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博士(医学)柴野岳樹 学位論文題名

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Academic year: 2021

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(1)

     博士(医学)柴野岳樹 学位論文題名

神経系細胞におけるアポトーシスにおよぼす低体温の影響 学位論文内容の要旨

  

背景と目的:

    

近年,脳血管障害や頭部外傷に対する軽度脳低体温療法の脳保護効果が報告されてき ている.頭部外傷患者に対する軽度脳低体温療法の効果を検証した研究においても,頭蓋 ビ内圧を制御し,死亡率と重症度を改善したと報告されている.しかし,その脳保護効果の 機 序 に つ い て 代 謝 の 抑 制 だ け で は 説 明 で き ず , 依 然 確 定 を 見 な い .

  

これまで脳虚血による神経細胞死はネク口ーシスと考えられていた.一方,一過性脳虚 血後

2

3

日 に見られる 遅発性神経 細胞死や, 局所脳虚血におけるpenumbra領域で,ア ポトーシスが関与していることが1990年代前半から次第に明らかにされてきた.すなわ ち,虚血によって神経細胞はネクローシスあるいはアポトーシスのいずれかの形態をとり 死に至ると推測される.ネク口ーシスは主に細胞内エネルギー欠乏により起こるため,代 謝の抑制がネクローシス抑制につながる.しかし,アポトーシスは細胞内カルシウム濃度 の増加,遺伝子の発現,ある種の蛋白分解酵素(カスベース)の活性化など,細胞内カス ケードの活性化によって起こる.すなわち,代謝抑制ではなく,これらカスケード抑制が アポトーシス抑制にっながる可能性がある,

  

そこで,軽度低体温の脳保護効果の機序として,上記カスケードを抑制する結果として アポトーシスを抑制するためという仮説をたてた.本研究では,神経系モデルとしてラッ

  

卜副腎髄質褐色細胞腫由来のPC12細胞株を選択し,血清を除去することによルアポトー シスを誘導し,軽度および中等度低体温の影響を検討した.また,抑制効果があった場合 には,

PC12

細胞のポトーシスの作用機序に深く関与している活性酸素の産生と,カスペ ー ス3お よび カ スペ ー ス2の活 性におよぽ す低体温の 影響につい ても検討を 加えた.

  

方法:

    

実験

1

:アポトーシスの誘導は,PC12細胞のアポトーシス誘導法として最も代表的 な方法のーつである培養液からの血清除去により行った.また,

PC12

細胞は培養液から 血清を除去すると選択的にアポトーシスを引き起こすことが知られている.37℃,5%C○2

/ 95

%空気下に

2

日間通常培養した後に血清除去によルアポトーシスを誘導し,37℃,

35

℃ ,

33

℃,

31

℃ , また は

29

℃ 下 で培 養 した . 血清 除 去

4

日 後に 細 胞障 害 度(LDH

activity)

とアポトーシス誘導率(flow cytometry)を測定した.また,対照群は,2日 聞 通常培養し た後に,血 清を含んだ

DMEM

で 培養し,それぞれの温度で培養の4日後に アポトーシス群と同様に測定した.

    

実験

2

:細胞内の

R

〇Sレベルを検出するため,

R

S

と反応して螢光を発する色素の

(2)

6−carboxyー2 ,7 ーdichlorofluorescein,diacetate(aceto―xymetyl ester)(C―DCDHF‑

DA)を 用 い た . PC12細 胞 を 2日 問37℃ で 通 常 培 養 し た 後 ,C−DCDHFーDA (10ルM)で30 分 間 染 色 し て , ア ポ ト ー シ ス 群 と 対 照 群 を そ れ ぞ れ の 温 度(37℃ ,35℃ ,33℃ ,31℃ , 29℃ ) で 培 養 し , ア ポ ト ー シ ス 誘 導 の3,6時 間 後 のR〇Sレ ベ ル を フ 口 ー サ イ ト メ ト り で 解析 した ・

    実 験3: ア ポ ト ー シ ス を 誘 導 後 に ,37℃ ,33℃ ,29℃ の そ れ ぞ れ の 温 度 で 培 養 の15時 間 後 に , カ ス ペ ー ス3ま た は カ ス ペ ー ス2のAssay Kitを 用 い て 分 光 光 度 計 に よ り そ れ ぞ れの 活性 を測 定し た.

  結 果 :

    実 験1: 細 胞 障 害 度 と ア ポ ト ー シ ス 誘 導 率 は , ア ポ ト ー シ ス 群 で は37℃ と 比 較 し て 35℃ 以 下 で 有 意 に 細 胞 障 害 度 と ア ポ ト ー シ ス 誘 導 率 が 抑 制 さ れ た . 対 照 群 で は37℃ と 比 較 し て29℃ で 有 意 に 細 胞 障 害 度 と ア ポ ト ー シ ス 誘 導 率 が 増 加 し た , そ の 他 の 温 度 で は37℃ と 比 較 し て 有 意 差 が な か っ た .

