東日本大震災による被災者の避難状況
-茨城県を対象に-
乾 康代*
(2012 年 11 月 16 日 受理)
Refuge Conditions of Sufferers of the Great East Japan Earthquake
- Studies of the Sufferers of Ibaraki Pref. -
Yasuyo INUI * (Received November 16, 2012)
1. 研究の目的と方法
復興庁によれば,2012 年 11 月現在,32.5 万人が避難生活をしている。避難先はほとんどが住宅 だが,震災から1年8ヶ月たった時点でも,公共施設を利用した避難所で生活している人が 171 人 もいる。2012 年2月現在で避難者数 34.1 万人,それから9ヶ月たったが,避難者の減少は 1.6 万人,
減少率は 4.7%である。避難生活の長期化がはっきりしてきている。
避難者へは自治体などにより仮設住宅が提供されているが,仮設住宅だけでなく,仮設住宅以外 の住宅・施設に避難している人は少なくない。また,避難先は地元ばかりではない。安全な避難先 を求めて地元を離れ,遠く県外へ避難している人も大変な数にのぼる。
しかし,復興庁が示す上記の数,32.5 万人は避難者のすべてではない。本稿では,その捕捉率の 極端な低さを指摘しているが,捕捉率の低さと連動して,避難者の生活状況や抱える問題もほとん ど分かっていない。長期化している避難生活に耐えている人々に必要な支援が届き,人間らしい生 活へ戻れるように,万全の方策がとられることが求められる。そのためには,避難者情報の正確な 捕捉と,避難者の生活状況と抱える問題を明らかにする必要がある。
以上のような問題認識にもとづき,本稿では,以下の2点を明らかにすることを目的とする。第 一に,公表された情報と集計値をもとにして避難者の避難状況の全体像を把握し,続いて,筆者が 茨城県内で実施した独自調査による集計結果も加えて,茨城県を対象に,避難者数の捕捉状況と,
避難者の避難状況の一端を明らかにすることである。
本稿が対象とする避難者について定義をしておきたい。避難とは震災などによる災害から難を逃 れて安全な場所に立ち退くことをいう。避難者とは上の目的のために安全な場所に立ち退いている
茨城大学教育学部住居学研究室(〒310-8512 水戸市文京2-1-1; Laboratory of Housing Science, College of Education, Ibaraki University, Mito 310-8512 Japan).
*
人をいう。行政では,属地主義の考え方から,転出した避難者を避難者とみなさない考え方がある が,本稿では,転出手続をした・していないに関わらず,上の避難の定義に当てはまる場合は避難 者とする。避難者には,今回の震災による避難者と,その直後におきた福島第一原発事故による避 難者が含まれる。すなわち,避難者はその避難理由によって大きくは,住宅被災による避難者と放 射線への不安からの避難者に分類される。
本稿では,このうち,前者の住宅被災による避難者を対象として分析する。後者の放射線への不 安からの避難者については,福島県では原発避難者特例法にもとづき避難者の捕捉と行政サービス 提供に努めているが,茨城県では,上記特例法の指定区域に入っておらずほとんど捕捉されていな いこともあって,現時点では,わずかな公表値もその分類,分析はまったくできない状況にある。
放射能被ばくからの避難者の避難状況については次の機会に報告する予定である。
研究方法は,公的機関により公表されたデータと,筆者が茨城県内の住宅被害集中地区で実施し たアンケート調査結果をもとに分析する。アンケート調査の対象は,住宅被害率(全壊,半壊,床 上浸水戸数合計の,各行政区域内住宅総戸数に対する比として設定した)の大きい市町を中心に,
行政への聞き取りと現地調査をもとにして,北茨城市平潟町,同大津町,日立市河原子町,那珂市 瓜連,水戸市宮町,鉾田市鉾田,潮来市日の出町の7地区とした。これら7地区に対して 2012 年2月,
住宅被害,現居住場所,世帯構成などを内容とする郵送によるアンケート調査を実施した注1)。
2. 住宅被災を受けた世帯
