博士(水産学)伴 修平 学位論文題名
北 海 道 渡 島 大 沼 に お け る 浮 遊 性 橈 脚 類 EM ブternora affinis (Poppe ,1880 )の生態学的研究
学位論文内容の要旨
本研究は、北海道渡島大沼における浮遊性橈脚類Eurytemora a舮″おの現存量、
鉛 直分 布 と 日周 移 動、 休 眠 、餌藻類 現存量お よびプラ ンクトン食 魚類の胃 内容 物 につ い て 調査 を 行い 、 本 種個体群 動態とこ れを制御 する要因を 明らかに する こ とを 目 的 とし た 。本 種 は 元来汽水 性種で以 前は海跡 湖や海と連 絡のある 湖に の み分 布 し たが 、1980年代 以降 大沼に移 入し、近 年では最 も卓越した 動物プラ ンクト ンとなり 、ワカサ ギなどの 魚類生産 を支える主要な餌資源となっている。
野 外 調 査は 大 沼 の最 深 部、 水 深12mの 地 点に お い て1986年5月 から1988年6月 ま での 期 間 、結 氷 期の12月上 旬 か ら翌 年4月 上旬 ま で を除 いて毎週 行った。 湖 水 は7月 か ら9月 中 旬 ま で が 温 度 成 層 期 で あ り 、10月以 降 は 循環 期 で ある 。E q舮nお の 餌藻 類 現 存量 を 反映 するく20um画 分のクロ ロフイル ロ量は、解 氷後全 層で急 激に増加 し、5月下旬には10.5いghこ達したが、6月初旬には1/5以下まで 減少し た。6月下 旬以降は 再び増加 し、7‐8月 には6m以浅で5月の現存量を上回っ た。
Eq舮 凡お は4月 下 旬に 水 柱内に 出現し12月 に消失し たが、5月 から10月中旬 ま での期 間連続的 に再生産 を繰り返 した。個 体数は5月 にクロロフ イルロ量 ととも に急激に増加し、6月初旬に最大2.5うx10゜ind.m・。に達したが、同月中旬にはク ロロフイルロ量の減少に伴って0.5x106ind.m・。以下に急減した。同月下旬以降は 再び増 加したが 、最大値 の1/3程度 にとどま った。この期間鉛直分布も変化し、
そ れ ま で 全 層 均 一 に 分 布 し て い た 本 種 個 体 群 は6月 中 旬 に 急 激 に 下 降 し 、 同 月 下 旬 以 降 、 特 に 成 体 お よ ぴ 後 期 コ ベ ポ ダ イ ト 幼 生 は 日 中 深 層 に 集 群 し 夜 間 表 層 ヘ上昇する日周鉛直移動 を示した。
天 然 集 団 の 発 育 時 間 は 実 験 室 で 測 定 し たE. a舮nむ の 発 育 時 間 と 雌 体 サ イ ズ か ら推測した。餌としてC′つp幻mDnロS地肌刪rP門D脇SロとC慨ぬ′りdみmDnロJ朋fれんロ耐m を 潤 沢 に 与 え た と き (5x104Censml.l冫 、 孵 化 後 成 体 雌 ま で 成 長 す る の に 要 す る 時 間 は 、20℃ で は9.2日 、15℃ で は11.4日、10℃ では22.8日で あっ た。 餌不 足は 13censml11で み ら れ 、15℃ で は 成 体 雌 に な る ま で に 、 餌 を 潤 沢 に 与 え た と き の お よ そ2倍 の24.8日 を 要 し た 。 雌 体 サ イ ズ (L,mm) も 水 温 と 餌 密 度 の 影 響 を 受 け 、 餌 が 潤 沢 に 与 え ら れ た と き は10℃ で 最 も 大 き く な り 、 飼 育 水 温 (T, ℃ ) の 上 昇に 伴っ て指 数的 に減 少し 、L=1.4T゜136(r=‐O.9965)で表すことができた。
し か し 、 天 然 集 団 の 雌 体 サ イ ズ は6月 以 降 こ の 温 度 関 数 式 か ら 予 想 さ れ る よ り 小 さ く 、 餌 不 足 に よ る 影 響 が 示 唆 さ れ た た め 、 天 然 集 団 の 発 育 時 間 は 水 温 に 加 え て 餌 不 足 の 影 響 を 考 慮 し て 求 め た 。 湖 でN1期 幼 生 が 成 体 に な る ま で に 要 す る 日 数 は 、 繁 殖 期 に あ た る5月 下 旬 か ら10月 中 旬 ま で の 期 間 は 雌 雄 と も に15‐20日 を要することが推測でき た。
