男性不妊症診療の進歩
著者 並木 幹夫
著者別表示 Namiki Mikio
雑誌名 日本産科婦人科学会雜誌
巻 58
号 9
ページ N‑143‑N‑146
発行年 2006‑02
URL http://doi.org/10.24517/00053662
Creative Commons : 表示 ‑ 非営利 ‑ 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by‑nc‑nd/3.0/deed.ja
金沢 大 学大学 院医 学 系研究科 泌 尿 器 科 学 教授
並 木
幹 夫
座 長 :旭川 医科 大 学 附 属 病 院 院長
石 川 睦男
少 子高
齢 化 社 会 に おいて,
不 妊 症 診 療 の 進 歩が
期 待 さ れ ている.
不 妊症
の 原 因の約半
数 を 占める 男性
不妊症診療
の進歩
も 著し い.本講演
では以
下の3
項 目 につ い て概 説 した.
ElefiS1lpmD
男
性
不 妊症
の治療
は表
1のご とく妊孕性
の回復
を 目的
と し た 治 療 と 生 殖補助
技 術 (as −
sisted reproduct ]vetechnology ,
ART )との併 用 を前提
とし た精
子採
取を
目的 と
した治
療 に大 別 さ れ る.
主 な
外科
的 治療
は 閉 塞 性 無 精 子 症 に対 す る 精 路 再 建 術 と 精 索 静 脈 瘤 に 対 す る 根 治 術が
あ り,精
路 再 建 術の治 療 成績
は 近 年 向 上 している.一
方,
精索静脈瘤
根 治術
の治療成績 も,
術後
の精液所見
の改善
は有意
であ り, 30 〜 40
%の術 後 妊 娠率
が報 告 さ れ て い る が, 2003
年 New
EnglandJournal
ofMedicine
に 精 索 静 脈 瘤 根 治 術 の 有 効 性 に 疑 問 を 呈
す る
論
文が
発 表 さ れた.
こ の論文
の対象 (
表 1) 男 性 不 妊症の 治 療は 通 常
我
々 が 手 術 対象
と して いな い 正 常 精 液 所 見の患 者 やGrade
1
の 精索
静脈 瘤
が多
く含
ま れて い るな どの問 題 も ある と思 わ れるが,
泌 尿 器科
医と
し て精索静 脈瘤根
治 術の有効性
を 明 らかにする必要
が あると判断
し, 2006
年4
月 か ら 日本
泌 尿 器 科 学会 と
男 性 不 妊症
手術手技
研究 会 と
の共
同で,手術群
と非手
術 群で治 療 成 績 を 比 較 す る 無 作 為 化 臨 床 試 験 がスタ
ー
ト し
た,
内科的治療
は,内分泌療法
と非
内 分 泌 療 法 に 大 別 され,
両 治療
法と
も治療後
の精液
所 見の改善
は報告
さ れて い るが,妊
娠 率 は 必 ず しも 高 く ない
.
し か し,
低 ゴ1.
妊 孕 性の 回復 1) 外 科 的治 療a) 閉 塞性 無 精子 症
→
精 路 再 建 術
b
) 精 索静 脈 瘤→
根 治 術2) 薬 斉1] kj去 a) 内分泌 療 法
b
)非内分泌療法2.
精子 採 取→ 生 殖 補 助 技 術1
) 人工射 精a)マ ツサ
ー
ジ法b) 電 気 射 精 c)薬 物 療 法
2
) 精巣上体精子 吸引術 (MESA )3
)精 巣精」子}采耳1
術 (TESE
) a)Mult
「ple
b
)Microdissection
Progress in Male lnfertility Mlkio NAMIK[
De
ρartment of {ノrology, Kanazavva University Graduate Schoo’o’ ルfedical
Sc
’ences ,κanazav レa
Keywords :Male lnfertiIlty
・
YchromosOmeIllllllし’IIIIIIIItll[IIIIIIIIIIIIIIIIIト’1L卩IIIIL’1レ1lllllll[111111111トIIIIIIIII11卩Illll lllb111111111bllllll11i1111111111111111 11 IIIII卩1ト卩IIIIilllllllト11111111il1レ1111i11ト11111111し111卩卩11ト11トIIIIIillllllllll1[1111ト[IILIIIIトllll111 11LIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIdlllll[llト卩卩IIIIIII
Japan Society of Obstetrics and Gynecology
Japan Soolety of Obstetrlos and Gyneoology
N −144
日産 婦 誌58巻9
号1 £’
J
’F
Z
驪 嬲 ・ 驪 騾 驪 鑼 讎
軽
噸一
5
‘
塩 基
配 列が 対称
型(図
1
)バリンドロ
ー
ム構造 と は
3‘
ナ ド トロピン性の も の には
内分
泌療
法 の 有 効 性 は 良 好 で あ り,
最 近 自 己注射
可能
の製剤
が開
発 され た の で,
治 療 成 績 の 向 上 が 期 待 さ れる.
