• 検索結果がありません。

著しい重複加入による重大事由解除

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "著しい重複加入による重大事由解除"

Copied!
21
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

著しい重複加入による重大事由解除

傷害疾病定額保険にかかるモラルリスク対応

坂 本 貴 生

■アブストラクト

生命保険会社の医療関係特約では,モラルリスク対応のために,約款上,

重大事由解除条項が導入され,その事由の一つとして,著しい重複加入が規 定された。

保険法制定を契機に,傷害疾病定額保険において,損害保険会社・共済団 体においても,重大事由解除の包括条項の具体化として,約款上,同事由が 規定されている。

包括条項は規範的要件とされ,同事由はその具体化であるため,解除の可 否は,重複加入の事実を前提に,短期集中加入,入院の必要性が疑わしいな ど他の不正利用を疑わせる事実により,契約存続を困難とする程度に信頼関 係が破壊されたと評価されるか否かによって決せられる。集中加入期間中の 加入の事案とそれ以外との比較では,後者は著しい重複加入以外の信頼関係 破壊事由がより求められる。

他保険契約の告知義務違反は,評価根拠事実の一つとなり,解除の可否は,

契約存続を困難とする程度に信頼関係が破壊されたか否かによって決せられ る。解除対象となる保険契約の範囲も同様である。

■キーワード

重大事由解除,モラルリスク,著しい重複加入

*平成28年⚙月16日の日本保険学会関東部会報告による。

/ 平成29年⚖月26日原稿受領。

(2)

⚑.はじめに

生命保険会社の医療関係特約では,モラルリスク1)への対応策のひとつと して,昭和62年に,約款上,重大事由による解除権が導入された2)。保険累 積の悪用から保険者を防衛するために3),重大事由の一つとして,⽛他の保 険契約との重複によって,被保険者にかかる給付金額等の合計額が著しく過 大であって,保険制度の目的に反する状態がもたらされるおそれがある場 合⽜(以下,⽛本件条項⽜という。)が規定された。

その後,保険法の制定議論の中で,本件条項は,重大事由として法定化さ れることが検討されたものの,法定化には至らなかった4)。しかし,生命保 険会社では,重大事由解除の包括条項(バスケット条項)の具体化として,

本件条項は,約款上規定されている5)。また,重大事由解除の法定化に伴い,

損害保険会社6),共済団体においても,本件条項が導入されている。

1) 山口誠⽛重大事由による解除権とガイドライン⽜生命保険協会会報69巻⚑号

⚒頁(1989)は,入院給付金をめぐるモラルリスクの特徴につき,⽛短期間に 複数会社の生命保険契約に,集中的に加入して,加入の直後に長期入院を行な い入院給付金を取得するのを常套手段とする⽜と表現している。佐藤鐡雄⽛給 付金査定に見られるモラル・リスク契約の態様⽜生命保険経営55巻⚑号49頁

(1987)は,⽛短期間に複数の会社に加入すること自体,既にその動機に不純な ものを感じさせ,実際に確認した結果を見ても,その殆んどがモラル・リスク 契約である⽜とする。

2) 導入の経過等について,山口・前掲注1)⚒頁以下参照。

3) 洲崎博史⽛人保険における累積原則とその制限に関する一考察⽜法学論叢 140巻⚕・⚖号235頁(1997)参照。

4) 田口城⽛重大事由による解除⽜甘利公人=山本哲生・保険法の論点と展望 154-155頁(商事法務,2009)参照。

5) 日本生命保険生命保険研究会編⽛生命保険の法務と実務【第⚓版】⽜312頁

(きんざい,2016)参照。小林雅史⽛医療保険のモラルリスク対応の歴史⽜生 命保険経営84巻⚕号19頁(2016)は,医療保険などの約款を開示している生保 28社のうち,25社が本件条項を導入しているとする。

6) 東京海上日動火災保険株式会社編⽛損害保険の法務と実務【第⚒版】⽜389頁

(きんざい,2016),山下信一郎⽛保険法施行にともなう損害保険約款の改定と

(3)

しかし,本件条項が争点となった公刊されている裁判例は少なく7),本件 条項の要件の具体化は不十分であるとの指摘もある8)。もっとも,平成13年 以降,裁判例に肯定例も表れるようになった9)。また,生命保険協会及び日 本共済協会の裁定でも取り上げられている10)。さらに,損害保険会社や共済 団体の保険・共済の約款・規約に本件条項が導入されたことに鑑みると,今 後,本件条項の適用事例が増えてくる可能性がある。

そこで,本稿では,裁判例のある生命保険会社等の本件条項を念頭の上,

保険法施行前の本件条項,重大事由解除の包括条項と本件条項の関係を踏ま え,本件条項の法的性質から導かれる考慮要素を検討し,本件条項にかかる 裁判例を検討する。最後に,他保険契約の告知義務が本件条項の判断に与え る影響及び解除の対象となる保険契約の範囲について触れる。

実務の対応⽜生命保険論集175号155-157頁(2011)参照。

7) 洲崎・前掲3)235頁,中野佳代子・文研保険事例研究会レポート122号⚘頁

(1997)は,本件条項の適用は,1997年当時,保険監督上主務官庁への報告が 義務付けられるなど,実務上も解除権は行使しづらいのではないかとする。

8) 洲崎・前掲注3)235頁,山下友信=米山高生・保険法解説578頁〔甘利公人〕

(有斐閣,2010)参照。

9) 保険法施行前の本件条項に関する判例分析として,遠山優治⽛重大事由解除 規定をめぐる判決例の動向と課題⽜生命保険経営66巻⚑号122頁以下(1998年),

勝野義孝・生命保険契約における信義誠実の原則429頁以下(文眞堂,2002)

