自己愛の青年心理学
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tと士 一‘‘, ι‘‘一 -ー も 、 ・ ー 、 、 ...
、' ,小塩真司+著 OSHIO Atsushi
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宅卸三,
目~._,~~ '・ ナカニシヤ出版 4句匂 、 む --供 市 . 、, 一 =ロ河 一 ι ‘、一、ぜ一 1 今0"" 干 @一 ," _ 1ム 巴聞酒田三国田
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き
自己愛(ナルシシズム)という概念は,何かしら人を引きつける魅力がある ようである。 非常に難解な概念であるにもかかわらず,多くの人が自己愛といえが
ま
e ・ 3 ・13 24 号、 I s a -5 2 3 4 T V ・ s ・ う概念を面白い, 興味深い概念だと述べる。 100 年以上もの間, 数多くの精神分析学者や心理学者が, 自己愛という概念 について研究を重ねてきた。自己愛はもともと精神的な病理を理解するための し 概念であり, その研究も臨床場面を中心とした理論的研究が中心であった。 かし本書では自己愛という概念を, 必ずしも病理を意味するものではなく. (性格)特性として捉えている。 加えて 本書の内容は,理論的な論考や臨床ケースの分析ではなく,一般青年を対象と した質問紙調査を用いた研究が中心となっている。 したがって,本書の研究ス タイルは,その長い歴史をもっ自己愛に関する研究の中では異端の部類に入る ものであるかもしれない。 またもしかすると読者の中には,このような考えや手法を用いて自己愛の研 究を行うことに対して批判的な意見をもっ人がいるかもしれない。 しかし本書 の第 2 章で紹介するように,近年では調査的な手法を用いた自己愛の研究が数 多く行われるようになっている。 研究数が全てではないとはいえ,このような 研究手法を用いて自己愛を研究することは,近年の心理学におけるひとつの流 れとなっているともいえるだろう。 そのような近年の自己愛研究に, 本書が少 4砂 私が自己愛という概念に興味を抱いたのは,大学 4 年(1 994 年)の初夏であ ったと思う。卒業論文のテーマを探していた私は,ふとしたきっかけでこの概 念に出会った。 最初の出会いがどのようなものであったか, 般の人々がもっ一種のパーソナリテイ それはもう覚えて 。 4。 しでも貢献できれば嬉しく思う。111
筆者の力不足もあり,十分に記述することができていない部分もあるが,本
書を通じて自己愛という概念や.自己愛に関する心理学的な研究に少しでも関
研究者として未熟な私が本書にたどり着くまでには
,
多くの人々に支えられ
てきたのだということを強く感じている。小嶋秀夫先生(現京都学園大学
)
には指導教官として
,
卒業論文の構想の
段階から
,
私の研究に対して様々な助言をいただいた
c
このような研究に対す
る先生のご理解がなければ
,
ここまで研究を続けることはなかったであろう
。
まえがき 4砂 。 心をもっていただければ幸いである。 4砂 冨摂皆 様胃 点 謀 説 認奇想議事益 計 義母 J s nJ と fV23 ネ 64A F1 2 1 まえがき いない。 たまたま手に取った本の中で,自己愛という言葉が目についただけで あったようにも思う。 その後大学院に進学し新たな別の研究テーマを探そう ともしてみた。 しかし自己愛という概念の奥深きに触れるにつれ, もう少し自 分が納得できるまで研究を続けてみようと考え,思いつくままに調査・分析を 繰り返してきた。 結果的にデータは蓄積されていったが,試行錯誤を繰り返し ながらの研究であったために, 多くの失敗も経験した。 その点では極めて荒削 め. 4砂 。 4砂速水敏彦先生(名古屋大
学
)にはゼミの研究会に参加する機会を与えていただ
自分にとって大きな糧とな っている。 村上隆先生(名古屋大学) には多くの助言をいただく中で,本書の最終的な到達点である自己愛傾向の 2 成分モデルへのヒントを与えていただい
た
。
また溝上慎一先生(京都大学)は
,
本書を出版したいと考えていた私を出
版社に紹介して下さった
。
そしてナカニ
シ
ヤ出版の宍倉由高氏は.
まだ駆け出しの研究者にすぎない私に
.
本書を出版する機会を与
え
て下さった
。
この他に
もこれまでに数多くの方々にお世話になっている
。
これまでにお世話にな
っ
た
全ての方々に心からの感謝を申し上げたい。 リテイの研究を始めようとする人はぜひ目を通してもらいたい。 第 3 章から第 7 章では,これまで、に筆者が行ってきた,主に調査的な手法を 用いた研究を報告する。 まず第 3 章ではこれまで暖昧であった,自己愛を測定 。なお本書は
.
2000
(平成 12) 年に名古屋大学に提出した博士論文
.
r青年の
自己愛傾向に関する研究
一一
同世代の対人関係との関連一
一
」に新たな研究
知見を加え,加筆
・
修正したものである
。
また本書の刊行に際しては,日本学
術振興会平成 15 年度科学研究費補助金(研究成果公開促進費)の交付を受けた
章では.自己評定と他者評定という測定方法の違いに注目し, 自己愛的な者の もつ特徴を明らかにする。 第 7 章では, 第 6 章までの検討をふまえた上で, 青 ことを付記する。 自己愛傾向の 2 成分モデルと名づ 年を自己愛の側面から分類することを試み, 誕生したばかりの小さな生命に 小塩真司 りな研究が多いと思われる。 しかし本書で紹介する研究は 20 代という,研究 者としての第一歩を踏み出せたかどうかという時期に行われたものであるた その点はご容赦いただきたい。 11 いた。 そこで他の院生たちと切瑳琢磨した経験は, これ 本書は 8 つの章で構成されている。 第 1 章では主に理論的側面に,第 2 章で、は主に測定的な側面に注目し, までに行われてきた自己愛に関する先行研究を概観し本書の全体的な目的を 明らかにする。 特に第 2 章では.これまであまり我が国で紹介されてこなかっ た,パーソナリテイ特性としての自己愛に関する先行研究をできるだけ幅広く 集め, 記述するように試みている。 先行研究のデータベース的な記述となって これから自己愛パーソナ いるため,多少内容が拡散しているかもしれないが, 。•
するための尺度の構造や特徴を検討する。 尺度の特徴を明らかにした後で, 次 に向性の友人関係(第 4 章)と異性関係(第 5 章)という,青年期に特に重要と なる対人関係のあり方を取り上げ, 自己愛傾向との関連を検討する。 また第 6 平成 15 年 6 月 自己愛的 けられた分類方法を示す。 そして第 8 章では, 本書で得られた知見について総合的に議論し, な青年像を明らかにする。v
次
日
まえがき 温習祖珂骨 dA 笹野44971i-自己愛に関する理論的背景…・
第 1 章 臨床的研究における自己愛の諸理論 第 1 節 3 3(
1
)
Freud
, S. の自己愛論3
(
2
)
Freud 以降の自己愛論 4(
3
)
Kemberg と Kohut の自己愛 2. 自己愛の諸相 9 (1)健康な自己愛と病理的な自己愛(
2
)
Bursìen による自己愛人格の類型 9 10 (4)小此木による自己愛人間の類型1
3
(5) 自己愛の overt な側面と covert な側面 14(
6
)
2 種類の自己愛 社会論・文化論における自己愛1
6
17 22 51
.