茨城県における住宅被害は,全壊 2,620,半壊 24,158 とされており,これらを合計すると 26,778 戸にのぼる(2012 年 10 月 30 日現在)。この数値は県内の総住宅戸数の 2.6%(住宅総戸数は平成 20 年の数値)に相当する。県人口(2,968,570 人= 2011 年1月)を全世帯数(1,040,200 =平成 20 年統計)で割ると,平均世帯員数 2.85 人が割り出せる。住宅1戸に1世帯が居住していたと仮定 すると,2.85 人を掛けて,住宅が全壊した被災者は 7,467 人,半壊した被災者は 68,850 人,合計 76,317 人となる。すなわち,8万人近くが半壊以上の住宅被害に遭ったと推計できる。
住宅被害を受けた世帯はどのような世帯であったか。これについて公表された集計値はないため,
筆者が 2012 年2月に実施した調査から,全壊および半壊の 229 世帯を取り出し,その被災世帯に ついてデータを集計した(表1)。
全体でみると,世帯主の年齢は,60 歳代以上が 57.6%と,過半数を占めて圧倒的に多く,つづ いて 40 〜 50 歳代が 38.4%を占める。30 歳代以下は 3.9%である。対象地域は人口の減少,衰退化 がすすんでいる地区が半数を占めており,これが反映されたとみられる1)。郵送アンケートという 手法上,調査協力者に高齢者が多かったという側面があったかもしれない。
世帯主の職業では,公務員・会社員が 40.2%ともっとも多いが,60 歳代以上が多いことを反映 して無職も多く 34.9%を占める。世帯型では,もっとも多いのは「夫婦と子」であるが(32.8%),「夫 婦のみ」も多い(30.6%)。「一人世帯」は 10.9%である。住宅は圧倒的に持家が多い(92.1%)。
表1 住宅被害を受けた被災者の特徴
被害レベル別にみる。全壊では,「60 歳以上」が他の被害レベルに比べて明らかに多く,69.0%
にのぼる。他方,「30 歳代以下」の若い世帯はない。世帯主の職業では,「60 歳以上」が多いこと を反映して「無職」がもっとも多く(34.5%),つづいて「自営」「公務員・会社員」である。世帯 型では「夫婦のみ」が多い。住宅はほぼ持家である(96.6%)。
大規模半壊では,「60 歳代以上」の世帯に加え,40 〜 50 歳代と 30 歳代以下の世帯が加わり,こ れにしたがって,世帯型は「夫婦と子」が増える。職業は「公務員・会社員」が増える。住宅は持 家 88.9%,賃貸住宅 9.9%である。
半壊では,全壊と比べると「60 歳以上」は少なく,40 〜 50 歳代が多い。住宅は,持家が 93.3%
と圧倒的多数である。
以上より,住宅被災者の特徴をまとめると,全壊には高齢者世帯が多く,無職と自営が多い。住 宅はほぼ持家である。大規模半壊,半壊では,子育て世代の世帯も加わり,住宅も賃貸住宅が若干 増えるが,持家が大半である。
3. 住宅被災者の仮設住宅入居状況
被災者には,避難先の住まいとして仮設住宅が提供される。茨城県では,仮設住宅への入居資格 は,住家が全壊,全焼もしくは流失などした人,または,福島県に居住していた人で,原発事故に ともない茨城県に避難してきた人,自らの資力でもってしては,住宅を得ることができない人とさ れている。仮設住宅は原則2年間貸与されるが,今回の震災の仮設住宅について,厚生労働省は2 年間延長することを決めた。被災者の住宅再建や仮設住宅を退去した被災者用の災害復興公営住宅 の建設が遅れていることを踏まえた措置である。阪神大震災では3年延長され,計5年にわたり仮 設住宅で生活した被災者がいた。
仮設住宅には,新設される応急仮設住宅のほか,公営住宅や借り上げの民営賃貸住宅なども含ま れる。被災者がこれら仮設住宅にどれだけ入居しているかを以下にみていく。なお,被災者の避難 先は必ずしも仮設住宅ばかりでなく,仮設住宅以外の住宅やその他施設が選択される場合も多いが,
それらの入居数はほとんど把握されておらず,公表されるのは仮設住宅の入居戸数が中心である。
表2に,仮設住宅への入居状況を被災県別にまとめた。これによって,まず,茨城県の住宅被災と 被災者の入居状況の特徴を,東北3県との比較をとおして確認する。
