【学位論文審査の要旨】
1 研究の目的
エネルギーの高効率・有効利用の観点から,再生可能エネルギー発電システム,直流給 電システム,スマートグリッドシステムなどの新技術の研究開発が活発に行われている。
これらのシステムではエネルギー変換装置の入出力間で電力エネルギーを双方向に伝達す る,いわゆる双方向電力変換機能を必要とする場合が多く,今後はその重要性が一層増加 するものと思われる。
従来の双方向電力変換装置に関しては,二つの単相電圧形インバータを単相絶縁型変圧 器で接続した単相絶縁型双方向DC/DCコンバータ(以下,「単相方式」と略す)と,これ を応用した電力変換システムに関する研究が活発に行われてきた。しかし,従来の単相方 式では装置の大容化に対しては高効率化,小形化,低価格化などの観点で限界があること が明らかとなりつつある。
そこで近年,三相絶縁型双方向 DC/DCコンバータ(以下,「三相方式」と略す)の研究 が開始された。三相方式は,変圧器の小型高効率化や電力用半導体スイッチの電流容量の 低減などの点で優れているものの,電力用半導体スイッチのソフトスイッチング動作範囲 に制約があるため,特に中・低出力運転時の電力変換効率が急速に低下するという問題を 残している。また,使用する電力用半導体スイッチの数が増加し,回路動作モード遷移が 複雑に変化するため,個々の電力用半導体スイッチのソフトスイッチング動作を満たすス イッチング信号の条件を決定することが困難である等の理由から,問題解決に関する研究 報告事例が少ないのが現状である。
以上の背景を踏まえて,本研究では三相絶縁型双方向DC/DCコンバータにおける,中・
低出力運転時のソフトスイッチング動作範囲を拡張し,大容量化と小型高効率化を実現す る研究を行うことを目的とする。
2 研究の方法と結果
本研究の方法と結果は下記のように要約される。
(1)これまで開発された単相方式および三相方式の絶縁型双方向 DC/DC コンバータに関す る詳細な分析に基づいて,パワーフロー特性,および主要部品(絶縁変圧器,インダクタ,
入出力コンデンサ,パワーデバイス)の必要電力容量の比較計算を行い,三相方式が大容 量化と小形化の観点で優れていることを明らかにした。
(2)三相方式の変圧器の結線方式にはY-Y結線,Y-Δ結線,Δ-Δ結線の 3方式があるが,そ れぞれの方式に共通した動作解析法を新たに考案し,各種方式の動作特性を統一的に評価 できるようにした。本手法を用いた詳細な動作分析により,三相方式においては三相ブリ ッジインバータの線電流に高調波電流を選択的に注入することによりソフトスイッチング 動作範囲の拡大が可能であることを明らかにした。またその拡大範囲を定量的に評価する
手法として,高調波フェーザを用いた解析法を考案し,ソフトスイッチング動作範囲を定 量的に明らかにした。
(3)三相変圧器をY-Y結線とする三相方式について,ソフトスイッチング動作範囲を明らか にするとともに,5次高調波電流を線電流に注入し,かつその注入位相を一次側と二次側 のインバータ間の運転位相差を適切に制御することにより,ソフトスイッチング動作範囲 を拡大できることを明らかにした。
(4)三相変圧器をY-Δ 結線とする三相方式について,ソフトスイッチング動作範囲を明らか にした。しかし,Y-Δ結線の場合はY-Y結線の場合と異なり,一次側と二次側のインバータ 間の運転位相差の制御では,5次高調波電流の位相が反転してしまうためソフトスイッチ ング動作範囲の拡大に利用できないことを明らかにした。その問題を解決する手法として,
三相インバータの出力電圧パルス幅を制御する手法を併用することにより,5次高調波電 流の位相を調整し,ソフトスイッチング動作範囲を拡大できることを明らかにした。
(5)定格出力電力5.5kWのY-Y結線方式およびY-Δ結線方式の三相絶縁型双方向DC/DCコ ンバータを製作し,両方式のソフトスイッチング動作範囲について実験結果と理論計算結 果との比較を行い,両者が良く一致することを示した。また,実験結果と理論計算結果と の僅かな差異は,パワーデバイス駆動信号に含まれるデッドタイムの影響であることを明 らかにした。さらに,変換効率についても実験結果と理論計算結果との比較を行い,両者 が良く一致することを示した。
(6)三相変圧器をY-Δ 結線とする三相方式については,一次側と二次側のインバータ間の運 転位相差の制御に加えて出力電圧パルス幅を制御することによりソフトスイッチング動作 範囲を拡大できるが,入出力電圧比等によってソフトスイッチング動作を適切に行う位相 差とパルス幅が複雑に変化する。装置の動作条件と位相差およびパルス幅制御との関係を 詳細に分析した結果,それぞれの位相差においてソフトスイッチング動作範囲が最大とな るパルス幅が存在することを明らかにした。この特性を利用して,コンバータ動作時にイ ンバータ間の位相差とパルス幅を動的に制御する手法を考案し,実験装置を用いて評価試 験を行った。その結果,考案した制御方式は理論的なソフトスイッチング動作範囲を適切 に追従し,特に中・低出力時の損失を効果的に低減できることを立証した。
(7)開発した三相絶縁型双方向 DC/DC コンバータを応用した出力電力 10kW の小規模
DC/DCリンク給電システムを開発し,システム全体の性能評価を行った。開発した装置の
電力変換効率は従来方式に比べて全般的に効率が向上したが,特に中・低出力時の変換効 率は従来方式の 54.4%から85%に大幅に向上した。また,各部の損失分析を行い,効率改 善の根拠を定量的に示し,開発手法の優位性を立証した。電力密度においても 8.2kW/l を 達成し,当該装置として業界最高記録を達成した。
(8)以上の研究成果について総括を行うとともに,今後の課題について考察を行った。特に,
次世代パワーデバイス(SiC およびGaN)を用いた場合の効果予測を行い,三相絶縁型双
方向DC/DCコンバータの今後の応用展開に有益な示唆を与えている。
3 審査の結果
本論文は,エネルギーの高効率・有効利用を目的とした電力変換システムにおいて,今 後重要となる双方向電力変換装置の大容量化に適した三相絶縁型双方向 DC/DC コンバー タの性能向上手法について多くの有益な知見を与えている。三相絶縁型双方向DC/DCコン バータの解析手法は,これまで統一的な解析が困難であったY-Y結線およびY-Δ 結線方式 の動作特性の解析を容易にした点で,工学的価値が極めて高い。また,高調波電流を活用 してソフトスイッチング動作範囲を拡大する手法は,従来の単相方式と比較して,大容量 化と高効率化に極めて有益であり,双方向電力変換装置の適用範囲を大幅に拡張できる可 能性があり,工学的価値はもとより,産業的にも極めて高い価値がある。また,本論文を 構成する技術要素については,厳正な査読を経て権威ある学術雑誌に掲載され一般に公開 されている。
以上から,本論文は博士(工学)の学位を授与するに十分価値あるものと認められる。
4 最終試験の結果
本学の学位規定,および電気電子工学専攻の申し合わせに従って論文審査会を開催して,
専門分野に関する筆答および口頭の試問を行うと共に,論文内容について慎重に審査を行 った。また,本論文に関する公開の発表会を開催し,学内外から多数の出席者を得て多角 的な質疑・討論を行った。専門分野および外国語に関して,筆答および口頭による試問を 行い十分な学力があることを確認した。以上の結果を総合的に考慮し,慎重に審議した結 果,合格と判定した。