甘利公人・生命保険契約法の基礎理論201頁及び229頁以下(有斐閣,2007),

中西正明⽛生命保険契約の重大事由解除⽜大阪学院大学法学研究34巻⚑号106 頁以下(2007)参照。本件条項の適用が明確に問題となったものは,把握でき た限りでは,別紙の裁判例一覧のとおり13判例であった。ただ,入院給付金請 求事案では,入院の必要性が否定されたため,本件条項が主張されたものの,

判断されていないものも⚒件あった(福岡地判久留米支部平成16年⚖月28日生 判16巻461頁,東京地判平成19年⚔月⚓日生判19巻144頁)。

10) 日本共済協会の共済相談所の裁定では⚒件(平成23年度・平成24年度)あり,

前者が和解成立,後者は訴訟に移行している。平成23年度審議における裁定の 概要15頁及び平成24年度同概要23頁参照 (http://www.jcia.or.jp/adr/support/

index)。生命保険協会の裁定審査会でも,⚒件(平成20年度・平成24年度)あり,

いずれも訴訟による解決が適当として,裁定手続を打ち切っている(【事案20- 72】及び【事案24-64】参照(http://www.seiho.or.jp/contact/adr/item/))。

(4)

⚒.本件条項の導入経過等

⑴ 保険法施行前

昭和51年に生命保険会社が災害疾病関係特約の入院日額の限度額引上げ

(7500円から⚒万円への引上げ)等を実施して以降,悪質なモラルリスク事 例の発生が顕著となった。当時の約款には重大事由解除に関する規定はなく,

このような悪質な事例に対し,無責・免責・告知義務違反による解除,詐欺 無効等の規定により対応することに限界があったことから,保険者が契約関 係から離脱する権利の確保が模索されることになった11)。こうした中,保険 者の重大事由解除権は,モラルリスク対策の一環として昭和62年に医療関係 特約に導入され,その事由のひとつとして本件条項が設けられた。当時解釈 論として提唱されていた信頼関係を基礎とする継続的契約であることを理由 とする保険者の特別解除権を導入するか,他契約開示義務を導入するか,生 命保険協会内部で検討された結果,モラルリスクの実効性ある排除,重複契 約の排除等を目的として重大事由解除権が採用された12)。これは,信頼関係 の破壊を基礎とした解除事由と位置づけられている13)

⑵ 保険法施行後

保険法では,重大事由解除に関する約款規定を参考に,モラルリスク事案 に対応するために,保険契約者等の側で信頼関係を破壊するような行為が行 われた場合には,もはや当該契約関係は維持することができないことから,

重大事由による解除の規定が設けられた14)。保険法への重大事由解除の規定 11) 田口・前掲4)149頁参照。

12) 山口・前掲注1)⚔頁以下参照。

13) 中西・前掲9)83頁は,⽛約款上の重大事由解除権の理論的基礎は,一般的に 理論上の特別解約権の場合と同様であって,信頼関係の破壊を理由に契約の解 除を認めるものと考えてよい⽜とする。山下友信教授コメント・保険事例研究 会レポート178号 8-9 頁(2003)参照。

14) 萩本修編⽛一問一答・保険法⽜97頁(商事法務,2009)参照。

(5)

創設に係る議論の中で,本件条項を法定化すべきか議論されたものの,最終 的には解除事由として例示しないこととされた15)。重複契約により保険給付 が著しく過大である場合については包括条項にあたるケースもありうること を前提として,保険契約の重複により信頼関係が破壊されるに至ったか個別 に判断することが適当とされた16)

こうした中,生命保険会社では,保険法に対応するため,約款の見直しが 検討されたものの,本件条項は,重大事由解除の条項の一つとして残され,

包括条項の具体例と位置づけられている17)。また,保険法対応の一環として,

損保会社・共済団体では,約款・規約に本件条項が導入された。

⑶ 保険法施行前後の本件条項の連続性

以上のとおり,保険法施行前・後に規定されている本件条項は,いずれも 信頼関係破壊を根拠とするものであり,法的性格を同じくする。この意味で,

保険法施行前の本件条項にかかる裁判例は,保険法施行後においても参考に なる18)

15) ࡗ素寛⽛保険法における重大事由解除⽜竹濵修=木下孝治=新井修司編・保 険法改正の論点360頁以下(法律文化社,2009)参照。

16) 田口・前掲4)154-155頁,山下友信⽛保険法と判例法理への影響⽜自由と正 義60巻⚑号30頁(2009),洲崎博史⽛保険契約の解除に関する一考察⽜法学論 叢164巻⚑~⚖号226頁(2009)等参照。

17) 日本生命保険生命保険研究会編・前掲5)参照。山下・前掲16)31頁では,⽛包 括条項は一般的抽象的な規定の仕方がしてあるので,保険者側が濫用するので はないかという懸念があったことも考慮して,おそらく保険会社としては保険 契約の著しい重複を重大事由として約款に規定することなる⽜としていた。嶋 寺基⽛新保険法の下における保険者の解除権⽜石川正先生古稀記念・経済社会 と法の役割835頁(商事法務,2013),山下友信=永沢徹編・論点体系保険法

⚒・212頁〔山下典孝〕(第一法規,2014)参照。

18) 山下・前掲16)31頁は,⽛生命保険会社の約款で規定していた保険契約の重複 という重大事由に関する従来の裁判例は,数は少数にとどまるものの一応保険 法の下でも参考事例とな⽜るとする。