卵 生 産 速 度 は 、 餌 を 潤 沢 に 与 え て 飼 育 す る と15か ら20℃ で は34eggsfemale.l day.1で あ り 、10℃ で は19eggsfemale.ldヅ1で あ っ た の に 対 し て 、15℃ の餌 不足 時 に は2−5eggsfemale lday・  ̄ まで 減少 した 。一 方、 天然 集団 の卵 生産 速度 は、5 月 下旬 が最 大で12eggsfemale・lday 1を上 回っ たが 、6月 には2eggsfemale・lday・1 以 下 ま で 急 激 に 低 下 し た 。7月 以 降 は 再 び 増 加 し 、1986年 に は8eggsfemale.l dayIIを 上 回 る こと もあ った が、1987年に は4eggsfemale.lda‥程 度に とど まっ た。
こ れ ら 現 場 で 得 ら れ た 卵 生 産 速 度 は 、 餌 を 潤 沢 に 与 え て 飼 育 し た 場 合 よ り は る か に 低 く 、 成 体 雌 頭 胸 長 の 矮 小 化 と と も に 本 種 が 湖 で は 恒 常 的 に 餌 不 足 の 状 態 にあり、特に6月に著しいことを示した。
休眠 卵は 短日 ・低 温刺 激に よっ て10 月中 旬以 降産 卵さ れるよ うに なり、冬期 間を湖 底で 越冬 した 。解 氷後 、水 柱内 に巻 き上 げら れた 休眠卵 から 春季個体群 が形成 され るが 、泥 中に 残っ た卵 は孵 化す るこ とな く湖 底に蓄 積さ れた。こう して 休 眠 卵 は 周 年 に わ たっ て湖 底泥 中10 cm 深 まで 分布 し、 湖最 深部で の現 存 量は3̲7xl06 eggs m.2 に達した。休眠卵の産出|ま個体数密度の増加によっても誘 引さ れ 、 5‑6 月 の 個 体数 増加 期に は湖 底に 新た な休 眠卵 の堆 積が 認めら れた 。 天然 集団 の死 亡率 は、 どの 発育 段階 でも5 月には0.2 以下と低いが、6 月初旬に 最も高 くな り、 1987 、1988 両 年と も0.75 以 上を 記録 し、 7 月以 降は 若齢群で0.1
、高齢群で0.3 程度まで減少した。
大沼 にお ける プラ ンク トン 食魚 類で ある ワカ サギ 、イ トヨお よび ウキゴりの 食性を調べると、5‑6 月の仔魚期にはともに胃内容物の75‑100 %がE .胡孰おによっ て占 め ら れ て い た 。 5 月 には ノー プリ ウス 期幼 生や 初期 コベ ポダ イト幼 生が 胃 内容 物 の 大 部 分 を 占 め るが 、6 月 中旬 以降 は後 期コ ベポ ダイ ト幼 生や成 体の 占 める割 合が 増加 した 。一 方、 7 月以 降こ れら魚類はE a ガ沈むに代わってB 〇跚洫 を捕 食 す る 傾 向 を 示 し た。 個体 数の 著しい 減少 がみ られ た6 月に ポリエ チレ ン バッグ を使 って 行っ た隔 離実 験は 、プ ラン クト ン食 魚類 による 捕食 がE .砺n む 個体群 に与 える影響を明らかにした。実験結果はノープリ・ウス期幼生を除く他 のス テ ー ジ で 、 バ ッ グ 内の 死亡 率が 天然集 団の それ を大 きく 下回 り、 6 月に 成 体およ び後 期コ ベポ ダイ ト幼 生に みら れた 死亡 の主 な原 因がワ カサ ギおよびウ キゴリ仔魚による捕食にあることを支持した。
E 匍 執む の生 物量 と成 長速 度から 計算 され る日 間生 産量 は5 月 に急 激に増加し
て、6 月初 旬に 最大 値13415mgCm . 。d ヴ l を 記録 した が、 以後は 急激 な減少を示
し10 ‐ 60mgCm .2day ・1 の低い値で推移した。1987 年5 月から同年10 月までの総生
