博 士 ( 医 学 ) 平 野 貞 一
学 位 論 文 題 名
ヒ 卜 錐 体 ト ラ ン ス デ ュ ー シ ン d サ ブ ュ ニ ッ ト 遺 伝 子 の 細 胞 特 異 的 転 写 機 構 の 解 析
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
(目 的)
錐 体 細 胞 の ト ラン ス デ ュ ー シンaサ ブ ュ ニッ ト(Tc a)はp,7サ ブ ュ ニ ット と と も に 三量 体 GTP結 合 夕 ン パ ク 質(G夕 ン パ ク ) を 構 成 し , 色 覚 を 含ん だ 昼 間 視 の刺 激 伝 達 に 関与 す る 。 一 方 ,Tcn遺 伝 子 に 関 して は ヒ 卜 お よび マ ウ ス のcDNAの 構 造と 予 測 さ れ るタ ン パ ク 質の 構 造 が 報 告 さ れ て い る が , ゲ ノ ム 構 造 等 は 明 ら かに さ れ て い ない 。 私 は ヒ トTcdのcDNAと ゲ ノ ム 遺伝 子 の 構 造 とを 検 索 し て ,他 のG夕 ンパ クのdサブ ュニッ 卜同様 に8っのエ クソン から構 成さ れてい ること を明ら かに した。 しかし ,プロ モー ター構 造をは じめ転写調節機構は不明であ る 。 なぜ ,Tcロ が網 膜細 胞で発 現し, 他の 細胞で は発現 しない のか という 疑問に 答える ために はTcdの 転 写 調節 機 構 の 解 明 が必 要 と 考 え られ る 。 従 っ て, ヒ トTcaゲ ノム遺 伝子 にっい てプ ラ イ マ一 伸 長 法 を 行っ て 転 写 開 始点 を 同 定 すると ともに ,Tcaを発 現して いる網 膜芽細 胞腫株 Y79と 発 現 し て い な いHeLaと に っ い て ク ロ ラ ム フェ ニ コ ー ル ア セチ ル ト ラ ン スフ ウ ラ ー ゼ (CAT)ア ッ セ イ , デ オ キ シ リ ボ ヌ ク レ ア ー ゼI(DNaseI) 高 感 受 性 テス ト お よ び ゲ ノム シ ー クエ ンス法 を行っ て本遺 伝子 の発現 調節機 構を解 析し た。
(試 料 と 方 法 )
1)5 領 域 の 塩 基 配 列 の 決 定 : 既 報 のHTC−34.4フ ァ ージ よ り ,Tcば の 第1エ クソ ン を 含 む 5 領 域 をpUC18プ ラ ス ミ ド に サ ブ ク ロ ー ニ ン グ し‑551のSacI切 断 部 位 か ら下 流 の 配 列 を Sanger法 で 決 定 し た。
2) プ ラ イ マ ー伸 長 法 :5 領 域 の 相 補 オ リゴ マ ー を5 標 識 し ,Calzoneら の方法 に準 じた。
3) DNaseI高 感 受 性 テ ス ト :Tcdゲ ノ ム 中 の3力 所 を プ 口 ー ブ に し て ,Wuら の 方 法 を 用 い た。
4) 卜 ラ ン ス フ ェ ク シ ョ ン :Tcdの プ ロ モ ー タ ー 領 域 を 含 む4っ のCATコン ス ト ラ ク トを 構
築 し ,Y79,HeLaとも にGrahamとvan der Erbらのりン酸 カルシウム法で行った。用い た CATコ ン ス 卜 ラ ク トS,H,Lお よ びPCR− CATは オ ク タ マ 一 配 列 お よ び2っ の GGGGCC配列の転写促進活性を 判定しうるように構築され,最長―552まで含んでいた。各15 肛gの レ ポ 一 夕 ー と 標 準 化 の た め のpRSV―LacZ5〃gを コ ト ラ ン ス フ ェ ク ト し た 。 5)CATア ッセ イ:Gorm anら の方法に準じ薄層ク口マ卜グ ラフィーを行い,AMBISによ り 定 量化した。なお,標準化のためのロガラクトシダーゼ活性の測定はEdlundらの方法によっ た 。
6)ゲノムシークエンス法: Churchらの方法に従いゲノムDNAをPstIで切断後,化学切 断 し ,Tcaの 翻 訳領 域内 のアン チセンスオリゴマーを3つ作 成し,MuellerとWoldらのliga‑
tion mediated PCRを 行 い 変 性 ポ リ ア ク リ ル マ イ ド ゲ ル 泳 動 で 解 析 し た 。
( 結 果)
1)Tcばの5 領域の解析:プラ イマー伸長法により連続し た2っの転写開始点T,Cを認め Tを 十1と し た 。Tの 上 流36塩 基 ( ‑36)にTATAAA,63にATTGG,‑ 217にATGCAAAT,
