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免責条項 本報告書で提供している情報は ご利用される方のご判断 責任においてご使用下 さい ジェトロでは できるだけ正確な情報の提供を心掛けておりますが 本報告書 で提供した内容に関連して ご利用される方が不利益等を被る事態が生じたとして も ジェトロは一切の責任を負いかねますので ご了承下さい

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2015 年度

最近の北朝鮮経済に関する調査

2016 年 3 月

日本貿易振興機構(ジェトロ)

委託先:東アジア貿易研究会

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【免責条項】

本報告書で提供している情報は、ご利用される方のご判断・責任においてご使用下

さい。ジェトロでは、できるだけ正確な情報の提供を心掛けておりますが、本報告書

で提供した内容に関連して、ご利用される方が不利益等を被る事態が生じたとして

も、ジェトロは一切の責任を負いかねますので、ご了承下さい。

(3)

アンケート返送先 FAX:03-3582-5309 e-mail:ORG@jetro.go.jp

日本貿易振興機構 海外調査部 中国北アジア課宛

● ジェトロアンケート ●

調査タイトル:2015 年度 最近の北朝鮮経済に関する調査

今般、ジェトロでは、標記調査を実施いたしました。報告書をお読みになった

感想について、是非アンケートにご協力をお願い致します。今後の調査テーマ

選定などの参考にさせていただきます。

■質問1:今回、本報告書での内容について、どのように思われましたでしょ

うか?(○をひとつ)

4:役に立った 3:まあ役に立った 2:あまり役に立たなかった 1:役に立たなかった

■質問2:①使用用途、②上記のように判断された理由、③その他、本報告書

に関するご感想をご記入下さい。

■質問3:今後のジェトロの調査テーマについてご希望等がございましたら、

ご記入願います。

■お客様の会社名等をご記入ください。(任意記入)

ご所属

□企業・団体

□個人

会社・団体名

部署名

※ご提供頂いたお客様の情報については、ジェトロ個人情報保護方針(http://www.jetro.go.jp/privacy/) に基づき、適正に管理運用させていただきます。また、上記のアンケートにご記載いただいた内容につ いては、ジェトロの事業活動の評価及び業務改善、事業フォローアップのために利用いたします。

~ご協力有難うございました~

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はじめに

本報告書では、はじめに、金正恩体制4 年間の経済政策の特徴、北朝鮮経済・主要 産業の現状と課題について分析しました。ついで、経済特区や外資関連の法整備など の外資導入政策と、北朝鮮に進出している外資系企業の現状をまとめました。さらに、 北朝鮮の貿易動向について、国別主要品目別に現状を明らかにしました。 なお、本報告書は日本貿易振興機構(ジェトロ)が東アジア貿易研究会に委託して 実施した「2015 年度 最近の北朝鮮経済に関する調査」の調査結果になります。 本報告書が東アジア地域に関心を持つ方々にとってお役に立てば幸いです。 2016 年 3 月 日本貿易振興機構(ジェトロ)海外調査部

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目 次

要約 ... i 第1章 北朝鮮の経済政策と経済・産業の現状 ...1 1.金正恩体制下の経済政策 ...1 (1)一貫する経済政策の目標 ...1 ① 朝鮮労働党第7 回大会開催決定の意味 ...1 ② 金正恩時代の幕開けと経済政策 ...7 (2)「新年の辞」から見る2015 年経済部門の重点的課題 ... 13 (3)経済強国を達成するための中長期的政策 ... 15 (4)見えてきた北朝鮮式経済改革措置・「朝鮮式経済管理方法」 ... 18 ①「朝鮮式経済管理方法」確立の流れ ... 18 ②「朝鮮式経済管理方法」の内容と注目点 ... 21 ③「社会主義企業責任管理制」の内容 ... 22 (5)経済政策の立案・推進・実施の体制 ... 24 2.北朝鮮の経済と主要産業の現状 ... 26 (1)北朝鮮経済の現状 ... 26 ① 国民総所得(GNI) ... 26 ② 国家予算および国防費 ... 27 ③ 産業構造... 27 (2)主要産業の現状 ... 29 ① 石炭・金属・化学および電力部門の現状 ... 29 イ.石炭生産の現状 ... 29 ロ.金属工業の現状 ... 30 ハ.化学工業の現状 ... 31 ニ.電力部門の現状 ... 32 ② 軽工業部門の現状 ... 33 ③ 建設部門の現状 ... 35 ④ 農業および水産業の現状 ... 40 イ.農業の現状 ... 40 ロ.水産業の現状 ... 44

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⑤ 通信・IT 部門の現状 ... 46 イ.移動通信と通信端末機 ... 46 ロ.インターネットとイントラネット ... 48 3.経済・主要産業の課題と今後の見通し ... 49 (1)主要産業の現状にもとづいた問題点および今後の課題 ... 49 ① 北朝鮮経済の現状を生んだ背景 ... 49 ② 北朝鮮経済の課題 ... 50 イ.社会経済システムの変革 ... 51 ロ.北朝鮮式経済改革の推進 ... 51 ハ.基礎工業部門の改革 ... 51 ニ.農業、軽工業部門の振興 ... 51 ホ.経済特区の活用 ... 52 ヘ.通信・IT 技術の発展 ... 52 ト.商業・サービス分野の振興 ... 53 チ.その他の課題 ... 53 (2)今後の見通し ... 54 第2章 北朝鮮の外資政策と外資系企業の現状 ... 55 1.経済特区開発の現状 ... 55 (1)既存の国家級経済特区(4 カ所)の現状と開発計画の詳細、今後の見通し .. ... 55 ① 羅先経済貿易地帯 ... 55 イ.工業地区の開発計画 ... 56 ロ.インフラ投資項目 ... 57 ハ.観光地開発 ... 59 ニ.企業への投資誘致 ... 59 ② 黄金坪・威化島経済地帯 ... 61 ③ 金剛山国際観光特区 ... 61 ④ 開城工業地区 ... 61 (2)新設の経済開発区(19 カ所)と新義州国際経済地帯の現状 ... 62 (3)開発が進む特区の現状:「元山―金剛山国際観光地帯」 ... 65 (4)経済特区方式で進む「朝鮮式改革開放」策の課題と展望 ... 68

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2.北朝鮮と海外との主要航路の現状 ... 70 (1)東アジア地域の海上航路の現状と課題、主要国の取組み状況 ... 70 (2)北朝鮮とロシア極東地域と韓国を結ぶ複合海上輸送航路 ... 78 (3)韓国との航路(「5.24 措置」以前) ... 82 (4)中国との主要航路 ... 84 ① 北朝鮮の黄海の海上航路 ... 84 ② 北朝鮮の羅津港を利用した中国の「借港出海、内貿外運」 ... 85 3.北朝鮮の中国、ロシアとの経済協力事業 ... 86 (1)中国による対北朝鮮経済協力事業の現状 ... 86 ① 鉄道 ... 86 ② 道路 ... 88 (2)ロシアによる対北朝鮮経済協力事業の現状 ... 90 ① 羅津―ハサンプロジェクト ... 90 ② 勝利(ポベータ)プロジェクト ... 91 4.北朝鮮の外資導入政策 ... 92 (1)北朝鮮の外資導入政策の変遷と現状について ... 92 ① 1990~2010 年:経済特区の設置と失敗 ... 92 ② 2010~11 年:金正日政権末期の中朝共同開発による特区建設 ... 95 ③ 2012~15 年:金正恩時代の新たな外資誘致政策―独自色の強化 ... 96 (2)外資導入に関する法整備の現状 ... 97 ① 羅先経済貿易地帯 ... 98 ② 経済開発区 ... 101 (3)外資導入の課題 ... 102 ① 透明簡素な手続きと制度運用面の一貫性 ... 103 ② 法執行の強化と紛争解決 ... 103 ③ 投資誘致、投資者保護等に関する人材のさらなる育成 ... 104 5.北朝鮮に進出している外資系企業の動向 ... 104 (1)北朝鮮と外国との合弁企業の特徴 ... 104 (2)国際見本市に出展した外国企業の特徴 ... 111 (3)中国企業の最近の動向―平津自転車合営会社の事例 ... 112 (4)韓国企業の動向-開城工業地区の現状 ... 115