全体では,民営賃貸住宅がもっとも多く(6.9 万戸),つづいて新たに建設された応急仮設住宅(5.3 万戸),公営・UR 賃貸住宅 (0.9 万戸 ) である。民営賃貸住宅が大量に活用されているのは今回の震 災における大きな特徴である。
表2 仮設住宅の着工,入居決定状況
都道府県別に仮設住宅への入居戸数をみると,第一位が宮城県で,被災住宅戸数の多さに比例し てもっとも多く,その数 4.9 万戸である。第二位が福島県で 4.4 万戸,第三位は岩手県で 1.9 万戸,
第四位が茨城県で 2,000 戸である。
全壊・流出・全焼戸数に対する仮設住宅の入居率でみると,第一位は福島県で 212.7%。全壊 などの住宅被害戸数の2倍以上の仮設住宅が供給・提供された。住宅被災者だけでなく,原発事 故による避難者への住宅提供が必要になったためである。同県では民営賃貸住宅がもっとも多く
(122.6%),ついで応急仮設住宅(80.1%)が大量に供給されて対応した。第二位が岩手県で 94.7%
である。応急仮設住宅(69.2%)が中心的役割を果たし,民営賃貸住宅は 18.7%にとどまった。
第三位は茨城県で 73.8%である。茨城県では,東北3県と比べると,民営賃貸住宅がもっとも活 用され 46.4%を占めている。つづいて活用されたのが公営住宅・UR 賃貸住宅である(17.6%)。東 北3県では,公営住宅・UR 賃貸住宅はいずれも入居率は低かったのに比べると,比較的よく活用 された。他方,応急仮設住宅の供給はわずか 10 戸である(0.4%)。
第四位は宮城県で,上記3県に比べると,入居率は 57.9%と低い水準にとどまった。同県では住 宅被害量が巨大で,被災県ではもっとも大量の応急仮設住宅が建設され,民営賃貸住宅も大量に活 用されたが,結果は,多数の被災者が仮設住宅以外の避難先を求めることになった。
茨城県における住宅被災者の仮設住宅入居状況を検討するにあたって,茨城県の今回の震災にお ける仮設住宅の整備方針を確認しておきたい。茨城県防災計画では,被災者向けの住宅整備は応急 仮設住宅が基本とされている。しかし,県内の被害状況と東北の住宅被害の大きさが明らかになる なか,また 2011 年3月から4月にかけて出された国の仮設住宅整備に関する通知を受けて,その 方針は大きく変更された。すなわち,応急仮設住宅の建設資材が東北3県へ集中するだろうという 懸念に加え,仮設住宅に必要なボード類の生産施設,従業者とも被災しており,生産の回復の遅れ も懸念されたことから,県住宅課はまず公営住宅への先行受け入れを決め,つづいて,雇用促進住 宅,国家公務員宿舎等の公共住宅の受入れを決定した。さらに,3月中旬の民営賃貸住宅の借り上 げ可能の厚生労働省の通知と,4月 30 日の,被災者が自ら探してきた民営賃貸住宅も県名義の借 り上げ仮設住宅扱いができるとの通知を受けて,県住宅課は,県内に 10 万戸ある民営賃貸住宅の 活用を仮設住宅の整備方針の基本とすることにした。このようにして,公営住宅やその他公共住宅 のほか,民営賃貸住宅の空きストックが積極的に活用することがすすめられることになった。
先の表2では,茨城県の仮設住宅への入居決定戸数と入居率を,東北3県と比較してみてきたが,
この表では,県内の避難者と県外からの避難世帯の両方が集計値に含まれている。全壊・流出・全 焼戸数に対する仮設住宅入居率を正しく求めるためには,震災当時,県内に住民票をもっていた被 災者と,震災後に県外から避難してきた被災者に分け,県内避難者数を母数にした仮設住宅入居率 をもとめる必要がある。そこで作成した表が表3である。
この集計によると,県内の仮設住宅に,茨城県の避難世帯 974 と県外から避難してきた世帯 872,合計 1,846 世帯が入居している。県内の全壊・流出・全焼した住宅戸数は 2,769 である。これ を母数とした仮設住宅への入居率は 35.2%となり,表2で算出した 73.8%から大幅に低下する。上 記前提のもとでは,全壊などで住宅をなくした被災世帯の3世帯に1世帯しか仮設住宅に入居して いないことになる。すなわち,残る2世帯は県内の仮設住宅以外の住宅や施設などに避難先を求め ていることになる。
表3 応急仮設住宅とその他提供住宅の入居者数
