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支 16.00

本書の第 3 の謀題は,自己愛傾向と異性関係のあり方との関連を検討するこ とであった。そしてその結果には男女で差がみられるものとみられないものが

あった。

まず恋愛関係にはない異性に対する態度については,自己愛傾向全体は異性 に対する積極的な態度に関連すること, r注目・賞賛欲求J は異性からの評価

第 2 節本書の成果と討論 175  を気にする傾向に関連し, r 自己主張性」は異性からの評価を気にしない傾向 に関連することを示した。また,自己愛傾向は複数の人に対して同時に恋をし た経験やっきあった人数の多さに関連すると同時に,過去数ヶ月の失恋経験や 失恋回数の多さにも関連していた。そしてこれらの結果は男女に共通してみら れるものであった。

しかし恋愛関係のあり方や恋愛意識と自己愛傾向との関連は被調査者が男 性であるか女性であるかによって異なっていた。すなわち,自己愛傾向の高い 男性は恋愛相手から愛されていると認識する傾向にあり,自己愛傾向と恋愛意 識との有意な関連がほとんどみられなかった。その一方で,自己愛傾向の高い 女性は恋愛相手とのつきあいを重要だと考え,恋愛相手に対して愛情を強〈感 じる傾向にあることが明らかにされた。したがって恋愛関係にある場合,自己 愛傾向が高い青年の異性に対する態度は男女で異なっており,特に女性は相手 を愛するという能動的な恋愛をする傾向にあると考えられる。

恋愛の男女による違いについては,本研究及び先行研究においていくつかの 知見がある。まず[研究 10] では.女性は男性よりも,恋愛において相手の 条件を考慮する Pragma 型や恋愛をゲームと捉える Ludus 型の得点が高いこと が見いだされた。これと同様の傾向は松井(1993b) にもみられる。また先行 研究では,女性は異性の友人に対する気持ちと恋人に対する気持ちを明確に区 別する傾向あるのに対し,男性は両者を混同しやすい傾向にあること (Rubin,

1970 ;山本, 1986) ,女性は男性に比べ,交際が深まらないと相手への気持ちが 高まらない傾向にあること(松井, 1993a, 1993b) ,別れの段階で主導権を握るの は女性であること(松井, 1993a) などの知見が得られている。これらの知見か ら,一般的に女性は男性よりも恋愛相手にのめり込みにくく,逆に男性は恋愛 相手にのめり込みやすいといった特徴があると考えられる。松井(1990) はこ のような特徴を,“恋愛の初期や中期においては,女性の方が男性より,関係 に対する情緒的な関与が弱い"という言葉で表している。[研究 10] の分析対 象とされた恋愛関係にある者の交際期間は平均 14.66 ヶ月であり,大半の者が 恋愛の初期や中期にあると考えられる。松井(1990) はこのような男女差の理 由として,第 1 に女性は男性に比べて関係の主導権をもたないために関与の高 まりが遅れること,第 2 に女性にとって結婚は重要な出来事であり,結婚に結

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第 8 章総括的討論

びっく恋愛も重要な問題であるため,女性は恋愛の進展に対して男性よりも慎 重で,防衛的な態度をとりやすいこと,第 3 に男性が主導権を握る恋愛関係の 中では,女性が関係の決定権を獲得するためには,関係に対する関与を低め,

関係を離脱する可能性を留保することが有効な戦略となること,という 3 つの 仮説を挙げている。

しかしこのような,“恋愛の初期や中期においては,女性の方が男性より,

関係に対する情緒的な関与が弱い(松井, 1990)" という男女差の知見は,自己 愛傾向の高い男女には当てはまらないかもしれない。本書では自己愛傾向の高 い女性は相手を愛するという能動的な恋愛をする傾向にあるという知見を得て おり,これは先行研究にみられるような一般的な男女の恋愛の形とは逆の関係 にあると捉えることができるからである。

この結果について,以下の 3 つの解釈が考えられる。

第 1 に,自己愛傾向が男性性役割観に関連するという知見(小塩, 1998a) に 基づく解釈である。つまり,自己愛傾向の高い女性は低い女性よりも男性性役 割観をもっ傾向にあるため,恋愛関係において男性的な,能動的な恋愛のあり 方や恋愛意識をもっと解釈される。その一方で男性の場合,もともと男性性役 割観を高くもつ傾向にあるため,自己愛傾向が高くても恋愛関係のあり方や恋 愛意識においては,白己愛傾向の低い男性とそれほど大きな差がないと解釈さ