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(5)その他の外国企業の動向 ... 119 ① 豚肉加工... 120 ② 風力発電... 120 ③ 鉱物資源開発 ... 120 第3章 北朝鮮の貿易動向 ... 122 1.2013~2015 年の輸出入動向 ... 124 (1)上位10 カ国・地域の輸出入動向 ... 124 ① 中国 ... 124 ② 韓国 ... 131 ③ インド ... 132 ④ タイ ... 132 ⑤ ロシア ... 133 ⑥ シンガポール ... 134 ⑦ フィリピン ... 134 ⑧ 台湾 ... 135 ⑨ ブラジル... 136 ⑩ パキスタン ... 136 (2)EU 上位 5 カ国の輸出入動向 ... 137 ① ドイツ ... 137 ② オランダ... 138 ③ イタリア... 138 ④ フランス... 139 ⑤ ベルギー... 139 2.北朝鮮の鉱物資源輸出動向 ... 140

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図 表 目 次

図表 1 朝鮮労働党大会 ...1 図表 2 北朝鮮のGNI 成長率 ...6 図表 3 北朝鮮の穀物生産量 ...9 図表 4 経済部門に対する現地指導の分野別訪問回数と推移 ... 11 図表 5 建設分野に対する現地指導の内訳と推移 ... 12 図表 6 金正恩第 1 書記現地指導の推移(分野別割合)... 17 図表 7 朝鮮式経済管理方法確立の動き ... 19 図表 8 「経済研究」に掲載された経済指導および管理関連論文数(2012~15 年) ... 21 図表 9 現地了解報道回数および訪問現場数 ... 25 図表10 北朝鮮の国民総所得(GNI)および 1 人当たり GNI の推移 ... 26 図表11 北朝鮮の国家予算および国防費の推移 ... 27 図表12 北朝鮮の産業構造(2014 年) ... 28 図表13 北朝鮮の産業構造の推移 ... 28 図表14 北朝鮮の石炭生産量と需要量推計 ... 29 図表15 北朝鮮の鉄鉱石・粗鋼生産量の推移 ... 30 図表16 北朝鮮の鉄鋼工業生産能力の推移 ... 31 図表17 北朝鮮の化学肥料生産能力・生産量の推移 ... 31 図表18 中国の対北窒素肥料(HS3102)輸出量の推移 ... 32 図表19 北朝鮮の発電設備容量の推移 ... 32 図表20 北朝鮮の発電量の推移 ... 33 図表21 北朝鮮の穀物生産量 ... 40 図表22 穀物生産量:北朝鮮公表値と FAO/WFP の推計値の比較 ... 41 図表23 北朝鮮のスマートフォンのスペック ... 47 図表24 北朝鮮のタブレット PC のスペック ... 48 図表25 羅先経済貿易地帯開発計画(2011 年) ... 55 図表26 羅先経済貿易地帯の工業地区開発計画(2011 年) ... 56 図表27 羅先経済貿易地帯の工業地区開発計画(2015 年) ... 56 図表28 羅先経済貿易地帯のインフラ建設計画(2015 年) ... 57

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図表29 1995 年に発表された羅津・先鋒地域のインフラ建設計画の主要内容 .... ... 58 図表30 羅先経済貿易地帯の観光地開発計画(2015 年) ... 59 図表31 羅先経済貿易地帯の企業投資誘致計画(2015 年) ... 60 図表32 経済開発区(19 カ所)と新義州国際経済地帯の現状 ... 62 図表33 新義州国際経済地帯開発総計画図 ... 65 図表34 元山―金剛山国際観光地帯の計画 ... 66 図表35 元山―金剛山国際観光地帯のインフラ計画と税制優遇措置 ... 67 図表36 元山―金剛山国際観光地帯開発計画図 ... 68 図表37 北東アジアの主要港湾のコンテナ取扱の推移 ... 71 図表38 日本の東アジア国際コンテナ定期航路就港状況(北陸管内) ... 72 図表39 東アジアの主要コンテナ航路の現状 ... 72 図表40 北東アジア国際フェリー航路の現状 ... 73 図表41 韓国の港湾基本計画(2011~20 年)の主要内容 ... 74 図表42 ロシア極東港湾の現状 ... 75 図表43 ロシア極東沿海地方 5 大港湾の位置と陸路輸送連携 ... 75 図表44 極東ロシア港湾の石炭処理量と処理能力 ... 76 図表45 「大ザルビノ港」計画の詳細 ... 77 図表46 ロシア極東沿海地方における輸送ルートの構想 ... 78 図表47 北朝鮮とロシア極東地域と韓国を結ぶ複合海上輸送航路 ... 81 図表48 2005 年の「南北海運合意書」の発効前後の比較 ... 82 図表49 「5.24 措置」以前の南北間の定期航路 ... 82 図表50 南北間の定期航路の比較 ... 83 図表51 北朝鮮と中国との航路(黄海) ... 85 図表52 北朝鮮と中国との航路(日本海) ... 86 図表53 咸北線周辺の鉄道網 ... 88 図表54 延辺朝鮮族自治州の 2014-2030 年における通商区建設計画 ... 89 図表55 北朝鮮の羅津・先鋒経済貿易地帯の開発構想 ... 94 図表56 中朝共同開発の計画要綱 ... 96 図表57 羅先経済貿易地帯関係の法規(最新) ... 100 図表58 経済開発区関連の法規 ... 102

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図表59 北朝鮮に所在する合弁企業の相手先(国別) ... 105 図表60 投資規模の大きい合弁企業 ... 106 図表61 北朝鮮の主要合弁企業一覧 ... 107 図表62 羅先経済貿易地帯所在の合弁企業一覧(2011 年) ... 110 図表63 「平壌秋季国際商品展覧会」出展企業・団体の内訳 ... 111 図表64 開城工業地区における韓国企業の数と生産額、労働者数 ... 115 図表65 2015 年 1~10 月の開城工業地区における品目別搬出入の動向 ... 116 図表66 開城工業地区からの搬入品目の推移(2012 年 1 月~2015 年 10 月) ... ... 117 図表67 開城工業地区の平均賃金の推移 ... 118 図表68 開城工業地区再稼働(2013 年 9 月)以降の韓国企業の提案と政府の 措置 ... 118 図表69 主要国/地域の対北朝鮮輸出入額の推移(95 カ国/地域) ... 123 図表70 中国の対北朝鮮貿易額の推移 ... 124 図表71 中国の対北朝鮮輸出、総額と上位 20 品目 ... 125 図表72 中国の対北朝鮮輸入、総額と上位 20 品目 ... 125 図表73 中国の対北朝鮮輸出:原油・石油製品 ... 126 図表74 中国の対北朝鮮輸出:穀物 ... 127 図表75 中国の対北朝鮮穀物輸出量の推移 ... 127 図表76 中国の対北朝鮮輸出:電気機器 ... 128 図表77 中国の対北朝鮮輸入:無煙炭 ... 128 図表78 中国の対北朝鮮無煙炭輸入の推移 ... 129 図表79 中国の対北朝鮮輸入:鉄鉱石 ... 129 図表80 中国の対北朝鮮鉄鉱石輸入の推移 ... 130 図表81 中国の対北朝鮮輸出:紡織用繊維・製品 ... 130 図表82 中国の対北朝鮮輸入:紡織用繊維・製品 ... 130 図表83 韓国の対北朝鮮搬出入 ... 131 図表84 インドの対北朝鮮輸出入 ... 132 図表85 タイの対北朝鮮輸出入 ... 133 図表86 ロシアの対北朝鮮輸出入 ... 133 図表87 シンガポールの対北朝鮮輸出入 ... 134

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図表88 フィリピンの対北朝鮮輸出入 ... 135 図表89 台湾の対北朝鮮輸出入 ... 135 図表90 ブラジルの対北朝鮮輸出入 ... 136 図表91 パキスタンの対北朝鮮輸出入 ... 136 図表92 EU 諸国の対北朝鮮輸出入額(2014 年、上位 5 カ国) ... 137 図表93 ドイツの対北朝鮮輸出入 ... 137 図表94 オランダの対北朝鮮輸出入 ... 138 図表95 イタリアの対北朝鮮輸出入 ... 138 図表96 フランスの対北朝鮮輸出入 ... 139 図表97 ベルギーの対北朝鮮輸出入 ... 139 図表98 中国の主な対北朝鮮鉱物資源輸入(2015 年 1-11 月期上位 12 品目) ... ... 140 図表99 台湾の対北朝鮮鉱物資源輸入 ... 141 図表100 パキスタンの対北朝鮮鉱物資源輸入 ... 141

