博士(農学)姜 洪洲 学位論文題名
カバノキ属樹木の生活組織の化学成分に関する研究 学位論文内容の要旨
近年 、地 球環 境問 題が クロ ーズ アッ プさ れたこ とに より 、森 林と 人の 新し い共 生 を目 指し た研 究が 重視 され るよ うに なっ た。樹 木を 伐採 せず に樹 液の 採取 や、
葉 や花 など の生 活組 織の 利用 によ り利 潤を 上げる 方策 が試 行さ れて いる 。こ れま で に、 シラ カン バ樹 液に 含有 され る化 学成 分、薬 理活 性、 溢出 機構 など にっ いて の 研究 や、 葉や 内樹 皮の フェ ノー ル性 成分 につい ての 研究 が行 われ て来 てい る。
し かし 、樹 液に 含有 され るタ ンパ ク質 の性 状や、 芽、 葉、 花序 、果 穂な どの 生活 組 織 の 化 学 成 分 の 季 節 変 動 に つ い て の 研 究 は あ ま り 行 わ れ て い な い 。 本 研 究 では 、 カ バ ノ キ 属 樹 木 の 内、 日本 の代 表樹 種で ある シラ カン バ(Betula platyphyHa Sukatchev var. japonica Hara)とヨーロッパの代表樹種であるベルコウサ カ ンバ(Betula verrucosa Her.)を 対象 にし て、1)樹 液溢 出量 や、 カチ オン 、ア ニ オン 、ア ミノ 酸お よび タン パク 質な どの 化学成 分量 の経 日変 化を 調べ 、両 者を 比 較す るこ と、 樹液 中の タン パク 質を 分析 し、タ ンパ ク質 のア ミノ 酸の シー ケン ス に 基 づ ぃて 、 他 の 植 物 タ ン パ ク 質と の類 似性 を検 討す るこ と、2)シ ラカ ンバ 生 活組 織の 芽、 葉、 雄花 序、 雌花 序十 果穂 中のカ チオ ン、 アニ オン およ びア ミノ 酸 の 含 有 濃度 の 季 節 変 化 を 調 べ る こと 、3)シラ カン バ内 樹皮 の抽 出成 分を 検索 することなどを目的とした。
得られた結果の概要は以下のとおりである。
1)樹液に含有される化学成分の分析
シラカンバとベルコウサカンバ樹液中のカチオン(K゛、Ca2十、Na+、Mg2十、Mr12゛)
およびアニオン(Br−、Clー、S042・、N03―)をキャピラリー電気泳動法(CE)により 分 析し た。 また 、水 抽出 物中 のタ ンパ ク質 の含有 濃度 を分 析し 、さ らに 塩酸加水 分解後に全アミノ酸を分析した。
樹液に含まれるカチオン、アニオン、
溢出時期の進行に伴って徐々に増加し、
した 。
全ア ミノ 酸お よび タン パク 質の 濃度は、
溢出 終期 には 初期 濃度 の約2〜3倍に増加 樹液 中の タン パク質 を精 製し 、シ ラカ ンバ およ びベ ルコ ウサ カン バ樹 液中にそ れ ぞれ 主要 な約10個の タン パク 質の バン ドを 認め た。 シラ カン バの22 kDaのタン パ ク質 と、 ベル コウサ カン バの25 kDaの タン パク 質は 、ア ミノ 酸シ ーケ ンス分析 の結果、互いに高い類似性があった(97%)。これらのタンパク質は、亜麻、コーン お よび トマ トに 存在す ると 報告 され てい るい くっ かの 抗菌 活性 タン パク 質との類 似 性も65% 〜74%とか なり 高い 値を 示し た。 報告されている抗菌性タンパク質は、
基 本的 には 膜浸 透性タ ンパ ク質 であ る。 樹液 中に 存在 する これ らに 類似 するタン
パク質の諸性質の内、抗菌性の種類、傷害誘導性の有無、耐凍性タンパク質との 関係など興味深い。
2 ) シ ラ カ ン バ 芽、 葉 、 雄 花 序 、 雌 花 序 十 果 穂な ど の 生 活組 織の 化学 成分 シラカンバの芽、葉、雄花序、雌花序十果穂中のカチオン、アニオンおよび全 アミノ酸の含量を、 1 )と同様に分析した。シラカンバの雄花序及び芽中のカチ オン、アニオンの濃度は、ともに成長に伴って徐々に増加し、冬眠期に最大にな り、以後減少した。葉、果穂中のカチオンおよびアニオンの濃度は、成長にとも なって徐々に減少した。雄花序及び芽中のアミノ酸はともに、形成期に濃度が高 いが、成長に伴って徐々に減少して休眠期に最少値を示し、開花、開葉に向けて 増加した。葉および雌花序十果穂中のアミノ酸は、成長に伴って徐々に減少した。
