博士(農学)石橋 学位論文題名
聡
北 海 道 に お ける 針 広 混 交 林 の 択 伐施 業 法 に 関 す る 実証 的 研 究
学位論文内容の要旨
北海道の針広混交林域での施業方法の主体である択伐施業が行われてきた林分の内容は,質,量と も低下しており,継続的按木材の生産が困難になってきている。一方,「持続可能な森林経営」が国 際的な大きな潮流となっており,また,近年森林に対しては,木材生産だけでなく,公益的機能の発 揮にも大きな期待が寄せられている。このような情勢の中で,木材を継続的に生産しつつ,森林のも つ多様な機能を最大限に発揮することができる択伐施業を行いうる森林を再生していくことは,現在 求められている重要な課題である。
択伐施業を行っていく場合,照査法や照査法を基本とする施業方法が理想的である。しかし,集約 的な施業方法である照査法を,大面積の森林を最小限の人員で管理し,施業を行わざるを得ない国有 林等においてそのままあてはめることは事実上不可能である。国有林等の大規模経営においては,林 分の成長量を目安に伐採量を決定していくという照査法の基本的な考え方は踏襲しつっも,その管理 体制に応じた択伐施業計画法を確立することが求められる。
本研究では,国有林における継続的な択伐施業が可能な林分の維持,修復を図るため,広域かつ長 期間にわたる調査結果を使用,解析することによって,その成長量や天然更新など択伐施業をすすめ るにあたって基礎的な情報となる知見を定量的に整理するとともに,択伐施業試験の結果をもとに択 伐施業の効果と問題点を検証した。さらに,これらの結果を利用して択伐施業の計画,実施にあたっ て最も重要な伐採予定量の精度向上を最大課題に,簡易な林分タイプ区分とこれを利用した伐採予定 量の決定法および林分タイプごとの施業方法を検討した。得られた成果の大要は次のとおりである。
まず,択伐施業をすすめるにあたっての基礎的な情報を得るため,1959^‑1963年にかけて設定され た
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箇所の北海道営林局(直 轄)天然林固定標準地(50x 20m区)のほぼ30年間の林分推移の調査 データを用いて,樹種の分布,林分の成長および枯損ならびに天然更新についての実態解析を行った。そ の結果,これまで経験的に知られてきた樹種分布と地況要因との関係を数量化第
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類の手法によっ て定量的に把握することができた。特にトドマツなど樹種によっては分布傾向の予測がある程度可能‑ 257―
となり,この結果は北海道内の他の地域への適用が可能であることもわかった。また,林分の成長お よび枯損の解析結果から,蓄積と成長量の関係について,針葉樹が優占する林分では蓄積がおおむね
300 m3/ha
前後に成長量のピークがあるという過去の報告内容を確認するとともに,広葉樹が優占す る林分では,成長量のピークは蓄積が250m3/ha前後であること,また広葉樹でも中下層に存在する 樹種が優占する林分ではさらに低い蓄積で成長量がピークになるという新たな知見を見いだした。な お,林分の成長状況に関する過去の報告内容はある特定の地域などを対象とする断片的なものである が,本研究において,これらを広域的なデータを用いて確認し総合化した意義は大きく,得られた成 果は今後の北海道内の針広混交林において択伐施業計画を立案,実施する場合の重要な参考資料とな るものと考えられる。さらに,天然更新と地況・林況要因との関係を数量化第I類の手法を用いて解 析した結果,林床植生の種類,立木本数,針葉樹比率が天然更新本数に大きな影響を与えることがわ かった。また,これらの知見および林床植生情報をもとに天然更新の予測を試みた結果,現地に行か なくても天然更新の良否判断程度の予測が可能であり,得られた成果は択伐施業の計画立案や施業実 行時の参考資料として極めて有用なことがわかった。ついで,択伐施業の効果と問題点について,択伐時の選木や伐採搬出などの作業が適正に行われ良 好に管理されてきた択伐試験地13箇所の40年にわたる資料を用いて解析した。その結果,択伐の実施 が樹木間の競争を緩和し,林分成長量を増加させるとともに,形質不良木を除去することで林分を構 成する立木の形質を全般的に向上させる,という効果をもたらすことがわかった。一方で,クマイザ サなどのササ類が密生し天然更新が不良な林分では,進界木がほとんどないため,択伐を続けると,