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要 約

第1 章 北朝鮮の経済政策と経済・産業の現状 金正日総書記の死去後最高指導者に就いた金正恩第1 書記の 2012 年から 15 年まで の4 年間の経済政策を総括し、経済の現状を概観する。 ➢ 金正恩体制下の経済政策(P.1~26) 北朝鮮は36 年振りに労働党大会を 2016 年 5 月に開催することを決定した。これ を機に北朝鮮は金正恩体制の確立を鮮明にし、核抑止力を背景に「人民生活の向上」 を目指した経済建設に邁進するものと思われる。 特に金第1 書記が最高指導者就任(2011 年 12 月)以来慎重に進めてきた「朝鮮 式経済管理方法」を労働党大会を契機に本格的に推進していくものと思われる。そ の中心となる「社会主義企業責任管理制」では、企業に対し、「生産の計画と生産組 織の権限」「人材管理権」「製品開発権」「価格制定権と販売権」などが与えられる。 ➢ 北朝鮮の経済と主要産業の現状(P.26~48) 北朝鮮経済は2011 年以降毎年 1%前後のプラス成長を続けている(韓国銀行推計)。 主要産業分野の現状については、北朝鮮の報道情報や韓国研究機関の資料をもとに 紹介している。 ・石炭・金属・科学・電力 ・軽工業 ・建設 ・農業・水産業 ・通信・IT ➢ 経済・主要産業の課題と今後の見通し(P.49~54) 北朝鮮は、政治は自主、経済は自立、軍事は自衛の方針を掲げ、社会主義計画経 済の下で国造りを進めてきたが、「人民の生活向上」という普遍的な目的達成に向け、 北朝鮮式の経済改革(朝鮮式経済管理方法)に取り組み、一部に市場経済を容認す るなどの変化を見せている。ICT 化や技術革新、流通をはじめ、さまざまなサービ ス産業によって北朝鮮経済は発展可能性が広がるが、同時に社会経済システムの変 革に繋がるリスクもある。 第2章 北朝鮮の外資政策と外資系企業の現状

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➢ 経済特区開発の現状(P.55~70) 既存の国家級経済特区4カ所(羅先、黄金坪・威化島、元山・金剛山、開城)、新 設の経済開発区19 カ所と新義州国際経済地帯を紹介する。羅先、元山・金剛山の 2 ヵ所については発足からの経緯や最近明らかになった開発計画の詳細を紹介する。 ➢ 北朝鮮と海外との主要航路の現状(P.70~86) 北朝鮮の貿易は中国に多く依存しているため、中国との海上や陸上の運輸が中心 である。ここでは東アジア地域の海上航路の現状を踏まえ、北朝鮮とロシア・韓国・ 中国との海上航路を紹介する。 ➢ 北朝鮮の中国、ロシアとの経済協力事業(P.86~92) 中国と北朝鮮の鉄道協力事業で目立った動きはないが、図們―南陽―羅津間や、南 陽―会寧―清津間の鉄道協力事業が進みそうである。道路は新豆満江大橋の建設が進 んでおり2016 年前半には完成する予定である。 ロシアと南北朝鮮の3 者を結ぶ羅津‐ハサンプロジェクトが 3 回のシベリア産石 炭のテスト輸送を実施した。2016 年 1 月の北朝鮮による 4 回目の核実験により本契 約への悪影響が懸念される。 ➢ 北朝鮮の外資導入政策(P.92~104) 1980 年の「合弁法」制定以降の北朝鮮の外資導入の取り組みを振り返り、特に外 資導入に関する法整備の現状を簡明に解説する。 外資導入の課題として制度運用面の一貫性、法執行の強化、人材育成を挙げる。 ➢ 北朝鮮に進出している外資系企業の動向(P.104~121) 米国の公開情報源センター(OSC)の 2011 年の合弁企業リストをもとに各種報 道情報などから現在も存続していると思われる合弁企業53 社をリストアップした。 第3 章 北朝鮮の貿易 ➢ 2013~15 年の輸出入動向(P.122~139)

Global Trade Atlas の貿易データによると 2014 年に北朝鮮と輸出入取引のあっ た国は94 カ国・地域で、これに韓国と北朝鮮の南北交易額(韓国統一省)を加えた 95 カ国・地域の対北朝鮮輸出額 51 億 5,062 万ドル、輸入額 44 億 8,517 万ドルで、 貿易総額は96 億 3,579 万ドルであった。

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(66.1%)、韓国 23 億 4,300 万ドル(24.3%)、インド 1 億 8,500 万ドル(1.9%)、 タイ1 億 2,500 万ドル(1.3%)、ロシア 9,200 万ドル(1.0%)であった。 北朝鮮の最大の貿易相手国である中国との貿易は、2013 年以降減少傾向にある。 中国の輸出を見ると、原油輸出は2014 年から統計上は「ゼロ」であるが、実際に は継続しているとの見方が強い。穀物の輸出量は年々減少しており、北朝鮮の穀物 生産が増大しているようである。 中国の北朝鮮からの輸入の特徴は、その最大品目である無煙炭が石炭の国際価格 低下により金額では減少しているが数量は増加傾向にあることである。鉄鉱石につ いては単価の落ち込みと同時に数量も減少傾向にあり、中国経済の減速化を反映し ているものと見られる。 ➢ 北朝鮮の鉱物資源輸出動向(P.140~141) 北朝鮮にとって鉱物資源の輸出は主要な外貨獲得手段の一つである。ここでは北 朝鮮産鉱物資源が輸入国側でどの程度のシェアを占めているかを見た。

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第1章 北朝鮮の経済政策と経済・産業の現状

金正日総書記の急逝(2011 年 12 月 17 日)に伴い、金正恩第一書記がトップの座に 就いてから丸4 年が過ぎた。年齢も若く実績もほとんどないことから、国内政治が不安 定化し経済も混乱するのではないかという見方が大勢を占めていた。しかし現状を見る 限り、北朝鮮で大きな混乱は起こっておらず国内の政治状況は比較的安定しているとい える。また、経済の状況についても、停滞しているという分析がある一方で、この数年 で大きく成長しているという声も伝えられてきている。少なくとも、金正日時代に比べ 大幅に落ち込んでいるとの情報はない。 2015 年 10 月北朝鮮は、実に 36 年ぶりの開催となる朝鮮労働党大会を 2016 年 5 月 に開催すると発表した。 この章では、金正恩時代に入ってからの4 年間におよぶ経済政策について総括し、経 済の現状について概観してみたい。

1.金正恩体制下の経済政策

(1)一貫する経済政策の目標 ① 朝鮮労働党第7 回大会開催決定の意味 2015 年 10 月、北朝鮮は、朝鮮労働党第 7 回大会を 2016 年 5 月に開催することを 朝鮮労働党中央委員会の決定として発表した。発表通り党大会が開催されると実に36 年ぶりのことになる。 図表 1 朝鮮労働党大会 回数 開催日 主要議題 党首 備考 第 1 回大会 1946. 8. 28 党創立に関する報告(金日成、金枓奉) 金枓奉 党 中 央 委 員 会委員長 朝鮮労働党創立大会(北朝鮮共産 党と朝鮮新民党が合党、党名は北 朝鮮労働党) 党綱領・規約・機関紙についての報告 党中央委員会および中央検閲委員会選挙 第 2 回大会 1948. 3. 27 党中央委員会事業決算報告 金日成 党 中 央 委 員 会委員長 北朝鮮労働党第二回大会、 金日成中央委員会委員長選出 党規約改正 党中央指導機関選挙

