博 士 ( 医 学 ) 徳 田 耕 一
学 位 論 文 題 名
二トロソウレア系抗癌剤耐性脳腫瘍株におけるメチル化剤 前処理 による 殺細胞 効果と 姉妹 染色分 体交換 の誘発
学位論文内容の要旨
I研究目 的
悪性 脳腫 瘍の化 学療法 は脳血 液関 門を通 過しう るニト 口ソウ レア 系抗癌 剤が広く用いられてい る‐ が,臨 床上 ,十分 な効果 が得ら れているとは言い難い現状である。その原因のーっとして薬剤 に耐 性な腫 瘍細 胞の存 在が挙 げられ るが, コロ 二一形 成能試験を用いた研究でfま,ヒト悪性能腫 瘍 細 胞 の 約50% が1,3―bis(2一chloroethyl)― 1―nitrosourea(BCNU)に 耐 性 を 示 して おり, 悪性 脳腫瘍 患者の 化学療 法によ る治 療効果 向上の ために は, 二トロ ソウレア系抗癌剤 の耐 性機構 の解 明が重 要な課 題と考 えられ る。
最近 ,ラ ットや ヒト悪 性脳腫 瘍細 胞からニト口ソウレア系抗癌剤に対する耐性細胞が分離され,
そ の 耐 性 機 構 の 研 究 が 行 わ れて い る 。 大 腸菌 か ら ヒ ト に いた る 多 く の 生物 種 に お い て06 alkylguanineは 細 胞 内 に 存 在 す る0° ―alkylguznineーDNA―alkylrtansferase(O° ―AT) に よ っ て修 復 さ れ る 。耐 性 細 胞 で はO°‑ alkylguanineの 修 復 能 が高 く ,DNA鎖 間架橋 形成が 減 少 し てい る こ と か ら,0°‑ ATによ る0°‑ chloroethylguanineの修 復増 加がニ ト口ソ ウレア 系 抗 癌 剤 耐 性 の 主 要 な 原 因 で あ る と 考 え ら れ る 。06ATは06―alklguanineの ア ル キ ル 基を O° ―AT自 身の シ ス テ イ ン 残基 に 転 移 す るこ と に よ っ てO゜ ―alkylguanineを正 常 なguanlne へ と 修復 する。 しかし ,そ の酵素 反応に よって 酵素は 不活 性化(suicide inactivation)さ れ,
新 た な 蛋白 合 成 に よ り細 胞 内 酵 素 量の 回 復 が 得 られ る。DNAを メチル 化する 薬剤を 作用 させる とDNAにO° ―methylguanineが 生 成 さ れ 細 胞 内 の0°ATが , そ の 修 復 に よ り 消 費 さ れ る ため ,一定 時間 内の酵 素の不 活性化 を引き 起こ すこと ができ る。
今回 の 研 究 は ラッ ト お よ び ヒ ト悪 性 脳 腫 瘍 細胞 を 用 い て メチ ル 化 剤 の前 処理に よる06宀AT の 不 活 性化 に よ りchloroethylnitrosoureaに 対 す る 殺 細胞 効 果 と 姉 妹染 色分 体交換(SCE)の 誘 発 に 及ぼ す 影 響 を 検討 し , ニ ト ロソ ウ レ ア 系 抗癌 剤耐 性細胞 におけ るO°―ATの 役割 をさら に解 明する こと を目的 とした 。
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II研究 方法
ラッ ト脳腫 瘍細胞9L細胞お よび9L―2細胞と ヒト脳 腫瘍細胞SF―126,SFー295,SF−l 88を 実 験 に 用い た 。 ラ ット 脳腫瘍 細胞9Lお よび9L一2細胞に おいてmethylnitrosourea
