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支 16.00

第 2 節 本書の成果と討論

本書の目的は,高校及び大学(短大,専門学校)の時期にある青年を対象と

第 2 節本書の成果と討論 I69 

して,彼らがもっ自己愛傾向と同世代の対人関係との関連を分析し青年の自 己愛傾向の特徴を明らかにすることであった。そしてこの目的を検討するため に,第 1 に NPI によって測定される自己愛傾向がどのような下位側面から構成 されるのかを明らかにすること,第 2 に自己愛傾向と向性の友人関係のあり方 との関連を検討し両者の関係を明らかにすること.第 3 に自己愛傾向と異性 関係のあり方との関連を検討し両者の関係を明らかにすること,第 4 に対人 関係を自己報告と自己報告以外の測定方法によって測定し,自己愛傾向との関 連を検討すること,第 5 に自己愛傾向の下位側面に焦点を当て,青年の自己愛 を理解するための枠組みを提供することが本書の課題とされた。そして[研究 1J から[研究 16J を通して,第 1 節にまとめたような結果が得られた。本節 では 16 の研究で得られた成果について討論しあわせて本研究の問題点や今

後の研究課題について言及する。

1.自己愛傾向とその下位側面 (1 )自己愛傾向全体の特徴

自己愛傾向と向性の友人関係のあり方との関連を検討したところ,自己愛傾 向全体は広い友人関係や,友人や仲間を多く獲得することに関連していた。こ のことは,希薄な対人関係や表面的なつきあいが自己愛に関連するという,い くつかの青年論(福島 1992 ;町沢, 1998 など)で述べられている指摘が一概に

当てはまらないことを意味している。

この理由のひとつとして,各論者が記述する自己愛的な青年像が,自己愛傾 向の中のあるひとつの側面に焦点を当てたものにすぎないという点を挙げるこ とができるだろう。本書では NPI や NPI-S によって測定された自己愛傾向の下 位側面として, r優越感・有能感J r注目・賞賛欲求J r 自己主張性」の 3 つを 見いだした。これら 3 側面はひとつにまとまって自己愛傾向を構成するのだが,

他の変数との関連から明らかなように,それぞれ独自の意味内容をもっている。

多くの青年論に記述されている自己愛は,いわばこれらのうちあるひとつの側

面に類似した内容に注目しているにすぎないと考えられる。例えば町沢

(1998) は,自己愛的な青年の特徴のひとつとして,人と深くかかわると自分

が傷つくことがわかっているから,人と深くかかわることを避ける点を挙げて

17 第 8章総括的討論

いるつこのような,人と深くかかわることを避ける希薄な対人関係は,本書に おいて行われた研究のうち. [研究 6J の「広く浅いつきあい方J に相当する と考えられる。[研究 6J では, r広く浅いつきあい方」をする青年は,自己愛 傾向の下位側面の中でも特に「注目・賞賛欲求」が高い傾向にあった。その一 方で, r広く深いつきあい方」をする青年は,自己愛傾向の下位側面の中でも 特に「自己主張性」が高い傾向にあった。また[研究 9J では, r注目・賞賛

欲求」は異性からの評価を気にする傾向に関連し, r 自己主張性」は異性から の評価を気にしない傾向に関連することが示されている。さらに[研究 15J [研究 16J で示された自己愛傾向の 2 成分モデルでは, r注目・賞賛欲求」が優 位な者は対人恐怖的であり友人から調和的で弱い人間だと認識される傾向にあ り. r 自己主張性」が優位な者は他者からの評価を気にせず調和性に欠けるな ど.やや自己中心的な特徴をもつことが示された。

これらのことから,町沢 (1998) などによって記述されている自己愛的な青 年像は r1主目・賞賛欲求J が特に高い青年であり,その一方で教育場面におい て指摘されているような"頑固でわがまま(河上. 1999)\ “気にくわないこと にはその場でアクシヨンを起こし自己主張する(諏訪. 1997)" といった自己愛 的な青年像は, r 自己主張性」が特に高い青年に近いのではないかと考えられ

る c

(2) 自己愛傾向の下位側面の特徴 a .  

r優越感・有能感」

「優越感・有能感」は NPI の第 1 因子として見いだされたように,自己愛傾 向の重要な構成概念である。この下位側面は自己肯定感,自己の誇大な感覚.