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第 3 回大会 1956. 4. 23 党中央委、党中央検査委事業総括 党 中 央 委 員 会委員長 党規約改正 党中央指導機関選挙 人民経済発展 5 カ年計画採択(1957~61 年) 第 4 回大会 1961. 9. 11 党中央委、党中央検査委事業総括 金日成 党 中 央 委 員 会委員長 党規約改正 党中央指導機関選挙 人民経済発展 7 カ年計画採択(1961~67 年) 第 5 回大会 1970.11.2. 党中央委、党中央検査委事業総括 金日成 党 中 央 委 員 会総書記 指導理念としてチュチェ思想を明記 党規約改正 党中央指導機関選挙(党総書記選挙など) 人民経済 6 カ年計画(1970~75 年) 第 6 回大会 1980. 10. 10 党中央委、党中央検査委事業総括 金日成 党 中 央 委 員 会総書記 金正日党政治局常務委員選出 社会主義建設 10 大展望目標提 示、高麗民主連邦共和国創立方案 提案 党規約改正 党中央指導機関選挙 出所:「金日成著作集」およびその他資料より作成 朝鮮労働党は2010 年に党規約を改正する以前は党大会を 5 年に 1 度開くことを規 定していた1が 、1980 年 10 月に第 6 回大会を開いて以来現在に至るまで党大会は一 度も開催されていない。 これは主に、1980 年代後半から始まったソ連・東欧社会主義国の体制崩壊などの対 外環境の悪化などによる政治的経済的困難によるものであった。 ソ連・東欧社会主義国の崩壊や中国における改革開放の波は、北朝鮮の社会主義政 治体制を揺るがすものでもあった。特に同盟国であったソ連と中国が韓国と国交を結 んだことは北朝鮮にとって大きな負担となった。 この流れは北朝鮮経済にも大きな影響を及ぼした。 対外経済関係のほとんどを社会主義国との交易や援助に依存していた北朝鮮にとっ て、ソ連・東欧社会主義国の崩壊は、国際市場の消滅を意味し、国内経済は大きな困 難に直面することになった。 1 2010 年 9 月の第 3 回党代表者会において党規約が大幅に改正されたが、党大会については、 「5 年に 1 回党中央委員会が召集する」という文言が削除され、「党大会の招集日は6 カ月前に 発表する」と改正された。今回の発表は新しい規約に則って行われた。

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1987 年から始まった第 3 次 7 カ年計画(1987~93 年)は目標を達成することがで きなかった。金日成主席は計画の目標未達を認め、3 年間の緩衝期間を設けることで 計画期間を実質的に3 年間延長する措置を取った2が、その直後の1994 年に急逝した。 金正日総書記が率いる後継体制への移行は比較的スムーズに行われたが、核開発疑 惑による米国、日本などからの制裁や度重なる自然災害などにより経済は一層の困難 を極め、北朝鮮は国家存亡の危機に立たされることになった。 金正日総書記はこのような事態に対応し、外部からの政治的軍事的圧力に対抗する という目的のため軍事優先路線である「先軍政治」を掲げ、国内体制を固めることを 最優先にしたが、その一方で経済再建にも着手した。 1995 年からの「苦難の行軍」を経て 2000 年代に入ると、金総書記の主導のもとで3 北朝鮮式の経済改革といえる「朝鮮式経済管理方法」が施行4されるなど、本格的な経 済の立て直しに取り組む動きを見せた。 2006 年と 2009 年に行った長距離ミサイル発射と核実験により国連の制裁を受ける ことになったが、経済立て直しの動きは続けられ、金日成主席誕生100 周年にあたる 2012 年までに「『強盛大国』の大門を開く」という目標が打ち出された5 金正日時代に入っての一連の流れの中で、2012 年には強盛大国の大門を開いたとい う宣言とともに、党大会が開催されるのではないかと予測する専門家も少なくなかっ た。 しかし、目標の年である2012 年を目前に控えた 2011 年 12 月に金正日総書記が急 逝するという予想外の事態に直面することになった。 不測の事態の下、国政を執ることになった金正恩第1 書記は、金総書記の遺志を継 ぎ長距離ミサイルの発射や核開発を継続する一方で、特に経済分野へ注力し、今回党 2 1993 年 12 月朝鮮労働党中央委員会第 6 期第 21 回全体会議における決定。 3 金正日総書記は 2001 年 10 月 3 日に発表した「強盛大国建設の要求に即して社会主義経済管 理を改善強化することについて」という論文において、社会主義の原則を守りながらも実利を 最大化することについて述べ、そのためにも現場に裁量権を与えることを説いた。 4 2002 年 7 月 1 日に物価と賃金を大幅に引き上げるとともに、計画権などの権限を現場に与え る措置が取られた。 5 北朝鮮のいう強盛大国とは、政治思想強国、軍事強国、経済強国という三本柱が達成された 国である。北朝鮮の認識では、すでに政治思想強国、軍事強国という課題はクリアしており、 経済強国になるという課題を残すのみになっているとされる。2008 年末に 2012 年までに強盛 大国の大門を開く、つまり残った課題である経済強国になるという課題をある程度達成するこ とが当面達成すべき国家目標となった。

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大会の招集を決定したのである。 このようにみると、党規約通りであれば第7 回党大会を開催することになっていた 1980 年代後半以降、北朝鮮は、政治的にも経済的にも非常事態下にあったことから党 大会開催を先送りしていたことがわかる。言い換えれば、党大会の開催を決定したと いうことは、北朝鮮という国自らが国家として正常な状態へと戻った、あるいは戻る ということを内外にアピールするシグナルであるとみることができる。 このような経緯を経て数十年ぶりに党大会を開催するとなると、それに見合う成果 をあげたという実績が必要になるであろうが、重要なことはそれを国民に実感させる ことであろう。 それでは党大会開催にあたってクリアしなくてはならなかった成果とは何であろう か。それはこれまでの経緯を考えると一つは政治的安定であり、もう一つは経済的成 果である。 この間北朝鮮は、米国からの政治的軍事的圧力に対抗する名目で「先軍政治」とい う軍事優先の国政運営を行ってきた。国防委員会の地位を高め、国防委員長を国家の 最高指導者である6とする国政運営の形は、非常事態に備えた形であったといえよう。 第7 回党大会に向けた政治的安定とは、このような非常事態体制を正常な形に戻すこ とである。実際には国防委員会主導の国家運営というかたちが形式的に残る可能性は 排除できないが、以前に比べその役割は相対的に低くなることは間違いないだろう。 それを可能にするのは、北朝鮮自らが想定している米国からの軍事的脅威に対応でき る軍事的準備が整うことであり、国際社会に衝撃を与えた 2016 年 1 月の「水爆」実 験の実施もこのような脈絡からみると、北朝鮮の意図を読み取ることができる。 北朝鮮は今回の「水爆」実験を、米国からの核による軍事的圧力および制裁に対抗 するための自衛的措置であるというロジックで説明している。これは言い換えれば、 米国の軍事的圧力が今後も継続することを想定し、より強力な核抑止力を持つことに より正常な国家運営をできる体制をつくることを目指したものであるということであ る。そして実験の「成功」は、そのような体制が整ったという宣言といえる。つまり、 今回の「水爆」実験実施とその「成功」報道は、政治的側面での非常事態からの脱却 を意図した、党大会開催に向けての政治的準備の完了を意味するということである。 6 「朝鮮民主主義人民共和国国防委員会委員長は朝鮮民主主義人民共和国の最高領導者である」 (朝鮮民主主義社会主義憲法第100 条)

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一方で、党大会を前に高度な軍事技術の開発という成果を国民の前に示し、金正恩第 1 書記のカリスマ性や指導力を誇示しようという目的もあったものと思われる。 そして、それにも増して重要なのが経済的成果である。金正恩第一書記が2016 年 1 月に発表した新年の辞において、「わが党は人民生活の問題をあまたの国事の中の第一 国事として」いると述べたことが注目される。先に紹介した党規約にも「朝鮮労働党 は、人民生活を絶え間なく高めることを党活動の最高原則とする」と明記している。 36 年間にわたり党大会が開かれなかった最大の理由が、国内経済の不振とそれによ る人民生活の窮状であったということを鑑みると、党大会を目前に控えた今回の発言 は、党大会に向けこれからも、国内経済を実感できる形でより活性化していくという 国民への意思表明と解釈できる。金正恩第1書記が党大会開催を決断した背景には、 国内経済の再建と発展について一定程度見通しがついたという自信があったものと見 ることができよう。 諸外国の研究機関は、近年の北朝鮮経済について、概ね成長基調にあると評価して いる。ただし、その成長の度合いについては見解の相違がある。 一つは、成長はしているが低成長の基調から抜け出ていないという評価である。代 表的なものが韓国銀行の「北朝鮮経済成長率推定結果」という各年度レポートである。 それによると北朝鮮経済は 2011 年から 4 年連続でプラス成長を続けており、金正恩 時代に入ってからは、2012 年には 1.3%、2013 年には 1.1%、2014 年には 1.0%とな っている(図表2 参照)。経済成長は続いているが成長率は低く、1%前後の低成長が 続いている7という評価である。 北朝鮮が公式統計を発表しない中での公的機関による推計ということで信頼性が高 いという評価もある一方、韓国ではこのレポートが現在の北朝鮮経済の実態を正確に 反映できていないとの問題点を指摘する声もある8 7 韓国銀行『2014 年北朝鮮経済成長率推定結果』2015 年 7 月 8 北朝鮮は 1965 年以降経済指標を発表しておらず、必要に応じて国際機関に一部の指標を提 供するだけであることから、韓国銀行は独自の資料を利用し推計値を算出している。しかし、 利用している北朝鮮の産業別基礎資料の信ぴょう性の問題、北朝鮮経済のすべての指標を韓国 の価格や付加価値を適用して算出していることや韓国の為替レートに従ってドルに換算してい ることなど、韓国経済の状況により左右される部分が多いという問題から、北朝鮮経済の実像 を反映していないのではないかという指摘である。

