第1章 北朝鮮の経済政策と経済・産業の現状
① 石炭・金属・化学および電力部門の現状
韓国のシンクタンク「北韓資源研究所」の推計43によれば、北朝鮮の石炭生産量は 近年増加を続けてきたが、2014年は、2013年の2,634万2,000トンから微減の2,538
万3,000トンとなった。この理由について、北韓資源研究所は、「内需は若干増加した
ものの、対中輸出が減少」したためと分析している44。
図表 14 北朝鮮の石炭生産量と需要量推計
(単位:1,000 トン)
出所:北韓資源研究所
上記の分析によると、北朝鮮の石炭生産量に対する輸出量の割合は、2010 年の
29.3%から2013年には62.8%と急速な伸びを示したが、2014年には60.9%と若干下
落した。一方、生産された石炭の国内産業(発電、工業)における使用量は、これら の産業分野で顕著な成長がないことから、増加していないものとみられる。
ただし、北朝鮮の 2014 年の石炭生産量は前年より若干増加しているとのデータも ある(韓国統計庁45、2013年の 2,660 万トンから 2,709 万トンに増加)。韓国産業銀 行は、石炭生産が持続的に増加している理由として、中国・ロシアなどの外国企業の
43 北韓資源研究所「北朝鮮の石炭生産量推定と展望」(2015年7月)
44 石炭を含む北朝鮮の主要な鉱種埋蔵量および無煙炭の主要な炭田・炭鉱については、ジェ トロ「2014年度最近の北朝鮮経済に関する調査」(2015年3月)p.p.135-137参照
45 韓国統計庁「2015北韓の主要統計指標」(2015年12月)
2010年 2011年 2012年 2013年 2014年 15,868 20,813 21,565 26,342 25,388
4,641 11,173 11,874 16,549 15,470 29.3% 53.7% 55.1% 62.8% 60.9%
10,472 8,650 8,665 8,539 8,710 民需 2,341 1,883 1,836 1,589 1,605 発電 5,397 4,140 4,192 4,297 4,402 工業 2,734 2,627 2,637 2,653 2,703 生産量(A)
輸出量(B)
B/A 国内需要量 内訳
投資によって設備・輸送手段などの整備・更新が行われたことを主な原因として指摘 している46。
ロ.金属工業の現状
韓国統計庁47によれば、2014年における北朝鮮の鉄鉱石生産量は547万1,000トン、
粗鋼生産量は122 万トンと推計されている。鉄鉱石生産量は2000年以降増加傾向を 続けており、近年では輸入に依存するコークスを使用しない「主体鉄」生産システム を確立したとされるが、粗鋼生産量はほぼ横ばいであり、製鉄・製鋼・圧延鋼材の生 産能力についてもこの間顕著な改善はみられないというのが韓国側の評価である。
図表 15 北朝鮮の鉄鉱石・粗鋼生産量の推移
(単位:1,000 トン)
出所:韓国統計庁
46 韓国産業銀行 「北韓の産業 2015」 p.781
47 韓国統計庁「2015北韓の主要統計指標」
0 1,000 2,000 3,000 4,000 5,000 6,000
2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014
鉄鉱石生産量 粗鋼生産量
図表 16 北朝鮮の鉄鋼工業生産能力の推移
(単位:1,000 トン)
出所:韓国統計庁
ハ.化学工業の現状
韓国統計庁48によれば、2014年における北朝鮮の化学肥料生産量は50万1,000 ト ンで、生産能力(224万9,000トン)の4分の1に満たない。2000年以降、生産能力・
生産量ともに大幅な改善はみられないが、北朝鮮が化学肥料(窒素肥料)の主要調達 先としている中国からの対北輸出量は近年減少傾向にあり、北朝鮮国内での生産が回 復している可能性もある。
図表 17 北朝鮮の化学肥料生産能力・生産量の推移
(単位:1,000 トン)
出所:韓国統計庁
48 韓国統計庁「2015北韓の主要統計指標」
3,000 3,500 4,000 4,500 5,000 5,500 6,000 6,500 7,000
2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014
製鉄 製鋼 圧延鋼材
0 500 1,000 1,500 2,000 2,500
2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014
生産能力 生産量
図表 18 中国の対北窒素肥料(HS3102)輸出量の推移
(単位:1,000 トン)
出所:GTA.
ニ.電力部門の現状
北朝鮮は、工業生産力回復と住民生活向上に不可欠な電力の増産を経済建設におけ る主要課題として掲げており、2015年には2カ所の大規模水力発電所(白頭山英雄青 年発電所、清川江階段式発電所)を完工、2016年の金正恩第1書記の新年の辞でも経 済建設における課題の冒頭で電力問題解決に言及している。しかし、下表で示すよう に、北朝鮮の発電設備容量、発電量のいずれも、2000年以降顕著な改善がみられない のが実情である。
図表 19 北朝鮮の発電設備容量の推移
(単位:1,000kW)
出所:韓国統計庁
2010 2011 2012 2013 2014 2015.1-11
287.246 350.641 237.679 189.944 131.786 66.987
0 1,000 2,000 3,000 4,000 5,000 6,000 7,000 8,000 9,000
2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014
水力 火力 計
図表 20 北朝鮮の発電量の推移
(単位:億 kWh)
出所:韓国統計庁
北朝鮮の電力部門では、発電設備の老朽化、季節や気候に左右される水力発電への 高い依存度が増産への足かせとなっているとの指摘もあり、これらの問題点に北朝鮮 がいかに取り組むかが電力事情改善のカギとなると思われる。