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日本消化器病学会機能性消化管疾患診療ガイドライン 過敏性腸症候群 (IBS) 作成 評価委員会は, 機能性消化管疾患診療ガイドライン 過敏性腸症候群 (IBS) の内容については責任を負うが, 実際の臨床行為の結果については各担当医が負うべきである. 機能性消化管疾患診療ガイドライン 過敏性腸症候群

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日本消化器病学会

機能性消化管疾患診療ガイドライン 2014—過敏性腸症候群(IBS)

Evidence-based Clinical Practice Guidelines for Irritable Bowel Syndrome

(2)

日本消化器病学会機能性消化管疾患診療ガイドライン—過敏性

腸症候群(IBS)作成・評価委員会は,機能性消化管疾患診療ガイド

ライン—過敏性腸症候群(IBS)の内容については責任を負うが,実

際の臨床行為の結果については各担当医が負うべきである.

機能性消化管疾患診療ガイドライン—過敏性腸症候群(IBS)の内

容は,一般論として臨床現場の意思決定を支援するものであり,医

療訴訟等の資料となるものではない.

日本消化器病学会 2014 年 4 月 1 日

機能性消化管疾患診療ガイドライン2014―過敏性腸症候群(IBS),南江堂,2014

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(4)

— iv —

日本消化器病学会は,すでに胃食道逆流症(GERD),消化性潰瘍,肝硬変,クローン病,胆

石症,慢性膵炎の 6 疾患ガイドラインを刊行し,市民向けの姉妹版であるそれぞれの疾患ガイ

ドブックと併せ会員に配布している.これらのガイドラインは一般書籍としても販売され学会

員以外の方々にも広く利用されているほか,その内容も他の書籍に数多く引用されている.こ

のように,日常的によく遭遇するいわゆる Common Disease に関するきちんとしたガイドライ

ンの必要性と重要性に鑑み,日本消化器病学会は,ガイドラインとしてさらに整備する必要度

が 高 い 疾 患 に つ い て 評 議 員 ア ン ケ ー ト を 行 い ,機 能 性 消 化 管 疾 患 ,大 腸 ポ リ ー プ ,

NAFLD/NASH

ガイドラインを策定することが決定された.ガイドライン作成過程で機能性消

化管疾患は,機能性ディスペプシア(FD)と過敏性腸症候群(IBS)との 2 つのガイドラインとし

て別々に作成されることになり,第二次ガイドラインについては合計 4 疾患がこの度発刊され

ることになった.

第一次ガイドライン 6 疾患では,関連学会から作成あるいは評価委員を推薦していただき,

それらの方々にガイドラインの作成メンバーとして加わっていたのであるが,第二次ガイドラ

インではそれぞれの疾患に関連の深い各学会との協力体制を強化し日本消化器病学会が核となっ

て共同体制のもと策定されたものである.すなわち,機能性消化管疾患は,日本消化管学会,

日本神経消化器病学会,大腸ポリープは,日本消化管学会,日本消化器がん検診学会,日本消

化器内視鏡学会,日本大腸肛門病学会,大腸癌研究会,NAFLD/NASH は日本肝臓学会を協力

学会としており,これらの諸学会のご協力に深く感謝したい.様々なガイドラインが数多くつ

くられているなかで,複数の専門学会が共通認識に基づいて日常臨床に役立つよう協力して,

これらの Common Disease のガイドラインを策定した意義は大きいと思われる.今後も,関連

する学会のいわば相互乗り入れ方式が積極的に導入され,ガイドライン相互の齟齬などをきた

すことのない継続的な努力が望まれる.

第二次ガイドラインの策定にあたっても,第一次ガイドラインと同様,学会総会,大会など

において中間報告や最終案の報告を行い,会員からの意見交換を行ってきたが,学会ホームペー

ジでもパブリックコメントを求め,作成過程の透明性や公開性を担保した.しかし,学会ホー

ムページ上でのパブリックコメントに関しては,私自身もコメントを寄せた経験から,システ

ムの利便性やコメント期間が必ずしも十分ではなく,幅広い意見の汲み取りができていたとは

いえないように感じられた.ガイドライン刊行後にも,幅広い疑問点や意見,あるいは新たな

知見を反映できるようにするには,さらにシステム改良を行っていく必要があると考えている.

今回の第二次日本消化器病学会ガイドラインのエビデンスレベル,推奨の強さに関しては,

第一次の 6 疾患ガイドラインで用いた Minds(Medical information network distribution

serv-ice)システムとは異なる,GRADE(The Grading of Recommendations Assessment,

Develop-ment and Evaluation)Working Group が提唱するシステムの考え方を取り入れることとした.

これは GRADE システムが,単にエビデンスに基づいて推奨の強さを決めるのではなく,それ

が患者にとって便益があるのかどうか,費用はどうなのか,あるいは比較対照試験であっても

その方法によってエビデンスレベルを変更する必要があることなど,臨床介入や推奨が患者の

日本消化器病学会ガイドラインの刊行にあたって

(5)

Medicine

(EBM)ではこのシステムに基づくガイドラインが国際的には主流となっている.一方,

GRADE

システムに基づくガイドラインは国内では先駆的な試みであり,その適用にあたって

は,GRADE システムをきちんと理解し,文献的エビデンスについてもより肌理細かな配慮が

必要となるため,今回の第二次ガイドラインの発刊が予定より遅れる原因ともなった.しかし,

日本消化器病学会はこれらのガイドラインを日本消化器病学会の英文誌である J.

Gastroenterol-ogy

に掲載する予定であり,その場合にも国際的に認知されている GRADE システムを用いる

ほうが世界的視野に基づくガイドラインとしての位置づけをより強化できると思われる.現在

前掲の 6 疾患ガイドラインもいわゆる Sunset Rule(日没ルール:作成から長期経過したガイドラ

インは妥当性が担保できないため,退場させる取り決め)に基づいて改訂作業が行われている

が,その際にもこの GRADE システムに準じた方式を採用する予定である.

このように新しく刊行される日本消化器病学会ガイドラインは,国内諸学会との密接な連携

のもとに策定され,わが国の消化器臨床の規範となるべき方法論と内容を有しており,英文論

文として国際的にも発信できる優れたガイドラインではないかと思われる.

ガイドラインづくりには,多大な時間と労力を必要とすることはいうまでもないが,その過

程で得られるものも少なくない.なにより,これらのガイドラインにより消化器病学の臨床水

準が向上し,患者のための適正な医療が提供できる一助となれば幸いである.

これまでガイドライン委員会で多大なご尽力をいただいた木下芳一理事,渡辺 守理事,なら

びに各疾患ガイドライン作成ならびに評価委員会のメンバーの諸先生,ならびに刊行にあたっ

て惜しみなくご協力をいただいた南江堂出版部の方々に厚く御礼申し上げる.

