τ!?i}li--;slif
自己愛の測定的研究の概観と全体的目的
恥と罪がともに NPI と負の相関を示したことを報告している。また, E/E 下 位尺度が恥の意識と関連する傾向にあることも報告している。 Gramzow らは,
"NPI は総合的に自己愛の適応的な構造を査定しているようである。したがっ て, NPI と恥とが負の相関を示しでもおかしくはないであろう"と考察してい
第 2 章
56
いる。 NPI と共感性との関連は,尺度の妥当性の問題と直接的に関連する課題 であるため,今後も詳細な検討を続けていく必要があるだろう。また NPI と 対人関係の側面との関連を検討した先行研究を概観すると.異性に感じる魅力 る。
e. 他者認知
の研究 (Campbell, 1999) を除き.青年期において重要な意味をもっと考えられ る友人関係や異性関係など,青年の同世代の対人関係との関連を検討した研究 がほとんど見あたらない。青年期における自己愛傾向の意味や役割を採るため
これらの関連について実証的な検討を行う必要があると考えられるつ Morf & Rhodewalt (1993) は,実験室で 2 人の被験者と 1 人のサクラに課題
をさせ, NPI によって測定された自己愛傾向と他者評価との関連を検討してい る。その結果.自己愛傾向の高い者は,彼らよりも優れた者をより否定的に評 価する傾向にあった。また Kemis&
Sun
(1994) は被験者に小説を見せ,には,
それ についてスピーチをするように求めた後で,肯定的なフィードパックあるいは 否定的なフィードパックを与える実験を行い,
第 3 節全体的目的
ここまで,自己愛に関する理論的あるいは調査的な先行研究を概観してきた。
本節では,先行研究をふまえた上で本書における問題意識を述べ,本書におけ る全体的な目的を示す。
自己愛傾向とそのフィードパッ クに対する反応との関連を検討している。そして.否定的なフィードパックに 対し,自己愛傾向は評価者を低い能力で好ましくないと知覚し,評価技術を診 断的でないと知覚することに関連すること.自己愛傾向の高い者は否定的なフ ィードバックの正確さを否定する傾向はないのだが,それをもたらした人物に は非常に軽蔑感を表すこと.肯定的なフィードパックに関しては,自己愛傾向 は評価者をより能力があり,評価技術も診断的であると知覚することに関連し
たが,評価者への魅力にはほとんど関連がなかったことなどを報告している。 1.本書の問題意識 (1 )発達的視点
自己愛の起源は生後 1 年までの乳児期にあり,この時期は自己と外界の区別 がつかない, Freud (1914 ;懸回・吉村訳, 1969) の述べる外界と一体になって いる無制限の自己愛に満ちた,一次的自己愛の状態にある。そして自己と外界 との区別がなされてくるにつれて一次的自己愛の状態を脱するが,この時期 (生後 2 年固まで)の幼児には自己を誇大化したい欲求と,対象を理想化したい f.魅力的な異性
Campbell (1999) は自己愛傾向と恋愛上の魅力に関する 5 つの研究を行い,
自己愛的な者の理想的な恋愛対象は他者志向的な異性よりも自己志向的な異性 であること,自己愛的な者は思いやりのある異性よりも魅力的な外見をもち完 壁な異性を好むこと,自己愛的な者は自分の自尊感情を高めてくれるような異 性に魅力を感じることなどを報告している。
欲求という, 2 つの自己愛的欲求が生じる (Kohut, 1971) 。なおここでの対象と は,父母に代表される養育者のことである。そして 3 歳頃までに,母親との関 係の中で自己を誇大化したい欲求を適度に満たしつつ自己の限界を知ることに よか過度の誇大化欲求は健全な自尊心や野心などの形に変容する。また 5 歳 頃までに,父親との関係の中で対象を理想化したい欲求が満たされながら,次 g. まとめ
自己愛傾向と対人関係の側面との関連を検討した先行研究を概観 してきた。 DSM-N (AP
A .
