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低大動脈圧の心機能におよぼす影響

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(1)

低大動脈圧の心機能におよぼす影響

金沢大学大学院医学研究科内科第1講座(主任武内重五郎教授)

        野  原  哲  夫

      (昭和45年2月5日受付)

本論文の要旨は1969年3月29日第33回日本循環器学会総会で発表した.

 動脈圧の低下は心に加わる圧負荷を軽減するが,一 方,冠状動脈灌流圧も低下するため,冠状血流量は減 少する.このため,動脈圧がある値以下に低下すると き,心そのものの循環不全が生じて,いわゆる虚血性 心不全がおこると考えられる.このような,いわば低 動脈圧の限界値は,心に加わる負荷量,心筋の状態な

どにより異なる値をとると思われる.ところで,かっ ては低動脈圧性ショックの治療は動脈圧の維持それ自 体を目的とした.しかし今日では,動脈圧そのものよ りも,これにともなう心拍出量の減少が注目され,治 療の主眼もむしろ心拍出量の増加におかれている.著 者は,ここで二つの問題が提起されると考える.第一 はこのような場合,心拍出量の増加をはかるとともに 心に加わる流量負荷の増加にともなって,冠状動脈圧 の維持,すなわち大動脈圧の保持をどの程度に考慮し なければならないかという点であり,第二は動脈圧低 下が,しばしば心筋硬塞など心の病的状態をともなう ことから,このような心の病的状態の如何によって は,動脈圧そのものの維持も考慮しなければならない 場合があるのではないかという点である.これらの問 題を解明するために,著者はイヌを用い,圧,流量,

心拍数を任意に維持できる条件下で,低動脈圧の限界 値(Critical Aortic Pressure,以下CAPと略す)

を各種の生理的および病的状態にある心について検討 した.      .

実 験 方 法

 実験動物には10〜14kgのイヌを用いた.麻酔は sodium pentobarbital 30〜35 mg/kg静注により,

必要に応じて追加麻酔した.入工呼吸器による陽圧呼 吸下に左第IV肋間で開胸し,ヘパリン5,000単位静注 後,第1〜3肋間動脈を沽紮,下行大動脈を切断し て,その近位端と遠位端および左頸動脈遠位側の聞に

図1の如く,Starling typeの抵抗器,血液貯溜槽,

可変流量ポンプ(妊娠医科製), 電磁流量計(日本光 電製MF−2型)からなる循環回路を挿入した. 血 液貯溜槽にはあらかじめ供血イヌから虚血してえた血 液をみたし,380C前後に保温した.電気血圧計(日 本光電製MP−4T型)による大動脈圧,左心房圧測 定のために,右頸動脈から大動脈起始部に,また直接 左心耳にカテーテルを挿入したのち,点頭動脈,左鎖 骨下動脈を結紮した,一部の実験では左鎖骨下動脈か ら左心室内にカテーテルを挿入し,左心室内圧曲線を え,Sarnoffら1)の方法に従いTension Time In・

dex(以下TTIと略す)を計測した.右心房に双極 電極を縫着し,電子管刺激装置(日本光電製MSE−

3型)によるパルス幅2msec,刺激電圧10voltsの 電気刺激を行ない心拍数を調節した.記録は大動脈 圧,左心房圧,大動脈血流量,心電図(標準二二皿誘 導),および必要に応じて左心室圧について,多用途 監視記録装置(日本光電製RM−150型)によるイン ク描き記録装置(日本光電製WI−180型)に行なっ た,記録紙送り速度は1mm/sec,必要により125 mm/secとした.

 以上のような循環回路を用いることによりStarling 抵抗器を加減して大動脈圧を,可変流量ポンプを調節

して大動脈血流量を,それぞれ任意のレベルに変え,

また一定に保つことができた.ここでいう大動脈血流 量とは下行大動脈領域および頭部を灌流する動脈血流 量であるが,これはそのまま心への静脈還流量を意味 し,したがってまた左心房圧が変化しない限り,冠状 動脈血流量をのぞく心拍出量,すなわち上行大動脈血 流量にひとしい.