芽、雄花序における総アミノ酸濃度の休眠期における減少、逆に総無機質濃度 の 休 眠 期 に お け る 増 加 の 現 象 は 、 耐 凍 性 機 序 と の 関 係 で 興 味 深 い 。 ・
3)シラ カンバ内樹皮の抽出成分
シ ラ カ ン バ 内 樹 皮 の95% エ タ ノ ー ル 抽 出 物 を シ リ カ ゲ ル カ ラ ム に よ り 分 画 し て 、 6種の 化合 物( (十 )‑catechin (1)、platyphyllenone (2)、4 ‑hydroxy‑3 ‑methoxy‑
phenol‑B‑D‑(6‐0‑4.i‑hydroxy‑3¨,5,,‑dimethoxybenzoyl) ‑glucopyranoside (3)、
platyphylloside(4)、3,4,5‑trimethoxyphenyl‑ロ‑D‑glucopyranoside(5)お よ び betuloside(6)) を 単 離 し た 。 そ の う ち 化 合 物(3)は 新 規 化 合 物 で あ っ た 。0ハ イ ド ロ キ ノ ン 類 は 、 ブ ナ(Fagus crenata)、 ア ブ ラ チ ャ ン ( 」Parabenzo面p閉 凹d、 コ ケ モ モ ( レ ゑ 飽 加 ぬmm活 ‐ .Zぬ餾 )な どの 植物 から 単離 され 、カ バノ キ 科の カバ ノ キ属(助¢出)、ハンノキ属(4血Hみ、ハシバミ属(&めイuみ 、クマシデ属(匸をゅ面uみ か ら 単 離 さ れ て い る 。 ジ ア リ ル ヘ プ タ ノ イ ド お よ び そ の 配 糖 体 は カ バ ノ キ 科 樹 木 か ら 数 多 く 単 離 さ れ て い る が 、 カ バ ノ キ 科 以 外 で は 、 シ ョ ウ ガ 科 ( 圧 ロ 餌 . 6鰯 伽 み 、 マ メ 科 ( 己 昭 伽 面 弸 み 、 ヤ マ モ モ 科 ( 皿 彦 を 白 伽 み 、 カ エ デ 科 (4飽 瑠 ・ 伽 み の 数 種 で 知 ら れ て い る 。 本 研 究 に お い て 明 ら か に な っ た 成 分 ジ ァ リ ル ヘ プ タ ノ イ ド 誘 導 体 、 ダ ヒ ド ロ キ シ フ ェ ニ ル 誘 導 体 、0ハ イ ド ロ キ ノ ン 誘 導 体 な ど 各 種 の フ ェ ノ ー ル 性 成 分 は 、 い づ れ も 抗 酸 化 能 に 優 れ て お り 、 シ ラ カ ン バ 内 樹 皮 の 医 薬 利用に際しての基礎知見として役立 っものである。
MeO
HO
OOMe
OH
4' ‑hydroxy‑3' ‑methoxyphenol‑ B ‑D‑ (6‑0‑4"‑hydroxy‑3", 5'‑dimethoxybenzoyl) ‑ glucopyranoside (3)
学位論 文審査の要旨 主査
副査 副査 副査 副査
教 授 寺 教 授 佐 教 授 藤 助教授 小 講 師 玉
沢 実 野 嘉 拓 川 清 三 島 康 夫 井 裕
学 位 論 文 題 名
カバ ノキ属樹 木の生 活組織の化学成分に関する研究
本論 文は、図47 、表5 、引用論文96 編を含む、5 章からなる106 頁の和文論文であ る。 別に参考論 文5 編が 添えられて いる。
本研究は、カバノキ属樹木を対象にして、その生活組織中の化学成分にっいての 検討を目的としている。具体的には、1 )シラカンバとベルコウサカンバ樹液の溢 出量や、樹液中のカチオン、アニオン、アミノ酸およびタンパク質などの化学成分 の経目変化、およびタンパク質のアミノ酸シークエンス分析による他の植物タンパ ク質との類似性の検討、2 )シラカンバの芽、葉、雄花序、雌花序十果穂などの生 活組織 中のカチオ ン、アニオン、アミノ酸含有量の季節変化の検討、および3 ) シラカンバの内樹皮の抽出成分の検索である。
得られた結果の概要は以下の通りである。
1)樹液 に含 有 され る化 学成 分の 分析
シ ラ カ ン バ と ベ ル コ ウ サ カ ン バ 樹液 中の カチ オ ン(K+、Ca2十 、Na+、Mg2十 、Mr12+)、 アニ オン(Br− 、Cl一、S042・、N03ー )は 、溢 出時 期の 進行 に伴 って 徐々に増加し、終期 に は 初 期 の 濃 度 の 約2へ3倍 に 増 加 し た 。 全 ア ミ ノ 酸 お よ び タ ン パ ク 質 の 濃 度 も ま た 同様 の傾 向を 示 した 。