(6)

⚓.本件条項は包括条項の枠内で解釈されること

本件条項は包括条項の具体化であるので,保険法上の根拠規定は,包括条 項(保険法86条⚓号)である。重大事由解除にかかる条項は片面的強行法規 であり(同94条⚒号)新法主義をとるため(同附則⚕条),本件条項は,保 険法施行前後のものか否かを問わず,包括条項の枠内で解釈されることにな る。すなわち,本件条項で考慮される事実により,保険法86条⚓号の要件で ある契約存続を困難とする程度に信頼関係が破壊されたと評価されたときに はじめて本件条項による解除は有効となる。したがって,本件条項で考慮さ れる事実も包括条項の枠内である必要があるので,包括条項ではどの範囲の 事実が解除の判断にあたって考慮要素となるか否かが問題となる。

⑴ 包括条項は規範的要件であること

保険法86条⚓号の要件は,信頼の毀損,保険契約の存続困難といった規範 的な評価(抽象的な事項についての価値判断を伴う評価)を内容とするもの で,⽛規範的要件⽜と呼ばれるものの一種である。現在の訴訟実務では,規 範的要件に係る法律効果の発生を認めさせるために当事者が主張・立証すべ き要件事実(主要事実)は,その要件の内容となっている規範的評価の成立 を根拠付ける具体的事実(以下⽛評価根拠事実⽜という。)である。一方,

これを争う相手方は,その規範的評価の成立を妨げる具体的事実(以下⽛評 価障害事実⽜という。)を主張・立証すべき立場にあり,裁判所は,双方か ら主張立証されたすべての評価根拠事実と評価障害事実とを総合的に勘案し て,規範的評価の成立の可否を判断するとされている19)

⑵ 評価根拠事実となり得る事実の種類・範囲

一般的に,規範的要件の評価根拠事実となり得る事実の種類・範囲には,

19) 宮根宏一⽛重大事由解除に関する包括条項⽜金融法務事情1898号30頁(2010)

参照。

(7)

特段の制限はなく,問題とされている規範的評価に関連するものである限り は,あらゆる事実が評価根拠事実となり得るのが原則である20)

しかし,同条項が,信頼関係破壊を根拠とするものであるので,評価根拠 事実は信頼を毀損するものに向けられる必要がある。

重大事由解除は,保険者がモラルリスク等の保険契約の不正な利用の意図 が認められる事案(不正利用事案)に適切に対処するための規定である21) つまり,信頼は不正利用をしないことに向けられている。したがって,保険 契約者等の側にその保険契約を不正に利用する目的があるのではないかとい う疑いを保険者に生じさせる方向に働く事実は,すべて評価根拠事実となり うると解される22)

なお,包括条項の適用要件に際して,⚑号及び⚒号と同様に,保険金の不 正取得目的を要件とすべきか否かの見解の対立はあるものの23),保険法が片 面的強行規定とした趣旨は,保険法が定める重大事由よりも軽微な事由によ って保険契約を解除することを制限することであって,保険法が認めた重大 事由を狭く解釈する(あるいは謙抑的に運用する)ことを求める趣旨を含む ものではない24)ことから,不正取得目的を要件とまではすべきではないと考 える25)

⑶ 評価根拠事実となる時的範囲

解除の事由が生じた時点以後の支払いは免責となる(保険法88条⚒項⚓

20) 宮根・前掲注19)31頁参照。

21) 萩本・前掲注14)98頁参照。

22) 宮根・前掲注19)32頁参照。

23) 山下=米山・前掲注8)577頁〔甘利公人〕,山下=永沢・前掲注17)212頁〔山 下典孝〕参照。

24) 嶋寺・前掲注17)830頁参照。

25) その他の限定的な解釈についての学説の状況については,宮根・前掲19)29 頁参照。平成28年日本保険学会全国大会で発表された嶋寺基⽛保険法立法時の 想定と異なる実務の現状と今後の課題⽜レジュメ⚔ ⚕頁は,保険法の付帯決 議は,保険法の解釈指針となるものではないとする。

(8)

号)。そのため,とりわけ重大事由解除に伴う免責を主張する際には,その 時点が重要となる。評価根拠事実との関係では,解除の事由が生じた時点ま での事実が,評価根拠事実となり,それ以後の事実は評価根拠事実とはなら ない26)

⚔.本件条項の要件

本件条項での解除が認められるのは,その文言からは,①⽛他の保険契約 との重複⽜によって,②⽛給付金額等の合計額が著しく過大⽜であって,③

⽛保険制度の目的に反する状態がもたらされるおそれがある⽜場合である。

本件条項は,包括条項の具体化である以上,本件条項も規範的要件である27) 本件条項の適用の可否は,モラルリスクの徴憑たる評価根拠事実により本件 条項の要件を満たし,契約存続を困難とする程度に信頼関係が破壊されたと 評価されるか否かにより決せられる。

⑴ ⽛他の保険契約⽜の意義

⽛他の保険契約⽜にいう保険契約とは,裁判例上,実質的に同一の保険金 支払事由を定める保険契約をいうものと解されると判示したものがある28)

本件条項の趣旨は,過剰な保険契約による不正請求の温床となることを防 止し不正請求事案に対処するためであるところ,他の⽛保険契約⽜とは,同 一リスクを担保する保障を含むものは全て含まれるものと考える。

26) 村田=山野目・要件事実論30講(第⚓版)97頁〔村田渉〕(弘文堂,2012)