精 子
採
取法
の中
で進 歩 が
著 しいのが
精 巣 精 子 採 取 術( testicular
sperm extraction,
TESE )で
. 1999
年ScNegel
が 開 発 したMicrodissection
TESE に よ り非 閉 塞 性 無 精 子症
での 精 子 採 取 率 は 著 明 に 改 善 したま た
.
従来絶対
的 不妊と
位 置付
け ら れ ていたKline− felter
症 候群
でも約半数
の症
例で精 子 採 取が
可 能 で あっ た,
このよ う な 背景
か ら,
TESEの
適
応が拡
大して い る.
Klineferter
症
候 群 や 非 閉 塞 性 無 精 子 症 患 者 か ら精
子 が採
取 さ れ 挙 児 可 能 と なっ たこ と に よ り新 た な 問 題 が 生じた.
それ は,
染色体
異 常 や Y 染 色体微小欠失
が 子 孫に伝播
さ れ る こ とである,
この こと に関
しては.
平成
12年
の 日 本 不 妊 学 会 理 事 長 名で の会 告 に よ り,
ICSIを 施行 する
際
に は 十 分 説 明 し夫 婦 か ら 同意
を得
る よ う注
意が
喚起
さ れ てい る. Y
染 色 体 上の精 子 形成候 補領域 (
AZF 領 域 )微ノ」吹 失 に 関 し,
近 年 大 き な 出来事
が 2 つあっ
た.
ひ とつ は2001年 にY
染 色 体長腕 に8
つ のパリ
ン ドロー
ム構造が
存 在 する こと が判
明したこと
で あ る(
図 1).
従 来Y
染 色 体 は1
本 し か ないた め,
X 染 色体 と 一
部対合
す る pseudoautosoma ) regionbl 外
の部分
は recombinationが
行 わ れ ないと考
えられて い た.
このこと は 突 然 変 異 等 に よ り生 じ た 遺 伝子変
異 が,そ
のま ま 子 孫 に 伝 播 さ れ る こ と を 意 味 して いた.
し かし,
パ リン ドロー
ム構造
を 有 す る場 合,
相 同 する塩 基配列
同 士で の in−
trachromosomalrecombination
が 可能
で あ ると考
え ら れ る (図 2).
つ ま りY 染
色 体 上のパ リン
ド
ロー
ム構造
は Y染色
体 の 維 持 に 関 与 しt
遺 伝 子の突然変異
か ら くる淘汰
から 逃 れるた め に 重 要 な構造
で あ ると推測
さ れ る.
他 方,
この相 同配列 が複数
の部位
に存在
す るため,
intraGhromosoma「recombinat 「on の際に誤 り を生
じや
すく,
結 果 的 に 微 小 欠失
を 招く こと
になっ て いる よ うで ある (図3),
そのよ う な観点
か ら考
えると,
AZF領
域 の 微 小 欠 失 診 断 は パ リン ドロー
ム ごと
の欠失や部分欠失
で 診 断 さ れ る方が
理 に か なっ て い るが,
現在
パリ
ン ドロー
ム の部
分 欠 失 診 断 は技術的
に 困 難で あ る.
一
方,
従 来行
わ れてき た STS−
PCR を 用いた 微 小 欠 失 診 断 に も大
き な 変化
があ っ た.
1卩’IIIIIIIIIIIIトIII卩IIIIIIIIIIIIIIIIヒIIIIIIIIIFIIIIIIIIIIII’IIIIIII「IIIIII「IIgllllllll卩IIIIIIII:IIIIIIII
ヒ
IIトIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIII卩1IIIII IIIIIIIIII’IIIIIIIIII卩IIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIトIII卩Illllll llellllllrllllllllllllr11卩Ilil巳ll’Illト11FIIIIIIIIIIIIIIIII「IIII[II卩IIIItl11tllllllllIAZFc
t
’ −
“
蹟 幽 騙
.