シ ラ カ ン バ お よ び ベ ル コ ウ サ カ ン バ 樹 液 中 に 認 め ら れ る10個 の 主 要 な タ ン パ ク 質 の 内 、 シ ラ カ ン バ の22 kDaの タ ン パ ク 質 と 、 ベ ル コ ウ サ カ ン バ の25 kDaの タ ン パ ク 質 は 、 互 い に 高 い 類 似 性 が あ っ た(97Yo)。 こ れ ら の タ ン パ ク 質 は 、 亜 麻 、 コ ー ン お よ び ト マ ト に 存 在 す る と 報 告 さ れ て い る 抗 菌 活 性 タ ン パ ク 質 と も 比 較 的 高 い 類 似 性 が あ る こ と が 分 か っ た(65% 〜74% ) 。 こ れ ら の 抗 菌 性 タ ン パ ク 質 は 、 基 本 的 に は 膜 浸
透 性タ ンパ ク質 であ るが 、樹 液中 の類似 タン パク 質の 諸性 質、抗菌性の種類、傷害 誘 導 性 の 有 無 、 あ る い は 耐 凍 性 タ ン パ ク 質 と 関 係 な ど 興 味 深 い 。
2) シ ラ カ ン バ の 芽 、 葉 、 雄 花 序 、 雌 花 序 十 果 穂 な ど の 生 活 組 織 の 化 学 成 分 シラカ ンバ の雄 花序 及び 芽中 のカ チオ シ、 アニ オン はと もに形成期に濃度が低い が 、成長 に伴 って 徐々 に増 加し て休 眠期 に最 大値 を示 した 後、開花、開葉まで徐々 に 減少し た。 葉及 び雌 花序 十果 穂中 のカ チオ ン、 アニ オン の濃度は、成長にともな っ て徐々 に減 少し た。 雄花 序及 び芽 中の アミ ノ酸 はと もに 形成期に濃度が高いが、
成 長に伴 って 徐々 に減 少し て休 眠期 に最 低値 を示 した 後、 開花、開葉に向けて増加 し た 。 葉 及 び 雌 花 序 十 果 穂 中 の ア ミ ノ 酸 は 、 成 長 に 伴 っ て 徐 々 に 減 少 し た 。 芽や雄 花序 にお ける 総ア ミノ 酸濃 度の 休眠 期に おけ る減 少、逆に無機質濃度の休 眠 期 に お け る 増 加 の 現 象 は 、 耐 凍 性 機 序 と の 関 係 で 興 味 深 い 。
3)シラカンバ内樹皮のフェノール性成分
シ ラ カン バ内 樹皮 の95%エ タノ ール 抽出 物を 分画し て、6種 の化 合物 (( 十)―
catechin (1)、platyphyllenone (2)、4 ‑hydroxy‑3 ‑methoxyphenolーB‑D‑ (6‑匸ナ4‐ hydroxy‑3,5‑dimethoxybenzoyl)‑glucopyranoside (3)、platyphylloside (4)、3,4,5‐ trimethoxyphenyl‑ロ‑D‑glucopyranoside (5)およびbetuloside (6))を単離した。
そのうち化合物(3)は新規化合物であった。
以上 のよ うに 、本 研究 によ り、 シラ カン バや ベル コウサ カンバ樹液中の無機質や タ ンパ ク質 の量 的変 動お よび 抗菌 性タ ンパ ク質 に類 似した タンパク質の存在、シラ カ ンバの芽、雄花序、葉、雌花序十果穂中の無機質およびアミノ酸含量の季節変動、
お よ び シ ラ カン バ内樹 皮か らの 新規 化合 物を 含む6種の フェ ノー ル成 分の 単離 ・構 造 決定 など 、カ バノ キ属 樹木 生活 組織 の化 学成 分に 関する 新情報がもたらされた。
こ れらの知見は今後の生活組織の利用に際して、基礎的知見を提供するものであり、
学 術的 に評 価さ れる 。
よ っ て 審 査 員 一 同 は 、姜 洪洲 が、 博士 (農 学) の学 位を有 する 資格 があ るこ と を 認 め た 。
Me0
HO
OOMe
OH
4' ‑hydroxy‑3' ‑methoxyphenol‑ B ‑D‑ (6‑0‑4"‑hydroxy‑3", 5″−dimethoxybenzoyl) ‑ glucopyranoside (3)
‑ 57 ‑