被災者の受け入れ可能な住宅ストック量でいえば,民営賃貸住宅だけでも 10 万戸という充分な 量があったから,この住宅被災者の仮設住宅への入居率の低さの原因は,ストック量の問題ではな い。では,なぜこれほどに低い入居率になったのか。この疑問に対し,ストックと仮設住宅需要の 地域的な特徴について分析する。
4. 地域別にみた仮設住宅入居状況
茨城県では,民営賃貸住宅および公営住宅などの空きストックが仮設住宅整備の中心とされ,新 設の仮設住宅は北茨城市の 10 戸に限定された。したがって,本節の分析課題である,被災者の仮 設住宅への入居状況は,仮設住宅を求める被災者がどれだけいて,それに対してどれだけ提供でき る空きストックがあるかの関係分析が中心になる。
まず,市町村別にみた仮設住宅への入居状況を確認する。表4に,40 戸以上の入居が決定して いる市村を上位より並べた。入居戸数のもっとも多いのが日立市で 368 戸,続いて北茨城市 320 戸,
水戸市 206 戸,神栖市 164 戸,高萩市 103 戸などである。これらは,いずれも住宅被害率の高い市 町である。
表4 市町村別仮設仮設住宅の入居状況
つぎに,ここにあげられた 18 市町における被災者の入居率をみる。全壊戸数に対する入居率の 低い市町は,鹿嶋市(13.0%),潮来市(47.4%),高萩市(50.5%),鉾田市(58.4%)など,住宅 被害率が高かった鹿行地域や県北沿岸地域の市町が並んでいる注2)。他方,入居率が高い市町は,
結城市(2,300%)。坂東市(1,000%),土浦市(700%),古河市(650%)など,いずれも住宅被害 率が小さかった県西,県南地域の市町で,市内の全壊戸数を越える数の被災世帯を受け入れている。
単純にいえば,被災世帯の一部は,住宅被害の大きかった市町から,被害の小さかった市町へ仮設 住宅を求めて移動したということになる。
被災者にとって,被災した自身の住宅での片付けや見守り,通勤や通学関係などを考えると,元 の居住地から遠く離れず避難先住居を求めるのが都合がよい。しかし,地域の住宅の被害状況や空 きストック事情などとの関係から,避難先は必ず同一市町村内で求められるとは限らない。さらに 広い区域でみてみる。
住宅被害は,住宅被害率(全壊,半壊,床上浸水の合計戸数の,各行政区内住宅総戸数に対する 比)でみると,北沿岸地域,県北内陸地域,県央地域,鹿行地域に多い2)。すなわち,住宅被害は,
本震震源に近い県北地域と沿岸地域に集中した。そこで,上記4地域別に仮設住宅への入居決定数 と入居率を表5に示した。
表5 地域別にみた提供住宅の入居決定数
4地域全体では,全壊戸数に対する入居率は 72.7% で,県平均 73.8%とほとんど変わらない。仮 設住宅の種別でみれば,民営賃貸住宅への入居がもっとも多く 957 戸で,全壊戸数の 40.8%を占め る。公営住宅は民営賃貸住宅に比べると半分以下となり 398 戸,17.0%である。
地域別に見ると,県北沿岸地域はほぼ 100%で,同地域としては需給のバランスが取れたことに なる。ここでは,民営賃貸住宅が 50.2%と半数を占め,残る部分を公営住宅と雇用促進住宅で対応 した。県央地域もほぼ 100%であった。地域内の空きストックで対応できたとみることができる。
ここでは,公営住宅が 63.1%と仮設住宅の中心を担った。
県北内陸地域では入居率は 82.4%と低くなった。ここでは,民営賃貸住宅が被災者の大半を受け 入れる役目を果たしたが,残る2割程度の被災者は仮設住宅に入居していない。県北内陸地域は農
村部が中心で,居住が可能な離れや近隣の親族宅など,避難者を受け入れられる住宅が地域内にあっ たことが反映したものと推測される。
これら3地域に対して,入居率が極端に低かったのが鹿行地域で,その率はわずか 36.2%である。
この地域は液状化被害が大きく,津波被害が大きかった県北沿岸地域と並び,全壊戸数が 1,000 近 くにのぼった。それに対し仮設住宅に入居したのは 300 戸余の世帯であるから,600 世帯弱が仮設 住宅以外の住宅に避難した。この地域の住宅ストック事情をみると,もとより公営住宅ストックが 少ない。加えて,住宅被害は広範でかつ大きかった。たとえば潮来市では4軒に1軒の割合,鹿嶋 市では5軒に1軒の割合で半壊以上の被害がでた。したがって,安心して入居できる空きストック が不足した可能性がある。また,同地域は,人口増加地域で他所からの転入世帯も多い。地域内で 親族宅に頼ることができる世帯はおそらく多くはなく,被災者の多くは結局,他地域へ避難せざる をえなかったのかもしれない。