 CAPの測定にあたっては大動脈血流:量を一定に保 持して,平均大動脈圧をほぼ2分間隔で5〜10mmHg ずつ階段状に下げて左心房圧の変化を観察し,左心房

 Low Aortic Pressure and Cardiac Performance. Tetsuo Nohara, Department of

Internal Medicine(1)(Director:Prof J. Takeuchi)School of Medicine, Kanazawa

University.

(2)

左総頸動脈

図1.実験模式図

AP

LAP

をさけるため,Harris 2)の方法にならい2段階に結 紮した.Propranolo1は1〜2 mg/kg投与し,左心 房圧の上昇をみた例について5分後から実験を行なっ

た.

SR

1

下イ了ブく」助脈

ポンプ    厘昂ll槽

血液貯溜櫓

 AP:

LAP:

 AF:

EMF:

 SR:

AF

大動脈圧 左心房一 大動脈血流量 電磁流量計 Starling抵抗器

圧が持続的に上昇するとき心機能不全と判定し,その 時の平均大動脈圧をCAPとした.さらにこの後,大 動脈圧を上昇させて左心房圧が次第にコントロールに 戻るのをみて,心機能不全が可逆性であることを確か めた.図2は実験記録の例を示す。

 以上の操作は正常心のほか,冠状動脈結紮心および propranolol大量投与心についても試みられた.冠状 動脈は第1分枝分黙黙の左前下行枝を,不整脈の発生

成 績

1.正常心におけるCAP

 同一イヌについて大動脈血流量をいくつかのレベル に維持し,それぞれの流量レベルにおけるCAPを測 定した.これを16頭についてえた成績を図3に平均値 と標準偏差で示す.横軸は大動脈血流量縦軸はそれ ぞれの大動脈血流量におけるCAPである.図にみる

如く大動脈血流量30〜60m1/min/kgではCAPは 平均15mmHgと低いが,大動脈血流量が増すにつ

れてCAPが高くなり,150〜180 m1/min/kgの流 量では平均36mmHgとなることがみられた.

 図4は検討した範囲の大動脈血流量が生体内でどの 程度の動脈圧を維持するかを,流量と大腿動脈圧の関 係について6頭のイヌにおいてみたものである.大動 脈血流量のもっとも少ない30〜60ml/min/kgの範

囲でも,大腿動脈圧は平均55mmHgであり,同じ

流量でのCAPよりもはるかに高く保たれていた.

 次に心拍数が変化したときのCAPを検討する目的 で,大動脈血流量を一定として心拍数をいくつかのレ

ベルに変化させ,それぞれの場合のCAPを測定し

図2.実 験記 録

    20

左心房圧 10

(mmHg) 0

     3000      2000 大動脈血流量1000

(m1/min)

       0

   100

大動脈圧50

(mmHg) 0

平均大動脈圧を25mmHgから20 mmHgに下げたとき(↓),左心房圧は5mmHg から継続的に上昇しはじめ9mmHgにいたった.再び大動脈圧を25 mmHgに上昇

させると(↑),左心房圧は一時さらに上昇した後,コントロールレベルにもどった.

この場合,大動脈血流量1700ml/minにおけるCAPを20mmHgと判定した.

(3)

50

 0 4

(・。

相ム婁︶

30

 20

o

10

0

図3.大動脈血流量とCAPの関係

30    60    90   120、 150   180     大動脈1血流飛(ml/mm/kg)

図4.大動脈血流量之大腿動脈圧の関係

150

5 2 1    10     0

(b。賃霞︶

 75

整 5σ

25

0

0 30    60    90   120   150

大動脈血痢量(ml/mln/k9)

た.この場合,心拍数変化にともない1回心拍出量は 変化する.3頭のイヌについての成績は図5に示す如

くであり,心拍数100beats/min前後から250 beats

/minの範囲では,心拍数の増加とともにCAPは高 くなる傾向はあったがその程度は流量変化の場合に比 して軽度であった.

 以上のような流量あるいは心拍数の変化は心筋酸素 消費量をたかめることによりCAPを変化させるとも 考えられる.そこで,従来心筋酸素消費量を規定する

ものとされているTTIを,同一のイヌにおいて大動 脈圧を一定として,流量および心拍数のそれぞれが変 化した場合で比較検討してみた.図6に例を示すが,

一般にいわれているごとく,心拍数変化に比して流量 変化によるTTI変化はわずかであった.