では,⽛規範的要件については,規範的評価の成否を判断する際にどの時点ま でに存在した具体的事実を考慮すべきかが問題となることが多いことから,時 的要素に特に意を用いること⽜とする。大島眞一⽛完全講義 民事裁判実務の 基礎[第⚒版]⽜129頁(民事法研究会,2013)参照。

27) 宮根宏一⽛モラルリスクに対する法的な対応手段の要件等の研究⽜保険学雑 誌602号102頁(2008)参照。

28) 名古屋地判平成19年11月30日(生判19巻616頁)【別紙⑬事件】参照。横田尚 昌⽛判批⽜保険事例研究会レポート233号⚗頁以下(2009)参照。

(9)

⑵ 累積対象保険の範囲と⽛著しく過大⽜の判断基準 ア 累積対象とする保険の範囲

給付金額等の累積の程度を算出するにあたって,法人の主体よりも保障 内容が問題であるから,生命保険会社,損害保険会社,共済団体の扱う同 一リスクを担保する保障がすべて含まれると考えられる29)

イ ⽛著しく過大⽜の判断基準

⽛著しく過大⽜に該当するか否かにつき何をもって判断すべきか。重大 事由解除の趣旨がモラルリスクを含む不正利用の防止であることに鑑みれ ば,付保金額合計額のみで判断することはできない。このような要件が課 されているのは,付保金額合計額が,保険料,収入,資産,債務,集中加 入の事実との関係で,契約者にとって著しく過大と評価できるのであれば,

合理的な理由がない限り,何らかの不正な意図をもって加入しているか,

不正請求を行う動機づけになる危険性が高いと考えられるからである。そ こで,入院給付金日額等の合計額だけではなく,保険料と収入・資産との 関係,債務の状況及び集中加入の事実を考慮して⽛著しく過大⽜に該当す るか否か判断することになると考える30)

どの事実が,評価根拠事実,評価障害事実にあたるかは異論のあるとこ ろと思われるが,私見では,証拠収集の難易度等を考慮して,主な評価根

29) 田口・前掲4)167頁は,⽛実務上,給付金額等の累積の程度を算出するにあた っては生命保険,損害保険,共済のすべてを対象と⽜するとしているのは同一 趣旨だと思われる。

30) 角田和央⽛判批⽜保険事例研究会レポート178号 5-6 頁(2003)参照。山 口・前掲1)⚘頁は,⽛①給付金日額の合計が過大で保険制度の本旨に反する状 態に達すること,または,②過度の集中加入により事故招致の蓋然性が著しく 高い状態に達することである。⽝過大⽞⽝過度⽞⽝集中加入⽞⽝著しく高い状態⽞

とは,当該被保険者の年齢,性別,職業,社会的地位,治療費の水準,社会通 念等を総合的に判断して決する⽜とする。田口・前掲4)167頁参照。嶋寺・前 掲注17)835頁は,⽛日額⚕万円程度にまで至ると,一定規模の個人事業の経営 者が事業リスクのために加入する等の特殊な事情がない限り,その必要性を合 理的に説明することは極めて困難⽜とする。

(10)

拠事実は,入院給付金等合計額,保険料合計額,集中加入の事実であり,

評価障害事実は,収入,資産,債務,付保状況の合理性を示す事実などで あると考える。

⑶ 保険制度の目的に反する状態がもたらされるおそれ

重大事由解除はモラルリスクを含む不正利用を防止する趣旨であり,信頼 関係破壊の法理に立脚するものである。とすれば,⽛保険制度の目的に反す る状態がもたらされるおそれがある⽜と評価する事実は,不正利用に関連す る信頼関係破壊につながるあらゆる事実である31), 32)。すなわち,不正な目的 の存在の疑いにつながる事実である限りは,必しもそれ自体明らかに背信的 とまではいえないものであっても,あらゆる保険契約者等の⽛行為⽜(保険 契約締結前後・保険事故時等の不自然な行動等)や,さらには⽛行為⽜以外 の諸事実(過去の保険事故や直近の保険金請求に係る保険事故等をめぐる不 自然な事情,モラルリスク懸念の強い個人・団体との密接な関係等)も,同 要件の評価根拠事実となるものと考えられる33)

31) 角田・前掲注30)⚖頁参照。田口・前掲4)167頁では,⽛保険制度の目的に反 する状態がもたらされるおそれがある場合⽜とは,⽛保険法の包括条項が規定 する契約存続を困難とする程度の信頼関係の破壊と同じことを意味する⽜とす る。木下孝治⽛判批⽜保険事例研究会レポート171号12頁(2002)は,⽛第一義 的には契約の過度の累積を問題視するとは言っても,同時にモラル・リスク性 を併せ考慮することが前提にされていると理解することもできる。⽜とする。

32) 岡田豊基⽛判批⽜保険事例研究会レポート213号19頁(2007)は,⽛保険制度 の目的に反する状態⽜とは,⽛不正ないし不当な行為に起因した保険事故が発 生すると,保険団体が構築した基金を不当に取り崩すことになる状態をいう⽜

とする。また,宮根・前掲27)103頁は,⽛保険契約が狭義の不労利得の目的で 利用される状態⽜,又は,⽛保険契約が保険金の不正請求等の目的で利用される 状態⽜とする。

33) 包括条項の評価根拠事実について,宮根・前掲注19)32頁参照。嶋寺・前掲 注17)838頁では,包括条項で考慮される事情を,①契約加入時の事情,②契約 加入後の事情,③事故発生後の事情,④その他の事情,に分けて,例示してお り,評価根拠事実の参考になると思われる。