以上をまとめる。入居戸数からみた仮設住宅入居の特徴を,住宅被害率の大きかった4地域の比 較でみると,被災者の仮設住宅入居需要を満たしたのは4地域のうち2地域,県北沿岸地域と県央 地域である。県北沿岸地域では民営賃貸住宅が,県央地域では公営住宅が,仮設住宅の中心的役割 を果たした。残る2地域では,被災者に対する仮設住宅入居率は低かった。とくに鹿行地域では仮 設住宅への入居率は 36.2%にとどまり,実に 63.8%の被災者が仮設住宅以外の住宅へ入居している。
入居率の低さの理由として,一つに,仮設住宅の一端を担うはずの公営住宅がそもそも少ないこと,
また,これらそれらの空きストック自体が被害を受けて供給が逼迫した可能性がある,その結果,
少なからぬ住宅被災者は地域内の空きストックの入居を選択せず,地域外へ避難先を求めることに なったとみられる。
5. 仮設住宅以外の被災者の避難先
ここまで,被災者の仮設住宅への入居状況の地域的特徴をみてきた。上記分析は,茨城県の仮設 住宅入居資格にもとづき,全壊など住宅をなくした世帯を対象にしたものである。しかし,全壊にい
図 1 り災別にみた被災者の避難先
たらない大規模半壊や半壊の被災者に避難している人はいないのだろうか。これについて,震災から 11 ヶ月たった 2012 年2月時点で筆者が行った,住宅被災者の避難先調査結果をみてみたい(図1)。
調査は,「自宅とその周辺」「県内避難」「県外避難」の3つの選択肢で回答を求めたもので,全 体では「自宅とその周辺」がもっとも多く 63.6%を占める。つづいて,県内避難 35.2%,県外避難 1.2%である。避難先は近隣が多く,つづいて県内避難である。
り災別にみると,全壊では県内避難が 59.4%,ほぼ6割に達している。しかし,避難しているの は全壊だけではない。大規模半壊でも県内避難があり,その割合は 29.3%で,ほぼ3割に達する。
県外へ避難している例もわずかであるがある。半壊でも,大規模半壊と同様,3割の世帯が県内避 難をしている。
これまでの仮設住宅の入居状況分析では,仮設住宅の入居資格とされる全壊・流出・全焼の被災 世帯を対象に,入居率を割り出してきた。ところが,実際は,避難をしている被災世帯は全壊だけ ではなく,大規模半壊,半壊の世帯のなかにも,県内に避難している被災世帯が相当割合でおり,
さらには県外へ避難している世帯もわずかながらいるのである。
2012 年3月に実施したヒアリング調査によってもそうした事例は多数,確認されており,その 1例,津波で店舗併用住宅が大規模半壊と判定された A さん(北茨城市)は,近隣の民営賃貸住 宅に避難していた。B さん(北茨城市)もまた,津波で住宅が半壊した被災者だが,空家になって いた同市内の実家へ夫婦で避難していた。
大規模半壊や半壊の被害であっても,住める住宅は決して少なくないはずである。にもかかわら ず,避難している人が相当割合に達するという状況をどう理解するか。それは,震災により安心し て住める住宅ではなくなったということではないか。今回の震災・津波による住宅被害が集中した 地区は,耐震性不足の住宅が集積している地区でもある。調査対象とした7地区についても,うち 6地区は昭和 55 年以前に建設された住宅が半数ないしは半数以上を占める。たとえば北茨城市平 潟町では,戦前建設の住宅は 27.3%を占め,これを含め昭和 55 年以前に建設された住宅は 76.4%
を占める。日立市河原子町でも戦前の住宅が 16.0%,これを含めて昭和 55 年以前の住宅が 57.4%
を占める。昭和 55 年以前建設の住宅が少なかったのは,人口増加が現在もつづいている潮来市日 の出町のみで,その率 10.8%である。
茨城県全体では,新耐震基準以前に建てられた住宅は 33 万戸,ストック全体の 31.9%である。
