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第2章 北朝鮮の外資政策と外資系企業の現状

③ 投資誘致、投資者保護等に関する人材のさらなる育成

以上に挙げたような問題点は、国際的なビジネス慣行や契約の重要性、それらを遵守 することによって得られる国際的な信用についての知識を持った人材が少なく、国内的 なコンセンサスを得られないことが一因となっている。2000 年代以降、多くの政府や NPO が北朝鮮に対する人材育成を行っているが、経済開発区の設置などでより多くの 人材が必要になり、絶対数が不足するであろう。また、地理的範囲で見ても首都平壌だ けでなく、各地方にも国際ビジネスに精通した人材を育成していく必要があるが、優秀 な人材は平壌に集中しており、人材の地方間格差をなくす努力が国内的にも外部からの 支援としても必要である。

5.北朝鮮に進出している外資系企業の動向

(1)北朝鮮と外国との合弁企業の特徴

米国・CIAが運営する公開情報分析機関であるOpen Source Centerは、2012年3 月、北朝鮮に所在する外国との合弁企業の特徴を分析した報告書103を発表した。同報 告書は、各種報道やウェブサイト上の公開情報から収集したデータを取りまとめたも ので、2011年までのデータという限界はあるものの、北朝鮮に進出している外資系企 業の動向を知る上で有益な内容となっていることから、その概要について紹介する。

同報告書によれば、2011 年までに把握された北朝鮮と外国との合弁企業の総数は 351社で、総投資額は判明しているだけで23億2,000万ドルに達する。合弁相手先を 国別にみると、最多は中国で205社に上り、合弁相手先が判明している269社中76%

を占める。

103 “North Korea—Characteristics of Joint Ventures With Foreign Partners, 2004-2011”, Open Source Center, Mar., 2011.

図表 59 北朝鮮に所在する合弁企業の相手先(国別)

出所:Open Source Center、2011.

それに次ぐのが日本(15社)だが、この中には在日朝鮮人系企業との合弁も含まれ る。ただし、2006年以降実施されている日本政府の経済制裁により、合弁契約が解除 されている事例も多いとみられる。また、第3位は韓国(10 社)だが、これも2010 年から韓国政府が実施している経済制裁(「5.24 措置」)により、運営を中断したり、

北朝鮮側が他の合弁相手先と再契約して稼働を継続しているケースがみられる。

合弁相手先による投資規模は、5万6,000ドルから8億6,300万ドル(茂山鉄鉱山 開発に対する中国・延吉天池工業貿易有限公司の投資)まで幅があるが、平均規模は

1,500万ドルである。Open Source Centerが集計した投資規模1億ドル以上の合弁企

業は下表のとおりであるが、現在では事業を中断していたり、持分を転売した事例も みられる。

国名 企業数 分野

中国 205 鉱業、軽工業/消費財、重工業/建設、

食品/農業、物流、化学、貿易

日本 15 軽工業/消費財、化学、鉱業

韓国 10 自動車、軽工業/消費財、観光、鉱業

イタリア 7 重工業/建設、娯楽、食品/農業、食堂

英国 7 金融、電子、食品/農業、石油、食堂

シンガポール 4 鉱業、金融、食堂

オランダ 4 金融、電子、食品/農業、物流

ドイツ 3 IT、化学、物流

エジプト 3 IT、金融

米国 2 物流、重工業/建設

ロシア 2 物流、重工業/建設

オーストラリア 2 金融、鉱業

ポーランド 2 物流、食品/農業

タイ 1 IT

デンマーク 1 食品/農業

スイス 1 健康

その他/不明 82

図表 60 投資規模の大きい合弁企業

出所:Open Source Center、2011、各種報道

分野別にみると、鉱業を主とする合弁企業が全体の89%を占め、投資規模は判明分 の半分を超える13億ドルに達する。採掘される鉱物の種類は、鉄、銅、金、石炭、マ グネサイト、モリブデン、鉛、チタニウム、亜鉛などである。

設立年度が判明している合弁企業202社のうち、80%以上が2003年以降に設立さ れ、2006年の設立企業数は40 件を超えてピークに達する。この 2000年代に入って からの合弁企業数増加は、中国企業の参入によるものであり、2004年以前は中国との 合弁企業は全体の40%程度であったものが、2004年から2011年までの間に設立され た合弁企業では、167社中148社が中国を合弁相手先としていた。このような中朝合 弁企業の急増の背景には、2000 年以降の中朝関係改善やそれに伴う経済交流の増加、