2014 年 4 月 日本消化器病学会理事長

菅野健太郎

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— vi —

委員長

木下 芳一

島根大学第二内科

副委員長

渡辺  守

東京医科歯科大学消化器内科

委員

荒川 哲男

大阪市立大学消化器内科学

上野 文昭

大船中央病院内科

西原 利治

高知大学消化器内科

坂本 長逸

日本医科大学消化器内科学

下瀬川 徹

東北大学消化器病態学

白鳥 敬子

東京女子医科大学消化器内科

杉原 健一

東京医科歯科大学腫瘍外科

田妻  進

広島大学総合診療科

田中 信治

広島大学内視鏡診療科

坪内 博仁

鹿児島市立病院

中山 健夫

京都大学健康情報学

二村 雄次

愛知県がんセンター

野口 善令

名古屋第二赤十字病院総合内科

福井  博

奈良県立医科大学第三内科

福土  審

東北大学行動医学分野・東北大学病院心療内科

本郷 道夫

公立黒川病院

松井 敏幸

福岡大学筑紫病院消化器科

三輪 洋人

兵庫医科大学内科学消化管科

森實 敏夫

日本医療機能評価機構

山口直比古

東京理科大学野田図書館

吉田 雅博

化学療法研究所附属病院人工透析・一般外科

芳野 純治

藤田保健衛生大学坂文種報徳會病院消化器内科

渡辺 純夫

順天堂大学消化器内科

オブザーバー

菅野健太郎

自治医科大学消化器内科

統括委員会一覧

機能性消化管疾患診療ガイドライン2014―過敏性腸症候群(IBS),南江堂,2014

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協力学会:日本消化管学会,日本神経消化器病学会

責任者

木下 芳一

島根大学第二内科

作成委員会

委員長

福土  審

東北大学行動医学分野・東北大学病院心療内科

副委員長

金子  宏

星ヶ丘マタニティ病院心療内科

委員

秋穂 裕唯

北九州市立医療センター消化器内科

稲森 正彦

横浜市立大学附属病院消化器内科・臨床研修センター

遠藤 由香

東北大学心療内科

奥村 利勝

旭川医科大学総合診療部

金澤  素

東北大学行動医学分野

神谷  武

名古屋市立大学消化器・代謝内科学

佐藤  研

弘前大学消化器血液内科学

千葉 俊美

岩手医科大学内科学講座消化器内科消化管分野

古田 賢司

おおつ内科クリニック

大和  滋

大和内科・消化器内科クリニック

評価委員会

委員長

荒川 哲男

大阪市立大学消化器内科学

副委員長

藤山 佳秀

滋賀医科大学消化器内科

委員

東   健

神戸大学内科学講座消化器内科学分野

藤本 一眞

佐賀大学消化器内科

峯  徹哉

東海大学消化器内科

オブザーバー

三浦総一郎

防衛医科大学校

作成協力者 村椿 智彦 東北大学行動医学分野 佐々木彩加 東北大学行動医学分野

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— viii —

過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome:IBS)の研究は国際的に長足の進歩を遂げており,

新薬の開発も盛んである.IBS ならびに機能性ディスペプシア(functional dyspepsia:FD)を代

表疾患とする機能性消化管疾患は,国際委員会が定義した RomeⅢ基準で診断するのが標準化

されている.このため,同一基準による疫学調査が世界各国で可能となり,わが国でも一般人

口の 6.1〜14.2%,消化器内科受診患者のおよそ 30%を占める結果が得られ,社会的な関心が高

まっている.その病態にはゲノム,脳腸ペプチド,消化管運動異常,内臓知覚過敏,消化管免

疫,粘膜透過性,腸内細菌,心理社会的因子などが関与し,これらを総合的に捉える概念とし

て脳腸相関の重要性が明確になっている.

日本消化器病学会では,菅野健太郎理事長,木下芳一担当理事,渡辺 守副担当理事の提唱に

より,IBS の診療ガイドラインを作成することになり,以下の委員構成で作成作業,評価を行っ

た.すなわち,作成委員会が委員長・福土 審,副委員長・金子 宏,委員として秋穂裕唯,稲

森正彦,遠藤由香,奥村利勝,金澤 素,神谷 武,佐藤 研,千葉俊美,古田賢司,大和 滋,

評価委員会が委員長・荒川哲男,副委員長・藤山佳秀,委員として東 健,藤本一眞,峯 徹哉,

オブザーバーが三浦総一郎である.類縁疾患の FD のガイドライン委員会との調和を取りつつ,

作成を進めた.

まず,診療を左右する重要なクリニカルクエスチョン(CQ)を定義・疫学・病態,診断,治

療,予後・合併症について当初 102 個設定したが,実地臨床に即して 62 個にこれをまとめた.

おのおのの CQ について,3〜10 個程度のキーワードを選定して文献を検索した.その結果,

1983 年から 2011 年 9 月までの 7,508 文献を抽出し,CQ 判定に関与する 3,664 文献のエビデン

スレベルを判定した.その過程で漏れた重要な 41 文献はハンドサーチで追加した.また,ガイ

ドライン刊行が 2014 年になることが明らかであったため,2012 年以降の文献で CQ に重大な影

響を及ぼすものも検索期間外文献として追加した.エビデンスレベルは A:システマティック

レビュー,メタアナリシス,無作為比較対照試験(RCT),C:コホート試験,症例対照研究,

D:連続症例,症例報告,専門家の意見として当初判定し,エビデンスレベルを上げる要因あ

るいは下げる要因を点数化し,最終的に A,B,C,D の 4 水準に分類した.このなかの最も水

準が高い根拠をもとにステートメントを提案し,診断と治療については,GRADE 1:行うよう

推奨する,GRADE 2:行うよう提案する,GRADE 2:行わないよう提案する,GRADE 1:行わ

ないよう推奨する,のいずれかを付言した.また,これらに伴う解説文と文献を充実させた.

IBS

の概念は臨床的に広い範囲を許容する.診断は国際的に共通性・汎用性があり,RCT や

メタアナリシスなど主要なエビデンスのデータのもとになっている RomeⅢ基準に沿うものと

した.治療については,薬物療法と非薬物療法を網羅した.薬物療法については,国内で使用

される標準的なものを網羅し,保険適用外でも根拠のあるものについて言及した.さらに,国

際的には IBS の新たな治療薬が着実に登場しつつある.ガイドラインが国内の医療向けである

ことはもちろんであるが,医療が国境を越えて急激に進歩しているのも事実であり,医療の普

遍性を考慮することが必要である.このため,国際的な動向を含めた記述とした.非薬物療法

については,脳腸相関の変容を軸に治療法が開発されてきており,また食事療法の新潮流が着

機能性消化管疾患診療ガイドライン—過敏性腸症候群(IBS)作成の手順

機能性消化管疾患診療ガイドライン2014―過敏性腸症候群(IBS),南江堂,2014

(9)

であるが,むしろ,臨床的な意味が大きい疑問に対するエビデンスを日本消化器病学会から世

界に先駆けて発信するべきテーマを公知にした意義があると考える.

わが国に適合した IBS の診療ガイドラインの必要度は高く,それが実用に供されることを期

待する.関係各位の多大な努力に深く感謝する.また,ガイドライン発刊に際し,日本消化管

学会ならびに日本神経消化器病学会の御協力を得た.合わせて厚く御礼申し上げたい.今後,

IBS

の基礎および臨床の新たな局面を切り開く研究が必要である.特に,IBS の発症機序・病態

生理,既存治療の科学的分析,ならびに,新規治療の開発がわが国を中心に活性化し,患者に

治癒をもたらすことを待望したい.

2014 年 4 月 日本消化器病学会機能性消化管疾患診療ガイドライン—過敏性腸症候群(IBS)作成委員長

福土 審

(10)

— x —

1.エビデンス収集

それぞれのクリニカルクエスチョン(CQ)からキーワードを抽出し,学術論文を収集した.

データベースは,英文論文は MEDLINE,Cochrane Library を用いて,日本語論文は医学中央雑

誌を用いた.各キーワードおよび検索式,検索期間は日本消化器病学会ホームページに掲載す

る予定である.

収集した論文のうち,ヒトまたは human に対して行われた臨床研究を採用し,動物実験や遺

伝子研究に関する論文は除外した.患者データに基づかない専門家個人の意見は参考にしたが,

エビデンスとしては用いなかった.

2.エビデンス総体の評価方法

1)各論文の評価:構造化抄録の作成

各論文に対して,研究デザイン

1)

表 1

)を含め,論文情報を要約した構造化抄録を作成した.