自信などの言葉で表され. r 自分で自分を愛すること J という自己愛の基本的 な意味に最も近いものといえるだろう。また,もしも自己愛傾向の 3 つの下位 側面を,さらにその機能的な側面から分類するならば. r優越感・有能感」は 自己をどのように評価するかという.より内的な機能を果たす側面であり,

「注目・賞賛欲求j と「自己主張性」は.外界とのかかわりの中で「優越感・

有能感」の感覚をどのように形成し維持していくかという,より外的な機能を 果たす側面と考えることも可能であろう。

2 節本書の成果と討論 171  このような点から「優越感・有能感J は,自尊感情と類似した概念と考えら れるが, [研究 6J において示されたように, r優越感・有能感J と SE-I 全体と の相関係数は r

.29 とそれほど高いものではなく, r 自己価値 J 因子とも

=.60 と中程度の相関であった 3 小塩(1 997a) においても「優越感・有能感」

と自尊感情 (24) との相関係数は r.50 と中程度であることからも, r優越感・

有能感」が自尊感情そのものを意味するとはいえない。もともと NPI は自己 愛性人格障害の記述から作成されているため,心理的健康を意味する自尊感情 とは必ずしも一致しないと考えられる。第 4 章の考察で述べたように, r優越 感・有能感」は自尊感情とは異なか他者よりも優れており有能であるという,

他者との比較を前提とした自己の有能性や優越性の確信を強調するものである といえるだろう。

梶田 (1988) は自己評価的特性の側面として,(1)様々な自己評価的感覚や 意識・態度を最も基底において支えている基盤的な感覚や感情, (2) 自分の周 聞にいる人や自分の内面で想定した人と暗黙のうちに比較対照することで成立 した自己評価的感覚や意識, (3) 自分自身についての要求水準や理想的自己の イメージに照らして自分の現状を見ることで成立した自己評価的感覚や意識,

(4)自己評価的な感覚や意識の外的現れとしての態度や行動特性,の 4 つを挙 げている。この 4 側面に照らし合わせると, Rosenberg の尺度や SE-I の「自己 価値」によって測定されるものは (3) の側面に最も近く, r優越感・有能感J は (2) に最も近いものと考えられる。したがって両者は.自分自身に満足する ことに基づく自信と,他者に競り勝つことに基づく自信という点で,同じ自信 であっても異なると考えられる。また自己愛傾向のうち「優越感・有能感」以 外の 2 側面は,(4)に近いものといえるだろう (25) 。

b .  

r注目・賞賛欲求J

「注目・賞賛欲求」は,他者からの注目や賞賛,そして権威を求める欲求を 意味する自己愛傾向の下位側面である。「注目・賞賛欲求」は[研究 6J にお

(24) この研究では Rosenberg (1965) と Cheek& Buss (1 981) の尺度をあわせたものが使用された。

(25) ただし梶回(1 988) は,自己愛も自尊感情も(1)の側面のひとつとして記述している。梶田 (1 988) の理論的考察によって導き出された概念と.質問項目として捕かれた概念とが必ずしも一 致しない点には留意する必要があるだろう。

I7 第 8 章総括的討論

いて「自己価値」との関に正の関連が示されたように,自己肯定感に関連して いる。その一方で, [研究 6J において「評価過敏 RJ r 自意識過剰 RJ と負の 関連が示されたように, r注目・賞賛欲求J に関連する自己肯定感は他者から の評価によって崩れてしまうような不安定なものである。したがって,その不 安定な自己肯定感を補うために,他者からの注目や賞賛を求める欲求が生じる のではないかと考えられる。また[研究 11J で得られた,最近失恋した者,