Freud から Kohut まで II (3)DSM-N に描かれる自己愛 I9 19 第 2 鮪 第 3 節青年期における自己愛 I9 1. 青年期における自己愛の高まり (1)青年期と自己愛性人格障害 (2) 青年期の自己中心性 (3) 青年期発達と自己愛 2. 近年の青年における自己愛の高まり 20 203. 青年期の自己愛と対人関係 23 (1)向性の友人関係 24 (2) 異性関係 25 ー: ;ー 目 次日Z 日目次 第 2 章 自己愛の測定的研究の概観と全体的目的……… 29 第 1 節 自己愛測定の変遷 29 1. 投影;去による測定 29 2. 質問紙による測定
3
0(
1
)
Murray の尺度3
0 (2) 自己愛人格目録 (NarcissisticP
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NP
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31 (3)M
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y
(MMPI)による 自己愛の測定尺度 32 (4)海外におけるその他の自己愛尺度 34 (5) 日本における独自の自己愛尺度 36 3. まとめと本書で扱う尺度 37 第 2 節 自己愛人格目録 (NPI)を用いた先行研究 38 1.NPI の測定方法と情造 38 (1)回答方式 38 (2)NPI の構造 392
.
NPI の妥当性の検討 40 (1)自他評定 。 (2) 他の自己愛尺度との関連 41 (3) 他の人格尺度との関連 42 3. これまでに NPI によって検討された諸課題 43 1. 本書の問題意識5
7
(I)発達的視点5
7
(2) 対人関係的視点 59 (3) 自己愛の下位分類 60 (4)研究方法 61 2. 本書の全体的な目的 62第 3 章自己愛人格目録 (NP I)の構造と自己愛人格目録短縮版
(NP卜S) の作成…・………・ 65
第 1 節 NPI の構造と他の自己愛尺度との関連 651
.
NPI の因子分析[研究 1J 65 (1)目的 65 (2) 方法 65 (3) 結果 662
.
NPI と佐方友び Murray による自己愛尺度 (SNPI , MNPI) との関連[研究 2J (1)目的 (2) 方法 (3) 結果 70 70 70 70 第 2 節 NPトS の作成 73 1.NP卜S の作成と因子分析[研究 3J 73
(
1
)
目的 73 (2) 方法 73 (3) 結果 742
.
NPトS の再検査信頼性[研究 4J 77 (I)年齢・集団・養育態度との関連 43 (1)目的 77 (2) 認知的側面との関連 47 (2) 方法 77 (3) 自我・自己の側面との関連 50 (3) 結果 77 (4)対人関係の側面との関連 54 3.NP卜S司 NPI , SNPI の関連[研究 5J 78 第 3 節全体的目的 57(
1
)
目的 78tx 次 目 98 2. 方法 98 (1)調査対象 (2) 調査内容 宮 78 78 次 (2) 方法 (3) 結果 第 3 節 自 vttt 98 3. 結果 98
(
I
)
NPI-S の分析 98 (2) 友人への要求尺度の分析 99 (3) 自己愛傾向と友人への要求尺度との関連 第 4 節考察 1.結果のまとめ 2. 自己愛傾向と自尊感情との関連について 3. 自己愛傾向・自尊感情と友人関係との関連について 4. 自己愛傾向と向性の友人関係との関連について IOO IOI IOI 82 I03 I02 向性の友人関係と自己愛傾向・...・・・・・・・・ 83 83 友人関係のあり方と自己愛傾向,自尊感情[研究 6] I04 1. 問題と目的 2. 方法 83 (1)調査対象・調査時期 83異性関係と自己愛傾向………-……… I07
第 5 章 83 I07 異性への態度と自己愛傾向[研究 9] I07 I07 2. 方法 I07 (I)調査対象・調査時期 (2) 調査内容 3. 結果(
1
)
NPI-S の分析 108 94 I08 (2) 異性に対する態度の分析 (3) 自己愛傾向と異性に対する態度との関連 現在の恋愛関係と自己愛傾向[研究 10] 80 80 81 第 4 章 第 1 節 I08 目的 I08 94 94 2. 方法 94 (1)調査対象・調査時期 (2) 調査内容 考察 1.結果のまとめ 2. 自己愛傾向の下位側面 (I) r優越感・有能感」 (2)r注目・賞賛欲求」 (3)r 自己主張性J 80 80 第 1 節 1.問題と目的 1111111liti--!!?izliI; ー i1lllE111411111ll i l i l l i t -i l i -! s i l l i -i l l ! ? ! 92 84 3. 結果 84 (1)各尺度の分析 (2) 各尺度聞の関係 90 (3) 友人関係 4 類型と他尺度との関係 第 2 節友人の獲得と自己愛傾向[研究 7] 85 (2) 尺度 I10 III II2 第 2 節1
.
目的 2. 方法 (I)調査対象 (2) 調査内容 1I1 II2 94 3. 結果 95(
1
)
NPI-S の分析 の (2) 友人獲得尺度の分析 の (3) 自己愛傾向と友人獲得尺度との関連 友人への要求と自己愛傾向[研究 8] II3 112 3. 結果 1I3 (1)現在の恋愛状況と分析対象の選択9
6
97 97 第 3 節 1.問題と目的園調唖量 x 日次 (2) 恋愛関係の特質 114 (3) 恋愛意識 116 第 3 節過去の恋愛経験と自己愛傾向[研究 11]
1
.
目的 117 2. 方法 118 (1)調査対象 118 (2) 調査内容 118 3. 結果 119 (1)恋愛経験 119 (2) 失恋経験 121 第 4 節考察 124 1. 自己愛傾向と異性に対する態度 124
2. 自己愛傾向と恋愛関係 125 3. 自己愛傾向と恋愛経験 127 4. 向性の友人関係と異性関係 128 II7第 6 章 自己評定と他者評定の比較を通した自己愛傾向の特徴… 131
第 1 節他者評定による対人関係と自己愛傾向[研究12]1
3
1
1. 目的 131 2. 方法 132 (1)調査対象 132 (2) 調査内容 132 3. 結果 132 (1)NPI-S の分析 132 (2) ゲス・フー・テスト 3 項目 133 (3) 自己愛傾向とゲス・フー・テスト 3 得点との関係 133 第 2 節 自己評定・他者評定による対人関係と自己愛傾向[研究 13] 岨咽司 1.目的 135 2. 方法 136
(1)調査対象・調査時期 136
135 , (2) 調査内容 136
3. 結果 137 第 3 節考察 140 目次 n 第 7 章 自己愛傾向により青年を分類する試み…...・ H ・-…………・ 143 第 1 節 自己愛傾向が高い青年の面接調査[研究 14] 144 1.目的 144 2. 方法 145 (1)調査対象の選択 145 (2) 面接時期・面接手続き及び内容 145 (3) 分析手続き 146
3. 結果 147 (1)各型の NPI-S 得点 147 (2) 典型的なケースの内容 147 第 2 節 NPトS を用いた青年の分類[研究 15] 1. 目的 150 2. 方法 151 (1)調査対象・調査時期 151 (2) 調査内容 151 3. 結果 152 (1)各尺度の検討 152(
2
)
NPI-S と各尺度との関連 153(
3
)
NPI-S 各下位尺度の主成分分析と群の設定 (4)自己愛傾向による 4 群と他尺度との関連 第 3 節友人評定からみた各群の特徴[研究 16] 1.目的 157 2. 方法 157 (1)調査手続き 157 (2) 調査内容 158 3. 結果 158 150 154 156 157Xtl 目 次 (1)形容詞対の因子分析 158
(
2
)
NPI-S 下位尺度と友人評定の関連 160 (3) 自己愛傾向による 4 群と友人評定との関連 160 第 4 節 考察 161 1. 結果のまとめ 1612
.