さらに RCT や観察研究に対して,Verhagen らの内的妥当性チェックリストを参考にしてバイ

アスのリスクを判定した(

表 2

).総体としてのエビデンス評価は,GRADE(The Grading of

Rec-ommendations Assessment, Development and Evaluation)システム

2〜21)

の考え方を参考にして

評価し,CQ 各項目に対する総体としてのエビデンスの質を決定し表記した(

表 3

).

2)アウトカムごと,研究デザインごとの蓄積された複数論文の総合評価

(1)初期評価:各研究デザイン群の評価

メタ群,ランダム群=「初期評価 A」

非ランダム群,コホート群,ケースコントロール群,横断群=「初期評価 C」

ケースシリーズ群=「初期評価 D」

(2)エビデンスレベルを下げる要因の有無の評価

研究の質にバイアスリスクがある

結果に非一貫性がある

本ガイドライン作成方法

表 1 研究デザイン

各文献へは下記 9 種類の「研究デザイン」を付記した.  (1)メタ (システマティックレビュー /RCT のメタアナリシス)  (2)ランダム (ランダム化比較試験)  (3)非ランダム (非ランダム化比較試験)  (4)コホート (分析疫学的研究(コホート研究))  (5)ケースコントロール (分析疫学的研究(症例対照研究))  (6)横断 (分析疫学的研究(横断研究))  (7)ケースシリーズ (記述研究(症例報告やケース・シリーズ))  (8)ガイドライン (診療ガイドライン)  (9)(記載なし) (患者データに基づかない,専門委員会や専門家個人の意見は, 参考にしたが,エビデンスとしては用いないこととした)

本ガイドライン作成方法

機能性消化管疾患診療ガイドライン2014―過敏性腸症候群(IBS),南江堂,2014

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エビデンスの非直接性がある

データが不精確である

出版バイアスの可能性が高い

(3)エビデンスレベルを上げる要因の有無の評価

大きな効果があり,交絡因子がない

用量–反応勾配がある

可能性のある交絡因子が,真の効果をより弱めている

(4)総合評価:最終的なエビデンスの質「A,B,C,D」を評価判定した.

3)エビデンスの質の定義方法

エビデンスレベルは海外と日本で別の記載とせずに 1 つとした.またエビデンスは複数文献

を統合・作成した統合レベル(body of evidence)とし,

表 3

の A〜D で表記した.

また,1 つ 1 つのエビデンスに「保険適用あり」の記載はせず,保険適用不可の場合に,解

説の中で明記した.

選択バイアス か (2)コンシールメント 組み入れる患者の隠蔽化がなされているか 実行バイアス (3)盲検化 検出バイアス (4)盲検化 症例減少バイアス (5)ITT 解析 ITT 解析の原則を掲げて,追跡からの脱落者に対してその原則を遵守 しているか (6)アウトカム報告バイアス  (解析における採用および除外データを含めて) (7)その他のバイアス 告・研究計画書に記載されているにもかかわらず,報 告されていないアウトカムがないか

表 3 エビデンスの質

A:質の高いエビデンス(High)    真の効果がその効果推定値に近似していると確信できる. B:中程度の質のエビデンス(Moderate)    効果の推定値が中程度信頼できる.    真の効果は,効果の効果推定値におおよそ近いが,それが実質的に異なる可能性もある. C:質の低いエビデンス(Low)    効果推定値に対する信頼は限定的である.    真の効果は,効果の推定値と,実質的に異なるかもしれない. D:非常に質の低いエビデンス(Very Low)    効果推定値がほとんど信頼できない.    真の効果は,効果の推定値と実質的におおよそ異なりそうである.

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— xii —

3.推奨の強さの決定

以上の作業によって得られた結果をもとに,治療の推奨文章の案を作成提示した.次に,推

奨の強さを決めるためにコンセンサス会議を開催した.

推奨の強さは,①エビデンスの確かさ,②患者の嗜好,③益と害,④コスト評価,の 4 項目

を評価項目とした.コンセンサス形成方法は,Delphi 法,nominal group technique(NGT)法に

準じて投票を用い,70%以上の賛成をもって決定とした.1 回目で,結論が集約できないとき

は,各結果を公表し,日本の医療状況を加味して協議の上,投票を繰り返した.作成委員会は,

この集計結果を総合して評価し,

表 4

に示す推奨の強さを決定し,本文中の囲み内に明瞭に表

記した.

推奨の強さは「1:強い推奨」,「2:弱い推奨」の 2 通りであるが,「強く推奨する」や「弱く

推奨する」という文言は馴染まないため,下記のとおり表記した.

4.本ガイドラインの対象

1)利用対象:一般臨床医

2)診療対象:成人の患者を対象とした.小児は対象外とした.

5.改訂について

本ガイドラインは,日本消化器病学会ガイドライン委員会を中心として改訂を予定している.

6.作成費用について

本ガイドラインの作成はすべて日本消化器病学会が費用を負担しており,他企業からの資金

提供はない.

7.利益相反について

1)日本消化器病学会ガイドライン委員会では,ガイドライン統括委員・各ガイドライン作

成・評価委員と企業との経済的な関係につき,各委員から利益相反状況の申告を得た(詳細は

「利益相反に関して」に記す).

2)本ガイドラインでは,利益相反への対応として,協力学会の参加によって意見の偏りを防

ぎ,さらに委員による投票によって公平性を担保するように努めた.また,出版前のパブリッ

クコメントを学会員から受け付けることで幅広い意見を収集した.

■引用文献

1) 福井次矢,山口直人(監修).Minds 診療ガイドライン作成の手引き 2014,医学書院,東京,2014 2) 相原守夫,相原智之,福田眞作.診療ガイドラインのための GRADE システム,凸版メディア,弘前,

表 4 推奨の強さ

推奨度 1(強い推奨) 実施する ことを推奨する 実施しない ことを推奨する 2(弱い推奨) 実施する ことを提案する 実施しない ことを提案する

機能性消化管疾患診療ガイドライン2014―過敏性腸症候群(IBS),南江堂,2014

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7) Guyatt GH, Oxman AD, Kunz R, et al; GRADE working group .Rating quality of evidence and strength of recommendations: incorporating considerations of resources use into grading recommendations. BMJ 2008; 336: 1170-1173

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(14)