調査対象地区は,県平均との比較でみても,新耐震基準以前の住宅がきわめて多い。閉鎖前の避難 所調査ではあるが,避難所に残留していた被災者は,住宅が全壊した人々ばかりでなく,老朽住宅 の大きな揺れや倒壊への不安から避難所での生活をつづけていた人たちも多数含まれていた。本震 で大きな被害を受けたうえ,その後もつづく余震で,大規模半壊や半壊の世帯からも耐震性への不 安で避難する人々が続出したものと推測される。
なお,上記7地区の調査結果に戻れば,さらに,宛名不明で返送されてきたものが大変多かった。
もっとも多かった地区は,津波被害が甚大であった日立市河原子町で,返送率は 18.7%にのぼった。
7地区の平均返送率は 12.0%である。これら返送分は当然であるが,元の住宅から別の場所に避難 している世帯分である。つまり,図1には反映されていない県内や県外へ避難している世帯分が平 均 12 ポイント加わることになる。
6. 仮設住宅以外に避難する避難者
以上のように,県内の仮設住宅に入居している避難者については正確に捕捉されており,どこに,
どんな住宅に,何世帯・何人いるのかがわかる。ところが,県内の仮設住宅以外の住宅などへ避難 している被災者は不十分にしか分かっていない。
ほとんど捕捉されていない,または部分的にしか捕捉されていない避難者は,以下の4ついずれ かに含まれると考えられる。①全壊・流出・全焼の被災を受け,仮設住宅以外の住宅に避難してい る避難者,②仮設住宅の入居資格がない大規模半壊以下の被災者で,仮設住宅以外の住宅に避難し ている避難者,③住宅被災を受けて県外へ避難している避難者,④放射能の影響から逃れるため県 外に避難している避難者である。
これらの避難者数を割り出すことは容易ではないが,全壊,流出などにより住宅をなくした被災 者数は,全壊・流出・全焼戸数をもとにかなり実数に近い数値を算出することができる。算出され た住宅被災者数は避難者数と直結する。その算出値を手がかりにして,現在の避難者数の捕捉率を 探ってみたい。
表2に示したように,県内の仮設住宅に入居している被災者は,全壊などで住宅をなくした世帯 の 1/3 である。残る 2/3 は仮設住宅以外の住宅に避難している人で,上記の①に該当する。その数 は世帯数で 1,795,人数に換算すれば 5,116 人と推計される。この 5,116 人が,仮設住宅以外の住宅 や施設に避難しており,そのためほとんど捕捉されていないか,部分的にしか捕捉されていない避 難者の最低値である。避難者数は,これに,②,③,④の避難者数を加えた総計になる。先に示し たように,茨城県の全壊戸数は 2,620,半壊戸数は 24,158(大規模半壊を含む)であり,半壊戸数 は全壊戸数の9倍以上を数える。図1で,震災から 11 ヶ月たった時点で,大規模半壊や半壊の被 災世帯の相当割合が,元の住宅から難を逃れて避難している事実が確認された。この事実に即して 考えれば,住宅被災による避難者は,かるく1万人を超えることになろう。
避難者のうち①と②にかかわる数値については,復興庁が毎月,集計値を公表している。これを みると,茨城県内で避難している人は合計 5,959 人。その内訳は仮設住宅に避難している人が 5,225 人,仮設住宅以外の住宅に住んでいる人 604 人である(2012 年 11 月 1 日)。5,225 人および 604 人には,
茨城県外からの避難者も含まれているが,かりに 604 人すべてが茨城県民で,①と②に該当すると しても,先の推計値 5,116 人を母数にすると,復興庁の捕捉率は 11.8%でしかない。実際の避難者 数は,先に確認したように,5,116 人をはるかに上回るはずであるから,①,②の避難者の捕捉率 は 10%にも満たない,きわめて低いものとなる。避難者にはさらに,③と放射能の影響からの避 難者④が加わる。
放射能被ばくからの避難者の多くは,県内ではなく県外に多く避難しているとみられる。④の避 難者を含む県外避難者に関しては,2011 年の県人口統計調査に,例年にはない大きな変化があっ たことをみておきたい。すなわち,2011 年の1年間で県人口は 14,444 人減少,記録以来最高の減 少となったのである3)。人口の社会減も大きく,2009 年は 2,229 人増,2010 年も 216 人減にとどまっ ていたが,2011 年には 7,991 人の大幅な減少となった。月別にみると,2011 年3月に 4,805 人,4 月に 2,874 人が転出した。この時期は年度末と始めに重なるから,転出数は震災がなくとも大きい 時期であるが,1年間でみた 2011 年の転出者合計の大きさは,震災と原発事故の影響なしでは考