皿,病的心におけるCAP

 病的心として,冠状動脈結紮心およびpropranoloI 大:量投与心について検討した,

 冠状動脈結紮心については,CAPはいずれの大動 脈血流量レベルにおいてもコントロールより高値を示 した.図7は代表例を示し,表1は5頭についての CAP変化を各流量レベルでの冠状動脈結紮前後につ いてまとめたものである.冠状動脈結紮後CAPは平 均13.8mmHgの上昇を示したが,この変化は危険 率5%以下で有意であった.イヌの冠状動脈分布には 個体差が多く,結紮のみで不可逆性の左心房圧上昇を きたしたものは除外したが,一方結紮前後でCAP変 化の少ないものでは側副血行路の発達しているものが

あった.

 Propranolo1投与量も冠状動脈結紮の場合と同じ く,いずれの流量レベルでもCAPは高値をとること がみられた.図8は代表例を示し,表2は5頭のイヌ について検討した成績を示す. Propranolol投与後

のCAPは平均14.9mmHgの上昇を示すが,この

変化は危険率1%以下で有意と判定された.

 これら両者の場合について,酸素消費量の変化が,

CAP変化に関与する可能性を考え,これをTTIに

60

   50

半 肩

  40

o

30

20

10

図5.心拍数変化とCAP

50 100

150 200

拍   数

250

(beats/mln)

300

(4)

ついて検討した.図9はその例であるが,流量,心拍 数を一定として大動脈圧を変えたときのTTIの変化 を,冠状動脈結紮,propranolol大量投与の前後で みたものである, いずれの場合もTTIは増加した が,しかし,その程度はわずかであった.

        考     察

 1.大動脈圧低下にさいしての左心房圧上昇の意

味.

 著者は,流:量を一定に維持したまま動脈圧を低下さ

せてみられた左心房圧の継続的上昇を心筋虚血による 左心室機能不全の現われとみた.すなわち大動脈圧低 下による冠状動脈灌流圧低下,ひいては冠状血流量Q 減少が,圧負荷の軽減にともなう冠状血流量に対する 需要の減少を上まわったための心筋虚血性心不全と考 えた.これについてはSarnoffら3)はイヌに出血性シ ョックを作成したさいの左心房圧の上昇が,冠状動脈 を選択的に灌流することにより回復することをみてお

り,またBenekenら4)も左心房圧を一定として大動 脈圧をある値以下に低下させるとき,心拍出量が減少

図6.流量および心拍数変化によるTTI変化

6000

2

缶 5000

00 40

00 0 3

H↑臼

平均大動脈圧125mm Hg

  じ・ 才白 数 182/nlin

b

0 0 0 6

00 0 5

︵︒Φのb︒二葺∈

H

 4000

3000

平均大動脈圧125mm Hg  大動脈血流量1100ml/mln

● ●

● ●

50       75       100      125

  大動脈血流量(ml/min/kg)

150    175    200    225    250   心 拍  数  (beats/min)

図7.冠状動脈結紮とCAP

図8.Propranolo1大量投与とCAP

50

智40葦

 30

<20

0  10

0

結紮後

結紮前

60

箭50  40

30

 20

(一)

10

0 50   100   150   200 大動脈」血流量(ml/mln/kg)

0

P・。P・a・。1。【1mg睡9

投与後

槍自前

0 50   100   150    200  大動脈血流量(m1/min/kg)

(5)

しはじめるが,冠状血流量を維持しておくと心拍出量 は低下しないことを観察している.

