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共済概念の再検討

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■アブストラクト

日本には多種多様な共済が存在し,社会に広く,深く根づいている。本稿 では共済一般についての概念化を試みる。研究方法として,ペストフのトラ イアングル・モデルを生活保障システムに適用する。サード・セクターに位 置する共済は,主に⽛私的⽜,⽛非営利(相互性)⽜および⽛公式⽜(民主制)

により特徴づけられるが,公的な領域に存在するものもある。共済の名称の 有無で判断するのは適当でない。さらに,保障サービスを提供する経済組織 としての共同体,市場および国家(政府)の相互依存関係の重要性に着目し,

今後の環境変化に対する中間組織または社会的経済としての共済の存在意義 について検討した。最後に,共済一般の概念化において保険理論および経済 理論を適用することで,学際的な保険論の構築可能性を示唆した。

■キーワード

共済一般の概念化,アソシエーション,トライアングル・モデル

⚑.はじめに

構成員のために行う保障事業を一般に共済という。共済は日本社会の産物 であり,独自の存在である。それらのうち協同組合が行う保障事業が協同組

*平成27年12月18日の日本保険学会関東部会報告による。

/ 平成28年11月30日原稿受領。

共済概念の再検討

共済一般の概念化と保険理論の適用に向けての準備作業

岡 田 太

(2)

合共済である。歴史を紐解くと,1900年 (明治33) 保険業法(明治33年法律 第69号)施行以来,株式会社または相互会社でなければ保険業を営むことが できなかった。このため大正期から保険組合の実現を要求する運動が産業組 合により展開された。理論的,精神的支柱として活躍した賀川豊彦氏は,協 同組合保険の導入を提唱した(賀川 (1936)など)。戦後一連の協同組合法に より協同組合が制度化されたが,協同組合は保険業法のもとで保険業を営む ことが許されなかったため,共済事業(⽛共済に関する施設⽜(農協法10条 10),⽛組合員の生活の共済を図る事業⽜(生協法10条⚔)など)として実質 保険業を行った。このような経緯から,研究者や実務家などの間で共済研 究・運動の対象とされる共済は,協同組合共済つまり協同組合保険であると 認識された。そして,共済事業に対する保険業法の適用(共済規制)をめぐ り論争が展開された。

このような認識に転機をもたらしたのは,2000年代初頭のいわゆる無認可 共済の法規制をめぐる問題の表面化である。無認可共済はその名称に共済を 使用したため,根拠法を持たない共済とされるが,それらのなかには保険業 に相当すべきものが含まれており,⽛平成の類似保険⽜または⽛無認可保険⽜

の様相を帯びていた。これを契機に自主共済とよばれる労働組合共済や非営 利・協同自治組織による共済が注目され,押尾監修 (2007) をはじめとして 研究が進展した。

日本には多種多様な共済が現存する。1880年 (明治13) 共済五百名社が設 立されて以降,昭和初期には共済組合が相次いで創設され,⽛相互に助け合 い,共同で事をなすこと⽜という共済の語義が保障事業または施設を示すも のとして定着した。しかし,共済一般の概念規定は通俗的なものを別とすれ ば,管見の限り存在せず,共済研究としても理論化されることはなかったよ うである。岡田 (2010),岡田 (2012) においてその概念化を試みたが,十分 な成果を得られなかった。本稿では,生活保障システムにおける協同組合共 済および自主共済を含む多様な共済における一般的な特質の解明を目指して 再検討を行いたい。

(3)

本稿の構成は,次のとおりである。まず,共済一般の概念について既存研 究を整理したうえで,共済の基本スキームを示す。次に,サード・セクター としての共済の位置づけを明らかにするとともに,共同体,市場および国家 の経済組織との関係性を考察する。そして,保険理論の視点から共済の概念 を検討する。本稿の目的は,隣接科学の成果をふまえ,経済システム全体か ら共済および保険を俯瞰することで,伝統的な学説と異なる論点を提示する とともに,学術交流を通じて保険研究のさらなる発展を目指すことである。

⚒.共済一般の概念

⑴ 既存研究の概観

伝統的に,共済は協同組合保険として認識されている。協同組合保険は,

協同組合が営む保険であり,保険業における組織形態の⚑つの部類を表す。

したがって,その上位に保険概念が存在する。代表的な保険学説(保険本質 論)は入用充足説,経済準備説または経済的保障説にしても,共済を包摂す ると考えられる。しかしながら,保険の本質という高い次元においては共済 と保険の差異が消失してしまうため,保険学説によって共済の概念または本 質を説明することは適当でないという。共済の概念化は現在もなお,笠原長 寿教授の研究に負うところが大きい。共済の概念規定を行うにあたって,笠 原教授は⽛保険固有理論的⽜視点と方法からの接近ではなく,社会的,歴史 的視点からその機能,性格および位置づけを究明された1)

笠原教授は,共済を歴史的形成体として認識したうえで,中世社会にみら れるギルドのような封鎖的共済ではなく,資本制社会の共済を対象とする。

その発展形態から,①先駆的共済の残存形態,②私企業化形態,③企業内共 済形態,④社会保険化形態,⑤労働組合共済形態2),⑥近代的共済事業形態

1) 笠原長寿遺稿集刊行会編(1982),77頁。原典は笠原(1961),⚓-⚔頁。

2) 労働組合共済は,当初概念化を試みた笠原(1961)にはなく,笠原(1966)

