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ヒト非小細胞肺癌における

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Academic year: 2021

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博 士 ( 医 学 ) 菊 地 英 毅

学 位 論 文 題 名

ヒト非小細胞肺癌におけるHLA クラスI 発現、

腫瘍内浸潤CD8 陽性T 細胞と臨床病理学的因子の関連性 学位論文内容の要旨

【背景】HLAクラスI抗原はヒトの全ての有核細胞と血小板に発現する,重鎖とロ2−ミク ログロプリン軽鎖からなる膜貫通型糖夕ンパクであり,感染したウイルスや癌抗原といった 内在性抗原をCD8陽性細胞に提示し,免疫反応を 惹起させる働きを持つ.ー方で様々な癌 腫 にお いて ,16〜50%程度にHLAクラスI抗原の発現低下・欠失がみられると報告されて おり.HLA抗原発現低下・欠失は癌細胞が免疫監 視機構から逃避する機序のひとつである と考えられている.

  最近札幌医科大学 の鳥越俊彦博士らは,ホルマリン固定パラフイン組織切片において,

古 典 的HLAク ラス1抗原 であ るHLA‑A,HLA―B.HLA―Cの 全て の重 鎖を 認識 す るモ ノク ローナル抗体(EMR8‑5)を初めて作成し,報告した.

旧的】我々はこの抗 体を用いて免疫組織学的検討を行い,ヒト非小細胞肺癌におけるHLA ク ラスI発 現 と,腫瘍内浸潤CD8陽性細胞 および臨床病理学的因子の関連性に関する検討 を行った.

【 対象 】1982年 から1994年に 北海 道大 学 医学 部附 属病 院で 初回 治療として切除を行っ た非小細胞肺癌患者161例を対象として後ろ向き 研究を行った,これらの患者の切除原発 腫瘍から連続ノくラ フイン切片を作成し,免疫組織化学染色を行った.―次抗体は抗HLAク ラ ス1抗 体(EMR8―5) , 抗 ロ2― ミ ク ログ ロブ リン 抗体(EMR−b6),抗CD8抗 体(clone C8/1 44b)を 使用した.HLAクラス1およびロ2ーミク口グロブリンの発現は,細胞膜がり ンパ球と同程度の染色強度を示す腫瘍細胞が80%以上あるものを強陽性(発現),全く染色 されない腫瘍細胞が80%以上のものを陰性(欠失),その中間または,腫瘍細胞膜がりンパ 球よりも弱く染色されるものを弱陽性(発現低下)と定義した.腫瘍内浸潤リンパ球は,腫 瘍胞巣内浸潤リンノく球と腫瘍問質浸潤リンパ球の2つのグループに分類し評価した.腫瘍が 肺胞上皮置換型増殖を示す症例等,腫瘍胞巣の評価が困難な例については腫瘍内浸潤リンノヾ 球の評価から除外し,計69例で検討を行った.

【 結 果 】HLAク ラ スI強 陽 性 例 は50例(31% ) で あ り ,57例(35% ) が 弱 陽 性 ,54例 (34% )が 陰 性であった,HLAクラス1発現とロ2―ミクログロブリン発現の程度には有意 な 相関 が見 られ ,カ ッパ 係数 は0.71 (95%信 頼区 間0.62〜0.80)で あった.HLAクラス 1発現低下・欠失は性別,喫煙歴,組織型、分化度と有意な相関がみられた.陰性群におけ る 腫 瘍 胞 巣内 浸潤CD8陽 性細 胞数 は, 有意 に弱 陽性 群(PーO.0013) およ び 強陽 性群

(PヒO.00017)よりも減少していた.また同一 組織内にHLAクラス1強陽性部位と陰性部 位 が混 在す る症 例7例 での 検討 では ,HLAクラ ス1陰性 部位 での 腫瘍 蜂巣内浸潤CD8陽性

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細 胞 数 は.HLAク ラ ス1強陽 性 部 位に 比 較 し有 意に 減少し ていた(P=0.0023). HLAクラ スI発現 の程度 がいかな る場合 であって も,腫 瘍問質内浸潤CD8陽性細胞数に差は認めら れ なかっ た.転帰 の判明し ている150例に おける 解析では,HLAクラス1強陽性群は,HLA クラス|弱陽性および陰性群と比較し,有意に予後良好であった(P= 0.0051),病期によ る 層別解 析では, 病理病期I期(n〓88)ではHLAクラス|強陽性群は発現低下・欠失群に 比 し,有 意に予後 良好であ った( P::0.0044)が,II期以上の群(n=62)ではHLAクラス 1の発現は予後との相関は認められなかった(F40.85).

  病理病期I期群における予後因子の検討では.単変量解析の結果,HLAクラス1発現低下・

欠失(ハザ―ド比3.10,P=0.0068)およぴ高年齢(ハザード比1年あたり1105,尸Lー0.0099) が有意な予後不良因子であった.コックスの比例ハザードモデルによる多変量解析において も ,HLAクラス1発現低 下・欠 失の補正 ハザー ド比は2.59 (95%信頼区 間1.13〜5.93), p値 は01024で あ り ,HLAク ラス1発 現低 下 ・ 欠失 は病理 病期1期非小細 胞肺癌 における 独立した予後不良因子であった.