えられない。
市町村別には,日立市 1,577 人,次いで取手市 1,024 人が多かった。上記2市を含む 37 市町村で 人口が減少した。社会減をもたらした転出者に加え,とりあえず避難,または一時的に避難してい るという人も相当多いと考えられる。これらの避難者を含めると,県外への避難者は相当大きな数 に達するであろう。
県外に避難している③と④にかかわる避難者は何世帯,何人いて,どこに避難し,どんな住宅に 避難しているのだろうか。その人数については全国避難者情報システムによる集計がある。これは,
阪神大震災の教訓により創設されたシステムである。避難者が避難先の市町村へ自身の氏名,避難 先住所等を任意に登録するもので,茨城県を通じて県内の市町村へ,避難者の情報が通達される。
このシステムは,震災発生から1ヶ月後の4月 12 日,総務省が各都道府県に協力依頼通知を出し,
これにより全国各地の自治体で稼働した。ただし,上に述べたように,避難先住所などの登録は,
避難者が任意で行うものなので,避難者数の捕捉は限定的である。転出手続きなしの一時避難と,
転出者のいずれも対象である。先にみた復興庁の公表値も一部はこのシステムによるものとみら れる。
このシステムで集計された避難者数は 2012 年 10 月8日現在,合計 1,474 人である(県市町村課)
注3)。このうち,茨城県から県外への避難者数は 1,429 人,県内での避難者数 45 人である。住宅被 災者の圧倒的多数が仮設住宅以外に避難しているが,その相当数は県内避難をしていると想定され るが,登録数はわずか 45 人である。5,116 人を母数にしても捕捉率は 0.9% しかない。数値があま りに小さいのは,近隣自治体への避難者にとっては,避難者登録の意味は薄いからであろう。この システムは,元居住地の自治体で,避難した人々の所在地などの情報把握が課題となっていること を受けて,避難者から情報提供を受け,避難元の自治体から避難者に情報提供などをおこなうこと としている。しかし,上記状況より,このシステムの課題のひとつに,県内避難者を捕捉する機能 がきわめて弱いことが指摘される。
比較的避難者数が把握できている県外避難者 1,474 人について,避難先の内訳をみると,もっと も多いのが大阪府,ついで東京都で,いずれも 100 人を越える。つづいて兵庫県 90 人,神奈川県 81 人である。大都市県への避難が多い。地方別にみれば,もっとも多いのが近畿地方(2府5県)
342 人,次いで関東地方(7都県)324 人,中部地方(9県)268 人,九州地方(8県)240 人,中 国地方(5県)155 人,北海道 67 人,四国地方(4県)48 人の順で,もっとも少ないのが東北地方(6 県)23 人である。この数値からは,避難者の多くは,近畿,関東,中部など,西へ向かったこと が読み取れる。
避難理由は,すでに指摘したように,住宅被災が主要な理由ではあるが,もうひとつの大きな理 由に放射能の影響から逃れるための避難がある。近畿地方や中部地方,さらにこれら地方以遠など,
仕事や生活関係を断たざるを得ない遠方の地で避難している被災者が多いということは,後者の放 射能の影響から逃れるための避難が多いことを推量させる。全国で活動している民間避難者支援組 織での情報収集とインタビューからもそうした事情が確認されている。これらの人々は必ずしも住 宅被災者と重ならない。自主避難が多数であろう。この推測を裏付けるような資料がある。埼玉県 越谷市が行った避難者支援補助員による聞き取り調査結果である(表6,2012 年2月)4)。
表6 越谷市における県外避難者の住まい
これによれば,市での受け入れ避難世帯 135 のうち,仮設住宅に入居している世帯数は半数に満 たない 42.2%である。その内訳は,借り上げ民間賃貸住宅 31.9%,借り上げ公営住宅 10.4%である。
仮設住宅以外の住宅としてもっとも多いのが「親族宅」,つづいて「個人契約」「無償提供住宅」で あった。仮設住宅に入居できない自主避難者が多いことを推量させる。