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図表 2 北朝鮮の GNI 成長率 出所:韓国銀行 韓国銀行の推計値が、韓国政府の対北政策を反映するものであると仮定するなら、 北朝鮮に厳しく臨む現政権の下では、経済状況について低目の評価をする傾向にある とも考えられよう。 一方で、北朝鮮経済はそれなりの成長を続けているという評価もある。このような 評価は韓国の北朝鮮経済専門家の一部からもでており、韓国銀行の推計は北朝鮮経済 を過小評価しており実態は推計値よりはるかに高いという分析9である。 このような分析は、UNICEF、WFP、WHO などの国連機関が実施した調査結果に より北朝鮮における乳幼児の栄養状態が1998 年以降 2012 年まで着実に改善している と判明していることや、急速な携帯電話の普及、対中貿易規模の急増などをその根拠 として挙げている10。また、北朝鮮における市場の役割に注目することで成長を説明 する向きもある11 韓国銀行でもその点については問題を一部認めており、2007 年発表のレポートからは当該指 標は南北の比較においては有効であるが、他国と直接比較することは適当でないという留意事 項が書かれている。 9 梁文秀「2015 年評価と 2016 年展望:北朝鮮経済」『IFES 懸案診断』No.36(2015-13)、2015 年12 月 11 日など。梁は韓国銀行の推計より 1~2%高い可能性が大きいという見方を紹介し ている。 10 李石基、梁文秀他「北朝鮮経済争点分析」産業研究院、2013 年 12 月 11 金昔珍「北朝鮮の経済実績と展望」『韓半島フォーカス』2015 年夏号 慶南大学 極東問題 研究所 2015 年 7 月

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このような評価は訪朝する日本人研究者やビジネスマンたちの意見とも通じる12 訪朝者の目に留まった都市部の建設ラッシュや女性のファッション、携帯電話の普及、 自動車台数の増加や交通量の増大など、経済に活気がある様子は、北朝鮮の経済成長 が韓国銀行の推計以上のものと映る。 ただし、後節の主要産業の現状に関する記述で詳しく触れるが、石炭・金属・化学 および電力供給などの基幹工業において、韓国側の推計では北朝鮮の生産実績の顕著 な改善は確認できない。大部分が平壌のみに滞在する訪朝者の目には、軽工業や建設、 住民サービス部門などを中心とした首都の活況は印象に残っても、地方との地域間格 差が見えていないとする指摘もある。 金正恩時代における北朝鮮経済の特徴は、このような「見える(見せる)」成果が出 てきたということであるが、工業生産やそれを支えるエネルギー供給の部分にまで成 果が波及しているかには疑問の余地もある。そう考えると、党大会の開催は、すでに 達成した経済的成果を誇示するというよりも、金正恩時代の新たな経済路線・政策を 発表するなどして、改善の途上にある経済に更なるテコ入れを図り、内実の伴った経 済建設を進めることに目的があるものとも考えられる。 ② 金正恩時代の幕開けと経済政策 金正恩第1 書記の経済政策の特徴は継承と革新という二つの軸で見ることができよ う。すなわち、政策目標の継承とそれを達成するための政策手段の革新である。 本項では政策目標の継承について述べ、政策手段の革新については第4 項で述べる ことにする。 金第1 書記は執権当初から「人民生活の向上」を自らの至上命題として掲げ、それ を公約とした。金第1 書記は、2012 年 4 月に行われた金日成主席誕生 100 周年記念 式典で「わが人民が二度とベルトを締め上げずに済むようにし、社会主義の富貴栄華 を思う存分享受するようにしようというのがわが党の確固たる決心」であると発言し、 自らが直接、国民に人民生活の向上を約束する姿を見せた。これは、以前とは違った 新しい指導者像を国民に印象付けるとともに、国民にとっては人民生活を向上させる という最高指導者の強い意志と決意であると映った。 このように金正恩時代における経済の第一の目標は「人民生活の向上」であったが、 12 『日朝交流学術訪問団、訪朝の学者ら報告会』朝鮮新報日本語版 WEB 版、2014 年 11 月 8 日付

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これは先代である金正日総書記の「遺訓」の継承であった。 金総書記存命中最後のものとなった2011 年の新年共同社説13のタイトルは「今年に もう一度軽工業に拍車をかけ、人民生活向上と強盛大国建設で決定的転換を起こそう」 であった。2012 年に強盛大国の大門を開くというゴールの中心課題として「人民生活 の向上」が掲げられていたのである。 北朝鮮の言う「人民生活の向上」とは具体的には、1990 年代以降厳しかった人々の 生活、つまり「衣」「食」「住」の問題を解決するということである。そのため、2012 年を目標に農業と軽工業の分野に注力する政策がとられていた。 この間、農業部門においては 1990 年代中盤に起こった自然災害による減産の教訓 から、種子の改良や農耕地の整備、大規模灌漑路の造成など農業インフラへの投資が 着々と進められるとともに、気候条件による被害を最小化するための技術研究も積極 的に行われた。その結果、穀物の生産は少しずつ回復してきていた。 一方軽工業部門は、特に2010 年を前後して国家的な関心の下で投資が行われ14、繊 維部門や食品加工などの分野での成果が少しずつ表れてきていた。 このような基礎があったからこそ金第1 書記は、「人民生活の向上」を比較的短期に 実現可能な、現実的な目標になりうると判断し、「遺訓貫徹」の第一目標として国民の 前で宣言したと思われる。 金正恩時代に入り実際に経済の中で北朝鮮が力を入れたのはどのような分野だった のであろうか。 金第1 書記は 2013 年から、北朝鮮における施政方針演説ともいえる「新年の辞」15 において当年の主要政策課題を示しているが、経済分野における主要課題として繰り 返し取り上げられたのは、農業部門、軽工業部門の活性化であった。 金正恩第1 書記は 2014 年 2 月に開かれた「全国農業部門分組長大会」宛てに書簡 13 1995 年以降 2012 年まで、元旦に『労働新聞』、『青年前衛』、『朝鮮人民軍』3 紙が共同で発 表していたもので、1994 年まで行われていた金日成主席の「新年の辞」に代わるものとして、 その年の政策方針を示す役割をしていた。 14 2010 年、2011 年の新年共同社説は 2 年連続で「軽工業に拍車をかける」という文言をタイ トルにあげ、その年の最重要課題としていた。 15 毎年年頭に行われる最高指導者による演説。その年の基本方針や主要課題などについて示さ れる。金正日総書記執権後(1995 年~2012 年)は行われず、党、軍、青年団体の機関紙共同 社説がその代わりを果たした。2013 年に入り金正恩第 1 書記により復活した。