上層の大径木のみで中下層を欠く単層林型となり,いずれは大径木の減少にともなって疎林化し,将 来継続的な択伐が困難となる可能性が大きいことがわかった。このことは,継続的な択伐施業を可能 とする林分を維持するためには,まず更新の確保を最重点におくことが重要であることを示すもので ある。すなわち,天然更新状況を把握し,天然更新が不良と認められる場合には,更新補助作業を実 施することが必要となる。一方,大面積の森林を最小限の人員で管理しなければならない国有林等の 大規模経営の組織体制の実情も考慮されなければならない。そのため,本研究では,下刈作業などの 省力化と択伐林型への誘導,維持に有利と考えられる大苗を用いた樹下植栽と伐根周囲植栽をとりあ げ,試験結果をもとに検討した。その結果,これらの植栽方法の択伐施業への適用は有効であり,特 に集約な施業を可能とする路網密度の高い択伐施業林においては積極的に採用すべきであると考え られた。
他方,択伐施業計画の立案にあたっては,まず対象となる森林の現況調査が行われるが,すべての
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林分で詳細な林況調査を実行することは困難な場合が多く,このため計画段階での伐採予定量と実際 の施業時における現地での査定量が乖離する場合が少なくない。このような問題に対処するため,本 研究では,簡易な方法によって計画段階での伐採予定量をできるだけ実際の伐採量に近づける方策に ついて検討した。その結果,林分の成長や枯損等の林分推移の解析結果から,林分の区分によって伐 採予定量を算出する手法が有効であることを検証し,次の提案を行った。すなわち,空中写真を利用 して各林分の樹種,蓄積,立木本数等を査定し,それに基づぃて各林分を「低蓄積疎林」,「高蓄積 単層林」,「二次林」および「択伐林」の4っに区分し,計画段階の伐採予定量は,この4つの区分のう ち「択伐林」と「高蓄積単層林」のみの成長量(高蓄積単層林は大径木の成長量)から計上し,「二 次林」と「低蓄積疎林」は伐区から除外し更新や保育作業を主眼においた施業を実施すべきことを提 案した。この方法によれば伐採予定量と実際の伐採量の乖離が小さくなり,施業計画における伐採予 定量の精度向上が得られ,継続的な択伐施業の実施と択伐施業林の維持,修復が図られるものと考え られる。
また,上記の林分区分を利用して,将来の森林造成にかかわる林分区分ごとの具体的な施業方法を 提案した。すなわち,更新の確保を前提として,「高蓄積単層林」において広葉樹が優占し,有用広 葉樹の育成を目指す林分における伐採方法,また混交林もしくは針葉樹林からなる「択伐林」を維持 しようとする場合の地利,地形,更新状況に応じた伐採率の設定,などである。これら林分区分ごと の施業の方法を示すことは,施業の方向に目標を与えると同時に,施業実行時における現地踏査の視 点を林分内容の質的改善に向けさせるなど,その効用の広がりにも期待するところ大きいものがある。
以上,本研究の成果は大面積の森林を管理する国有林における択伐施業の計画と実行の改善に大き く資するとともに,択伐施業を実施している他の経営体の施業方向にも大きな示唆を与えるものと考 えられる。
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学 位 論 文 審 査 の要 旨 主 査 教 授 和 孝 雄 副 査 教 授 松 田 彊 副 査 教 授 高 橋 邦 秀 副 査 助教 授 小鹿勝利
学 位 論 文 題 名
北海道における針広混交林の択伐施業法に関する実証的研究
本論文は7章で溝成され,図72,表20,引用文献76を含む頁数158の和文論文で,他に参考論ニltC20編が添えら れている。
北海道の金ナ広混交林曦における主要な施業法である択伐施業が行われてきた林分の内容は,質,量とも低下 しており,継続的な木防の生産が困難になってきている。ー方,「持続可能な森林経営」が国際的な大きな潮 流となっており,近年また,森林のもつ公益的臓能の発揮にも大きな期待が寄せられている。このような情勢 の中で,オ材を継続的に生産しつつ,森林のもつ多様な機能を最大限に発揮することができる択¢弼謗顛去を再 構築することは,現在求められている重要な課題である。
本研究は,国有林における継続的な択伐施業が可能な林分の維持,修復を図るため,広域かつ長期間にわた る調査デ・ータを使用,角耕斤尹ることによって,その成長量や天然更新など択伐施業をすすめる上での基礎的な 情報を定量釣に整理するとともに,その結果を禾IJ用して択依施業の計画,実施に際して精度が高く,カyコ簡易 な手法による伐採予定量の決定法およぴ淋分タイプごとの施業方法について検討したものである。得られた成 果は次のように要約される。
まず,択伐施業をすすめるにあたっての基礎的な情報を得るため,1959〜1963年にかけて設定された326箇所 の北海道 営林局天然林固定漂準地(50x 20m区)の30年間の調査データを用いて樹種の分布,林分の成長およ 乙職嚇iならびに天然更新についての実態解析を行った。その結果,これまで経験的に知られてきた樹種分布と 地況要因 との関係を数量化第I類の手法により定量釣に把握し,樹種の分布傾向をある程度予測することが可 能なことを示した。また,林分の成長およ乙職嶺の解析結果から,蓄積と成長量の関係について,金+葉樹が優 先する林分では蓄瞶がおおむね 300 m3/ha前後,広葉附が優占する林分では250m3/ha前後で成長量がピ―クにな ること,また広葉樹でも中下層に存在する樹種が優占する林分ではさらに低い蓄積で成長量がピークになると −260−
