以上 短縮 され る こと を発見した。ABA添加培養により、不定胚形成が誘起さ れると とも に、 杯発 生の 前 段階 の分化を完成することを顕 徽組織学的方法で発見し、ABAが茎 葉分化由来の再分化植物体の形成より も不定胚由来の再分化植物体形成の比率を増加させ る効果が形態観察によって確認された 。

  イ ネ培 養カ ルス は 、適 量(6〜12mg/L)のABA添 加培 養により、堅くコンパク卜 で白色 のカ ルス とな るが 、 生長 は顕 著に 抑え られ る。 特に 高濃 度(10〜12mg/L)のABA添 加培 養は 、カ ルス の生 重 が半 分以下に抑えられ、乾物重 が20%減った。したがってABA添加 培養はカルス細胞の物質吸収と合成が 著しく増加したことによるものと考えられる。殊に 10〜12mg/LABA添加 培養 のよ れば 、そ の乾 重が 対 照区 のカ ルス より70% 以上 も高 かっ た 。 こ れ に 対 し て 、 カ ルス の水 分含 量はABA添 加培 養に より 著し く減 少 した 。ABAは 培養カルスの培地からの サッカロ―ス吸収を促進し(主に移植後の1〜7日目)、 細胞に

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サ ッカ ロ― ス と澱 粉の 合成 と蓄 積(ABA添 加培 養の 後期 )を促進 した。また、培養カル ス はABA添加 培養 前期(0〜14日 目) に還 元 糖の 激し い変 動を 抑え 、フ ラク 卜― ス含 量 の減少 とグルコ―ス含量の増加がみられた。このフラク卜一スとグルコ―ス含量の比率は 培養前 期の1.OからO.4に下降した。培養カルス細胞のインヴ ェルタ―ゼ(invertase)及 び フ オ ス フ ォ グ ル コ イ ソ メ ラ ―ゼ(PGI)の活 性はABA添加 によ り抑 制 され るー 一方 、 フ オス フォ グ ルコ ムタ ―ゼ (PGM)と フオスフォリラ―ゼ(phosphorylase)及び硝酸還元 酵素活 性(nitrate reductase)は著 しく促進される効果を認めた。特に、フオスフォリラ ー ゼの 活性 はABA添加 培養 によ り、対照区より12倍高かった。硝 酸還元酵素の活性は、

培養前 期(1〜7日目)に顕著な差を 認めなかったものの、後期(7〜28日目)に対照区のそ れ より緩 やかに低下し、28日目に約12倍の活性を残した。イネ培 養カルスにおける各糖 代 謝と それ ら に相 応す る酵 素の活性 に対して、ABAはカルス培養 後期の細胞の生理活性 の維持に効果的に作用すると考えられる。

  更に 面白 い こと は、ABAは培 養カルスの可溶性蛋白質の合成と 蓄積を促進するととも に 、特異 的蛋白質の誘導に効果があった。電気泳動法(SDS―PAGE)の結果に基づき、ABA 添加培養カルスには、45kD、24.5kD、18.5kD及ぴ14kDの新しい蛋白質が誘導された。それ ぞ れの 同一 分 子量 の蛋 白質 は成熟種 子胚にも観察された。また、これらの蛋白質はABA 添 加培養 カルスの植物体の再分化や成熟種子の発芽とともに消失 することを確認した。

  ABA添 加培 養に より 誘導 され た24.5kD蛋白 質は 、硫 酸アンモ ニウム塩析とDEAEイオ ン交換 及びTSKーゲルカラムにより 、大量に抽出濃縮し、最後に2次元電気泳動法で単一蛋 白質を 精製した。一方、部分的に精製した蛋白質濃縮液を用い て2次元電気泳動法でその 泳 動パ ター ン を確 かめ たと ころ 、ABA添 加 培養 によ って 誘導された24.5kDの蛋白質は 等電点 の異なる4種類の蛋白質であった。それらのうち、pI−6.1及ぴpI―6.9の蛋白質AB A特 異的発現の蛋白質であることを確 認した。他のニつ(pIー5.1とpI−5.6)は対照区 にも微 量に存在することを認めた。他方、エレク卜ブロッテイング法により、これらの蛋 白 質のN一末 端か らそ れぞ れ解 読し た20〜30個 のア ミノ 酸か らみ ると 、60%が 同じ ア ミノ酸 配列であった。このニつのABA誘導蛋白質カヨ頃似していることは明らかである。