中国政府による「東北振興」実施により東北三省(遼寧省、吉林省、黒竜江省)の経 済が成長したことなどが挙げられよう。Open Source Centerのデータでは、合弁相手 先の中国企業の大部分が北朝鮮と国境を接する遼寧省、吉林省に基盤を置く企業であ り、山東省、北京市、天津市がこれに続いている。

ただし、中国企業による北朝鮮への投資は、決して大規模とは言えない。中国側の 合弁相手先では最も大きな割合を占める遼寧省でも、2006年から2011年までの間に 外国に投資を行った企業303社中、北朝鮮への投資を行った企業はわずか9社(3%)

で、投資総額も計4億7,840万ドル中580万ドル(1.2%)にとどまった。

合弁企業名称 合弁相手先 分野 投資規模 契約年 現況

不詳(茂山鉄鉱山開発) 延吉天池工業貿易有限公司

(中国) 鉱業 8億6,300万ドル 2005年

2012年、北朝鮮側からの 採掘料引き上げ要求を受 けて開発を中断

チェオ合作会社 オラスコム・テレコム(エジプト) IT 4億ドル 2008年

「高麗リンク」のブランドで 携帯電話サービスを提供

羅先国際物流合営会社

琿春東林貿易有限公司 、琿 春辺境経済合作保税有限公 司(中国)

物流 1億5,700万ドル 2005年 北朝鮮核問題や資金難に より頓挫

祥原セメント合営会社 オラスコム・コンストラクション・

インダストリーズ(エジプト)

重工業/

建設 1億1,500万ドル 2007年

2007年12月、オラスコム社 がフランス・ラファージュ社 に持分を転売。事業は現 在も継続中

凱旋曙光鉱業合営会社 長白朝鮮族自治県曙光凱旋

鉱業有限公司(中国) 鉱業 1億ドル 2007年 不詳

東アジア貿易研究会は、北朝鮮・日本・韓国・米国の報道・公開資料から把握され たデータを元に、北朝鮮の合弁企業のうち、現在も運営されている可能性が高い企業 53社をリストアップした104。その内容は、次表のとおりである。

図表 61 北朝鮮の主要合弁企業一覧

アチム―パンダコンピュー ター合営会社

2002 年、北朝鮮電子工業省傘下の電子製品開発会社と中国の南 京熊猫電子集団との合弁により設立。タブレット PC「アチム」などを 生産・販売。

栄光家具合営会社

2004 年、北朝鮮建設建材工業省対外経済協助局と中国の吉林省 友誼進出口有限公司との合弁により設立。各種高級家具を生産・

販売。

乙支峰合作会社 設立年、合弁相手先は不詳。ヘアカラー用品などを販売。

海竜合作会社 2007 年設立、合弁相手先は不詳。プラスチック管などを生産・販 売。

華麗銀行

1997 年 11 月、北朝鮮の朝鮮中央銀行(持分 40%)と中国の中国人 民銀行北京分行・青島分行(持分 60%)との合弁により設立。資本 金 5,000 万ドル。中国との貿易決済などの外貨決済を取扱。

恵中鉱業合営会社

2007 年 11 月、北朝鮮採掘工業省と中国の萬向集団傘下の中鉱国 際投資有限公司との合弁により設立。登録資金は 4490 万ユーロ。

2011 年、恵山青年銅山開発プロジェクトに着手。

健康合作会社 設立年、合弁相手先は不詳。健康食品、医薬品を販売。

光明合作会社 設立年、合弁相手先は不詳。鋼管、継手を販売。

高麗―グローバル信用銀 行

2005 年、北朝鮮の高麗銀行(持分 30%)と英国の金融会社グロー バルグループ(持分 70%)との合弁により設立。企業への設備資金 貸付、投資相談、外貨送金などを取扱。

金剛オートバイ合営会社 設立年、合弁相手先は不詳。「金剛」ブランドのオートバイを生産・

販売。

国際鉄道連運合営会社 2014 年 6 月設立、合弁相手先は不詳。中朝国境鉄道を利用した貨 物輸送、貨車・部品を生産・販売。

新台ワイヤーロープ合作

会社 2006 年設立、合弁相手先は不詳。ワイヤーロープを生産・販売。

セヒマン合作会社

1994 年設立、合弁相手先は不詳。朝鮮緑山貿易総会社の傘下企 業。電子製品の加工、ホテル・食堂・ガソリン等のサービス業を運 営。

先鋒コスト合営会社

1995 年、在豪韓国人企業家であるチョン・ヨンス氏が経営するコス トグループが北朝鮮側に出資し、スポンジ・石鹸などの軽工業品生 産工場を運営。

104 これら企業は、前掲のOpen Source Centerのデータを基本とし、①北朝鮮の報道・公刊資 料(朝鮮中央通信、雑誌「FOREIGN TRADE」等)に過去2~3年以内に登場した企業、②日 韓の報道で近年の活動が把握されている企業、③2014年および2015年の「平壌秋季国際商品 展覧会」に出展した企業―等の条件を満たしたものをリストアップした。