— xiv —

日本消化器病学会ガイドライン委員会では,ガイドライン統括委員と企業との経済的な関係につき,下記の基準で, 各委員から利益相反状況の申告を得た. 機能性消化管疾患診療ガイドライン―過敏性腸症候群(IBS)作成・評価委員には診療ガイドライン対象疾患に関連する 企業との経済的な関係につき,下記の基準で,各委員から利益相反状況の申告を得た. 申告された企業名を下記に示す(対象期間は 2011 年 1 月 1 日から 2013 年 12 月 31 日).企業名は 2014 年 3 月現在の 名称とした.非営利団体は含まれない. 1.委員または委員の配偶者,一親等内の親族,または収入・財産を共有する者が個人として何らかの報酬を得た企 業・団体 役員・顧問職(100 万円以上),株(100 万円以上または当該株式の 5%以上保有),特許権使用料(100 万円以上) 2.委員が個人として何らかの報酬を得た企業・団体 講演料(100 万円以上),原稿料(100 万円以上),その他の報酬(5 万円以上) 3.委員の所属部門と産学連携を行っている企業・団体 研究費(200 万円以上),寄付金(200 万円以上),寄付講座 ※統括委員会においては日本消化器病学会診療ガイドラインに関係した企業・団体,作成・評価委員においては診 療ガイドライン対象疾患に関係した企業・団体の申告を求めた 統括委員および作成・評価委員はすべて,診療ガイドラインの内容と作成法について,医療・医学の専門家として科 学的・医学的な公正さを保証し,患者のアウトカム,Quality of life の向上を第一として作業を行った. 利益相反の扱いは,国内外で議論が進行中であり,今後,適宜,方針・様式を見直すものである. 表 1 統括委員と企業との経済的な関係(五十音順) 1.アステラス製薬株式会社,エーザイ株式会社,大塚製薬株式会社 2.アステラス製薬株式会社,アストラゼネカ株式会社,アッヴィ合同会社,アボットジャパン株式会社,株式会社 医学書院,エーザイ株式会社,MSD 株式会社,大塚製薬株式会社,杏林製薬株式会社,ゼリア新薬工業株式会社, 第一三共株式会社,大鵬薬品工業株式会社,武田薬品工業株式会社,田辺三菱製薬株式会社,ファイザー株式会 社,株式会社ヤクルト本社 3.旭化成メディカル株式会社,味の素製薬株式会社,アステラス製薬株式会社,アストラゼネカ株式会社,アッヴィ 合同会社,アボットジャパン株式会社,エーザイ株式会社,MSD 株式会社,大塚製薬株式会社,小野薬品工業株 式会社,株式会社カン研究所,杏林製薬株式会社,協和発酵キリン株式会社,株式会社 JIMRO,株式会社ジーン ケア研究所,株式会社スズケン,ゼリア新薬工業株式会社,センチュリーメディカル株式会社,第一三共株式会 社,大日本住友製薬株式会社,大鵬薬品工業株式会社,武田薬品工業株式会社,田辺三菱製薬株式会社,中外製 薬株式会社,東レ株式会社,ブリストル・マイヤーズ株式会社,株式会社ミノファーゲン製薬,持田製薬株式会 社,株式会社ヤクルト本社,ヤンセンファーマ株式会社,ユーシービージャパン株式会社 表 2 作成・評価委員と企業との経済的な関係(五十音順) 1.アステラス製薬株式会社,エーザイ株式会社,大塚製薬株式会社 2.アステラス製薬株式会社,アストラゼネカ株式会社,アボットジャパン株式会社,エーザイ株式会社,大塚製薬 株式会社,第一三共株式会社,大日本住友製薬株式会社 3.旭化成メディカル株式会社,味の素製薬株式会社,アステラス製薬株式会社,アストラゼネカ株式会社,アボッ トジャパン株式会社,エーザイ株式会社,MSD 株式会社,大塚製薬株式会社,キユーピー株式会社,株式会社 JIMRO,第一三共株式会社,大日本住友製薬株式会社,大鵬薬品工業株式会社,武田薬品工業株式会社,田辺三 菱製薬株式会社,中外製薬株式会社,株式会社ツムラ

利益相反に関して

機能性消化管疾患診療ガイドライン2014―過敏性腸症候群(IBS),南江堂,2014

(15)

第 1 章 概念・定義・疫学 

第 2 章 病態

第 3 章 診断 

第 4 章 治療

(16)

— xvi —

【過敏性腸症候群(IBS)診断フローチャート】

フローチャート・図表

警告症状・徴候 + − 危険因子 + − 通常検査 異常 + − 大腸検査 異常 + − Rome Ⅲ + − IBS 器質的疾患 IBS 以外の FGID 腹痛・腹部不快感 かつ/または 便通異常 腹痛・腹部不快感と便通異常,あるいはそのいずれかが,3 ヵ月の間に間欠的に生じるかもしくは持続する患者がアルゴリズム適 用の目安となる.急性の腹痛,急性の便通異常の場合には IBS 以外の疾患を念頭に適切な診療を進めるべきである. アルゴリズム適用患者において,菱形でチェックを行い,陽性(+)あるいは陰性(−)によって診療を進める.①警告症状・徴候 の有無,②危険因子の有無,③通常臨床検査での異常の有無を評価する.これらのいずれか 1 つでも陽性であれば,大腸内視鏡検査 もしくは大腸 X 線検査を行う. ①警告症状・徴候:発熱,関節痛,血便,6 ヵ月以内の予期せぬ 3kg 以上の体重減少,異常な身体所見(腹部腫瘤の触知,腹部の 波動,直腸指診による腫瘤の触知,血液の付着など)を代表とする,器質的疾患を示唆する症状と徴候. ②危険因子:50 歳以上での発症または患者,大腸器質的疾患の既往歴または家族歴.また,患者が消化管精密検査を希望する場 合にも精査を行う. ③通常臨床検査:血液生化学検査(血糖を含む),末梢血球数,炎症反応,TSH,尿一般検査,便潜血検査,腹部単純 X 線写真が IBS の通常臨床検査である.なお,IBS の診断バイオマーカーはいまだ不明である.このなかで,特に便潜血陽性,貧血,低蛋 白血症,炎症反応陽性のいずれかがあれば大腸内視鏡検査もしくは大腸造影検査を行う. ④大腸検査:大腸内視鏡検査もしくは大腸 X 線検査を指す.個別の症状・徴候・検査値に応じて,大腸粘膜生検,上部消化管内視 鏡検査もしくは上部消化管造影,腹部超音波,便虫卵検査,便細菌検査,腹部 CT,小腸内視鏡(カプセル内視鏡,バルーン内 視鏡),小腸造影,腹部 MRI,乳糖負荷試験などが鑑別診断のために必要になることがある.また,便秘が重症の場合には,大 腸運動が極度に低下する colonic inertia や排泄機能がおかされる直腸肛門障害との鑑別も必要である.なお,臨床上の多彩な病 像に適切に対応するのは担当医の責務であり,診療ガイドラインは器質的疾患の除外を保証するものではない.

以上が陰性であれば,機能性消化管疾患(functional gastrointestinal disorder:FGID)であり,Rome Ⅲ基準に基づいて IBS を診 断する.Rome Ⅲの IBS 診断基準を満たさなければ,IBS 以外の FGID である.腹痛のない便秘は機能性便秘,腹痛のない下痢は機能 性下痢,便通異常のない腹痛は機能性腹痛症候群,便通異常のない腹部膨満感は機能性腹部膨満,いずれでもなければ非特異機能性 腸疾患である.なお,Rome Ⅲは 2016 年に Rome Ⅳに改訂されることが決定している.Rome Ⅳに改訂されたのちは Rome Ⅳに基 づく方針とする.

(17)

腹痛あるいは腹部不快感が

最近 3 ヵ月のなかの 1 ヵ月につき少なくとも 3 日以上を占め

下記の 2 項目以上の特徴を示す

  (1)排便によって改善する

  (2)排便頻度の変化で始まる

  (3)便形状(外観)の変化で始まる

少なくとも診断の 6 ヵ月以上前に症状が出現 最近 3 ヵ月間は基準を満たす **腹部不快感=腹痛とはいえない不愉快な感覚 病態生理研究・臨床研究:対象者=腹痛あるいは腹部不快感が 1 週間につ き少なくとも 2 日以上を占める

(Longstreth GF, et al. Gastroenterology 2006; 130: 1480 1491)

現在国際的に最もよく使われている診断基準である.ただし,この基準には,IBS の消化器症状が,大腸癌 と炎症性腸疾患を代表とする「通常検査で検出される器質的消化器病によるものではない」という含意がある. したがって,具体的にどのような手順に基づいて IBS を診断するのが最も効率がよいかが臨床的には重要であ る.IBS では特殊な検査法を使えば,機能異常だけでなく,器質的異常を検出するのも可能である.あらゆる 機能異常(心理的異常を含む)は,細胞レベルあるいは分子レベルの異常に基づくことが明らかになりつつある. したがって,「器質的病変がない」とは,検査の内容に依存する概念であることに注意が必要である.ここでい う通常検査とは,ガイドラインアルゴリズムにあげたような一般の医療機関で施行可能な検査を指す.