平成26年春に募集が予定されている災害復興公営住宅は茨城県全県でわずか232戸である。他方,
住宅を失った被災者は 8,000 人近くに達し,しかも住宅被災世帯には高齢者世帯,高齢者無職世帯 が多い。住宅被災世帯数と住宅被災世帯の事情を考え合わせると,自力再建を目指す被災者が多数 を占めるとは考えにくく,災害復興住宅のほか,既存公営住宅入居ヘの需要は今後,大きく高まる 可能性がある。
7. まとめ
今回の震災,原発事故による避難者の避難状況,および茨城県における避難者数の捕捉状況と避 難者の避難状況について分析した。以下に,明らかになったことをまとめる。
①茨城県において住宅被害を受けた被災者は,全壊では高齢者世帯が多く,世帯主の職業では無 職と自営が多い。大規模半壊と半壊では,高齢者世帯が大半であるが子育て世代の世帯も若干加わ る。いずれの場合も被災した住宅は持家がほとんどである。
②全壊などにより住宅を失った茨城県の被災者の仮設住宅入居率は,福島県,岩手県に比べると 入居率は低い水準にとどまった。東北3県との比較でみるともっとも活用されているのは民営賃貸 住宅である。
③茨城県でも民営賃貸住宅の積極的活用を仮設住宅整備の中心としたが,茨城県民の住宅被災者 の入居率でみると 35.2%にとどまった。残る 64.8%の住宅被災者は県内の仮設住宅以外の住宅に避 難していることが判明した。
④仮設住宅の入居率を住宅被害率の大きかった,県北沿岸地域,県北内陸地域,県央地域,鹿行 地域の比較でみると,県北沿岸地域と県央地域ではほぼ 100%となり,地域内で仮設住宅供給は充 足したかたちだが,県北内陸地域と鹿行地域ではそれぞれ 82.4%,36.2%にとどまった。鹿行地域 における入居率の極端な低さは,地域の住宅被害の大きさ,空きストックの被災,公営住宅の少な さなどが影響したと考えられる。
⑤筆者が震災から 11 ヶ月後に実施した県内被災地における調査から,避難者は,茨城県が仮設
住宅の入居資格とする全壊・流出・全焼だけでなく,大規模半壊,半壊の被災世帯からも相当割合 でみられる。これら仮設住宅への入居資格がない避難者を含め,仮設住宅以外の住宅へ避難してい る人々は,かるく1万人を超えると推量される。
⑥全国避難者情報システムなどにもとづき,仮設住宅以外に避難する避難者数は復興庁で集計,
公表され,県外に避難している避難者数は県市町村課で集計されているが,本稿で推定した最小限 の避難者数を母数にしても,その捕捉値はそれぞれ 10%以下,1%以下という極端に低い数値と なった。
注
注1)2012 年2月,北茨城市平潟町,北茨城市大津町,日立市河原子町,那珂市瓜連,水戸市宮町,鉾田市 鉾田,潮来市日の出町に対して郵送によるアンケート調査を実施した。各地区に対しそれぞれ 160,149,
209,139,57,171,332 の合計 1,217 を配布,回収合計 437,回収率 36.5%であった。
注2)住宅被害率の大きい上位 10 市町は,潮来市(26.3%),鹿嶋市(17.2%),高萩市(12.2%),北茨城市(11.4%),
行方市(8.6%),大洗町(7.8),常陸太田市(6.6%),鉾田市(6.2%),神栖市(5.8%),日立市(5.7%)(2012 年2月3日の県資料をもとに算出)である。県北沿岸地域,県北内陸地域,県央地域,鹿行地域に住宅被害 が大きい。
注3)茨城県市町村課による集計。この数値は,避難者の避難先での自主的な登録によるもので数値は実際よ り小さく,また,避難先から戻った旨が報告されず避難者登録されたままであることがある。
引用文献
1)乾 康代 . 2012.「東日本大震災における被害型からみた茨城県の住宅被害の特徴と再建支援課題」『日本都 市計画学会 都市計画論文集』Vol.47 No.3,pp.1081-1086.
2)乾 康代 . 2012.「東日本大震災による茨城県の住宅被害地区の住宅被害と地域課題」『茨城大学地域総合研 究所年報』45 号,pp.5-19.
3)朝日新聞 .「県人口1万 4444 人減」,2012 年1月 31 日 .
4)越谷市 . 「避難者支援補助員による見守り事業の状況について」2012 年2月 22 日 .