浸潤性膀胱癌の化学塞栓療法における
CT angiographyの有用性について
石
橋
明
博
は じ め に 筋層浸潤を伴う膀胱癌に対する治療として, 外科的手 術, 化学療法, 放射線療法などがある. 癌の栄養動脈内に 抗癌剤を直接注入する化学動注療法は, 病変局所の抗癌 剤濃度を上げ, かつ全身性の副作用を軽減する. 現在肝 細胞癌の化学動注療法に CT angiography(CTA)を用い た検査・治療が広く行われているが, 本研究ではこれを 膀胱癌の化学塞栓療法 (TACE) に応用し,膀胱病変の栄 養動脈の評価と治療に対する CTA の有用性を検討した. 方 法 膀胱腫瘍に対し血管造影を施行された 45歳から 86歳 の男性 12例, 女性 8例の合計 20例を対象とした. 19 人 は T3 (膀胱腫瘍周囲の筋層肥厚を伴う),1人は T2(筋層 肥厚を伴わない) であり, 腫瘍径は 15mmから 60mmで あった. 4French のショートシースとカテーテルを用いて経大 動脈的に骨盤内動脈の血管造影が行われ, さらに膀胱 動脈の選択には 3Frenchのマイクロカテーテルが 用 された.CT angiographyシステム (AG-CT ミヤビ・シー メンス社製) を用いて通常の血管造影と CTA を施行し た. 膀胱動脈に用手的に造影剤を注入し, 5秒後から膀胱 の CT スキャンを開始した. 腫瘍の栄養血管が同定され た場合, マイクロカテーテルより cisplatin (症例により 40mg から 100mg) が注入された. 複数の栄養動脈をもつ 大きな病変には 割して動注が行われた. 治療効果は外 科手術あるいは 1ヵ月後の膀胱鏡・CT 検査の組み合わせ により評価された. 結 果 20例のうち 18例で膀胱動脈が同定された. 1例は動 脈 化による膀胱動脈の閉塞, 1例は技術的困難により マイクロカテーテルの挿入が不可能であった. 通常の血 管撮影は前後像と斜位像が撮影された. 膀胱動脈の同定 には前後像が, 膀胱動脈の選択に際して膀胱動脈起始部 の同定には斜位像が有用であった. 16例では通常の血管 造影で腫瘍濃染は同定困難であったが, CTA により病 変部の明瞭な描出を得た (Fig.1). 多くの症例で血管撮影 像上, 内陰部動脈, 子宮動脈, 精囊動脈, 膣動脈と膀胱動 脈の鑑別が困難であったが, CTA 像上, 造影領域から膀 胱動脈の同定が可能であった. 79 Kitakanto Med J 2006;56:79∼80 1 群馬県前橋市昭和町3-39-22 群馬大学大学院医学系研究科核医学 平成17年10月25日 受付 論文別刷請求先 〒371-0804 群馬県前橋市六供町301-1-107 石橋明博 Fig. 1大きな腫瘍では複数の膀胱動脈が異なる領域に潅流す るのが観察された. 下膀胱動脈は時に上部尿道領域へも 潅流していた.
TACE が施行された 18例中, 17例で治療効果が判定 された. Complete remissionが 1例, partial remissionが 5例, no changeが 11例であった. Progressive diseaseは なかった. 副作用として 4例に動注中の会陰部痛, 7例に治療後 の嘔気が認められた. 肝・腎機能障害や骨髄抑制などの 重篤な副作用は認められなかった. 察 膀胱動脈の解剖は多岐にわたるバリエーションが見ら れる. 非常に細い複数の上・下膀胱動脈が膀胱に潅流す る. 内腸骨動脈の基部より臍動脈が 岐し, さらにそこ から 1から 3本の上膀胱動脈が派生する. このため上膀 胱動脈の同定には内腸骨動脈起始部からの血管造影が必 要であった. 下膀胱動脈は臍動脈あるいは内腸骨動脈か ら直接 岐する. このため通常の血管撮影では前立腺動 脈, 子宮動脈, 精囊動脈, 膣動脈, 中結腸動脈など他の内 腸骨動脈系の動脈枝との鑑別が困難であり, CTA によ り有用な情報が得られる. 小さな膀胱腫瘍は通常の血管撮影で十 な濃染が得ら れないが, 膀胱動脈に直接造影剤を注入して CTA を施 行することにより全例で同定可能であった. 13例で抗癌剤の注入後, ゼラチンスポンジによる膀胱 動脈の塞栓が行われたが, 膀胱癌は基本的に乏血管性の 腫瘍であり膀胱動脈は極めて細いため, 多量のゼラチン スポンジは必要とされなかった. また, 一時的な塞栓物 質であり, 2度目以降の検査時には膀胱動脈の再開通が 認められており, 塞栓自体の効果は今後の検討課題と思 われる. TACE の長期成績は十 に評価されていないが, 浸潤 性膀胱癌に対する内腸骨動脈への抗癌剤注入療法の有用 性については複数の報告がなされている. これらの報告 では通常の血管造影により治療が施行されているが, 我々は CT angiographyシステムをこれに応用し, さら に詳細な栄養動脈の同定, 抗癌剤の 布領域の評価をあ らかじめ把握することが可能であった. さらに膀胱動脈 の解剖学的変異や腫瘍への寄生血管などの把握の情報も 得られた. また選択的動注により, 腫瘍への抗癌剤濃度を高め, 不必要な領域への抗癌剤 布も逓減されたと えられ た. 以上より, 浸潤性膀胱腫瘍に対する TACE において, CTA の 用が有用であると えられ, 将来他の疾患の 治療への応用も期待できると えている. 謝 辞 本研究の御指導をいただきました, 群馬大学大学院医 学系研究科画像核医学 遠藤啓吾教授, 群馬大学名誉教 授 山中英壽先生, 群馬中央 合病院 青木純先生, 群 馬大学付属病院画像診療部教室員の皆様に感謝いたしま す. 浸潤性膀胱癌の化学塞栓療法における CT angiographyの有用性について 80