において現れたが,近代的共済事業と異なる発展段階にある形態とされ,それ と区別されたようである。

(4)

(協同組合保険)の⚖つに分類される3)。⑥は個人保険の範疇に含まれる。

押尾直志教授および相馬健次氏は笠原教授の方法論を継承されているが,整 理の仕方が多少異なる。押尾教授は,①から④までは同じであり,⑤協同組 合保険形態,⑥自主共済形態(労働組合共済,非営利・協同自治組織による 共済)と整理される4)。相馬氏は,①から⑤まで同じであり,⑥近代的共済 事業形態(協同組合共済,労働者共済,⽛自主共済⽜)と整理される5)。自主 共済を共済の新たな発展形態として把握するか,近代的共済事業形態の⚑つ として把握するかによって見解が分かれる。いずれにしても,共済の変化・

進化に応じてその位置づけが変わりうることを示している。

次に,共済の代表的な定義について概観しよう。根立昭治教授は,⽛一定 の危険に対して所有財産の保障手段を確保しようとする多数の組合員(財産 所有主体)が出資によって協同組合を結成し,財産保障基金(共済資金)を 形成するために組合員に自由で合理的なかつ公平な計算によって掛金を 拠出し,組合員の経済活動を持続させるた制度である⽜と定義される6)。 協同組合の三位一体主義(出資・利用・経営)が全面に出ており,あわせて 保険の合理性,公平性にも言及されている。押尾教授は,協同組合共済(お よび労働組合共済,非営利・協同自治組織による共済)を対象としたうえで,

共済とは⽛特定の組合員によって構成される団体内での相互扶助,助け合い の制度であり,公平・公正,民主的な考え方に貫かれた組織原理・運営原則 にもとづく社会運動である⽜7)と定義する。また,⽛地域・職域において共通 の経済的,社会的,文化的欲求を協同して満たすための運動として組織され た⽝人と人との結合体⽞を母体にして,相互扶助の理念にもとづき生活保障 を実現するための制度⽜8)である。そして,相馬氏は共済事業を⽛保険の仕

3) 笠原長寿遺稿集刊行会編(1982),214頁。笠原(1966),⚕頁。

4) 押尾(2012),214-215頁。

5) 相馬(2013),⚘頁。

6) 根立(2002),158頁。

7) 押尾(2012),238頁。

8) 押尾(2012),178頁。

(5)

組みを社会運動の手段として利用した経済施設である。その主体は協同組合,

労働組合,その他の社会運動組織であり,意思決定は組織の構成員(または その代表者)によって構成する総会(または総代会)などで⚑人⚑票の原則 により民主的に行われる⽜と定義する9)。押尾教授と相馬氏は,協同組合の ほか労働組合や非営利・協同自治組織による共済も視野に入れた定義である。

それらの組織の特質を強調するとともに共済の社会運動性を本質とされてい る点に特長がみられる。

⑵ 共済一般の概念化の試み

これらの共済の定義は,近代共済研究の到達点を示しているが,本研究の 目的は笠原教授の①から④に分類される形態の共済,さらには対象から除か れていた前近代的共済施設を包括するような超歴史的な概念を規定すること である。それは決して容易でないが,その試みとして,⽛生活保障システム における共済は,生活の安定を図るために,地縁や職縁など特定の関係で結 ばれた者が集団を形成し,相互扶助の精神に基づき,不慮の事故や災害,疾 病などに備えて共同で資金を準備し,これらの出来事が発生した際に一定の 給付を行う制度である⽜10)と定義したことがある。その内容は,慶弔見舞金 程度の簡易なものから実質保険業に相当するものまで多様である。それらの うち,主要な協同組合共済は,組合員の生活リスクに対する保障を充実させ るために保険技術または仕組みを導入し,協同組合の原則・理念に基づく相 互扶助の保障事業すなわち協同組合保険として発展した。

図⚑は,共済の基本スキームを表す。多くの共済にみられる特徴として,

協同組合や労働組合,地方公共団体,会社,官公庁,学校,職能団体または 宗教団体などの母体組織または中間組織(アソシエーション)11)の存在があ

9) 相馬(2013),16頁。

10) 岡田(2012),169-170頁。岡田(2010),111頁左。

11) アソシエーションは通常,コミュニティ(共同体)を基盤に形成される社会 集団であるが,その範囲などがコミュニティとすべて同じ場合,組織化は不要

(6)

げられる。アソシエーションとは,共同の目的を追求するために形成される 組織を指す。それらは本来的に,共済とは別の主たる事業などを実施し,付 随的に構成員の福利厚生または福祉として共済事業を行う。構成員の生活の 安定に寄与するとともに,組織の結束力または集団凝集性を高める役割が期 待される。保障専業は,協同組合または共済組合などにみられる。また,共 済集団はいわゆる保険団体に相当するが,これとは別の意味で共済団体の用 語が使用されるため,本稿ではそのように呼称する。現在の共済事業は,母 体組織でなく,共済協同組合(連合会),共済会または互助会など,母体と 関連のある別組織が運営するのが基本である。事業運営の主体は,協同組合 や商工組合,共済組合(社会保険),一般社団・財団法人,公益社団・財団 法人および独立行政法人などの法人または任意団体まで広範囲に及ぶ。