  精製 した ニ つのABA誘導 蛋白 質を 、2カ 月齢 の兎 に注 射し、抗 体を得た。それらの抗 体を用 いて抗原抗体反応を確かめたところ、二つの抗体は24.5kD以外の蛋白質と反応しな かったものの、ともに24.5kDの4種類の蛋白質と反応した。その強さは、pI−6.1蛋白質の 抗体はpIー6.l>pI‑6.9>pI−5.6>pト5.1の願であり、pI―6.9蛋白質の抗体はpI−6.9>

pI―6.l>pI−5.6>pIー5.1の順であった。それぞれの抗原に対応する抗体特異性を認めた。

一方、 成熟種子胚の可溶性蛋白質と反応させたところ、前述と同じ結果を認めた。他方、

このニつの抗体は対照区の24.5kDの同一分子量蛋白質である、pI―5.6とpI‑5.1蛋白質以外 とは反応しなかった。即ち、対照区には、24.5kDの同一分子量のpI―6.1及ぴpI・6.9蛋白 質 は存 在し な ぃ。 この ニつ の抗 体は 、ABA添加 培養 に由 来する再分化植物体及ぴ発芽5 日目の 幼植物体由来の可溶性蛋白質とは反応しなかったことから考えると、植物体の再分 化及び 種子の発芽により幼植物体となると、その24.5kD蛋白質は完全に消失してしまう ことを証明した。

  従っ て、 培 養カ ルス のABA誘 導特 異的 発 現の 蛋白 質は 種子 形成 と成 熟段 階に 内生AB Aに誘導された特異的発現の蛋白質 と類似した性質又は同じアミノ酸配列を持っている可 能性が 極めて高いと推測される。培養カルスの不定胚形成は浸透圧や塩類や栄養などのス ト レス によ っ て誘 起さ れ、 胚発生の 前段階を完成させる。ABAは 細胞あるいは組織のス

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卜レス( 例えば、塩類とか栄養とか水及ぴ熱とかなどのス卜レス)のシグナルとして情報 伝達の効 果があると推測される。

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学位論文審査の要旨

学 位 論 文 題 名

イネ培 養カルスの再分化に及ぽす

アブシ ジン酸の 作用機作に関する生理学的研究

  本論文は重要な食用作物であるイ ネ・ジャポニカ種(Oryza saガぬLssp.Japonica)の く品種ユーカラ>を用い、成熟種子よりのカルス誘導培養、カルスの継代培養、植物体の 再分 化及 ぴ培 養 カル スの糖代謝に 及ばすアプシジン酸(abscisic acid,以下ABAと略記 する)の作用と特異的蛋白質合成に 関して検討している。

  種子より誘導したカルスは継代培養を重ねるに従って徐々に均一となり、増殖率が高く なるが、6代継代培養後のカルスは未継代カルスより植物体再分化率は急激に低下した。

一方、白く堅いゴンパク卜なカルスの殆どは植物体に再分化するが、黄色く柔らかI`増殖 の速いカルスの植物体再分化率は1〜3%であった。

  長 期間(180〜210日間 )継 代培 養の カル ス は、lOmg/LABA添 加培地で28日問培養後、

再分化培地で培養すると、再分化率が30%以上に回復し、カルス塊に形成される不定芽の 数も2倍 以上増加し、緑色植物体の出現期間も一週間以上短縮されることが確認された。

また 、ABA添加 培養 によ り、不定胚形成が誘起され、胚発生の 前段階の分化を完成する こと を顕 微組 織 学的 方法で発見し 、ABAが不定胚由来の再分化 柏物体形成の比率を増加 し、茎葉分化由来の再分化植物体の 形成を抑える効果が形態観察によって確認された。