産量は6 .2gCm .。と計算できた。P /B 比は、通常水温上昇に伴って増加すること
が知 ら れ て い る が 、 本 研究 では 7 月以 降増 加は みら れず 、餌 不足 による 影響 が
反映されたものと考えられた。
以上の結果を総括すると、 6 月中旬にみられた体サイズの縮小や卵生産速度 の低下と急激な個体数の減少は同時期にみられたクロロフイルロ量の低下に良 く対応した。また同時期の成体や後期コベポダイト幼生の死亡の主な原因はワ カサギおよびウキゴリ仔魚による捕食と考えられた。6 月下旬以降にみられた 成長および卵生産の低下は餌藻類が減少したためではなく、同時期にみられた E . a 舮n むの日周鉛直移動により個体群が日中餌藻類の少ない深層に下降したた めと考えられる。日周鉛直移動は捕食回避行動と考えられるが、一方では餌不 足をもたらし、成長および再生産の低下をまねいた。これは魚類による捕食が、
直接的にだけでなく、間接的にもEq 所nf 個体群に影響を及ぼすことを示唆す
る。
学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
北 海 道 渡 島 大 沼 に お け る 浮 遊 性 橈 脚 類 E ひりとernora a カん凡fs (Poppe ,1880 )の生態学的研究
本 研 究 は 北 海 道 渡 島 半 島 に 位 置 す る 大 沼 湖 に お い て1980年 以 降 出 現 し 卓 越 種 と な り 、 ワ カ サ ギ の 餌 と な っ て い る 浮 遊 性 橈 脚 類Eurytemora affinisに つ い て、 季節 的消 長 、 鉛 直 分 布 、 成 長 、 繁 殖 生 態 、 さ ら に 湖 内 に 生 息 す る プ ラ ン ク ト ン 捕 食 魚 類 の 胃 内 容 物 を 調 ベ 、 個 体 群 動 態 を 制 御 す る 要 因 を 明 ら か に し た も の で あ る 。 大 沼 は 最 大 水 深12mの 浅 い 湖 で 、12月 上 旬 か ら 翌 年4月 の 期 間 は 結 氷 す る 。E a舮nむ は 解 氷 後 の4月 下 旬 に 休 眠 卵 か ら 孵 化 し て 水 中 に 出 現 し 、12月 ま で 幾 度 も 産 卵 を 繰 り 返 し 、 連 続 的 に 分 布 す る 。 個 体 数 の 増 加 期 は 春 季 の 植 物 プ ラ ン ク ト ン 増 殖 期 と 一 致 し 、6月 上 旬 に 最 大 に 達 し た 後 急 速 に 減 少 し た 。 夏 季 か ら 秋 季 に は 個 体 数 変 動 が 少 な く 、 秋 季 に は 休 眠 卵 を 産 み 、 卵 と し て 越 冬 す る こ と を 明 ら か に し た 。 個 体 群 の 増 加 期 に は 、E.q舮nむ は 全 発 育 段 階 と も 表 層 か ら 底 層 ま で 広 く 分 布 し て い た が 、 温 度 成 層 期 に は 成 体 お よ び 後 期 コ ベ ポ ダ イ ト 幼 生 は 昼 間 深 層 に 集群 分布 し、
夜 間 の み 摂 餌 の た め 表 層 に 移 動 す る 日 周 鉛 直 移 動 を 行 い 、 生 態 分 布 が 季 節 で 異 な る こ と を 見 出 し て い る 。
本 種 は 春 季 か ら 秋 季 に は 産 卵 後 数 日 で 孵 化 す る 急 発 卵 を 産 み 、 水 中 の 個 体 群 を 維 持 し て い る が 、 急 発 卵 の 他 に 休 眠 卵 を 産 む こ と を 観 察 し て い る 。 休 眠 卵 産 出 は 通 常 10月 以 降 で あ り 、 短 目 ・ 低 温 刺 激 に よ り 引 き 起 こ さ れ る が 、 夏 季 に も 休 眠 卵 を 産 む こ と を 見 出 し 、 こ の 現 象 は 個 体 群 の 急 激 な 増 加 に よ る 環 境 条 件 の 悪 化 に よ る と 考 え