⑶ 保険制度の視点

特別な根拠法に準拠せずに設立された任意団体等が行う共済事業(根拠法 のない共済)に対応するために,2005年 (平成17年) 改正保険業法(平成17 年法律第38号)が実施された。保険業法の適用除外とされる団体は,次のと おりである12)。①他の法律に特別の根拠のあるもの(制度共済等),②保険 である。この場合,コミュニティにおいて設立・出資された共済事業運営組織 が共済事業を行う。

12) 保険業法⚒条⚑項⚑号および⚒号。川村(2012),213-214頁。

図⚑ 共済の基本スキーム

出典:岡田(2012),170頁

(7)

の引受けを行う事業について,構成員の自治のみによる監督を理由に自己責 任を問うことが可能な団体であり,保険の引受けを主目的とした団体との区 別が明確であるもの,③政令で定める人数(1,000人)以下の者を相手方と するものに大別される。さらに,④10万円以下の慶弔見舞金等の給付を行う 少額の共済は,保険業法の対象外とされている。①について,協同組合のほ か,社会保険または経済政策保険の公保険を含む13)。②の例として,地方公 共団体共済,企業内共済,労働組合共済,学校共済,町内会または自治会共 済,地方公共団体共済,宗教法人共済,公務員共済,議員共済,PTA 共済 などがあげられ,いずれも構成員相互の関係が極めて密接であることが必要 とされる。また,根拠法のない共済については任意団体等および公益法人は,

保険会社または少額短期保険業者,制度共済,少人数共済または企業内共済 等あるいは少額(10万円以下)共済に移行するか,保険会社の商品の利用ま たは廃業することになった14)

以上から,共済一般化の概念化に際して注意すべき点が⚒つある。⚑つは 保険業法の適用除外であるからといって,すべてが共済に含まれるわけでは ない。もう⚑つは共済または保険の名称の有無だけで,共済か否かを判断す ることは避けるべきである。次章で述べるような共済としての特質を兼ね備 えているかどうかが重要である。資料の入手制約上,共済事業の全体像を把 握することは難しいが,大規模な協同組合共済だけでなく,小規模な共済が 広く多数存在し,社会に根差し,定着しているといってよいであろう。

⚓.共済の活動領域と経済組織

⑴ サード・セクターとしての共済

ペストフ(Victor Aõ Pestoff)の福祉トライアングルによると,福祉サー ビスを提供する経済組織は⚔つに大別される。すなわち,第⚑セクターとし ての国家(公的機関),第⚒セクターとしての市場(私企業),第⚓セクター

13) 新川(2005),34-37頁。

14) 川村(2012),234頁。

(8)

としてのアソシエーション(ボランタリーまたは非営利組織),そして第⚔

セクターとしての共同体(家族)である15)。日本において,第⚓セクターの 呼称は,国または地方公共団体と民間企業が共同出資して設立した事業体を 指すことが多い。そこで,以下では,サード・セクターと表記する。図表⚒

のように,国家,市場,共同体は⽛営利/非営利⽜,⽛公的/私的⽜および

⽛公式/非公式⽜を基準にそれぞれ区別される。そして,アソシエーション はそれらの中間領域(私的・非営利・公式で囲まれた逆三角形部分)と各セ クターと重複する領域(逆三角形の周辺部分)に存在する。

ここでアソシエーションの概念について確認する。伝統的なマッキーバー

(RõMõ MacIver)の考え方によれば,⽛コミュニティは社会生活,社会的存 在のための共同生活⽝の範囲⽞であり,他方,アソシエーションは,共同の 目的,つまり共同の関心や利害の追及のため組織される団体である⽜16)とい う。また,アソシエーションを約縁集団(結社)とし,⽛なんらかの共通の 目的・関心を満たすために,一定の約束のもとに,基本的には平等な資格で,

自発的に加入した成員によって運営される,生計を目的としない集団⽜17)と する考え方もある。

図⚒は,共済と保険の位置づけを明確にする試みとして,ペストフの福祉 トライアングル・モデルを生活保障システムに援用したものである。伝統的 な協同組合,さらに近年の労働組合や非営利・協同自治組織による共済から 共済一般を概念化の対象とする場合,範囲の広さがボトルネックになるが,

ペストフのモデルを援用することで,ある程度可視化され,特徴を把握でき ると思われる。

第⚑に,共同体と重複する領域に町内会や自治会など共同体を基礎に多様 なアソシエーションが存在し,見舞金などの素朴な共済が存在する。同業組 合または企業内福祉としての慶弔見舞金についても企業コミュニティを基礎

15) Pestoff(1998),pp.40-41.

16) 高橋(2008),115頁。

17) 綾部(2005),はしがき。

(9)

とする共済会もこれに含まれる。笠原教授の①先駆的共済の残存形態および

③企業内共済形態の一部(他は国との重複領域)がこの領域に含まれよう。

第⚒に,市場と重複するまたは近い領域については,これを区分する⽛営 利/非営利⽜の考え方に左右される。非営利に利潤非分配を含めるかどうか は,国によって異なるからである。保険制度において,伝統的に相互保険は 非営利保険とみなされている18)。実費主義に基づく社員配当は,利潤の分配 よりも安全を見込んだ保険料の清算の側面が強い。協同組合共済などの割り 戻しも同様である。ペストフも外形的(法的)な視点ではなく,組織の社会 価値や目標,剰余の分配方法に従って区分されるべきとしている19)。この領 域には,笠原教授の②私企業化形態,⑥近代的共済事業形態が含まれる。② は共済五百名社のように,共済組合から私企業に転換したものを指すとされ

18) 保険の相互性に関する議論については,岡田(2017)を参照されたい。

19) Pestoff(2009),p. 60.