(18)

— xviii —

【Bristol 便形状尺度】

小塊が分離した木の実状の硬便・通過困難 固形物を含まない水様便 不定形で辺縁不整の崩れた便 小塊の辺縁が鋭く切れた軟便・通過容易 平滑で柔らかいソーセージ状の便 表面に亀裂のあるソーセージ状の便 小塊が融合したソーセージ状の硬便 1 Type

(O Donnell LJD, et al. Br Med J 1990; 300: 439 440

Longstreth GF, et al. Gastroenterology 2006; 130: 1480-1491) 7 6 5 4 3 2 タイプ 4 が健常の糞便である.数字が小さくなると糞便水分量が少なく,数字が大きくなると糞便水分量が 多くなる.タイプ 3 あるいはタイプ 5 までが健常の糞便の範囲であり,タイプ 1 とタイプ 2 が便秘の糞便, タイプ 6 とタイプ 7 が下痢の糞便である.

機能性消化管疾患診療ガイドライン2014―過敏性腸症候群(IBS),南江堂,2014

(19)

(Longstreth GF, et al. Gastroenterology 2006; 130: 1480 1491) 0 25 50 75 100 0 25 50 75 100(%) 兎糞状便・硬便︵タイプ 1 ・ 2 ︶ 泥状便・水様便(タイプ 6・7) C U D M 兎 100 ︶ 2 ・ 1 プ イ タ ︵ 便 硬 ・ 便 状 糞 兎 0 5 7 0 5 5 2 0 C U M D 0 1 5 7 0 5 5 2 0 ) % ( 0 0 eta.lG , F G h t e r t s g n o L ( ) 7 ・ 6 プ イ タ ( 便 様 水 ・ 便 状 泥 8 4 1 : 0 3 1 ; 6 0 0 2 y g o l o r e t n e o r t s a G 80 1491) 1.便秘型 IBS(IBS-C):硬便 or 兎糞状便aが便形状の 25%以上,かつ,軟便 or 水様便bが便形状の 25% 未満c 2.下痢型 IBS(IBS-D):軟便 or 水様便bが便形状の 25%以上,かつ,硬便 or 兎糞状便aが便形状の 25% 未満c 3.混合型 IBS(IBS-M):硬便 or 兎糞状便aが便形状の 25%以上,かつ,軟便 or 水様便bが便形状の 25% 以上c 4.分類不能型 IBS(IBS-U):便形状の異常が不十分であって,IBS-C,IBS-D,IBS-M のいずれでもないc a:Bristol 便形状尺度 1 型 2 型 b:Bristol 便形状尺度 6 型 7 型 c:止痢薬,下剤を用いないときの糞便で評価する

(20)

— xx —

【IBS の治療フローチャート:第 1 段階】

優勢症状・ 型 改善 + − 食事指導・生活習慣改善 消化管機能調節薬 プロバイオティクス・高分子重合体 抗コリン薬 粘膜上皮機能変容薬 下剤 男性:5 HT3拮抗薬 止痢薬 IBS 腹痛・IBS M/U 下痢・IBS D 便秘・IBS C 第 2 段階 治療継続・ 教育・終了 IBS の病態生理を患者が理解できる言葉で十分に説明し,納得を得る.ここまでの過程において,良好な患 者–医師関係を作っておくことが重要である.治療の目標は患者自身の評価による症状改善である.まず,型を 問わずに,食事と生活習慣改善を指導する.IBS の治療の初期段階である第 1 段階に際しては,分類の IBS-C, M/U,D の 4 型をもとに,あるいは,下痢,腹痛,便秘の優勢症状に基づいて,消化管主体の治療を行う. まず,消化管機能調節薬,あるいは,プロバイオティクス(ビフィズス菌や乳酸菌などの有用菌),もしくは, 高分子重合体を投与する.下痢型の男性には 5-HT3拮抗薬,便秘型には粘膜上皮機能変容薬を投与する.粘膜 上皮機能変容薬のうち,ClC-2 賦活薬は,海外では IBS-C に低用量(8μg 1 日 2 回投与)が適用となっている が,わが国では,慢性便秘症の病名への保険適用であり,IBS 単独病名への保険適用はない.これらは単剤が 基本だが,1 段目薬物と 2 段目(プロバイオティクス・高分子重合体)を組み合わせてもよい.ここまでで改善 がなければ,4 型あるいは優勢症状に基づき,薬物を追加投与する.下痢には止痢薬を併用する.腹痛には抗 コリン薬を中心に投与する.便秘には下剤を投与するが,アントラキノン系下剤(センナなど)の常用は避ける. これらを薬物の用量を勘案しながら 4〜8 週間続け,改善すれば治療継続あるいは治療終了する.改善がなけ れば第 2 段階に移る.

機能性消化管疾患診療ガイドライン2014―過敏性腸症候群(IBS),南江堂,2014

(21)

ストレス・ 心理的異常 精密検査 異常 優勢心理 改善 + + + − − − 抗うつ薬 止痢薬 消化管運動 賦活薬 抗不安薬 簡易精神療法 漢方薬・抗アレルギー薬 IBS 第 1 段階無効 便秘 下痢 腹痛 うつ 不安 第 3 段階 治療継続・ 教育・終了 器質的疾患 IBS の治療の中期段階である第 2 段階に際しては,消化管主体の治療が無効であったことを踏まえ,中枢機 能の調整を含む治療を行う.ただし,第 1 段階の薬物治療との併用も可能である. まず,患者のストレスあるいは心理的異常が症状に関与するか否かを判断する.これらの関与が大きければ, 病態としてうつが優勢であるのか,不安が優勢であるのかを判断する.うつが優勢であれば抗うつ薬を用いる. 不安が優勢であれば,抗不安作用を持つ抗うつ薬や非ベンゾジアゼピン系抗不安薬の 5-HT1A刺激薬を処方し, ベンゾジアゼピン系抗不安薬は 4〜6 週間を目安に短期間にとどめるよう工夫する. 一方,病態へのストレス・心理的異常の関与は乏しいと判断されれば,必要に応じた精密な臨床検査(大腸 粘膜生検,小腸内視鏡検査,乳糖負荷試験など)により,器質的疾患を再度除外する.便秘に消化管運動賦活 薬(5-HT4刺激薬),下痢にロペラミド,腹痛に知覚閾値上昇作用を狙った抗うつ薬を投与する.症例に応じ, 漢方薬もしくは抗アレルギー薬,第 1 段階の薬物とこれらの薬物の併用療法,簡易精神療法(患者のストレス 対処行動に助言するストレスマネジメントなど)を試みる.薬物の用量を勘案しながら 4〜8 週間続け,改善す れば治療継続あるいは治療を終了する.改善がなければ第 3 段階に移る.

