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症例報告

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函館五稜郭病院医誌第18巻(2010)

症例報告 顎下部海綿状血管腫の1例

関  伸彦1),山崎 徳和1),池田  健2)

A Case of Cavernous Hemangioma in Submandibular Region

Nobuhiko SEKI, Norikazu YAMAZAKI, Tatsuru IKEDA

Key Words : cavernous hemangioma, phlebolith, submandibular region

       は じ め に

 頭頸部領域に発生する血管腫の多くは頬部,鼻 副鼻腔に発生し,顎下部における発生は比較的稀 である.今回我々は,左顎下部に発生した海綿状 血管腫の1例を経験したので,若干の文献的考察 を含めてここに報告する.

       症     例 症 例:50歳代女性

主訴:大顎下部腫脹

現病歴:平成21年1月から左顎下部腫脹を繰り返 し,近医耳鼻咽喉科を受診した.同院で頸部 CT検査を施行し,左顎下部に石灰化を伴った病 変を認めたため,唾石症の疑いで当院を紹介受診

された.

経 過:初診時,左顎下部に約30mmの柔らかい腫 瘤を触知した.他,耳鼻咽喉科領域に異常を認め なかった.血液検査では,アミラーゼ正常,CRP 陰性であった.また問診上,顎下部の腫脹と食事 との関連はなかった.

画像所見:頸部造影CTでは,左顎下腺外側に内 部に複数の石灰化を伴った筋肉とほぼ等吸収の腫 瘍を認め,中心部に強い造影効果を認めた(図1).

同病変はMRIでTIWIで筋肉と比べ低〜等信号,

T2WIで高信号を示した(図2),

 以上から,静脈石を伴う顎下部血管腫を疑い,

平成21年10月上旬に腫瘍摘出術を行った.顎下腺 摘出術と同様の皮切を行い,顔面神経下顎縁枝を 同定しそれを上方に保存した後,腫瘍を周囲から

     図1 頸部造影CT

左顎下腺外側に内部に多数の石灰化を伴う軟部陰影

を認め,中心部に強い造影効果を認めた.

      P:plain, E:enhanced.

函館五稜郭病院耳鼻咽喉科D

函館五稜郭病院パソロジーセンター2)

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函館五稜郭病院医誌第18巻(2010)

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  1 cm

    図3 病理組織学的所見

腫瘍は,内皮細胞に異型を認めない種々のサイズの 血管からなり,内腔には血液の貯留を認めた.また

同心円状,層状構造の静脈石を多数認めた(矢印).

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      図2 頸部MRl

左顎下部の腫瘤は,TIWIでは筋肉と比べて低〜等 信号,T2Wlでは高信号を示した,

剥離して顎下腺とともに摘出した.病理学的に腫 瘍は,異型のない内皮細胞よりなる静脈の増生か ら成り,血管内には血液の貯留と同心円状・層状 構造の静脈石を多数認め,海綿状血管腫と診断さ れた(図3).術後顔面神経麻痺はなく,経過良 好にて退院となった.現在経過観察中であるが,

再発を認めていない.

       考     察

 血管腫は増殖した血管からなる境界不明瞭な良 性病変である.病理学的に,細胞が増殖するとい

う意味の 真の腫瘍 なのか,組織奇形なのかはっ きりしていないが,一般に,毛細血管腫,海綿状 血管腫,静脈性血管腫,亡状血管腫に分類されて

いる.

 全血管腫の約40%は頭頸部領域に発生すると言 われている )2).頭頸部領域においては,頬部,

鼻副鼻腔,舌,口腔底での発生が多く,唾液腺に おける報告は少ない2).唾液腺では90%以上が耳 下腺にみられ3),顎下腺における発生は稀である.

耳下腺血管腫は,病理学的には毛細血管腫が多く,

生後1年以内の女児に好発し,病変は耳下腺内に 存在して自然消失する傾向がある.一方,顎下腺 血管腫は病理学的には海綿状血管腫であり,20−

30歳代に多く発生する.しかしながら,本症例も そうであるように,肉眼的にも組織学的にも腫瘍 と顎下腺が区別できて,顎下腺由来とは言い切れ ない症例が多く3)4),自験例は顎下部血管腫とし

た.

 渉猟し得た限りで,1980年から2009年までの30 年間で,本邦において22例の顎下部血管腫が報告 されている.発症年齢は6歳から70歳までで,平 均値33.3歳,中央値28歳であった.男性!0例,女 性12例で,性差はない.全例が海綿状血管腫であ

り,14症例で静脈石を認めた.21例で外科的切除

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函館五稜郭病院医誌第18巻(2010)

が選択されており,1例は経過観察となってい る5)(この症例は,超音波,サーモグラフィ,RI,

CT,血管造影で海綿状血管腫と診断されており,

1年の経過で自然縮小している).

 鑑別診断として,顎下部に石灰化を伴う病変と いう観点から,顎下腺唾石症,皮様嚢胞,石灰化 を伴うリンパ節炎などが挙げられる.自験例では,

顎下腺外の病変で多数の石灰化を認めたこと,

CTで強い造影効果があったこと,顎下部腫脹と 食事に関連がなかったことなどから,血管腫の診 断は比較的容易であった.しかし,嚥下時に舌骨 上筋群の伸縮に伴って,腫瘤が一過性に腫大して 痛みを伴う症例6)7)もあり(咬筋血管腫でみられ る勃起症状),唾石症との鑑別が困難な場合もあ

る.

 食事の際に顎下部が腫脹し,石灰化病変を認め る顎下腺唾石症は,耳鼻咽喉科あるいは口腔外科 の日常診療で頻繁に遭遇する疾患の1っである.

頻度は低いが,顎下部海綿状血管腫も同様の臨床 経過を辿ることがあり,顎下部腫脹の鑑別疾患と

して重要である.

      文     献

1) Batsakis JG:Vascular tumors of the  salivary glands. Ann Otol Rhinol Laryngol

 95 : 649−650, 1986

2)村上 匡孝,神谷 勝久 他:顎下部海綿状  血管腫の一例.耳鼻臨床80:617−625,1987 3)中村 一博,藤田 博之 他:顎下腺血管腫  の1例.耳鼻・頭頸外科 69:386−389,1997 4)石田 芳也,浅野目 充 他:顎下腺血管腫  例.耳鼻臨床 99:573−579,2006

5)滝波 修一,鈴木 一史 他:巨大な血腫を  伴った顎下部血管腫の1例.臨放 33:613−

 616, 1988

6)鈴木  明,神谷 祐二 他:嚥下時にいわ  ゆる勃起症状を呈した顎下部血管腫の1例.

  日口腔診断会誌 5:185−189,1992

7)空閑 祥浩,葉  昼夫 他:静脈石を伴っ  た顎下部海綿状血管腫の1例.日口腔外会誌

 31 : 1222−1227, 1985

参照

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