 2.流量負荷増加にともなうCAPの上昇

 著者は虚血性心不全をきたす低動脈圧の限界値

(CAP)が流量負荷の増加に従い高値をとることをみ た.一般に心に加わる流量負荷が増せば心筋の酸素消 費は高まり,このため冠状血流量の増加が必要とな る.ところで冠状血流量は冠状動脈一流圧と冠状血管 抵抗の比で決まるが,流量増加はhypoxicな機序に よる冠状血管抵抗の減少をきたすことはあっても機械 的には冠状血流量を増すような条件を作らない.従っ て圧負荷増加による心筋酸素消費量増加という不利益 にもかかわらず冠状動脈圧の上昇,すなわち大動脈圧

表1 冠状動物結紮とCAP

の上昇を必要とするものであろう.従来,同一仕事量 の増加にさいしては流量仕事を増す方が圧仕事を増す よりも酸素消費が少なくてすむとされている1)〜5).し かし,これも程度の問題であり,流量負荷の増加にと

もない冠状動静脈血酸素較差の増大がみられやすいこ とは6)流量負荷の場合,その必要にもかかわらず冠状 血流量が増加しにくいことをものがたる.またここで とくに注意しなければならないことは,著者のみてい るのは心筋虚血に起因する心不全であり,心筋虚血そ のものではないことである.すなわち流量が増加する とき,心筋虚血が軽度であっても心不全は起りやすく

大動脈血流量 m1/min/kg

70以下

70〜100

100〜130

130〜160

160〜210 イヌ No.

1

2 5

CAP mmHg

結剰結墨差

27 5 35

35 27 40

十8

十22

十5

1平均+1・・7

1

2 3 3 4 4 5

30 10 15 20 25 30 43

60 30 20 25 34 38 63

十30 十20

十5 十5 十9 十8

十20 1平均+・3・9

1 2

35 20

65 40

十30 十20 陣+25・・

3 4

25 45

30 47

十5 十2

1平均+3・5 2

3 35 35

55 45

十20 十10 陣+15・・

平均 +13.8

表2 Propranolol大量投与とCAP

大動脈血流量

ml/min/kg

70以下

70〜100

100〜130

130〜160

160〜210 イヌ No.

6 7 8 8 9 9

CAP mmHg

投刷投半弓

15 8 20 32 12 15

15 15 30 40 13 20

0

十7

十10

十8 十1 十5

1平均+5・2 6

7 8 10

16 10 40 13

25 43 58 17

十9

十33 十18

十5 陣+16・3

7 8 9 10

15 50 30 32

55 70 22 20

十40 十20

一8

2 1平均+12・5

6 9

17 35

35 50

十18 十15 1平均+16・5

6 7

20 35

40 63

十20 十28

【平均+24・・

平均 +14.9

(6)

図9.病的心におけるTTI変化

6000

島5000

) 4000

臼 3000

2000

A)冠状動脈結紮

○一一●結紮前

。一一◎結紮後

B)Propranolol投与

6000

為5000

 4000

←→  

臼 3000

2000

●一・●投与前 ひ一一〇投与後

25 50       75      100      125

大動脈圧(mmHg)

25 50     75    100

大動脈圧(mmHg)

125

なる可能性も考えなければならない.

 以上検討したような流量と大動脈圧との関係につい ては,最近Benekenら4)が著者と同じような観点 から左心房圧を一定として大動脈圧を変化させ,心拍 出量が最大となるような大動脈圧を検討して至適大動 脈圧(Optimum Aortic Pressure)としている.こ の至適大動脈圧と著者のCAPとの違いは,彼らの場 合は左心房圧を一定とするため,大動脈圧低下による 心の圧負荷の低下にともなう左心房圧の低下を流量を 増しておぎなっているが,著者の場合は流量を一定に していることである.また,著者はCAPを定めるの に,左心房圧の継続的に上昇するときの大動脈圧をと った.このことは心が与えられた流量負荷にたえる限 界にあることを意味する.従って同一負荷量に対す る,いわゆる限界値はBenekenらの場合の方が高い 値を示している.

 著者は心外臓器組織の低灌流状態が二次的な心筋障 害の要因をつくることを恐れて,全実験を通じて流量 を比較的高いレベルに保持した.従って実験経過中の 流量の減少はadrenergicな反射性機序はさけられな いとしても,末梢臓器組織の低灌流による障害はさけ られたと考えられるが,このことは低大動脈圧にみあ うだけの低流量のさいは,CAPも一層低いことを推 測させるものである。しかし,冠状動脈灌流圧低下の 心筋機能に対する影響は時間とともに顕著となるもの である7).著者の急性実験の成績からは,正常心にお いては心そのものの循環不全をきたす低動脈圧の限界 値が,一般にいわれるショックレベルよりも低値であ

ると直ちにいいきることはできない.