れる。

第 2 に,男女ともに自己愛傾向が積極的な異性に対する態度に関連するとい う[研究 9J の知見に基づく解釈である。一般に女性は恋愛関係に対する関与 が高まりにくいといわれる。その一方で,自己愛傾向の高い女性は基本的に異 性に対して積極的な態度をとるため,恋愛関係においてはその積極性が自己愛 傾向の低い女性に比べて表面に出やすいといえるのではないだろうか。また男 性の場合,もともと恋愛関係に対する関与が高い傾向にあるため,自己愛傾向 の高低によってあまり差が表れないと解釈される。

第 3 は,自己愛傾向に関連する恋愛のあり方には,自分にかかわるものは全 て良いものだとみなすような,自己愛の延長としてその対象をみなす,自己愛 的同一視というメカニズム(小此木, 198 1)が働いているという点からの解釈で ある。先行研究によると,女性は男性に比べ,交際が深まらないと相手への気

2 節本書の成果と討論 [77  持ちが高まらない傾向にある(松井, 1993a, 1993b) 。しかし自己愛傾向の高い女 性の場合,自分にかかわるものは全て良いものだとみなすため,交際の初期か ら相手に対する愛情をより強く感じる傾向にあると解釈される。その一方で、男 性の場合,もともと交際の初期から相手に対する愛情を強く感じる傾向にある ため,自己愛傾向の高低によってあまり差が表れないと考えられる。

以上のように, 3 つの解釈について考察したが,これらはいずれも仮説の域 を出ず,本研究の結果のみからは明確な結論を述べることはできない。今後の 研究ではこれらの仮説を検証する試みが必要とされよう。

(3) 対人関係の自己認識と他者認識

本書の第 4 の課題は,対人関係を自己報告と自己報告以外の測定方法によっ て測定し,自己愛傾向との関連を検討することであった。

[研究 13J では, r 自己 信頼J 得点と「クラスー信頼J 得点との間には有 意な関連がみられなかった。すなわち,異なる測定方法によって得られた得点

問には関連がなく,自分自身では他者から信頼されており,信頼されるような 行動を行っていると認識していても,クラスメイトからそのように恩われてい るとは必ずしもいえないのである。そして,信頼されており,相談相手になり 他者を援助するなどの行動をしていると自己認識する一方で,クラスメイトか

らそのように認識されていない者は,自己愛傾向が最も高くなる傾向にあるこ と,逆に自分自身では信頼されていないと認識する一方で、,クラスメイトから は信頼される者は,自己愛傾向が最も低くなる傾向にあることが明らかにされ た。また[研究 12J では,自己愛傾向の高い者はクラスメイトから友人が多 く,好かれていると認識されており,これらに関しては自己愛傾向の高い者の 自己認識とクラスメイトによる認識との間に差はないと考えられた。

これまでの NPI を用いた先行研究では,自己愛傾向の高い者が自己洞察に欠 けること (Emmons, 1981) や,自己評価の正確さに欠けること 00hn& Robins, 1994) が指摘されている。[研究 12J や[研究 13J の結果から,“他者からの

信頼"という側面については,自己愛傾向の高さが自己洞察の欠如や正確な自

己評価の欠如に関連することが示唆される。さらに,他者から信頼されている にもかかわらず自分自身では信頼されていないと認識する者は自己愛傾向が最

n8  第 8 章総括的討論

も低い傾向にあるという[研究 13J の結果から,自己愛傾向の低い者につい ても自己洞察や正確な自己評価が欠如していると考えられる。したがってこれ らの結果から,自己愛傾向が極めて高い者も低い者も“他者からの信頼"とい う点で,自己評価と他者からの評価との聞に差があるといえるだろう。