2 種類の自己愛と青年期の適応過程 162 3. 自己霊傾向の 2 成分モデル 163
第 8 章 第 1 節 第 2 節 総括的討論・………・……-……… 16 5 本書で得られた結果のまとめ 本書の成果と討論 r68 1. 自己愛傾向とその下位側面 169 (1)自己愛傾向全体の特徴 169
(2) 自己愛傾向の下位側面の特徴 2. 自己愛傾向と対人関係 (1)向性の友人関係 (2) 異性関係 174 I73 173 165 170 (3) 対人関係の自己認識と他者認識 (4)自己愛傾向の下位側面と対人関係 177 3. 自己愛傾向と心理的健康 I79 4. 青年の自己愛を理解する枠組み (1)自己愛傾向の 2 成分モデル (2) 自己愛傾向が高い青年 183 (3) 自己愛傾向が低い青年 185 I78 181 181 (4)青年期に問題となる“過剰な"自己愛 5. 今後の研究に向けて 引用文献 付録 事項索引 人名索引 19r
203 209 211 189 187第
7
S阜=I:.白己愛に関する理論的背景
毎日のように,マスコミは若者たちの姿を描き出している。そこには,彼ら
の奇抜なファッション,過激なダイエット,逸脱した性行動などに対する大人
たちの関心の高さが表れている。ときに彼らの自己中心的な態度や自己顕示的
な姿がクローズアップされ,大人たちの興味の的になり,共感的に眺められた
り,また嘆かれたりもする。このような若者たちに対して大人たちが述べる共
通した意見のひとつとして,“自分自身への関心の集中と他者への関心の欠如"
を挙げることができるだろう。これはまきに, 自己愛的な人格の特徴のひとつ といえる。 1898 年,E
l
l
i
s
(1898) は,ギリシア神話のナルキッソスと, 自体愛という性 倒錯の患者とを関連づけた。これを受けて 1899 年,N臘ke
(1899) は, 自分の肉体をあたかも異性の肉体のごとくに取り扱って,性的快感を伴いながらこれ
を眺め,さすり,愛撫して,ついには完全な満足状態に達するにいたる行為を
表すために,初めて“ナルシシズム(自己愛) "という言葉を用いた oN臘ke
の記述から現在まで, 100 年あまりが経過したことになる。その間,精神分析
における自己愛の意味は拡大され.そのような倒錯は人間の心や行動において 普遍的なものであり, うになってきた。 ナルキッソスはその特殊な例にすぎないとみなされるよ ではナルキツソス神話とはどのような物語なのであろうか。オウイデイウス の「転身物語J (田中・前回訳, 1966) に描かれている, ナルキッソスとエコー の物語の概要は以下のようなものである。ナルキァソスはケピススの河神と妖精リリオペの子であり,幼い頃から多
2 第 l 章 自己愛に関する理論的背景 くの妖精に愛された。 1) リオベが予言者テイレアシスに.ナルキッソスが長 寿を全うすることができるかどうかを尋ねると, r もしおのれの姿を知らね ば,長生きするだろう」と告げられる。ナルキツソスは 16 歳の春を迎えたが, まだ子どものようでもあり,すでに立派な若者のようにもみえた。彼は多く の乙女から愛を寄せられたが,その美しい容姿の中には冷ややかな高慢が宿 っていて,どんな乙女にも心を動かされなかった。 ある日のこと,ナルキッソスが人里離れた森の中を歩いていると,森の妖 精エコーがたちまち恋心にとらえられ,ひそかに後をつけていった。エコー は幾度かやさしい言葉をかけて彼に近づき,甘美な願いをうち明けようとし たが,彼女は女神ユノによって話の最後の響きを繰り返し相手の言葉を反 復することしかできなくされていたため,自分から話しかけることができな かった。このとき,ナルキッソスは狩り仲間からはくれていたので, r おお い 1 誰かいるかい !J と叫んだ。するとエコーは「いるよう !J と答えた。 ナルキァソスは驚き辺りを見回し, r こっちへ来いよう! J と呼んだ。さら に「こっちへ来て,一緒になろうよリと彼は言った。エコーは喜び,ナル キッソスに近づいていくと,ナルキッソスは驚いて逃げ出した。そして走り ながら「手をどけてくれ。抱きついたら嫌だ。死んだ方がましだ,君の思い 通りになるくらいならリと叫んだ。エコーは恋に破れ,ついには肉体も衰 え,声だけになってしまった。 他にも多くの若者がナルキッソスに恋心を抱いたが,ナルキッソスはその 愛を退けた。そして,ナルキッソスに恋心を抱き,恥をかかされた若者のひ
とりが「とうか彼も恋をしますように l
しかし決してその恋の相手をと
らえることができませんようにリと叫び,ラムヌスの女神がその願いを聞 き入れた。 その後.激しい猟と暑さに疲れたナルキッソスが泉の水を飲もうとしたとき,彼はそこに映った自分の姿に魅了されてしまう c 実体のない幻に惚れ込
み,影にすぎないものを人体だと思ったのである。彼は,我と我が身の美し さに息をのみ,身じろぎもしないで我が身に見とれていた。ナルキッソスは, そうとは気づかずに自分自身に恋をしてしまったのである。食事の心配も, 眠りの欲求も,ナルキッソスをその場所から引き離すことはできなかった。 彼は,木陰になったその草の上に腹ばいになったまま,幻の姿を飽くことな く見つめていた。こうして,彼は我と我が身のために滅びていく。そしてつ いには肉体も滅び.一輪の水仙の花となった。本章では,このようなナルキツソス神話に基づく自己愛という概念が,主に
理論的な先行研究においてどのように扱われてきたのかを概観する。
曹第 1 節臨床的研究における自己愛の諸理論
1
.