(11)

⑷ 前記⑵⑶の事実の総合評価であること

本件条項は,前記のとおり,規範的要件である包括条項の具体化であるの で,前記⑵及び⑶に該当するか否かは,両要件の個々の該当性を判断する のではなく,最終的には両要件にあたる事実を総合的評価して,契約存続を 困難にする程度に信頼関係が破壊されたと評価される否かで判断されること になる。

この点,問題となる契約が短期間の集中加入期間中に締結された事案(以 下,⽛集中加入期間中の加入型⽜という。)と当該契約の加入当時は集中加入 の状況になく,その後に累積するに至った事案(以下,⽛集中加入期間中の 加入ではない類型⽜という。)では総合評価に際しても,前者のほうがより 後者よりも,その他の評価根拠事実が弱い場合にも,認められやすいケース があるのではないかと考える34)。後者の場合は,当初は不正利用のおそれが ない場合もあるのに対して,前者は,合理的な理由がない限り,当初から不 正利用目的の蓋然性が高いからである。

⚕.本件条項に係る裁判例

以下では,本件条項の適用が問題となった裁判例(別紙一覧参照)につき,

本件条項のあてはめ事実を中心にその概要を紹介し,若干の分析を行う。

⑴ 本件条項に基づく解除を認めた裁判例

ア ①札幌高裁平成13年⚑月30日生判13巻58頁35)

被控訴人を含む⚔社と保険契約を締結し,入院給付金日額合計が⚒万 34) 荒田新治⽛新たなモラルリスク対策 入院特約の各社重複加入の制限 ⽜生 命保険経営56巻⚒号77-78頁(1988)では,①短期集中加入の場合(モラルリ スクが契約に先行すると思われるケース),②短期集中加入以外のモラルリス クの場合(モラルリスクが後発的に生じると思われるケース)に分け,後者に は他にモラルリスクを抱かせる事情をも必要とする。

35) 木下・前掲注31)⚙頁,角田・前掲注30)⚑頁,甘利・前掲注9)203-207頁,

同229-231頁,中西・前掲注9)108-112頁参照。

(12)

9000円,保険料月額⚒万6961円であった控訴人が,その後,⚒年間の間に

⚔社⚗件の保険契約を締結し,入院給付金日額合計が⚗万4000円,保険料 月額が11万2675円に増加し,更にその⚑年半後に入院給付金日額が⚘万 4000円,保険料月額が13万3094円となった事案である。これらの事実に加 え,月収約40万円(日額⚑万5000円未満)であり毎月約15万円の住宅ロー ン債務を負担していること,⚔社⚗件の保険契約に追加加入した直後に⚒

回入院し年収の約⚓倍に相当する1457万2100円の保険金を受領しているこ と,その入院時に頻繁に外泊外出を重ねていることから,本件条項に基づ く解除が認められた。

イ ②熊本地判平成14年10月10日生判14巻679頁

複数の保険会社と保険契約を締結し,災害・疾病入院給付金日額合計が

⚒万7000円となった事案である。これらの事実に加え,無職であること,

既に生命保険各社から少なくとも入院給付金等合計額2716万6000円を受領 していることから,本件条項に基づく解除が認められた。なお,過去⚕年 以内に入院事実が多数存在したにもかかわらず,入院歴を申告しなかった 等により,詐欺無効,告知義務違反解除も認められている。

ウ ③福岡地判平成15年12月26日生判15巻842頁36)

⚑か月間に保険⚗件に加入し,入院給付金日額合計が⚘万円,通院給付 金日額合計が⚓万8500円となった契約者が,加入直後から入通院を繰り返 し,同人の主張する年収を前提としても年収の約⚓倍もの給付金請求がさ れた事案である。これらの事実に加え,保険料月額約⚓万5000円に対し,

契約者は無職無収入か,少なくとも30万円を大きく下回る収入しか得てお らず,数千万円単位の負債を抱え,月々数十万円もの返済義務を負ってい る経済状況,短期的集中加入しなければならない理由は認められないこと から,本件条項に基づく解除が認められた。なお,詐欺無効の主張もされ たが,その判断はされていない。

36) 甘利・前掲9)207-209,229-231頁参照。

(13)

エ ④東京地判平成16年⚖月25日生判16巻438頁37)

経済状況から保険料の負担を軽減するために既存の保険契約を解約又は 減額した者が,⚓か月間に⚕社⚘件の保険契約を締結し,保険料月額が⚓

万905円から10万6135円に増え,がん診断一時金が3400万円に,入院給付 金合計額が10万3000円となった事案である。これらの事実に加え,加入当 時自らの乳房のしこりに気づいていた可能性を否定できないこと,加入直 後に検診を受けて乳がんとの確定診断を受けていることから,本件条項に 基づく解除を認めた。

オ ⑤東京高判平成16年⚙月⚗日生判16巻680頁

⚒か月間に保険会社⚔社及び⚒会との間で⚖件の保険契約を締結し,障 害特約等における保険金合計額が7540万円,人工骨頭を挿入置換した場合 の障害給付金合計額が2118万円,入院給付金日額合計額が⚓万8000円,保 険料月額合計額が⚖万850円となり,契約者が,スキーをした際に転倒し て傷害を受けたとして,傷害特約に基づく傷害給付金等を請求した事案で ある。これらの事実に加え,年収は143万4217円,就労期間の月額平均額 は14万円3000円に対して,自宅家賃は月額⚙万数千円,生活費として月額 約⚕ないし⚖万円であった等の収入資力に照らすと,到底保険料月額の合 計額を支払い続けることができないこと,複数加入動機(破綻リスク)の 主張が証拠から認定できないこと等から,本件条項に基づく重大事由解除 を認めた。なお,スキー事故が発生したとは認められないとされた。