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を送り、農業生産において新しい転換を促した。 農業においてはまず、農業インフラの整備に力を入れ、湿地の改良、干拓地の開拓、 自流式灌漑水路の整備などが行われる一方で、多収穫品種の開発や近代的な営農方法 についての研究と導入、有機農法の導入、農耕地の保護と穀物栽培面積増加の試みな どが国家的関心の下に行われた。この間日照りや水害など気候条件が悪い中でも穀物 生産は着実に増加している。 図表 3 北朝鮮の穀物生産量 (単位:1,000 トン) 2011/12 年度 2012/13 年度 2013/14 年度 2014/15 年度 5,269 5,725 5,928.3 5,943.1 出所:FAO・WFP 上記の政策は金正日時代からの大きな流れに沿ったものといえるが、金正恩時代に 入ってからの新しい動きとして、主食である穀物生産とともに副食物にあたる畜産、 水産部門の強化や、きのこ類や野菜、果物の生産を強調することになったことを上げ ることができる。近年、この問題に対する表現も「食糧問題の解決」ではなく、「食生 活水準を高める16「食卓を豊かに17」などの表現に代わってきた。これは北朝鮮自身 がこの問題について、新たな段階に入ったとの認識を持っていることをうかがわせる ものとして興味深い。 農業については以上のような営農条件を整える政策と併せ、農民たちに物質的イン センティブを与え意識改革を起こすことを目的とした改革措置が取られたが、これに 関しては別項で解説する。 軽工業部門においては、既存の生産の潜在力を最大限に余すところなく動員し、一 般消費財の生産を画期的に増やし、現代化、科学化を力強く推進することで世界的水 準に押し上げること18が目標とされ、そのための政策が施行された。 金第1 書記は 2013 年 3 月に開催された「全国軽工業大会」での演説で、生産の高 い水準での正常化と質の保証、原料・資材の国産化、地方工業の発展、生産設備の近 代化、経営の科学化どの課題を示した。そして、マグネサイトなど地下資源の輸出で 16 金正恩『新年の辞』2015 年 1 月 1 日 17 金正恩『新年の辞』2016 年 1 月 1 日 18 金正恩『全国軽工業大会での演説』2013 年 3 月 18 日

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得た資金を軽工業部門に回す対策をとっていることも明らかにした。 軽工業部門の立て直しは選択と集中という形で行われていると推察される。まずは、 繊維および食品加工分野への投資を優先させているようである。ビールやたばこは早 くから国産化が進められた結果、国産品が市場から輸入品を駆逐している。平壌市内 では国内で生産されたシャツや靴下などの肌着類の配給が再開し国営商店に並び始め た。アイスクリーム、ヨーグルトなどに続きスナック菓子やパン、もちなどの加工食 品を生産するメーカーが新たに増え、また、革靴やスニーカーなどの靴、カバン類も 国産ブランドのものが市場で販売されている。 以上のような農業と軽工業重視の政策は金正恩第1 書記の現地指導で確認すること ができる。 図表4 は 2012 年からの経済部門に対する現地指導を分野別に分類したものである。 金第1 書記がこの 4 年間に行った現地指導を分野別でみると、建設が 31.3%で最も 多く、次いで農業、水産、畜産分野が25.8%、軽工業が 18.8%であった。農業をはじ めとする「食」に関する分野と、軽工業分野を合わせると全体の44.6%と 5 割近くを 占め、金第1 書記がこれらの問題の解決に大きな関心を持っていることがわかる。 年度別にみると、2012 年は建設分野に対する現地指導が 5 割近くを占めていたがそ の割合は年を追うごとに減少し、それに反比例する形で農業、水産、畜産という「食」 分野および軽工業分野の割合が増えていることがわかる。 農業を見ると2012 年には全体の 6.1%であったが、2013 年には 8.5%、2014 年に は10.5%、2015 年には 15.6%と増え、年を追うごとにその関心が高まってきたこと がわかる。また、2013 年から強調されている水産分野に対する現地指導は 2014 年に は農業分野への指導を上回り、2015 年には全体の 27%を占め経済分野において 1 位 を占めた。 農産、水産、畜産の全体をみると、2012 年には全体の 9.1%に過ぎなかったが、20 13 年には 19.7%、2014 年には 22.8%、2015 年には 43.8%と全体の約 5 割近くを占 めるまでに増えたが、これは2015 年の朝鮮労働党創建 70 周年と 2016 年の党大会に 向けてこの問題を解決するという方針の表れと見られる。 この間、軽工業部門に対する現地指導も着実に増え、この分野に注力していたこと が確認できる。ここで注目すべきは、軽工業分野に対する現地指導のうち食糧加工工 場に対する現地指導の割合が42 カ所中 20 カ所で全体の約半数を占めるということで ある。これは「食生活の水準を高める」という方針に沿ったものと考えられる。この

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間、金第1 書記が現地指導した食品関連以外の軽工業企業は、紡績工場、靴下工場、 化粧品工場、製靴工場のほか建材関連の工場などであり、一般消費財分野への現地指 導が少ないことが気になるところである。 図表 4 経済部門に対する現地指導の分野別訪問回数と推移19 2012 年 2013 年 2014 年 2015 年 2012-15 年 回数 構成比 回数 構成比 回数 構成比 回数 構成比 回数 構成比 農業 2 6.1% 6 8.5% 6 10.5% 10 15.6% 24 10.7% 水産 0 0.0% 5 7.0% 7 12.3% 17 26.6% 29 12.9% 畜産 1 3.0% 3 4.2% 0 0.0% 1 1.6% 5 2.2% 軽工業 3 9.1% 12 16.9% 17 29.8% 10 15.6% 42 18.7% 建設 15 45.5% 25 35.2% 17 29.8% 14 21.9% 71 31.6% 機械 2 6.1% 9 12.7% 6 10.5% 6 9.4% 23 10.2% 輸送 0 0.0% 2 2.8% 0 0.0% 3 4.7% 5 2.2% 商業 6 18.2% 7 9.9% 0 0.0% 2 3.1% 15 6.7% 化学 0 0.0% 1 1.4% 1 1.8% 0 0.0% 2 0.9% その他 4 12.1% 1 1.4% 3 5.3% 1 1.6% 9 4.0% 合計 33 100.0% 70 100.0% 57 100.0% 64 100.0% 224 100.0% 出所:各種報道 次に、この間現地指導が最も多かった建設分野について見てみよう。 2012 年から 13 年にかけては遊園地や野外プール、乗馬場などの娯楽施設や商業サ ービス施設の建設に対する現地指導が繰り返し行われていたが、2014 年以降はそれら に代わって電子図書館や博物館などの文化教育関連施設や養老院、孤児院などの福祉 関連施設への指導に移っていることがわかる。 4 年間を通じて文化教育関連施設への指導が最も多いことは、現在北朝鮮が掲げて 19 表を作成するにあたって建設分野に対する現地指導については数を調整した。 金第1 書記の現地指導の特徴として、1 年間を通して同じ対象を繰り返し訪れるということ が挙げられる。これは特に建設分野(建設現場)に対する現地指導で顕著で、多いところでは1 年間に5回も訪れることもあった。複数回に及ぶ現地指導はその対象に対しての関心の高さな どを示すものでもあるが、一方で建設現場への指導については工場などへの指導とは違う性質 を持つ(進捗度などの指導内容が短期間で確認できる)からでもある。 そこで本論では表を作成するにあたり建設分野に関しては同じ場所への重複分を調整し訪れ た現場の数とした。

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いる「社会主義文明国」建設というスローガンに対応するものであろう。 また、科学技術の発展を支える科学者、教育者の優遇という観点から、彼らを対象 にした大規模な住宅建設が行われていることにも注目したい。 これは2012 年に完成させることを目標としていた平壌市での 10 万世帯住宅建設が 資金や資材不足などでとん挫した後、その穴を埋めるという意味も含んでいるものと 推察される。 図表 5 建設分野に対する現地指導の内訳と推移 2012 年 2013 年 2014 年 2015 年 2012-15 年 回数 構成比 回数 構成比 回数 構成比 回数 構成比 回数 構成比 ニュータウン 1 4.2% 1 2.4% 2 6.9% 2 8.0% 6 5.0% 住宅 1 4.2% 4 9.5% 4 13.8% 2 8.0% 11 9.2% 娯楽 9 37.5% 10 23.8% 0 0.0% 0 0.0% 19 15.8% 商業サービス 5 20.8% 6 14.3% 3 10.3% 2 8.0% 16 13.3% 文化教育 6 25.0% 14 33.3% 12 41.4% 7 28.0% 39 32.5% 医療 2 8.3% 5 11.9% 0 0.0% 0 0.0% 7 5.8% 福祉 0 0.0% 0 0.0% 8 27.6% 8 32.0% 16 13.3% 電力 0 0.0% 0 0.0% 0 0.0% 3 12.0% 3 2.5% その他 0 0.0% 2 4.8% 0 0.0% 1 4.0% 3 2.5% 合計 24 100.0% 42 100.0% 29 100.0% 25 100.0% 120 100.0% 出所:各種報道 平壌市およびその周辺部で建設されたニュータウンや高層アパートは、科学者、教 育者向けということでその直接的な対象者は限定されているが、全体としての住居数 が増加することには間違いはなく、市内の住宅事情の解消に役立つと思われる。 このようにみると金正恩時代に入ってから4 年間の経済政策の特徴は、経済全般の グランドデザインを提示し本格的な経済構造の転換を図るよりは、生活における経済 的成果を国民に実感させることに重点が置かれたということであろう。 金第1 書記の掲げた「人民生活の向上」とは、人々の生活に直結する「衣」「食」「住」 の問題を解決するということであり、そしてこれらは総じて、人々が生活の中でその 変化について実感、つまり、目で見て、肌で感じることができるものである。 北朝鮮経済についての共通の認識、すなわち、街並みと人々の暮らし向きが変わっ