(22)

— xxii —

【IBS の治療フローチャート:第 3 段階】

ストレス・ 心理的異常 消化管 機能異常 幻覚・妄想 改善 + + + + + − − − − − 心理療法(弛緩法,催眠療法,認知行動療法) 単独/および 薬物療法 IBS 第 2 段階無効 運動異常 知覚過敏 IBS 支持所見 運動低下・ 知覚鈍麻 観察・ 再診断 治療継続・ 教育・終了 IBS 以外の 消化管 運動異常 精神疾患 IBS の治療の最終段階である第 3 段階に際しては,薬物療法が無効であったことを踏まえ,心理療法を行う. 再度,ストレス・心理的異常の症状への関与の有無を考慮する.症状に心理的異常が影響している場合,心 身医学領域か否かを判断する.幻覚・妄想・パーソナリティ障害がある場合は心身医学領域ではない.これら が判明した際には,段階によらずに早急に精神科に紹介する.心理的異常が影響していないと考えられる場合 には,消化管機能検査により,消化管運動異常を除外する.検査の結果,IBS の病態的特徴が認められた場合, 消化管機能検査が正常であった場合,ストレス・心理的異常の症状への関与が明確で心身医学領域である場合 はすべて心身医学的治療の対象となる.まず,第 1,2 段階で用いていない薬物とその併用療法を行う.しか し,これで改善がなければ,弛緩法(リラクセーション法),催眠療法,認知行動療法のような,専門的な心理 療法を行う.これで改善すれば,治療継続あるいは終了とし,改善がなければ経過観察あるいは診断を再考す る.

機能性消化管疾患診療ガイドライン2014―過敏性腸症候群(IBS),南江堂,2014

(23)

第 1 章 概念・定義・疫学

CQ 1-1

過敏性腸症候群(IBS)とはどのように定義されるか?………2

CQ 1-2

IBS

の有病率は増加しているか? ………4

CQ 1-3

IBS

の有病率は性,年齢,居住地,職業により変化するか? ………6

CQ 1-4

IBS

の有病率は肥満者で高いか? ………9

CQ 1-5

IBS

全体における感染性腸炎後 IBS(post-infectious IBS:PI-IBS)の割合は高いか?

………11

CQ 1-6

IBS

患者の QOL は低下しているか? ………13

CQ 1-7

重症度,心理的異常は IBS 患者の受療行動を決めるか? ………15

第 2 章 病 態

CQ 2-1

IBS

の病態にストレスが関与するか? ………18

CQ 2-2

IBS

の病態に腸内細菌・粘膜炎症が関与するか? ………20

CQ 2-3

IBS

の病態に神経伝達物質と内分泌物質が関与するか? ………22

CQ 2-4

IBS

の病態に心理的異常が関与するか? ………25

CQ 2-5

IBS

の病態に遺伝が関与するか? ………27

CQ 2-6

分類(C,D,M,U)によって病態が異なるか? ………30

第 3 章 診 断

CQ 3-1

IBS

の診断に RomeⅢ基準は有用か? ………34

CQ 3-2

IBS

の鑑別診断に家族歴,アラームサイン(警告徴候)としての血便,睡眠時腹痛は

有用か? ………36

CQ 3-3

IBS

の診断に検体検査(血液,尿,糞便)は有用か? ………37

CQ 3-4

IBS

の診断に大腸内視鏡・大腸 X 線検査は有用か? ………39

CQ 3-5

IBS

の診断に大腸以外の内視鏡・画像検査(上部消化管内視鏡,腹部 X 線写真,

超音波検査,腹部 CT)は有用か?………41

CQ 3-6

IBS

の診断に病理組織学的検査は必要か? ………43

CQ 3-7

IBS

の診断に消化管機能検査(大腸内圧,バロスタット,直腸肛門内圧,消化管

通過時間)は有用か? ………44

CQ 3-8

IBS

の診断に質問票(消化器症状,心理尺度,QOL)検査は有用か?………45

(24)

CQ 3-9

IBS

の診断に重症度分類は有用か? ………47

CQ 3-10 IBS の診断に客観的な診断指標(バイオマーカー)があるか? ………49

第 4 章 治 療

CQ 4-1

IBS

の治療目標は症状改善が得られることか? ………52

CQ 4-2

患者–医師関係は治療に有効か? ………54

CQ 4-3

IBS

に食事指導・食事療法(高繊維食増加,油脂減少,香辛料減少など)は有効か?

………56

CQ 4-4

IBS

に食事以外の生活習慣の改善・変更(禁酒,禁煙,睡眠,休養など)は有効か?

………58

CQ 4-5

IBS

にプロバイオティクス・プレバイオティクスは有効か? ………60

CQ 4-6

IBS

に抗菌薬は有効か? ………62

CQ 4-7

IBS-D

に 5-HT

3

拮抗薬は有効か? ………63

CQ 4-8

IBS-C

に 5-HT

4

刺激薬は有効か? ………65

CQ 4-9

IBS-C

に粘膜上皮機能変容薬は有効か? ………67

CQ 4-10 IBS に高分子重合体・食物繊維は有効か? ………69

CQ 4-11 IBS に消化管運動機能調節薬は有効か? ………72

CQ 4-12 IBS に抗コリン薬は有効か? ………73

CQ 4-13 IBS-D に止痢薬は有効か? ………74

CQ 4-14 IBS-C に下剤は有効か? ………76

CQ 4-15 IBS-C に浣腸は有効か? ………79

CQ 4-16 IBS に抗うつ薬は有効か? ………80

CQ 4-17 IBS に抗不安薬は有効か? ………82

CQ 4-18 IBS に抗精神病薬・気分安定化薬は有効か? ………84

CQ 4-19 IBS にプラセボは有効か? ………85

CQ 4-20 IBS に心理療法は有効か? ………87

CQ 4-21 IBS に代替医療は有効か? ………89

CQ 4-22 IBS に漢方薬は有効か? ………91

CQ 4-23 IBS に運動療法は有効か? ………93

CQ 4-24 IBS には IBD の治療が有効か? ………95

CQ 4-25 IBS に抗アレルギー薬は有効か? ………97

CQ 4-26 IBS の腹痛に麻薬およびその類似薬は有効か? ………98

CQ 4-27 IBS の重症度に応じた治療法の有効性は高いか? ………100

CQ 4-28 IBS では感染性腸炎後か否かで治療反応性は異なるか? ………102

CQ 4-29 IBS では消化管機能検査が治療効果を左右するか? ………103

CQ 4-30 同一治療でも分類(C,D,M,U)によって治療効果は異なるか? ………104

— xxiv —

機能性消化管疾患診療ガイドライン2014―過敏性腸症候群(IBS),南江堂,2014

(25)

CQ 5-1

IBS

の症状は加齢により変化するか? ………108

CQ 5-2

IBS

の分類(C,D,M,U)は移行するか? ………109

CQ 5-3

IBS

は治療により予後が変わるか? ………111

CQ 5-4

IBS

に機能性ディスペプシア(FD)が合併する頻度は高いか? ………112

CQ 5-5

IBS

に胃食道逆流症(GERD)が合併する頻度は高いか? ………115

CQ 5-6

IBS

と IBD は高率に合併・移行するか? ………117

CQ 5-7

IBS

と消化管外の身体疾患は高率に合併するか? ………119

CQ 5-8

IBS

と心理的異常は高率に合併するか? ………121

CQ 5-9

IBS

における合併症は QOL や予後に影響を及ぼすか? ………123

索引 ………125

(26)

— xxvi —

略語一覧

AR adequate relief 十分な緩和 CC collagenous colitis CCK cholecystokinin コレシストキニン CD Crohn s disease クローン病 CRH corticotropin-releasing hormone

FBDSI functional bowel disorder severity index

FD functional dyspepsia 機能性ディスペプシア FGID functional gastrointestinal disorder 機能性消化管疾患 FH food hypersensitivity 食物過敏性 FODMAP fermentable, oligosaccharides, disaccharides, monosaccharides, and polyols

GERD gastroesophageal refl ux disease 胃食道逆流症 GIS global improvement scale 全般改善尺度 HAPCs high amplitude propagating contractions 高振幅な大腸収縮波 IBD infl ammatory bowel disease 炎症性腸疾患 IBS irritable bowel syndrome 過敏性腸症候群 IBS-C IBS with constipation 便秘型 IBS IBS-D IBS with diarrhea 下痢型 IBS IBS-M mixed IBS 混合型 IBS IBS-SI IBS severity index

IBS-SSS IBS symptom severity scale

IBS-U unsubtyped IBS 分類不能型 IBS LC lymphocytic colitis

MC microscopic colitis NUD non-ulcer dyspepsia PEG polyethylene glycol

PI-IBS post-infectious IBS 感染性腸炎後 IBS SIBO small intestinal bacterial overgrowth 小腸での細菌の異常増殖

SNRI serotonin- norepinephrine reuptake inhibitor セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬 SR satisfactory relief 満足のいく緩和

SSRI selective serotonin reuptake inhibitor 選択的セロトニン再取り込み阻害薬 TLR toll-like receptor

UC ulcerative colitis 潰瘍性大腸炎

(27)
(28)

— 2 —

Clinical Question 1-1

過敏性腸症候群(IBS)とはどのように定義されるか?