カ ⑥大分地判平成17年⚒月28日38)生判17巻156項・判タ1216号282頁 被告保険会社との保険契約締結後,⚒年間に11社14契約の保険契約を締 結した結果,保険契約が15社27件となり,入院給付金日額合計額11万9000 円となった事案である。これらの事実に加え,同種の疾病での入退院を繰 り返し,収入(額は認定されていないものの,多額の収入を得ていたこと は認めるに足りない。)に比べて1658万7984円という多額の入院給付金を 37) 森原憲司⽛判批⽜保険事例研究会レポート197号(2005)⚕頁参照。

38) 岡田・前掲32)14頁,中西・前掲9)112-120頁参照。

(14)

受けたこと,入院の必要性に疑問があること,入院給付金の支払を受けた 直後に解約等をしたものもあり,契約締結等の状況に不自然な点があるこ とから,本件条項に基づく解除が認められた。

キ ⑦千葉地判八日市場支部平成18年⚖月21日生判18巻406頁

保険会社⚖社と⚗件の保険契約を締結し,疾病入院給付金日額合計が⚖

万6500円,災害入院給付金日額合計が⚗万9000円となった事案である。こ れらの事実に加え,第⚑入院の直前の時期に原告を含む⚔社と保険契約を 締結し,第⚑入院で合計791万7500円を受領していること,その後,第⚒

入院により合計278万1116円を受領していること,いずれの入院もその必 要性が疑わしいことから,本件条項に基づく重大事由解除が認められた。

ク ⑧東京地判平成19年⚕月⚗日生判19巻194頁

保険会社10社と12件の保険契約を締結し,災害入院給付金日額合計⚙万 9500円(交通事故の場合,災害入院給付金日額合計10万5500円),月額保 険料合計額約⚘万3248円となった事案である。当初は,⚓社・⚓件の契約 であったものの,その後,原告との契約を含む⚙契約は⚑年⚔カ月の間に 集中的に契約されていること,安定的な収入がないことから,本件条項に 基づく重大事由解除を認めた。ただし,擬制自白の事案である。

ケ ⑨札幌高判平成27年10月29日判例集未登載

約⚑年間に⚙社と13件の保険契約等を締結し,疾病入院給付金日額合計 が10万5000円,保険料月額合計10万円となった事案である。これらの事実 に加え,原告は入院給付金により約1217万円を得た一方,その間に支払っ た保険料の合計は約171万円にとどまること,不動産やまとまった額の預 貯金等の財産はないこと,収入の額は不明であること,仮に原告の主張す る月20万円ないし25万円の収入を得ていたとしても,保険料及び入院給付 金の合計額との関係,その必要性が明らかでないことに変わりがないこと から,本件条項に基づく重大事由解除が認められた。なお,同時に包括条 項該当性も認定された。

(15)

コ ⑩東京地判平成28年⚓月⚓日2016WLJPCA03038007

約⚕カ月間に保険会社⚖社と⚘件の保険契約等を締結し,入院給付金日 額が⚗万6200円となった事案である。これらの事実に加え,原告の得られ る入院日額が同じ自営業者の平均額の約6õ9倍となっていること,共済制 度が組合員間における相互扶助の観点から,不測の事態が生じた組合員が 最低限の生活を維持することができる限度に給付金を抑え,比較的低廉な 掛金によって保障を提供しようとする制度であることから,共済契約及び 保険契約の加入状況は,本件条項の要件に該当するとし解除を認めた。こ れに対して,自営業者という不安定な職種であるためという加入動機は,

原告の主張する加入当時の年収が700万円程度で扶養親族もいないにも関 わらず月額⚕万円もの保険料を負担することからすれば,信じがたいとさ れた。なお,裁判所の判断の部分には触れられていないが,解除までに原 告は加入していた保険会社等から約3000万円の給付金等を受け取っていた。

⑵ 本件条項の適用を否定した裁判例

ア ⑪東京簡判平成⚔年⚒月28日39)文研生判⚗巻31頁

10か月間に10社12件の保険契約を締結し,入院給付金日額合計が⚖万 4000円,保険料月額が16万5041円となった事案である。これらの事実に加 え,原告夫婦の年収合計は1420万円であり,子供も独立し,住宅ローンな どの債務もないことから,本件条項に基づく重大事由解除が認められなか った。

イ ⑫大阪高裁平成⚙年⚗月16日生判⚙巻343頁

保険会社⚗社と⚘件の契約を締結し(短期集中加入ではない事案),月 払保険料合計額は⚗万9819円,災害・疾病入院給付金日額合計⚔万2500円 であった事案である。これらの事実に加え,契約者の年収は350万円~400 万円であること,既払い給付金合計額は1361万円であったこと及び重複加 39) 糸川厚生⽛判批⽜文研保険事例研究会レポート99号(1994)⚑頁,甘利・前

掲注9)209-210頁,同230頁,勝野・前掲注9)434-436頁参照。

(16)

入の告知義務違反が生じていないことから,本件条項に基づく解除が認め られなかった。

ウ ⑬名古屋地判平成19年11月30日生判19巻616頁40)