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たという事実は、このような目で見て肌で感じられるようにする政策が、結果として それなりの成果を収めていることを示すものであろう。 (2)新年の辞から見る2015 年経済部門の重点的課題 2015 年は金正恩第 1 書記にとって非常に重要な意味を持つ年であった。 金正恩第1 書記は 2015 年の元旦に発表した「新年の辞」で、前年度について農業 と水産、化学、石炭をはじめとする多くの部門における生産で成果があがり、経済強 国と人民生活向上の明るい展望を切り開いたと総括した。 そのうえで、朝鮮労働党創建70 周年を迎える意義深い年に人民生活の向上で転換を もたらすことを課題として提示した。 実は、2014 年は 2015 年の朝鮮労働党創建 70 周年を祝う準備をする年であると位 置づけられていた。 金第1 書記は 2014 年の「新年の辞」で、「今年のわれわれの闘いは、…栄えある朝 鮮労働党創立70 周年を立派に飾る大祭典場につながる勝利者の進軍です。」と述べて いたが、これは労働党創建70 周年を自らの推進してきた 4 年間の政治的経済的政策の 成果を確認するための目途として位置付けていたと考えられよう。 「新年の辞」は年間を通して注力する課題を分野別に並べて示すのであるが、その 順番により、その年の分野別政策の重要性をはかることができる。 経済分野は「新年の辞」がはじまった 2013 年から 2 年連続して課題のトップを飾 り、金第1 書記が経済問題解決を最優先課題としていることを確認することができた。 しかし、2015 年は政治、国防分野についての課題を頭に述べたうえで経済課題を述 べているのが今までとは違う特徴であるが、分量としては経済課題が全体の半分以上 を占めており、その重要度はこれまでと変わらない。 2015 年の経済部門の最重要課題はやはり「人民生活の向上」であり、特に強調され たのは食の問題の解決であった。 これは、金正恩時代に入って一貫している「人民生活の向上」の根幹をなすもので、 最も力を入れている問題である。 ここで注目されるのは、「農業、畜産業、水産業を 3 本の柱」とし、「食生活の水準 を一段と高め」るという表現が使われたことである。 農業部門に対する国家的関心と様々な施策が続けられた結果、一定の成果が上がっ てきていることが確認されているが、主食の確保にとどまらず副食物の供給へとその

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幅を広げることを前面に打ち出したとみることができよう。 また、節水農法など具体的な営農方法に言及したことも注目される。 これは最高指導者が先進的な農法について直接言及することで、数年来異常気象の 影響を受けていることを念頭に、それに対処する技術の保有を国民に知らせ食糧生産 に対する国民の不安を解消するとともに、経験主義に基づく技術導入の遅れを打破し、 現場での技術指導、導入を積極的に行えるような効果を生むことを期待したのであろ う。 また、水産部門が新たに食の問題として取り上げられたことも注目される。 2014 年に水産部門の成果が大々的に取り上げられたが、そのほとんどは養老院、孤 児院への供給に回すことを目標にしたものであった。また、これは軍傘下の水産企業 所によるものであった。 今回、水産を食の問題の3 大軸の一つとして強調したことは、水産業に国家的な関 心を示し、生産の主体を軍から民間へと移行させるとともに、生産量を大幅に増やす ことで人々が食卓を通じて変化を感じられるようにしようということであろう。 「人民生活の向上」のもう一つの柱は、軽工業である。 2015 年の「新年の辞」では生産の正常化をこの部門における課題とした。 特に、子供たち向けの日用品や文房具、食品などの生産を正常化することが強調さ れことが目を引く。 これは、2012 年 9 月最高人民会議で採択された「全般的 12 年制義務教育」が前年 度より部分的に施行されたのを受けたものであると思われる。 また、外資や輸入に頼らず自力更生で成果を上げることが強調された。 このようにみると農業をはじめとする食の問題の解決に比べると、軽工業部門の課 題は限定的であることが気にかかる。軽工業をはじめとして工業部門においては、原 材料や設備を国内でどう賄うかという問題がネックになっていると思われる。 それ以外にも、清川江階段式発電所と高山果樹農場、未来科学者通りなど具体的な 名前を上げ、それらの対象を朝鮮労働党70 周年目標に完成させることが重要な課題と して提示された。 このような部門別課題とともに強調されたのが「朝鮮式経済管理方法」確立の問題 である。「朝鮮式経済管理方法」については2013 年の「新年の辞」から繰り返し言及 されてきた主要な課題であった。 しかし今回は前の2 年と違い「朝鮮式経済管理方法を確立する」という表現が使わ

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れたことが注目される。これまでは「経済管理方法を改善する」という表現が使われ ていた。 これは、2014 年 5 月に、経済管理改善についての様々な動きを総合した,金第 1 書 記の労作の発表20を受けたものと考えられる。北朝鮮式経済改革は「朝鮮式経済管理 方法」として定式化され、それを確立する段階に入ったということであろう。 それと関連すると思われるのが、経済の課題を遂行するにあたり「経営戦略、企業 戦略を正しく立て」ることが強調されており、注目される。最近、金第1 書記の現地 指導でもこの表現がよく使われているが、「朝鮮式経済管理方法」の確立にあたり生産 現場での戦略的な思考と実践が求められているということであろう。 このようにみると、2015 年の経済における主要課題は引き続き「人民生活の向上」 という大きな目標を達成することに置かれていたことがわかる。 (3)経済強国を達成するための中長期的政策 北朝鮮の国家目標は強盛国家の建設であり、それは政治思想強国、軍事強国、経済 強国を指している。 それでは経済強国とはどのようなものなのであろうか。 北朝鮮の定義では、「すでに用意された自立的民族経済の土台の上に成し遂げる経済 強国であり、言い換えれば、自立的民族経済にもとづき、強盛国家としてのしっかり とした社会主義物質技術的土台を積み上げ、人民に豊かな物質文化生活を保障するこ とのできる経済的に高い発展水準に至っている国を意味する21」とされる。 この意味で重視されているのは、自立的民族経済にもとづいた経済強国であるが、 その国づくりのための中長期的な経済路線はどのようなものであろうか。 現在のところ北朝鮮の長期的な経済路線は「先軍時代経済建設路線」と呼ばれるも ので、これは2003 年 8 月に発表された金正日総書記の「労作22」で示されたものであ る。 金総書記は、先軍時代経済建設路線とは「国防工業を優先的に発展させながら軽工 業と農業を同時に発展させる」経済路線であるとしながら、「この路線は先軍時代に一 20 金正恩「現実発展の要求に即して朝鮮式経済管理方法を確立することについて」 21 チョンファスン『問答集 5 朝鮮に対する理解(経済)』外国文出版社 2015 年 7 月 22 金正日「党が提示した先軍時代の経済建設路線を徹底して貫徹しよう」2003 年 8 月 28 日、 現在のところ原文は非公開となっている。