CQ 1-1

過敏性腸症候群(IBS)とはどのように定義されるか?

ステートメント

過敏性腸症候群は,代表的な機能性腸疾患であり,腹痛あるいは腹部不快感とそれに関連する

便通異常が慢性もしくは再発性に持続する状態と定義される.

解説

機能性消化管疾患とは,消化器症状が慢性あるいは再発性に持続する一方で,その症状が通

常の臨床検査で検出される器質的疾患によるものではないという概念の障害である.そのなか

のひとつのカテゴリーである機能性腸疾患は,中部ないしは下部の消化管に起因する機能性消

化管疾患であり,過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome:IBS),機能性腹部膨満,機能性便

秘,機能性下痢,特定不能機能性腸疾患を含む

1)

.機能性消化管疾患の代表疾患である IBS の中

核となる症状は,腹痛あるいは腹部不快感とそれに関連した便通異常である.しかし,IBS を含

むこれら疾患群には確定診断できる特定の検査が確立されていないために,これまでは様々な

見解に基づいて独自の IBS 診断がなされていた.

このような問題に対して,1978 年に Manning らが IBS 独特の症状パターンを軸とした診断基

準を提唱した(Br Med J 1978; 2: 653-654

a)

[検索期間外文献]).さらに,1988 年にローマで開催

された国際消化器病学会を契機として診断基準の不統一を解決し,かつ IBS 研究を強力に推進

しようという気運が高まった.米国の Drossman らを中心とした国際作業部会(Rome 委員会)

によって 1990 年に RomeⅠ診断基準が発表され,成書として 1992 年に公刊された

2)

.続いて,

1999 年にそれまでの研究成果に基づいて RomeⅠ診断基準が RomeⅡ診断基準として改訂され

3)

.その結果,RomeⅡ診断基準は国際的に広く用いられるようになった.その後,RomeⅡ診

断基準は科学的検証を受けるとともに消化管生理学と多変量解析を駆使した疫学の知見を取り

入れられ,2006 年に RomeⅢ診断基準として再改訂された

1)

Rome

委員会によって作成された RomeⅢ診断基準(フローチャート参照)では,慢性症状を

有する機能性腸疾患と一過性の消化管症状と鑑別するために,診断時の 6 ヵ月以上前にはじめ

て症状が発現し,最近の 3 ヵ月間に症状が 3 日以上存在した場合に現在の活動性があると判定

する

1)

.器質的疾患などが併存していても,それ自体が IBS 症状を説明できない場合には,IBS

と診断可能であることが最近の研究成果から理解されてきた.しかしながら,臨床的には器質

的疾患や内分泌疾患などの鑑別すべき疾患による症状の可能性を念頭に置いて[体重減少,発

熱,血便などのアラームサイン(警告徴候)を伴う場合には特に注意して]IBS 患者の診療にあた

るべきである.

機能性消化管疾患診療ガイドライン2014―過敏性腸症候群(IBS),南江堂,2014

(29)

いる.便形状(水様便から硬便まで)は腸通過時間を反映することが示されている

.一方,IBS

患者の排便頻度は多くの症例で健常者と変わらないことが多い

5)

.そこで,Rome 委員会は優位

に示される便形状(全体の 25%以上)に従って IBS を下位分類することを提唱している

1)

(フロー

チャート・図表「Bristol 便形状尺度」参照).この分類方法では,下痢型と便秘型に加えて,両

者の特徴を併せ持つ混合型(mixed IBS:IBS-M),いずれも満たさない分類不能型(unsubtyped

IBS:IBS-U)と判定される患者が存在する.

文献

1) Longstreth GF, Thompson WG, Chey WD, et al. Functional bowel disorders. Gastroenterology 2006; 130: 1480-1491(ガイドライン)

2) Thompson WG, Creed FH, Drossman DA, et al. Functional bowel disorders and functional abdominal pain. Gastroenterol Int1992; 5: 75-91(ガイドライン)

3) Thompson WG, Longstreth GF, Drossman DA, et al. Functional bowel disorders and functional abdomi-nal pain. Gut1999; 45 (Suppl 2): II43-II47(ガイドライン)

4) Degen LP, Phillips SF. How well does stool form reflect colonic transit? Gut 1996; 39: 109-113(横断) 5) Ragnarsson G, Bodemar G. Division of the irritable bowel syndrome into subgroups on the basis of daily

recorded symptoms in two outpatients samples. Scand J Gastroenetrol1999; 34: 993-1000(横断)

【検索期間外文献】

a) Manning AP, Thompson WG, Heaton KW, et al. Towards positive diagnosis of the irritable bowel. Br Med J1978; 2: 653-654(ガイドライン)

(30)

— 4 —

解説

Lovell

ら(Clin Gastroenterol Hepatol 2012; 10: 712-721

[検索期間外文献])によると(2011 年

a)

10 月までの世界中の論文のシステマティックレビュー/メタアナリシス)では,

1981〜1990 年(6 研究 11,000 人)10.0%

1991〜2000 年(33 研究 639,000 人)12.0%

2001〜2010 年(38 研究 160,000 人)10.9%

と有病率の増加はない

a)

わが国での報告では,Kumano ら

1)

(2004 年)の一般人口(20〜69 歳,4,000 人)での調査で IBS

が 6.1%,Kanazawa ら

2)

(2004 年)の検診受診者 417 人(平均 36 歳)の調査で IBS が 14.2%(平

均 33 歳),Miwa

(2008 年)によるインターネット調査(10,000 人)では IBS が 13.1%,Kubo ら

3) 4)

(2011 年)の検診受診者 2,717 人の調査では IBS が 13.5%,と IBS の有病率は増加しているとは

いえない.

報告の年代によって用いられた診断基準が異なるが,先の Lovell ら

a)

のシステマティックレ

ビューによると,IBS の有病率と用いられた診断基準の関係も解析されている.Manning の診

断基準によっている報告をまとめた IBS 有病率が 14%と最高で,RomeⅢ,RomeⅡ,RomeⅠ

がそれぞれ 12.2%,9.4%,8.8%と RomeⅠによる報告が最も低い.すなわち調査報告がどの診

断基準によったかを注意する必要がある.

文献

1) Kumano H, Kaiya H, Yoshiuchi K, et al. Comorbidity of irritable bowel syndrome, panic disorder, and agoraphobia in a Japanese representative sample. Am J Gastroenterol2004; 99: 370-376(ケースコントロー ル)

2) Kanazawa M, Endo Y, Whitehead WE, et al. Patients and nonconsulters with irritable bowel syndrome reporting a parental history of bowel problems have more impaired psychological distress. Dig Dis Sci 2004; 49: 1046-1053(ケースコントロール)

3) Miwa H. Prevalence of irritable bowel syndrome in Japan: Internet survey using RomeⅢ criteria. Patient

Clinical Question 1-2

IBS の有病率は増加しているか?