い う新 た な 知 見 を見 い だ し た 。さ ら に , 天 然 更新 と 地 況 ・ 林況 要 因 と の 関係 を数量 化第I類の 手法を 用いて 解 析 し, 天 然 更 新 本数 に は , 林 床植 生 の 種 類 , 立木 本 数, 針葉樹 比率が 大きく 影響し てい ること を明ら かにし , ま た, こ れらの 知見お よて肺 鬪ミ 植生情 報をも とに, 現地 に行か なくて も天然 更新の 良否 判断程 度の予 測を可 能 にする 方法 を提示 した。
つ い で , 択 伐施 業 の 効 果 と問 題 点 に つ いて , 施 業 が適正 に行わ れ良好 に管 理され た13箇所 の択 伐試験 地の40 年 にわ た る 調 査 資料 を 用 い て 解析 し た 。 そ の 結果 , 択伐 の実施 により ,樹木 間の競 争が 緩和さ 加彬手 成長量 が 増 加す る と と も に, 形 質 不 良 木を 除 去 す る こ とで 林 分を 構成す る立木 の形質 が全般 的に 向上す る,と ぃう効 果 が ある こ と を 検 証し た 。 一 方 で, ク マ イ ザ サ など の ササ 類が密 生し天 然更新 が不良 な林 分では ,択伐 を続け る と,上 層の 大至木 のみで 中下I層を 欠く単層材彊!となり,いづ寸Lは疎;噺ヒしていくことを検証した。このことか ら ,継 続 的 な 択 伐施 業 を 維 持 する た め に は , まず 更 新の 確保を 図るこ とが最 も重要 であ るとし ,その ため, 下 刈 作業 な ど の 省 力化 と 択 伐 材 型へ の 誘 導 , 維 持に 有 利と 考えら れる大 苗を用 いた樹 下植 栽と伐 根周囲 植栽を と り あげ , 試 験 デ ータ を も と に 検討 し た 。 そ の 結果 , これ らの植 栽方法 の択伐 施業へ の適 用は有 効であ り,集 約 な 施 業 が 可 能 な 路 網 密 度 が 高 い 施 業 林 に お い て ぼ 瞶 極 的 に 採 用 さ れ る べ き で あ る と し て い る 。 他 方 , 択 伐 施業 計 画 の 立 案に あ た っ て は, す べ て の 彬r礪 羊 細 な 林況 調 査 を実行 するこ とは困 難な場 合が 多 く ,こ の た め 計 画段 階 で の 伐 採予 定 量 と 実 際 の施 業 時に おける 現地で の査定 量が乖 離す る場合 が少な くなぃ 。 こ のよ う な 問 題 に対 処 す る た め, 本 研 究 で は ,簡 易 な方 法によ って計 画段階 での伐 採予 定量の 精度を 高める 手 法 を検 討 し , 次 のよ う な 提 案 を行 っ て い る 。 すな わ ち, 空中写 真を利 用して 各林分 を「 低蓄積 疎林」 ,「高 蓄 積単層 林」 ,「二 次林Jおよ び「択t跡 袖iの4っ に区 分し, 計画閉 堵での 伐採予 定量 はこの4つ の区分のうち「択伐 林 」と 「 高 蓄 積 単層 林 」 の み の林 分 成 長 量 か ら計 上 し, 「二次 林」と 「低蓄 積疎林 」は 伐採区 から除 外し, 更 新 や保 育 作 業 に 主眼 を お く 施 業を 実 施 す る こ とを 提 案し ている 。この 方法は ,簡易 な手 法によ って計 画段階 に お ける 伐 採予定 量の精 度向上 を図 ろうと するも のであ り, 実用的 にも択 伐施業 林のネ ま持 ,修復 を図っ ていく 上 でも有 効な ものと 判断さ れる。
ま た , 上 記 の林 分 区 分 を 利用 し て 将 来 の森 林 造 成 にかか わる具 依約な 施業 方法を 提案し ている が,こ うし た 林 分区 分 に 基 づ く施 業 方 法 の 提示 は , 施 業 の 方向 に 長期 的な目 標を与 えると 同時に ,施 業実行 時にお ける現 地 踏 査の 視 点を林 分内容 の質的 改善 に向け させる など, その 効用の 広がり に期待 される とこ ろ大き いもの がある 。 以上 ,本研 究は, 広域的 かつ 長期的なデータ解析によルゴ師鍵!における金+.広混交林の動態に新たな知見を加 え たも の で あ り ,ま た そ の 成 果は , 大 面 積 の 森林 を 管理 する国 有林に おける 今後の 択伐 施業の 計画と 実行の 改 善 に大 き く 資 す ると と も に , 他の 経 営 体 の 施 業方 向 にも 大きな 示唆を 与える ものと 高く 評価さ れる。 よって 審 査 員 一 同 は , 石 橋 聡 が 博 士 ( 農 学 ) の 学 位 を 受 け る に 十 分 な 資 格 を 有 す る も の と 認 め た 。 ‑ 261〜