【 考察】 今回の検 討では非 小細胞肺癌におけるHLAクラス|発現低下・欠失は69%に認め られたが.これまでの報告は25%〜90%とされ,一定していない.その理由として,まず は用いた検体の処理方法および抗体の違いが考えられる.また,免疫染色の判定基準の違い も考慮しなければならない,今回の検討では鳥越らの報告に倣い,腫瘍細胞の膜がりンパ球 と同程度に染まるものを強陽性としたが,これまでの報告では細胞膜の染色について記載が な く , ま た り ン パ 球 を 内 因 性 強 陽 性 コ ン 卜 ロ ― ルと し て 用 いた と の 記載 も な い.

  今 回の検 討ではHLAクラ スI発 現低下・ 欠失は 予後不良 因子で あり,ま た病理病期I期 に おいて は独立し た予後不 良因子であったのに対し,‖期以上ではHLAクラス|発現と予 後 との間 に相関を 認めなか った.大腸癌においては,HLAクラス|の発現低下は予後不良 で あり, 比較的早 期(TMNO〜II)の 症例でそ の傾向 が強いとの報告があるが,これは我々 の 結 果 と同 様 の 傾向 を示す ものと考 えられ た今回の 検討で はHLAク ラスI発現が 病理病 期との有意な相関を認めない一方で,病理病期1期の術後の予後と有意な相関を認めたこと は,既に増大した腫瘍には免疫が働いても有効ではないが.切除後に腫瘍量が微量となった 場 合には 免疫が有 効である 可能性が考えられる.一方で前述の大腸癌の報告では.HLAク ラスI完全欠失群もまた予後良好であり,この点は我々の結果と異なっている.肺癌におい ては大腸癌とは異なり.NK細胞による免疫反応はあまり重要でないものと推測されたIHLA ク ラスI発現と 腫瘍内浸 潤CD8陽性細胞 との相 関については,これまで食道癌,膵癌,大 腸 癌t卵巣 癌 等 で報 告さ れ,HLAクラス1発現 低下・欠 失部位 では腫瘍 内浸潤CD8陽性 細 胞が少ないと報告されているが,腫瘍内浸潤細胞を腫瘍胞巣内浸潤細胞と腫瘍問質内浸潤細 胞 に 分 けてHLAク ラ ス1との相関 を検討 した報告 はなく, また同 一検体内 にHLAクラス1 強陽性部位と陰性部位が混在する例で.その強陽性部位と陰性部位への浸潤細胞を検討した 報 告はな い.我々 は,非小 細胞肺 癌手術標 本にお いて,HLAクラス1陰性群は弱陽性群お よ び強陽 性群に比 較して腫 瘍胞巣内浸潤CD8陽性細胞数は有意に減少するが.腫瘍問質内 浸 潤CD8陽 性 細胞 はHLAク ラ ス1発 現 に よる 影 響 が少 な い こと を 示 したIま た,同一 検 体 内 のHLAク ラス1発 現 陰性 部 位 では 強 陽 性部 位よ りも腫 瘍胞巣内 浸潤CD8陽性細 胞数 が有意に減少することを示した,

【結論】非小細胞肺癌161例のホルマリン固定/ヾラフアン連続切片において,免疫組織学 的 手法を 用いて,HLAクラ ス1,ロ2―ミクロ グロブ リンの発現,およぴ腫瘍内浸潤CD8陽 性 細胞に ついて検 討を行っ た,非 小細胞肺 癌にお いてHLAクラス1発現低下・欠失群は有

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意に 予後不良であり,腫瘍胞巣内CD8陽性細胞浸潤にも影響を及ぼしていることが示唆さ れた.これらの結果は非小細胞肺癌における免疫治療戦略を考える上で,有用な情報となる ことが期待できる.

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学位論文審査の要旨

学 位 論 文 題 名

ヒト非小細胞肺癌におけるHLA クラスI 発現、

腫瘍内浸潤CD8 陽性T 細胞と臨床病理学的因子の関連性

  HLAクラス1抗 原はヒトの全ての有核細胞に発現する,重鎖とロ2‑ミク ログロブリン軽 鎖からなる膜貫 通型糖夕ンパクであり,感染したウイルスや癌抗原といった内在性抗原を CD8陽性細胞に提示し,免疫反応を惹起させ る働きを持つ.一方で様々な癌腫において‐