    実 験2:R〇S産 生 は , ア ポ ト ー シ ス 群 に お い て ア ポ ト ー シ ス 誘 導 の6時 間 後 に37℃ に 比 較 し て33℃ で は 有 意 に 抑 制 さ れ た が , そ の 抑 制 の 程 度 は 約15% に と ど ま っ た ・     実 験3:ア ポ ト ー シ ス 群 に お い て ア ポ ト ー シ ス 誘 導 の15時 間 後 の カ ス ペ ー ス3と カ ス ペ ー ス2の 活 性 を 測 定 し た が ,37℃ ,33℃ ,29℃ の3群 間 で 統 計 学 的 有 意 差 を 認 め な か っ た ,

結語:

1. 体 温 の 脳 保 護 効 果 の 機 序 に つ い て , ア ポ ト ー シ ス 抑 制 と い う 仮 説 を た て た . 2. ラ ッ ト 副 腎 髄 質 褐 色 細 胞 腫 由 来 のPC12細 胞 の 培 養 液 か ら の 血 清 除 去 に よ ル ア ポ ト ー シ ス 単 独 モ デ ル を 作 成 し , 29− 37℃ ま で の 影 響 を 検 討 し た . 3. 29ー35℃ は37℃ と 比 較 し て , 細 胞 障 害 度 と ア ポ ト ー シ ス 誘 導 率 を 有 意 に 抑 制 し た . す な わ ち , 軽 度 低 体 温 の 脳 保 護 効 果 に は ア ポ ト ー シ ス 抑 制 の 関 与 が 示 唆 さ れ た . 4. ア ポ ト ー シ ス 抑 制 の 機 序 に つ い て , 活 性 酸 素 産 生 抑 制 と カ ス ペ ー ス 活 性 抑 制 の2 点 に 注 目 し て 検 討 し た が , 有 意 な 結 果 は 得 ら れ な か っ た .

5. .29℃ で は , ア ポ ト ー シ ス を 誘 導 し な か っ た 対 照 群 の 細 胞 障 害 度 と ア ポ ト ー シ ス 誘 導   率 を 増 加 さ せ た . し た が っ て ,33℃ 前 後 の 軽 度 低 体 温 が 神 経 細 胞 保 護 と し て 最 も 有 効   な 温 度 帯 で あ る と 考 え ら れ た .

(3)

学位論文審査の要旨 主査

副査 副査

教授 教授 教授

劔物 本間 田代

学 位 論 文 題 名

    修 研一 邦雄

神経系細胞におけるアポトーシスにおよぼす低体温の影響

  1950年 代 か ら 動 物 実 験 を 用 い た 低 体 温 に よ る 脳 保 護 効 果 の 研 究 が 行 わ れ て い た が , そ れ は 主 に 体 温 が30℃ 以 下 の い わ ゆ るconventional hypothermiaで の 脳 保 護 効 果 に つ い て で あ っ た が , 体 温 が30℃ 以 下 の 非 生 理 的 な 低 体 温 自 体 が 生 体 に と っ て 過 大 な 侵 襲 で あ り 臨 床 応 用 さ れ る ま で に は 至 ら な か っ た . し か し ,1987年 に 前 脳 虚 血 モ デ ル で 虚 血 中 の 脳 温 を 36℃ か ら34℃ に 下 げ る だ け で 海 馬CA1錐 体 細 胞 や 線 条 体 背 外 側 細 胞 の 虚 血 性 障 害 が 劇 的 に 減 少 す る こ と が 報 告 さ れ , 現 在 の 臨 床 に お け る 軽 度 脳 低 体 温 療 法 に ま で 発 展 す る 契 機 と な っ た . 一 方 , 以 前 か ら , 低 体 温 に よ る 脳 保 護 効 果 の 機 序 を 代 謝 の 抑 制 だ け で は 説 明 で き な い と い う 事 実 が あ り , ま た , 最 近 で は 脳 虚 血 に よ る 神 経 細 胞 死 に は ネ ク 口 ー シ ス の み な ら ず ァ ポ ト ー シ ス も 関 与 し て い る と い う 報 告 が み ら れ る . し た が っ て , 本 論 文 は , 近 年 注 目 さ れ て い る 軽 度 脳 低 体 温 療 法 の 脳 保 護 効 果 の 機 序 と し て ア ポ ト ー シ ス の 抑 制 と い う 仮 説 を 立 て , 神 経 系 細 胞 の 実 験 モ デ ル と し て ラ ッ ト 副 腎 髄 質 褐 色 細 胞 腫 由 来 のPC12細 胞 株 を 用 い て そ の 低 体 温 の 影 響 を 検 討 し た も の で あ る .

