博 士 ( 獣 医 学 ) 角 田 勤
学 位 論 文 題 名
夕 イ レ リ ア 原 虫 の 遺 伝 的 多 型 性 と そ の 表 面 蛋 白 質 の 免 疫 学 的 解 析
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
日本のタイレリア原虫(Theileria sergenti)は、これまでにピロプラズム 主 要 表面 蛋 白(MPSP)遺 伝 子 の 塩 基 配 列 に 基づ き| 型、C型、Bー2型の3型に 型 別 さ れて い る 。日 本各 地の 分離株 中に はこ れら3型 が混 在して 複雑 な原 虫集 団 を形 成し ている こと が明 らか にな って きた 。類 似の タイ レリア種がアジア、オ ース トラ リア、 ヨー ロッ バ、 およ び北 米な どの 温帯 から 熱帯にかけて世界各地 に分 布し ている が、 それ らの 詳細 な研 究は 現在 まで あま りなされていない。そ こで 、遺 伝子レ ベル で異 なる 原虫 の混 在状 況が 、世 界各 地に分布する良性夕イ レリ ア原 虫でも 見ら れる かど うか を検 討す るた めに 、各 国のタイレリア分離株 のMPSP遺 伝 子 を調 べた 。中 国、台 湾の 野外 分離 株で はC型が優 位に 検出 され 、 その他に中国分離株ではC,|,B―2型が、台湾ではB−1型が混在していた。韓国 分離株は全株からI型が検出され、C,Bー1,B−2型の混在も確認された。イタリ ア、 イギ リス分 離株 では 共にB−1型が検出され、イタリアではC型の混在が見ら れた。以上の各国分離株は、F serglen灯/6u鮑〃/〇冖.・enね触群に属する原虫で あ る こと が 、MPSP遺 伝 子 に よ る 系 統 分 類 で示 され た。 一方、 タイ 、ア メリ カ 分 離 株、 な ら びに 中国 の1株 は従 来のPolymerasechainreaction(PCR) によ る 型 別 法で は 分 類 で き な か っ た が 、rpar惟 やFannuは 亡aのMPSP遺伝 子も 含め そ れ ら の間 で 保 存さ れた 領域 の塩基 配列 から プラ イマ ーを 設計 し、PCRを 行っ た と こ ろMPSP遺 伝 子 が 増 幅 で き た 。 そ こ で その 塩基 配列 を基に 既知 のタ イレ リ ア原 虫と の系統 関係 を調 ぺた 。その結果、これらの原虫は丁sergen灯/buffe〃/
〇冖,en亡a/^辯の原虫とは異なる新たな良性タイレリア原虫群であると考えられ た。
次にMPSP遺 伝 子 の 多 様 化 が 、 ウ シ の 良性 タイ レリ ア原虫 での み見 られ る もの であ るか、 それ とも タイ レリ ア属 原虫 全般 でも 同様 の多型性が観察される の か を検 討 す る た め に 、 家 畜 お よ び 野 生 動物 のタ イレ リア原 虫のMPSP遺伝 子 な ら びに18Sリ ボ ソ ー ムRNA遺 伝 子 の 塩 基 配列 を調 べた 。その 結果 、野 生動 物 の タ イ レ リ ア 原 虫 に も 多 様 なMPSPを 有 す る 原 虫 が 存 在 す る こ と が 明 ら か と な っ た。MPSP遺 伝 子 の 塩 基 配 列 に 基 づ く 系統 樹解 析か ら、タ イレ リア 原虫 は 3群 に 分 類 され た。 第1の群 はFpa′v,aを 代表 とす る悪 性タイ レリ ア原 虫の 群 で 、 第2の 群はrsergen灯/bUf触〃/〇 ガenfa胎 を代 表と する良 性タ イレ リア の
群であった。第3の群はF mutans,丁sp.(インパラ),丁sp.(クドゥ)からなって い た 。― 方 、 家畜 お よび 野 生 動物 の タイ レ リア 原虫にお いて、18Sリ ボソーム RNA遺 伝子 に も 多型 性 が検 出 さ れ、 同 一個 体 でも複 数の遺伝 子型を持 つ原虫が 混 在 して い る ことが 明らかとな った。ま た、系統 樹解析の 結果から 、タイレ リ ア 属 原虫 は ニ 系統か らなるバベ シア属原 虫とは異 なり、一 群のクラ スターを 形 成することが示された。
MPSPは ピ ロプラ ズム原虫 蛋白の中で も発現量 が高く、 宿主免疫 系が認識 す る 第 一の 標 的 分子で ある。した がって、MPSP分子の多 型性と原 虫の稽主 免疫回 避 は 関連 づ け られる と考えられ る。そこ で次にMPSPに 対する宿 主細胞性 免疫応 答 とMPSP型特 異 性を検討 するために 以下の免 疫学的解 析を行っ た。大腸 菌発現 系 を 用い て 組 み換 えMPSP蛋白(C型) を 作製 レ 、 マン ナ ン 被覆 リ ボソ ― ム に封 入 し てウ シ に 接種 し た。 最 終 免疫 直 後か ら 、試 験に供し た全3頭でMPSPに対す る り ン パ 球 の 幼 若 化 が 検 出 され た 。