第2章 北朝鮮の外資政策と外資系企業の現状
① 羅先経済貿易地帯
北朝鮮最初の経済特区として1991年12月に公表された羅先経済貿易地帯は既に25 年の歴史を持つ。北東アジアの貨物中継基地、輸出加工工業基地、金融・観光・サービ ス基地を目標として開発を推進して来たが、2010年までの20年間に大きな進展はなか った。しかし、2010 年の金正日総書記(当時)の訪中により中朝政府間で「中朝共同 開発・共同管理」方式による開発が行われるようになった。中朝共同管理委員会が設立 され、中国企業の投資が活発化し、セメント工場の着工や中国産自動車の組み立て工場 の設立など一定の進展があった。2011 年には中国国有企業の商地冠群投資有限公司が 羅先経済貿易地帯に20億ドルを投資し、火力発電所、道路、タンカー専用埠頭、石油 精製工場、製鉄所の建設計画が入った投資意向書を締結したこともあった81。しかし、
中朝間の経済協力の責任者であった張成沢が粛清されたことによって中朝共同開発の 動きは2015年まで大きな進展はなかった。ただ、この間に法制度とインフラ開発や工 業地区の開発計画などが整備されるようになった。
図表 25 羅先経済貿易地帯開発計画(2011 年)
出所:羅先市人民委員会経済協力局、2011 年
81 韓国中央日報 2011年1月6日付
図表 26 羅先経済貿易地帯の工業地区開発計画(2011 年)
出所:羅先市人民委員会経済協力局、2011 年を参考に作成
2015年に入り、2011年の計画が大きく修正され、「中朝共同開発・共同管理」方式 から北朝鮮の独自性が強化された新しい開発計画が発表された。すなわち、北朝鮮の対 外宣伝用ウェブサイト「ネナラ」が2015年11月18日に羅先経済貿易地帯における産 業区、観光地、国内企業などの開発・投資項目などを具体的に盛り込んだ開発計画を掲 載した。その概略を整理すると以下の通りである。
イ. 工業地区の開発計画
工業地区の開発計画は以下のように変更された。
図表 27 羅先経済貿易地帯の工業地区開発計画(2015 年)
出所:「ネナラ」掲載資料を参考に作成
1段階 新興(200ha) 軽工業 羅津地区 新興 軽工業 東明(20ha) 履物、織物 東明 IT
昌平(60ha) 船舶 昌平 造船・修理
清渓(20ha) 被服 清渓 電子
先鋒 白鶴(200ha) 電子 有硯 保税貿易
2段階 雄尚 雄尚 木材 先鋒地区 白鶴 先端技術
(1996-2000) 先鋒 関谷(370ha) 石油化学 関谷 石油化学
3段階 羅津 後昌(200ha) 食料、紡織 中硯 軽工業
(2001-10) 洪義 洪義(180ha) 金属、機械 雄尚地区 雄尚 木材
計 計
1 9 9 3 年 1 1 月 計画 2 0 1 1 年 8 月 計画
羅津 (1993-95)
9カ所の工業区域 9カ所の工業区域
投資規模
羅津地区 新興 軽工業 総合物流 n.a.
