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第1章 北朝鮮の経済政策と経済・産業の現状

⑤ 通信・IT 部門の現状

北朝鮮では、1998年、タイのロックスレー・パシフィック社と朝鮮逓信会社との合 弁会社「東北アジア電気通信会社」が羅津・先鋒経済貿易地帯(当時)に移動電話500 回線と無線呼び出し1500 回線を設置し、移動通信が初めて開通した。その後、2008 年にエジプトのオラスコム・テレコム社との合弁による「高麗リンク」が第3世代移 動通信システム(3G)による携帯電話サービスを開始し、携帯電話加入者が急増、2009

年の6万9,000人から2014年には人口(2,466万人)の1割以上の280万人にまで

達した72

この間、高麗リンクは北朝鮮で事実上唯一の移動通信会社であったが、同社以外の 移動通信会社が設立されたとの未確認の情報もある。2011年から2012年頃に「強盛 ネット網」と称する北朝鮮独自の移動通信ネットワーク

が設置され、平壌以外の地方でも全国的にサービスを提 供しているという73。また、2015年には、これまで平壌 在住の外国人に有線でのインターネット接続サービス を提供してきた「ピョル(星)」と称する国営の移動通 信会社が、新たに北朝鮮住民を対象としたサービスを提 供することになったと伝えられた74

携帯電話の機種も多様化し、スマートフォンの普及も 進んでいる。金正恩第1書記は、2013年8月に平壌市 の「5月11日工場」を訪問し、新型スマートフォン「ア

72 韓国統計庁「2015北韓の主要統計指標」(201512月)

73 南北交流協力支援協会「南北交易ニュースレター」20142月、東洋経済オンライン2015 727日付

74 自由アジア放送201578日付

北朝鮮住民が使用している スマートフォン

(2015 年 9 月撮影)

リラン」の生産工程を視察した75。また、2014年には「ピョンヤン」シリーズのスマ ートフォンが「ピョンヤン・タッチ」の愛称で平壌市民の人気を集めているとも伝え られた76。ただし、これらの機種は、実際には中国から輸入した部品をローカライズ して組立生産したり、旧式の外国製品をベースにコピー生産を行っているとの指摘も ある77

図表 23 北朝鮮のスマートフォンのスペック

アリラン ピョンヤン

プロセッサ A5、1.2GHz A9、1.0GHz

メモリ 768MB SDRAM

4GB 内蔵メモリ 256MB SDRAM

512MB 内蔵メモリ

ディスプレイ 4.3インチ TFT-LCD 3.5インチ TFT-LCD カメラ 正面 200万画素

背面 800万画素 背面 200万画素 バッテリー Li-Ion 1900mAh Li-Ion 1450mAh

OS Android 4.0 Android 2.3

ネットワーク 無線インターネット、Wi-Fi使用不可 出所:金旼寛「北韓の IT 産業技術水準分析および南北協力方案」

また、北朝鮮では2012年頃からタブレットPCの生産を開始し、現在では「アチム

(朝)」(アチム―パンダコンピューター合営会社)、「アリラン」(平壌情報センター)、

「三池淵」(朝鮮コンピューターセンター)、「竜興」(竜岳山情報技術交流所)、「妙香」

(ピョンジェ会社)、「ノウル(夕焼け)」(ノウル技術合作会社)、「大洋」(海洋銀河情 報技術交流社)の 7 シリーズが把握されている78。これらについても、輸入した中国 製の部品に若干の改良を加えて組立生産を行っているにすぎず、技術レベルは韓国に 比べて5年以上遅れているとの評価もある79

75 朝鮮中央通信2013810日付

76 朝鮮新報201443日付

77 金旼寛「北韓のIT産業技術水準分析および南北協力方案」KDB産業銀行ウェブサイト、

20151020日付

78 金旼寛前掲論文および訪朝者が撮影した第10回平壌秋季国際商品展覧会(20149月)出 展企業ブースの写真(東アジア貿易研究会所蔵)

79 金旼寛前掲論文

図表 24 北朝鮮のタブレット PC のスペック

アチム アリラン 三池淵 竜興 妙香 ノウル 大洋 画面

サイズ

7インチ 7インチ

10インチ 7インチ 7インチ 9インチ 7インチ 不明

CPU 不明 1.5GHz 1GHz 1GHz 1GHz

デュアルコア

1.2GHz

4 Core 1.3GHz

デュアルコア 内蔵

メモリ

4GB 16GB 4GB 8GB

16GB 8GB

16GB 16GB 8GB

16GB

出所:金旼寛「北韓の IT 産業技術水準分析および南北協力方案」、東アジア貿易研究会

ロ.インターネットとイントラネット

北朝鮮でのインターネット使用は制限されているものの、接続は可能である。北朝 鮮のインターネット接続は、平壌―中国・丹東間の光ファイバー回線を通じて行われ ている。ただし、実際に利用する階層は政府機関関係者や研究機関所属の研究者など に限られている。なお、外国人も無線・有線インターネットを利用することができる。

一般の住民は、国内向けのイントラネット「光明網」(1997年2月開通)を利用す ることができる。光明網は、逓信省と人民保安省の監督の下で、朝鮮コンピューター センターが運営している。光明網のポータルサイト「光明」からは、朝鮮中央通信や 労働新聞などの新聞・放送サイト、科学技術資料の閲覧、電子メールの使用が可能で ある。「高麗リンク」によって3Gサービスが開始されて以降、光明網の利用は飛躍的 に増加しており、オンラインゲーム(囲碁、将棋など)、電子商取引も可能となってい る80

80 聯合ニュース201598日付

「ノウル」シリーズのタブレット PC(2014 年 9 月撮影)

3.経済・主要産業の課題と今後の見通し

(1)主要産業の現状にもとづいた問題点および今後の課題