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【学位論文審査の要旨】

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Academic year: 2021

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【学位論文審査の要旨】

1 研究の目的

持続可能な社会の発展にはエネルギーの高効率利用が不可欠であり、それを実現する為 に様々な研究開発が進められている。電気エネルギーの利用の観点で見ると、多様な省エ ネ機器・システムの導入促進が図られている。これらのシステムの実現には、半導体電力 変換器が不可欠であり、様々な用途の仕様に合致するように、電力変換器には高効率・小 型・軽量・低コスト化が求められる。

近年は高速スイッチング性能と低損失性能に優れたSiCやGaN等の次世代ワイドバンド ギャップ半導体の実用化により、半導体電力変換装置の小型・高効率化、高電力密度化が 進展した。一方で、受動素子(キャパシタ、インダクタ、変圧器)の損失と体積が占める 割合が相対的に大きくなり、電力密度の向上の制約要因となってきた。その原因の一つは、

高周波スイッチングにより受動部品の小型化が進展する一方で、絶対的損失が十分に低減 されないため、放熱面積が不足して温度上昇を十分に抑制出来ないなど、特に磁性体を用 いたインダクタや変圧器などの受動部品は多くの課題が顕在化している。

半導体電力変換装置で使用される変圧器については、1984年に提案されたSteinmetz方 程式やそれを改良した方程式に関する研究成果が多数発表されてきた。しかし、インダク タについては、変圧器における鉄損計算法を流用していたため、実際の発生損失と計算値 が合致せず、正確な設計が出来ないことが問題となっていた。近年、インダクタに使用す る磁性材料の損失評価法としてロスマップ法が開発され高精度な鉄損計算手法の研究が進 展した。しかし、実際の半導体電力変換装置ではその回路方式や動作条件によりインダク タに求められる仕様は多様に変化するため、磁性材料の損失特性だけでは具体的なインダ クタの低損失化や小型化の設計は困難である。

そこで本研究では、磁性材料の損失特性を踏まえて、インダクタ構造に依存して変化す る磁性体損失(鉄損)と巻線損失(銅損)の様態を包括的に研究し、インダクタの小型・

低損失化および高電力密度化を促進するインダクタ設計手法を明らかにする。

2 研究の方法と結果

本研究の方法と結果は下記のように要約される。

(1)半導体電力変換装置に使用されるインダクタの損失計算法と高精度測定法に関して、最 新の研究成果を調査し、磁性材料の損失評価だけではインダクタの高精度損失設計は困難 であることを明らかにした。

(2)直流磁界が印加されるインダクタでは、磁性体損失の直流磁化依存性を踏まえた設計が 重要になる。そこで、鉄損は若干大きいが直流磁化依存性が小さいセンダストと、鉄損は 極めて小さいが直流磁化に伴って鉄損が急速に増加するフェライトについて、同一仕様の インダクタの損失と体積の比較を行った。その結果、両インダクタの損失と体積はほぼ同 等であり、必ずしも低損失磁性体が有利とは限らないことを明らかにした。その理由とし

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て、直流磁化特性に加えて、フェライトは飽和磁束密度がセンダストの約半分であり、同 一磁界強度に対して磁束密度を低下させるために磁路断面積が増加するため、体積と損失 が増加することが大きな要因となることを明らかにした。

(3)特に高透磁率磁性体では直流磁化状態での磁気飽和を防止する為に、磁路ギャップを設 ける必要がある。目的仕様を満たすインダクタを設計するには、磁路ギャップに対応する 鉄損値を知る必要があるが、従来は磁路ギャップ毎の鉄損データを改めて取得する必要が あり、設計過程が極めて煩雑かつ非効率であった。そこで本研究では、磁路ギャップを持 たない磁性体の鉄損データから、任意の磁路ギャップ条件における鉄損データを簡便かつ 高精度に換算する手法を考案した。本手法の特長は、従来の磁性体の磁路断面積、磁路長、

および磁路ギャップ長に加えて、新たに直流磁化時の比透磁率の変動特性を連成したこと である。本計算手法を用いた磁路ギャップを持つインダクタの鉄損計算値は誤差3%以内の 精度で一致することを実験により実証した。

(4)従来の鉄損計算は、磁性体内部の磁束密度が均一である条件で行っていた。しかし、磁 性材料が同一であっても、コア形状が異なると磁束密度が不均一になり鉄損値に差異が生 じることが問題であった。そこで本研究では、磁性体内部の磁束密度分布と鉄損データ(ロ スマップ鉄損データ)を連成して、任意形状コアの鉄損を高精度に計算する手法を開発し た。本計算法では、鉄損の計算誤差を約1%以内まで低減できることを実証した。

(5)基本的なインダクタの構成法には、磁性体コアに電線を巻き付ける構造の内鉄型と、電 線を磁性体で覆う構造の外鉄型に大別される。しかし、内鉄型と外鉄型の損失と外形寸法 の比較検討は十分に行われていない。特に大電流インダクタの場合、巻線導体損失が急速 に増加してインダクタの損失増加が懸念される。そこで、大電流インダクタに適した比透 磁率の小さい磁性体を用いた場合の定量的比較検討を行った。その結果、内鉄型は導体断 面積を大きくでき、特に高周波抵抗が小さいリッツ線を用いた場合には低損失化に有利で あること、一方、外鉄型は導体断面積の制約は大きいが、磁性体体積を縮小しやすいため 小型化に有利であることを明らかにした。

(6)以上の研究成果について総括を行うとともに、今後の課題について考察を行った。また、

今後急速な進展が予想される半導体電力変換装置の更なる高周波スイッチング化に対応し たインダクタ設計には、導体間浮遊容量や磁性体の高周波特性の改善が重要であるなどの 有益な示唆を与えている。

3 審査の結果

本論文は、電気エネルギーの高効率変換や有効利用を目的とした半導体電力変換装置に おいて、その重要部品であるインダクタの小型・低損失化のための設計法について多くの 有益な知見を与えている。各種磁性材料損失の直流磁化依存性を踏まえたインダクタ損失 と外形寸法の設計法、および磁性体内部の磁束密度不均一性を考慮した鉄損計算法は、こ れまで交流励磁の磁性材料損失特性だけに基づいた方法では困難であった正確な損失設計

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を実現しており、インダクタ設計時の材料および形状選択のための有益な指針を与えると ともに、今後の磁性材料分野の研究開発に必要な情報を提供している。また、磁路ギャッ プ挿入時の鉄損特性の換算法は多様な仕様のインダクタの設計効率を飛躍的に向上するこ とが期待され、工学的価値が極めて高い。本論文を構成する技術要素については、厳正な 査読を経て権威ある学術雑誌に掲載され、一般に公開されている。また、本成果に関係す る論文は、電気学会優秀論文発表賞を受賞している。

以上から、本論文は博士(工学)の学位を授与するに十分価値あるものと認められる。

4 最終試験の結果

本学の学位規定、および電気電子工学専攻の申し合わせに従って論文審査会を開催して、

専門分野に関する筆答および口頭の試問を行うとともに、論文内容について慎重に審査を 行った。また、本論文に関する公開の発表会を開催し、学内外から多数の出席者を得て多 角的な質疑・討論を行った。以上の結果を総合的に考慮し、慎重に審議した結果、合格と 判定した。

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