東明 IT 軽工業、先端産業 2億7,243万ドル
昌平 造船・修理 軽工業、商業区 3億5,315万ドル
清渓 電子 金融、国際商業区 12億1,320万ドル
有硯 保税貿易 総合的工業区 44億9,900万ドル
先鋒地区 白鶴 先端技術 石油化学 2億 542万ドル
関谷 石油化学 建材工業、木材加工 17億6,766万ドル
中硯 軽工業 先端産業、農業加工 8億4,549万ドル
雄尚地区 雄尚 木材 軽工業、対ロ物流 6,067万ドル
計 9カ所の工業区域 92億1,693万ドル
2 0 1 1 年 8 月 計画
9カ所の工業区域
2 0 1 5 年 1 1 月 報道 羅津港物流産業区(8km2)
新興軽工業区(0.54km2) 安和・東明開発区(0.7km2)
安州国際産業区(3km2)
雄尚開発区(4.37km2)
九龍平・屈浦開発区(2.09km2) 豆満江開発区(0.15km2)
白鶴工業区(22km2)
計
関谷工業区(1.65km2)
上記の図表27で分かるように2015年の新計画では合計92億1,693万ドル(羅津港 計画を除く)の投資計画となっている。この計画には物流基地として羅津物流産業区と 豆満江開発区が、そして金融・商業の安州国際産業区、農業加工の九龍平・屈浦開発区 が新しく設置されている。このような内容は北朝鮮が中国との共同開発だけでなくロシ アや韓国との物流連携を盛り込んだものであり、独自的に産業開発を進めようとする政 策の結果であると考えられる。
ロ. インフラ投資項目
工業地区の開発計画は以下のように変更された。
図表 28 羅先経済貿易地帯のインフラ建設計画(2015 年)
2011 年 計画 2015 年 計画 空港 清津市三海里に国際空港建設
羅津のヘリポート改修
清津市三海里に国際空港建設 羅津と先鋒地区にヘリポート建設 羅津港 当面段階:年間 940 万トン処理能力
将来:年間 4,500 万トン計画
年間 1 億トン処理能力の総合的国際物 流港
先鋒港 当面段階:年間 500 万トン処理能力 将来:年間 800 万トン計画
年間 2,000 万トン処理能力の工業港
雄尚港 当面段階:年間 100 万トン処理能力 将来:年間 500 万トン計画
年間 500 万トンのバラ積み貨物港
下水道 - 地下暗渠式に更新、汚水処理網建設
上水道 水源 64 万 m2 貯水池造成 貯水池補強・新設、給水システム完成 電力 所要電力 877,000kw 保障
(先鋒火力 40 万 kw、自然エネルギー)
先鋒火力改造、火力発電新設
自然エネルギー発電で 100 万 kw 造成 通信 地下ケーブル化、ダクト化完成
将来通信 29 万回線
同左
鉄道 羅津~豆満江線、先鋒~元汀線新設 都市迂回の新路線建設 道路 羅津~元汀高速道路
羅津~先鋒~雄尚~豆満江高速道路 青鶴~豆満江高速道路
同左
暖房 羅津・雄尚:80%を電気暖房
先鋒:80%を発電所からの温水暖房 地熱・太陽熱・メタンガス利用
同左
出所:各種資料から整理
上記の図表28から分かるように2015年の計画は2011年の計画と比べて港湾建設分 野を除けばそれほど変わってはいない。羅津港と先鋒港の建設計画は2011年の計画を はるかに超えているが、実はこの2015年計画は20年前の1995年9月に北朝鮮の「対 外経済協力推進委員会」が北京で初めての「国際投資説明会」を開いて発表したインフ ラ建設計画の踏襲である。1995年の計画では羅津港を2010年までに年間貨物処理能 力1億トンに拡張し、先鋒港は1,500万トンに拡張することとなっていた。2011年の 時の中朝共同開発の計画は港湾能力目標を現実的に抑えたものの、2015年に北朝鮮が 発表した修正計画は20年前の計画に戻り非現実的な目標数値を提示したと見られる。
図表 29 1995 年に発表された羅津・先鋒地域のインフラ建設計画の主要内容
出所:朝鮮対外経済協力推進委員会『羅津・先鋒自由経済貿易地帯:投資環境』、1995 年 9 月 第1段階(~2000) 第2段階(2001-2010)