−
P3
P2
ンe ’t 岬
轟 幽
・ 一 ・
Pgr2ぐ
一
レ <一 レP1
AZFc 領域の パ リンドロ
ー
ム複 合 体の分 類量ntrachm 盤10sal Recomb 血1a 鉦on
∴
染色体内再 組 換え
〔 lntrachromosomal
Recombi
皿ation ) 機 構(図
2
)Y
染色 体 バリ ン ドロー
ム の分類 と染 色 体 内再組 換えAZFc
尋
−一 一 一 ・
卜
”
2賑1bm a .3 官1 ・1・Z菖・l b3 ye【l g2 ・3・493 yen gr2
bt tl t2 gr2
u2
b2,
b4
は,
ほぼ同一
塩基配列をも ち,
染 色 体 内 再 組 換 え 時に、
他の部 位より誤り を 犯 し やすい,
他にも 同様 な 欠 失が起 きる 可能 性がある部 分が存 在 する.
(図3) AZFc (b2/b4) 欠 失 機 構
す な わ ち
,
2003年
ヒ トゲノ ム計
画の完結
に よ り,
Y染色体
を含
む ヒ トの全 ゲ ノ ムの塩 基 配列
が公表
さ れ た,
これ に よっ て,
従 来 用い て いたSTS
の位 置の変 更 が 必 要 と なっ た.
我 々 は,
公 開 さ れ たY
染 色 体 上 の STS マー
カ
ー
を 用い て,
420例の無・
乏精
子症
患 者のY
染色体微小欠失
を 調べた.
その結果 , Y
染 色 体 以 外 に も非
特 異 的 な バ ン ドを 認 めるマー
カ
ー や多
型性
を 有 するものを 排 除 して, STS − PCR
を 行っ た と こ ろ,
連 続 性 のある 欠 失 を 確 認でき た(
図4).
現在そ
こ で用いた多
型性
の極
めて少
ないSTS
マー
カー
の セ ッ トを 用い
た
multiple ×PCR に て無 ・
乏精
子 症 患 者のY
染 色 体微
小 欠 失 診 断 を 行っ て いる.
1 トIIIIII ト11111ト11 IIIIIIIIIIIIIIIIIIIIしIIIIIIしIIIIIIIIIEI[IIIIIIIIILIIIIIIIIIIIレlllllk:II鬮IIIIIIIIIIIIIIIII IIIilllllllklllll11LIIIIIII llll[鬮11旨IIIIIIIILIIIIIIII[IIIIIIIIIIIIIIIIIIILIIIIし1[IIIIIIII「IIIII IIIIIIIIIilllllllllllillllll[IIIIIII IIIIIII[11111111FIIレIIIIIillllllllllトビ
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Japan Soolety of Obstetrlos and Gyneoology
N−146
日産婦 誌58
巻9
号P3
P2 Pl(図4) 多 型 性を排 除し たAZFc 欠 失 地 図
一 一
Microdissection
TESE に ても精
子が
採 取でき ない症例
が今
後の課 題と
し て 残 さ れ て い る.
Maturation arrest に対 しては In
vitro
で の精 細 胞 培 養 法 が確
立さ
れ てい る の で,
精 細 胞 分 化 促 進物質
が解
明さ
れれば
ln vitro精
子 形 成→ 精 子 回収
→ [CSI
の可能性
が期 待さ
れ る.
ま た,
逆 行 性 精 巣 輸 出 管 注 入 法 も 確 立 さ れて い る の で,
同 様 に精
細 胞分化促進物質
の逆行性注
入→ lnvlvo精 子 形 成→TESE − ICSI
ま た は自然妊
娠 が期待
さ れる.
Sertoli
cel「only 症 例では,
ES 細胞 (
embryonic stem cell),
EG 細 胞 (embryonic germcelD,
GS
細 胞 (germstem
ceil
)な ど を 用いた in vitro spermatogenesis の 研 究が
す す ん でお り,将来臨床応
用 さ れる可能性が
あ る.
1」III[IIIIIIII卩IEIIII「ill!IIIIII」ltlllllllltlJトIIIIIIIIIIIIIIヒiトll1111 IIII」IIIIIIIII亅IIIIIIレロ1亅LIIIIII’IIFIillll111111111111111111IIIII1トIIII卩卩llllllFIIIEi