【学位論文審査の要旨】
本論文は東京都を流れる石神井川,隅田川,荒川の水質・水理特性がスカム・悪臭にお よぼす影響について論じている.代表的な都市河川である隅田川では,急激な経済成長の
影響で1960年代にBODが63mg/Lと非常に高く汚染が進んでいたが,その後,水質基準
の策定や流域下水道の整備が進み,2015年には2.1mg/Lにまで低下し,水質は良好になっ た.しかし,水質が改善されたにもかかわらず,都市河川の感潮域ではスカムや悪臭が発 生し,住民から行政に苦情が寄せられている.
スカムは,有機汚泥が河床に堆積して嫌気性ガスが発生すると,ガスによって有機汚泥 が浮上する現象である.この発生メカニズムは主に室内実験や,スカム発生箇所において スポット的に調べられているものの,その発生を予測し,軽減するための包括的な研究は 不足している.また,スカムや臭気を示す環境基準値も存在しない.そのため,都市河川 の感潮域における,塩水遡上の水理特性,懸濁物質の輸送,溶存酸素濃度と栄養塩の動態,
それらがスカムや悪臭の発生におよぼす影響を解明する必要がある.
本論文は,これらの水質現象に関する大潮・小潮・雨天時の広域的な集中観測,長期的 な定点モニタリングを行うとともに,スカム・臭気に関する新たな分析を行い,現象の関 連性を調べている.
本論文は5章から構成されている.
第一章は序論であり,社会的背景,研究目的,研究対象地について述べている.
第二章は水質パラメーター(塩分,懸濁物質濃度,溶存酸素,栄養塩)と流速の短期的 な変動特性について述べている.大潮,小潮,雨天時に13時間連続の調査を3河川の5地 点において30分間隔で実施し,水収支と物質収支を計算した.その結果,各河川の流れの 特徴として,隅田川と荒川は通常の自然的な潮汐往復流が発生しているが,石神井川では 大潮でもほとんど流速が発生しないことが分かった.これは,長方形断面,水平河床,感 潮域上流端の河床が切り立っているなど,都市河川特有の地形的特性が原因であることが 分かった.これにより,水質の輸送も規定されていた.
第三章は長期的な水質変動とスカム発生状況に関する検討である.溶存酸素,塩分,濁 度,水温,水位の各センサーを石神井川の1地点,隅田川の2地点に固定し,10分間隔で 連続計測した.また,定点カメラで撮影された水面の状況を解析して,スカムの水面被覆 率を数値化し,これと水質パラメーターの関係を調べている.その結果,降雨から4~5日 後,溶存酸素濃度が6mg/L以下,懸濁物質濃度が15mg/L以下,塩分が低い時にスカムが 発生する傾向があることを明らかにしている.
第四章はにおいの分析と空間変動特性である.本研究では,におい分析装置を用いて 9 種類のガスとの類似性および臭気強度を分析し,さらに人間の鼻が感じる実際のにおいと
の対応関係を解析し,スカム臭気を定量評価する方法を提案している.研究対象地では,
底泥とスカムのにおいの類似度が高く,河川水はほとんど関係が無いことが分かった.に おい成分としては,有機酸や硫化水素が強いことを示している.また,雨天後には石神井 川感潮域の底泥がフラッシュされて,隅田川に移動し,隅田川において臭気が高まる可能 性を示した.
第五章は本研究の結論をまとめて示すとともに,今後の課題について述べている.
以上より,本論文は都市河川感潮域における塩水遡上,溶存酸素濃度の変化,懸濁物輸 送とスカム・臭気の関連性を総合的に示したものであり,環境水理学分野における貢献は 大きい.よって,本論文は博士(工学)の学位を授与するに十分な価値を有するものと認 められる.