CQ 1-2

IBS の有病率は増加しているか?

ステートメント

IBS の有病率は増加しているとはいえない.1981〜1990 年の各 10 年間の世界中の有病率

は,それぞれ平均約 10%,12%,11%である.

機能性消化管疾患診療ガイドライン2014―過敏性腸症候群(IBS),南江堂,2014

(31)

【検索期間外文献】

a) Lovell RM, Ford AC. Global prevalence of and risk factors for irritable bowel syndrome: a meta-analysis. Clin Gastroenterol Hepatol2012; 10: 712-721(メタ)

(32)

— 6 —

解説

Lovell

ら(Clin Gastroenterol Hepatol 2012; 10: 712-721

a)

[検索期間外文献])によるメタアナリ

シスでは有意差はないものの 30 歳未満,30〜39,40〜49,50〜59,60 以上の年齢で有病率(%)

はそれぞれ,11.0,11.0,9.6,7.8,7.3 と年齢とともに低下する傾向がある.ただし,50 歳前後

で比較すると若年者で有意に高い.男性と女性の有病率は,平均 8.9 と 14.0 で,女性のほうが

1.6 倍多い.地域格差は,東南アジアでは 7.0%に対し南米で 21.0%と報告されている.

性差に関するわが国の報告では,Kanazawa ら

1)

の調査では女性 15.5%,男性 12.9%で女性

のほうが 1.2 倍多い.Kubo ら

2)

は健康診断受診者では,IBS は非 IBS と比べ女性の割合が 1.56

倍多い(48.5% vs. 31.6%)と報告している.Kumano ら

3)

の一般人口を対象にした調査で男性

4.5%に対して女性 7.8%と有意に女性に多い(1.7 倍).おおむね女性に有病率が高いとする諸外

国のデータと合致する.

年齢に関するわが国の報告では,Kumano ら

3)

から,男女とも 40 歳代以降有病率が減少する

傾向が報告され,海外の結果と合致する.

居住地に関しては,東南アジアで低く南米で高い世界的な地域差(

図 1

)に加え,欧米でも,

国ごとの有病率をみると,米国からの報告では Manning,RomeⅠ,RomeⅡによる報告をまと

めると,IBS の有病率はそれぞれ,16.0%,9.0%,7.0%であり,フランスからの報告では,そ

れぞれ,2.0%,3.0%,2.6%であり,どの診断基準による解析でも,フランスの有病率は米国に

比べて低いという国別の違いが明確である

a)

.したがって,世界の地域別単位でも,国別単位で

も IBS の有病率には差がありうる.さらに単一国内でも,都市部のほうが有病率が高いことが,

北京とその郊外やイスラエルの都市部と郡部などの報告で認められる

4, 5)

.わが国では,三輪の報

告によると都道府県別での下痢型 IBS の有病率に大きな地域差はなかったと報告されている

6)

職業に関する報告では,ミシガン大学病院の看護師 2,500 人の調査では,日勤夜勤のローテー

ション者は IBS 発症の頻度が高いことが報告された

7)

.また,米国での軍経験女性で IBS の有病

率が高値であることが報告されている

8)

.職業がどの程度ストレスを及ぼしているのかによる影

響と考える.Lovell ら

a)

によるメタアナリシスでは,収入による IBS の有病率に差はないが,

Clinical Question 1-3

IBS の有病率は性,年齢,居住地,職業により変化するか?

CQ 1-3

IBS の有病率は性,年齢,居住地,職業により変化するか?

ステートメント

IBS の有病率は性,年齢,居住地,職業により変化する.女性が 1.6 倍高く,加齢とともに低

下する傾向にある.東南アジアで 7%に比べ,南米で 21%,米国で 10%,フランスで 2%と

地域差がある.職業による違いが報告されている.

機能性消化管疾患診療ガイドライン2014―過敏性腸症候群(IBS),南江堂,2014

(33)

一部(4 編)の報告では,収入の高さが IBS の有病率を高めるとの報告があり,経済状態と IBS

の有病率の関係を結論づけるには知見がいまだ不十分であると記載されている.わが国では,

三輪の報告

9)

によると,日本人男性一般生活者 2 万人を対象にしたインターネット調査では,

下痢系 IBS 患者は非 IBS 患者に比べ,役職が高く,年収も高いことが示された.男性で下痢を

主体とする限られた報告であるが興味深い.

文献

1) Kanazawa M, Endo Y, Whitehead WE, et al. Patients and nonconsulters with irritable bowel syndrome reporting a parental history of bowel problems have more impaired psychological distress. Dig Dis Sci 2004; 49: 1046-1053(ケースコントロール)

2) Kubo M, Fujiwara Y, Shiba M, et al. Differences between risk factors among irritable bowel syndrome sub-types in Japanese adults. Neurogastroenterol Motil2011; 23: 249-254(ケースコントロール)

3) Kumano H, Kaiya H, Yoshiuchi K, et al. Comorbidity of irritable bowel syndrome, panic disorder, and agoraphobia in a Japanese representative sample. Am J Gastroenterol2004; 99: 370-376(ケースコントロー ル)

4) Pan G, Lu S, Ke M, et al. Epidemilogic study of the IBS in Beijing: stratified randomized study by cluster sampling. Chinease Med J2000; 113: 35-39(ケースコントロール)

5) Sperber AD, Sperber AD, Friger M, et al. Rates of functional bowel disorders among Israeli Bedouins in rural areas compared with those who moved to permanent towns. Clin Gastroenterol Hepatol2005; 3: 342-348(ケースコントロール)

6) 三輪洋人.本邦における下痢症状を主訴とする過敏性腸症候群患者に関する実態調査 J-ROAD II JAPANEASE RESEARCH OF ABDOMINAL SYMPTOMS FOR IBS II.診断と治療 2009; 97: 1079-1086 (ケースコントロール)

7) Nojkov B, Rubenstein JH, Chey WD, et al. The impact of rotating shift work on the prevalence of irritable

図 1 世界各国の IBS 有病率

(文献 a より) 0∼4.9% 5.0∼9.9% 10.0∼14.9% 15.0∼19.9% ≧20.0%

(34)

— 8 —

bowel syndrome in nurses. Am J Gastroenterol2010; 105: 842-847(ケースコントロール)

8) Savas LS, White DL, Wieman M, et al. Irritable bowel syndrome and dyspepsia among women veterans: prevalence and association with psychological distress. Aliment Pharmacol Ther2009; 29: 115-125(ケース コントロール)

9) 三輪洋人.日本人男性における下痢症状を主訴とする過敏性腸症候群患者の生活実態調査.新薬と臨牀 2010; 59: 32-36(ケースコントロール)

【検索期間外文献】

a) Lovell RM, Ford AC. Global prevalence of and risk factors for irritable bowel syndrome: a meta-analysis. Clin Gastroenterol Hepatol2012; 10: 712-721(メタ)

図 1 IBS の脳の機能的磁気共鳴画像(fMRI)
図 2 SF-36 を用いた QOL の評価
図 1 IBS なしの便秘患者(a)と IBS ありの便秘患者(b)における週の自発排便回数平均数の 変化 データは平均数として表わされている.分散分析(ANOVA)(薬物効果):p<0.0001(1 週目),p=0.0003(2 週目). 事後 t-検定の p 値とブラセボの値はそれぞれ,* p<0.1,* p<0.05,** p<0.01 であった. (文献 3 より) — 68 —012345678910基準1 週間目2 週間目 012345678910 基準 1 週間目 2 週間目a.IBS なしの
図 1 IBS の症状改善における異なる種類の繊維および対照治療の比較
+4

参照

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