本件条項にいう⽛他の保険契約⽜とは実質的に同一の保険金支払事由を 定める保険契約をいうとして,無配当医療保険契約と特定疾病保障保険契 約とは保険金の支払事由を実質的に同一とすることはできないとされた。

そのため,入院保障日額合計額は⚑万⚖千円であり,著しく過大とはいえ ないとして,本件条項による解除が認められなかった。

⑷ 上記裁判例の分析

ア ⽛著しく過大⽜の判断基準

❞ 入院給付金日額合計額

本件条項の適用が認められた事案の中で,主に入院給付金日額合計が 問題となった事案(裁判例①②③④⑥⑦⑧⑨⑩)では,最低額が⚒万 7000円,最高額が11万9000円であり,その幅は大きいものがある。これ に対して,本件条項の適用が認められなかった事案の入院給付金合計額 は,⚖万⚔千円(⑪),⚔万4200円(⑫)及び⚑万6000円(⑬)であった。

これらの幅があるのは,入院給付金日額合計額のみが,⽛著しく過大⽜

の判断基準とはならないことを示していると考える。

❟ 入院給付金日額合計以外の要素

その他の要素としては,保険料月額合計額と収入の関係が概ねの裁判 例で考慮されており(裁判例②,⑦,⑩を除く裁判例),これらに加え,

支出・債務(裁判例①,③~⑤,⑪)が考慮されている。

❠ 総合考慮

以上からすれば,⽛著しく過大⽜か否かは,入院給付金日額合計額,

収入と保険料,債務支出を総合的に考慮して,判断されているものと思 われる。

40) 判批として,横田・前掲注28)⚗頁以下参照。

(17)

ただし,収入・財産,支出・債務に言及がないものもあるのは,これ らは,解除される側の領域に属する事実であるため,保険者が調査によ ってこれらの事実が判明するとは限らないことに起因しているものと思 われる。これらは,評価障害事由として解除される側が主張・立証すべ きものと考えているのではないかと考える。

イ その他の考慮要素との総合考慮

その他の考慮要素としては,給付金の受給歴(裁判例①,②,⑥,⑦,

⑨,⑫),入院の必要性が疑わしいこと(裁判例①,⑥,⑦),加入動機の 不合理性(裁判例③,⑤,⑩),病識悪意の可能性(裁判例④),契約締結 等の状況に不自然さ(裁判例⑥)が挙げられている。

裁判例では,上記アの要素とその他の事情を総合考慮して,本件条項の 該当性を判断しており,上記4õの個々の要件該当性を判断していない。

ウ 類型に応じた判断要素の傾向

解除される契約が,前述の集中加入期間中の加入でない類型の肯定例

(裁判例①,⑥)では,給付歴,入院の必要性が疑わしいことをも併せて 考慮され,本件条項の要件該当性の有無の評価がされている。これに対し て,集中加入期間中の加入型では,裁判例⑦を除き,入院の必要性が疑わ しいことは考慮要素とされていない。これは,前者のほうが後者よりも,

類型的にモラルリスク的要素が強く,後者は当初は通常の保険加入の状態 であるため,信頼破壊的な事情が当初は少ないためであると思われる。

⚖.重複加入による重大事由解除のその他の問題

⑴ 他保険契約の告知義務41)

損害保険会社では他保契約の告知義務を課しており,生命保険会社では他

41) 他保険契約の告知・通知義務の問題については,佐野誠⽛他保険契約の告 知・通知義務⽜落合誠一=山下典孝・新しい保険法の理論と実務(別冊金商)

89頁(2008),出口正義⽛保険法の若干の解釈問題に関する一考察⽜損害保険 研究71巻⚓号27頁(2009),洲崎博史⽛保険法のもとでの他保険契約の告知義

(18)

保険契約の告知義務は定められていない42), 43)。本件条項が,前記のとおり,

損害保険会社が販売する傷害疾病定額保険にも導入されている。そこで,他 保険契約の告知義務違反の事実は,その他のモラルリスクの存在と合わせて,

本件条項の要件該当性の判断をすることができるのだろうか。

この点,本件条項の根拠規定である包括条項の解釈について,①故意の事 故招致の疑いがあることと,他保険契約の不告知不通知とは別の問題であり,

これらを合わせて全体として重大事由に当たるとみることは,重大事由解除 の制度趣旨に合致しないとする見解44),②モラルリスクの存在を推認させる ような事実が存在する場合には,全体として不正請求を疑わせることになる ので,これらの事情は,他保険契約の存在についての不告知と相まって,信 頼破壊の事情となると考えてよいとの見解45),がある。

私見では,すべてのモラルリスクを疑わせる事情は評価根拠事実として勘 案されるとの立場であるので,見解②に賛同する46)

務・通知義務⽜竹濵修=木下孝治=新井修司・保険法改正の論点82頁(法律文 化社,2009),松澤登⽛告知義務違反による解除⽜甘利公人=山本哲生・保険 法の論点と展望42頁(商事法務,2009),大槻哲雄⽛保険法成立を受けた傷害 疾病定額保険契約における他保険契約の告知義務及び通知義務の再検討⽜大塚 英明=児玉康夫・新保険法と保険契約法理の新たな展開497頁(ぎょうせい,

2009),潘阿憲⽛道徳的危険事実と告知事項⽜損害保険研究73巻⚒号⚑頁

(2011),勝野義孝⽛他保険契約の告知義務・通知義務違反と解除⽜落合誠一=

山下典孝・保険法判例の分析と展開・金融・商事判例1386号118頁(2012),潘 阿憲⽛重大事由解除に関する一考察⽜損害保険研究75巻⚔号211頁(2014),潘 阿憲⽛生命保険契約と重大事由解除⽜生命保険論集192号13頁(2015),等参照。