  ABAは、 培養 カル スを 白色でコンパク卜な形状にするが、顕 著に増殖生長を抑える。

し か し 乾 物 含 量 はABA添 加培 養に よ り著 しく 増加 した 。こ れに 対し て水 分含 量はABA 添加 培養 によ り 低下 した。さらにABAはカルスのサッカロ―ス 吸収を促進し、細胞内に サッカロ―ス及ぴ澱粉の合成と蓄積 を促進し、培養前期(0〜14日目)のカルス細胞の還 元糖の激しい変動を抑え、フラク卜 ースの含量を減少し、グルコ―ス含量を増加する。

  一方カルスのインヴェルターゼ(invertase)及ぴフオスフォグ ルコイソメラ―ゼ(PGI) の活性を抑制して、フオスフォグル コムターゼ(PGM)とフオスフ ォリラーゼ(phosphoryl ase)及 ぴ硝酸還元酵素(nitratereductase)活性を著しく促進する効果を認めた。特に フオ スフ ォリ ラ ―ゼ の活性がABA添加培養により、対照区より12倍高かった。硝酸還元 酵素 の活 性はABA添 加培 養により、培養前期に顕著な差を認め なかったが、その後対照 区よ り緩 やか に 低下 し、28日目に は約12倍の活性を残した。これらの結果は、ABAがカ

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郎 夫

明 夫

嘉 郁

   

田 村

越 上

喜 木

生 三

授 授

授 授

教 教

教 教

査 査

査 査

主 副

副 副

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ルス培養後期の 細胞生理活性の持続に役立っと考えられる。

  ABAは 培養 カル スの可溶性蛋白質の合成と蓄積を促 進するとともに特異的蛋白質を誘 導する。ABA添加培養により、カルスに45kD、24.5kD、18.5kD及ぴ14kDの蛋白質が誘導 された。それぞ れの同一分子量の蛋白質は成熟種子胚にも見られた。これらの蛋白質は、

培 養 カ ル ス よ り の 植 物 体 再 分 化 や 種 子 の 発 芽 と と も に 消 失 す る こ と を 確認 した 。   ABA添 加培 養で 誘導 した24.5kD蛋 白質 を硫安塩析 とDEAEイオン交換及ぴTSK‑ゲルカ ラムにて精製し た蛋白質濃縮液を用いて2次 元電気泳動法でその泳動パターンを確かめた と ころ 、ABAに誘 導された24.5kDの蛋白質は、等電点の違う4種類の蛋白質であること が 分か った 。N一 末端からそれぞれ解読した20〜30個 のアミ丿酸配列の60%が同じであ っ た。 更に 、精 製したABA誘導蛋白質を兎に注射し、 の抗体を作成し、抗原抗体反応を 確かめたところ、二つの抗体は、24.5kD以外の蛋白質と反応しなぃが、ともに24.5kDの4 種類の蛋白質と 反応した。その強さから、それぞれの抗体に対応する特異性を認めた。成 熟種子胚の可溶 性蛋白質と反応させたところ、前述と同じ結果を認めた。このニつの抗体 はABA添 加培 養区 由来の再分化植物体及ぴ種子由来の 幼植物体の可溶性蛋白質とは反応 しなかった。即ち、再分化植物体の形成或いは種子の発芽に伴い、24.5kD蛋白質は完全に 消失することを 証明した。

  以上 のよ うに 本研究は 、イネ培養カルスがABA添加 培養によって誘導する特異的蛋白 質が種子形成と その成熟段階に誘導される特異的発現の蛋白質と類似アミノ酸配列を持っ ている可能性が 極めて高いと推測される。この結果は、イネ培養カルスの不定胚形成がA BAによって誘起 され、胚発生の前段階を完成させることを示唆するもの である。この成 果は、学術的に も高く評価されるとともに、イネ継代培養や品種改良技術の発展に寄与す るところカ堰め て大きい。

  よっ て、 審査 員一 同は 、最 終 試験 の結 果とを合わ せて、本論文の提出者、徐正君は 博 士 ( 農 学 ) の 学 位 を 受 け る の に 十 分 な 資 格 が あ る も の と 認 定 し た 。

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