(MNU)ま たはstreptozotocin (STZ)を前 処理さ せた後 ,1,3−bis(2−chloroethyl) ‑ 1ーnitrosourea (BCNU)を作 用させ ,ヒ卜脳 腫瘍細 胞SFー126,SF―295,SF―188細胞に お いて はMNUま たはSTZを 前 処 理し ,1亠 (2ーchloroethyl)−1ーnitrosourea (CNU) を 作 用 さ せ コ 口 二 ー 形 成 能 試 験 と 姉 妹 染 色 分 体 交 換(SCE)誘 発 試 験 を 行 っ た 。
III研 究結果
ラ ット 脳 腫 瘍 耐性 細 胞9L―2細胞 で はMNUある いfまSTZ前 処理 の 濃 度 依存 性 にBCNU に 対する 殺細胞 効果の増強が認められた。ヒト脳腫瘍耐性細胞SF―295,SFー188細胞でも MNUあ る い はSTZ前 処 理 の濃 度 依 存 性にCNUに 対 する 殺 細胞効 果の増強 が認め られた 。 MNUやSTZの濃 度増加により耐性細胞の感受性が感受性株と同等なレベルにまで回復するこ と が可能 であっ た。
SCE誘発 に関し ては, ラット およびヒ ト脳腫 瘍耐性 細胞に おいてMNUあるい はSTZ前処 理 の濃度 依存性 にSCE誘発 の増加 を認め た。
IV考察
06―ATによる06―alkylguanineの修復がニト口ソウレア系抗癌剤耐性の主要なものであれ ば,耐性細胞のOe―ATを不活性化させることにより耐性細胞は感受性細胞と同等の感受性に 変化することが期待される。
今回 ,06・AT不 活性化 を目的 にMNU,STZ等 のメチ ル化剤 を前処 理させニト口ソウレア 系 抗癌 剤(BCNU,CNU)に対 する殺 細胞効 果とSCE誘 発を検 討した 結果, ラット脳 腫瘍耐 性 細 胞9L亠2細 胞 で はMNU,STZの 濃度 依 存 性 にBCNUに対 す る 殺 細胞 効 果 が 増強 し , SCEが増 加する ことが認められた。感受性細胞9L細胞では殺細胞効果およびSCE誘発の増強 は 認め られな かった 。ヒト 脳腫瘍 耐性細 胞でも同 様にMNU,STZの濃 度依存 性にCNUに 対 する殺細胞効果の増強とSCE誘発の増加が認められた。メチル化剤の前処理により耐性細胞の 感受性は完全に感受性細胞と同等の感受性に回復することができた。ヒ卜の中等度耐性細胞SF
‑295では,SFー188より低濃度のメチル化剤で達成できたが,これはSF←295がSF―188より 不活化されるべき06―ATが少ないためと考えられた。
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MNUあ るい はSTZの 前処理 により, 二ト口 ソウレ アに対 する殺 細胞効 果およ びSCE誘発 が 増加したという実験結果は,二ト口ソウレア系薬剤で処理された耐性細胞においてはMNUあ るいはSTZの前処 理によ りoo―ATが 抑制さ れるた めDNA鎖聞 架橋が 形成され,殺細胞効果 やSCE誘発が増加するという仮説を支持するものである。この酵素は,ラットやヒト脳腫瘍細 胞におけるニト口ソウレアに対する殺細胞効果やSCE誘発に重要な役割を果たしていると考え られた。
V結 語
ラ ッ トお よ び ヒ ト脳 腫 瘍 細 胞を用 いMNU,STZ等のメチ ル化剤 により06―alkylguaー nlne―DNA ‑ alkyltransferaseを不 活性化 させ, 二ト口 ソウレ ア系抗 癌剤BCNU,CNUに 対す る 殺 細 胞効 果 お よ びSCE誘 発 に おけ る 変 化 を検 討 し た結果, 以下の 結論を 得た。
1)ラット および ヒト脳 腫瘍耐 性細胞に おいて ,MNUあ るいはSTZ前処理の濃度依存性に BCNUあるいはCNUに対する殺細胞効果の増強が認められた。
2)ラット および ヒト脳 腫瘍耐 性細胞に おいて ,MNUあ るいはSTZ前処理の濃度依存性に SCE誘発の増加を認めた。