大遠電池合営会社 設立年、合弁相手先は不詳。密閉蓄電池を生産・販売。

大同信用銀行

1995 年、北朝鮮の大聖銀行と香港のペレグリン・インベストメント・

ホールディングス社との合弁により「ペレグリン―大聖銀行」として 設立。1998 年に香港のオリエンタル・コマーシャル・ホールディング ス社がペレグリン社の持分を買い取り銀行名を変更。外貨取扱、

送金、貿易資金貸付などを取扱。

チェオ合作会社(高麗リン ク)

2008 年、北朝鮮の朝鮮逓信会社(持分 25%)とエジプトのオラスコ ム・テレコム社(持分 75%)との合弁により設立。北朝鮮国内におけ る携帯電話・通信ネットワークサービスを運営。

長生合作会社 設立年、合弁相手先は不詳。医薬品を販売。

朝鮮ウルリム運輸合営会 社

2004 年、北朝鮮の朝鮮ウルリム会社と中国の楽清市盛金快速汽 車服務有限公司との合弁により設立。中朝間の国際旅客バスを運 行。

朝鮮マラナタ信用会社

2007 年 2 月、北朝鮮財務省(持分 50%)とオーストラリアのマラナタ 信託会社(持分 50%)との合弁により設立。主に北朝鮮の小企業 や自営業者向けに、金利 12%で平均 2000 ユーロの小規模貸付を 実施。

朝鮮英超建材品合営会社

2004 年、北朝鮮建設建材工業省建材貿易会社と中国の長春市英 超科技有限責任公司、吉林省紡織品進出口公司との合弁により 設立。石綿スレートなどを生産。

朝鮮銀豊合営会社 2006 年、北朝鮮の朝鮮銀波山貿易会社と中国の遼寧禾豊牧業股 份有限公司との合弁により設立。飼料添加剤を生産。

朝鮮ポムヒャンギ合作会 社

設立年、合弁相手先は不詳。「ポムヒャンギ」「金剛山」ブランドの化 粧品を生産・販売。

朝鮮清津輸城川合作会社 設立年、合弁相手先は不詳。塩化ビニールプラスチック管、工業珪 素などを生産・販売。

朝鮮密営合弁会社

2007 年 5 月、北朝鮮側と中国の中橋鉱業有限公司との合弁により 設立。屋根葺材、遮熱複合板、C 形鋼、発泡樹脂、I 形鋼などの乾 式建材類を生産・販売。

朝鮮万年製薬合営会社 設立年、合弁相手先は不詳。医薬品、健康食品の生産・販売。

朝鮮建生合作会社 設立年、合弁相手先は不詳。小公園の形成図の 3D 設計・施工を 受注。

朝鮮妙香天好合作会社 設立年、合弁相手先は不詳。「未来」ブランドの化粧品を生産・販 売。

朝鮮金平合営会社 2014 年 3 月、北朝鮮の応陽貿易会社と中国の資参堂実業集団と の合弁により設立。「クムメ」ブランドのトラックを生産・販売。

朝陽紡織合営会社 2009 年 6 月、北朝鮮側と中国の河北宇康紡織有限公司との合弁 により設立。タオルなどの繊維製品を生産・販売。

徳中自動車合作会社 2013 年 6 月設立、合弁相手先は不詳。勝利自動車連合企業所構 内の組立工場で「勝利」ブランドの各種トラックを組立生産・販売。

ネコヒャン合作会社 設立年、合弁相手先は不詳。「ネコヒャン」(わが故郷)ブランドの北 朝鮮国産タバコを生産・販売。

ノウル技術合作会社 2014 年設立、合弁相手先は不詳。「ノウル」(夕焼け)ブランドの北 朝鮮国産タブレット PC を生産・販売。

ノソテーク(Nosotek)

2007 年、ドイツ人 IT 専門家であるヴォルカー・エロエサーがスイス 人ビジネスマンのフェリックス・アブトの協力を受けて北朝鮮側との 合弁の形で設立。コンピューター用ゲームソフトなど各種ソフトウェ アを開発。

ハナ電子合営会社

2003 年、北朝鮮文化省(持分 50%)と香港に本社を置く欧州系投 資会社フェニックス・コマーシャル・ベンチャーズ社(持分 50%)との 合弁により設立。フェニックス社は、2015 年 9 月に合弁契約を終了 したと発表。DVD プレーヤー、スピーカーなどの電子音響製品やコ ンピューターを生産・販売。