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【学位論文審査の要旨】

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Academic year: 2021

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【学位論文審査の要旨】

1 研究の目的

地球環境問題が深刻さを増すなかで,電気エネルギー消費量の増加抑制,あるいは電気 エネルギーの効率的活用に資する技術開発が強く求められている。なかでも電力用半導体 を利用した半導体電力変換技術(以下,電力変換技術)は,上記課題を解決に資する技術 として注目を集め,活発な研究開発が行われている。

電気エネルギーの効率的活用のために幅広い分野で電力変換装置を使用するために,小 さな体積で大きな電力変換が行える,いわゆる高電力密度化手法の研究が世界的に活発に 推進されてきた。近年実用化が進展したSiCやGaN等の次世代半導体デバイスの適用によ り半導体デバイスの低損失化が進展した。また,その高周波スイッチング動作により,イ ンダクタやキャパシタ等の受動部品の小型化も進展した。しかし,インダクタの小型化は その温度上昇の増加の問題を顕在化させた。

インダクタや変圧器などの磁性体を用いた受動部品の損失は,磁性体自体の損失である 鉄損と,巻線導体に生じる損失である銅損に大別できるが,特に鉄損は磁性体の種類やそ の励磁状態により多様に変化するため,正確に把握するのは容易ではない。なかでも,電 力変換装置に使用されるフィルタインダクタは,励磁電圧波形が矩形波であることに加え て,バイアス励磁磁界成分の影響を受けて,鉄損が極めて複雑に変化することを申請者ら は指摘し,鉄損の表記法やそれを用いたインダクタの損失評価の研究を世界に先駆けて推 進してきた。

以上を踏まえ,本研究では電力変換器の高電力密度化に不可欠なフィルタインダクタの 小型化・低損失化技術の確立を目的とする。すなわち,電力変換装置で使用される条件下 でのフィルタインダクタの磁性体に生じる鉄損の計測技術の高度化を図ると共に,単相イ ンバータおよび三相インバータにおけるインダクタ鉄損の高精度な計算法を開発する。さ らに,フィルタインダクタの小型化と低損失化を両立できる新たなインダクタの構成法を 開発し,その有用性を実証することを目的とする。

2 研究の方法と結果

本研究の方法と結果は下記のように要約される。

(1) 鉄損の代表的な測定手法であるカロリーメータ法による鉄損の間接測定と 2 コイル法 による鉄損の直接測定について整理し,2コイル法が半導体電力変換装置で発生するフィル タインダクタの鉄損測定に優位であることを指摘した。また,2コイル法をPWMインバー タ用の鉄損測定に応用し,インバータの低周波出力電流成分に起因する低周波鉄損,スイ ッチングリプルに起因するオープンループの鉄損(以下,高周波鉄損)ならびにスイッチング 周期毎の鉄損(以下,瞬時鉄損)の測定手法を開発した。さらに,提案システムと高精度 パワーメータによる測定値との比較検討を行い,提案システムの測定値の妥当性を検証し た。

(2) 従来の鉄損表記式であるシュタインメッツ方程式および拡張シュタインメッツ方程式

(iGSE)は,PWMインバータに使用されるフィルタインダクタの高精度な鉄損計算には適

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さないことを明らかにした。そこで,フィルタインダクタの高精度鉄損計算に対応できる 新たな鉄損データベースとして拡張ロスマップを考案した。さらに,三相 PWM インバー タ励磁下のフィルタインダクタに特有な励磁波形と鉄損の関係を明らかにし,これに対応 できる新たな鉄損計算手法を開発した。単相および三相PWMインバータ実験装置を用い て,フィルタインダクタの計算値と測定値の比較を行い,従来手法の約 20%の計算誤差に 対して本計算手法では約4%以下の計算誤差に低減できることを実証した。

(3) 三相PWMインバータで多用されるEE形状のコアを持つ三相インダクタについて,鉄 損を大幅に低減できるインダクタ構成法を開発した。従来のEE形状のコアでは,三つの磁 脚に生じる鉄損が不均一となり過剰な鉄損が発生することを指摘した。その解決手法とし て,中心脚と側脚の磁路断面積を調節し,さらに磁脚の磁束密度に対応した磁性体を使用 する新たなインダクタ構成法を開発した。出力電力1kWの三相インバータを用いて,イン ダクタの損失低減によりインバータ効率を1%以上改善できることを実証した。

また,各磁脚の磁気抵抗が均一となる Y 形状の磁性体を持ち,インダクタの巻線が容易 な構造を持つ三相インダクタを考案した。これにより,単相インダクタを 3 組使用する場 合と比較して低損失化に加えて,体積は18%,重量は37%の小型軽量化を達成した。

(4) 本研究で開発した拡張ロスマップと鉄損計算手法は,PWMインバータ用のフィルタ インダクタの低損失化と小型化に有益であることを示したが,更なる性能向上には使用す る磁性体の鉄損要因に踏み込んだ考察が必要となる。Bertottiらが提唱した,鉄損の3要因

(ヒステリシス損失,渦電流損失,および残留損失)に分離計算する手法は,PWMインバ ータ用のフィルタインダクタでは計算誤差が過大になることを示した。そこで,ヒステリ シス損失と渦電流損+残留損失の2要因に分離する新たな鉄損表記式と本研究の鉄損計算 法を組み合わせ,PWMインバータ励磁下の鉄損要因を高精度に分離計算する手法を開発し た。その結果,ヒステリシス損失は磁界バイアス依存性を多く受ける一方で,渦電流損失 は磁界バイアス依存性が低いことを明らかにした。これらの知見は,今後の低損失磁性体 の特性改良に有効に活用できるものと考える。

3 審査の結果

本論文は,半導体電力変換装置の広範な普及に不可欠な装置の高電力密度化の制約とな っていた PWM インバータ用のフィルタインダクタの低損失化と小型化について極めて有 益な知見を与えている。高精度な鉄損計測手法は,従来計測が不可能であった PWM スイ ッチングに起因する鉄損とインバータの低周波出力電流に起因する鉄損との高精度な分離 計測を実現しており,各種インダクタ損失を正確に把握できる点で工学的価値が高い。ま た,新たな鉄損計算法は,従来の鉄損計算理論では説明できなかった計算誤差要因とその 解決手段を与えており,鉄損計算理論における貢献は大きい。さらに,鉄損計測法と鉄損 計算手法を駆使した,フィルタインダクタの大幅な損失低減や小型軽量化を達成するフィ ルタインダクタ構造の設計手法は,既に産業分野での実用化に進展しており,産業分野へ の貢献も極めて大きい。なお,本論文を構成する技術要素については,厳正な査読を経て 権威ある学術雑誌に掲載され,一般に公開されている。

以上から,本論文は博士(工学)の学位を授与するに十分価値あるものと認められる。

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4 最終試験の結果

本学の学位規定,および電気電子工学専攻の申し合わせに従って論文審査会を開催し て,専門分野に関する筆答および口頭の試問を行うと共に,論文内容について慎重に審査 を行った。また,本論文に関する公開の発表会を開催し,学内外から多数の出席者を得て 多角的な質疑・討論を行った。専門分野および外国語に関して,筆答および口頭による試 問を行い十分な学力があることを確認した。以上の結果を総合的に考慮し,慎重に審議し た結果,合格と判定した。

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