キーワード 劣化,耐荷力,鋼板接着補強,剥離,継手
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劣化した鋼板接着補強 RC 桁の耐荷力試験
(
独)
土木研究所 正会員 吉田 英二 正会員 村越 潤 正会員 木村 嘉富 正会員 田中 良樹1.はじめに
鋼板接着補強された
RC
桁の破壊までの挙動と残存耐荷力を調査するため,撤去部 材を用いた載荷試験を実施した。対象橋梁は,1935
年に架設され約75
年供用された 単純RCT
桁橋(8
径間,支間10.0m
)である。1981
年頃に,床版及び主桁に鋼板接 着補強がなされた。その後,他の管理者への移管に際して,床版及び主桁の劣化損傷 が著しいことから,2010
年に架け替えとなり,解体撤去された。撤去前の調査では,鋼板接着補強の劣化損傷状態が,径間毎に異なっていた。第
7
径間では,鋼板の腐食,主桁のひび割れともに比較的軽微であった(写真-1)。第
1
径間では,主桁の鋼板の 腐食が広範囲に見られ,漏水痕及びウェブコンクリートのひび割れが確認された(写 真-2)。そのうち,第7
径間から切り出した軽微な損傷の主桁1
体(供試体S1)と第 1
径間の損傷の著しい主桁1
体(供試体S2
)の曲げ載荷試験を実施した(冬季に実施)。2.外観状況及び材料調査
図-1に,載荷試験前の主桁 2 体の外観状況及び載荷試験後の切断面を示す。主 桁 2 体のウェブ表面の一部は,塗膜で覆われていたため,それを除去して調査を行
った。供試体 S2 の主桁ウェブ表面のひび割れは,広範囲に確認されたが,載荷試験後の切断面の状態を見ると内部 深くまでは達していなかった。載荷試験前の床版側面には,両供試体ともに無数の水平方向のひび割れが確認され た。鋼板の叩き調査では,供試体 S2 は,鋼板継手部を除いてほぼ全域に浮きが確認された。また,部分的なはつり 調査によると,スターラップ 2-φ8 が,概ね 200mm 間隔に配置されていた。図-2及び表-1に,載荷試験後の主桁か ら取り出したコンクリートコア及び鋼材の材料試験結果を示す。供試体
S1
のコンクリートコア圧縮強度及び弾性 係数は,道路橋示方書1)に示されている関係に近い値であった。供試体S2
のコンクリートコア弾性係数は,供試体S1
の20
~30%
程度の値であった。
単位:mm
b-b a-a
図-1 載荷試験前の外観状況(供試体側面と鋼板の浮き)
(b)供試体 S2(第 1 径間外桁)
(c)載荷試験後の切断面
4000 2000 4000
縦締め治具 載荷面積 200×806
650
450
添接板 9mm 650
450
459 200 492
200 鋼板の浮き
アスファルト舗装
○:コンクリートコア採取箇所 b
P/2 P/2 b
注)横桁付近の床版のひび割れは省略した。
写真-1 第 7 径間の下面状況
写真-2 第 1 径間の下面状況
(a)供試体 S1(第 7 径間中桁)
鋼板の浮き
450
440 200
450
650 添接板 9mm 650 440 200
2000
4000 4000
載荷面積 200×843
P/2 P/2
a
a ○:コンクリートコア採取箇所
アスファルト舗装
樹 脂厚 2mm
添 接板 9mm
鋼板 9mm 鋼板 4.5mm
63187
アスファルト舗装
60639
450
13565
843
111
樹脂厚 2mm
複鉄筋 4-φ22 主鉄筋 10-φ24
9
鋼板 9mm
106
806 57193644
450 61 135 鋼板 4.5mm
アスファルト舗装
樹脂厚 2mm
52 複鉄筋
4-φ22 主鉄筋 10-φ24
9
土木学会第66回年次学術講演会(平成23年度)
‑377‑
Ⅴ‑189
3. 試験方法
試験は実橋の支点位 置に合わせ,スパン
10m
, 純曲げ区間2m
の2
点集 中載荷とした(図-1)。測定項目は,たわみ変位,
鉄筋ひずみ,コンクリー
トのひずみ,鋼板のひずみの他に,ひび割れ幅及び鋼板とコンク リートの開きをクリップゲージで計測した。主鉄筋ひずみの計測 は,載荷点直下のコンクリート側面から鉄筋をはつり出し,ひずみ ゲージを貼り付けた(両面各 1 箇所)。供試体
S2
については,鋼板 継手部の剥離防止のため,縦締め冶具を設置した(効果は見られなかった)。(図-1(b))。床版上面のアスファルト舗装は,劣化した床版が著しく欠 損する恐れがあるとともに,不陸整正を要するため,除去せずに載荷を行った。
4. 試験結果