 3.心拍数変化の影響

 心拍数の増加によりCAPは高値を示したがその程 度はわずかであった.前述の至適大動脈圧を検討した Benekenら4)は心拍数120〜170までは至適大動脈圧 はあまり変化せず,心拍数が170をこえるとき高くな ることをみている.ところで心拍数の増加は心筋酸素 消費量を増すことが大きく,しかも冠状血流量に関し ては拡張期を短縮するなど機械的には不利な条件をつ

くる8).

 著者は,従来心筋酸素消費量を規定する指標とされ たTTI 1)の変化を,大動脈圧を一定にして心拍数

(流量一定, 1回漏出量変化)および流量(心拍数一 定)を変化させた場合について比較したが,流量変化 によるCAP変化は心拍数変化によるより大きいにも かかわらず,TTI変化は小さかった.こ⑱ことは前 述したごとく,著者の実験では心筋虚血というよりも 虚血性心不全に対する心拍数,流量変化の違いをみて いるためとも考えられるが,また近年指摘されている ごとく,心筋酸素消費量を規定する因子の多様性9)に よるものとも考えられる.

 4.病的心におけるCAP変化

 心の病的状態として心筋硬塞あるいは心筋の広範な 障害状態を考えて,冠状動脈結紮およびpropranolol 大量投与をおこなった心についてCAPの変化を検討 したところ,CAPはいずれの場合もコントロールに 比らべ明らかに高値を示すことがみられた. Harri・

sonら10)は心筋病変のある場合,心室の不均衡な拡張 を生じて,心機能を保つに適した収縮の形が失われ心 室筋各部分の無駄な動きのためにエネルギーが浪費さ れるとしている.Drisco1ら11), Nakano 12)の実験 的研究によっても示唆されるごとく,心筋硬塞など心

(7)

室筋の一部にakineticないしはparadoxicalな動

きがあれば,一定の心拍出量を保つためには他の健常 な部分の代償的な収縮性の充進,酸素消費量の増大が 生ずるであろう.これらエネルギーの浪費,需要の増 大がCAPの上昇を必要とすることは考えられるとこ

ろである.また冠状動脈灌流圧が上昇することにより 冠状側副血行が生じ,収縮能が改善される可能性もあ

る. Propranolol大量投与は実験的に心筋不全を作 成するのに用いられている13)が,この場合交感神経遮 断薬としての冠状動脈に対する影響も考えなければな

らない.

 冠状動脈結紮心およびpropranolo1大量投与心に おいて,TTIはコントロールに比してやや増加する ことをみた.しかし,これから直ちにいずれの場合も 酸素消費:量の増加がCAP上昇の原因であるとはいい がたい.Grahamら13)はpropranolol投与による不 全心においてTTIは増加するが酸素消費量は減少す ることをみている.病的心とはいってもエネルギーの 浪費ばかりではなく,エネルギー源の取り込みあるい は利用の障害など,その病態は一様ではないことを考 えなければならない.

 5.臨床上の問題点      .  動脈圧の低下は通常ショックにさいしてみられる.

従って本研究の臨床的意義はショックにおける病態生 理とその治療とに関係する閥題にある,

 ショックのさいに心機能障害が出現し,ショックの 進展に関与しうることを指摘したのはWiggersら14)

である.その後のGuyton&Crowe1115)〜17)はこれ に関する実験的研究をすすめて,ショックにおける心 機能低下はさらにショックを不可逆性にする重要な要 因であるとした.これについては,今日いくつかの反 論があるが,ショックの遷延する間に心機能が低下 し,ついにはこれが死因となる場合のあることは日常 経験することである18).この場合,ショック中の心機 能障害の発生機序として, (1)心筋自体の循環不全一 intrinsic factor,(2)心外臓器の循環不全による二次 的な心筋障害一extrinsic factor,の二つがある.著 者の研究は,このようなintrinsic factorが流量の 増加するとき,また心筋が病的状態にあるとき,その 重要性を増すことを示した.このことはショックの経 過中に流量の増加をはかるとき,それとともに大動脈 圧を高く保持する配慮も必要となる場合があることを 示唆するものである.心筋硬塞など心性ショックはも ちろん,ショックの進展にともなって恐らくはext・

rinsic factorによる心筋障害の進行が予想される症 例では,ことに大動脈圧保持に注意を払わなければな

らないことを意味する.

