修 士 論 文 概 要 書
提出
2008
年2
月 学籍番号3606U020–1 CD
専門分野 情報・ネットワーク専攻
研究指導 情報システム設計研究
氏 名
大平 英貴
指 導
教 員
戸川 望 印
研 究
題 目
歩行者ナビゲーションにおける道路標識による現在位置測位手法に関する研究
1 まえがき
現在の歩行者ナビゲーションにおける測位方式は
GPS
を 使った手法が一般的であるが,歩行者ナビゲーションにお けるGPS
機能には,カーナビゲーションシステムのよう な測位した位置の補正機能は無く,建物等によるGPS
信号 の遮蔽やマルチパス,利用可能な衛星の制限等によって位 置測位の精度は著しく低下する.そこで,我々はGPS
誤差 の補正を目的とした位置測位システムを提案している.本 システムは既存のインフラ・デバイスであるカメラ機能付 き携帯電話,GPS,地図サーバによって構成される.地図 サーバは携帯電話で撮影された道路標識画像を識別し,そ の道路標識が目視できる位置に利用者が存在しているとい う観点からGPS
誤差範囲を絞り込み,位置を測位する.本 システムの最も重要な処理の1
つが道路標識の識別である.道路標識の識別はシステムのレスポンスと正しい位置測位 の観点から,高速化・高精度化が必要となる.利用者の僅 かな負担増で識別精度を上げるという目的から,道路標識 が画像の中心に撮影されているという考えを利用した道路 標識識別手法を提案する.
2 道路標識画像を用いた現在位置測位
本システムは既存のインフラ・デバイスであるカメラ機能 付き携帯電話,GPS,地図サーバによって構成される.本 システムでは,以下の手順によって位置を測位する.携帯 電話によって撮影された道路標識画像と
GPS
による位置情 報を地図サーバへ送る.地図サーバは,受信した画像から 道路標識を識別する.ユーザの位置は撮影した道路標識が 目視できる範囲であるという観点から,受信したGPS
誤差 範囲を道路標識の位置や道路標識が目視できる範囲によっ て絞り込むことで利用者の位置を測位する.1
回の撮影画像 で位置を測位できない場合,ユーザに新たな道路標識の撮 影を要求し,前回撮影された道路標識と今回撮影された道 路標識の中で位置が最も近い道路標識を求めることや,新 たに絞り込んだ位置と前回までに絞り込んだ位置の論理積 をとることで位置を測位する.論理積が空集合となった場 合,データを閉じた領域ごとに分割し,前回データの領域 と新たに得た領域との中で最短距離の領域を求めることで 位置を測位する.これにより低コストの位置測位が可能と なる.実行例を図1
に示す.(a)
(b)
(c)
図1:複数枚の撮影画像を用いた場合の測位手法
((a)1回目の入力,(b)2回目の入力,(c)出力).
3 道路標識の撮影手法と識別手法
提案する位置測位システムでは,利用者の僅かな負担増 で識別精度を上げるという目的から,道路標識が画像の中 心に撮影されているという考えを利用する.そこで,本論 文ではこのような考えを積極的に利用することで道路標識 の高速化・高精度化をする手法を提案する.本手法では,ま ず,携帯電話で撮影された道路標識画像を地図サーバが受 信する.地図サーバは受信した画像に撮影されている道路 標識の色の特定,ハフ変換による道路標識の形状の特定,
テンプレートマッチングによるシンボルの特定を実行する ことで道路標識を識別する.撮影画像の送信ではシステム の実行時間が
3
秒以内に収まるように利用者が撮影画像を 送る時に画像を低解像度化することによって通信データを 削減し,通信時間を抑制する.道路標識の色の特定ではガ ウシアン関数を用い,中心に近い画素に重みを付けることで晴天や夕焼け等の背景であっても高精度の識別を可能に する.道路標識の形状の特定ではエッジの方向を用いるこ とでハフ変換の高速化を可能にする.このうち円形の道路 標識では,標識が画像の中心に撮影されていることから画 像の中央を中心とする極座標上において,一定の半径に値 が集中することを利用する高速化手法を提案する.テンプ レートマッチングでは道路標識の色と形状によって候補を 絞り込むことによって高速化する.
4 シミュレーションによる評価
道路標識識別のシミュレーションにおいて,撮影された 道路標識の形状を正しく識別できた割合は
100%,画像を受
信してから標識の形状を識別するまでの実行時間は47[ms]
であった.38種類のテンプレートを用いた時のテンプレー トマッチングの結果,撮影された道路標識のシンボルを正 しく識別した割合は
95.7%
であった.画像を受信してから テンプレートマッチングによって標識のシンボルを識別す るまでの時間は87[ms]
であった.受信する画像は32 × 32
画素のjpeg
画像であり,高々32× 32 × 16[bit] = 16384[bit]
程度の通信量なので,FOMAの通信速度が
384[kbps]
であ ることを考えると通信時間は42.7[ms]
であり3
秒以内に利 用者に結果を返すことは可能であると考えられる.様々な 環境での道路標識識別結果を図2,図 3,図 4
に示す.位置測位システムのシミュレーション結果を表
1,表 2,
表
3
に表す.この結果から,GPSの誤差範囲内には道路標 識の数は12.181915[枚]
であり,ユーザの位置を測位するに は位置の候補を絞り込みきれないことがわかる.ユーザが 次の道路標識を撮影するために歩く範囲内の道路標識の平 均数は位置を特定できる1
に近いが,2
回の撮影による位置 測位の確率は61.037555[%]
程度となった.これは,同一の 道路標識が付近に存在している場合がほとんどであり,一 定範囲内に道路標識が全く無い,もしくは同じ標識が2
つ 以上あるという場合がほとんどで,結果的に道路標識の平 均数が1.365250[枚]
になったと考えられる.図2:晴天の環境においても道路標識の識別に成功している例
(左から入力画像,画像処理結果,識別したテンプレート)
図3:暗闇の環境においても赤色の道路標識の識別に成功している例
(左から入力画像,画像処理結果,識別したテンプレート)
図4:道路標識の中心と撮影画像の中央との誤差が
大きい画像において道路標識の識別に成功している例 (左から入力画像,画像処理結果,識別したテンプレート)
表1:一定範囲内に存在する道路標識画像の平均数
道路標識の数平均[枚]
GPSの誤差範囲内 12.181915 ユーザが次の道路標識を 1.365250 撮影するために歩く範囲内
表2:道路標識画像による位置測位の確率
シンボル[%] 色・形状[%]
1回の撮影による 22.432975 14.479667 位置測位の確率
2回の撮影による 61.037555 50.241197 位置測位の確率
一定範囲内に1回に
撮影された道路標識と 19.630339 19.193012 異なる道路標識が
存在しない確率
表3:提案手法による撮影された道路標識識別の
正答率を考慮した道路標識画像による位置測位の確率 シンボル[%] 色・形状[%]
(シンボル識別率 (色・形状識別率
95.7[%]) 100[%]) 1回の撮影による 21.4683571 14.479667
位置測位の確率
2回の撮影による 58.4129401 50.241197 位置測位の確率
5 むすび
本論文では歩行者ナビゲーションにおいて,ユーザが撮 影した道路標識画像を用いて
GPS
の誤差を補正する位置 測位システムを提案した.今後の課題として位置測位精度の向上が挙げられる.
研究業績 研究会
1. 大平 英貴,戸川望,柳澤政生,大附辰夫, 歩行者ナビゲーションに おけるGPS誤差補正のための道路標識による現在位置測位手法,”
信学技報,ITS2007–28, pp. 27–32, 2007.