  実 験 で は ,PC12細 胞 の 培 養 液 か ら の 血 清 除 去 に よ ル ア ポ 卜 ー シ ス 単 独 モ デ ル を 作 成 し , 37,35,33,31,29℃ の影 響を 検討 した .そ の結 果, ア ポト ーシ ス誘 導群 にお いて ,35,33, 31,29℃ は37℃ と 比 較 し て 細 胞 障 害 度 と ア ポ ト ー シ ス 誘 導 率 を 抑 制 し , 軽 度 低 体 温 の 脳 保 護 効 果 に は ア ポ 卜 ー シ ス 抑 制 の 関 与 が 示 唆 さ れ た . ま た , こ の ア ポ ト ー シ ス 抑 制 の 機 序 に つ い て 活 性 酸 素 産 生 と カ ス ベ ー ス 活 性 に 対 す る 低 体 温 の 影 響 の 検 討 を 加 え た が , 有 意 な 結 果 は 得 ら れ な か っ た . 一 方 , ア ポ ト ー シ ス を 誘 導 し な い 対 照 群 で は ,29℃ に お い て 細 胞 障 害 度 と ア ポ ト ー シ ス 誘 導 率 を 増 加 さ せ た . 以 上 よ り ,33℃ 前 後 の 軽 度 低 体 温 が 神 経 細 胞 保 護 と し て 最 も 安 全 か つ 有 効 な 温 度 帯 で あ る と 考 え ら れ , 臨 床 の 軽 度 低 体 温 療 法 の 治 療 温 度 が33―34℃ で あ る こ と を 支 持 す る 結 果 と な っ た .

  公 開 発 表 の 質 疑 応 答 で は , 副 査 の 本 間 研 一 教 授 か ら , 主 に 基 礎 の 視 点 で1) PC12細 胞 の 血 清 除 去 に よ る ア ポ ト ー シ ス の ヌ カ こ ズ ム が ど こ ま で 解 明 さ れ , 低 体 温 が ど の 過 程 に 作 用

(4)

して いる のか ,2) 神経 系細 胞で ある

PC12

細胞 の活 動電 位を 研究 した文 献や,その活動電 位に 対す る低 体温 の影 響を 研究 した 報告が あるかどうか,3) PC12細胞を無酸素状態で培 養し た場 合, アポトーシスが生じるかどうかの3点について質問があった.次いで,副査の 田代 邦雄 教授 からは,主として臨床の立場から1)脳低体温療法に関連し,全身の体温と頭 蓋内の脳温度あるいは脳細胞温度が同じ温度かどうかの報告があるのか,2) 29℃という低 体温 が正 常部 位に 対し て障 害を 引き 起こす 可能性を指摘しているが,その機序をどう考察 する のか ,3) 頭部外傷や脳虚血においてアポトーシスあるいはネク口ーシスが起きて細胞 死に 至る 場合 、頭 部外 傷と 脳虚 血で はアポ トーシスやネク口ーシスの生じ方に違いはある の か の

3

点 に つ い て 質 問 が あ っ た . 最 後 に ,主 査の 劔物修 教授 から ,こ の研 究に おい て

33

℃ 前後 の軽 度低 体温 が神 経細 胞保 護とし て最も有効かつ安全な温度帯であることを支持 する 結果 を得 てい るが ,最 新の 臨床 におけ る軽度脳低体温療法に用いられる効果的な治療 温度 につ いて どう 考え られ てい るか につい て質問があった.いずれの質問に対しても,申 請者 は基 礎的 研究 論文 や申 請者 の研 究グル ープの研究成果,最近の臨床報告などを引用し て説明し,また,解明されていなしゝ論点については申請者の考察を述べて解答した.さら に, 副査 の本 聞研 一教 授は ,軽 度脳 低体温 療法による脳保護のヌカニズムを解明するとい う大 変意 欲的 な研 究で ある との 評価 をした .副査の田代邦雄教授は,軽度脳低体温療法の 効果が注目されている現在,in vitroの研究ではあるが神経系の培養細胞を用いてその機序 について検討したことの重要性を評価した.

  

こ の 研 究 内容 は1998年 のSCCM(Society of Critical Care Medicine),ASA (American

Society ofp

1eStheSi010giStS

) お よ び

2000

年の

ESA

EuropeanSOCietyofAnaeSthe

siolosists

)における発表において高く評価された.その後,さらに研究を進め,その成果は

2001

年7月に北 海道 医学 雑誌 に掲 載さ れる 予定 であ る. 本研 究は 今後の 侵襲制御医学にお け る 軽 度 脳 低 体 温 療 法 の 機 序 の 解 明 に 寄 与 す る こ と が 期 待 さ れ る .

  

審査員一同は,これらの成果を高く評価し,大学院課程における研鑽や取得単位なども併 せ 申 請 者 が 博 士 ( 医 学 ) の 学 位 を 受 け る の に 充 分 な 資 格 を 有 す る も の と 判 定 し た.

参照

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