【学位論文審査の要旨】
本論文は,半導体を用いた電力変換デバイスの研究開発において,相互に依存し合う多 様で多階層な特性のトレード-オフ関係の改善,すなわち多様な両立関係の最適化を目指し た研究を行い,そのための普遍的な設計コンセプトを半導体デバイスにおける注入効率制 御の観点から新たに提案し実証を行ったものをまとめた論文である。具体的には,シリコ ン 材 料 に よ る pin ダ イ オ ー ド (p-type,intrinsic,n-type diode) お よ び IGBT
(Insulated-gate
bipolar transistor)を対象として,アノードおよびカソードからのキャリア注入効率制 御
の視点から従来の設計を見直して新たな設計コンセプトを提案している。
本研究の背景は以下の通りである。現在の我々の高水準で利便性の高い生活を支えてい る技術の大きな柱の一つは,電気磁気的現象によって生じる種々の物理量を人工的に生成,
変換,制御,蓄積,消費しエネルギーや情報を機能的に取扱うための機器類とその応用の 創成技術である。そして斯様な技術の発展を考える際の一側面に,我々が日常大きく依存 している電力利用の増加がある。
他方,エネルギー源となる燃料物質の地球規模における有限性と地球温暖化の問題の回 避は,上述の電力利用増加社会の発展と相矛盾する。そのような状況で課せられる課題と して本論文で焦点を当てているのは,電力使用の限りない高効率化,そのための電力変換 の高効率化である。
電力変換とは,機能的観点では交流電力と直流電力との間の相互変換,あるいは交流同 士,直流同士の電力変換を指すが,それらを扱う技術分野であるパワーエレクトロニクス の中に,半導体スイッチング素子を用いて電力変換や制御を行うパワー半導体デバイスの 研究開発が位置づけられる。
以上のことを背景として本研究は,パワー半導体の中で重要な位置づけとなっている
pin ダイオードとIGBT を対象に,それらの電力変換の高効率化のための低損失化とその
ための低定常損失化と低スイッチング損失化,およびそれらと相互関係する高温動作補償 のための低リーク電流化とそのための注入キャリアの高ライフタイム化におけるトレー ド-オフ関係改善のための,普遍的な設計コンセプトの提案と実証を目的としている。
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研究の方法と結果
本論文で研究対象としたパワー半導体デバイスはpin ダイオードとIGBT を対象であり,
材料系はシリコンである。近年は炭化硅素,窒化ガリウム,ダイヤモンドといったシリコ ンよりも優れた物性特性を持つ新材料がパワー半導体デバイスにも適用されてきている。
しかしシリコンは,半導体製品・機器への産業展開を考えると,材料の安定した供給,プ ロセス構築,量産化,コストの観点から,未だに優位性を有する。この点から本論文では シリコン材料によるパワー半導体デバイスを対象としている。また想定している応用例は,
600〜1700V 系の民生汎用,車載用,モーター駆動の用途である。加えて本論文で得られ た知見は,材料系や素子の耐圧系によらない普遍的な設計コンセプトを提案しているとこ ろに意義があると主張している。
本論文の研究方法の重要な点は,パワー半導体の低損失化を目指した相互に依存し合う 多様で多階層な施策とその特性への影響の複雑なトレード-オフ関係を俯瞰したことにあ る。本論文では,pin ダイオードのアノード・カソードの金属/半導体接合にショットキー 接合を活用して注入電流の制御を行う「SC ダイオード(Schottky controlled injection
diode)」を提案し,IGBT のコレクタ側の高濃度p 層の薄膜化によるトランスパレントp
コレクタとn バッファ層の導入とで低注入化を実現する「薄型PT-IGBT (punch-through IGBT)」の提案をそれぞれ行っている。これら提案構造の特性トレード-オフ関係への影響 は,次の様な観点から理論的,実験的に検証考察を行っている。
SC ダイオードについては,a)p アノード層への施策として,ショットキー接合の採用,
ショットキー領域の不純物総量の増加,アノード層占有率変化,b)i 層への施策として,
線形状キャリア分布,高ライフタイム,傾きを持つためのキャリア注入,c)n カソード層 への施策としては,ショットキー接合,トランスパレントカソード,ショットキー領域の 不純物総量の増加,という低損失化を狙って提案したそれぞれの施策が,i)導通損失(定 常オン損失),オン電圧,ii)スイッチングオフ損失(ターンオフ損失あるいはリバースリ カバリ損失),リーク電流,iii)定常オフ損失,最大逆方向電流(irr),テール電流,iv)ス イ
ッチングオン損失(ターンオン損失あるいはフォワードリカバリー損失),損失以外との トレード-オフとして v)高温動作,vi)電流・電圧過剰振動,vii)破壊耐量,のそれぞれ対 し
て如何に相互関係して改善効果が得られるかを理論と実験面から俯瞰的に明らかにした。
薄型PT-IGBT については,a)エミッタ層への施策として,トレンチゲートの採用,微
細ピッチ化,b)ドリフト層への施策として,線形状キャリア分布,高ライフタイム,n バ ッファ採用,c)コレクタ層への施策としては,p バッファ採用,トランスパレントコレク タ採用,という低損失化を狙って提案したそれぞれの施策が,上記i)〜vii)までのそれぞ れに対してどのように相互に関係して改善効果があるかを理論的,実験的に俯瞰的に明ら かにした。
以上のように本研究では,注入電流制御の視点からpin ダイオードおよびIGBT の従来 の低損失化設計を,著者の長年に渡る研究開発で得られた理論的・実験的結果に着実に基 づいて,それらを論文として取りまとめるにあたり俯瞰的に見直し,普遍的な設計コンセ プトを明らかにした点に,新規性と工学的意義を主張している。加えて本論文で得られた 知見は,材料系や素子の耐圧系によらない普遍的な設計コンセプトを提案しているところ に工学的意義があると述べている。
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審査の結果
平成27年1月30日,2月18日と2回の審査を行い,指摘された内容は十分考察 されて学位論文に反映された。2月23日には最終審査および公聴会を開催した。公聴 会には20余名の学内外からの参加者があり,質疑に対しても十分な応答がなされた。
上記審査会を踏まえて、本学位論文審査委員は、本論文は博士(工学)の学位を授与す るに十分な価値があるものと認められると判断した。
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最終試験の結果
本学の学位規則に従い、最終試問を行った。公開の席上で論文発表を行い、専門研 究者を含む学内外の出席者からの質疑応答を行った。また、論文審査委員からも本論 文に関する質疑応答を行った。これらの結果を総合的に審査した結果、専門科目につ いても十分な学力があるものと認め、合格と判定した。