Freud から Kohut まで (1)Freud
, S. の自己愛論 3 自己愛について初めて体系的な記述をしたのは Freud であり,その記述以降, 多くの精神分析学者たちが様々な形で自己愛を論じるようになった。 Freud は, 単なる自己の身体各部分に対する性的愛着としての自体愛と,自己という統一 的な身体表象に対する愛情としての自己愛を厳密に区別した(小此木, 1985) 。 そして Freud は自己愛を,自体愛から対象関係に至る中間段階として位置づ けた。自体愛とは,自己愛(性リビドーの自我自身への備給)の対象としての全 体的・統一的な自我が成立する以前の.自己の身体の部分のみが満足の源泉と なる段階のことである。 Freud は,統合された自我が成立しそれが性欲動の 対象となるに至って初めて自己愛が成立するとした。この考え方は次に述べる ような, r 一次的自己愛 (primaryn
a
r
c
i
s
s
i
s
m
)
J
r 二次的自己愛 (secondaryn
a
r
c
i
s
s
i
s
m
)
J という考え方につながる。 新生児の初期状態でもみられるような外界との関係がまだ成立していない自 我とエスの未分化な原初的状態は,対象関係が生ずる以前の状態であり, Freud はこれを対象のない「一次的自己愛j の状態と定義した。そして,統合 失調症における外界の対象表象からのリビドーの撤収を「二次的自己愛」の状 態への退行現象であると定義した(小此木,1
9
8
5
)
0 Freud は,発達の最も初期 の段階は外界と一体になっている無制限の自己愛に満ちた状態であり,また成 人した自我においても,こうした自我と外界の境界が暖味になってしまうよう な白己愛的状態に陥ることがあると考えている。 1914 年に Freud は「ナルシシズム入門 J (懸田・吉村訳, 1969) の中で, r 自己 愛的な対象選択」について述べている。自己愛的な対象選択とは.私たちが自 分に似た人を愛情対象として選ぶという態度のことであり,これは「依存的な 対象選択J ,つまり相手に依存する形での対象選択と対をなすものである。言 い換えれば.自己愛的な対象選択とは,対象を愛しているようで,実は自分の 影を愛しているといった対象選択のあり方を意味しているつさらに Freud は,4 第 l 章 自己愛に関する理論的背景
対象関係における自己愛的対象選択の研究をさらに発展させて,自己と対象の
自己愛的同一視 (narcissistic identification) の機制を明らかにした。自己愛的同
一視とは,自己と他者の分化を失った他者との一体化であり,対象愛から自己
愛への退行を意味する。このような Freud の自己愛的対象関係の解明が,その 後の各精神分析理論の最も重要な研究課題となっていった。(
2
)
Freud 以降の自己愛論Freud が自己愛についての精神分析学的考察を発表してから,数多くの研究
者が自己愛に関心をもつようになった。そして, Freud 以降の精神分析学的自
我心理学者たちは,自己愛の概念について根本的な検討を加えてきた。Freud に直接師事した精神分析学の先駆者のひとりであり,精神分析学と精
神病理学の統合に道を拓いた理論家で、ある Federn(1929
,
1936) は, Freud の考 えを,病的な自己愛か幼児的な自己愛だけを自己愛とみなしていると批判した。そして Federn ,点"人間には,その精神生活を安全に,しかも楽しく営む
上で,必須の健康な自己愛というものがある。むしろ,健康な自己愛の満足は, 全ての精神活動のエネルギー源なのだ"と述べ,精神分析学者の中で初めて健康な自己愛の満足が人間の精神生活には基本的に必要であり,それが全ての精
神活動のエネルギー源であるという考えを主張した。 また, Freud は自己愛を自我へのリビドー備給であるとしているが,Freud
の記述における自我と自己の区別は暖昧である。 Freud の理論を忠実に発展させ,さらに厳密に体系化して医学心理学としての精神分析に確固たる基礎を与
えた Har古田nn (1964) は,この自我と自己の区別を明確化している o H紅白lann は,自我はその機能によって定義されるとし,様々な自我機能を記述している。 また自己については,個人の精神構造及びその部分だけでなく,その人の身体 及び身体諸部位も含めた人間全体を指し示すものとしている。 Hartmann によ れば,自我ではなくこの自己へのリビドー備給が自己愛であるということにな 忠実濁酒 る。 ところが自己にしても,外界の対象にしても,われわれは「そのもの自体」 は知覚しないでそのものの「精神内表象j をもつにすぎないのであるから,「対象表象」または一般的な言い方をすれば対象イメージとしてしか外界を知
需 第 I 節 臨床的研究における自己愛の諸理論 5 覚できない(中西・佐方, 1986) 。自己の発生心理学を体系化した Jacobson (1 964) は,システム自我の中における精神的・身体的自己の無意識的・前意 識的・意識的な精神内表象を自己表象としている。つまり自我心理学の立場で は,自己愛とは「自己表象へのリビドー備給をしている状態」ということにな る(中西・佐方,1
9
8
6
)
0 このように Freud の記述以降, 1960 年代までの精神分析学の流れの中で,自 己愛は必ずしも病理的なものではなく,また自己愛は自我ではなく自己へのリ ビドー備給であると考えられるようになってきた。 Pulver (1 970) や vander
Waals
(1965) は, 1960 年代までの様々な自己愛に関する記述を分類している。 そしてその中で,初期の精神分析学における自己愛は.まず性的倒錯を意味す る言葉として用いられ,その後に,自体愛から対象愛に移るまでの中間段階と してのリピド一発達の一段階,心的エネルギーの位置(リビドーの自己への備 給) .自己愛的対象選択ゃある種の対人関係のあり方,自尊感情や自己価値の 同義語として用いられるようになったと指摘している。(
3
)
Kernberg と Kohut の自己愛 1970 年代以降.自己愛の問題に関して Kernberg と Kohut の考えが精神分析 学的療法を行う者に広まってきた。ここでは, Kernberg と Kohut の自己愛に ついての議論をまとめ,両者の類似点と相違点を検討する。a
.
