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【学位論文審査の要旨】

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Academic year: 2021

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【学位論文審査の要旨】

1 研究の目的

前頭側頭葉変性症(FTLD)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの神経変性疾患において、病変 部位の神経細胞内に見られるユビキチン陽性封入体の主成分として、核蛋白であるTAR DNA binding protein of 43kDa (TDP-43)が同定された。続いて、孤発性・家族性ALSの患者に、

TDP-43をコードするTARDBP遺伝子にミスセンス変異が多数発見され、TDP-43の異常とFTLD、

ALSの発症との関係が遺伝学的にも示された。患者脳に蓄積するTDP-43は、線維化、凝集 している他、リン酸化やユビキチン化などの翻訳後修飾を受けている。また、全長分子に

加えて18-26kDaのC末側断片が蓄積し、そのバンドパターンが疾患や病理型で異なること

が示されている。TDP-43のC末側領域は、プリオン蛋白との相同性が高いこと、家族性・

孤発性ALS患者に見いだされたミスセンス変異が集中していること、さらには、TDP-43の C末側断片(162-414)を緑色蛍光蛋白(GFP)の融合蛋白としてSH-SY5Y細胞に発現させると凝 集体を形成することから、凝集体形成や病態の発現において重要な役割を果たすことが示 唆されている。本研究ではTDP-43の凝集メカニズムを明らかにするため、TDP-43のC末側 断片の凝集に寄与する配列を同定し、その性質を解析することを試みた。

2 研究の方法と結果

(1). GFP付きTDP-43(162-414)の欠損変異体系列の作成と凝集能の評価

GFPをN末端に付加したTDP-43のC末側断片(162-414)に部分欠損を導入し、SH-SY5Yに 一過性に発現させて凝集体形成を定量することで、欠損により C 末端断片の凝集能を失わ せる配列を探索した。その結果、配列 274-313(Glycine-rich domain), 354-373 の欠損に より、断片の凝集能が著しく低下することが明らかになった。また、この欠損はより全長 に近い変異体である TDP-43(⊿NLS &187-192)の凝集能も同様に低下させた。以上のことか ら、TDP-43の凝集において重要な役割を果たしている配列として、274-313、354-373を同 定した。

(2).TDP-43配列の合成ペプチドのin vitroにおける凝集能の評価

同定された配列がそれ自身で高い凝集能を有しているかどうかを確かめるため、234-273、

274-313、314-353、353-392の配列のペプチドを合成し、in vitroでの凝集能を評価した。

各種ペプチド溶液を 37℃条件下で振とうし、アミロイド構造を検出する蛍光試薬である Thioflavins Sを用いて凝集体形成を定量したところ、234-273、274-313、314-353のペプ

チドでThioflavin Sの蛍光の増強が見られた。また、透過型電子顕微鏡を用いて観察する

と、これらのペプチドは直径10nmほどの細長い線維構造を取って凝集していた。このこと から、234-273、274-313および314-353の配列は凝集能を有しており、in vitroでThioflavin S陽性のアミロイド様線維を形成することが明らかになった。

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(3).線維化合成ペプチドは細胞内でseedとして働き、TDP-43を凝集体に変換する In vitroで線維化させる前と後の234-273、274-313、314-353のペプチドを、全長TDP-43 を発現させた SH-SY5Y にトランスフェクション試薬を用いて導入し、線維化させたペプチ

ドが全長TDP-43に作用して凝集体へと変換させる凝集核(seed)としての性質を有している

かどうかを確かめた。培養後、細胞ライセートのSarkosyl不溶性画分のイムノブロットお よび免疫蛍光細胞染色を行ったところ、線維化させた274-313、314-353ペプチドを導入し た細胞において、異常リン酸化された全長TDP-43の凝集体が細胞質に形成されていた。以 上のことから、274-313、314-353の配列は線維化することにより、全長TDP-43のseedと して働く、プリオン様の性質を有していることが明らかになった。

(4).ペプチド線維の種類により、異なるコンホメーションのTDP-43凝集体が形成される

全長および NLS(核移行シグナル)を欠損した TDP-43 を発現させた細胞内に 274-313、

314-353のペプチド線維を導入し、細胞のSarkyosyl不溶性画分のイムノブロットにおける

16-25 kDa付近のC末端断片のバンドを比較した。その結果、導入するペプチド線維の違い

により、バンドのパターンが異なってくることが明らかになった。また、不溶性画分を

Trypsinで処理し、残存したプロテアーゼ耐性バンドを同様に比較すると、そのパターンは

どちらの線維を用いるかによって異なっていた。このことから、seed として用いるペプチ ド線維の種類により、形成されるTDP-43凝集体のコンホメーションが異なることが明らか になった。

(5).TDP-43のseed依存性凝集には、同じ配列間の相互作用が必要である

234-273、274-313、314-353をそれぞれ欠損した3種のTDP-43欠損体を発現した細胞に 274-313、314-353のペプチド線維をseedとして導入し、欠損がseedとの相互作用に影響 するかどうかを確かめた。その結果、274-313 を欠損させた TDP-43 に対しては、274-313 のペプチド線維はseedとして作用しなかった。同様に、314-353を欠損させたTDP-43に対 しては、314-353のペプチド線維はseedとしての働きを示さなかった。以上のことから、

TDP-43のseed依存性凝集においては、TDP-43とseed中の同じ配列間の相互作用が重要で あることが示唆された。

3 審査の結果

TDP-43の異常を原因とするALS、FTLDには未だに有効な治療法が存在せず、根治療法の確 立のためにも、TDP-43凝集機構の解明が待たれている。今回の研究では、TDP-43の凝集に 重要な役割を果たしている配列を、部分欠損TDP-43系列のスクリーニング、および配列の 合成ペプチドの凝集能を評価することにより同定した。このとき、配列の凝集能だけでな くseedとしての機能にまで踏み込んでの解析を行ったことは、過去の同様の研究との大き な差別点であり、評価される。また、seedの配列の違いが凝集体のコンホメーションの違 いに寄与することや、seed依存性凝集にはTDP-43とseed間に同じ配列が必要であることな

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ど、TDP-43凝集の分子メカニズムの詳細に関する新たな知見を見出すことにも成功してい る。これらのことはTDP-43の凝集機構の解明に大きな貢献をなすものであり、高く評価さ れる。よって本論文は十分に博士(理学)の学位に値するものと判定した。

4 最終試験の結果

本学の学位規定にしたがって、試験および試問を行った。公開の場で論文内容の審査会 を行い、生命科学専攻教員による質疑応答を行った。また、論文審査委員により本論文お よび関連分野の試問を行った。その結果、専門分野及び外国語についても十分な学力を有 することを認め、合格と判定した。

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