42) 共済団体の中には,⽛入院給付金付きの保険・共済に⚔社以上加入してい る。⽜か否かを告知事項としているところもある(全労済のこくみん共済 加 入申込書A 質問表)。

43) 生命保険会社の引き受ける保険契約に他保険契約の告知義務が定められてい ない理由につき,松澤・前掲注41)44頁参照。

44) 洲崎・前掲注41)95頁参照。

45) 潘・前掲注41)(生命保険論集)18頁参照。

46) なお,清水太郎⽛他保険契約の告知義務⽜保険学雑誌636号139頁(2017)は,

(19)

⑵ 解除の対象となる保険契約の範囲

A,B,Cと順次に契約が重複し,重複の程度が著しくなった時点がC契 約を締結した時点であるとすると,C契約の解除と同時にA契約・B契約を 解除することができるか。これには⚒つの考え方があるとされる。第⚑は,

C契約の締結時までは,A契約・B契約は問題なく継続し得ていたとすれば,

A契約・B契約まで解除することはできないという考え方であり,第⚒は,

保険契約の著しい重複を問題とする限りでは,A契約・B契約・C契約が合 わせて信頼関係を破壊する手段となっているのであるから,A契約・B契約 も解除することができるという考え方である47), 48)

本件条項による解除が認められるのは,モラルリスクの徴憑たる保険の著 しい重複等により,保険契約の存続を困難にする程に保険者の保険契約者等 に対する信頼が損なわれるからである。私見では,C契約が重大事由解除に より強制的に解除されたことが,信頼回復事由になることもないうえ,A契 約・B契約・C契約が一体として信頼関係破壊の評価根拠事実の一つとなる ので,他の事由と相まって契約存続が困難となる程度に信頼関係が破壊され たと評価されるときには,A契約もB契約も解除することができると考える。

⚗.おわりに

実務上,多数の保険の累積があるか否か・集中性の程度は,支払査定の際,

支払査定時照会制度49),弁護士照会によって調査できるため,モラルリスク 事案を検知する重要な端緒となるものである。

本件条項にかかる裁判例の集積により,その射程範囲,考慮される事実,

⽛保険法下において重大事由解除をもって解除できる範囲は,従来の他保険契 約の告知義務よりも狭いものになる⽜と分析している。

47) 山下・前掲注16)31頁参照。

48) 他保険契約の告知義務との関係で論じるものとして,出口・前掲注41)34頁,

潘・前掲注41)損害保険研究75巻⚔号218頁以下,潘・前掲注41)生命保険論集 192号18頁以下がある。

49) 生命保険協会の HP(http://www.seiho.or.jp/personal/assessment/)参照。

(20)

その範囲等がよりより明確になれば,包括条項の具体化の一つの類型として モラルリスク対策の有効な一手段となるのではないかと考える。

(筆者は日本コープ共済生活協同組合連合会勤務)

(21)

裁判例一覧表 考慮要素:㋐:集中加入期間中の加入㋑:集中加入期間中ではない加入㋒:入院給付金日額合計額等㋓:保険料月額合計額 ㋔:収入・財産㋕:支出・債務㋖:給付金の受給歴㋗:入院の必要性が疑わしいこと㋘:その他 入院給付金日額合 84ó000 27ó000 80ó000 10000円 38ó000 11000円 疾病66ó500円 災害79ó000 災害99ó500円 交通事故10500円 10000円 76ó200 64ó000 42ó500 16ó000

考慮要(評価根拠事実・評価障害事) ※2(㋘(多数の入院歴の不告)) (短期集中加入の理由に合理性欠) (しこりの存在悪意の可能性) (加入動機の主張が認定できない) (契約締結等の状況に不自然な) (加入動機が信じがたいこ)(㋓)()(㋖)※2 (重複加入の告知義務違反がな) ※3

解除の 可

〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 × × ×

裁判所・判決日・掲載紙 札幌高裁平1330日生1358頁 熊本地判平141010日生14679頁 福岡地判平151226日生15842頁 東京地判平1625日生16438頁 東京高判平16⚗日生16680頁 大分地判平1728日生17156項・ 1216282頁 千葉地判八日市場支部平1821日 18406頁 東京地判平19⚗日生19194頁 札幌高判平271029日判例集未登載 東京地判平282016WLJPCA03038007 東京簡判平28日文研生31 大阪高裁平16日生343頁 名古屋地判平191130日生19616頁

番号 障害特約等における保険金額,重複が主に問題にされたのは障害給付金額であった 認定事実にあるものに(※⚒考慮要素として明確に判示されていないものの)を付した の⽛⽜と 金日額合計⚑万⚖千円であり著しく過大ではないとされた。

参照

関連したドキュメント

⚒.. であること等⽜から見送られた 6) 。⽛共済契約⽜を保険法の対象とするべきこ

整が存在する。等価式で表すと,

その内容の詳細は,各論文に譲るとするが,弁護士の大井暁氏からは,こ

日本には多種多様な共済が現存する。1880年 (明治13)

(Marine Insurance Act 1906)(以下,1906年 MIA という。)として成文化

公益法人としての社団法人であった。社団法人は,公益事業とともに会員の

次に,表⚓は累積集中度と HHI をまとめたものであるが,この表から以

9) ソルベンシー・マージン比率の算出基準等に関する検討チーム(2007)。.. ー・マージンと見ることは可能⽜ 10)