 次の問題は,しかし,どのような形で動脈圧を保持 するかの点である.本研究では分析すべき因子が複雑 になることを避けるために機械的昇圧を行なった.こ のような機械的昇圧はVillagranaら19)によって大 動脈狭窄,Kuhnら20)によって大動脈内のballoon inflationの形で,実験的心筋硬虚心に試みられて効 果を得ている.しかし臨床的経験からは,薬物による 昇圧はmethoxamineなど心筋の収縮性には影響が 少ない血管収縮薬による場合は,効果は必らずしも期 待したごとくではない21).投与方法,時;期にも問題が あろうが,この点については今後さらに検討する必要 があると考える.

結 論

 大動脈圧がある値以下に低下すると虚血性心不全を ぎたす・このような,いわば低大動脈圧の限界値

(CAP)を麻酔開胸したイヌの正常および病的心で検 討した.

 正常心では大動脈血流量:が50〜200m1/min/kgと

増加するに従って,CAPは15〜36 mmHgと高値

を示した.すなわち虚血性心不全をきたさないために は,心に加わる流量負荷が増加する程大動脈圧を高く 維持する必要がある.

 冠状動脈結紮およびpr6pranolol大量投与により病 的な状態とした心については,いずれも正常心に比較 してCAP値は高かった.このことは心筋硬塞など心 筋疾患を有するものでは,とくに動脈圧維持に注意す べきことを示す.

 さらに,以上の成績から,低動脈圧性,低流量性シ ョックが遷延する間に心機能障害の合併,進展が推測 されるとき,流量の増加をはかるにあたっては同時に 動脈圧の保持についても充分考慮することが必要であ

ると考える.

稿を終るにあたりご指導とこ校閲を賜った恩師武内重五郎教授 に対し衷心より深謝の意を表します.

さらに終始ご指導ご二心を賜った杉本恒明講師,ならびに終始 ご協力とご援助を唄いた武内内科循環器班の諸先生に深く感謝致 します.

文 献

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diol., 23, 900 (1969).

      Abstract

  Aortic pressure can be considered to have a double function for the heart. A low aortic pressure will minimize the pressure load on the heart, but at the same time may cause an insufficient supply of the coronary blood flow. Therefore, when the aortic pressure is lowered beyond some critical level, ischemic heart failure

can be initiated. The experiments were designed to study the critical level of low aortic pressure at various levels oE flow loads on normal and damaged heart.

  Dogs weighing from 10 to 14kg were anesthetized with sodium pentobarbital (30 mg/kg, iv) and a left thoracotomy was performed in the fourth intercostal space under positive pressure breathing. The aorta was cannulated to introduce in

series with it an external blood circuit which consisted of a pneumatic resistance,

a blood reservoir, a rate‑adjustable pump and an electromagnetic flowmeter. The heart was paced through the right atrium.

  In order to determine the critical level of low aortic pressure, the aortic pressure

was lowered, at a constant flow rate, in a stepwise manner until the continuous rise of the left atrial pressure was observed.

  In normal hearts, as the aortic flow rate was‑ increased from 50 to 200mllmin!kg, the elevation of the critical level of low aortic pressure was observed in a range

from 15 to 36mmHg, while it was less marked during the increase of the heart rate ranging from 100 to 250beatslmin. Coronary ligation or an administratiQn of a

large amount of propranolol (1‑2 mglkg) caused a significant elevation of the critical aortic pressure. These alterations of critical aortic pressure level under different

conditions were found not to be correlated to the Tension‑Time‑Index, which has been regarded as a definite determinant of myocardial oxygen consumption.

  The conclusion is that the critical level of low aortic pressure to induce ischemic

heart failure is a funciton of the amount of flow IQad Qn the heart, and that, in

(9)

damaged hearts, it is

of the aortic pressure.

particularly

lmportant to pay

an attention to. the malntenance

参照

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