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貫して堅持しなければならない社会主義経済建設の戦略的路線である」と指摘してい る。 金日成主席が提唱した、「重工業を優先的に発展させながら軽工業と農業を同時に発 展させる」という「社会主義経済建設の基本路線」を踏襲したこの経済路線は、金正 恩時代に入ってからも継続していると思われる。 つまり、経済において国防工業の優先的発展が現在北朝鮮の取っている経済路線な のである。 このように金日成時代、金正日時代に各々その時代背景を反映した経済建設路線が 提示されてきたが、金正恩時代には新たな経済路線が提示されるのであろうか。 金総書記が独自の経済路線を提示したのは、金日成時代とは異なった国際環境-つ まり、社会主義国の崩壊と米国などからの厳しい圧力に対応したものであった。 現在北朝鮮の置かれている国際環境は、金正日時代時代と比べてもより厳しいもの になっているとはいえ大きく異なるとは言えず、先軍時代という認識に大きな差が出 てくるとは思えないことから、経済路線の変更はないという推論も可能である。 ここで一つ注目すべきが2013 年 3 月に発表された「経済建設と核武力建設の並進 路線23」である。少しややこしいが、これは経済における基本路線ではなく、国家運 営全般にかかわる路線である。 1962 年北朝鮮はキューバ危機を機に「経済建設と国防建設の並進路線」を打ち出し たことがある。今回の「経済・核並進路線」はそれに倣ったものであるが、決定的な 違いは、その軸足が経済に向いているということである。 「経済・国防並進路線」が取られた当時、軍事力へと力を回すことを理由に遂行中 であった7 カ年経済発展計画は 3 年間延長することが決められた。つまり経済を後回 しにしても軍事を優先させる路線であったということである。 しかし、今回の「経済・核並進路線」は、様相が違っている。 「経済・核並進路線」が発表された朝鮮労働党中央委員会総会において、金第1 書 記が、報告の多くを経済建設全般についての課題について述べたことからも、この路 線が経済に重点を置いたものであると言われている。 同会議について北朝鮮のメディアは「新たな並進路線の真の優位性は、国防費を追 加的に増やさずに戦争抑止力と防衛力の効果を決定的に高めることで、経済建設と人 23 2013 年 3 月 31 日朝鮮労働党中央委員会 2013 年 3 月全体会議

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民生活向上に力を集中することを可能にするところにある」と報道した。 2016 年 1 月の「水爆」実験もこの路線のうえで行われたものであるが、核抑止力で 経済建設を進める環境をつくるという論理は一貫している。 このような動きは金第1 書記の現地指導にも表れている。 図表6 は『労働新聞』の報道に基づき金第 1 書記が現地指導した場所を経済、軍事、 その他に分類したものである24 図表 6 金正恩第 1 書記現地指導の推移(分野別割合) 出所:各種報道 見ての通り、2012 年からすでに経済分野への現地指導は全体の 50%以上を占めて おり、金第1 書記が執権初期から経済問題に大きな関心を持って国政を運営していた ことがわかるが、並進路線発表後の 2013 年には軍事部門への現地指導が前年より大 幅に減少し、経済部門へのそれが増えていることが確認できる。2014 年には揺り戻し があったが、2015 年には現地指導の 75%が経済部門になりこの傾向がより強まった ことが確認できる。 これまで見てきたように、金正恩第1 書記が掲げた「人民生活の向上」は短期的に は農業と軽工業を活性化し、そこに投資を集中することで、国民に生活の変化を実感 させることを意図したのだろう。 2016 年の朝鮮労働党第 7 回大会を迎えるにあたって、果たして「先軍時代経済建設 路線」というこれまでの路線を固守するのか、それともこれを契機に金正恩時代の新 たな経済路線が打ち出されるのか注目される。 24 軍傘下の機関であっても経済にカウントできるものは経済として分類したが兵器類の工場 など軍事的用途の生産にかかわるものは軍事に分類した。 また、報道された件数ではなく訪れた施設の数をカウントした。1 つの記事の中で数か所訪 れているとの報道もあるので、報道件数よりも数が多くなっている。

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上述のように、先軍時代が続いているという認識があるとしても、「経済・核並進路 線」という経済重視の国家運営路線を採択した状況の下でのこの数年間の動きは、経 済をより活性化させる新たな路線が取られる可能性を示唆しているともいえよう。 (4)見えてきた北朝鮮式経済改革措置・「朝鮮式経済管理方法25 ①「朝鮮式経済管理方法」確立の流れ 先に、金正恩第1 書記の経済政策の特徴は継承と革新の二つの軸で見ることができ ると述べたうえで、政策目標をどのように継承したのかを記した。本項では、金第 1 書記の経済政策のもうひとつの特徴である政策手段の革新についてみる。 金第1 書記は、金正日時代の政策目標であった「人民生活の向上」を達成するため の政策を立案する一方で、既存の北朝鮮社会主義経済の管理運営にメスを入れ、それ を改革する方針を打ち出した。それはこれまでにない革新的なものであった。 北朝鮮では経済改革と呼ばず「朝鮮式経済管理方法の改善(措置)」と呼ばれる一連 の動きは、北朝鮮経済に内在するシステムに関する問題を解決するためのアプローチ であった。実はこのようなアプローチは、金正日総書記の時代にも試みられてきた26 のであった。 1995 年からの「苦難の行軍」を経た 2001 年、金正日総書記は、経済問題が解決し ない原因は経済に対する国家の指導と企業における管理運営が正しく行なわれていな いことにあると指摘し、社会主義原則を守りながら実利を得ることを核心的内容とす る経済管理方法を完成させることを指示した。これを受け、経済管理を改善するため の具体的な措置が取られたが、大きな成果を収めるにはいたらなかった27 金第1 書記は、北朝鮮経済立て直しのキーポイントとしてこの問題をとらえ、その 解決に向けた動きを見せた。 これまでの朝鮮式経済管理方法の確立に向けた動きをまとめると大きく3 つの段階 に分けることができる。 第1 段階は経済管理方法改善に対する強い意志を示し、その方向性を提示した段階 である。2011 年 12 月から 2012 年 6 月までがこれにあたる。 25 直訳すると「我われ(ウリ)式経済管理方法」となるが、ここでは意味を汲んで「朝鮮式経 済管理方法」とする 26 金正日「強盛大国建設の要求に即し社会主義経済管理を改善強化することについて」2001 年10 月 3 日(原文は非公開) 27 日本貿易振興機構『2014 年度最近の北朝鮮経済に関する調査』2015 年 3 月

図表 2  北朝鮮の GNI 成長率  出所:韓国銀行    韓国銀行の推計値が、韓国政府の対北政策を反映するものであると仮定するなら、 北朝鮮に厳しく臨む現政権の下では、経済状況について低目の評価をする傾向にある とも考えられよう。    一方で、北朝鮮経済はそれなりの成長を続けているという評価もある。このような 評価は韓国の北朝鮮経済専門家の一部からもでており、韓国銀行の推計は北朝鮮経済 を過小評価しており実態は推計値よりはるかに高いという分析 9 である。    このような分析は、UNICEF、WFP
図表 20  北朝鮮の発電量の推移  (単位:億 kWh)  出所:韓国統計庁  北朝鮮の電力部門では、発電設備の老朽化、季節や気候に左右される水力発電への 高い依存度が増産への足かせとなっているとの指摘もあり、これらの問題点に北朝鮮 がいかに取り組むかが電力事情改善のカギとなると思われる。  ②  軽工業部門の現状    金正恩第 1 書記は、2016 年の新年の辞で、軽工業部門の課題について「工場、企業 所の現代化を高い水準で実現し、原料・資材保障対策を立てて生産を活気を持って推 進し、世界的な競争力を
図表 31  羅先経済貿易地帯の企業投資誘致計画(2015 年)  企業名  内容  投資規模  ①  羅先総合食料 工場  機能性健康食品と有機緑色食品 敷地面積:2 万 3,552 ㎡  経営方式:合作または合営  経済効果:年間生産額 450 万ドル  投資回収期間:5.54 年 360 万ドル(相手側の投資 180 万ドル、 設備と技術)  ②  羅津栄誉軍人 日用品工場  石鹸、洗剤といった日用品 敷地面積:1 万 1000 ㎡  経営方式:合営または合作  経済効果:年間売上 52 万 3、00
図表 33  新義州国際経済地帯開発総計画図  出所:新義州地区開発総会社  (3)開発が進む特区の現状: 「元山―金剛山国際観光地帯」    韓国との観光協力事業地域であった「金剛山観光地区」は 2008 年以降観光中断とな り、北朝鮮は 2011 年に「金剛山国際観光特区」として金剛山を外国人観光に開放する 政策転換をおこなった。その後 2013 年 3 月 31 日の 党中央委総会で 金正恩第 1 書記は元 山市を観光地区として開発するよう指示があり、2014 年 6 月に最高人民会議常任委員 会の政
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