DSM‑N (APA, 1994) では.自分の能力を過大評価したり自分の業績を誇張 したりするなど,自己の重要性についての誇大感が自己愛性人格障害の診断基 準として記述されている。[研究 13J の結果には,自己愛傾向の高い者は周囲 の者からそのように思われていなくとも信頼されているという信念をもっとい う点で,まさに自己愛人格の自己に対する過大評価という特徴が表れていると いえるだろう。また逆に,自己愛傾向の低い者は他者から信頼されているにも かかわらず自分では信頼されていないと思う,いわば自己に対する過小評価と いう特徴が表れているといえるだろう。

ただし先にも述べたように,上記の考察は“他者からの信頼"という対人関 係上のあるー側面についていえることにすぎない。[研究 7J [研究 8J と[研 究 12J の結果を比較すると,友人の多きや他者からの好意という点に関して は,自己愛傾向の高い者の自己報告とクラスメイトによる報告との聞に差はな いと考えられる。このように,対人関係上の他の側面に焦点を当てると,自己 愛傾向と自己の過大・過小評価との問に関連がみられないものもあると予想さ れる。[研究 13J では“他者からの信頼"についての自己報告と他者報告との 聞には関連がみられないことを示したが,友人の多さや他者からの好意に関し ては本書では検討していない。したがって,友人の多さ,好意,信頼という対 人関係上の 3 側面にはどこに共通点があり相違点があるのかについては,本研 究の結果のみから明確な結論を下すことは困難である。どのような状況下で自 己愛傾向が自己の過大・過小評価に関連するのかという点は,今後も引き続き 検討していく必要があるだろう。

(4) 自己愛傾向の下位側面と対人関係

本書の第 5 の課題は,自己愛傾向の下位側面に焦点を当て,青年の自己愛を 理解するための枠組みを提供することであった。小谷(1998) は社会学の見地 から,現代の若者の対人関係上の特徴として, r他者の視線などを平気で無視

第 2 節本書の成果と討論 [79 

する若者」と「他者の視線に過剰に反応する若者」を挙げている。本書の結果 において興味深い点は,対人関係において他者からの評価を気にすることと,

気にしないことがともに自己愛傾向に関連するということにある。すなわち,

自己愛傾向の下位側面に注目すると,前者には「自己主張性」が,後者には

i主目・賞賛欲求j が関連するということである。

しかし現実の対人関係を考えた場合,他者からの評価に対してあまりに敏感 であることも,全く気にしないことも,ともに円滑な対人関係を築く上で好ま

しくないかもしれないっ[研究 14J の面接調査で示されたように,他者からの 評価に敏感であるために他者から言われた何気ない一言に思い悩んだり,他者 からの評価を気にしないために周囲から孤立したりする可能性もあるからであ る。おそらく適度に他者の意見に耳を傾け,適度に自分の意見を主張する態度 が,他者との円滑な関係を営む上で最も必要なことなのであろう。したがって,

自己愛傾向の中でも「注目・賞賛欲求J と「自己主張性」の一方だけが顕著に なるのではなく,両者が適度なレベルに保たれていることが,最も円滑な対人

関係に結びつくといえるのではないだろうか。

3. 自己愛傾向と心理的健康

NPI によって測定された自己愛傾向が心理的に健康な状態を意味するのか不 健康な状態を意味するのかという議論は,特に海外において幾度となくなされ ている (Emmons,

1984  ; Raskin, Novacek, & Hogan, 1991 

:悶lOdewalt,

Madrian. 

Cheney, 1998 ; Rhodewalt 

Morl, 1995 : Watson 

Bidennan, 1993 など)。そして

それらの議論の中では, NPI のうち一部の下位尺度 (Exploi

tativen ess/ 

EntitIement ; E/E) を除き,自尊感情など心理的健康の指標との相関が高いこ

とから. NPI は全体として健康な自己愛を測定すると指摘されている (Emmons

1984 など)。日本においては佐方 (1988) が, SNPI のうち「自己顕示・自己耽

溺」下位尺度が同一性拡散感尺度と正の相関を示し健康な自己愛を示唆する

他の下位尺度は同一性拡散感尺度と無相関であることを報告している。このよ

うに先行研究を概観すると, NPI の下位尺度に関して「健康J r不健康」とい

う場合,必ずしも一定の基準があるわけではなし他尺度との関連を検討した

際に,適応的な概念に関連するかそうでないかという点から考察されているこ