・南陽~鶴松間(92km)電鉄化(1995年完了) ・羅津~訓戎間(122.5km)に複線鉄道建設
・豆満江駅~ハサン間(580m)に混合線の鉄道橋新設 ・羅津~造山里間(49.5km)に広軌複線鉄路建設
・三峰~開山屯間(4km)鉄道連結
・造山里駅建設(豆満江駅隣接) ・清津~会寧~南陽~羅津間の駅施設自動化
・羅津~造山里(豆満江近郊)間(49.5km)広軌鉄路新設
・会寧~鶴松間の軽量レール交替、直線化
・訓戎~琿春間に鉄道橋建設(中・朝共同)
→ 羅津~豆満江間の輸送能力3百万tとする → 輸送能力を6千万トンに高める
・元汀橋税関建設(1995年完了) ・高速道路建設
・道路拡張(6~7m → 9~12m) 清津~羅津~豆満江間(114km)
清津~会寧間(80km) 清津~会寧間(75km) 清津~羅津間(90km) 羅津~セッビョル~南陽間
羅津~セッビョル間(110km)
先鋒~豆満江間(9km)
・高速道路建設
恩徳~元汀間(7km)
→ 年間輸送量を700万トンに高める → 年間輸送量を2,840万トンに高める
羅津港 ・4号埠頭、5号埠頭新設 ・コンテーナ専用の6、7号埠頭新設
年300万トン → 貨物通過能力を1,700万トンに拡張 → 貨物通過能力1億トンに拡張 港 先鋒港 → 原油取扱能力を400万トン以上にする → 1,500万トンに拡張
年260万トン
清津西港 → 1,000万トンに拡張 湾 年700万トン
清津東港 → 1,000万トンに拡張
年100万トン
・先鋒の鮒浦里に国際空港建設 (2,500m) ・空港拡張 (4,000m×2)
→ 旅客(年1,200万人) → 旅客(年2,000万人)
→ 貨物(年100万トン) → 貨物(年150万トン)
・先鋒火力発電所(20万kW)を40万kwに拡張
・羅津火力発電所(30万kW、石炭)建設 鉄道建設
道路建設
空 港
電 力
ハ. 観光地開発
既存の観光開発計画より2015年計画が進んだ内容は、MICE(マイス:企業会議・
インセンティブ観光・国際会議・展示事業)産業を観光の中心として位置づけた点であ る。その内容は以下の通りである。
図表 30 羅先経済貿易地帯の観光地開発計画(2015 年)
観光地名 内容 投資規模
① 琵琶島生態観光区 海辺観光、会議および展示場(2km2) 8 億 900 万ドル
② 休暇・別荘村 海水浴、ゴルフ、伝統医薬治療(1km2) 4 億 400 万ドル
③ ヘサンクム観光地区 屋外テーマパーク(0.8km2) 3 億 2,360 万ドル
④ 新海国際会議区 国際会議、海水浴、海上戦闘シーン観 光(6.2km2)
25 億 790 万ドル
⑤ チャンジンドン植物園 植物園(6km2) 12 億 2,700 万ドル
⑥ カルムダン海水浴場 0,5km2 2,225 万ドル
⑦ 雄尚海洋対幾観光地 マリンスポーツ・海水浴(2km2) 4 億 900 万ドル
⑧ 牛岩日の出眺望観光地 アドベンチャー、海水浴(6km2) 4 億 2,700 万ドル
⑨ 思郷山登山観光地 朝鮮の歴代指導者たちの歴史を学び、
羅先市を俯瞰する施設を建設
6,450 万ドル
⑩ 小草島遊覧船観光 羅津湾と市内を眺める遊覧船観光 6,900 万ドル 合計 10 カ所の観光地 62 億 6,375 万ドル 出所:「ネナラ」掲載資料を参考に作成
上記の図表30から分かるように、10カ所の観光地開発は既存の計画ではなかった会 議・展示・テーマ観光などを盛り込んでおり、62億ドルを超える膨大な投資(誘致)
を推進している。
ニ. 企業への投資誘致
北朝鮮は、羅先特区の国内企業のうち外資誘致を希望するリストを公開し、投資項目 に対する具体的な内容と投資誘致希望額を明らかにした。インフラ建設や観光地開発に 比べ投資誘致を希望する会社の数や投資規模が少なく、軽工業分野と温室栽培、ホテル 分野に限られている。企業投資はまずは実現可能な小規模の軽工業分野を中心に外資を 誘致したいという政策と見られる。企業投資誘致の詳細内容は以下の通りである。