1994) における自己愛性人格障害の診断基準のひと つには「共感性の欠如j が挙げられているが, NPI と共感性との問には明確な 関連が報告されているとはいえない。この理由として角田 (1998) は,第 1 にここでは,
58 第 2 章 自己愛の測定的研究の概観と全体的目的
第に対象の万能性に対する脱錯覚が起こるとき,対象を理想化したい欲求は自 己の中に内在化され,自我理想、などの精神的構造を形成する。自己愛的な青年 が増加してきたという町沢 (1998) らによる指摘は,現代では乳幼児期の母子 密着が強く,青年が適度な自己の限界を知らされないままに成長しているので
はないかという仮説に基づいている。
Blos (1962
;野沢訳, 1971) が青年期を第二の分離ー個体化の時期と呼ぶよう に,この時期には父母からの精神的離脱と個の自立が基本的な課題となる。同 時にこの時期は,児童期に確立された自我理想が疑われ,新たな理想が構築さ れる時期であるともいわれており (Wolf,
Gedo, &Term肌 1972) ,心理社会的な 変化を経験する時期でもある。そして青年期における父母からの精神的離脱は 心的エネルギーが自己に向かうという結果を生みだす。また心理社会的な変化 は青年の人格的なまとまりを脅かし,児童期までに形成された精神的構造が崩 されるという結果を招く。このようなことから,青年は自己愛的な状態に陥り やすくなると考えられる。つまり,乳児期の次に自己愛的な特性が最も顕著に なる時期は青年期だと考えられるのである。自己愛などの人格特性を乳児を対 象として研究することが極めて困難であることからも,自己愛を研究するため には,再び自己愛的な特性が顕著になるといわれる青年期に注目することが有
用であるといえよう。
なお小此木(1985) によると, Bl08 は生物学的成熟による青年期の変化を思 春期 (puberty) と呼び,青年期 (adolescence) はこの思春期に対する適応の過 程と定義している。そしてこの意味での思春期は 17 , 18 歳で終了し,これ以 降はより心理社会的因子の影響の大きい後期青年期 Oate adolescence) となる と Bl08 は記述している。しかし Bl08
(1962;野沢訳, 1971) が,“前進,逸脱,
退行は,一時的に相反する目的を含んだ諸相の期間中,常に存在しているので,
相互に目立って現れる。防衛と適応の機構は絡みあっており,おのおのの相の 時間的な経過も,相当する年齢も固定していない"と述べているように,前述 のような青年期の人格上の変化が生じる年齢を明確に判断することは困難であ る。また,“最近では 30 歳近くまでを青年期ということもある"という指摘 (詫摩, 1986) や近年の日本において晩婚傾向が強まっているという指摘(伊藤,
1993) を考慮に入れると.現代の日本においては Bl08 の述べるように 17 ,
18噌冒E-E1!!ILE--Et
第 3 節全体的目的 59
歳で思春期が終了するのではなく,より後の年代まで継続しているのではない かと考えられる。本書ではこれらのことを考慮に入れ, 17, 18 歳前後の年齢 範囲である高校生及び大学生(短大生.専門学校生)を対象として研究を行う こととする。
(2) 対人関係的視点
青年期は自己愛的な特徴が顕著となる時期であると同時に,親からの精神的 離脱に伴って友人や恋人など同世代の仲間との親密な関係を志向するようにな る時期でもある。そして“仲間との強い関係"が青年の十分な自己愛のバラン スを維持すると同時に自己のまとまりを維持するのにも役立つ (Adelson
&
Doehrman, 1980) といわれるように,この時期の友人や恋人に代表される同世
代の対人関係は,青年の人格的なまとまりが失われ,自己愛的な状態に陥った 状態から回復するために必要不可欠なものと考えられるのである。
しかし,自己愛的な状態にある青年が容易にそのような対人関係を確立する ことが可能であるかというと,必ずしもそうではないように思われる。例えば 町沢 (1998) は,自己愛的な青年の特徴のひとつとして,人と深くかかわると 自分が傷つくことがわかっているから,人と深くかかわることを避ける点を挙 げている。また向性の友人関係に目を向けると,友人を自分の内面に立ち入ら せない(栗原, 1989) ,円滑で楽しい関係を求めながらも関係が深まることは拒 絶する(東京都生活文化局, 1985 ;千石, 1991) といった特徴が現代青年に広く みられるとされている。このように自己愛的な青年のみならず,現代青年の聞 に広くみられるとされる表面的な友人関係では,“人格的な共鳴のできる深い 関係(西平, 1973)" を営むことが困難であり,自己愛的な状態に陥った状態か
ら青年が回復することも困難であると考えられるのである。
次に,青年の異性との関係に注目してみたい。異性との関係といっても,恋 愛関係にはない周囲の異性との関係と,恋愛関係にある異性との関係とでは,