図⚒ 生活保障システムにおける共済・保険の位置

出典:Pestoff(1998)を加筆・修正

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るが,保険業法の制約で株式会社または相互会社として設立された共済組合 の性質を持つ企業も含まれよう。⑥は保険市場で利用または購買が困難によ り出現し,成長した協同組合共済を指す。

第⚓に,国家と重複する領域は,④社会保険化形態である。社会保険の源 流は,1905年 (明治38) 創設の鐘淵紡績会社に代表される民間共済組合や 1910年 (明治40) 創設の帝国鉄道庁職員救済組合に代表される官業共済組合 とされる20)。現在の健康保険組合や国民健康保険組合はこの領域に存在する。

共済の名称こそないが,共済の範囲に含まれよう。公務員や教員については,

国家公務員共済組合,地方公務員等共済組合および私立学校教職員共済が社 会保険(共済年金および健康保険)事業と福祉事業を行う。また,地方公共 団体は住民や勤労者などを対象に,公営の共済事業を実施している21)

最後,第⚔に,図⚒のアソシエーションの中央(逆三角形部分)つまり中 間領域は,NPO やボランタリー組織がこれに該当する。共済の場合,公益 社団・財団法人,独立行政法人のほか,労働組合や非営利・協同自治組織に よる共済などが該当しよう。環境や福祉など他のサービス部門においては,

サード・セクターの主翼を担う中間領域または市民セクターにおける活動が 盛んであるのに対して,この領域における共済の存在感は薄いようにみえ る22)。市場および国家の提供する保険の領域が大きいため,それを補完する 共済の役割が相対的に小さいこと,共済が主たる事業ではないことによると 考えられる。なお,ヨーロッパにおけるサード・セクターは社会的経済

(social economy)と把握されている。EU の社会的経済は,協同組合,ミュ ーチュアル23),アソシエーション(非営利組織)および財団から構成される。

その特徴は,①利益よりもむしろ構成員あるいはその集団に奉仕することを 20) 佐口(1977),67頁。

21) その他,地方自治法第263条の⚒の規定に基づき,全国自治協会災害共済事 業が行われている。

22) この場合,主要な協同組合共済の位置づけが問題となる。アソシエーション の中央部ではなく,市場よりに位置するように感じられる。

23) ミューチュアルの概念については,石塚(2007),143頁を参照。

(11)

目的とする,②管理の独立,③民主的な意思決定過程,④収益の分配におい ては,資本より人間と労働を優先する,とされる24)。共済を社会的経済とし て扱う際,ペストフまたは社会学のアソシエーションと社会的経済の構成要 素であるアソシエーションとを混同しないよう注意する必要がある25)。なお,

⽛公式/非公式⽜については,公式の組織を有するだけでなく,⚑人⚑票制 などの民主的な運営を基準とすべきであろう。公式の組織を持つ共済もまた,

民主的な管理・運営を特徴とする。この意味で,国家公務員共済組合などの 場合,組合の長が運営審議会委員を任命する26)ため,民主的な性格が弱い。

ところで,ペストフのモデルにはアソシエーションのメルクマールとして 社会運動性が明示されていない。歴史上,多くの共済において協同組合運 動27),労働運動または労働者自主福祉運動28)などが展開されたように,それ は協同組合,労働組合および非営利・協同自治組織による共済の本質的要素 であるとされる。しかしながら,第⚔の軸を加えるにしても,どのようにそ れを引くべきかが難しく,かえって複雑化するおそれがある。そこで,社会 運動性のモデルへの明記については課題としたい。松元一明氏によれば29), 運動の対象は官僚制,工業化を特徴とする近代社会が物象化する諸問題であ り,図⚒でいう国家,市場の領域から私領域(共同体)へ向かう動きである。

運動はそのような私的領域に対する諸問題に対する異議申し立てを表すとい う。初期の共済運動の場合,運動の担い手は農業者,中小企業者および労働 者の社会階層であり,運動の対象は営利保険への批判,資本主義的保険政策

24) 北島(1997),37頁。

25) ドゥフルニ・モンソン,富沢他訳(1995),19頁。日本語訳は内山哲郎講師 による。

26) 国家公務員共済組合法(昭和33年法律第128号)⚙条⚓項。

27) 押尾(2012),58頁。

28)⽛⽝労働福祉⽞の名は,諸領域に確立をみた自主的協同事業を労働運動の一環 として統一的に把握し,方向づける目的のもとに1960年にはじめて用いられ た⽜という。藤原(1980),210頁を参照されたい。

29) 松元(2014),193-194頁。

(12)

の矛盾とされる30)

⑵ 経済組織と共済

図⚒において,共同体,市場および国家の⚓つのセクターがある。これら の経済組織は,経済活動を調整する複合体として経済システムを構成する。

共同体は地方公共財,市場は私的財,国家(政府)は公共財を提供する役割 をそれぞれ担う。

保険市場や社会保険が出現する以前の社会において,不慮の災害や疾病な どへの対処は共同体で行われた。共同体は,血縁,地縁,職縁(社縁)また は宗教などの絆で結ばれた人々からなる(自然発生的な)社会集団を表し,