3)メチル 化剤に よる06―alkylguanine―DNA―alkyltransferaseの不活性化によって,
二トロソウレア系抗癌剤作用後の0゜―chloroethylguanineの修復が滅少して,DNA鎖関架橋 形成が増加するため,殺細胞効果の増強およびSCE誘発の増加が引き起こされると考えられた。
以上の 実験結 果から, ニト口 ソウレ ア系抗 癌剤耐性の主要な機構として06―alkylgua‑
nine ‑ DNA−alkyltransferaseによる0゜‑ alkylguanineの修復が重要な役割を果たしている 事が示された。
学位論文審査の要旨
ニト口ソウレア系抗癌剤の耐性細胞の耐性機構における0゜―alkylguanine―DNA ‑ alkyl‑
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弘彦 男 澄 邦真 部林 川 阿小 細 授授 授 教教 教 査査 査 主副 副
transferase (00・AT)の役割を明らかにするため,ラットおよびヒト悪性脳腫瘍細胞を用い てメチル化剤の前処理によるo゜−ATの不活性化によりchloroethylnitrosoureaに対する殺細 胞効果と姉妹染色分体交換(SCE)の誘発に及ぼす影響を検討した。O゜・AT不活性化を目的に MNU,STZ等 の メ チ ル 化 剤 を 前 処 理 さ せ ニ 卜 ロソ ウ レア 系抗 癌剤 (BCNU,CNU)に 対す る 殺 細 胞 効 果 とSCE誘発 を検 討 した 結果 ,ラ ット 脳 腫瘍 耐性 細胞9Lー2細 胞で はMNU, STZの 濃 度 依 存 性 にBCNUに 対 す る 殺 細 胞 効 果 が 増強 し,SCE誘発 が増 加 する こと が認 められた。 感受性細胞9L細胞では殺細胞 効果およびSCE誘発の増強は認められなかった。ヒ ト 脳腫 瘍耐 性細 胞 でも 同様 にMNU,STZの濃 度依 存性 にCNUに対する殺細胞効果の増 強と SCE誘発の増加が認められた。メチル化剤の前処理により耐性細胞の感受性は完全に感受性細 胞と同等の感受性に回復することができた。ヒトの中等度耐性細胞SF〜295では,SF―188より 低濃度のメ チル化剤で達成できたが,これはSF―295がSFー188より不活化されるべき06一AT が少ないためと考えられた。
以上の結 果より,メチル化剤による06−alkylguanine・DNA―alkytransferaseの不活性 化によって,二卜口ソウレア系抗癌剤作用後のO゜‑ chloroethylguanineの修復が滅少して,
DNA鎖間架橋 形成が増加するため,殺細 胞効果の増強およびSCE誘発 の増加が引き起こされ ると考えら れ,ニトロソウレア系抗癌剤耐性の主要な機構としてO゜・alkylguanine・DNA・ alkyltransferaseによる06ーalkylguanineの修復が重要な役割を果たしている事が示された。
口頭発表 の審査会において,小林邦彦 教授より姉妹染色分体交換の機序とDNA鎖間架橋形 成との関連性にっいて,さらにメチル化剤前処理による脳腫瘍治療への応用の可能性にっいて質 問がなされた。また細川真澄男教授よルメチル化剤の細胞毒性にっいて,さらに耐性機構に関し DNA修復以外の機序の有無にっいての質問がなされた。これに対し申請者は概ね妥当な回答を 行った。その後,行われた小林・細川両副査教授との試問においても,概ね適切な回答がなされ た。
本研究は ニトロソウレア系抗癌剤耐性 の主要な機構として0゜;ATによるDNA修復が大き な役割を果たしていることを明らかにしたものであり,有意義な研究と考えられ,学位授与に値 する。
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