―452,十187の2力所にGGGGCC配列を認めた。
2)CATアッセイ:Y79,HeLaの ほとんどすべてのコンストラ クトに活性が認められ,両細 胞 株間に活性の差は認められな かった。
3)DNaseI高 感受 性テ スト :Y79で は第1工 クソン の近辺,第4イントロンおよ び第8工ク ソ ンの下流に合計4力所のDNaseI高感受性部位が認められた が,HeLaではその活性部位は 認 められなかった。
4) ゲノムシークエンシング: 翻訳開始点より8bp上流のCはHeLaではメチル化されていた が ,Y79ではメチル化されてい なかった。
(考 察)
5 領 域 の シ ー ク エ ン シ ン グ よ り 見 出 さ れ たATTGG配 列(CCAATの 相 補 配 列 ) , TATAAA配列 は,プライマ一伸長法で决 められた転写開始点の上流にあり,それらの位置関 係 はPennotiやBucherのRNAポリ メ ラー ゼHのプロモ 一夕一の統計解析に矛盾せ ず,典型 的 なRNAポ リ メ ラ ー ゼ IIの プ 口 モ 一 夕 ー 構 造 を と る も の と 考 え ら れ た 。 さら に,5 領域 には 上 記配 列に 加え オ クタマ一 配列が1つ,GGGGCC配列が2つ認めら れた。GGGGCC配列は視覚伝達に関与す るラットロドプシンの転写工レメントと推定されて
いるGGCCCC配列の相補配 列で,既報の錐体,杵体トラ ンスデューシンの5 非翻訳 領域等 にも認められるために注目される知見と考えられた。
これらの配列を含め5 領域の細胞特異的転写工レメントを検索する目的でTcdを発現する Y79と 発 現し ないHeLaと に対 してCATアッ セイを行 った。その結果,CATコンス 卜ラクト 間には両細胞株で同様の活性の変化が認められ,しかもほぼすべてのコンストラクトに活性が認 め ら れ た た め , 検 索 範 囲 内 で は 特 異 的 転 写 調 節 の 部 位 は 無 い も の と 判 断 さ れ た 。 そこでY79とHeLaの活性 クロマチン構造の差異を調 べる目的にDNaseI高感受性テ ストを 行った。その結果,Y79で は5 領域近傍を含めた計4力所に高感受性部位を認めたが,HeLa では認められなかった。
DNaseI高感受性(活性クロマチン構造)と脱メチレーションとの間には密接な関連が認め られることが知られてい る。CATアッセイで用いたコ ンス卜ラクトはCpGメチレーションを 受けていないため,特定の遺伝子の細胞特異的発現がCpGメチレーションにより制御されてい る場合はCATアッセイでは細胞間の発現の差を明らかにできないと考えられた。そこで,ゲノ ムシークエンス法により5 領域のCpGメチレーション の有無を検索した。その結果,HeLa のみがメチレーションを受け,Y79は受けていないことが判明し,メチレーションによる差異が 転写調節に寄与していると考えられた。
(結 語)
1. ヒトTca遺伝子のプ口モ―夕ー構造をシークエンシングおよびプライマー伸長法を用いて 明らかにした。
2. CATア ッセ イ ,DNaseI高感受性テス卜お よびゲノムシークエンス法を 用いてヒトTca 遺伝子の細胞特異的転写機構を解析した。その結果,メチレーションによる差異が転写調節に寄 与していることが示唆された。
学位論文審査の要旨
1研究目的
錐体 細胞の トラン スデューシンdサブュニッ卜(Tca)はロ,アサブュニットとともに三量 体GTP結合タンパク質(G夕ンパク)を構成し,色覚を含んだ昼間視の刺激伝達に関与する。
著者fま ヒ トTcdのcDNAとゲ ノ ム遺伝 子の構造 を検索 して, 他のG夕 ンパク のaサブ ュ ニッ卜同様に8っのエクソンから構成されていることを明らかにしたが,研究を進め,プ口モー 夕一構造をはじめ転写調節機構を解析した。すなわち,ヒトTcaゲノム遺伝子の5 領域のシー クエンシングおよびプライマー伸長法によルプ口モ一夕一構造を明らかにし,Tcaを発現して いる網膜芽細胞腫株Y79とその発現をしていないHeLaとにっいてクロラムフェニコールアセ チ ル 卜ラ ンスフェ ラーゼ(CAT)アッ セイ, デオキ シリボヌ クレア ーゼI(DNaseI)高感 受 性 テ スト お よ び ゲノ ム シ ー クエ ンス法 を行っ て本遺 伝子の 発現調 節機構 を解析し た。