Kernberg の自己愛 自我心理学に基礎をおきながら対象関係論との統合的な視点をもち,特に境 界人格構造の研究を展開した Kernberg は,正常な自己愛と病理的な自己愛を 質的に異なったものとして捉えた (Kernberg, 1975) 。正常な自己愛は,自我構 造の完成,自己及び対象の恒常性の獲得,リビドーの派生物と攻撃衝動の派生 物との聞の均衡,自己と超自我の聞の構造的な調和,衝動を自我親和的に表現 したり受け入れたりする能力,外的対象からの満足,身体的に良好な状態など に基づいて成立する。つまり正常な自己愛は,深い対象関係の能力を伴ってい るのである。その一方で病理的な自己愛は,自己概念の統合の欠知 L 攻撃的 なものに規定された自己表象の解離とを伴った,防衛的な自己肥大と結びつい ている。そして.自己への蒼古的な要求,他者からの賞賛への極度の依存.貧7 合に失敗すると,幼児的自己愛が残存し,常に自己の誇大性を確認したい衝動 に迫られ,理想化して利用する他者を求めなくてはならず.自己評価や自尊心 の維持のために常に外的対象を必要とすることになる。 Kohut は,自己愛人格の特徴として 3 つの転移が生じるとしている。第 1 は 理想化転移 Odealization transference) と呼ばれるものである。これは現実では 体験できなかった,理想化された両親イメージが治療の中で活性化され, EB 寵昌暗雲苦・喜 AaJh454 是主 臨床的研究における自己愛の諸理論 第 1 節 自己愛に関する理論的背景 しい対象関係がみられる。このことは,権利意識と自己の完全性の容赦のない 追及,他者とのかかわりの障害,共感と愛情の能力の欠陥などによって明らか 第 l 章 6 その 両親イメージによって自分が満たされているという幻想を体験することであ る。第 2 は鏡転移 (mirroring transference) と呼ばれるものであり,これは自分 の良さや自分のユニークさを写し出してくれる鏡のような存在を求める現象で ある。そして第 3 は双子転移 (twin transference) と呼ばれるものであり,自分 の言うことを何でも聞いてくれる存在を求める現象である。井上(1992) によ れば,鏡転移によって理想化した他者を内在化したり,双子転移によって安定 一 ?145'd 量一三紅きそ芳、 449 、 =2 となる。
Kernberg は,自己愛的人格には誇大自己 (grandiose se1f)という病的構造が 存在すると述べている。彼によると,病的な自己愛が生じる人の場合,満たさ れない対人関係の現実への防衛として,(1)現実自己のある部分(初期経験によ って強化されてしまった「自分は特別だ」という意識), (2) 理想自己(権力,富, 全能性を有しているというファンタジー,自己イメージ), (3) 理想対象(常に恵み, 愛し,受け入れてくれる親のイメージ)が融合し,非現実的で理想化された誇大 自己がっくりだされ,自己・他者のネガテイブな面は解離・抑圧されるか他者 に投影されてしまうという(丸田,
1982a
, 1982b) 。そして Kernberg は,自己愛 性人格障害の特徴として,嫉妬深く他者からの賞賛や注目を渇望する傾向など 自己愛人格者は他者と融合した感触を抱き,誇大自己 を形成するようになる。そして内在化された理想的な他者のイメージは自己愛 人格者の中で消化され,精神的な発達を促す源となる。この消化の過程におい て現実的な認識が生まれ,理想化していた対象を正しく現実的にみることがで きるようになり,適切に自己を評価する能力や,安定した対人関係を保つ能力 が築かれる。このような一連の過程を変容性内在化 (transmutingi
n
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a
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n
)
と呼ぶが,この過程は正常な発達過程でもみられるものであるという。Kohut
(1977) は,自己愛とはあくまでも具体的な対象との問で体験される ものであり,そのような対象のもつ機能はやがて内在化されていくが,そうだ としても,人聞はその具体的な対象を一生必要としている,と述べている。岡 この意味で Kohut の意味する自己愛は対象関係論的(むしろ対 感が得られたりすると. 野 (1998) は, 人関係論的)であると述べている。c
.
Kernberg と Kohut の自己愛:共通点と相違点 Kernberg も Kohut も,自己愛性人格障害の者がもっ誇大的な特性について Kohut は 1970 年代から 1980 年代前半にかけて,自己愛性人格障害の精神分 析的な精神療法の臨床の中から新しい理論,概念,治療技法を発展させ,自己心理学として体系化した。そして Kohut (197
1
.
1977
,1984) は,健康な自己愛
と病的な自己愛との聞に連続性があると考え,病的な自己愛を自己愛性人格障 害と命名した。 Kohut は,一次的自己愛の理想状態を脱した生後 2 年固までの 幼児に 2 つの自己愛的欲求が生じるとする。それは自己を誇大化したい欲求 と,自己の欲求を満たす対象を理想化したい欲求である。そして,母親との関 係の中で前者の欲求を適度に満たしながら,自己の限界を知らされていくにつ れて過度の誇大化欲求は目立たなくなり, 3 歳頃までに健全な自尊心や野心な どの形に変容する。また父親との関係の中で後者の欲求が満たされながら,次 第に対象の万能性に対する脱錯覚が起こるにつれ,対象の理想化された側面は 消え去るのではなく自己の中に内在化され, 5 歳頃までに自我理想などの精神 に注目している。b
.
Kohut の自己愛(
A
k
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&Thomson
, 1982) 。また伊藤 (1989) は, Kohut とKernberg に共通する自己愛性人格障害の臨床的特徴として次の 5 点を挙げて いる。(1)比較的良好な社会的適応, (2) 歪曲した対人関係(搾取的.過度に依 (3) 野心的・誇大的な空想.それを追求するための精力的な 同意している 存的,非共感的). 的構造を形成する。こうした精神的構造が幼児的な誇大化欲求を抑制し,健康 な形のものに変えるほか,自己の準拠枠や自己評価の基準が自己の中に生じる
ため.人は自尊心を維持する際に外的対象から相対的に自立していられるよう
になる。それに対してこのような欲求が適切な応対を受けず,上記のような統1
1
8 第 I 章 自己愛に関する理論的背景
活動.賞賛・権力・富・美貌に対する強い欲求, (4) 劣等感・空虚感・不全
感・漠然とした心気症,その背後にある不安に対する耐性の欠如, (5) 自己評
価の不安定性.自己についての不確実感と不満。そして“一般的にみて,自己
愛パーソナリティの人は,他人に対する共感力に乏しく, 本人がユーモアのつもりで語った話も少しも面白くない。せいぜいブラックユーモアである。創造
性がないのは他人の模倣ばかりしているからである。そして人間は有限の存在
であることを認める(つまり,無常の受容)ことを拒否しているから,老成し
た人間の味である英知のかけらも見受けられない(伊藤, 1989)" と指摘してい る。TABLE 1-1-1 Kohut と Kemberg の自己愛に対する考え方の比較 (Gabbard, 1994 より改変)
Kohut Kernberg 1 軽蔑に対して傷つきやすい自尊心をも 1 入院患者と外来患者の理論に基づく。彼 つ司比較的うまく機能する人々(全て外 らのほとんどは幼稚.攻撃的司倣慢であ 来患者)の理論に基づく。 h人誇大感と同時に内気も伴っている。 2. 自己愛人格を境界例と区別している。 2 自己愛人格を境界怪主人格の下位分類に非 常に類似したものとして捉えている。 3 機能喪失の内在化に重点をおくため唱自 3 境界性人格障害に典型的な幼稚な防衛や 己愛人格の内的,世界の意味を明確にし 対象関係を描いでし、る。 ない。 4. 蒼古的な「正常な j 自己を唱発達的に阻 4 自己を理想自己喝 E里想対象司現実自己の 止されたものとして定義する。 融合体で構成される病理的構造として定 義する。 5 自己を非防衛的とみる。 5 誇大自己を他者へ σコ投資や依存に対して防衛するものとしてみる。 6 攻撃性を自己愛的な傷つきに対する二次 6 ねたみや攻撃性を E主主調する。 的なものとし‘リビドー・理想化の側面 に主に焦点をおく。 7 表面的な価値の理想化 ι 心的構造の喪 7 理想化 ι 憤怒. オ3 たみ.軽蔑.脱価値 失のために形成した正常な発達的段結と 化に対する防衛と♂非主す。 みなす。