失恋経験が多い者ほど「注目・賞賛欲求」が高いという結果も,失恋のような つらい経験が自己評価を不安定にし,その不安定な自己評価を補うために,他 者からの注目や賞賛を求める欲求が生じるという可能性を示唆している。

本書で見いだされた「注目・賞賛欲求」に関連する対人関係上の特徴は,友 人や異性など他者からどのような評価をされているのかを気にしそのために みんなと一緒に楽しくつきあうが自分の本音を隠し気をつかい,親密な関係 を築くことができないというものであった。このような特徴は,“友人を自分 の内面に立ち入らせない(栗原, 1989)\ “円滑で楽しい関係を求めながらも,

関係が深まることは拒絶する(東京都生活文化局, 1985 ;千石, 1991)" など,現 代青年に特有な対人関係として記述されるものに一致する。

本書の結果から,このような多くの青年論に記述されている対人関係をとる 青年とは,自己肯定感をもちながらも,その自己肯定感が不安定で容易に崩れ てしまいそうなために,他者からの注目や賞賛を集めたいという欲求をもっ青

年であるということが示唆される。

c .  

r 自己主張性J

「自己主張性J は,自分の意見をはっきりと言い,自ら決断する,やや自己 中心的な意味あいをもっ自己愛傾向の下位側面である。本書で見いだされた

「自己主張性J に関連する対人関係上の特徴は,他者を気にせず積極的に他者 とかかわりをもっというものであった。また[研究 6J において, SE-I の全て の下位尺度と正の相関関係にあったように, r 自己主張性」は安定した自己肯 定感に関連していると考えられる。これらの結果は,そのような他者からの評 価によっても覆りにくい安定した自己肯定感をもつことが.他者に対する積極 的な態度や深い友人関係につながることを示唆している。また[研究 11J に おいては.つきあった異性が多いほど「自己主張性J が高いことが示された。

第 2 節本書の成果と討論 173  このことは,多くの異性とつきあい,様々な経験をする中で安定した自己評価 を築き,そのことが「自己主張性j の高まりに結びつくことを示唆している。

しかしこの「自己主張性」は,他者の評価を気にせず,自己中心的で自分勝 手な意味あいを含むものでもある。[研究 14J の面接調査では,他者から"出 しゃばり"や“わがまま"と認識されると報告した無関心型に相当する者は,

「自己主張性」が高かったコこのように, r 自己主張性J が極端に高い場合には,

周囲から孤立する可能性も考えられるであろう。

2. 自己愛傾向と対人関係 (1 )向性の友人関係

本書の第 2 の課題は,自己愛傾向と向性の友人関係のあり方との関連を検討 し両者の関係を明らかにすることであった。[研究 6J [研究 7J [研究 8J の 結果から,自己愛傾向の高い青年は友人が多く,楽しくつきあうこと,そして そのつきあいの中で友人に理解や信頼,関与を求めるという友人関係上の特徴 をもっと考えられる。

本書では,高校 1 年生男子及び大学生・短大生・専門学校生の男女という 2 つの年齢群を対象として調査を行った。そしてこの雨群に共通してみられる,

自己愛傾向に関連する友人関係上の特徴として,“友人を多く獲得しているこ と"を挙げることができる。これまでの青年心理学における研究では,中学生 の時期には「浅く広くかかわるつきあい方」が多くみられ,大学生になるにつ れて「深く狭くかかわるつきあい方」が多くなっていく(落合・佐藤, 1996) な と高校生の年代と大学生の年代で友人関係のあり方が異なることが報告され ている。ところが,本書の高校生を対象とした調査においては,“友人とどの ようなつきあい方をしているのか"ということではなく,“友人をどの程度獲 得しているのか"や,“友人に対してどのような要求をするのか"という側面 から友人関係を捉えようとした。したがって本書の結果のみからは,高校生と 大学生の両年齢群でどのようなつきあい方の違いがみられるのかという点につ いて結論を述べることはできない。しかし高校生においても大学生においても,

自己愛傾向が多くの友人とつきあうことに関連するという両年齢群に共通する 特徴を見いだすことができた点は.本書のひとつの成果であろう。