16〜50%程 度にHLAク ラス1抗 原 の発 現低 下・ 欠失 がみ られ ると 報告 され ており,HLA 抗原発現低下・ 欠失は癌細胞が免疫監視機構から逃避する機序のひとつであると考えられ ている.最近, 札幌医科大学の鳥越俊彦博士らは,ホルマリン固定パラフイン組織切片に お い て , 古 典 的HLAク ラスI抗原 であ るHLA‑A,HLAーB,HLA‑Cの 全て の重 鎖 を認 識す る モノ クロ ーナ ル抗 体(EMR8‑5)を初 めて 作成 し,報告した,我々はこの抗体を用いて 免疫組織学的検 討を行い,ヒト非小細胞肺癌におけるHLAクラスI発現と,腫瘍内浸潤CD8 陽 性細 胞お よび 臨床 病理 学的 因 子の 関連 性に 関する検討を行った,対象は1982年から 1994年に北海道 大学医学部附属病院で初回治療として切除を行った非小細胞肺癌患者161 例の切除原発腫 瘍,連続パラフィン切片.―次抗体として抗HLAクラス|抗体(EMR8‑5)・ 抗 ロ2゜ ミ ク ロ グ ロ ブ リ ン 抗 体(EMR‑b6), 抗CD8抗 体(clone C8/144b)を 用 いて 免疫 組織化学染色を 行った,HLAクラスIおよびロ2‐ミク口グ口ブリンの発現は,強陽性(発 現),弱陽性(発現低下),陰性(欠失)の3群に分類した,腫瘍内浸潤リンパ球は,腫瘍 胞巣内浸潤リンノヾ球と腫瘍問質浸潤リンパ球の2つのグループに分類し評価した.その結 果 ,HLAクラ ス1強陽 性例 は50例(31%) であ り,57例(35% )が 弱陽 性,54例(34%)

が陰性であった ,HLAクラス1発現とロ2‐ミ クログロブリン発現の程度には有意な相関が 見 られ ,カ ッパ 係数 は0.71 (95%信 頼区 間0.62〜0.80)であった.HLAクラス|発現低 下・欠失は男性 ,喫煙者,非腺癌,中・低分化度で有意に多くみられた,陰性群における 腫 瘍 胞 巣 内 浸 潤CD8陽 性 細 胞 数 は , 有 意 に 弱 陽 性 群 (P=0.0013) お よ び 強 陽 性 群 (P::O.OOOl7)よ りも減少していた.ま た同一組織内にHLAクラス1強陽性部位と陰性部 位 が混 在す る症 例7例 での 検討 では ,HLAクラ ス| 陰性 部位 での 腫瘍 蜂巣 内浸潤CD8陽 性 細胞 数は ,HLAクラ ス1強陽 性 部位 に比 較し 有意 に減 少し てい た(Pl0.0023). HLAク ラスI発現の程度と腫瘍問質内浸潤CD8陽性細胞数には相関は認められな かった,転帰の     ―340―

治 哲

司 俊

正  

  孝

村 藤

村 田

西 近

西 秋

授 授

授 授

教 教

教 教

査 査

査 査

主 副

副 副

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判 明 して いる150例に おけ る解 析 では ,HLAク ラス |強陽性群は,HLAクラス1弱陽性 お よ び陰性群と比較し,有意に予後良好であった(P= 0.0051),病期による層別解析では,

病 理病期1期(n:88)ではHLAクラス1強陽性群は発現低下 ・欠失群に比し,有意に予後 良 好であった(Pヒ0.0044)が,II期以上の群(n〓62)ではHLAクラス|の発現は予後と の相関は認められなかった(尸ヒ0.85),病理病期1期群における予後因子の検討では,コッ ク スの比例ハザードモデルを用いた単変量解析の結果,HLAクラス|発現低下・欠失(ハ ザ ― ド比3.10.P=0.0068)およ び 高年 齢( ハザ ―ド 比1年あ た り1105,PL―0.0099)が 有 意な予後不良因子であった,多変量解析においても,HLAクラス1発現低下・欠失は病 理 病期I期非小細胞肺癌における独立した予後不良因子であった.審査にあたり,副査近藤 哲 教 授か ら1)腫 瘍内 浸潤CD8陽 性細 胞数 と予 後と の相関の有無,2)CD4陽性細胞が 予 後 に影響を及ぼしている可能性について質問があった,次いで副査西村孝司教授から1)NK 細 胞が腫瘍の進展に与える影響について,2) HLAクラス1発現低下・欠失群に対する免疫 療 法の戦略について質問があった,また副査秋田弘俊教授 から1)HLAクラスI発現低下の 機 序,2) HLAクラスI発現低下・欠失が喫煙者,男性.扁平上皮癌に多く見られた理由に つ いて質問があった,最後に主査西村正治教授から1)本研究で使用したモ丿クロ―ナル抗 体 と以前の抗体との違い,2) 病理病期ll期におけるHLA発 現と予後との関連について質 問 があった.いずれの質問に対しても,申請者は自験データや過去の文献を引用し,概ね 適切に解答した,質疑応答の時間は約15分であった,

  こ の論 文は .新 しい 汎HLAクラスI抗体を用いて,非小 細胞肺癌におけるHLAクラス | の 発現が予後.特に病理病期1期の術後予後と相関し、腫瘍胞巣内CD8陽性細胞浸潤にも 影 響を及ぼしていることを示したものである,これらの結果は非小細胞肺癌における免疫 治療戦略を考える上で,有用な情報となることが期待できる.

  審査員一同は,これらの成果を高く評価し,大学院課程における研鑽や取得単位なども 併 せ 申請 者が 博士 (医 学) の学 位を 受け るの に充 分な資格を有するものと判定した ,

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