図-3及び表-2に,荷重
-
変位の関係及び曲げ 耐力の比較結果を示す。図-3に示す計算値は,供試体
S1
を健全の状態と仮定し,材料試験結果を用いて,コンクリートの圧縮合力と鉄筋及び鋼板の引張合力のつり合いから断 面分割法 2)より算出した。なお,床版上面のアスファルト舗装は計算値に考慮し ていない。両供試体は,ほぼ同一荷重で,鋼板継手部の剥離が発
生した(クリップゲージで確認)。剥離発生前までの挙動は,損傷 による差異が確認されず,両供試体ともに,荷重で比較して,補強 有りとした場合の計算値に比べて 1 割程度大きい値であった。鋼板 の剥離後,剛性が低下しつつも供試体 S1 の荷重は,さらに増加し,
補強無しの曲げ耐力に相当する荷重でピーク値を迎えた。供試体 S2 の耐荷力は,S1 や計算値に比べて 1 割程度低かった。その後,いずれも 主鉄筋ひずみで降伏が認められ,上フランジの圧縮破壊に至った(写真-3)。
図-4 に,剥離発生直前における鋼板下面のひずみ分布を計算値と併せて示す。一般に,鋼板継手部のひずみは,
鋼板断面の変化や鋼板端部付近に発生するせん断応力や垂直応力の影響により,急激に変化が生じる傾向があると 考えられる。継手中心部の実測値は,計算値の 1/2 程度の値であった。計算値が全体的に実測値より大きい値を示 しているのは,アスファルト舗装の影響や鋼板の浮きによって実測値が小さかったことによるものと推察される。
図-5のように,実測ひずみから,鋼板接着部に作用する軸力を算定して,継手部の剥離強度を試算した。その結 果,剥離強度は 2.5~3.2MPa であり,エポキシ樹脂接着剤の引張せん断接着
強さ
10MPa(規格値)と比較して 1/4~1/3
程度の小さい値であった。5.まとめ
鋼板接着補強された
RC
桁は,損傷の差によらず,同程度の荷重で,主桁 下面の補強鋼板継手部の剥離が発生し,曲げ耐力の補強効果が失われた。その後の
RC
桁としての耐荷力は,損傷の著しい供試体S2
の方がS1
や計算値に比べて1
割程度低い傾向が見られた。謝辞 長野県をはじめ本調査にご協力いただいた関係各位に深く感謝致します。
参考文献 1)道路橋示方書・同解説,日本道路協会,2002.3. 2)井上,鈴川,高木,児島:炭素繊維プレートで補 強した RC はりの曲げ特性に関する実験的研究,土木学会論文集,No.746,pp165-179,2003.11.
載荷点
供試体 実験値 (kN)
計算値 (kN)
実験値 /計算値 S1 519 1126(502) 0.46(1.0) S2 478 1112(501) 0.43(0.9) ( ):補強無し 表-2 曲げ耐力の比較
表-1 鉄筋及び補強鋼板の引張試験結果 降伏点
(MPa)
引張強さ (MPa)
弾性係数 (GPa)
φ8(スターラップ) 299 418 209
φ22(複鉄筋) 301 460 209
φ24(主鉄筋) 287 400 212
393 530 205
*3本の平均値 鉄筋
補強鋼板 9mm厚 鋼材の種類
写真-3 破壊状況(供試体 S1)
鋼板継手部の剥離 載荷点
図-2 コンクリートコア圧縮強度試験結果 0
10 20 30 40
0 10 20 30 40
圧縮強度(MPa) 弾性係数(GPa) H14道路橋示方書 S1
S2
*計算に使用した値
*
*
図-3 荷重-変位の関係 0
200 400 600 800
0 100 200 300 400
荷重(kN)
支間中央変位(mm)
0 12.5 25 S1_計算値
(補強無し)
S1_鉄筋降伏 471kN
S1_継手部の剥離 398kN(図-1の右側) S2_継手部の剥離
395kN(図-1の左側) S2_鉄筋降伏 463kN
供試体S1 供試体S2
S1_計算値(補強有り)
S1_最大荷重 519kN S2_最大荷重 478kN
拡大部
0 200 400 600 800
-5000 0 5000
S1_398kN S2_395kN
鋼板ひずみ(μ)
載荷点 載荷点
継手部 継手部
S1_計算値
*剥離強度の 試算に用い たひずみ
供試体中央からの距離(mm) 図-4 鋼板のひずみ分布
図-5 鋼板継手部の剥離強度の試算 T=E(弾性 係数 )× Ap(断面積 )× 剥離発 生直
前の鋼 板ひず み(図-4) 剥 離強度 =T/A(剥離 面積)
≒3.2MPa(S1),2.5MPa(S2) 剥 離面積 A=0.15m2
引 張力 T 引 張力 T
土木学会第66回年次学術講演会(平成23年度)