家族共同体,村落共同体,都市共同体,同職ギルド,宗教共同体など多様な 共同体が存在する。相互扶助・相互救済を原理とする共同体の生活保障は,

愛情や道徳心(宗教心)だけでなく,共同体を存続・維持するために行われ る。共同体保護と共同体規制31)は,コインの両面である。多くの既存研究に よれば,共同体が集団内でリスクを分散し,生活リスクへの保障を提供する インフォーマルな⽛保険⽜機能は,人類発展の初期段階とされる原始共同体 から内在したという32)。まさにそれは,共同体の本源的機能の⚑つであろ う33)。リスク保障の例として,村落共同体における社倉,郷倉の共同備蓄や 頼母子講または無尽講34)などがあげられる。ただし,拠出と給付の関係も契

30) 笠原長寿遺稿集刊行会編(1982),94頁。笠原(1961),23頁。

31) 村民の日常生活の規制(義務)として,共同祭祀,冠婚葬祭および相互救 済・扶助をあげ,相互救済・扶助の例として村民の寡婦・孤児の共同扶養の義 務,村民疾病者の救済などが示される。堺(2000),206頁。

32) 堺(1996),35頁左。

33) 堺(1996),34-37頁。堺(2000),206頁。

34)⽛無尽講は,民間における相互的融資制度の一種であり,最初は臨時的救済 制度として発足した。たとえば村落共同体に火災,病気等の災難で苦しむ者が 発生したとき,その救済のために構成員が申合せて一定の出資をし,第⚑回は 抽選でなく被救済者に与えた,という形である。慈善的,宗教的精神がその基 礎にあるため,寺院が講元になるケースが多く発生した。⽜麻島(1983),⚓-

(13)

約様式もない暗黙の⽛保険⽜であり,金融と保険は分離されていない。

共同体の提供する⽛保険⽜は地域のセーフティーネットとしての公共財な のに対して,保険市場で供給される保険は私的財(クラブ財)である。クラ ブ財は準公共財であり,利用者は保険加入者に限定されるがその消費は競合 しない。保険市場は,リスクの負担を避けたい個人が保険契約を通じて保障 を獲得する一方,利潤を追求する保険会社が加入者のリスクを引き受ける。

保険会社のリスク負担は,特定の関係に依らない加入者35)間のリスク分散

(プーリング)を基礎とし,保障原理は相互扶助から自助へと変化する。

歴史上,多くの国々において市場経済の進展または近代化による共同体の 解体は,一方で共同体の保障機能が低下し,他方で個人の自立を促し,近代 保険生成の要因となった。保険市場は地域共同体を離れまたは超えて多数の 契約者の保険加入を可能にするため,大数の法則を効果的に適用することが できる。また,保険数理により合理的に保険料が計算されることなどの理由 から,保険の提供については共同体よりも市場に優位性が認められる。

一方,共同体が市場や国家に対してもつ優位性36)として,①国家が知りえ ない現地の情報を活用し,より現場のニーズに合った公共財を供給できる,

②多くの種類の公共財を供給することで⽛範囲の経済性⽜を発揮できる,③ 多種類の公共財を同時に供給することで,ただ乗りに対する制裁を強化でき る,ことがあげられる。私的情報(情報の非対称性)が存在する場合,保険 市場は逆選択またはモラルハザードによりリスクの効率的な配分が制限され る。これに対して,共同体は成員間の緊密な関係や信頼関係に基づいた協力 により,それらの問題やいわゆるただ乗りの抑制に優れている。また,取引 上の不正行為の制御に不可欠な契約の履行強制も市場成長の前提条件である とされる37)。これについても共同体は,村落共同体における村八分のような

⚔頁。また,小島(2015),65頁以下参照。

35) 戦前を中心に保険団体の共同体的性格について議論されたが,保険団体が共 同体としての前提条件を満たしていないことは明らかである。

36) 有本(2009),91頁。

37) 有本(2009),91頁。

(14)

共同体規制や規約などを通じてそれを行っていた。

欧米諸国において保険市場の揺籃期に相互会社または組合が多くみられた。

それらは保険企業よりも中間組織と考えるべきかもしれない。近代保険の成 立期に相互主義に象徴される互恵主義が現れ,その確立期に向けてその要素 が次第に希薄化されてゆくとされるが,その要因として,市場原理や保険会 社の規模拡大などがあげられる38)。経済組織の視点からみると,共同体と異 なり,未発達の市場は加入者間の信頼関係による逆選択やモラルハザードの 抑制および契約の履行強制に十分な対応ができなかったことを指摘すること ができよう。そして,保険法制度が整備され,これらの問題に対応できるよ うになると,保険市場の優位性が強くなったと推察される。

すでに述べたように,保険市場の問題点は逆選択およびモラルハザードに より,社会にとって必要な保障よりも過少に供給されることである。歴史上 保険市場は,工業化,都市化が進み急増する困窮労働者に対して必要な保障 を供給することができなかった。そのため,激しさを増す労働運動への対策 と労働者の保護が政府の課題となった。このような市場の失敗に対して,国 家(政府)はセーフティーネットとして社会保険(社会保障)を提供する。