また, Kernberg は正常な自己愛と病理的な自己愛を質酌にも異なったもの
と捉え,自己愛性人格障害の特徴として,嫉妬深く他者=←らの賞賛や注目を渇
望するといった傾向に注目している。その一方で, Kohut は正常な自己愛と病
第l1iií 臨床的研究における自己愛の諸理論 9 理的な自己愛を連続的なものとして捉え,自己愛の病理の表れである自己愛性 人格障害の特徴として,傷つきやすく,自己に対するまとまりが断片化しやす いなどの特徴を挙げている。こうした理論上の相違の背景には,臨床技術の相 違(Akhtar &ηlOffison, 1982) や, Kohut が人格水準の比較的高い外来ケースに 基づいた理論構築を行っているのに対し, Kernberg は入院治療などの比較的 重篤なケースにも基づいた理論構築を行っている点 (Gabbard,1994 ; TABLE 1・ 1-1 参照)などが指摘されている。 議韓器廃恒自 U 襲警際医長芸一・ 0 晶、じ託手一・???# 2_ 自己愛の諸相Kernberg と Kohut が異なる自己愛人格像を報告しているように,臨床家や
理論家の中には.自己愛をいくつかの異なる下位側面から捉えたり,自己愛を いくつかの類型に分類したりする者もいる。 向 主会 (1)健康な自己愛と病理的な自己愛 先に述べたように, Kernberg (1975) は正常な自己愛と病的な自己愛を区別 しているが,他の理論家の中にも,このような区別を行う者がいる。例えば Symonds (1951)は,自己に対する評価的な態度を自己愛としこの自己愛に は現象的には類似しているものの本質的には全く異なる 2 種類があるという。 第 1 種の自己愛は純粋な自尊意識であって,両親から受容されることによって 発達し自分自身に安心と信頼感をもっというものである。一方,第 2 種の自 己愛は両親から受容されないことによって発達するものであって,他の人々や 外的な経験の中にではなく,自分自身の中に満足の基盤を見いだすことを余儀 なくされた状態である。これは感情的な不安定さに根ざしたものであり,不安 で非現実的,願望的な自己評価である。そしてこうした自己愛は,他者との建 設的な関係を発展させる上で阻害要因になるという。いわば, Symonds (1951
)
が示した第 1 種の自己愛は健康的なもの,第 2 種の自己愛は病理的なものとい えるだろう。 Fromm (1964;鈴木訳, 1965) も,“ナルシシズムの病理学を論じる場合, 2 種類のナルシシズム一一<良性型>と<悪性型>一ーを区別することが大切で ある"と述べている。良性型のナルシシズムの対象は仕事や業績など,その人IO 第 I 章 自己愛に関する理論的背景
の努力の結果である。そのような対象は自分で努力せねばならないものである
から. r 自己のJ 仕事や「自己の」業績に対する排他的な関心と,仕事そのも
ののもつ過程や取り扱う素材への関心とは,たえず平衡を保っている。このよ
うにして,この良性型のナルシシズムのダイナミックスは自己を抑制すると
Fromm は述べている。その一方で悪性型のナルシシズムの場合,その対象と
なるものはその人の行為や製作したものではなく,肉体・容貌・健康・富など
彼が「所有する」ものである。そしてこの種の悪性のナルシシズムは,良性型
に存在する中和的性質を欠いている。すでに所有しているもののために「偉大」
であるわけだから,その思い込みを維持するためには現実から遠ざかっていれ
ばよいことになる。 Fromm(
1
9
6
4
;鈴木訳. 1965) はこのような場合,“ナルシ スティックな栄光の中へと自らを孤立せざるを得なくなる"と述べている。また Pulver (1970) は. r健康な(良い. good) 自己愛J と「不健康な(悪い,
bad) 自己愛」とを分けて考えている。そして,前者は防衛的でない自尊感情
に関連し後者は好ましくない自己評価に対して自分自身を防衛するという,
防衛的プライドに関連していると述べている。このような自己愛を健康なものと病理的なものに分類するという議論は,自
己愛が必ずしも何らかの病理をもたらすものではなし正常な精神構造におい
ても重要な役割を担うものであるという考え方を広めるとともに,自己愛をい
くつかの側面に分類するという考え方につながっていった。(
2
)
Bursten による自己愛人格の類型B
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(1973) は,自己愛人格を次の 4 つの類型に分類している。第 1 に「渇望型 (craving) J である。ここには依存的人格や受動的攻撃的人
格が含まれ,他者にしがみつき,要求し,しばしば不機嫌で文句ばかり言う傾
向を伴う。この型をもっ者の対人関係上の特徴は,他者によって支持してもら
いたいという欲求を抱くことである。第 2 に「偏執型 (paranoid) J である。これは誇大自己の強い人であり,主義,
主張.宗教などに自分を同一化しそれに基づいて行動することによって誇大
自己を実現していくタイプである。第 3 に「操縦型 (manipu!ative) J である。これは自己中心的で自らの自己愛
第 I 節 臨床的研究における自己愛の諸理論 IIを満足させる手段としてのみ他者と付き合い,他者を思い通りに操ろうとする
タイプである。この型をもっ者は相手への深い思いやりに基づいて対人関係を
営むのではなく,他者が自分に好意をもち,思い通りになることで自己愛を満
たそうとする。その人間関係は表面的で,他者への軽蔑感をもっている。しか
し一見親切そうで暖かみがあり,人の気を引き,人づかいがうまい。そして物
わかりが良さそうなポーズを示し,いい人だという錯覚をつくりだして他者を
操縦しようとする。そして第 4 に「男根自己愛型 (phallic
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)
J である。これは男性性を
誇示する,いわば男の中の男といったタイプである。この型をもっ者はときに
大胆な離れ技を敢行してまで,自分の男らしさを示そうとする。また女性に対
しては,軽蔑と守護者との二重の態度を示す。(
3
)
DSM- lVに描かれる自己愛アメリカ精神医学会 (APA) の診断分類基準である.
Diagnostic and
S
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Manual o
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Mental Disorders
(DSM) には,自己愛性人格障害
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disorder) の診断基準が記載されている。自己愛性人
格障害が人格障害のひとつのタイプとして DSM に記述されたのは第 3 版の
D
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(
A
P
A
.
1980) 以降であり.
DSM-N
(APA,
1994) には.自己愛性人格
障害の診断基準は TABLE 1-1・2 のように記述されている。 be--2-27 ご j てき守番 T'ABLE 1-1・2 DSM-N における自己愛性人格障害の記述 (1)自己の重要性に関する誇大な感覚をもっ。 (2) 限りない成功唱権力ー才気.美しさ.あるいは理想的な愛の空想にとらわれている。 (3) 自分が“特別"であり司独特であり,他者にも自分をそのように認識することを期 待する。 (4)過剰な賞賛を求める。 (5) 特権意識司つまり.特別有利な取り計らい.または自分の期待に自動的に従うこと を理由なく期待する。 (6) 対人関係で相手を不当に利用する.つまり.自分自身の目的を達成するために他人 を利用する。 (?)共感の欠如。 (8) しばしば他人に嫉妬する司または他人が自分に嫉妬していると思いこむ。 (9) 尊大で倣慢な行動唱または態度。 記12 第 I 章 自己愛に関する理論的背景
そして.