その関係のもつ意味は異なるであろう。まず恋愛関係にはない異性に対する場 合,その関係は向性との関係に比較的類似したものとなるであろう。つまり,
自己愛的な青年は異性と深くかかわることを避ける傾向にあると予想されるの である。また一方で恋愛関係は,青年が“人間的に成長し精神的に成熟(詫
60 第 2 章 自己愛の測定的研究の概観と全体的目的
摩, 1986)" するのに有効であると考えられているように,親密な友人関係と同 様に青年期の人格の再構成にとって重要な意味をもっ対人関係である。しかし 恋愛関係は,相手に対する愛情が存在するという点で.恋愛関係以外の異性関 係とは異なる特別な意味をもっと考えられる。そして自己愛のような自己に対 する愛情と異性に対する愛情が, Freud の述べるように排他的な関係であるの か, Fromm の述べるように排他的ではない関係にあるのかという点について は.明確な回答が示されているわけではないっ
その一方で自己愛的な青年の恋愛関係上の特徴については,いくつかの指摘 がなされている。Akhtar &百lomson (1982) や小此木 (1981) に従えば,自己 愛的な青年は相手に夢中になり,自己の延長として恋愛相手をみなし相手を 理想化するなど,頻繁に異性との恋愛関係をもっ一方で,自らの自己愛的な特 性のためにその関係が容易に破綻するといった特徴がある。しかしこのような 相手と一体化するような恋愛関係が,果たして自己愛的な状態に陥った状態か ら青年が回復することにつながるのかどうかは議論の余地のある問題であろ う。青年が自分の自己愛的な状態に基づいて恋愛関係を営むならば,そのよう な恋愛関係によって自己愛的な状態から脱することは困難であるとも考えられ るからである c
このように理論的な立場からは,自己愛的な特徴は青年期において顕著にな り,また青年期における重要な対人関係である同性の友人関係や異性関係など,
同世代の対人関係と密接にかかわっていることが指摘されている。そして自己 愛と同世代の対人関係との間には,親密な対人関係を営むことが自己愛的な状 態から脱することにつながる反面,自己愛的な傾向の高まりによってそのよう な対人関係を営むことが困難になるといったジレンマが存在する可能性が示唆 されるのである。
(3) 自己愛の下位分類
臨床場面に基づく自己愛研究のもうひとつの重要な知見として,自己愛をい くつかの下位側面に分類することが挙げられる。そして比較的適応的な意味を もつものと不適応的な意味をもつものがあるという分類 (Fromm ,
1 9 6 4
Pulver
, 1970) や.誇大的で自己中心的な自己愛と抑制的で引きこもりがちな自第 3 節全体的目的 6r
己愛という分類 (Broucek,
1 9 8 2 Gabbard
,1989
,1 9 9 4 Masterson
,1 9 9 3 Rosenfeld
, 1987) など,様々な視点から分類がなされている。このように自己 愛を分類することによって,これまでに議論されてきた青年期の自己愛と同世 代の対人関係との関連はより複雑なものとなる。青年が陥りやすいとされる自 己愛の状態がこれらの分類のうちどれを意味するのかは明らかにされておら ず,他者とのかかわりによって自己愛的な状態から回復するという過程は不適 応的な自己愛が適応的な自己愛に変容するという過程であるのか,あるいは自 己愛的な人格構造が他の人格構造に変容するのかといった点も明らかにされて いない。さらに,他者との深いかかわりを回避することにつながるのは,分類 された中のあるひとつの自己愛にすぎないのかもしれない。いずれにしても,自己愛がどのような下位側面から構成され,各下位側面が青年にとってどのよ うな意味をもつのかを検討することは,自己愛を理解する上においても,また 青年を理解する上においても重要であろう。そしてここでも,自己愛の下位側 面の意味を探る際に有効な視点として,対人関係を挙げることができる。
Broucek
(1982) などによって行われた自己愛の分類の際には,他者からの反 応や評価に対する受け取り方の違いがひとつの視点となっているためである。(4) 研究方法
青年の自己愛を研究する際には,いくつかの方法がある c その中でも本書で は, NPI を用いた調査的な方法を用いて研究を行うことにするつしかし NPI を用いる際に検討しておくべき課題がある。先行研究における NPI の因子分 析結果から, NPI はいくつかの下位側面から構成される尺度であることが示さ れている。理論的な先行研究では自己愛がいくつかの下位側面に分類されてお り, NPI によって測定される自己愛傾向も単一の人格特性というよりは,いく つかの下位側面から構成される複合的な人格特性と考えるのが妥当であると考 えられる。しかし特に日本の先行研究における NPI の因子構造は一貫して おらず,見いだされた因子は研究者によって様々である。ただしいくつかの 日本における先行研究の因子分析結果を概観すると,自己有能感や優越感など の自己に対する肯定的感覚の側面と,自己顕示性や注目願望などの他者に対し て自分自身をみせることを意味する側面は共通して見いだされてきている。ま