2試料と方法
1)5 領域 の塩基 配列の 決定: 既報のHTCー34.4ファ ージよ り,Tcaの第1エクソンを含む 5 領域 をpUC18プラ スミド にサブ ク口一 ニングし―551のSacI切断部位から下流の配列を Sanger法で決定した。
2)プライマ一伸長法:5 領域の相補オリゴマーを5 標識し,Calzoneらの方法に準じた。
3) DNaseI高 感 受性 テ ス 卜 :Tcnゲ ノ 厶 中 の3力所 を プ ローブ にして,Wuらの 方法を用 いた。
4)ト ランス フェク ション :Tcdのプ ロモー ター領 域を含 む4っのCATコンス 卜ラク 卜を構 築し,Y79,HeLaとも にGrahamとvan der Erbらの りン酸 カルシ ウム法で行った。用いた CATコ ン ス ト ラ ク トS,H,Lお よ びPCR―CATは オ ク タ マ ー 配 列 お よ び2っ のGGGGC C配列の転写促進活性を判定しうるように構築され,最長‑ 552まで含んでいた。各15〃gのレ ポ 一 夕 ー と 標 準 化 の た め のpRSV― LacZ5〃gを コ ト ラ ン ス フ ェ ク 卜 し た 。 5)CATアッセ イ:Gormanらの方 法に準 じ薄層ク 口マト グラフ ィーを 行い,AMBISにより
保 雄
明
輝
光
崎 橋
沼
宮
石 柿
授 授
授
教 教
教
査 査
査
主 副
副
定 量化した。なお,標準化のための目ガラクトシダーゼ活性の測定はEdlundらの方法によっ た 。
6)ゲ ノム シー クエ ン ス法 :Churchらの 方 法に 従いゲノムDNAをPstIで 切断後,化学切断 し ,Tcaの 翻 訳領 域内 のア ンチ セ ンス オリ ゴマ ーを3つ作成し,MuellerとWoldらのlig‑
ation medicated PCRを 行 い 変 性 ポ ル ア ク リ ル マ イ ド ゲ ル 泳 動 で 解 析 し た 。
3結 果
1)Tcaの5 領 域 の解 析:プライマ一 伸長法により連続した2っの 転写開始点T,Cを認め Tを 十1と し た 。Tの 上 流36塩 基 (‑ 36)にTATAAA(TATA配 列 ) , ―63にATTGG (CCAAT配 列の 相補 配列 ) ,―217にATGCAAAT( オク タ マ― 配列 ), ―452,十187の2力 所 にGGGGCC( 視覚 伝達 に関与するラッ ト口ドプシンの転写工レメ ントと推定されている GGCCCC配列の相補配列)を認め た。
2)CATアッセイ:Y79,HeLaのほ とんどすべてのコンストラ ク卜に活性が認められ,両細 胞株 間に活性の差は認められな かった。
3)DNaseI高感 受 性テ スト :Y79で は第1工 クソ ンの近辺,第4イン ト口ンおよび第8工ク ソン の下流に合計4力所のDNaseI高感受性部位が認められた が,HeLaではその活性部位は 認め られなかった。
4)ゲ ノム シー クエ ンシ ング:翻訳開始 点より8bp上流のCはHeLaで はメチル化されていた が,Y79ではメチル化されていな かった。
4考察および結語
1)5 領 域 のシ ーク エン シ ング より 見出 され たATTGG配 列(CCAATの 相補配 列) およ びTATAAA配 列は ,プ ライ マ 一伸 長法 で決 めら れ た転 写開 始点 の上 流 にあり ,典型的な RNAポリメラーゼuのプ口モータ一構造をとった。
2)検索した5 領域には細胞特異的工レメントは無かったが, DNaseI高感受性テストを行つ た結果,同領域は特 異的に活性クロマチン構造をとることが判明した。DNaseI高感受性(活 性クロマチン構造)と脱メチレーションとの間には密接ナょ関連が報告されている。一方,CAT コンス卜ラク卜でメチレ―ション状態が反映されていなかったためゲノムシークエンス法により 5 領域のCpGメチレ ―ションの有無を検索した。 その結果,HeLaのみがメチレーションを 受け,Y79は受けていないことが判明し,メチレーションによる差異が転写調節に寄与している
と考えられた。
以上,ヒトトランスデューシンdサブュニットのプ口モ一夕ー構造および細胞特異的転写調節 を 解 析 し た 本 研 究 は 博 士 ( 医 学 ) の 学 位 論 文 と し て 妥 当 な も の と 判 断 さ れ る 。