政府は社会保険への加入を義務付け,所得再分配を通じてそれを行う。所得 の移転や必要な場合は国庫補助を通じて社会的リスクに対する格差の是正を 図る。

なお,生活リスクに直面し,その対応が迫られる主体は共同体のなかで最 も強固な血縁で結ばれた家族である。経済学や社会学において,家族の経済 的機能の⚑つにインフォーマルな⽛保険⽜機能の存在が指摘されている。近 代社会以降,家族規模の縮小と家族形態の変容によって,家族の⽛保険⽜機 能が低下した。年金や介護などかつては家族が担っていた保障が市場または 国家が提供するようになり,家族機能の外部化または社会化が進んだ。

このように,経済組織としての共同体,市場,国家は⽛歴史的にみれば相 38) 水島(1994),195頁。

(15)

互に補完関係にあった⽜39)といえる。図⚓は先進経済における依存関係の例 を表す。山重慎二教授によれば,⽛市場経済の浸透が,共同体の弱体化をも たらし,それが政府の拡大をもたらすという仮説,そして,政府の拡大が共 同体のさらなる弱体化を招き,それが政府のさらなる拡大を招くという,循 環的政府拡大の可能性に関する仮説⽜40)を表す。歴史を振り返ると,資本主 義社会の安定化を確保するために社会保障をはじめとする政府の役割が拡大 したが,かえってそれが少子化など家族を含む共同体の弱体化をいっそう促 す効果が生じた。生活保障システムの相互依存関係にも適用可能であろう。

⑶ 保険史におけるアソシエーションの役割

経済組織としての地域共同体の弱みは規模の経済が発揮しにくい,高度な 専門力で劣ることである41)。共同体構成員の異質化・多様化もまた,共同体 の解体を促す効果を持つ。いいかえればアソシエーションの出現は,共同体 構成員の異質性,多様性に起因する。構成員が同質的であれば,地域公共財 はほぼ同じ便益と費用を共有する42)。しかしながら,都市共同体のように,

39) 有本(2009),92頁。

40) 山重(2013),54頁。

41) 有本(2009),91頁。

42) 有本(2009),93頁。

図⚓ 共同体,市場,政府の相互依存関係

出典:山重(2013),42頁に加筆

(16)

多様な者から構成される場合,共同体が個別の集団にそのような財を提供し ない場合,それを必要とする者による自発的な集団の形成または結社をもた らす。⽛通常,原始的保険とよばれる火災ギルドなどの共済的施設は,この ような共同体の保障の弛緩を条件に出現する⽜43)という。

コレギア(collegia)は,ローマ帝政期都市において自発的に結成された 職業や宗教を紐帯とする社会集団として知られる。それらのうち,⽛葬儀組 合(collegia funeraticia)⽜44)は生命保険の起源ともいわれる。同様に,生命 保険の起源とされる中世ヨーロッパの同職組合(guild)や兄弟団(fraternity)45) も職業的または宗教的絆で結ばれた団体であり,相互扶助に関する規約また は慣行が存在する46)。この時代になると,都市共同体は部分共同体から構成 され,クラブ化が進んでいる。そして,構成員に対する相互扶助だけでなく,

構成員外の困窮者の救済という役割も果たすようになる47)

43) 水島(1964),127頁および水島(1962),⚕-⚖頁。⽛しかしそれらは常に共 同体を基礎または前提として,その上に成立する社会関係であり,しかもその 機能において共同体に対する補完的関係にたつものであった。⽜

44)⽛葬儀組合⽜は,構成員の埋葬に関する取り決め(入会金や会費,構成員の死 に際する供出金)が会則に含まれているものを指すようであるが,佐野(2011)

によれば,埋葬は当時のコレギアに共通する活動だったという。帝政前期の西 部に限定されるが,コレギアの構成員は無産市民でない都市の中・下層民であ り,多くが家族や親族を持たなかった。それらの者にとって,コレギアは埋葬,

宴会,祝祭を通じて擬制的な関係を結ぶ場であった。佐野(2011),40-44頁。

45) 兄弟団に共通してみられる特徴として,⽛家族や親族関係を越えたメンバー 相互の義務によって結び付けられ,儀礼を通じて統合される枠組みの内部で福 祉と安全を促進しようとする意識的選択による団体⽜である。河原(1998),

177頁。往時の社会不安を背景に,⽛地縁的,血縁的絆帯が不安定なものとなり,

それに代わる擬制的な家族としての兄弟団組織の形成が促進された⽜という

(同181頁)。また,中世都市において,同業者ギルドの構成員はしばしば職業 名を冠した兄弟団に所属するなど,両者に強い関係があった(同180頁)。

46) 堺(2001),53頁以下。

47) ローマの組合と中世後期に盛んであった兄弟団と比較されるが,⽛困窮した 仲間や仲間の遺族の救済という要素は,ローマの組合では希薄である⽜という。

坂口(2002),77頁注34。

(17)

また,社会保険の成立においてヨーロッパ諸国では友愛組合,共済組合,

共済金庫などがその基盤となった48)。これらは産業近代化が進むなかで発展 した,労働者の自主的または自衛的な相互扶助組織である。これらの組織を 通じた社会主義運動の大規模化を防ぐために,いわゆる⽛飴⽜の対策として 国がそれらを管理するかあるいは管理しやすくするように社会保険化したも のといわれる49)。たとえば,イギリスの友愛組合50)は,当時救貧制度しか公 的な貧困政策がなかった政府を補完する役割を果たした。もっとも,友愛組 合の加入者は比較的裕福な労働者で占められ,不熟練労働者は集金組合や簡 易保険に加入した。その後,政府が公的制度を拡充する際,友愛組合などが 認可組合として健康保険制度の運営を代行した。しかしながら,大量の失業 者が発生するようになるとこれらの中間組織の機能が低下し,⽛保険原則に 立脚する失業保険その他の社会保険が破綻する⽜事態が生じた51)。なお,日 本においても,上述の民間・官業の共済組合のほか,国民健康保険の小規模 保険制度のモデルとなった宗像定礼(常礼)52)が知られている。