MPSPに 反 応 し増 殖 す る細 胞 はCD4+T細胞 で 、 反 応 はMHCク ラ スnに 拘 束 さ れ て い た 。 ま た 、MPSPに 反 応 して 増 幅 する T細胞 のサイト カインプ ロファイ ルをReverse transcription (RT)―PCRによって 調 べ た結 果 、 それら の細胞では インター フェロン ・ガンマ が最も高 レベルで 発 現 し てい た 。 その 他 にイ ン タ ーロ イ キン2、 イン ターロイ キン10、腫 瘍壊死因 子 ア ルフ ァ のm一RNAの転 写も確認さ れた。免 疫に用い たMPSPと異な る型(| 型 な ら び にBー1型 ) の 組 み 換 えMPSPに 対 するT細 胞 の幼 若 化 反応 を 調ぺ た と こ ろ 、3頭 中2頭で 反 応に 型 特 異性 が 観 察さ れ た。 さ ら に、 工 ピト ー プ マッ ピン グ を 行 っ た 結 果 、2頭 の ウ シ に 対 し てDTSKFTPTVAHRLKHAEDLF92が 、 他 の 1頭 の ウ シ で はGTGKVYDFVGNFKVTKVKFE182がT細 胞 エ ピ ト ー ブ と な っ て い る こと が 明 らかと なった。こ れらの配 列をMPSPの型 間で比較 したとこ ろいく っ か のア ミ ノ 酸に変 異が見られ 、MPSPの多様 性と宿主 の細胞性 免疫回避 の関連 が示された。
以 上 、MPSPお よ び18Sリ ボ ゾ ー ムRNA遺 伝 子 の 塩 基 配 列 か ら家 畜 なら び に 野 生 動物 に お いて極 めて多様な タイレリ ア原虫種 が存在す ることが 明らかに さ れ 、 また 、 原 虫が宿 主免疫応答 を回避す る過程でMPSP遺伝子の 多様性が 生じて きた可能性が示唆された。
学 位 論 文 審 査の 要 旨 主 査 教 授 小 沼 操 副 査 教 授 前 出 吉 光 副査 助教授 奥 祐三郎 副 査 助教授 杉本 千尋
学 位 論 文 題 名
夕 イレ リ ア 原 虫の 遺 伝的多 型性と そ の 表 面 蛋 白 質 の免 疫 学 的 解析
日 本の タイ レリ ア原 虫(Theileria sergenti)は、ピ口プラズ ム主要表面蛋白(MPSP) 遺伝 子の 塩基 配列 に基 づきI、C、Bの3型 に 型別 され ている。日 本各地の分離株中には これ ら3型が 混 在し て複 雑な 原虫集団を形成している。類似の良 性夕イレリア種がアジ ア、オー ストラリア、ヨーロッパおよび北米などの温帯から熱帯 にかけて世界各地に分 布し てい るが 、そ れら の詳 細な 研究 はな さ れて いな い。
そこで 世界各国のウシに分布する良性夕イレリア原虫ならびに 野生反芻獣から分離さ れ た タ イ レ リ ア 属 原 虫 に つい て、 そのMPSP遺伝 子多 型性 を調 べた 。 併せ てMPSPに 対 する 宿主 の免 疫応 答を 解析 した 。
まず 各国 の ウシ から 分離 され たタイレリア分離株のMPSP遺伝子およびsmall subunit ribosomal RNA遺 伝子 を比 較し た。その結果、中国 、台湾、イタリア、オーストラリア の 分離 株で はC型 とB型 が、 韓国 の分離株ではI型が 主に検出された。アメリカ、夕イ、
中 国の 分離株では従来の良性夕イレリアとは異なる タイレリア原虫が検出された。また 野 生反 芻獣 か らの タイ レリ ア分 離株 にもMPSP遺伝 子の 多型 がみられた。系統樹解析か ら タイ レリ ア 属原 虫は 、1)F parvaを代 表と する 悪性 夕イ レリア原虫2)fsergentiを 含 む 良 性 夕 イ レ リ ア 原 虫 な ら び に3) アmutansを 含 む 原 虫 の3群 に 分 類 さ れ た 。 次 にMPSP抗 原 多 様 性 と 宿 主 免疫 応答 に つい て検 討し た。 組み 換えMPSPをマ ンナ ン 被 覆ル ポソ ー ムに 封入 しウ シに 免疫 した とこ ろMPSP特 異的 リンバ球幼若化反応が認め ら れ た 。 増 殖 細 胞 はCD4+T細 胞 で 原 虫MPSP型 特 異 的 増 殖 を 示し 、イ ン夕 一フ ェ口 ン ア 、 イ ン タ ー 口 イ キ ン2,10な らび に腫 瘍壊 死因 子a等 のmRNAの 転写 が検 出さ れた 。 MPSPに 対す るT細 胞工 ピト ープ マッ ピン グ を行 った 結果 、エ ピト ープ の領 域の アミ ノ 酸 配 列 は 原 虫 間 で 相 違 が み ら れ、MPSPの 多様 性と 原虫 の宿 主免 疫反 応か らの 回避 と の 関連 性が 示 唆さ れた 。
本研 究によルウシをはじめ野生の反芻獣には多様なタイレリ ア原虫種が存在すること が明ら かとなった。この成績はタイレリア感染症の制圧を考え る際、重要な知見を示し て いる 。よ っ て審 査員 一同 は、 角田 勤氏 が博 士( 獣医学)の 学位を受けるのに十分な 資 格を 有す る もの と認 めた 。