TABLE
1-1-2 に示された 9 項目のうち少なくとも 5 項目以上が様々
な状況で認められる場合,自己愛性人格障害と診断される。 (1)の自己の重要性についての誇大感とは,自分の能力を過大評価し,自分 の業績を誇張すること,また自慢ゃうぬぼれとして表れる。柏瀬(1989) は,臨床上重要な,点として,このような自己の重要性の意識が, しばしばその逆の
無価値感にとって代わられる点を挙げている。(2) は「非常に過度の(Iong overdue) J 賞賛と権利について思いを巡らし,自
分自身を好都合に有名な,あるいは権威ある他者と比較することとして表れる
仇PA, 1994) 。このことは非現実的な夢想へのとらわれを示しており,際限のな いものになりやすい。また,普通は夢想のうちにとどまっているが,実際に追求されると,楽しみのない「かきたてられた」性質を帯び,満たされることの
ない野心となる(柏瀬, 1989) 。 (3) は自分が特別な,あるいは高いステイタスをもっ人々にしか理解されず, またそのような人と関係があるべきだと感じることである。そして, Iユニー クでJ I完墜で J I生まれつきの才能のある J 資質が自分の周りにいる人にあ るとする。また,このような特徴をもっ者が他者に対して抱く期待が裏切られ た場合,裏切った人への信用は一気になくなるかもしれない(ApA, 1伺4) 。(4)のような自己顕示性は,彼等は自分がどのようにうまくやるか,どのよ
うに他者に好ましくみられるかに専念することとして表れる。また,このよう
な者の自尊心 (self-esteem) はいつも必ず非常にもろい (fragile) ものである(AP
A,
1994) 。(5) の特権意識とは,自分にとって正当以上のものを他者に要求することで
ある。このような者は要求が満たされることを予想し,これが起こらないとき
には悩むか怒り狂う。例えば,彼らは列で待つ必要はないし彼らの優先権は 非常に重要なので他者が彼らに従うことを当然としている (APA, 1994) 。 (6) は (5) の感覚の結果として生じる対人関係上の利己性(搾取性)を意味し ている。彼らは,自分が欲しいと思ったものや,他者にとって重要であろうことはたとえ何でも与えられることを期待する。もし他者が自分の目的を進め,
自分の自尊心を高揚しそうならば,彼らは友情やロマンチックな関係を形づく
る (APA, 1994) 。 第 I 節 臨床的研究における自己愛の諸理論 13(7) の共感性の欠如は,他者の欲求,主観的な経験,感情を理解するのが困
難であるという形で表れる。(8) は,他者の成功や所有物をねたみ,自分がそのような達成,賞賛,特別
扱いに値するという感情をもつこととして表れる。特にそのような人々が認め
られ,業績の賞賛を得るようなときには,他者の貢献を厳しく過小評価するか
もしれない (APA, 1994) 。(9) は (8) にも関連しており,紳士気取りで,尊大で,上位者ぶった行動とし
て表れる (APA, 1関心。これらの診断基準は,以下の 3 つの要素にまとめて考えることもできる。そ
れは,第 1 に自分自身をすばらしい人間だと評価する誇大性,第 2 にほめられ
たい,ほめられて当然だという強い欲求,第 3 に相手の気もちを考えない共感
性の欠知である(和田, 2002) 。D
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I
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(AP
A,
19剖)及びDSM-N
(AP
A,
1開4) の記述は,自己愛性人格障害
の診断基準として現在最も一般的なものである。また DSM の多軸診断におい
ては,人格障害まで至らない場合でも,そのようなパーソナリテイ傾向がみら
れるならば,それを記載することになっている。そのため, DSM-I
I
I
(AP
A,
1980) や DSM-N
(AP
A,
1994) の記述は,人格障害ではない,正常な人格特性
としての自己愛を査定する際にも,現在最も有効な基準のひとつであると考え
られる。 (4) 小此木による自己愛人間の類型小此木(1981)は,自分や他者の心の中に,何とかして自分の気に入るよう
な鏡像をつくりあげ,それをみて安心したり,満足したりする気もちが強く働
き,人との愛情,信頼,親密さ,甘えなどの対人関係のニードさえも犠牲にす
るといった心的構造がひときわ肥大した人聞を“自己愛人間"として記述して
いる。そして小此木 (1981) は,現代日本社会の中で暮らす自己愛人間のサブ
タイプとして次の 5 つを挙げている。第 1 に「自己実現型の自己愛人間J である。これは特別な才能をもち,それ
だけに理想自己が高く,その実現のためにひたすら努力しエリートコースを
進む者である。第 2 に「同調型・画一型の自己愛人間」である。これはいわゆ
震富 7mb I5 この overt な側面と covert な側面は意識的・無 意識的側面を意味するものではなく.両側面ともに意識されるものであると述 臨床的研究における自己愛の諸理論 第 l 節 さらに, を隠しているという。 自己愛に関する理論的背景 る平均的な大衆であり,現代の日本社会で最も安定し,自分,あるいは家族, 身近な仲間,同僚ぐらいの生活範囲で,比較的容易に手に入る消費的な自己愛 の満足の中で暮らしている者である。第 3 に「破綻型の自己愛人間」である。 第 I 章 I4 自己愛性人格障害の底床的特徴(地hter& 百lOmson, 1982 より改変)
OVERT
COVERT
I 自己概念 (SELF-CONCEPT) べている。T
A
B
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1
-
1
-
3
過度の敏感さ 劣等感司無価値感司壊れやすさの感覚 強さと栄光への絶え簡ない追求 慢心した自尊心 倣慢な誇大感 富司力(能力) .美.才気の空想 非現実的な不死身の感覚 他者の慢性的な理想化と激しい羨望 絶賛への並外れた渇望 n.対人関係(l NTERPERSONALR
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)
深さの欠如.他者の軽蔑と価値低下 ときに「栄光の孤立 splendidisolationJ m.社会的適応 (SOCIAL ADAPTAT旧N) 慢性的な倦怠感ー不安定さ 専門的‘社会的アイデンティティの不満足 社会的成功 顕示性の補償としての昇華(偽昇華) 激しい野心N倫理・規範・理想 (ETHICS,
ST
ANDARDS
, AND 旧EALS)道徳的.社会政治的,美的問題について|真のコミ y トメン卜の欠如 の明白な熱中 |堕落した道徳心 これは登校拒否や家庭内暴力,あるいは自殺・白傷・非行また女子では逸脱的 な異性交遊や食欲障害などを起こす青少年など,自己実現型になるほどの現実 能力をもたないために,自己愛が破綻して挫折してしまうタイプである。第 4 に「シゾイド人間化」である。これは人と人との深い対人交流やかかわりを回 避し対人関係につきものの心的葛藤や対象喪失による悲哀・不安を避けよう とする者である。シゾイド人間も自分の主観的な内的空想世界を大切にし,密 かな全能感を抱くという点で自己愛人間といえる。そして第 5 に「はみだし型 の自己愛人間」である。これは自分が落ちこぼれ,はみだしたと感じる人々で あり,自己愛が満たされるというイリュージョンが失われ,深刻な幻滅が起こ か精神的な危機が襲う状態である。 小此木による自己愛人間の分類は,精神分析学に基礎をおきながら社会論・ 文化論的な視点もあわせもっという点に特徴がある。しかしより広い社会的 な現象や行動,さらに「同調型・商ー型の自己愛人間」のように司一般大衆も 分類の中に含まれているため,精神分析学の知見においては自己愛的とはいえ 自己愛人間の 1 タイプとして分類される可能性がある。
ー1
V.愛と性 (LOVE
AND