⚔.保険理論,経済理論からみる共済

⑴ リスク処理機能

伝統的に,前近代的共済施設は原始保険とみなされる。それは近代保険の 要素を欠くためそのように呼ばれているが,近代社会以前に保険が存在しな い以上,保険の名称は適当でないとの見解もある。しかしながら,そのよう 48) 労働者保険の段階を経ずに社会保険制度を創設したスウェーデンの場合,19 世紀末疾病金庫が国からの補助金の助成と国民運動の高揚とがあいまって設立 ブームが起きた。その対象は労働者だけでなく,家族も対象とした。山本

(2014),155頁および159-163頁。

49) 多田(2014),⚘-⚙頁。

50) 齊藤(2014),30-31頁。

51) 山重(2013),49-50頁。

52) 福岡県宗像市の相互扶助組織である。江戸時代定期的に掛け金(米)を払い 込み,蓄えられた基金から医薬品や備品が購入され医師への支払い(謝礼)を 行う慣習が存在した。ナジタ(2015),86-90頁。

(18)

な考え方は保険を制度として捉える点で優れているが53),これまでの考察か ら明らかなように,家族を含む共同体の保障機能にインフォーマルな⽛保 険⽜を確認することができる。したがって,保険と共済を同じ視点で把握す るためには,制度ではなく,リスクを処理する機能のレベルで把握すること が必要である。リスク処理機能は,リスク分散機能とリスク移転機能に大別 される。分散機能は,共済と保険の違いは集団(危険団体)の規模の違いで ある。移転機能は,共済を引き受ける主体のリスク負担能力に依存する。

ところで,共同体の⽛保険⽜の場合,コレギアやギルドのように簡略され た規約が存在する場合があるが,きわめて不十分である。慣習のような暗黙 の契約の場合さえみられる。共同体の契約は⽛関係主義的契約⽜54)と呼ばれ,

⽛契約当事者が彼らを取り巻き,規制する社会関係によって強く拘束される 事実に注目する⽜ものである。義務の源泉は規範,常識,了解という社会的 関係であり,契約の特長として,事前には未確定であるが,事後的なプロセ スのなかで時間の経過とともに徐々に確定するという。家族の場合は愛情を もって,共同体の場合は共同体規制を通じて履行強制が担保されるため,経 済学の不完備契約の問題に対応することができる。

さらに,組織と市場の経済理論が適用できる。取引コストの多寡が共同体 と保険市場の優位性に影響を及ぼす。たとえば,家族を形成しなければ保険 会社の保険を購入するかもしれず,市場と補完的関係にある。

⑵ 相互保険としての共済

相互保険とは,保険契約者が直接に団体を構成して相互に保険を行う形式 をいい,保険契約者が所有者(社員)となる。共済も保障サービスの利用者 が所有者となるため,相互保険の部類に含まれよう。相互会社は相互保険を

53) 近代保険の特徴として,合理的な保険技術,保険加入の結果として存在する 保険団体,企業活動の対象の⚓つがあげられる。田村(1990),190頁。

54) 服部(2012),⚘頁。

(19)

行う代表的な組織形態であるが,相互保険はそれに限定される訳ではない55)。 したがって,協同組合をはじめ,多様な組織形態からなる共済の大部分は相 互保険に該当すると考えられる。組織形態が多様な理由については,ハンス マン(Hõ Hansmann)の学説に依拠することが多い。Hansmann(1996)に よると,企業の所有者は契約コストと所有権のコストの合計が最も小さくな るような取引相手(パトロン)がなるべきである。利用者が所有者の場合,

株式会社における株主(投資家)の機会主義的な行動からみずからの利益を 守ることが可能である。もっとも,リスク負担に関して株式会社のようにそ れを専門に引き受ける株主がいないため,利用者のリスク負担は制限される。

外部からの資本調達もまた制限される。

所有権理論において,残余請求権と残余コントロール権を持つ者が企業の 所有者とされる。この点に関して,多くの共済にみられる特徴は,残余請求 権が制限されること,残余コントロール権について⚑人⚑票制を原則とする ことである。また,前者について出資配当が制限56)され,出資金の払い戻し に持ち分が含まれていない。この意味で,共済事業を行う主体または組織体 は契約者の共同所有の性格が強いようにみえる。一方,後者について,人々 の自主的かつ自治的な組織であるため,共済は民主的な管理を志向する。

⑶ 保険原則の適用

最後に,保険の⚒大原則である⽛給付反対給付均等の原則⽜と⽛収支相等 の原則⽜の適用順序をめぐる問題である。通説によれば,(純) 保険料は将 来受け取るべき保険金の期待値と表されるため,多数の者が保険に加入すれ ば大数の法則が働き収入と支出が均衡する。したがって,⽛給付反対給付均 等の原則⽜から⽛収支相等の原則⽜が導かれる。保険料が保険金の期待値と

55) 大沢(1984),131頁。

56) 相互保険は営利を目的に行われるものではないため,非営利保険とされてい る。なお,財団法人の共済事業は配当する社員がいないため,剰余金の非分配 という意味での狭義の非営利である。

(20)

等価であることは,交換の原理すなわち市場原理を表す。もっとも,保険お よび共済を共同体,市場,国家および中間組織の経済システムから把握しよ うとする場合,通説による保険原則の説明はきわめて限定的なものにならざ るを得ない。そこで,通説的とは逆に57),保険の理念型として⽛収支相等の 原則⽜から出発した場合,それを満たすような保険料には⚒種類あることが わかる。⚑つは,大数の法則の適用により保険料が期待値に等しくなる。い いかえれば保険料はリスクの大きさで決定されるため,公正保険料と呼ばれ る。もう⚑つは平均保険料である。平均保険料は加入者間の平等が重視され,

友愛または互酬性という共同体または中間組織の原理を表す。ただし,共同 体または中間組織は同質な成員から構成されることを前提としているようで ある。社会保険についてはどうであろうか。社会保険においても⽛収支相等 の原則⽜が適用され58),保険料は加入者の経済的負担能力によって決まると 説明することができるものの,⚒大原則を説明するために使用される関係式 で表すことは難しい。私保険と社会保険の性質の違いを示唆している。社会 保険の所得再分配は,社会連帯の原理で説明されることが多い。

⚕.おわりに

本稿の目的は,従来共済研究の対象であった協同組合や労働組合,非営 利・協同自治組織による共済から共済一般に範囲を拡大し,その概念化を試 みることであった。共済の基本スキームを明示し,その多くは協同組合や労 働組合など,多様な母体組織または中間組織(アソシエーション)を基盤に

57) 別の理由から,通説の理解は妥当性を欠くとの指摘がなされている。伝統的 保険理論は危険の平均化という保険の技術的特徴を強調するが,保険会社が保 険技術を運用する際の必要条件について必ずしも明確にされていないからであ る。水島(1994),201-202頁。

58)⽛社会保険では厳密な意味での⽝保険技術的公平の原則⽞は貫徹されない。

またレクシスのいわゆる⽝給付反対給付均等の原則⽞も貫徹されない。だが

⽝収支相等の原則⽞は確守されているのであって,その意味において,社会保 険もまた,保険技術を前提としている。⽜近藤(1963),76頁。

(21)

設立され,本来的に,共済とは別の主たる事業などを実施し,付随的に構成 員の福利厚生または福祉として共済事業を行う。

次に,多種多様な概念の位置づけを明確にするために,ペストフの福祉ト ライアングル・モデルを生活保障システムに援用した。サード・セクターと しての共済は他部門と比較して,共同体,市場および国家との重複領域に多 く存在し,中間領域の存在感が薄い点に特徴がみられる。これは市場および 国の提供する保険の領域が大きいため,それを補完する共済の役割が相対的 に小さいこと,共済事業が付随的に行われたことと関係がある。また,生活 保障システムにおける保険(⽛保険⽜)は,経済組織の理念,価値に応じて変 化する。経済組織によって保険の役割が異なりうることが示唆される。さら に,社会経済全体を俯瞰することで各経済組織間の相互依存関係を考察し,

社会経済が動態的に変化するなかでその関係がどのように変化するかに着目 することの重要性を明らかにした。それらは,従来の保険および共済研究で とりあげられなかった論点である。最後に,保険理論および経済理論の視点 から共済一般の概念に関して簡単な考察を行った。

今後の課題を⚔点ほどあげたい。⚑つめは,共済はそれぞれの国の歴史を 背景としているためその発展経路は多様であるが,発展方向を検討すること ができる。また,協同組合保険から協同組合共済への呼称の変化は,トライ アングル・モデルにおける協同組合共済の座標の変化を予兆するものなのか もしれない。それは従来の保障サービスの提供よりもさらに積極的な契機を 意味する。経済システムを安定させるためには,家族や共同体の役割を見据 えた予防的・投資的社会的政策が重要であり59),中間組織または社会的経済 としての協同組合共済の貢献が期待される。近年,マイクロ・インシュアラ ンスが導入された開発途上国においては,市場や社会保障制度が整備されて いないため,保険市場の成長に共同体が重要な役割を果たすと推察される。

⚒つめは,保険史において共同体の解体は個人の独立を促し,保険市場成 長の基礎となった。保険史または学説研究のほかに共同体がとりあげられる

59) 山重(2013),56頁。

(22)

ことは少ないが,現代社会においても環境変化の影響を受けて,共同体,市 場,国家および中間組織の相互依存関係が変化している。結果,現代的な問 題として認識することができる。たとえば,労働運動と労働者自主福祉運動 の将来の方向性として,⽛共益⽜の殻を超えて⽛公益⽜組織への脱皮60)が指 摘されている。⚓つめは,これらの経済システムの変化は,従来の自助,互 助,公助の役割分担の再編成を迫っている。最後,⚔つめは伝統的な保険理 論の対象は保険市場であった。その重要性は今後も揺るぐものではないが,

対象を広げることで隣接諸学の研究成果を取り入れ,学術交流が進むことが 期待される。保険は学際的な学術分野であることを再確認したい。

(筆者は日本大学准教授)

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