SEXUAL汀Y)愛し続ける能力の欠如 自己と分離した.独立した個人としてという よりも自己の延長として愛の対象を扱う ひねくれた空想 時々.性的逸脱 ないような者も, 魅惑的 (性的)乱交 性的抑制の欠如 頻繁に夢中に主る 出来事の客観的な側面に対して無頓着 flî弘、」学習の困難さ 自己中心的な言語の使用 過度な抽象性と具体性の聞の変動 自己評価 self.esteem が禽威にさらされた ときに現実の意味を変容させる傾向 VI.認知スタイル (COGNITIVE
S
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)
現実の自己中心的な知覚 理路整然町修辞的 あたかも自分自身を語るかのように.詳 細かっときに暖昧である 議論においては回避的であるが理論的に 首尾貫している 簡単に悪の主唱者となる Akhtar& 百lOmson (1982) は先行研究や自分自身,同僚の臨床経験に基づき, 自己愛性人格障害を overt な側面と covert な側面に分けて考えている。そして,1.自己概念 (self-concept)
,
II. 対人関係Cinterpersonalrelations),
III,社会的適応 (socialadaptation)
,
N. 倫理・規範・理想 (ethics, standards,
and ideals). V.愛と性 (!oveand sexua
1
i
ty). VI.認知スタイル (cognitive style) の 6 つの領域か自己愛性人格障害の診断基準を記述している。 TABLE 1-1-3 に,地htar&
(5) 自己愛の overt な側面と covert な側面 ら,
Th
omson (1982) による記述をまとめたものを示す。Ak
htar&ηlomson (1982) は,この診断基準は DSM に記述されている自己 愛性人格障害よりも包括的なものであると主張している。また自己愛性人格障 害をもっ患者は,初めのうちは covert な側面を臨床家に報告し overt な側面17 社会論・文化論における自己愛 第 2 節
TABLE
1-1-4G
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(1989, 1994) による 2 種類の自己愛の特徴 周囲を過剰に気にする自己愛的な人 (過敏型;The H
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周囲を気にかけ砿い自己愛的広人 (無関心型;The O
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EE 置 hE1 ・ eZJJ ♂ydyJf 自己愛に関する理論的背景 第 l'章 r6 自己愛を 2 つのタイプ(
6
)
2 種類の自己愛 Kohut と Kernberg の臨床像の相違などに基づいて, に分類するという議論がこれまでにいくつかなされている。 司 i 1. 他の人身の反応に過敏である。 2 抑制的.内気‘表に立とうとしない。 3 自分よりも他の人身に注意を向ける。 4. 注目の的になることを避ける。 5. 屈辱や批判の証拠がないかどうか他の 人身に耳を傾ける。 6 容易に傷つけられたという感情をも つ:差恥や.屈辱を感じやすい。 1 他の人 4 の反応に気づかない。 2 倣慢で攻撃的。 3 自分に夢中である。 4 注目の的である必要がある。 5.r送信者であるが受診者」ではない。 6. 見かけ上は‘他の人身によって傷つけ られたと感じることに鈍感である。 宅、書同車薬害 att へい口&主Broucek
(1982) は自己愛性人格障害を自己中心型 (egotistical narcissist) と
解離型 (dissociative narcissist)に分類している。そして,自己中心型の方は誇
大的で傍若無人な特徴をもつのに対し解離型では,むしろ引きこもりがちで
恥の感覚が強い,強烈な自意識をもっ者として記述している。
Rosenfeld
(1987) は,自己愛的な患者に厚皮 (thick skinned) と薄皮 (thin
(1973) による偏執型や男根型,またAkh旬r &
Th
omson
(1982) による自己愛
の overt な側面に類似したものであると考えられる。その一方で,解離型 自己愛
的な内的対象関係によって外界を能動的に覆い,外界現実をコントロールしよ
うとする人であり,薄皮の自己愛をもっ者とは,自己愛的な内的対象関係を保
skinned) という 2 種類を見いだしている。厚皮の自己愛をもっ者とは, ョz 内密型の自己愛性人格障害(Broucek
,
1982) ,薄皮の自己愛 (Rosenfeld, 1987),
(Masterson
,
1993) ,過敏型 (Gabbard,
1989,
1994) はいずれも,抑制的で引きこ
護しようと外界を避け,引きこもる人であるという。 自己顕示的な自己愛性人格障害Masterson
(1993) は自己愛性人格障害を, もりがちであり,他者の反応に敏感であるなどの特徴を示す自己愛である。これは Kohut によって記述される自己愛や Bursten (1973) の渇望型,小此木
(1981) のシゾイド人間化,またAkhtar & Thomson (1982) による自己愛の
(
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disorder) と内密型の自己愛性人格障害
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disorder) に分類している。そして,前者は他者に
影響されにくく,後者は極めて他者に依存し,傷つきやすいといった特徴をも
covert な側面に類似したものであると考えられる。第 2 節社会論・文化論における自己愛
自己愛性人格障害を無関心型 (oblivioust
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)
っとしている。 また Gabbard (1989,
1994) は,1970 年代から 80 年代にかけて,自己愛や me generation といった言葉が社会
的にもてはやされた。そこでは,もともと精神分析学における術語であった自
己愛が,多くの文化論や社会論の中で,文化的・社会的な傾向を表す言葉とし
て用いられてきた。 ehA-Jh 砲や aee 引 32と過敏型 (hypervigil回t type) に分けている (TABLE
1-1-4)(I)。無関心型は一見
傍若無人で自己顕示欲のみが強く,自己中心的で他の人々の反応に鈍感な,い
わば「恥知らず」な特徴を示すのに対し過敏型は他の人々の評価に敏感で,
内気で傷つきやすく,対人恐怖的な特徴を示すとしている。これらの自己愛を 2 つのタイプに分類する記述を概観すると,それぞれの研
究者による記述には共通点があるように思われる。例えば自己中心型
Lasch
(1978;石川訳, 1981)は,当時のアメリカ社会を「ナルシシズムの時
代」とし,序文において“私は,今や死につつある(アメリカの)ライフスタイルについて書こうとしている"と述べる。そのライフスタイルとは,“競争
によって向上しようとする個人主義の文化"のことである。そしてこの文化が(Broucek
,
1982) ,厚皮の自己愛 (Rosenfeld, 1987) ,自己顕示的な自己愛性人格
障害 (Masterson, 1993) ,無関心型 (Gabbard,
1989,
1994) は,いずれも誇大的で
能動的,自己中心的で他者の反応にあまり関心を示さないという特徴を示す自
己愛である。これは Kernberg によって記述される自己愛の特徴や,
衰えをみせるにつれて,全ての人々が自分以外の全てのものに戦いを挑む結果 と述べている。その を招き, rニュー・ナルシシスト」を生むことになった,Bursten
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type を「無自覚型J.h
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type を「過剰警戒型J と訳すこともある。19 てそれが買いたくなる自己愛イメージをつくりあげ,それを手に入れることで 若者の自己愛が満たされる。ここでもわれわれは,自分の自己愛が満たされて